特許拒絶査定不服審判
2023-012140
子宮内膜のmiRNA受容性分析
- 審判番号
- 2023-012140
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-576586
- 請求日
- 2023年07月20日
- 審決日
- 2025年06月10日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】英▲てい▼生物科技股▲ふん▼有限公司
- 【請求人代理人】杉村 憲司
- 【請求人代理人】杉村 光嗣
- 【請求人代理人】井上 高雄
- 審判長/審判官
- 審判長 加々美 一恵
- 審判官 岡北 有平
- 審判官 上條 肇
- 分類
- P18 .14 -ZB (C12Q) / P18 .536-ZB (C12Q) / P18 .537-ZB (C12Q) / P18 .575-ZB (C12Q)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-576586「子宮内膜のmiRNA受容性分析」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 1月 7日国際公開、WO2021/000893、令和 4年 9月 7日国内公表、特表2022-539037〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年7月1日(パリ条約による優先権主張 2019年7月2日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。
令和 4年11月10日付け 拒絶理由通知書
令和 5年 1月20日 手続補正書・意見書の提出
令和 5年 3月17日付け 拒絶査定
令和 5年 7月20日 審判請求書・手続補正書の提出
第2 令和5年7月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年7月20日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
令和5年7月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含むものである。
(1)本件補正前請求項1
「【請求項1】
子宮内膜の状態を判断する方法であって、
(a)女性の前記子宮内膜サンプルについてのアッセイを実施して子宮内膜サンプルのマイクロRNA(miRNA)発現プロファイルを判断することであって、前記miRNA発現プロファイルは、複数のmiRNAの発現レベルを含むことと、
(b)前記miRNA発現プロファイルを分析して受容性予測スコアを取得することであって、前記受容性予測スコアは、前記女性の前記子宮内膜の状態を分類し、前記子宮内膜の状態は、受容期前の状態、受容期の状態、または受容期後の状態を含み、前記複数のmiRNAは、少なくとも50のmiRNAを含むこととを備え、
前記受容性予測スコアは、コンピューターベースのアルゴリズムにより作成され、
【数1】
[図:0001428464000001.jpg]
の方程式を使用して計算された値であり、βは係数のベクトルであり、εは誤差であり、
1より大きい受容性予測スコアは、前記受容期前の状態を示し、-1未満の受容性予測スコアは、前記受容期後の状態を示し、-1から1の受容性予測スコアは、前記受容期の状態を示す、方法。」
(2)本件補正後請求項1
「【請求項1】
子宮内膜の状態を判断する方法であって、
(a)女性の前記子宮内膜サンプルについてのアッセイを実施して子宮内膜サンプルのマイクロRNA(miRNA)発現プロファイルを判断することであって、前記miRNA発現プロファイルは、複数のmiRNAの発現レベルを含むことと、
(b)前記miRNA発現プロファイルを分析して受容性予測スコアを取得することであって、前記受容性予測スコアは、前記女性の前記子宮内膜の状態を分類し、前記子宮内膜の状態は、受容期前の状態、受容期の状態、または受容期後の状態を含み、前記複数のmiRNAは、少なくとも50のmiRNAを含むこととを備え、
前記受容性予測スコアは、コンピューターベースのアルゴリズムにより作成され、
【数1】
[図:0001428464000002.jpg]
の方程式を使用して計算された値であり、βは係数のベクトルであり、εは誤差であり、
前記コンピューターベースのアルゴリズムは、以下のステップ:データ正規化、データのスケーリング、データ媒体変換、予測モデリング、および交差検証の1以上を実施することにより確立され、
1より大きい受容性予測スコアは、前記受容期前の状態を示し、-1未満の受容性予測スコアは、前記受容期後の状態を示し、-1から1の受容性予測スコアは、前記受容期の状態を示す、方法。」
(下線部は、補正箇所である。)
2 補正の適否
(1) 本件補正の目的について
本件補正は、補正前の請求項1に記載された「コンピューターベースのアルゴリズム」に「以下のステップ:データ正規化、データのスケーリング、データ媒体変換、予測モデリング、および交差検証の1以上を実施することにより確立され」るという限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
このため、上記本件補正前の請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上述のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むため、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。
(2) 特許法第29条第1項柱書(産業上の利用可能性)について
本願補正発明は、上記1(2)に記載のとおりである。
