特許拒絶査定不服審判
2020-013212
放射性医薬品錯体
- 審判番号
- 2020-013212
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-222522外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年09月23日
- 審決日
- 2022年06月09日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ルミフォア,インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】稲葉 良幸
- 【請求人代理人】大貫 敏史
- 【請求人代理人】江口 昭彦
- 【請求人代理人】内藤 和彦
- 分類
- P18 .121-Z (C07K) / P18 .537-Z (C07K) / P18 .561-Z (C07K) / P18 .572-Z (C07K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法49条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第5項、特許法第49条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-222522「放射性医薬品錯体」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月 4日出願公開、特開2019- 52164〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願(特願2018-222522号)は、2010年12月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年12月24日(US)米国)を国際出願日とする特願2012-546241号の一部を、平成29年3月6日に新たな特許出願とした特願2017-41620号の一部を、平成30年11月28日に新たな特許出願としたものであって、
平成30年12月26日付けで上申書の提出がなされるとともに手続補正(以下「第1補正」ともいう。)がなされ、令和元年9月19日付けの拒絶理由通知に対して、指定期間内に応答がなされず、
令和2年5月18日付けの拒絶査定に対して、令和2年9月23日付けで審判請求がなされると同時に手続補正(以下「第2補正」ともいう。)がなされ、その後、令和2年10月2日付けで手続補正書(方式)及び手続補足書の提出がなされたものである。
第2 第2補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和2年9月23日付けの手続補正を却下する。
〔理由〕
1.補正の内容
第2補正は、第1補正による補正後の請求項1の
「【請求項1】
(a)放射性核種と、(b)(i)複数のキレート部分、(ii)リンカー、及び(iii)母核部分を含む、前記放射性核種を錯化するキレーターとを含む錯体であって、
前記キレーターが以下の構造:
【化1】
[図:0001390023000001.jpg]
(式中、L1、L2、L4及びL5は、独立に未置換のアルキルであり;
L3は―L11―Xでのみ置換されているアルキルであり;
L11は、置換又は未置換のアルキル、置換又は未置換のヘテロアルキル、置換又は未置換のシクロアルキル、置換又は未置換のヘテロシクロアルキル、及び置換又は未置換のアリールから選択され;
Xは、反応性官能基又はターゲティング部分であり;
前記反応性官能基は、NH2、COOH、N―ヒドロキシベンズトリアゾールエステル、酸ハロゲン化物、アシルイミダゾール、チオエステル、p―ニトロフェニルエステル、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族エステル、N―ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、硫黄―NHSエステル、マレイミド、及びイソチオシアネートから選択され;
前記ターゲティング部分はペプチド、ポリペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、脂質、多糖、補因子、及びホルモンから選択され;
各R1は、独立にH及び陰電荷から選択され;
各R9は、独立にH及び未置換のアルキルから選択される)
を有する、錯体。」との記載を、
「【請求項1】
放射性核種と、以下の構造:
【化1】
[図:0001390023000002.jpg]
(式中、L3は―L11―X1でのみ置換されているアルキルであり;
L11は、置換のアルキル、及び置換のアリールから選択され;
X1は、NH2、COOH、N―ヒドロキシベンズトリアゾールエステル、酸ハロゲン化物、アシルイミダゾール、チオエステル、p―ニトロフェニルエステル、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族エステル、N―ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、硫黄―NHSエステル、マレイミド、及びイソチオシアネート、並びに抗体から選択される)
