特許拒絶査定不服審判
2024-018479
硫黄を注入する方法およびその結果として生じる組成物
- 審判番号
- 2024-018479
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-553035
- 請求日
- 2024年11月20日
- 審決日
- 2026年03月24日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】サイオニック エナジー, インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】山本 秀策
- 【請求人代理人】森下 夏樹
- 【請求人代理人】飯田 貴敏
- 【請求人代理人】石川 大輔
- 【請求人代理人】山本 健策
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 田口 裕健
- 分類
- P18 .113-Z (C01B) / P18 .121-Z (C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法49条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第184条の12第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-553035「硫黄を注入する方法およびその結果として生じる組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月10日国際公開、WO2021/177952、令和 5年 6月12日国内公表、特表2023-524354〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)3月4日を国際出願日とする出願であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和6年 1月26日付け 拒絶理由通知
同年 4月26日 手続補正書及び意見書の提出
同年 7月23日付け 拒絶査定(以下、「原査定」という。)
同年11月20日 手続補正書及び審判請求書の提出
令和7年 1月30日 前置報告
同年 5月15日 上申書の提出(前置報告への反論)
第2 補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
令和6年11月20日提出の手続補正書によりなされた補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
2 理由
(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正するものであって、本件補正前後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線部が補正箇所である。
ア 本件補正後の請求項1の記載
「【請求項1】
炭素/硫黄複合体を形成する方法であって、以下の段階を含む、方法:
a)炭素/硫黄混合物を圧力容器内に置く段階;
b)該圧力容器をマイクロ波オーブン内に置く段階;
c)該炭素/硫黄混合物をマイクロ波熱源にさらす段階;
d)数百~2000℃超の範囲の温度に該炭素/硫黄混合物の温度を上昇させて該硫黄を蒸発させ、該硫黄を該炭素に結合させる段階;および
e)硫黄の融点を下回るまで該炭素/硫黄混合物の温度を低下させて、炭素上に凝縮された硫黄を含む炭素/硫黄複合体を形成する段階。」
イ 本件補正前の請求項1の記載
「【請求項1】
炭素/硫黄複合体を形成する方法であって、以下の段階を含む、方法:
a)炭素/硫黄混合物を反応容器内に置く段階;
b)該反応容器をマイクロ波オーブン内に置く段階;
c)該炭素/硫黄混合物をマイクロ波熱源にさらす段階;
d)数百~2000℃超の範囲の温度に該炭素/硫黄混合物の温度を上昇させる段階;および
e)硫黄の融点を下回るまで該炭素/硫黄混合物の温度を低下させて、炭素上に凝縮された硫黄を含む炭素/硫黄複合体を形成する段階。」
(2)補正の適否
