2024-006412
油圧バッテリー及び流体エネルギー変換装置
- 審判番号
- 2024-006412
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-547604外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年04月15日
- 審決日
- 2025年10月06日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】チェ イェンジュン
- 【請求人代理人】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
- 分類
- P18 .14 -WZ (F03B) / P18 .536-WZ (F03B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 7項目
理 由
第1.手続の経緯
本件は、2019年(平成31年)4月24日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2018年(平成30年)10月25日、カナダ)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下の通りである。
第2.本願発明特許請求の範囲
令和7年6月17日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~8には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】流体圧力エネルギーを機械的エネルギーに変換するエネルギー変換装置であって、前記エネルギー変換装置は、容器内の水圧を利用して回転運動を生成する装置であり、水で満たされた容器と、軸受の転動を案内する構造を有し、前記容器内に傾斜して固定される第1の環状スライドレールと、続きを表示(全33行)前記第1の環状スライドレールと平行であり且つ前記第1の環状スライドレールと対向し、軸受の転動を案内する構造を有し、前記容器内に傾斜して固定される第2の環状スライドレールと、伝動装置であって、コンベア、前記コンベアに取り付けられ且つ前記コンベアの上方に位置する少なくとも1つの第1物体、前記コンベアに取り付けられ且つ前記コンベアの下方に位置する少なくとも1つの第2物体、及び、前記コンベアに取り付けられた複数の軸であって、各軸はその一端に第1軸受を有し、その他端に第2軸受を有し、前記第1のスライドレールと前記第2のスライドレールが前記コンベアによって分離されており、前記第1軸受は、前記第1のスライドレール内で回転するように構成されており、前記第2軸受は、前記伝動装置が前記第1のスライドレールおよび前記第2のスライドレールに沿って回転するように、前記第2のスライドレール内で回転するように構成され、前記第1のスライドレールおよび前記第2のスライドレールは、前記コンベアの内部に傾斜した空気室が形成されて、水圧を隔離するために、それぞれ、動的にシールされ、前記コンベアの2つの端面に接続されている、前記複数の軸、を含む伝動装置と、前記コンベアに取り付けられ、前記コンベアとともに回転するエネルギー出力軸であって、エネルギー出力軸と、を備えており、前記コンベアの内部は、低密度流体空間として構成されており、前記低密度流体空間の上部領域にある物体は水の向下圧力を受けて下方に移動し、前記低密度流体空間の下部領域にある物体は水の向上圧力を受けて上方に移動するように構成され、前記コンベアの上部が前記少なくとも1つの第1物体への下からの水の圧力を遮蔽することによって、前記少なくとも1つの第1物体が重力の元で下方へと可動となり、前記コンベアの下部が前記少なくとも1つの第2物体への上からの水の圧力を遮蔽することによって、前記少なくとも1つの第2物体が浮力の元で上方へと可動となり、これによって、前記少なくとも1つの第1物体及び前記少なくとも1つの第2物体が前記第1のスライドレール及び前記第2のスライドレールに沿って回転するように構成されて、前記流体エネルギー変換装置が前記エネルギー出力シャフトを介してエネルギーを出力することを特徴とする流体エネルギー変換装置。【請求項2】前記コンベアの上部が水の重力を受けてトランスファーベルトが下方へと移動するように押され、前記コンベアの下部が水の上向きの圧力を受けて前記コンベアの下部が上方へと移動するように駆動される請求項1に記載の流体エネルギー変換装置。【請求項3】前記第1のスライドレール及び前記第2のスライドレールがそれぞれ少なくとも1つの傾斜辺を有する多角形である請求項2に記載の流体エネルギー変換装置。【請求項4】前記第1のスライドレール及び前記第2のスライドレールがそれぞれ軸受の転動を案内する構造を有している請求項2に記載の流体エネルギー変換装置。【請求項5】磁性流体密封装置をさらに備えており、前記磁性流体密封装置は、構造体の一つの端面に位置する磁性シューと、前記伝動装置の内部に位置しており且つ前記磁性シューに対向する位置に固定された永久磁石と、前記磁性シュー内にある磁性流体とを含む請求項4に記載の流体エネルギー変換装置。【請求項6】前記磁性流体は、液体の流動性を有すると共に、固体磁性材料の磁性を有し、前記磁性流体は、静止状態では磁気的な吸引力がなく、外部磁場が印加されたときに前記磁性流体は磁性を有し、前記永久磁石は、水の圧力に抗する磁気リングを前記磁性流体と共に形成する位置にあることができる請求項5に記載の流体エネルギー変換装置。【請求項7】前記水が人工流体又は流体である請求項1に記載の流体エネルギー変換装置。【請求項8】前記コンベアの表面は、凹凸形状であることを特徴とする請求項1に記載の流体エネルギー変換装置。」