を有するキレーターとの錯体。」との記載に改める補正を含むものである。
2.補正の適否
(1)目的要件について
上記請求項1についての補正は、補正前の【化1】の構造式の記載を、補正後の【化1】の構造式の記載に改めるとともに、補正前の「式中、L1、L2、L4及びL5は、独立に未置換のアルキルであり;」との記載にある「L1、L2、L4及びL5」の定義に関する記載を削除する補正(以下「改変補正」という。)を含むものであって、この「改変補正」により、補正前の「L2」及び「L4」に対応する化学構造が「-CH2-CH2-」という化学構造のものに限定されるとともに、補正前の「L1」及び「L5」に対応する化学構造が「-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-」という化学構造のものに改変されている。
しかして、補正前の「式中、L1、L2、L4及びL5は、独立に未置換のアルキルであり;」との記載に照らして、補正後の「-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-」という化学構造が「未置換のアルキル」に対応しないことは明らかなので、当該「改変補正」が、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当するとは認められない。
また、補正前の「式中、L1、L2、L4及びL5は、独立に未置換のアルキルであり;」との記載に「誤記」は見当たらず、当該記載が「不明瞭」である旨の拒絶理由も示されていないので、当該「改変補正」が、同3号の「誤記の訂正」又は同4号の「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに該当するとは認められない。
さらに、当該「改変補正」によって「請求項の削除」がなされるとはいえないので、当該「改変補正」が、同1号に掲げる「第三十六条第五項に規定する請求項の削除」を目的とするものに該当するとは認められない。
したがって、当該「改変補正」を含む第2補正は、目的要件を満たすものではなく、特許法第17条の2第5項の規定に違反する。
(2)新規事項の導入について
本願の外国語書面の翻訳文(以下「当初明細書等」という。)の段落0087には「L1、L2、L4、L5及びR31は、独立に、置換又は未置換のアルキル、置換又は未置換のヘテロアルキル、置換又は未置換のシクロアルキル、置換又は未置換のヘテロシクロアルキル、置換又は未置換のアリール、及び置換又は未置換のヘテロアリールから選択される。」との記載箇所があり、上記「改変補正」において、補正前の「L1」及び「L5」に対応する化学構造を「-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-」という化学構造のものに改める補正は、当該「記載箇所」の「置換のアルキル」又は「未置換のヘテロアルキル」に相当する化学構造の下位概念化の補正と解することができる(下線は当審による。以下同じ。)。
しかして、当該「記載箇所」に「L1、L2、L4、L5及びR31」の各々が「独立」して各種の置換構造を取り得る旨の記載がなされているとしても、当初明細書等の段落0149~0151に記載されるスキーム1.1~1.4の合成経路は、いずれも「L1、L2、L4及びL5」の各々が一様に「-CH2-CH2-」という化学構造を有する場合のものに限られており、上記「-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-」という化学構造についての具体的な記載も見当たらず、当該「L1、L2、L4及びL5」の一部のみを「-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-」とした第2補正による補正後の「キレーター」が、当業者にとって当初明細書等に記載されているに等しいといえる合理的な理由や技術常識の存在も見当たらない。
してみると、上記「改変補正」で導入された技術的事項は、補正後の【化1】の構造式の記載において、L1とL5の置換基の種類と、L2とL4の置換基の種類とを、相互に異なる種類のものとしている点、並びにL1とL5の置換基の種類を当初明細書等に具体的な記載のないものにしているという点、の2つの観点からみて『当業者によって,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において ,新たな技術的事項を導入しないものであるとき』に該当するとはいえない。
したがって、当該「改変補正」を含む第2補正は、新規事項を導入するものであり、特許法第17条の2第3項に違反する。
(3)補正の適否のまとめ
以上総括するに、第2補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。
第3 本願発明について