ここで、「女性」とは、「体外受精(IVF)治療を受けている」者を包含する([0021]、[0038]段落)、から、技術常識を踏まえれば、「人間」の「女性」を指すと解される。
そして、当該「子宮内膜の状態を判断する方法」については、「1より大きい受容性予測スコアは、前記受容期前の状態を示し、-1未満の受容性予測スコアは、前記受容期後の状態を示し、-1から1の受容性予測スコアは、前記受容期の状態を示す、」「前記女性の前記子宮内膜の状態を分類し、前記子宮内膜の状態は、受容期前の状態、受容期の状態、または受容期後の状態を含」む、コンピューターベースのアルゴリズムにより作成された「受容性予測スコア」を取得することを備えることが特定されている。
本願補正発明は、女性の胚着床に対する子宮内膜の受容性として受容期前の状態、受容期の状態、または受容期後の三状態のいずれであるかを判別する方法ではなく、「子宮内膜の状態を判断する方法」であって、女性の胚着床に対する子宮内膜の受容性のみが判断されるものではない。
そして、子宮内膜の状態は、受容期前の状態、受容期の状態、または受容期後の状態の受容性に係る三種類の状態しかないものではなく、子宮内膜が肥厚し内膜の細胞や組織に異常を認める子宮内膜増殖症や子宮内膜が子宮以外の場所において発生する子宮内膜症などさまざまな病態を含む状態が包含されるところ、発明特定事項の最終ステップである「miRNA発現プロファイルを分析して受容性予測スコアを取得すること」からこれらを含めた子宮内膜の状態を自動的に決定するのは医療分野の技術常識を参酌しても不可能であり、それらを決定するには、医師等の判断を必要とすることは明らかである。
したがって、本願補正発明の発明特定事項には、医師等による人間の病状や健康状態等について判断する工程を含むことは一義的に把握できないものの、客観的な比較基準等に基づいて機械的・自動的に決定されるものであって、全体として医師等の判断の入る余地がないということもできない。
よって、本願補正発明の「子宮内膜の状態を判断する方法」には、人間に対する診断方法が包含され得るので、産業上利用可能な発明であるということはできない。
(3) 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 本願補正発明が解決しようとする課題
発明の詳細な説明には、「従って、依然として、必要となる組織のインプットが少ない、および/または女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についてより信頼性のある判断を提供する、子宮内膜の受容性を判断する方法の改善へのニーズがある。」([0006]段落)と記載されている。
当該記載から、本願補正発明は、必要となる組織のインプットが少ない、および/または女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についてより信頼性のある判断を提供することを企図したものと解される。
つまり、「必要となる組織のインプットが少ない、および/または女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についてより信頼性のある判断を提供すること」が本願補正発明の解決しようとする課題であると認められる。
イ 発明の詳細な説明に記載された内容
発明の詳細な説明には、Human Disease Ontologyデータベースから生殖の疾患に関与している遺伝子を識別し、続いて、miRTARBase、TargetScan、およびmiRDBを使用して潜在的な調節因子miRNAを選択することにより表1記載のhas-miR-155-5p、has-miR-145-5p、has-miR-34a-5p、・・・・・has-miR-520b-3pからなる全部で167のmiRNAを選択したこと([0057]~[0062])、図3に示されるように、データ正規化、データのスケーリング、データ媒体変換、予測モデリング、および交差検証のステップの1以上がアルゴリズムを構築および立証するために実施されること([0074])、 統計的特性が同一の分布になるように、データは、Quantile Normalizationにより正規化され、さらに、目的関数が正確に働くように、データは、ゼロ平均および単位分散を有するデータを作成するため、値域に標準化されうること([0075])、データ整理および特徴抽出の両方のため、主成分分析(PCA)は、多数のオリジナル変数から情報を圧縮し、オリジナル変数を線形結合することにより、小さな新しい特性のセットを生成するために使用されうること([0076])、PCA変換データは、lassoおよびridge法のL1およびL2ペナルティを線形結合した正規化回帰法である弾性ネット正則化で、一般化線形モデルをさらに構築するために使用されうること、glmnetに関する追加の情報は、glmnet.stanford.eduで既知であり、入手可能であること([0077])、図5のとおり、k分割交差検証法、例えば、10分割交差検証は、コンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムの予測値をまとめる前に、それを評価するために使用されうること([0078])、検証および改善後、コンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムが生成され、アルゴリズムを実行することにより、女性の子宮内膜の状態をスコアが1より大きい場合、女性の子宮内膜は受容期前の状態にある;スコアが-1未満の場合、女性の子宮内膜は受容期後の状態にある;そしてスコアが-1から1の場合、女性の子宮内膜は受容期の状態にある3つの状態の1つに分類する受容性予測スコアが生成されること([0080])が記載されている。
