特許拒絶査定不服審判
2020-010212
心血管疾患を処置及び/又は予防するための組成物及び方法
- 審判番号
- 2020-010212
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-207855外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年07月21日
- 審決日
- 2022年06月23日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-207855「心血管疾患を処置及び/又は予防するための組成物及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月28日出願公開、特開2019- 48843〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2011年3月4日(パリ条約による優先権主張 2010年3月4日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願である特願2012-556265号の一部を、平成28年9月20日に新たな出願とした特願2016-183057号の一部を、平成30年11月5日に新たな出願(特願2018-207855号)としたものであり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
平成30年11月22日 手続補正書の提出
令和 1年12月 2日付け 拒絶理由通知
令和 2年 3月 5日 手続補正書及び意見書の提出
同年 3月24日付け 拒絶査定
同年 7月21日 審判請求書及び手続補正書の提出
令和 3年 8月 3日付け 拒絶理由通知(当審)
令和 4年 2月 1日 誤訳訂正書及び意見書の提出
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、令和4年2月1日提出の誤訳訂正書により補正(以下「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1~5に記載されたとおりのものであるところ、そのうち、請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項2】
対象に1日あたり少なくとも2gのエイコサペンタエン酸エチルエステル(E-EPA)を提供するために毎日投与するための医薬を製造するための薬学的に許容される組成物の使用であって、
前記組成物は、少なくとも96重量%のE-EPA、
少なくとも0.2重量%のアラキドン酸エチル、及び
0.06重量%以下のエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)を含み、
前記対象は、安定スタチン治療を受けており、対照と比較して対象における空腹時トリグリセリドを低下させるためのトリグリセリド低下治療を必要とするものである、使用。」
第3 拒絶理由の概要
当審において令和3年8月3日付けで通知した拒絶理由は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1~13に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記の引用文献に記載の発明に基いて、本願の優先日前に、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、という理由(理由3)を含むものである(主たる引用文献は、以下の引用文献A)。
<引用文献>
A Atherosclerosis,2008年,200(1),p.135~140
B The Lipid,2003年,Vol.14,No.1,p.68(68)~75(75)
C Clinical Therapeutics,2007年,Vol.29,No.7,p.1354~1367
D 特開2001-139981号公報
E 特開平11-80083号公報
F 国際公開第2007/142118号
G Am.J.Clin.Nutr.,2000年,Vol.71,p.1085~1094
第4 引用文献Aに記載された事項及び引用発明
1 引用文献Aに記載された事項
引用文献Aには、以下の記載がある。なお、引用文献Aは外国語で記載されているため、摘記は、当審による訳文で示す。さらに、下線は当審で付し、以下この審決中において同様である。
・摘記a1(タイトル及びAbstract)
「複数の危険因子を持つ高コレステロール血症患者の冠状動脈疾患に対するEPAの効果:日本EPA脂質介入研究(JELIS)からの一次予防症例のサブ分析
・・・
要約
背景:日本EPA脂質介入研究(JELIS)は、高コレステロール血症患者の冠状動脈疾患(CAD)に対するエイコサペンタエン酸(EPA)の効果を検証した大規模な臨床試験であった。本稿では、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)以外の危険因子に焦点を当て、JELISの一次予防症例中でEPAがCADに及ぼす効果を調べた。
方法:スタチン治療を受けているがCADのエビデンスのない高コレステロール血症患者(n=14,981)は、EPA群(n=7503)又は対照群(n=7478)にランダムに割り当てられた。インシデントCAD、CAD危険因子の数(高コレステロール血症;肥満;高トリグリセリド(TG)又は低高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C);糖尿病;及び高血圧)とEPA治療との関係を調べた。
結果:対照群とEPA群を合わせた場合、危険因子の数が多いほど、CADの発生率の増加に直接関連していた。危険因子の数に関係なく、発生率は対照群よりもEPA群の方が低かった。血清TG及びHDL-Cレベルが正常な患者と比較して、異常レベル(TG≧150mg/dL;HDL-C<40mg/dL)の患者は、CADハザード比が有意に高かった(HR:1.71;95%CI:1.11-2.64;P=0.014)。このリスクの高リスク群では、EPA治療によりCADのリスクが53%抑制された(HR:0.47;95%CI:0.23-0.98;P=0.043)。
結論:コレステロール以外の複数の危険因子は、CADの発生率の著しい増加と関連している。低HDL-Cで高TGは、特に強力な危険因子を表す。EPAは、この脂質異常症パターンの患者のCADイベントの発生率を減らすのに効果的であり、異常なTGおよびHDL-Cレベルの患者にEPAが特に有益となり得ることを示している(NCT00231738)。」
・摘記a2(p.136の項目2.1.~2.3.)