第3 拒絶の理由
当審において通知した拒絶の理由の概要は、以下の通りである。
「理由1(発明該当性):この出願の下記の請求項に記載されたものは、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。理由2(実施可能要件):この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。理由3(明確性):この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。記続きを表示(全24行)●理由1(発明該当性)について・請求項 1~10請求項1~10に係る発明の「流体エネルギー変換装置」は、当該装置の外部からのエネルギーの供給がなく、当該装置の第1の物体及び第2の物体に作用する重力と浮力によって、当該装置のコンベアに取り付けた軸からエネルギーが持続的に取り出せることを意図していると認められるから、エネルギー保存の法則に反するものである。よって、請求項1~10に係る発明の「流体エネルギー変換装置」は、自然法則に反する手段を含んでいると認められるから、特許法第29条第1項柱書でいう「発明」には該当しない。●理由2(実施可能要件)について・請求項 1~10請求項1~10に係る発明の「流体エネルギー変換装置」について、水中の圧力によって(水圧と垂直方向となる)コンベアを周回させる力が継続的に働くことは想定できず仮に、物体に作用する重力と浮力が不均衡となる回転位置で、一時的に回転力が生じることがあったとしても、重力と浮力が釣り合う回転位置まで回転すると、釣り合いにより回転力は消失して回転は停止するものと認められ、持続的に回転出力を得ることが示されているということはできない。特に、請求項1に係る発明の「前記コンベアの上部が前記少なくとも1つの第1物体への下からの水の圧力を遮蔽することによって、前記少なくとも1つの第1物体が重力の元で下方へと可動となり、前記コンベアの下部が前記少なくとも1つの第2物体への上からの水の圧力を遮蔽することによって、前記少なくとも1つの第2物体が浮力の元で上方へと可動となり、これによって、前記少なくとも1つの第1物体及び前記少なくとも1つの第2物体が前記第1のスライドレール及び前記第2のスライドレールに沿って回転するように構成されて、前記流体エネルギー変換装置が前記エネルギー出力シャフトを介してエネルギーを出力する」ことに関して、発明の詳細な説明の段落【0072】の記載は、物体4001に働く、「下向きの水重力作用」と「上向きの浮力作用」のみしか考慮していないものであり、実際には、コンベア4000の上部分の物体4001には、左右の側面には水圧が働き、左側面の水圧は右側面の水圧より大きいため、この水圧はコンベア4000の下方向の移動を妨げる方向に働く。また、コンベア4000の下部分の物体4001にも同様に左右の側面に水圧が働き、右側面の水圧は左側面の水圧より大きいため、この水圧はコンベア4000の上方向の移動を妨げる方向に働く。そして、コンベア4000及び6つの物体4001に働く全ての水圧(浮力を含む)を考慮すれば、水圧は、コンベア4000及び6つの物体4001を1つの物体として考えたときの内側に働き、全ての水圧が釣り合った状態となる。この状態で、水中の圧力によってコンベアを周回させる力が働き、常に回転トルクが働くことは考えられない。よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。●理由3(明確性)について・請求項 1~10(1)請求項1に「前記エネルギー変換装置である油圧パワーバッテリーは」との記載がある。しかしながら、請求項1には、油圧を利用する構成は特定されておらず、かつ、「油圧パワーバッテリー」は一般的に知られている用語ではない。そうであれば、請求項1において「エネルギー変換装置」が「油圧パワーバッテリー」であるという事項を特定することの技術的な意味が不明である。(2)請求項1に記載された「レーストラック溝」とは何か、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、不明確である。(3)請求項1に「検知された流体重力勾配場に応じて流体の重力を取得するように構成されており」との記載がある。しかしながら、「流体重力勾配場」とは、どのような場であり、その場を「検知」するとは、具体的にどのような技術的内容になるのか、不明である。また、請求項1に「検知された浮力勾配場に応じて浮力を取得するように構成されており」との記載があるものの、「浮力勾配場」とは、どのような場であり、その場を「検知」するとは、具体的にどのような技術的内容になるのか、不明である。上記(1)~(3)のとおりであるから、請求項1に係る発明及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~10に係る発明は明確でない。」