本件補正により、請求項1の「d)数百~2000℃超の範囲の温度に該炭素/硫黄混合物の温度を上昇させる段階」に、「該硫黄を蒸発させ、該硫黄を該炭素に結合させる」点が追加され、審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】の(2.本願発明の理由)には、「この補正は、本願明細書の0027段落等の記載に支持され」る旨が記載されている。
そこで、本願の国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、「翻訳文等」という。)を確認すると、翻訳文等の【0027】には、以下の記載がある。なお、下線は当審にて付した。
「【0027】
注入に要する時間は従来のガラス管反応器を用いて最適化された。炭素はマイクロ波で照射されると、短時間、通常は数分の1秒で数百~2000℃超の範囲の温度まで昇温し、それは硫黄種を昇華させることを助ける。反応器は閉鎖された圧力反応器であるので、反応器内部の圧力が硫黄蒸気を炭素上に凝縮させる。持続時間を延長した注入が望ましい場合は、要件に基づいて単純にオーブンのパワーを1/5または1/10まで低下させることによって注入時間を増大させることも可能である。」
この記載からすれば、本件補正により追加された「該硫黄を蒸発させ」るとの事項については、同段落中の「数百~2000℃超の範囲の温度まで昇温し、それは硫黄種を昇華させる」との記載が根拠となるといえる。
しかし、本件補正により追加された「該硫黄を該炭素に結合させる」との事項については、同段落中に対応する記載はないし、翻訳文等の他の箇所にも「結合」なる記載は存在しない。加えて、元素に関わる「結合」は、通常、化学的な結合を意味するが、硫黄が昇華又は蒸発するほどの高温時であれば、硫黄と炭素による「結合」が生じることが自明であるともいえない。なお、同段落中の「反応器内部の圧力が硫黄蒸気を炭素上に凝縮させる」との記載は、請求項1の「e)・・・炭素上に凝縮された硫黄を含む炭素/硫黄複合体を形成する段階」に対応するものであって、「d)」段階における「結合」なる事象に対応するものではない。
したがって、請求項1の「d)」段階に「該硫黄を該炭素に結合させる」との事項を追加する補正は、本願の翻訳文等のすべての記載を結合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本願の翻訳文等に記載された事項の範囲内においてしたものとはいえないから、特許法第184条の12第2項において読み替えられた第17条の2第3項の規定に違反するものである。
(3)まとめ
本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反しているため、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記1の「補正の却下の決定の結論」のとおり決定する。
第3 本願発明
本件補正は上述のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、上記第2の2(1)イに示す、令和6年4月26日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
以下、当該請求項1に係る発明を「本願発明」という。
第4 原査定における拒絶理由
原査定の拒絶理由は、令和6年1月26日付け拒絶理由通知書に記載されたものであって、次の理由を含むものである。
理由1:(新規性)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2:(進歩性)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献2:中国特許出願公開第109037662号明細書
第5 当審の判断
当審では、上記第4の理由1又は2によって、本願は拒絶されるべきものであると判断する。
なお、当審では、技術常識又は周知技術を示すものとして、以下の文献も引用する。
引用文献3:特表平11-511290号公報
引用文献4:特開2011-204638号公報
1 引用文献の内容
(1)引用文献2について
ア 引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の記載がある。なお、下線は当審にて付したものであり、「・・・」は記載の省略を表し、( )内は当審訳である。他の文献についても同様である。