また、実施例としてホルモン補充療法周期におけるプロゲステロン投与後5日間(P+5)または自然な周期における内因性黄体形成ホルモンの急増後7日間(LH+7)のいずれかに、子宮内膜の生検が女性の子宮腔から採取されmiRNA濃縮画分を得、転写反応においてcDNAを合成したこと([0094]~[0096])、表1に示される合計167のmiRNAについてmiRNA発現プロファイリングを行ったこと([0097])、コンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズム(MIRA)は、以下のステップ:データ正規化、データのスケーリング、データ媒体変換、予測モデリング、および交差検証の1以上を実施することにより構築されたこと([0099])、統計的特性が同一の分布になるように、データは、Quantile Normalizationにより図3の方程式(A)のとおり正規化されたこと([0100])、目的関数が正確に働くように、データは、ゼロ平均および単位分散を有するデータを作成するため、図3の方程式(B)のとおり値域に標準化されたこと([0101])、データ整理および特徴抽出のため、図3の方程式(C)のとおり、PCAは、多数のオリジナル変数から情報を圧縮し、オリジナル変数を線形結合することにより、小さな新しい特性のセットを生成したこと([0102])、PCA変換データは、lassoおよびridge法のL1およびL2ペナルティを線形結合した正規化回帰法である弾性ネット正則化で一般化線形モデルをさらに構築するために図3の方程式(D)のとおり使用されたこと([0103])、MIRAモデルをまとめる前に、コンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムの予測値を評価するため、交差検証が実施され、図4Aに示されるように、表1に示される配列番号:1-167の配列を有する167のmiRNAの発現レベルを含むmiRNA発現プロファイルを使用して、MIRAモデルは、clinalサンプルを3つの状態グループ:受容期前の状態、受容期の状態、または受容期後の状態の1つにうまく分類されたこと、さらに、図4Bに示されるように、予備検証は、受容期の状態に分類された女性で100%の妊娠率を示した(テストセット)こと([0104])、モデル評価のための10分割交差検証を実現するため、183人の女性のデータが10個のサブセットに分けられ、183個の子宮内膜サンプルの167のmiRNAの発現レベルを含むmiRNA発現プロファイルを使用した、10分割交差検証および妊娠率を示したこと([0105]~[0106])、本例に記載される図3、方程式(A-D)および後続の交差検証に基づくそれらのパラメーターの微調整を含む全てのパラメーターを考慮して(参照)、全てのサンプルを3つの明確な子宮内膜の状態に分類する予測モデルが生成され、
[図:0001428464000003.jpg]
を使用して計算された受容性予測スコア(MIRAスコア)が生成され、ここで、βは係数のベクトルであり、εは誤差であり、両方とも交差検証を通したglmnetにより生成されている(図3)こと、このモデルは、子宮内膜の状態を予測するため、子宮内膜の任意のqPCRプロファイリングに適用することができたこと([0107])、図6に示されるように、コンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムを実行することにより、女性の子宮内膜の状態を3つの状態の1つに分類する受容性予測スコアが生成され、スコアが1より大きい場合、女性の子宮内膜は受容期前の状態にあり;スコアが-1未満の場合、女性の子宮内膜は受容期後の状態にあり;そしてスコアが-1から1の場合、女性の子宮内膜は受容期の状態(WOI)にあること([0108])が記載されている。
ウ サポート要件についての判断
発明の詳細な説明に記載された内容のうち実施例の記載によると、子宮内膜の183個の生検が女性の子宮腔から採取され配列番号:1-167の配列を有する167のmiRNAの発現レベルを含むmiRNA発現プロファイルが得られたこと、データはQuantile Normalizationにより正規化され、値域に標準化され、lassoおよびridge法のL1およびL2ペナルティを線形結合した正規化回帰法である弾性ネット正則化で一般化線形モデルとしたこと、コンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムの予測値を評価するため、MIRAモデルをまとめる前に、コンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムの予測値を評価するため、交差検証が実施され、交差検証に基づくそれらのパラメーターの微調整が行われたことまでは理解できる。
しかしながら、当該実施例の記載は、あくまで配列番号:1-167の配列を有する167種類からなる特定の組み合わせのmiRNAの発現レベルを含むmiRNA発現プロファイルを基に一般化線形モデルとして評価したに過ぎず、ヒトゲノムに存在する少なくとも2700種以上のmiRNAはそれぞれ、免疫反応や細胞のアポトーシス、血管成長など子宮内膜の状態に対して影響を与える可能性や機能亢進や抑制に係る方向性が異なるから、本願補正発明の特定事項である「少なくとも50のmiRNA」に対して解析を行えば、それがいかなる種類のmiRNAであっても女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についてより信頼性のある判断を提供できることを裏付けたものであるということはできない。
また、本願発明の詳細な記載のその余の記載事項にも、本願補正発明の特定事項である「少なくとも50のmiRNA」に対して解析を行えば、それがいかなる種類のmiRNAであっても女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についてより信頼性のある判断を提供できることについて理論的に説明した記載やそれが出願時における技術常識であることを示した記載があるとはいえない。