第4 当審合議体の判断
1 請求項1ないし8に係る発明について
請求項1の記載によれば、請求項1ないし8に係る発明は、「流体圧力エネルギーを機械的エネルギーに変換するエネルギー変換装置であって、前記エネルギー変換装置は、容器内の水圧を利用して回転運動を生成する装置」であり、「前記コンベアの上部が前記少なくとも1つの第1物体への下からの水の圧力を遮蔽することによって、前記少なくとも1つの第1物体が重力の元で下方へと可動となり、前記コンベアの下部が前記少なくとも1つの第2物体への上からの水の圧力を遮蔽することによって、前記少なくとも1つの第2物体が浮力の元で上方へと可動となり、これによって、前記少なくとも1つの第1物体及び前記少なくとも1つの第2物体が前記第1のスライドレール及び前記第2のスライドレールに沿って回転するように構成されて、前記流体エネルギー変換装置が前記エネルギー出力シャフトを介してエネルギーを出力する」ものである。
前記「容器内の水圧を利用して回転運動を生成する装置」の「容器内の水圧」に関し、請求項1には「水で満たされた容器」という記載があるが、「水で満たされた」とは水を満たすという動作が完了した状態なのであるから、この状態において「容器」内の水は、静水(「静止して動かない水」(広辞苑第7版))である。
そうすると、「水で満たされた容器」内の「水圧」は、静水圧(「流水における水圧と区別して、静水中において生ずる水圧。深さと密度との積。」(広辞苑第7版))に他ならない。
そして、請求項1~8には、「水で満たされた容器」から水を排出する等、水の位置エネルギーを運動エネルギーに変換することを示す記載や、その他「容器内の水圧を利用して回転運動を生成する装置」の外部からエネルギーが入力されることを示す記載はない。
また、「回転」とは「くるくる回ること。」を意味し、「くるくる」とは「ものが軽快に連続して回転したり輪を描くように移動したりするさま。」を意味するから(以上、広辞苑第7版)、「容器内の水圧を利用して回転運動を生成する」ことにより「流体エネルギー変換装置が前記エネルギー出力シャフトを介してエネルギーを出力する」とは、エネルギーを出力することが連続的に行われるものと理解される。
以上によれば、請求項1~8に係る発明の「エネルギー変換装置」(「流体エネルギー変換装置」)は、容器内の水の位置エネルギーを運動エネルギーに変換することなく、また、装置外部からエネルギーが入力されることなく、容器内に満たされた水の静水圧を利用して回転運動を生成し、エネルギー出力シャフトを介してエネルギーを連続して出力するものであると理解される。
この理解は、本願明細書の「発明者は、流体圧力場モードが物体の傾斜した上下面の上に作用し、流体圧力勾配場モードを有する圧力差を流体エネルギーの抽出に用い、又は、流体が高圧力領域から低圧力領域へ流れるモードが有する運動エネルギーを流体エネルギーの抽出に用いることを意識している。本発明の発明者は、流体に無限の静圧力エネルギーが含まれ、圧力エネルギーを充電バッテリーに貯蔵された「電力(power)」として見なすことができ、油圧パワーバッテリー装置に、無限の静圧力エネルギーが貯蔵されていることを意識している。流体静圧力は、流体中の物体を方向が下向きのプラグ圧力と方向が上向きの浮力とに分離することができる。通常、下記技術を用い、流体重力及び浮力を外力として、ローターに一方向かつ非対称的な力を印加することで、外部トルクを生成し、ローターが回転するように押す目的を実現する。・・・(中略)・・・従って、各実施例は、多くの可能な適用があり、たとえば、発電機の動力源として工場、住宅などの任意の場所、又は、ロボット、車両、移動電子製品及び植込み型医療機器の電源などに配置され、無限かつ自在に移動するエネルギーを提供する。」(【0005】、下線は当審合議体が付した。)という記載とも矛盾しない。
以上を前提に、以下、上記第3の拒絶の理由について検討する。
2 理由1(特許法第29条第1項柱書)について
特許法は、その第2条第1項において「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定し、これを前提として第29条第1項柱書において「産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。」と規定しているところである。
そこで、本願の請求項1~8に係る発明について検討すると、上記1のとおり、本願の請求項1~8に係る発明は、容器内の水の位置エネルギーを運動エネルギーに変換することなく、また、装置外部からエネルギーが入力されることなく、エネルギーを連続して出力するというものであるから、エネルギー保存の法則に反するもの、すなわち、自然法則に反するものである。
