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特許拒絶査定不服審判

2022-019872

加速回収発電機

審判番号
2022-019872
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-075069
請求日
2022年12月08日
審決日
2023年12月11日
公報発行日
2025年06月27日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】今井 直孝
審判長/審判官
  • 審判長 窪田 治彦
  • 審判官 柿崎 拓
  • 審判官 長馬 望
分類
P18 .536-Z (H02K) / P18 .1 -Z (H02K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項特許法36条4項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第1項、特許法第2条第3項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021- 75069「加速回収発電機」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年11月 9日出願公開、特開2022-169197〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 この出願は、令和3年4月27日の出願であって、令和3年10月5日に早期審査に関する事情説明書が提出され、令和3年10月11日受付の上申書及び物件提出書が提出され、この物件提出書により無反動材推進機の試作品の作動状況の動画等が記録されたマイクロSDカードが提出され、令和3年11月10日付けで拒絶の理由が通知され、令和4年1月11日に意見書及び手続補正書が提出され、令和4年1月12日付けで拒絶の理由が通知され、令和4年2月14日受付の物件提出書により無反動材推進機の試作品が3点提出され、令和4年6月3日に意見書が提出されたが、令和4年8月15日付けで拒絶査定がされ、これに対し、令和4年12月8日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 本願発明 この出願の各請求項に係る発明は、令和4年1月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1~3に係る発明(以下「本願発明1」~「本願発明3」という。)は、その請求項1~3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 錘(1)を、アーム(2)を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させ、その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に前方での高速回転、第3に減速、第4に後方での低速回転の4行程で1回転させ、そのサイクルで連続回転させ、第2の前方での高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することで電力を得、第2の高速回転、第4の低速回転の際に錘に発生する遠心力の差により推進力を得る加速回収発電機。 【請求項2】 前記、第4の後方での低速回転を省略し、前方での往復高速回転及び、両側方での減速、停止、加速行程とし、往復高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することで電力を得、往復高速回転の際に錘に発生する遠心力により推進力を得る加速回収発電機。 【請求項3】 回転盤(7)をモーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させ、その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に高速回転、第3に減速、第4に低速回転の4行程で回転させ、そのサイクルを繰り返し、第2の高速回転の際の回転盤の角速度を、定格運転角速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて回転盤の余剰エネルギーを回収することにより発電する加速回収発電機。」 第3 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由のうち、●理由1(特許法第29条第1項柱書(発明該当性))及び●理由2(特許法第36条第4項第1号(実施可能要件))は、概略、次のとおりである。 ●理由1(特許法第29条第1項柱書(発明該当性)) この出願の請求項1~3に記載されたものは、次の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。すなわち、消費電力が一定で等加速度運動を行い、運動エネルギーが加速で消費したエネルギーを上回るとの事項は、自然法則に反する。このため、請求項1~3で特定されるものは、特許法第2条第1項でいう「自然法則を利用した」ものではないため、「発明」に該当せず、特許を受けることができない。 ●理由2(特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)) この出願は、発明の詳細な説明の記載が、次の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。すなわち、発明の詳細な説明の記載では、等加速度運動で消費電力が一定であるという事象をどのように実施すればよいのかが不明であり、また、運動エネルギーが加速で消費したエネルギーを上回る状態がなぜ発生するのか不明である。よって、この出願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1~3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 第4 原査定の拒絶の理由についての判断 1 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 特許法第36条第4項第1号には、発明の詳細な説明の記載について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることと規定されているところ、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 (2)本願発明1~本願発明3について ア 本願発明1~本願発明3は、前記第2で示したとおりのものであるところ、本願発明1~本願発明3は、いずれも「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)」という事項を含む「加速回収発電機」という物の発明であるから、実施可能要件を充足するためには、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明1~本願発明3である「加速回収発電機」を生産し、使用して、「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)」ことができると当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明が記載されていることを要する。 したがって、以下、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)」ことができるかを検討する。 イ この点に関し、この出願の、令和4年1月11日に提出された手続補正書により補正された明細書の発明の詳細な説明には、次のように記載されている。なお、下線は当審で付与した。 (ア)「【背景技術】 【0002】 推進力発生装置や遠心力推進装置等、消費電力が一定で一方向力Fを発生させる装置が考案されているが、実用には至っていない。そこで、消費電力が一定で、レールに対して一方向力Fを発生させる装置、すなわちリニアモーターカーを例として説明する。リニアモーターの場合は、速度が速くなるほど磁場の変化率が大きくなるため効率が良くなるが、これを無視して消費電力が一定で、レールに対して一方向力Fを発生させる装置として説明する。 【0003】 リニアモーターカーを真空のチューブ内、即ち空気抵抗の無い状態で走行させ、時刻t=0に運転を開始するものとする。 F : リニアモーターがレールに対して発生させる力 m : リニアモーターカーの車体重量 a : リニアモーターカーの加速度 とすると F = ma で、リニアモーターカーは、運転開始から等加速度運動を始める。 【0004】 リニアモーターを消費電力が一定で、レールに対して一方向力Fを発生させる装置としているから E1 : 運転開始からの消費電力(消費エネルギー) K : 定数 t : 運転開始からの時刻 とすると E1 = Kt 運転開始からの消費電力(消費エネルギー)E1は運転開始からの時刻tの一次関数となる。 【0005】 リニアモーターカーは、運転開始から等加速度運動をしているから ν : 運転開始からt秒後のリニアモーターカーの速度 a : リニアモーターカーの加速度 t : 運転開始からの時刻 E2 : 運転開始からt秒後のリニアモーターカーの運動エネルギー m : リニアモーターカーの車体重量 とすると ν = at E2 = 1/2 mν2 = 1/2 ma2t2 運転開始からt秒後のリニアモーターカーの運動エネルギーE2は運転開始からの時刻tの二次関数となる。 リニアモーターカーの運動エネルギーと、加速で消費するエネルギーの関係を図1に示す。 【0006】 図1に示す消費エネルギーと運動エネルギーが反転する時刻t01に於けるリニアモーターカーの速度ν01 ν01 = at01 を反転速度と呼ぶ。又この時の時刻t01を反転時刻と呼ぶ。 運動エネルギーが、機械的損失・摩擦による損失・回生ブレーキによる損失等、損失分消費エネルギーより大きくなる時刻t02に於けるリニアモーターカーの速度ν02 ν02 = at02 を臨界速度と呼ぶ。又この時の時刻t02を臨界時刻と呼ぶ。 運動エネルギーが、損失+発電機出力分消費エネルギーより大きくなる時刻 t03に於けるリニアモーターカーの速度ν03 ν03 = at03 を定格運転速度と呼ぶ。又この時の時刻t03を定格運転時刻と呼ぶ。 速度0⇔定格運転速度間で加速回収を繰り返すことも可能であるが、臨界速度付近⇔定格運転速度間で加速回収を繰り返した方が、より効率的になる。定格運転速度から回収されるエネルギーを余剰エネルギーと呼ぶ。 