第2補正は上記のとおり却下されたところ、本願は、その発明の名称を「放射性医薬品錯体」とするものであって、第1補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~10のうち、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」ともいう。)は、上記第2 2.に示した「第1補正による補正後の請求項1」に示したとおりのものである。
第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は「この出願については、令和1年9月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
そして、令和元年9月19日付けの拒絶理由通知書には、次の理由1~3の理由が示されている。
「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(進歩性)について
・請求項1~10
・引用文献等1~7…
●理由2(明確性)について
・請求項1~10…
(4)請求項1の[化1]の構造式中「X1」と、式の定義中「X」とは表記が異なるから、同請求項の[化1]の構造が不明瞭である。
●理由3(サポート要件)について
・請求項1~10…
発明の詳細な説明に、錯体の構造と放射性医薬品として使用されることに関する理論的な説明は一切記載されておらず、放射性医薬品として使用されることと化合物の構造が密接に関連するとの技術常識を考慮するに、上記具体例に基づいて、請求項1の錯体が放射性医薬品として使用されることを当業者が理解できるということはできない。…
<引用文献等一覧>
1.米国特許第5624901号明細書…
5.国際公開第2008/063721号(周知技術を示す文献)
6.特表2003-523312号公報(周知技術を示す文献)」
第5 当審の判断
1.理由2(明確性)について
原査定の2.(4)で指摘された「請求項1の[化1]の構造式中「X1」と、式の定義中「X」とは表記が異なるから、同請求項の[化1]の構造が不明瞭である。」という記載不備の指摘について、令和2年10月2日付けの手続補正により補正された審判請求書の「(4-2)理由2(明確性)について」の項の「・項目(4)について」の項において、審判請求人は「本拒絶理由につきましては、[化1]の構造式と対応するよう、請求項1に記載のXを『X1』に置き換える補正を行いました。」と主張している。
しかしながら、第2補正は上記のとおり却下されたところ、本願請求項1の記載は、原査定の2.(4)に指摘の不備を有するものであり、適法な手続補正もなされていないことから、本願請求項1の記載は「第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確」であるといわざるを得ない。
なお、令和2年10月2日付けの手続補正により補正された審判請求書の(5)において、審判請求人は「上記説明及び補正によって原査定の拒絶理由は全て解消している。よって、原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求めます。」と主張するが、第2補正は、上記のとおり却下されているので、原査定の拒絶の理由が全て解消しているとはいえず、審判請求人の上記主張は採用できない。
したがって、本願請求項1及びその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
2.理由1(進歩性)について
(1)引用文献1及び5~6の記載事項
ア 引用文献1(米国特許第5624901号明細書)には、和訳にして、次の記載がある。
摘記1a:第1欄第20~27行
「本発明は、概して、高効率且つ注射及び経口での投与に際して低毒性の改良された治療用の金属キレート化剤であって、HOPO環のヒドロキシ基又はオキソ基に対してオルト位の環上炭素原子に置換したカルボニル基を有する1-ヒドロキシ-2-ピリジノン(1,2-HOPO)及び3-ヒドロキシ-2-ピリジノン(3,2-HOPO)部分を組み込んだキレート化剤に関連する。」
摘記1b:第2欄第51~53行、第11欄第31~56行、及び第21欄第2~4行
「ヒドロキシピリジノン(“HOPO”)は、これらのリガンドが選択的に鉄及びアクチノイドイオンに対して高い親和性を示すという点において特に興味深い。…
4つの3,2-HOPO構造単位を組み込んだ本発明により提供される8配位キレート化剤は、式14によって与えられる。このデザインは、本発明者らによって開発された“H”形態の四面体トポロジーとともにシデロフォア類似体を基礎としている。これらのキレート化剤は、その好ましい高い配位数(8以上)に起因して、結合アクニチド(IV)イオンに特に適している。
[図:0001390023000003.jpg]
式14において、R1は式9の単量体について述べたものと同様であり、m及びnの各々は1~4の整数である。…
これらの化合物は、Fe3+、Gd3+、Am3+、Pu4+のような各種の金属イオンと安定な錯体を形成する。」
摘記1c:第26欄第56~60行