「2.1. 研究デザインと患者
包含基準と除外基準を含むJELISの研究デザインが詳細に報告されている[17]。簡単に言うと、血清TCレベルが250mg/dL以上の高コレステロール血症患者(男性:40-75歳、女性:閉経後-75歳)は、前向き無作為化非盲検、盲検エンドポイント評価(PROBE)法を使用して、最大5年間(平均:4.6年)追跡された。合計18,645人の患者が登録され、スタチンを含むEPA(EPA群)またはスタチンのみ(対照群)のいずれかにランダムに割り当てられた。患者の80%(n=14,981)はCADの病歴がなく、本報告の対象である。
2.2.手順
研究の開始前及び研究中に、すべての患者に食事指導をした。すべての患者は、10mgのプラバスタチン又は5mgのシンバスタチンを1日1回投与された。EPA群では、純度が98%を超えるEPAエチルエステル(EPA-E)を含有する300mgカプセル2個が1日3回投与され、1日の総投与量は1800mgであった。
2.3. 主要評価項目
主要評価項目は、主要な冠状動脈イベント(MCE)であり、突然心臓死、致命的心筋梗塞、非致命的心筋梗塞、確認された虚血発作による入院を含む不安定狭心症、及び血管形成術/ステント留置術又は冠状動脈バイパス術を含むものであった。・・・。」
(当審注:上記の「TC」は、引用文献Aのp.136の項目1.の2段落下から4行に記載のとおり、「総コレステロール」を意味する。)
・摘記a3(p.136右欄~p.137左欄1段落の項目2.4.)
「2.4. 危険因子
次の5つの危険因子は本報告の主関心事であり、登録時に示された通りに定義された。
A. 高コレステロール血症:未処置の血清TC≧250mg/dL(JELISの全被験者の血清TCは250mg/dL以上であった)。
B. 肥満:ボディマス指数(BMI)≧25kg/m2
C. 脂質異常症:血清トリグリセリド(TG)≧150mg/dL及び/又は高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)<40mg/dL
D. 糖尿病:医師の診断又は空腹時血糖値≧126mg/dL及び/又はヘモグロビンA1C≧6.5%
E. 高血圧:医師の診断又は収縮期の血液圧力≧140mmHg及び/又は拡張期血圧≧90mmHg
さらに、すべての被験者は、登録時の以下の血清TGおよびHDL-Cレベルに基づいて、以下の4つの下位群に分けられた。
1. TG<150mg/dL及びHDL-C≧40mg/dL(低TG/高HDL-C群)。
2. TG≧150mg/dL及びHDL-C≧40mg/dL(高TG/高HDL-C群)。
3. TG<150mg/dL及びHDL-C<40mg/dL(低TG/低HDL-C群)。
4. TG≧150mg/dL及びHDL-C<40mg/dL(高TG/低HDL-C群)。
・摘記a4(p.137左欄~p.138右欄の項目3.のタイトル及び2~3段落並びにTable2)
「3.結果
・・・
MCEのリスクは、危険因子の数が増えるにつれて、EPAと対照群の両方で増加した。MCEの発生率は、危険因子の各異なる数で対照群よりもEPA群の方が低かったが、統計的に有意ではなかった(図1)。
低TG/高HDL-C参照群と比較すると、MCEのHRは高TG/低HDL-C群でのみ増加した(HR:1.71;95%CI:1.11-2.64;P=0.014;図2)。・・・さらに、高TG/低HDL-C群では、登録時の総血漿脂肪酸の割合としてのEPAは、参照群(当審注:表1に記載のとおり、「TG<150mg/dL及びHDL-C≧40mg/dL」の群、つまり、低TG/高HDL-C群である。)よりも低かった(表1)。EPA治療は、高リスク高TG/低HDL-C群のMCEのリスクを53%低下させた(HR:0.47;95%CI:0.23-0.98;P=0.043;図3)。高リスク群では、EPAはTC、LDL-C、又はHDL-Cに影響を与えなかったが、TGを低下させた(P=0.012;表2)。さらに、対照群の高TG/低HDL-C群の平均血漿EPAレベルは、登録時で2.3mol%、観察期間中は2.5mol%であったが、EPA群の平均血漿EPAレベルは、登録時の2.6mol%から観察中の4.5mol%まで著しく上昇し(表2)、高いEPA濃度は観察期間を通して維持された。
表1
登録時の患者背景因子およびトリグリセリドとHDL-コレステロールのレベル
[図:0001391219000001.jpg]
データは別記しない限り患者数(%)または平均(標準偏差)を表す。
a 自己報告情報
b 医師が診断した糖尿病又は空腹時血糖値≧126mg/dL又はヘモグロビンA1C≧6.5%。