運動エネルギーと加速に際し消費したエネルギーの比率 運動エネルギー / 消費エネルギー をエネルギー比と呼ぶ。 真空チューブ中で走行するリニアモーターカーのエネルギー比は、運転開始直後は、1以下になる。リニアモーターカーの速度が、反転速度を超えると、1以上となる。 【0007】 車輪等を備えた台車(イ)車輪等を駆動するためのモーター又は、リニアモーター(ロ)モーター又は、リニアモーターの電源となる蓄電池(ハ)運動エネルギーを回収するための回生ブレーキ(ニ)加速回収を制御するための制御装置(ホ)以上で構成された装置を、真空容器又は、減圧容器内に設置された直線、曲線或いは、円状の路面又は、軌道(ヘ)上で定格運転速度まで加速し、余剰エネルギーの回収を繰り返すことにより発電が可能となる。」 (イ)「【0008】 推進力発生装置や遠心力推進装置等、消費電力が一定で一方向力Fを発生させる装置が考案されているが、実用には至っていない。ここでは、これら消費電力が一定で、一方向力Fを発生させる装置を無反動材推進機と呼ぶ。 無反動材推進機とは、錘(1)を、アーム(2)を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる。その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に前方での高速回転、第3に減速、第4に後方での低速回転の4行程で1回転させ、そのサイクルで連続回転させる。その際の前後の遠心力差を推進力として得る装置である。又は、第4の後方での低速回転を省略し、前方での往復高速回転及び、両側方での減速、停止、加速行程とし、遠心力を推進力として得る装置である。これらのサイクルを図1と図2に示す。 第2の前方での高速回転又は、往復高速回転の際の錘の速度を定格運転速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収すれば、推進力と電力が得られる。 r : 錘の回転半径 とすると 錘が定格運転速度ν03に達した時の角速度ω03 ω03 = ν03/r を定格運転角速度と呼ぶ。 【0009】 錘(1)を、アーム(2)を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる。その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に前方での高速回転、第3に減速、第4に後方での低速回転の4行程で1回転させ、そのサイクルで連続回転させる。第2の前方での高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することで電力が得られ、第2の高速回転、第4の低速回転の際に錘に発生する遠心力の差により推進力が得られる。 【0010】 前記、第4の後方での低速回転を省略し前方での往復高速回転及び、両側方での減速、停止、加速行程とし、往復高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することにより電力が得られ、往復高速回転の際に錘に発生する遠心力により推進力が得られる。 【0011】 回転盤(7)をモーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる。その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に高速回転、第3に減速、第4に低速回転の4行程で回転させ、そのサイクルを繰り返す。第2の前方での高速回転の際の回転盤の角速度を定格運転角速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて回転盤の余剰エネルギーを回収すれば電力が得られる。」 (ウ)「【発明を実施するための形態】 【0017】 無反動材推進機の錘の角速度を、定格運転角速度とし、加速回収を繰り返すことにより静粛な推進力と電力を得る。 【0018】 モーター等に取付けた回転盤の最高角速度を、定格運転角速度とし、加速回収を繰り返すことにより、発電する。 【実施例1】 【0019】 錘(1)を、アーム又は、ガイドレール(2)を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる。その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に前方での高速回転、第3に減速、第4に後方での低速回転の4行程で1回転させ、そのサイクルで連続回転させる。第2の前方での高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することで電力が得られ、第2の高速回転、第4の低速回転の際に錘に発生する遠心力の差により推進力が得られる。 【実施例2】 【0020】 前記、第4の後方での低速回転を省略し、前方での往復高速回転及び、両側方での減速、停止、加速行程とし、往復高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することにより電力が得られ、往復高速回転の際に錘に発生する遠心力により推進力が得られる。 【実施例3】 【0021】 回転盤(7)をモーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる。その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に高速回転、第3に減速、第4に低速回転の4行程で回転させ、そのサイクルを繰り返す。第2の高速回転の際の回転盤の角速度を定格運転角速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて回転盤の余剰エネルギーを回収すれば、電力が得られる。」 ウ これらの記載によると、まず、前記イ(ア)において、リニアモーターカーを例に、リニアモーターが、消費電力が一定で、レールに対して一方向力Fを発生させる装置であるとして説明しており(段落【0002】)、リニアモーターカーが、運転開始から等加速度運動する際、運転開始からの消費電力(消費エネルギー)E1は時刻tの一次関数となり、運転開始からt秒後の運動エネルギーE2は時刻tの二次関数となること(段落【0003】~【0005】)から、消費エネルギーE1と運動エネルギーE2が反転する反転時刻t01以降は、運動エネルギーE2が消費エネルギーE1よりも大きくなることが、図1を示しつつ説明されている。そして、運動エネルギーE2が、損失+発電機出力分消費エネルギーより大きくなる定格運転時刻t03に於ける定格運転速度ν03まで加速し、余剰エネルギーと呼ばれるエネルギーを回収することを繰り返すことにより発電が可能になること(段落【0006】、【0007】)が記載されている。 次に、前記イ(イ)において、「錘(1)を、アーム(2)を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる」装置についても、消費電力が一定で、一方向力Fを発生させる装置(無反動材推進機)としており(段落【0008】)、錘の速度を定格運転速度とし、減速の際に錘の余剰エネルギーを回収すれば、電力が得られること(段落【0008】)が記載されている。そして、錘が定格運転速度ν03に達した時の角速度ω03を定格運転角速度と呼ぶ(段落【0008】)とした上で、段落【0009】に本願発明1の特定事項に対応する事項、段落【0010】に本願発明2の特定事項に対応する事項、段落【0011】に本願発明3の特定事項に対応する事項が記載されており、それぞれ「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力が得」られる旨が記載されている。 そして、前記イ(ウ)には、発明を実施するための形態が記載され、無反動材推進機の錘の角速度を、定格運転角速度とし、加速回収を繰り返すことにより静粛な推進力と電力を得ること(段落【0017】)、モーター等に取付けた回転盤の最高角速度を、定格運転角速度とし、加速回収を繰り返すことにより、発電すること(段落【0018】)が記載され、段落【0019】~段落【0021】には、実施例1~実施例3として、それぞれ本願発明1~本願発明3の特定事項と同様の事項が記載されており、ここでも「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力が得」られる旨が記載されている。 エ 以上を踏まえると、発明の詳細な説明の記載は、リニアモーターが、消費電力が一定で、レールに対して一方向力Fを発生させる装置であり、リニアモーターカーを等加速度運動させる際、消費エネルギーE1が時刻tの一次関数となり、運転開始からt秒後の運動エネルギーE2が時刻tの二次関数となることから、反転時刻t01以降は、運動エネルギーE2が消費エネルギーE1よりも大きくなることを前提に、リニアモーターカーにおいて、定格運転速度ν03まで加速し、減速の際に余剰エネルギーを回収することで電力を得ることができるとしており、同じく、消費電力が一定で、一方向力Fを発生させる装置(無反動材推進機)である「錘(1)を、アーム(2)を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる」装置についても、錘が定格運転速度ν03に達した時の角速度ω03を定格運転角速度とした上で、リニアモーターカーと同様の原理により、「高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘の余剰エネルギーを回収することで電力が得」られるとしていると解される。また、「回転盤(7)をモーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる」装置についても、同様の原理により、電力が得られるとしていると解される。 オ しかしながら、リニアモーターカーを等加速度運動させた際、空気抵抗がない等の理想状態であれば、運転開始からt秒後の運動エネルギーE2は時刻tの二次関数になるとしても、消費エネルギーE1は時刻tの一次関数とはなり得ないから、運動エネルギーE2が消費エネルギーE1よりも大きくなることもなく、前記した前提には誤りがある。 すなわち、リニアモーターカーが等加速度運動する際、運転開始からt秒後の運動エネルギーE2は、発明の詳細な説明の段落【0005】に記載されているように、以下の式(時刻tの二次関数)で表すことができるが、 E2 =1/2 ma2t2 ・・・式(1) a : リニアモーターカーの加速度 t : 運転開始からの時刻 m : リニアモーターカーの車体重量 一般に、物体の運動エネルギーの変化は、物体がされた仕事に等しいから、リニアモーターカーの運転開始(運動エネルギー0の状態)からt秒後までの運動エネルギーの変化を示す、前記運動エネルギーE2は、リニアモーターカーが運転開始からt秒後までにされた仕事により生じたものである。 