また、上記実施例の記載によると配列番号:1-167の配列を有する167のmiRNAの発現レベルを含むmiRNA発現プロファイルについては、lassoおよびridge法のL1およびL2ペナルティを線形結合した正規化回帰法である弾性ネット正則化で一般化線形モデルとしたことが記載されている。
ここで、167次元もあるmiRNA発現プロファイルのデータの次元削減を行い、一般化線形モデルにする際に生じるプロファイル毎の重み付けや係数は、miRNA発現プロファイルのうちどのmiRNAの発現量の増減の影響を女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態において重視するかを意味し、女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についての判断を左右するといえるが、本願補正発明の特定事項は任意の「データ媒体変換」であり、「lassoおよびridge法のL1およびL2ペナルティを線形結合した正規化回帰法である弾性ネット正則化で一般化線形モデル」とすることや弾性ネット正則化において、別途設定する必要があると認められるlasso法およびridge法の混合割合などについても何ら特定されていない。
そして実施例に記載されているとおり、発明の詳細な説明には、「データ媒体変換」を「少なくとも50のmiRNA」に対して行えば、それがいかなる「データ媒体変換」手法であっても女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についてより信頼性のある判断を提供できることについて理論的に説明した記載やそれが出願時における技術常識であることを示した記載があるとはいえない。
また、上記実施例の記載によるとコンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムの予測値を評価するため、MIRAモデルをまとめる前に、コンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムの予測値を評価するため、交差検証が実施され、交差検証に基づくそれらのパラメーターの調整が行われたことが記載されている。
ここで、167次元もあるmiRNA発現プロファイルのデータの次元削減を行い、一般化線形モデルにする際に生じるプロファイル毎の重み付けや係数は、miRNA発現プロファイルのうちどのmiRNAの発現量の増減の影響を女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態において重視するかを意味し、女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についての判断を左右するといえるが、交差検証に基づいて調整されたプロファイル毎の重み付けや係数そのものが、女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についての判断を左右するにも関わらず、交差検証に基づく調整後のパラメーターについても何ら特定されていない。
そうすると、女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態について「1より大きい受容性予測スコアは、前記受容期前の状態を示し、-1未満の受容性予測スコアは、前記受容期後の状態を示し、-1から1の受容性予測スコアは、前記受容期の状態を示す、」ように算出させる式は167次元もあるmiRNA発現プロファイルのデータの次元削減を行い、個々のプロファイル毎の具体的な重み付けや係数を付した一般化線形モデルであって
[図:0001428464000004.jpg]
のようなものではない。
以上のとおり、本願補正発明の発明特定事項には、当業者が出願時の技術常識に照らし必要となる組織のインプットが少ない、および/または女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についてより信頼性のある判断を提供できるという課題を解決できるために必要な要素が反映されていないのであるから、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
(4) 第36条第4項第1号(実施可能要件)について
発明の詳細な説明には、ホルモン補充療法周期におけるプロゲステロン投与後5日間(P+5)または自然な周期における内因性黄体形成ホルモンの急増後7日間(LH+7)のいずれかに、子宮内膜の生検が女性の子宮腔から採取されmiRNA濃縮画分を得、表1に示される配列番号:1-167の配列を有する167のmiRNAの発現レベルを含むmiRNA発現プロファイルを得たことが記載されており、MIRAモデルをまとめる前に、コンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムの予測値を評価するため、交差検証が実施されたことが記載されている。
本願補正発明は、「少なくとも50のmiRNA」を対象とすることを発明特定事項とするものであるが、ヒトゲノムに存在する少なくとも2700種以上のmiRNAはそれぞれ、免疫反応や細胞のアポトーシス、血管成長など子宮内膜の状態に対して影響を与える可能性や機能亢進や抑制に係る方向性が異なることを考慮すれば、本願補正発明の範囲全般に亘り実施するためには、2700種以上のmiRNAの中から任意の50のmiRNAを選択し、それらの組み合わせに基づいて交差検証を実施し、交差検証に基づくそれらのパラメーターの調整を行って、子宮内膜の状態を判断できるか否か検討する必要があるといえ、当業者に過度の試行錯誤を求めるものであるということができる。