「
[図:0001438793000001.jpg]
([0007] 本発明は、以下の技術的方法を提供する。
[0008] リチウム硫黄電池用硫黄炭素複合体正極材料の製造方法において、炭素原料と硫黄原料を粉砕し均一に混合して混合物を作製し、その後、混合物をプレス成形し、不活性雰囲気中でマイクロ波/光波を利用してプレス成形後の混合物を硫黄炭素複合正極材料に調製する。)」
「
[図:0001438793000002.jpg]
[図:0001438793000003.jpg]
([0013] 具体的には、プレス成形後の混合物を反応容器内に配置し、反応容器内の不活性雰囲気をアルゴン、窒素、ヘリウムのいずれか一つ又は複数とし、分圧を0.5~5atmに設定する。
[0014] さらに、原料100mg当たり、マイクロ波反応器の出力は100~5000ワット、反応時間は1~600秒とする。)」
「
[図:0001438793000004.jpg]
([0018] さらに、本発明は、炭素材料がマイクロ波等のエネルギーを迅速に吸収し、極めて短時間で高温に達することを利用し、硫黄粉末を急速に溶融又は昇華・気化させることで、機械粉砕・混合後の硫黄と炭素の粉末をさらに微細なスケールで複合化することを促進する。この方法は、巧妙かつ簡便であり、複合化の程度がより高いものである。
[0019] さらに、反応前に原料をプレス成形し、炭素材料と硫黄原料の密着性を高め、炭素材料が昇温する短時間に硫黄粉末を急速に加熱して溶融又は昇華させることで、硫黄単体が炭素材料表面又は層間に迅速に付着し、硫黄担持量を増加させる。)」
「
[図:0001438793000005.jpg]
[図:0001438793000006.jpg]
([0033] 本発明は、リチウム硫黄電池用硫黄炭素複合体正極材料の製造方法を提供する。まず、一定量の硫黄粉と炭素粉を均一に混合した後、塊状に圧縮する。高圧作用下で炭素材料粉末が導電ネットワークを形成し、硫黄粉末がこの導電ネットワークに分布する。その後、不活性雰囲気保護下でマイクロ波などのエネルギーを作用させると、添加された硫黄粉末が急速に溶解さらには気化して、表面力の影響で液体状又は気体状の硫黄が炭素材料と充分に接触し、同時に、炭素材料に付着した硫黄粒子の大きさ又は硫黄膜の厚さは、マイクロ波等のエネルギー作用前に比べて著しく減少し、分子レベルにさえ達し得る。マイクロ波等の入力エネルギーの作用を停止すると、調製された硫黄炭素複合体電極材料が得られる。)」
「
[図:0001438793000007.jpg]
([0047] 実施例1
[0048] (1)グラフェン10mgと硫黄粉末40mgを秤量し、均一に混合する。
[0049] (2)上記(1)で混合したグラフェン/硫黄粉末を、直径12mmの円板に、15MPaの圧力を加えてプレス成形する。
[0050] (3)上記(2)で成形した円板をマイクロ波反応器に設置し、マイクロ波反応器内の不活性雰囲気としてアルゴンを用い、分圧を1atmとし、反応器出力を800Wに設定し、反応時間を30秒として、マイクロ波反応器を起動し、グラフェン/硫黄複合電極材料を調製する。
[0051] マイクロ波作用前(図2)とマイクロ波作用後(図3)の材料のSEM画像を対比すると、図2には塊状硫黄が大量に存在し、図3には塊状硫黄が確認されずにグラフェン層表面に微小粒子の硫黄が付着していることがわかる;・・・)」
「
[図:0001438793000008.jpg]
」(図1)
イ 引用文献2に記載された発明
上記アの[0008]によれば、引用文献2には、「リチウム硫黄電池用硫黄炭素複合体正極材料の製造方法」であって、「炭素原料と硫黄原料を粉砕し均一に混合して混合物を作製し、その後、混合物をプレス成形し、不活性雰囲気中でマイクロ波・・・を利用してプレス成形後の混合物を硫黄炭素複合正極材料に調製する」方法が記載されている。
ここで、同[0013]によれば、上記方法における不活性雰囲気中のマイクロ波を利用した処理を行う際、「プレス成形後の混合物を反応容器内に配置し、反応容器内の不活性雰囲気をアルゴン、窒素、ヘリウムのいずれか一つ又は複数とし、分圧を0.5~5atmに設定する」ことが行われ、また、同[0014]によれば、当該マイクロ波は、「マイクロ波反応器」内に出力されるものである。