c 医師が診断した高血圧又は収縮期血圧≧140mmHg又は拡張期血圧≧90mmHg。
d 中央値(四分位範囲)。LDL、低密度リポタンパク質;HDL、高密度リポタンパク質;TG、トリグリセリド。
表2
フォローアップ時の高TG/低HDL-C群の危険因子
[図:0001391219000002.jpg]
データは別記しない限り 平均(標準偏差)を表す。
a 中央値(四分位範囲)。LDL、低密度リポタンパク質;HDL、高密度リポタンパク質;TG、トリグリセリド。
」
2 引用文献Aに記載された発明(引用発明)
上記1の引用文献Aの記載、特に、摘記a1及びa3の下線部の記載、摘記a2の、「手順2.2.」における、すべての患者が所定のスタチンを投与される旨及びEPA群には「純度が98%を超えるEPAエチルエステル(EPA-E)」を含有するカプセルを投与した旨の記載、摘記a4の、「EPA」は、「高リスク群」(つまり、高TG/低HDL-C群)の総コレステロール(TC)、血清低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)、又はHDL-Cに影響を与えなかったが、TGを低下させた(P=0.012;表2)旨の記載、並びに、引用文献Aにおいて、EPA-E含有カプセルの製造に「純度が98%を超えるEPAエチルエステル(EPA-E)」が使用されることは自明であることによれば、引用文献Aには、以下の発明が記載されているといえる。
「スタチン治療を受けているが冠状動脈疾患(CAD)のエビデンスのない、血清トリグリセリド(TG)≧150mg/dL及び血清高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)<40mg/dLの高TG/低HDL-C患者である高コレステロール血症の患者の、冠状動脈疾患(CAD)イベントの発生率を減らすためのカプセルであって、
患者は、10mgのプラバスタチン又は5mgのシンバスタチンであるスタチンを1日1回投与され、
前記カプセルは、純度が98%を超えるエイコサペンタエン酸エチルエステル(EPA-E)を含有し、1日の総投与量は、1800mgであり、
前記カプセルの患者への投与により、前記スタチンのみを投与された対照患者への投与と比較した場合に、総コレステロール(TC)、血清低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)、又はHDL-Cに影響を与えることなく、TGが低下される(P=0.012)、
前記エイコサペンタエン酸エチルエステル(EPA-E)含有カプセルを製造するための、
純度が98%を超えるエイコサペンタエン酸エチルエステル(EPA-E)の使用。」
(以下「引用発明」という。)
第5 本願発明と引用発明との対比・判断
1 対比
ア 引用発明の「純度が98%を超えるエイコサペンタエン酸エチルエステル(EPA-E)」は、本願発明における「少なくとも96重量%のE-EPA(エイコサペンタエン酸エチルエステル)」「を含」む、「薬学的に許容される組成物」に相当するし、引用発明の「高コレステロール血症の患者の、冠状動脈疾患(CAD)イベントの発生率を減らすためのカプセル」は、本願発明の「医薬」に相当する。
そして、引用発明の「(EPA-Eを含む)カプセル」は、「高コレステロール血症の患者」に、「1日の総投与量は、1800mg」で投与されるものであるから、これは本願発明の「対象に1日あたりのエイコサペンタエン酸エチルエステル(E-EPA)を提供するために毎日投与するため医薬」であるといえる。
イ 引用発明における「冠状動脈疾患(CAD)のエビデンスがない、血清トリグリセリド(TG)≧150mg/dL及び血清高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)<40mg/dLの高TG/低HDL-C患者である高コレステロール血症患者」は、血清トリグリセリドが通常より高い高コレステロール血症患者であり、引用文献Aの項目「2.4.」の「C.」(摘記a3)に(冠状動脈疾患の)危険因子として記載されるとおり、脂質異常症にも該当する状態の患者である。そして、引用文献Aには、血清トリグリセリドを空腹時に測定することについての明示はないが、血中脂質の測定を空腹時に行うことは技術常識である(必要なら、栄養学雑誌,2008年,Vol.66,No.1,p.39~45)に記載の「脂質異常症-動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版について」の解説の表1参照(https://www.jstage.jst.go.jp/article/eiyogakuzashi1941/66/1/66_1_39/_pdf)参照。)。