また、受容期前の状態、受容期の状態、または受容期後の状態と関連付けた配列番号:1-167の配列を有する167のmiRNAの発現レベルやそれ以外のmiRNAの発現レベルを含むmiRNA発現プロファイルデータについては発明の詳細な説明及び図面に何ら記載されていないから、「交差検証」やこれに基づく「データ媒体変換」の個々のパラメータ調整を容易に実施することができず、lassoおよびridge法のL1およびL2ペナルティを線形結合した正規化回帰法である弾性ネット正則化による一般化線形モデルやその他のモデルを構築することができず、技術的に意味のある受容性予測スコアを算出することができない。
したがって、発明の詳細な説明は、本願補正発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(5) 第36条第6項第2号(明確性)について
本願補正発明は、
「受容性予測スコアは、コンピューターベースのアルゴリズムにより作成され、
【数1】
[図:0001428464000005.jpg]
の方程式を使用して計算された値であり、βは係数のベクトルであり、εは誤差であり、
前記コンピューターベースのアルゴリズムは、以下のステップ:データ正規化、データのスケーリング、データ媒体変換、予測モデリング、および交差検証の1以上を実施することにより確立され、
1より大きい受容性予測スコアは、前記受容期前の状態を示し、-1未満の受容性予測スコアは、前記受容期後の状態を示し、-1から1の受容性予測スコアは、前記受容期の状態を示す、」
ことを発明特定事項とするものである。
ここで、式中 Xが何を意味し、eq(C)が何を意味し、「係数のベクトル」として説明されたβがどのように算出されるものであるのか、「誤差」として説明されたεがどのようなものであるのかについて特許請求の範囲には何ら説明されてない。
図3には
[図:0001428464000006.jpg]
のような記載があり、quantile.norm(X)、scale(X)、pca(X)については、データ正規化、データのスケーリング、主成分分析に関する計算処理であることは理解できるものの、それら計算処理にはそれぞれ様々な処理手法とそれに伴う関数があるから具体的にはどのような方程式となるかは当業者といえども理解することはできない。またこれらの初期値であるmicroRNA’s Cq profilingについてはこれがどのような値であるか発明の詳細な説明及び図面からは明らかではなく、当業者にとって技術常識ともいえない。
さらに、図3には、「MIRA Modelは、方程式(A-D)および交差検証によるそれらのパラメーターの微調整から成る。」と記載されている。βは係数のベクトルとされるβや誤差とされるεに影響をあたえると考えられる交差検証によるそれらのパラメーターの微調整の内容は、発明の詳細な説明に記載されておらず、当業者にとって技術常識ということもできない。
したがって、本願補正発明の記載は特許請求の範囲の記載からみて明確ではなく、特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が明確であるものでなければならない」とする特許法第36条第6項第2号所定の要件に明らかに適合しないが、図3等の発明の詳細な説明の記載及び図面を参酌しても、なお、第三者に不測の不利益を及ぼしうる程度に明確ではない。
(6) 審判請求人の主張に対して
審判請求人が、審判請求書においてした主張とそれらに対する合議体の判断は次のとおりである。
ア 審判請求人の主張
(ア) 理由1(特許法第29条第1項柱書)について
本願請求項1に係る発明において、コンピューターベースのアルゴリズムは、データ正規化、データのスケーリング、データ媒体変換、予測モデリング、および交差検証の1以上を実施することにより確立される。アルゴリズムによって請求項1の方程式が作成される。また、上述したように、本願請求項1の方程式は明確である。そうすると、アルゴリズムに医師による判断が入らないことは明らかである。そして、受容性予測スコアは、子宮内膜サンプルのアッセイで得られたマイクロRNA発現プロファイルを当該方程式に適用することで得られる。そうすると、本願請求項1に係る発明は、医師の判断が入る余地はなく、特許法第29条第1項柱書の要件を満たしている。
(イ) 理由6(特許法第36条第6項第1号)について
本願請求項1に係る発明において、受容性予測スコアは、データ正規化、データのスケーリング、データ媒体変換、予測モデリング、および交差検証の1以上を実施することにより確立されるコンピューターベースのアルゴリズムによって作成された方程式を使用して計算される値である。
本願実施例には、図3に記載のアルゴリズムで作成した方程式を用いて受容性予測スコアを計算し、子宮内膜の状態を分析する一例が記載されている(本願段落0108、図6)。この実施例や明細書中の記載(本願段落0073-0080等)及び出願時の技術常識を考慮すれば、図3に記載のアルゴリズム以外の、データ正規化、データのスケーリング、データ媒体変換、予測モデリング、および交差検証の1以上を実施するアルゴリズムを使用して、請求項1に記載の方程式を導出する手段は把握可能である。そして、請求項1に記載の方程式を使用してmiRNA発現プロファイルから計算された受容性予測スコアを用いれば、女性の子宮内膜の受容可能又は不可能な状態について信頼性のある判断を得るという本発明の課題が解決できる。そうすると、本願請求項1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていると思料する。
(ウ) 理由5(特許法第36条第4項第1号)について
上述したように、本願請求項1の方程式は明確であり、また、実施例や図3等の記載を考慮すれば、アルゴリズムの確立手順や請求項1に記載の方程式の作成手順も理解できる。そして、作成された方程式を用いてmiRNAの発現プロファイルを計算すれば受容性予測スコアを導出できることもまた、理解することができる。