「実施例12 N,N,N’,N’-テトラキス〔(3-ヒドロキシ-1-メチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-4-イル)カルボキシアミド-エチル〕-エチレン-ジアミン(H(2,2)-Me-3,2-HOPO,式14,m=n=2)」
摘記1d:請求項20
「20.キレート化剤
[図:0001390023000004.jpg]
」
イ 引用文献5(国際公開第2008/063721号)には、和訳にして、次の記載がある。
摘記5a:段落0003~0004
「[0003]本発明は、ルミネッセントマーカーとして有用な大環状リガンドおよびそのランタニド錯体、ならびに本発明のリガンドおよび錯体を使用する方法に関する。…
[0004]研究や診断用の混合物における検体としての化学的、生化学的および生物学的物質を検出および定量化する迅速かつ高度に特異的な方法の必要性が引き続き増している。特に価値のあるものは、少量の核酸、ペプチド、調合薬、代謝産物、微生物および診断価値のある他の物質を測定するための方法である。そのような物質の例には、小分子生体活性物質(例えば、麻薬および毒物、治療目的で投与される薬物、ホルモン)、病原微生物およびウイルス、抗体ならびに酵素および核酸、特に疾患の状態に関わるものが含まれる。」
摘記5b:段落0081~0082及び0095
「[0081]1つの例示的な実施形態では、本発明の化合物(例えば、リガンド3)は官能性部分を用いて誘導体化される。官能性部分は、例えば、リンカー単位の1つまたはビルディングブロックの1つと結合することができる。2つ以上の官能部分を用いる場合、それぞれは、利用できる結合部位のどれとも結合することができる。
[0082]例示的実施形態では、官能性部分は以下の構造を有する。
[図:0001390023000005.jpg]
ただし、L11は、置換または非置換アルキル、置換または非置換ヘテロアルキル、置換または非置換ヘテロシクロアルキル、置換または非置換アリールおよび置換または非置換ヘテロアリールから選択されるメンバーであるリンカー部分であり、Xは反応性官能基および標的部分から選択されるメンバーである。…
[0095]実施形態では、官能性部分は反応性官能基Xを含み、これは、錯化剤を他の分子と共有結合により結合させるのに用いることができる。他の例示的実施形態では、他の分子は生体分子である。他の例示的実施形態では、他の分子は小分子リガンド、ペプチド、タンパク質、酵素、抗体、抗原、核酸、炭水化物、脂質および薬理学的に活性な分子である。あるいは、反応性官能基は、リガンドをいかなる種類のナノ粒子に結合させるのにも使用することができる。」
摘記5c:段落0147
「[0147]スキーム5は、化合物10を合成するための例示的方法の概要を示す。
[図:0001390023000006.jpg]
」
ウ 引用文献6(特表2003-523312号公報)には、次の記載がある。
摘記6a:段落0002
「【0002】…研究および診断用混合物に含まれる分析物としての化学物質、生化学物質、生物物質を検出して定量化するための迅速で極めて特異的な方法が、これまでも要求されてきたし、現在もますます要求されるようになっている。」
摘記6b:段落0164~0165
「【0164】リンカー・アームは、キレート剤の骨格に結合させることもできる。例えば合成経路図5(図11)において、末端がアミンであるリンカー・アームが骨格と一体化しているようなリンカー・アームを有するキレート剤が調製される。
【0165】上記の合成経路は本発明の実施態様のいくつかを具体的に示すことを目的としたものであり、当業者であれば、不適当な実験手段を用いることなく、本発明のリガンドを生成させる他の多くの合成経路が利用できることがわかるであろう。」
摘記6c:図11
「【図11】
[図:0001390023000007.jpg]
」
(2)引用文献1に記載された発明
摘記1a~1cの記載からみて、引用文献1には、
『次式で表されるキレート化剤であって、
[図:0001390023000008.jpg]
Fe3+、Gd3+、Am3+、Pu4+のような各種の金属イオンと安定な錯体を形成するキレート化剤。』についての発明(以下「引1発明」という。)が記載されているといえる。
(3)対比
本願請求項1の記載は上記1.に示したように不明確であるが、その「-L11-X」との記載における「X」が「X1」の誤記であると解した上で、本願発明と引1発明とを対比する。
先ず、引1発明の「Am3+、Pu4+のような各種の金属イオンと安定な錯体を形成するキレート化剤」は、その「Am3+、Pu4+」が放射性核種であることが明らかであることから、本1発明の「放射性核種を錯化するキレーター」に相当する。
次に、引1発明の「次式で表されるキレート化剤」の化学構造は、本願発明の【化1】において、L1、L2、L4及びL5が未置換のアルキル(エチレン基)であり;L3が未置換のアルキル(エチレン基)であり;各R1がHであり;各R9が未置換のアルキル(メチル基)」のものに相当し、
摘記1cの「N,N,N’,N’-テトラキス〔(3-ヒドロキシ-1-メチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-4-イル)カルボキシアミド-エチル〕-エチレン-ジアミン」という化合物名を参酌するに、