したがって、引用発明における「冠状動脈疾患(CAD)のエビデンスのない、血清トリグリセリド(TG)≧150mg/dL及び血清高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)<40mg/dLの高TG/低HDL-C患者である高コレステロール血症の患者」は、本願発明における「対照と比較して空腹時トリグリセリドを低下させるためのトリグリセリド低下治療を必要とするものである」「対象」に相当するといえる。
ウ 引用発明において、患者が「スタチン治療を受けている」者であり、「10mgのプラバスタチン又は5mgのシンバスタチンであるスタチンを1日1回投与され」ることは、本願発明の対象が「安定スタチン治療を受け」ているものであることと、「対象は、スタチン治療を受け」ているものである限りにおいて一致する。
なお、本願明細書(当審注:令和4年2月1日提出の誤訳訂正書により補正された。)の【0032】には、本願発明の「安定スタチン治療」に関し、「用語「安定スタチン治療」は、本明細書において、検討されている対象、対象群、対照対象又は対照対象群が、安定した1日用量のスタチン(例えば、アトルバスタチン、ロスバスタチン又はシンバスタチン)を、ベースライン空腹時トリグリセリド測定前に少なくとも4週間にわたって(「適格化期間(qualifying period)」)摂取してきていることを意味する。例えば、安定スタチン治療を受けている対象又は対照対象は、一定の一日用量(即ち、毎日同じ用量)のスタチンを、ベースライン空腹時トリグリセリド測定の直前に少なくとも4週間にわたって受けている。」と記載され、令和4年2月1日提出の意見書の4.(1)(p.3の14~17行)で請求人が記載するとおり、本願発明の「安定スタチン治療を受け」ている「対象」は、少なくとも4週間同じ1日用量で同じスタチンを投与され、この安定スタチン治療をまだ受けている対象」を意味するといえる。
エ そうすると、本願発明と引用発明は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
対象に1日あたりのエイコサペンタエン酸エチルエステル(E-EPA)を提供するために毎日投与するための医薬を製造するための薬学的に許容される組成物の使用であって、
前記組成物は、少なくとも96重量%のE-EPAを含み、
前記対象は、スタチン治療を受けており、対照と比較して対象における空腹時トリグリセリドを低下させるためのトリグリセリド低下治療を必要とするものである、使用。
<相違点1>
E-EPAを含む組成物を投与する対象について、本願発明では「安定スタチン治療」を受けていると特定されているのに対して、引用発明では「スタチン治療」を受けていると特定されている点。
<相違点2>
対象に毎日投与するための医薬における1日あたりのE-EPAの提供量について、本願発明では「少なくとも2g」と特定されているのに対し、引用発明では「1800mg」と特定されている点。
<相違点3>
E-EPAを含む組成物について、本願発明では「少なくとも」「0.2重量%のアラキドン酸エチル、及び0.06重量%以下のエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)を含」むことが特定されているのに対し、引用発明では、係る特定はなされていない点。
なお、本願発明の「E-EPA」と、引用発明の「EPA-E」は同じものであるから、以下、この審決では「E-EPA」の用語に統一して記載する。
2 判断
(1)相違点1について
ア 高コレステロール血症の治療のためのスタチン治療は周知であり、長期間にわたって継続的に投与されることが一般的である。
例えば、引用文献Aに記載の臨床試験では、対象である高コレステロール血症の患者は、スタチンあるいはスタチンと併用したE-EPAを最大5年(平均4.6年)(摘記a2)にわたって投与されている。また、引用発明は、日本EPA脂質介入研究(JELIS)に基づく分析に関する引用文献Aに基づくものであるところ(摘記a1)、引用文献AのJELIS試験の具体的な内容を記載する引用文献Bには、試験の対象が試験開始6ヶ月以内に高脂血症治療薬が投与されている場合には休薬せずに参加でき、スタチンの場合は継続、その他はスタチンに切り替えること(p.69の右欄3段落)、ベース薬を全員に投与するスタチン系薬剤としたのは、スタチン系薬剤が高脂血症患者において、冠動脈疾患の発症抑制に有効であるという結果が得られていること(p.69の右欄最下段落~p.70左欄1段落)が記載されている。