そうすると、本願の請求項1~8に係る発明は、特許法第29条第1項柱書でいう「発明」には該当しない。
3 理由2(特許法第36条第4項第1号)について
上記2のとおり、本願の請求項1~8に係る発明は、エネルギー保存の法則に反するものであるから、そもそも、エネルギーを連続して出力するという点で、その実施をすることができないことは明らかであるが、それはおいて、本願の発明の詳細な説明が、当業者が請求項1~8に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かについて以下検討する。
本願の発明の詳細な説明には、先の拒絶理由通知において指摘したとおり、「図4Iを参照すると、図4の作動原理の模式図を示す。コンベア4000は、容器に傾斜して固定され、内部が空気室であり、6つの物体4001(浮体であると仮定する)は、コンベア4000に固定され、左側に位置する場合、浮力作用を失う。水が入れられた容器には、コンベア4000(上部)→空気室←コンベア4000(下部)(矢印に示すのは、圧力方向である)の3つの異なる圧力領域が存在し、すなわち、水の圧力は、コンベア4000の上部分に対して、方向が下向きの水重力作用を生じ、コンベア4000の下部分に対して、方向が上向きの浮力作用を生じ、これによって、コンベア4000に、常に存在する回転トルクを生じる。」(【0072】)と記載され、また、「図6を参照すると、本発明の浮体が浮力を失って下へ移動する方法を説明する例示的な模式図を示し、浮体は、密度が流体より小さい物体であり、立方体6001は、浮体であり、水の重力作用で下へ移動する(流体が水であると仮定する)。」(【0077】)と記載されている。
しかし、浮力とは、水の密度ρ×重力加速度g×物体の体積Vにより算出されるものであり、物体が水中に存在すれば、その程度はともかく、浮力は生じるから、そもそも、「6つの物体4001(浮体であると仮定する)は、コンベア4000に固定され、左側に位置する場合、浮力作用を失う」ことや「本発明の浮体が浮力を失って」ということにはならない。
また、「浮体」とは「一部は液体の表面下にあり,残りは表面上にあって浮んでいる物体。」(ブリタニカ国際大百科事典)であるから、このような物体4001をコンベア4000に固定し、水中に沈めたとしても、物体4001の浮力と、物体4001の重量及び物体4001をコンベア4000に固定したことによって生じる力の合計とが等しくなる水深にとどまるだけであって、この水深に移動する限りでコンベアが動くことはあっても、それを超えてコンベアが動くことはない。
そうすると、当業者が上記説明をみても、「コンベア4000に、常に存在する回転トルクを生じる」ことの機序は理解できず、すなわち、請求項1~8に係る発明の「前記少なくとも1つの第1物体及び前記少なくとも1つの第2物体が前記第1のスライドレール及び前記第2のスライドレールに沿って回転するに構成されて、前記流体エネルギー変換装置が前記エネルギー出力シャフトを介してエネルギーを出力する」ことの機序は理解できないから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願の請求項1~8に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
4 請求人の主張について
(1)請求人は令和7年6月17日提出の意見書において、次のように主張している。
「(4)本発明の技術原理」
「(一)流体圧力勾配配場の作用:本発明は流体の圧力勾配場(圧力差)を利用して物体の運動を駆動します。流体は高圧部から低圧部へ流動し、その過程で運動エネルギーが生じ、これをエネルギー抽出に利用します。(二)重力と浮力の非対称作用:本装置は流体の重力と浮力を外力として用い、回転体に対して一方向かつ非対称な力を加え、外力モーメントを発生させ、回転体の回転を促進します。・空気中では、物体は重力により下方へ移動し、ポテンシャルエネルギーを放出します。・水中では、物体は浮力により上方へ移動し、ポテンシャルエネルギーを補充します。」(8ページ17~28行)
しかし、本願の請求項1~8に係る発明については、上記1~3で検討したとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
さらに、本願の請求項1~8に係る発明は「前記コンベアの内部に傾斜した空気室が形成されて、水圧を隔離するために、それぞれ、動的にシールされ」ているものにつきるのであって、物体が空気室内にあることを示す特定はないから、物体が「空気中」にあるかのような上記主張は、本願の請求項1~8の記載に基づくものではなく、採用することができない。
(2)請求人は令和7年6月17日提出の意見書において、次のように主張している。