そのうちの4つの「(3-ヒドロキシ-1-メチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-4-イル)」が、本願発明(本願明細書の段落0066参照)の「(i)複数のキレート部分」に相当し、
残余の「N,N,N’,N’-テトラキス〔(・・・)カルボキシアミド-エチル〕-エチレン-ジアミン」部分が、本願発明(本願明細書の段落0087参照)の「(iii)母核部分」に相当する。
してみると、本願発明と引1発明は、
『(b)(i)複数のキレート部分、及び(iii)母核部分を含む、放射性核種を錯化するキレーターであって、前記キレーターが以下の構造:
[図:0001390023000009.jpg]
(式中、L1、L2、L4及びL5は、独立に未置換のアルキルであり;各R1は、独立にH及び陰電荷から選択され;各R9は、独立にH及び未置換のアルキルから選択される)
を有する。』という点において一致し、次の(α)及び(β)の点において相違するといえる。
(α)式中の「L3」が、本1発明においては「L3は―L11―X1でのみ置換されているアルキル」と解される構成における「―L11―X1」で示される「(ii)リンカー」を有し、当該「リンカー」が「L11は、置換又は未置換のアルキル、置換又は未置換のヘテロアルキル、置換又は未置換のシクロアルキル、置換又は未置換のヘテロシクロアルキル、及び置換又は未置換のアリールから選択され;X1は、反応性官能基又はターゲティング部分であり;前記反応性官能基は、NH2、COOH、N―ヒドロキシベンズトリアゾールエステル、酸ハロゲン化物、アシルイミダゾール、チオエステル、p―ニトロフェニルエステル、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族エステル、N―ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、硫黄―NHSエステル、マレイミド、及びイソチオシアネートから選択され;前記ターゲティング部分はペプチド、ポリペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、脂質、多糖、補因子、及びホルモンから選択され;」るものであるのに対して、引1発明は「未置換のアルキル」に相当するといえる「-CH2-CH2-」の連結基であって、上記「―L11―X1」で表される「(ii)リンカー」に相当するものを有していない点。
(β)本願発明は、(b)のキレーターの他に、(a)の放射性核種を含む錯体であるのに対して、引1発明は、(b)のキレーターのみであって、(a)の放射性核種を含む錯体ではない点。
(4)判断
ア.相違点(α)について
引用文献1に記載された発明は、具体的には「治療用の金属キレート化剤」に関するものであるところ(摘記1a)、
引用文献5には、治療目的で投与される薬物において、-L11-Xで示されるリンカー単位(L11は、置換または非置換アルキルなどのメンバーであり、Xは反応性官能基および標的部分から選択されるメンバーであり、ペプチド、核酸、脂質などである。)を所定の位置に用いて誘導体化することが記載され(摘記5a~5c)、
引用文献6には、診断用の化学物質において、末端がアミンなどであるリンカー・アームを、キレート剤の骨格の所定位置に結合させることが記載されている(摘記6a~6c)。
してみると、医療用途のキレート化剤の技術分野において、キレーターの所定位置に反応性官能基や標的部分を末端に有するリンカー単位を用いて誘導体化することは、引用文献5~6に記載されるように普通に知られているから、引1発明のキレート化剤の所定位置に、引用文献5~6に記載される化学構造のリンカー単位を導入することは、その組み合わせに動機付けがあり、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。
イ.相違点(β)について
引1発明は「Am3+、Pu4+のような各種の金属イオンと安定な錯体を形成するキレート化剤」に関するものであるから、引1発明のキレート化剤を用いて、Am3+、Pu4+のような放射性核種を含む錯体の構成にすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。
ウ.本願発明の効果について
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の具体例についての記載がないところ、本願発明の範囲に含まれる全ての「錯体」について、格別の効果があると認めるに足る具体的な根拠は見当たらない。そして、医療用途のキレート化剤にリンカー単位を導入することの効果、及び「安定な錯体を形成」するとされるキレート化剤を用いて錯体とすることの効果が、当業者にとって格別予想外の効果であるとも認められない。
エ.まとめ
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明、並びに引用文献5及び6に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.理由3(サポート要件)について