イ そして、高コレステロール血症のような慢性的な疾患においては、患者の治療状況に特に問題がない、つまり、急な悪化等がなく、一定の治療効果が得られている場合には、毎日継続して長期間にわたり投与される薬剤の種類や量は変更しないことが通常である。また、引用発明の患者は、高コレステロール血症であると同時に血清トリグリセリド値が高い高トリグリセリド血症の患者でもあるところ、引用文献Cには、8週間以上の安定スタチン治療を受けた高トリグリセリド血症の患者に、E-EPAを含むオメガ-3-酸エチルエステルの投与を、当該安定スタチン治療を継続しながら行ったことが記載されている(p.1354「ABSTRACT」(特に「Methods」)、p.1356左欄「PATIENTS AND METHODS」の1段落目及びp.1355右欄3段落9~12行)。
ウ そうすると、スタチンでの治療を行うに際し、スタチン投与を、4週間を超える長期にわたり、同じ1日用量で同じスタチンを用いて行うこと(つまり、「安定スタチン治療」とすること)は、スタチンでの治療において一般的であり、また、E-EPAを投与する際にも従来からのスタチン治療を継続することも通常に行われていることであると解されるから、引用発明において、E-EPAを含む組成物を投与する対象を、「安定スタチン治療を受け」ている患者とし、引用発明を本願発明の相違点1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
(2)相違点2について
ア 引用発明の前提となるJELISについての内容を記載する引用文献Bには、トリグリセリド異常のある対象の場合には、E-EPAとして、エパデール(登録商標)カプセルの投与量を1800mg/日から2700mg/日まで増量できる旨が記載されているし(p.70左欄1段落)、同様の記載が、引用文献Fにもある([0031])。また、同引用文献Fには、心血管イベント発症予防用のE-EPAの投与量を、患者の症状の程度や体重、年齢等によって適宜増減し、E-EPAとして1日あたり0.3~6g経口投与することが記載されている([0028])し、引用文献Gには、軽度の高脂血症の患者にE-EPAの精製製剤カプセルを1日当たり4g投与した例も記載されている(p.1086の左欄の「Study population」の1~2行及び「Dietary education and intervention」の1段落)。
ここで、引用文献Aに、CAD危険因子が多いほどCAD発生率が増加することが記載され(摘記a1の「要約」の「方法」及び「結果」の欄)、危険因子として高コレステロール血症(当審注:これは、「高脂血症」に相当する。)及び血清トリグリセリド(TG)≧150mg/dLの脂質異常症(つまり、トリグリセリド異常)が挙げられている(摘記a3)とおり、引用文献Bのトリグリセリド異常のある対象、及び、引用文献Gの軽度の高脂血症の患者は、引用発明における「CADイベントの発生率」が高い患者であるといえる。また、引用発明の「CADイベント」は、具体的には引用文献AにMCEと記載される突然心臓死等の各種イベントによって評価されるものであるところ(摘記a2の項目「2.3.」)、引用文献Fの「心血管イベント」は、具体的には、同文献の[0010]の終盤部の段落に記載される突然心臓死等のイベントであるから、引用発明の「CADイベント」には、引用文献Fの「心血管イベント」が包含されているといえる。
イ そうすると、CADイベントの発生率を減らすためのカプセルに関する引用発明において、EPA-Eを含有するカプセルの1日当たりの投与量を投与対象の患者の状態、つまり、CADイベントの発生リスクに応じて好適化し、E-EPAの1日の総投与量(提供量)を、2gを超える量として、引用発明を本願発明の相違点2に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
(3)相違点3について
ア 以下に(ア)~(イ)で示すとおり、従来から、アラキドン酸やその誘導体はEPAやその誘導体であるE-EPAの薬理作用を阻害すること、及び、EPAの生理作用を発現させるために、EPAやE-EPAとして、アラキドン酸やその誘導体がより少ない、高純度のものが望まれていたし、以下に(ウ)で示すように、脂肪酸エステルとして、より純度の方がより固有の生理作用などがシャープに発現されることから、純度がより高いものが望まれていた。