「[図:0001432525000001.jpg]模式図には、傾斜した円環状のコンベア構造が示されており、その内部は空気、外部は水で満たされている。浮体1および浮体2は、水-空気の界面内を運動する構成である。・浮体1は位置A1から位置A2へと移動し、この間に静水圧はP1からP1.1へと増加する。続きを表示(全12行)・一方、浮体2は位置B1から位置B2へと移動し、静水圧はP2からP2.1へと増加する。このようにして、システム内の浮体はそれぞれ異なる圧力勾配を受けながら運動し、重力場と流体圧力場による駆動機構が連続的に機能することが視覚的に説明されている。・浮体1の上部における作用:浮体1は空気の上方に位置し、静水圧勾配(P1からP1.1)の影響を受ける。水圧は下向きに作用し、重力(mg)と合わさることで、空気による浮力をはるかに上回る合力が発生し、浮体1はA1から下方のA2へと移動する。このとき、水の重力ポテンシャル差(P1.1 - P1)および浮体1の重力ポテンシャルエネルギー(mgΔh)は運動エネルギーに変換され、コンベアを時計回りに回転させ、外部に仕事を出力する。・浮体2の下部における作用:浮体2は空気の下方に位置し、浮力/圧力勾配(P2からP2.1)の影響を受ける。水圧は上向きに作用し、重力(mg)の一部を相殺することで上向きの合力が生じ、浮体2はB1からB2へと上昇運動する。水の浮力ポテンシャル差(P2.1 - P2)は運動エネルギーに変換され、浮体2の上昇を促進しつつ、システムの重力ポテンシャルエネルギーの補充に寄与する。・エネルギーの循環と増幅:浮体1の下降によって重力ポテンシャルエネルギーが放出され、浮体2の上昇によって浮力を通じて重力ポテンシャルエネルギーが補填される。これにより、エネルギーが閉ループで循環する構造となる。静水圧差(P1.1 - P1 および P2.1 - P2)がエネルギー変換の駆動源となり、システムが重力場から継続的にエネルギーを取り出し、循環を維持していることを示している。」(17ページ6行~18ページ12行)
しかし、上記請求人の主張は、水中に存在する物体に作用する静水圧について、重力方向に沿う向きの静水圧のみを考慮し、重力方向に沿う向きの静水圧以外の静水圧、例えば、上記主張に図中のA1において、浮体1の側面から作用する静水圧を無視することを前提としているから、主張の前提に誤りがあり採用することができない。
(3)請求人は令和7年6月17日提出の意見書において、次のように主張している。
「しかし、本発明においては、空気室の存在により、同一高さにおける圧力が不均一となり、水は静止することができません。下図に示すように、水と空気の密度の違いにより、AB水平線上の等高位置における圧力は常に一致しません。[図:0001432525000002.jpg]等高等圧の原理(パスカルの原理の一部)によれば、同一水平面上では液体の圧力は等しくなるはずです。ところが、本発明の構造では、中央に設けられたエアチャンバーの影響により、左右の水柱の液面の高さに差が生じ、この等圧条件が破壊されます。このようにして発生する圧力の不均衡により、水体は静止することができず、新たな平衡状態を求めて継続的に流動し続ける必要があります。上図に示すように、液面付近の水圧Pは、搬送ベルト上部に作用する圧力P4よりも高く、また、物体4001(3)および4001(4)の下部に作用する圧力よりも大きくなっており、水体は明らかに非平衡状態にあります。この圧力勾配の影響により、該当領域の水体は自発的に上方へと移動しようとする流れを生じ、圧力の再平衡を試みることになります。このような自発的流動を引き起こす根本的な原因は、空気の存在にあります。本システムの構造と、水と空気という二相流体の相互作用によって、液体は静止状態の平衡を達成することが不可能となります。このような持続的に存在する非平衡な圧力分布こそが、本システムを循環的に作動させる原動力の基礎となっています。」(22ページ2~19行)
そもそも、本願の請求項1~8に係る発明における容器は、上右図のU字管のような形状・構造ではないから、本願の請求項1~8に係る発明において「左右の水柱の液面の高さに差が生じ」ることを前提とする上記主張は、本願の請求項1~8の記載に基づくものではなく、その前提を欠く。
それは措くとしても、上記(1)で指摘したとおり、本願の請求項1~8に係る発明は「前記コンベアの内部に傾斜した空気室が形成されて、水圧を隔離するために、それぞれ、動的にシールされ」ているものにつきるのであって、空気は容器内における静水圧とは隔離されているのであるから、容器内における静水圧に対して影響を及ぼすことはなく、また、物体4001に作用する静水圧については上記(2)で指摘したとおりであるから、「中央に設けられたエアチャンバーの影響により、左右の水柱の液面の高さに差が生じ、この等圧条件が破壊されます」との説明には根拠がなく、前記主張は採用することができない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1~8に係る発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしておらず、また、本願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-006412