そして、ここでいう仕事とは、一直線上で物体に一定の大きさの力Fをはたらかせて、その力Fの向きに距離xだけ動かすとき、Fとxの積をその力Fのした仕事Wというものであり、リニアモーターカー(物体)が等加速度運動する際、リニアモーターカー(物体)が運転開始からt秒後までにされた仕事Wは、以下の式で表すことができる。 W = Fx ・・・式(2) F : リニアモーターカーにはたらく力 x : 運転開始からt秒後までにリニアモーターカーが移動した距離 ここで、式(2)の右辺のFについて、リニアモーターカーは等加速度運動をしているから、リニアモーターカーの加速度a及びリニアモーターカーの車体重量mはともに定数であり、運動方程式(F=ma(段落【0003】参照。))により、リニアモーターカーにはたらく力Fは一定である。次に、式(2)の右辺のxについて、やはりリニアモーターカーは等加速度運動をしているから、運転開始からt秒後のリニアモーターカーの速度は、ν = atで表され(段落【0005】参照。)、時間の経過とともに時刻tの一次関数として増加する。そして、運転開始からt秒後までにリニアモーターカーが移動した距離xは、前記速度νを積分した、以下の式で表され、 x =1/2 at2 ・・・式(3) 時間の経過とともに時刻tの二次関数として増加する。 すると、リニアモーターカーが運転開始からt秒後までにされた仕事Wは、式(2)に式(3)を代入して、以下の式で表すことができる。 W =1/2 Fat2 ・・・式(4) そうすると、式(1)で表される運動エネルギーE2を生じさせた、リニアモーターカーが運転開始からt秒後までにされた仕事Wは、時刻tの二次関数で表され、一次関数とはならない。 カ したがって、リニアモーターカーを等加速度運動させ、式(1)で表される運動エネルギーE2を生じさせるには、リニアモーターカーは、時刻tの二次関数で表される仕事Wをされる必要があるから、リニアモーターカーの運転開始からの消費電力(消費エネルギー)E1も時刻tの二次関数として増加させる必要があり、消費電力は一定とならない。 そして、仮に、発明の詳細な説明に記載されているように(前記イ(ア)参照。)、運転開始からの消費電力(消費エネルギー)E1を時刻tの一次関数とした場合(消費電力を一定とした場合)には、リニアモーターカーがされる仕事Wも時刻tの一次関数となるから、等加速度運動をすることはなく、式(1)で表される運動エネルギーE2が生じることもない。 キ すると、反転時刻t01以降、運動エネルギーE2が消費エネルギーE1よりも大きくなる状態がなぜ生じるのか不明である。 むしろ、式(4)に、運動方程式(F=ma(段落【0003】参照。))を代入することより、次の式が得られ、 W =1/2 ma2t2 ・・・式(5) 式(1)と式(5)により、 E2 =W =1/2 ma2t2 が導き出せるように、リニアモーターカーが等加速度運動する際、運転開始からt秒後の運動エネルギーE2は、リニアモーターカーが運転開始からt秒後までにされた仕事Wと等しいものである。 そして、リニアモーターカーが該仕事Wをされるには、リニアモーターカーの運転開始からの消費電力(消費エネルギー)E1を、該仕事Wと等しくする必要がある。 すると、運動エネルギーE2と消費エネルギーE1とは等しいといえ、このことは、エネルギー保存の法則とも合致するものである。 ク そうすると、発明の詳細な説明の記載から把握される、リニアモーターカーを等加速度運動させる際、消費エネルギーE1が時刻tの一次関数となり、運転開始からt秒後の運動エネルギーE2が時刻tの二次関数となることから、反転時刻t01以降は、運動エネルギーE2が消費エネルギーE1よりも大きくなるという前提には誤りがある。すると、リニアモーターカーにおいて、運動エネルギーE2が、損失+発電機出力分消費エネルギーより大きくなる定格運転時刻t03なる時刻や、その時刻における定格運転速度ν03なる速度も存在しないこととなり、この定格運転速度ν03まで加速し、減速の際に回収される余剰エネルギーも存在しないこととなるから電力を得ることはできない。 ケ また、リニアモーターカーと同様の原理により、電力が得られるとしている「錘(1)を、アーム(2)を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる」装置、及び「回転盤(7)をモーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる」装置についても、前記クに示したように、リニアモーターカーを例として説明した電力を得る原理に誤りがあり、定格運転速度ν03なる速度や、余剰エネルギーが存在しないことと同様に、定格運転角速度ω03なる速度や、余剰エネルギーは存在しないといえ、「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)」ことはできない。 コ 以上によると、この出願の発明の詳細な説明には、「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)」ことができる理由や、その理論的又は実験的な裏付けが記載されているとはいえず、また、このように電力を得る(あるいは発電する)ことができることを、当業者が、この出願の出願時における技術常識から把握できるともいえない。 