さらに、同[0018]、[0019]、[0051]によれば、上記方法における不活性雰囲気中のマイクロ波を利用した処理では、硫黄粉末を「昇華・気化させる」ことが行われ、同処理終了後には、「硫黄単体が炭素材料表面又は層間に」「付着」することになる。
そして、同[0033]によれば、上記方法におけるマイクロ波等を利用した処理の最後には、「マイクロ波・・・の作用を停止する」ことが行われており、当該処理が終了した後に、上述のように硫黄が炭素に「付着」した硫黄炭素複合正極材料が得られることが認識でき、さらに、当該「付着」する硫黄は、分子レベルにまで微小化された形態であることも認識できる。
そうすると、引用文献2には、以下の発明が記載されているといえる。
「リチウム硫黄電池用硫黄炭素複合体正極材料の製造方法であって、
炭素原料と硫黄原料を粉砕し均一に混合して混合物を作製し、その後、混合物をプレス成形し、
プレス成形後の混合物を反応容器内に配置し、反応容器内の不活性雰囲気をアルゴン、窒素、ヘリウムのいずれか一つ又は複数とし、分圧を0.5~5atmに設定し、
マイクロ波反応器内に出力されるマイクロ波を利用して硫黄粉末を昇華・気化させ、最後にマイクロ波の作用を停止することで、微小な硫黄が炭素に付着した硫黄炭素複合正極材料を得る、方法。」
以下、当該発明を「引用発明」という。
(2)引用文献3及び4について
ア 引用文献3の記載事項
「【特許請求の範囲】
1.マイクロ波エネルギーを用いてリチウム二次電池用陽極材料を調製する方法であって、遷移金属のM、M’=Co、Ni、Mn、Cr、V、Ti、Sc、Feとリチウムの酸化物、水酸化物あるいは塩を原料にして従来の混合方法で前記原料を均一混合して前駆体とし加熱合成する調製方法であって、
陽極材料の組成は、Li1+xM1-yM’ωO4-zの組成比に従い、ここにおいて、xは-1~5、yは-1~1、ωは0~6、zは-8~3であって、M、M’はCo、Ni、Mn、Cr、V、Ti、Sc、Feを表すものであって、前駆体をペレット状にし又は固めないままの状態で、マイクロ波を透過する断熱材料と耐高温ガラスとから作られた容器に入れ、さらに、マイクロ波周波数が0.3~300GHz、マイクロ波波長が1mm~1mの単一モード又はマルチモード・マイクロ波オーブン内に置いて、保温時間として1分~5時間、500℃~1000℃で加熱合成して、その後オーブン内で冷却させる調製方法。」
イ 引用文献4の記載事項
「【0025】
〔Liイオン電池用正極活物質の製造方法〕
本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法は、リチウム化合物、鉄化合物、リン酸化合物、およびカーボンナノファイバーを含有する水溶液に、空気雰囲気中、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で、マイクロ波水熱法によりLiFePO4を合成することを特徴とする。」
「【0036】
図7に、マイクロ波水熱法で用いた容器の概略図の一例を示す。1は圧力容器、2は蓋、3はロッキング蓋、4は破裂板、5は排気方向である。この容器をマイクロ波発生装置に設置し、マイクロ波水熱法による反応を行う。マイクロ波発生装置としては、マイクロ波水熱装置や一般家電製品である電子レンジ等が挙げられる。なお、本発明を実施するための装置としては、水溶液にマイクロ波を照射し、水熱合成をすることができるものであれば、特に限定されない。」
「【図7】
[図:0001438793000009.jpg]
」
ウ 引用文献3及び4から把握できる周知技術
上記アのとおり、引用文献3には、「マイクロ波エネルギーを用いてリチウム二次電池用陽極材料を調製する」にあたり、「前駆体」を「容器に入れ」、さらに「マイクロ波オーブン内に置いて」「加熱合成して、その後オーブン内で冷却させる」ことが記載されており、上記イのとおり、引用文献4には、「マイクロ波」を利用して「Liイオン電池用正極活物質」を「合成する」にあたり、「圧力容器」を「マイクロ波発生装置に設置」することが記載されている。
これらの記載のとおり、マイクロ波を利用して陽極材料又は正極材料を製造する際に、原料を容器内に置いた上で、その容器をマイクロ波発生装置内に置き、マイクロ波による加熱処理を行うことは、本願の出願時において一般的に行われていたことである。