(1)一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)又は特許権者(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。そうであれば,発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開示せず,本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに,特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって,その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し,明細書のサポート要件に適合させることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。』とされているところ〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕、このような観点からサポート要件の適否を検討する。
(2)ここで、本願請求項1の記載は、上記第2 2.に示した「第1補正による補正後の請求項1」に示したとおりのものであって、なおかつ、上記1.に示したように不明確であるが、上記2.(3)と同様に、その「-L11-X」との記載における「X」が「X1」の誤記であると解した上で、本願請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比する。
(3)先ず、本願明細書の段落0007の記載を含む発明の詳細な説明の全ての記載からみて、本願発明の解決しようとする課題は『放射性医薬品としての使用に特に適している新規のキレート剤及び錯体の提供』にあるものと認められる。
(4)そして、本願明細書の段落0155~0183に記載された実施例1~8のものは、本願発明の特定のキレーターを用いた錯体に関するものではないので、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の範囲が単なる憶測ではなく、実験結果に裏付けられたものであることを明らかにする具体例の記載が皆無であり、本願発明の範囲に含まれるもの全てが、上記『放射性医薬品としての使用に特に適している新規のキレート剤及び錯体の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとはいえない。
(5)また、本願明細書の段落0150~0151には、引用文献5のスキーム5(摘記5c)などに一致する合成経路が記載されているが、本願明細書に記載されたスキーム1.1~1.4の合成経路は、本願発明のような1,2-ヒドロキシピリジノン系リガンド(1,2-HOPO)に関するものではなく、このような合成経路に関する記載それ自体は、放射性医薬品としての効果(有用性)を裏付けるものではない。してみると、当該「合成経路に関する記載」によっては、本願発明の範囲に含まれるもの全てが、上記『放射性医薬品としての使用に特に適している新規のキレート剤及び錯体の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとはいえない。
(6)さらに、本願発明の「式中、L1、L2、L4及びL5は、独立に未置換のアルキルであり;」という広範な範囲について、例えば、令和2年10月2日付けの手続補足書に添付された参考資料2の図1のように、当該「L1、L2、L4及びL5」のいずれもが、炭素数2の未置換アルキル基である場合には、放射性核種(トリウム-227)を錯化するキレーターとして機能し得ると認識できるかもしれないが、そもそも特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することは特許制度の趣旨に反し許されないというべきであるし、当該「L1、L2、L4及びL5」の各々が「独立」して、炭素数の異なる「未置換のアルキル」である場合(例えば、炭素数1のものと炭素数が1を超えるものとが混在する場合など)は、キレート部分などの化学構造の対称性が大きく損なわれるため、当業者が出願時の技術常識に照らしても、放射性核種を安定して錯化できるキレーターとして機能し得るとは解せない。
(7)したがって、本願請求項1及びその従属項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願請求項1及びその従属項の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第49条第2号の「その特許出願に係る発明が第29条の規定により特許をすることができないものであるとき」及び、同4号の「その特許出願が第36条第6項に規定する要件を満たしていないとき」に該当するから、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-013212