(エ) 理由4(特許法第36条第6項第2号)について
本願請求項1に係る発明において、コンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムは、データ正規化、データスケーリング、データ媒体変換、モデリングのうちの1つ又は複数のステップを実行して構築され、交差検証により検証され、確立される。ここで、本願図3には、アルゴリズムの一例として、データ正規化をeq(A)で実施し、データスケーリングをeq(B)で実施し、データ媒体変換をeq(C)で実施し、モデリングをeq(D)で実施することが記載されている。図3の、eq(A)において、Xは、一組のmicroRNAのCq発現profileのベクトルである。eq(B)において、Xは、eq(A)からの正規化された値の集合のベクトルである。eq(C)において、Xは、eq(B)のうち一組のスケーリング値のベクトルである。eq(D)において、Xは、eq(C)からの一組のPCA変換値のベクトルである。eq(D)は、Elastic Net方法を使用して正規化回帰モデルを構築する。この構築されたモデルはMIRAスコアを予測できる。子宮内膜の状態は以下のように設定した。
[図:0001428464000007.jpg]
MIRAスコアに基づき、1より大きいMIRAスコア(受容性予測スコア)は子宮内膜の状態が受容期前の状態にあり、-1未満のMIRAスコアは子宮内膜の状態が受容期後の状態にあり、-1から1のMIRAスコアは子宮内膜の状態が受容期の状態(WOI)にあること、に分類できる(本願段落0080、図3)。
実施例では、Rパッケージglmnet 4.1版、弾性ネット正則化一般化線形モデルを用いて、MIRAベースの分類器を構築している。10分割交差検証は、パラメーターを微調整してMIRAベースの分類器の精度を向上させるのに用いられる。
例えば、microRNAのCq発現プロファイルのデータセットM × Nがあるとする。なお、Cqとは、qPCRで得られる値であり、試料中のmiRNA発現量に依存した値である。eq(A)の正規化、eq(B)のスケーリング及びeq(C)の変換後、データセットはn個の観測値とp個の予測変数を有する。y=(y1|...|yn)Tは応答であり(WOI(受容期)=0、PRE(受容期前)=1、POST(受容期後)=-1と設定)、X=(x1|...|xp)はモデル行列であり、xj=(x1|...|xnj)T、j=1、2、...、pは予測変数である。
本発明において、MIRAスコアは
[図:0001428464000008.jpg]
の方程式を使用して計算された値と定義している。βはβ=argmin(|y-Xβ|2+α|β|2+(1-α)|β1|)で定義された方程式の最小値である。εは誤差項であり、環境要因の変化等、microRNA変数に及ぼす影響を表す。ここで、関数α|β|2+(1-α)|β1|は弾性ネットペナルティ項であり、lassoおよびridge法のペナルティ項の凸結合である。βとεは、データセットとモデルパラメーターに基づいて生成される。
従って、本願明細書の発明の詳細な説明に接した当業者にとって、データ正規化、データのスケーリング、データ媒体変換、予測モデリング、および交差検証の1以上を実施することにより確立されたアルゴリズムにより作成される請求項1の式中のX、β、εは、明確であると思料する。
また、拒絶査定には「受容性予測スコアを取得することの具体的な方法が特定されていない」とも記載されている。上述したようにX、β、εは明確であるので、請求項1における方程式もまた明確である。受容性予測スコアは、この方程式を使用して計算された値であるので、当然に明確である。
イ 判断
(ア) 理由1(特許法第29条第1項柱書)について
本願補正発明は、女性の胚着床に対する子宮内膜の受容性として受容期前の状態、受容期の状態、または受容期後の三状態のいずれであるかを判別する方法ではなく、「子宮内膜の状態を判断する方法」であって、女性の胚着床に対する子宮内膜の受容性のみが判断されるものではない。
そして、子宮内膜の状態は、受容期前の状態、受容期の状態、または受容期後の状態の三種類の受容性に係る状態しかないものではなく、子宮内膜が肥厚し内膜の細胞や組織に異常を認める子宮内膜増殖症や子宮内膜が子宮以外の場所において発生する子宮内膜症などさまざまな病態を含む状態が包含されるところ、発明特定事項の最終ステップである「miRNA発現プロファイルを分析して受容性予測スコアを取得すること」からこれらを含めた子宮内膜の状態を自動的に決定するのは医療分野の技術常識を参酌しても不可能であり、それらを決定するには、医師等の判断を必要とすることは明らかである。
(イ) 理由6(特許法第36条第6項第1号)について
実施例の記載は、あくまで配列番号:1-167の配列を有する167種類からなる特定の組み合わせのmiRNAの発現レベルを含むmiRNA発現プロファイルを基に一般化線形モデルとして評価したに過ぎず、ヒトゲノムに存在する少なくとも2700種以上のmiRNAはそれぞれ、免疫反応や細胞のアポトーシス、血管成長など子宮内膜の状態に対して影響を与える可能性や機能亢進や抑制に係る方向性が異なるから、本願補正発明の特定事項である「少なくとも50のmiRNA」に対して解析を行えば、それがいかなる種類のmiRNAであっても女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についてより信頼性のある判断を提供できることを裏付けたものであるということはできない。
また、実施例の記載によると配列番号:1-167の配列を有する167のmiRNAの発現レベルを含むmiRNA発現プロファイルについては、lassoおよびridge法のL1およびL2ペナルティを線形結合した正規化回帰法である弾性ネット正則化で一般化線形モデルとしたことが記載されている。