(ア) 引用文献Dには、「近年、エイコサペンタエン酸誘導体の各種の生理活性が検討されている。この際、炭素数が同一で二重結合数が異なるアラキドン酸誘導体が共存すると、拮抗作用することが知られており、エイコサペンタエン酸誘導体の効果を発揮させる際にはアラキドン酸誘導体が少ない高純度のエイコサペンタエン酸誘導体が求められている。」(【0002】)と記載されている。
(イ) E-EPA等のエイコサペンタエン酸の低級アルコールエステルの製造に関する引用文献Eには、「EPAはエチルエステルとして動脈硬化症や高脂血症(中性脂肪)の治療薬として大型医薬品となっており、さらに新規な効能が追究されている状況下にあって高純度および高品質な製品を多量にかつ安価に製造する方法が求められている。EPAを高純度化する際に問題となるのは、EPAと同じ炭素数を持つω6系の脂肪酸であるアラキドン酸である。アラキドン酸はEPAの薬理作用とは拮抗した関係にあるので、EPAの薬理作用に対して阻害成分となることからこの脂肪酸の除去を行うことで生体関連分野においてさらなる高度利用が可能となる。」(【0002】)と記載されている。
(ウ) 引用文献Eに「一般に脂肪酸およびそのエステルは、高純度になると固有の物性や生理作用などをシャープに発現するようになり、さらに安定性、色、においなどの品質水準も向上する。」(【0002】)と記載されている。
イ 以下に(ア)~(イ)で示すとおり、純度の高いE-EPAであって、E-EPAの薬理作用を阻害することが知られるアラキドン酸エチルや、E-EPA原料中に含まれるエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)の含有量が本願発明で特定される程度に減じられたものは、従来から既知であった。
(ア) 引用文献Dには、EPAとアラキドン酸(及びそのアルキルエステル)のように、炭素数が同一で二重結合数の異なる高度不飽和脂肪酸又はそのアルキルエステルは、通常の分離技術では分離が難しいが(【0003】)移動相として超臨界二酸化炭素、固定相としてシリカゲルを用いた超臨界クロマトグラフィー技術によりアラキドン酸(誘導体)が少ない高純度のE-EPAが得られたことが記載され(【0005】)、実施例4(【表2】)では、脂肪酸組成中のEPAが97.80質量%、アラキドン酸が0.36質量%、DHAが0.00質量%のE-EPAが得られたことが記載されている。
(イ) 引用文献Eには、実施例1及び2に記載の手法を利用した実施例3(【0024】~【0025】【表3】)において、E-EPAを含む脂肪酸エチルエステル混合物(A)を、イソオクタンとアセトニトリルにより分配してアラキドン酸を除き(【0012】も参照)、回収したアセトニトリル層を留去して脂肪酸エチルエステル(D)を得、再度イソオクタンとアセトニトリルにより分配し、アセトニトリル層を留去する工程を繰り返して、アラキドン酸がより除かれた脂肪酸エチルエステル(E)を得て、これを炭素数の異なる脂肪酸エステルの低減・除去が可能な(【0016】参照)分別蒸留工程(理論段数10段)を経て、回収率2.9%、脂肪酸組成中のEPAが99.0重量%、アラキドン酸が0.2重量%、DHAが0重量%のE-EPAが得られたことが記載されている。
ウ 上記イのとおり、純度の高いE-EPAであって、E-EPAの薬理作用を阻害することが知られるアラキドン酸エチルや、E-EPA原料中に含まれるエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)の含有量を本願発明で特定される程度に減じたものは、従来から既知であったし、所望の効果やE-EPAの製造コストを考慮して、これらの成分の低減の程度(含有割合)を適宜変更したものを製造することも、例えば、引用文献Eにおいてイソオクタンとアセトニトリルによる分配条件や分配回数を変更したり、分別蒸留工程における理論段数等の分別条件等を変更することにより、当業者が容易になし得るものであった。
エ そうすると、引用発明において、E-EPA含有カプセルに含まれるE-EPAを、E-EPAの薬理作用を阻害することが知られるアラキドン酸エチルを低減し、また、E-EPA原料中に含まれるE-DHAを低減・除去し、本願発明の「少なくとも0.2重量%のアラキドン酸エチル、及び0.06重量%以下のエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)を含」む)との条件を満足するものとすること、つまり、引用発明を本願発明の相違点3に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
(4)本願発明の効果について