そうすると、当業者といえども、発明の詳細な説明の記載及びこの出願の出願時の技術常識に基づいて、本願発明1~本願発明3の「加速回収発電機」を、「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)」ことができるように、生産し、使用することができるとはいえない。 (3)審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の「●理由2(特許法第36条第4項第1号(実施可能要件))」において、「“消費電力が一定で一方向力Fを発生させる装置”の試作品を提出しております。」と主張しているが、令和4年2月14日受付の物件提出書により提出された無反動材推進機の試作品をみても、その作動状況から、運動エネルギーE2が消費エネルギーE1よりも大きくなる定格運転時刻t03における定格運転角速度ω03が存在し、錘の角速度を該定格運転角速度ω03として、減速の際に錘の余剰エネルギーを回収して電力を得ていることは把握できない。 したがって、審判請求人の主張は採用できない。 (4)まとめ 以上のとおり、この出願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1~本願発明3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。 2 特許法第29条第1項柱書(発明該当性)について (1)本願発明1~本願発明3について ア 本願発明1~本願発明3は、前記第2で示したとおりのものであるところ、本願発明1~本願発明3は、いずれも「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)」という事項を含むものである。 そして、このように電力を得る(あるいは発電する)ための原理は、前記1(2)エに記載したように、リニアモーターカーを等加速度運動させる際、消費エネルギーE1が時刻tの一次関数となり、運転開始からt秒後の運動エネルギーE2が時刻tの二次関数となることから、反転時刻t01以降は、運動エネルギーE2が消費エネルギーE1よりも大きくなることを前提に、リニアモーターカーにおいて、定格運転速度ν03まで加速し、減速の際に余剰エネルギーを回収することで電力を得ることができるという原理と同様のものと解される。 しかしながら、前記1(2)キに示したように、エネルギー保存の法則に従うと、リニアモーターカーが等加速度運動する際、運転開始からt秒後の運動エネルギーE2は、消費エネルギーE1と等しくなるから、運動エネルギーE2が消費エネルギーE1よりも大きくなるという前記した前提は、エネルギー保存の法則に反するものである。 すると、本願発明1~本願発明3の「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)」という事項における電力を得る(あるいは発電する)ための原理は、エネルギー保存の法則に反する事項を前提としており、本願発明1~本願発明3は自然法則に反するものである。 なお、本願発明1~本願発明3が、エネルギー保存の法則に反するものである点は、令和4年6月3日に提出された意見書の「●理由1(発明該当性)について(2-1)」に、「自然法則に反するのではなく、「エネルギー保存の法則」に反するだけです。」と記載され、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の「●理由1(特許法第29条第1項柱書(発明該当性)」に、「本出願は新たに発見された“余剰エネルギー”を利用して発電する発電機に関する発明であります。“余剰エネルギー”の存在は、段落0002~0005において理論上明確に示されています、段落0002~0005の理論に反論できない限り、否定されるのは「エネルギー保存の法則」です。」と記載されていることからみて、審判請求人も認めているものである。 (2)審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の「●理由1(特許法第29条第1項柱書(発明該当性))」において、「段落0002~0005に示される理論への“反論”を求めます。」と主張しているが、発明の詳細な説明の段落【0002】~【0005】の記載に誤りがあることは、前記1(2)オ~クに記載したとおりである。 したがって、審判請求人の主張は採用できない。 (3)まとめ そうすると、本願発明1~本願発明3は、特許法第2条第1項でいう「自然法則を利用した」ものではないため、特許法第29条第1項柱書に規定される「発明」に該当しない。 第5 むすび 以上のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明1~本願発明3は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。 そうすると、この出願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-019872

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