2 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の方法により得られる「硫黄炭素複合正極材料」は、「微小な硫黄が炭素に付着し」、単なる混合物以上に複合化されたものであり、「炭素/硫黄複合体」であるといえるから、引用発明の方法は、「炭素/硫黄複合体を形成する方法」であるといえる。
(2)引用発明の「炭素原料と硫黄原料を粉砕し均一に混合し」、その後「プレス成形」して得られた「プレス成形後の混合物」は、本願発明の「炭素/硫黄混合物」に相当する。
そして、引用発明の「プレス成形後の混合物を反応容器内に配置」する工程は、本願発明の「a)炭素/硫黄混合物を反応容器内に置く段階」に相当するといえる。
(3)マイクロ波を利用する引用発明の「マイクロ波反応器」内には、当然「マイクロ波発生源」が備えられているといえ、引用発明の「マイクロ波反応器内に出力されるマイクロ波を利用して硫黄粉末を昇華・気化させ」る工程では、当然、上記「プレス成形後の混合物」が「マイクロ波反応器」内の「マイクロ波発生源」にさらされるといえる。
そして、本願発明の「マイクロ波熱源」とは、本願明細書(【0025】等)の記載を参酌すると、マクロ波を照射するための「マイクロ波放出源」ともいえるから、上述の「マイクロ波発生源」は、本願発明の「マイクロ波熱源」に相当する。
さらに、「硫黄粉末を昇華・気化させ」る工程では、当然、硫黄の沸点を超える数百度以上の温度に混合物の温度が上昇させられるといえる。
したがって、引用発明の「マイクロ波反応器内に出力されるマイクロ波を利用して硫黄粉末を昇華・気化させ」る工程は、本願発明の「c)該炭素/硫黄混合物をマイクロ波熱源にさらす段階」及び「d)数百~2000℃超の範囲の温度に該炭素/硫黄混合物の温度を上昇させる段階」に相当するといえる。
(4)引用発明において「最後にマイクロ波の作用を停止」すると、当然、混合物の温度が低下することになる。また、「マイクロ波の作用を停止」して「微小な硫黄が炭素に付着した硫黄炭素複合正極材料を得る」工程では、当然、気化された硫黄がその融点を下回る温度まで低下することで、炭素に付着することになる。
したがって、引用発明の「最後にマイクロ波の作用を停止することで、微小な硫黄が炭素に付着した硫黄炭素複合正極材料を得る」工程は、本願発明の「e)硫黄の融点を下回るまで該炭素/硫黄混合物の温度を低下させて、炭素上に凝縮された硫黄を含む炭素/硫黄複合体を形成する段階」に相当するといえる。
(5)一方で、引用発明においてマイクロ波を利用する「マイクロ波反応器」は、本願発明の「マイクロ波オーブン」に相当するとはいえるが、当該「マイクロ波反応器」と、引用発明において混合物が置かれる「反応容器」は、その表記上一応の差異がある(原文の中国語でも同様に差異がある)ものの、引用文献2において、両者が別体なのか同一物なのかは明示されておらず、「反応容器」を、別体の「マイクロ波反応器」内に置くといったことも明示されていない。
(6)以上より、本願発明と引用発明は、
「炭素/硫黄複合体を形成する方法であって、以下の段階を含む、方法:
a)炭素/硫黄混合物を反応容器内に置く段階;
c)該炭素/硫黄混合物をマイクロ波熱源にさらす段階;
d)数百~2000℃超の範囲の温度に該炭素/硫黄混合物の温度を上昇させる段階;および
e)硫黄の融点を下回るまで該炭素/硫黄混合物の温度を低下させて、炭素上に凝縮された硫黄を含む炭素/硫黄複合体を形成する段階。」
である点で一致し、以下の点で一応相違しているといえる。
<相違点>
本願発明は、「b)該反応容器をマイクロ波オーブン内に置く段階」を有する一方、引用発明は、「反応容器」を別体の「マイクロ波反応器」内に置く段階を有するのか否かが不明である点。
3 相違点に対する判断
(1)上記1(1)アのとおり、引用文献2の図1には、引用発明におけるマイクロ波処理の態様を示すものとして、以下の模式図が記載されている。
「
[図:0001438793000010.jpg]
」