ここで、167次元もあるmiRNA発現プロファイルのデータの次元削減を行い、一般化線形モデルにする際に生じるプロファイル毎の重み付けや係数は、miRNA発現プロファイルのうちどのmiRNAの発現量の増減の影響を女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態において重視するかを意味し、女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についての判断を左右するといえるが、本願補正発明の特定事項は任意の「データ媒体変換」であり、「lassoおよびridge法のL1およびL2ペナルティを線形結合した正規化回帰法である弾性ネット正則化で一般化線形モデル」とすることや弾性ネット正則化において、別途設定する必要があると認められるlasso法およびridge法の混合割合などについても何ら特定されていない。
また、実施例の記載によるとコンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムの予測値を評価するため、MIRAモデルをまとめる前に、コンピューターベースのmiRNA分析アルゴリズムの予測値を評価するため、交差検証が実施され、交差検証に基づくそれらのパラメーターの調整が行われたことが記載されている。
ここで、167次元もあるmiRNA発現プロファイルのデータの次元削減を行い、一般化線形モデルにする際に生じるプロファイル毎の重み付けや係数は、miRNA発現プロファイルのうちどのmiRNAの発現量の増減の影響を重視するかを意味し、女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についての判断を左右するといえるが、交差検証に基づいて調整されたプロファイル毎の重み付けや係数そのものが、女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についての判断を左右するにも関わらず、交差検証に基づく調整後のパラメーターについても何ら特定されていない。
以上のとおり、請求人が主張するような任意の「データ正規化、データのスケーリング、データ媒体変換、予測モデリング、および交差検証の1以上を実施するアルゴリズム」によって当業者が出願時の技術常識に照らし必要となる組織のインプットが少ない、および/または女性の子宮内膜の受容可能または受容不可能な状態についてより信頼性のある判断を提供できるという課題を解決できるとは認められず、特許請求の範囲にはそのために必要な要素が反映されていないのであるから、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
(ウ) 理由5(特許法第36条第4項第1号)について
本願補正発明は、「少なくとも50のmiRNA」を対象とすることを発明特定事項とするものであるが、ヒトゲノムに存在する少なくとも2700種以上のmiRNAはそれぞれ、免疫反応や細胞のアポトーシス、血管成長など子宮内膜の状態に対して影響を与える可能性や機能亢進や抑制に係る方向性が異なることを考慮すれば、本願補正発明の範囲全般に亘り実施するためには、2700種以上のmiRNAの中から任意の50のmiRNAを選択し、それらの組み合わせに基づいて交差検証を実施し、交差検証に基づくそれらのパラメーターの調整を行って、子宮内膜の状態を判断できるか否か検討する必要があるといえ、実施例や図3等の記載を考慮して、アルゴリズムの確立手順や請求項1に記載の方程式の作成手順も理解できたとしても、2700種以上のmiRNAから受容性予測スコアを算出できる50の適切なmiRNAを選択することはできない。
また、受容期前の状態、受容期の状態、または受容期後の状態と関連付けた配列番号:1-167の配列を有する167のmiRNAの発現レベルやそれ以外のmiRNAの発現レベルを含むmiRNA発現プロファイルデータについては実施例や図3等にも何ら記載されていないから、「交差検証」やこれに基づく「データ媒体変換」の個々のパラメータ調整を容易に実施することができず、lassoおよびridge法のL1およびL2ペナルティを線形結合した正規化回帰法である弾性ネット正則化による一般化線形モデルやその他のモデルを構築することができず、技術的に意味のある受容性予測スコアを算出することができない。
(エ) 理由4(特許法第36条第6項第2号)について
請求人は図3に記載されている事項を引用して縷々主張するが、当該事項は特許請求の範囲に記載されている事項ではなく、当業者にとって特許請求の範囲にいまさら書き込み必要がない程度の技術常識であると認めるに足る根拠もない。
本願補正発明の記載を請求人主張のように読み取ることは、発明の詳細な説明及び図面の記載の多岐にわたる記載箇所のみならず、発明の詳細な説明及び図面に記載されていない事項まで参酌・総合して初めて可能となったことであり、本来当業者が共通に用いる技術用語の組み合わせを用いて直截に記載できる内容を、当業者が共通に用いる技術用語でない用語を用いて、ことさらに不自然に表現したものであって、「特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が明確であるものでなければならない」とする特許法第36条第6項第2号所定の要件に適合しないといわざるを得ない。
また、図3を参酌するとしてもquantile.norm(X)、scale(X)、pca(X)については、データ正規化、データのスケーリング、主成分分析に関する計算処理であることは理解できるものの、それぞれ様々な処理手法とそれに伴う関数があるから具体的にはどのような方程式となるかは当業者といえども理解することはできない。またこれらの初期値であるmicroRNA’s Cq profilingについて、請求人はqPCRで得られる値と主張しているものの、そのことは発明の詳細な説明及び図面からは明らかではなく、当業者にとって技術常識といえる根拠も見いだせない。