この模式図では、引用発明の「反応容器」や「マイクロ波反応器」のいずれとも一部表記が異なる「マイクロ波反応容器」との装置名が付されているものの、アルゴン雰囲気で完全に区画された角丸四角形内に原料混合物が置かれており、当該角丸四角形はテーブル状の黒色楕円板上に載置されており、さらにそれらの全体が長方形で囲われている。そして、これらの図形の表示や互いの位置関係からすれば、当該角丸四角形は、原料混合物が置かれ、その内外で雰囲気を遮断できるような容器を示しており、当該全体の長方形は、当該容器をテーブル上に載置して処理を行う装置を示しており、当該装置内にマイクロ波が出力されると解し得るものである。
加えて、上記1(2)ウのとおり、マイクロ波を利用して陽極材料又は正極材料を製造する際に、原料を容器内に置いた上で、その容器をマイクロ波発生装置内に置き、マイクロ波による加熱処理を行うことは、本願の出願時において一般的に行われていたことである。
そうすると、引用文献2の図1や技術常識を踏まえれば、引用発明のマイクロ波処理も、原料混合物が置かれる「反応容器」を、容器とは別体の、マイクロ波を利用する「マイクロ波反応器」内に置く態様が採用されているといえ、上記相違点は、実質的な相違点ではないといえる。
(2)仮に、上記相違点が実質的な相違点である、つまり、引用発明においては、混合物が置かれる「反応容器」とマイクロ波を利用する「マイクロ波反応器」が同一部位であるとしても、上述のとおり、マイクロ波を利用して陽極材料又は正極材料を製造する際に、原料を容器内に置いた上で、その容器をマイクロ波発生装置内に置き、マイクロ波による加熱処理を行うことは、本願の出願時における周知技術である。
そして、引用発明のマイクロ波処理を行う際の混合物の配置やマイクロ波の出力構成は、混合物を不活性雰囲気で保護しつつマイクロ波を作用させることが可能な、任意の配置構成を採用できるといえるところ、引用発明において、上記周知技術のように、原料を容器内に置いた上で、その容器をマイクロ波発生装置内に置き、マイクロ波による加熱処理を行う配置構成を採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。
加えて、本願明細書には、上記配置構成の作用効果は何ら記載されておらず、上記配置構成によって当業者に予測し得ない格別顕著な効果が発揮されるとはいえない。
(3)請求人の主張について検討する。
ア 請求人の主張の内容
(ア)審判請求書での主張
「引用文献2についても同様に、マイクロ波を使用して炭素/硫黄混合物中の硫黄を迅速に溶融させて炭素/硫黄複合体が得ることが記載され、すなわち、硫黄を液体状態で維持することを教示しており、補正後の本願発明のように硫黄を蒸発させるほど温度を上昇させることは記載も示唆もされていません。また、引用文献2には圧力容器も記載も示唆もされていません。本願明細書では、0027段落において「反応器は閉鎖された圧力反応器であるので、反応器内部の圧力が硫黄蒸気を炭素上に凝縮させる。」と記載され、圧力容器を利用することの利点が示されていますが、引用文献2では、実施例1で「ステップ(2)で得られたプレスされたウェハをマイクロ波反応器に配置する」などと記載されるように、圧力容器を使用せずに、硫黄/炭素混合物をマイクロ波オーブンに入れることが記載されているだけです。」
(イ)上申書での主張
「引用文献2の図1を以下に示します・・・ここで、大きな長方形(実線の囲い)は「マイクロ波反応容器」として示されていますが、当該マイクロ波反応容器内の隅を丸めた長方形(破線の囲い)は「アルゴン雰囲気」と示されています。これらはどちらも「圧力容器」として記載されておらず、「圧力容器」との用語は引用文献2のどこにも記載されていません。
引用文献2の明示的な開示に基づくと、囲まれた圧力反応容器(破線の囲い)とされるものは単に不活性なアルゴンガスを例示しているだけであり、1atmの圧力はマイクロ波反応容器自体によって提供されるものであり、別個の「圧力容器」によって提供されるものではありません(0050および0055段落を参照ください)。また、0044段落では「不活性ガスの分圧は0.5atm~5atmであり得る」と、そのような圧力は存在しない「圧力容器」ではなく、マイクロ波反応容器自体によって提供されていることが記載されていることからも上記の解釈が裏付けられます。
以上から、引用文献2では、マイクロ波反応容器自体が「圧力容器」として使用されており、圧力容器とマイクロ波オーブンとを別個の構成として使用する本願発明とは異なりますので、本願発明は、引用文献2に対して新規性を有します。また、引用文献2には、本願発明に到達するようにその開示される構成を改変する示唆はないため、本願発明は、引用文献2に対して進歩性も有します。」