さらに、図3には、「MIRA Modelは、方程式(A-D)および交差検証によるそれらのパラメーターの微調整から成る。」と記載されている。βは係数のベクトルとされるβや誤差とされるεに影響をあたえると考えられる交差検証によるそれらのパラメーターの微調整の内容は、発明の詳細な説明に記載されておらず、当業者にとって技術常識ということもできない。
したがって、本願補正発明の記載は特許請求の範囲の記載からみて明確ではなく、特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が明確であるものでなければならない」とする特許法第36条第6項第2号所定の要件に明らかに適合しないが、図3等の発明の詳細な説明の記載及び図面を参酌しても、なお、第三者に不測の不利益を及ぼしうる程度に明確ではない。
(7) 小括
このとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当するが、本願補正発明は、産業上利用可能なものではなく、発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず、明確でもないから、本願補正発明は特許法第29条第1項柱書、第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明は当業者が本願補正発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということはできない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和5年7月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和5年1月20日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
子宮内膜の状態を判断する方法であって、
(a)女性の前記子宮内膜サンプルについてのアッセイを実施して子宮内膜サンプルのマイクロRNA(miRNA)発現プロファイルを判断することであって、前記miRNA発現プロファイルは、複数のmiRNAの発現レベルを含むことと、
(b)前記miRNA発現プロファイルを分析して受容性予測スコアを取得することであって、前記受容性予測スコアは、前記女性の前記子宮内膜の状態を分類し、前記子宮内膜の状態は、受容期前の状態、受容期の状態、または受容期後の状態を含み、前記複数のmiRNAは、少なくとも50のmiRNAを含むこととを備え、
前記受容性予測スコアは、コンピューターベースのアルゴリズムにより作成され、
【数1】
[図:0001428464000009.jpg]
の方程式を使用して計算された値であり、βは係数のベクトルであり、εは誤差であり、
1より大きい受容性予測スコアは、前記受容期前の状態を示し、-1未満の受容性予測スコアは、前記受容期後の状態を示し、-1から1の受容性予測スコアは、前記受容期の状態を示す、方法。」
2 原査定の拒絶の理由の概要
令和5年3月17日付け拒絶査定は、この出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができないとの理由(理由1(産業上利用可能性))、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの理由(理由4(明確性))、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの理由(理由6(サポート要件))、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとの理由(理由5(実施可能要件))を含むものである。
3 判断
上記第2の2(1)で述べたとおり、本願補正発明は、本願発明の「コンピューターベースのアルゴリズム」を「以下のステップ:データ正規化、データのスケーリング、データ媒体変換、予測モデリング、および交差検証の1以上を実施することにより確立され」るものに限定するものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものであることが明らかである。
そして、上記第2の2(2)~(6)に示したとおり、本願補正発明は、産業上利用可能なものではなく、発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず、明確でもないから、本願補正発明は特許法第29条第1項柱書、第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明は当業者が本願補正発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明を包含する本願発明も、同様に、産業上利用可能なものではなく、発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず、明確でもないから、本願発明は特許法第29条第1項柱書、第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明は当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項柱書、第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明は当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-012140