イ 請求人の主張に対する判断
(ア)審判請求書での主張について
請求人は、引用文献2には「硫黄を液体状態で維持」することしか記載されておらず、「硫黄を蒸発させるほど温度を上昇させる」ことは記載も示唆もない旨を主張している。
しかしながら、引用発明は硫黄粉末を「昇華・気化」させるものであるから、当該主張は妥当ではない。
また、請求人は、引用発明は、「圧力容器を使用せずに、硫黄/炭素混合物をマイクロ波オーブンに入れる」ものでない旨を主張している。
ここで、上記第2のとおり、審判請求時の補正は却下されたため、本願発明は「圧力容器」を用いるものではないものの、引用発明の「反応容器」は、その内部の「分圧を0.5~5atmに設定」できるものであるから、「圧力容器」であるといえる。そして、上記(1)で述べたとおり、引用発明においても、原料混合物が置かれる「反応容器」を、容器とは別体の、マイクロ波を利用する「マイクロ波反応器」内に置く配置構成が採用されているといえ、仮にそうでないとしても、上記(2)で述べたとおり、引用発明において当該配置構成を採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。
(イ)上申書での主張について
請求人は、引用文献2の図1中の「隅を丸めた長方形」は「単に不活性なアルゴンガスを例示しているだけ」であって、同文献の「実施例1」及び「実施例2」の態様(上記1(1)ア[0050]の「成形した円板をマイクロ波反応器に設置し、マイクロ波反応器内の不活性雰囲気としてアルゴンを用い、分圧を1atmとし、反応器出力を800Wに設定し、反応時間を30秒として、マイクロ波反応器を起動」との記載)からすると、引用文献2には、混合物が置かれる「反応容器」とマイクロ波を利用する「マイクロ波反応器」は別体でなく、「圧力容器とマイクロ波オーブンとを別個の構成として使用する本願発明とは異なり」、また、「引用文献2には、本願発明に到達するようにその開示される構成を改変する示唆はない」から、本願発明は新規性及び進歩性を有する旨を主張している。
確かに、請求人が指摘する引用文献2の「実施例1」等の記載では、「マイクロ波反応器」自体に混合物が置かれ、その内部が不活性雰囲気とされているように読める。しかしながら、同文献の図1中の「隅を丸めた長方形」は、その内外で雰囲気を遮断できるような物体と解するのが自然であり、請求人が主張するように「単に不活性なアルゴンガスを例示しているだけ」と解する方が不自然といえる。
そして、この図1の記載と、原料を容器内に置いた上で、その容器をマイクロ波発生装置内に置き、マイクロ波による加熱処理を行うことは、本願の出願時において一般的に行われていたということを踏まえれば、同文献に触れた当業者であれば、引用発明においても、容器とは別体の、マイクロ波を利用する「マイクロ波反応器」内に置く配置構成が採用されていると認識できるといえる。仮にそうでないとしても、上記(2)で述べたとおり、引用発明のマイクロ波処理を行う際の混合物の配置やマイクロ波の出力構成は、混合物を不活性雰囲気で保護しつつマイクロ波を作用させることが可能な、任意の配置構成を採用できるといえるところ、引用発明において、一般的に行われていた上記配置構成を採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、上申書の他の記載をみても、上述の判断を覆すほどの主張はなされていない。
(4)したがって、本願発明は、引用文献2に記載された発明であり、仮にそうでないとしても、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、仮にそうでないとしても、同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるため、同法第49条第2号に該当する。したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
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2024-018479