ア 本願明細書には、本願発明を使用して製造される医薬を、「安定スタチン治療を受けており、対照と比較して対象における空腹時トリグリセリドを低下させるためのトリグリセリド低下治療を必要とする」「対象」に投与した臨床試験結果等は記載されておらず、本願明細書の記載からは本願発明により奏される効果を当業者が理解することはできない。
したがって、本願明細書の記載からは、引用発明を上記相違点1~3に係る本願発明の構成を備えたものとすることにより、引用発明及び引用文献A~Gに記載の知見(並びに本願優先日当時の周知技術及び技術常識)から、当業者が予測できない顕著な効果が奏されているとは認められない。
イ 本願明細書には、本願発明の実施例には相当しないが、本願発明で特定される、「少なくとも96重量%のE-EPA、少なくとも0.2重量%のアラキドン酸エチル、及び0.06重量%以下のエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)を含」む「薬学的に許容される組成物」の一態様として含まれ得る成分組成の「AMR101」(カプセル)で対象を処置した実施例が記載されているので、以下において、念のため検討する。
(ア)AMR101(カプセル)の成分組成
以下に記載するAMR101(カプセル)の成分組成の数値は、本願明細書の表7に「AMR101」として記載される欄の成分組成による。また、〔〕書きで、各成分ごとに、実施例1で「AMR101」(カプセル)の成分組成として記載される数値を併記した(【0096】参照。なお、当該段落に記載の成分が「AMR101」についてのものであることは、【0138】等の記載から理解できる。)。
さらに、各成分についての(a)等の表記は合議体が便宜上付した。(化合物の略称については【0003】も参照。)
<AMR101>
(a)E-EPA 96.3重量%〔96重量%を超える純度〕、
(b)アラキドン酸エチル(AA-E)0.30重量%〔0.25~0.35重量%〕
(c)E-DHA 検出されず(ND;0.05重量%未満)〔なし〕
(d)オクタデカテトラエン酸エチル(ODTA-E)0.25重量%〔0.25~0.38重量%〕、
(e)ノナデカペンタエン酸エチル(NDPA-E)0.11重量%〔0.075~0.15重量%〕
(f)エイコサテトラエン酸エチル(ETA-E)0.38重量%〔0.3~0.4重量%〕、
(g)ヘネイコサペンタエン酸エチル(HPA-E)0.11重量%〔0.075~0.15%(「%」は原文のママ)〕、
〔(h)酸化防止剤としてのdl-α-トコフェロール 記載なし〔0.2%(「%」は原文のママ)〕
(イ)実施例1(【0093】~【0144】、【図1】、【図2】)
・E-EPAの単一施設、二重盲検、無作為抽出、並行群間、プラセボ対照化、用量範囲探索試験を、年齢関連障害(AAMI)を有する対象に対して行ったもので、第1の目的は、AAMIを有する対象の認知パフォーマンスに対するエチル-EPAのプラセボと比較した効果を調べること(【0093】)であり、第2の目的として、(1)6週間にわたる、コンピューター化認知バッテリー(課題注意の継続性、作業記憶課題の質、エピソード記憶課題の質、課題注意の速度)に対する、E-EPAのプラセボと比較した効果を調べること、(2)日常的な臨床検査試験、有害事象(AE)の監視、及び生命徴候から、E-EPAのプラセボと比較した安全性及び忍容性を評価すること、及び(3)血漿及び赤血球膜中の必須脂肪酸の測定によって、認知評価終点でのE-EPAの用量効果関係の可能性を評価すること、が含まれる(【0094】)。
・試験計画では、96人の対象を登録し、6週間処置で、処置群は1群あたり24人で、エチル-EPA(AMP101)を毎日1g、2g、4g、あるいは、プラセボ(パラフィン油)に無作為に割り当てられた(【0095】)。
・【0130】~【0137】に、注意力、注意の継続性、作業記憶の質、エピソード二次記憶の質、記憶の速度、自己評定による覚醒度、自己評定による満足感等の結果が記載されている。
・血液試料中の必須脂肪酸(EFA)測定(【0119】~【0120】)の結果について、【0139】の【表3】に記載され、先行公開されているGrimsgaardらの文献との比較及びJELIS試験との比較に関し、以下の記載がある。
「【0140】・・表3から分かるように、1日あたり2gのAMR101の用量では、ベースラインと比較して血漿EPAレベルが42日後に297%増加し、1日あたり4gのAMR101の用量では、ベースラインと比較して血漿EPAレベルが417%増加した。
【0141】
・・・先に公開されているGrimsgaardらの文献には、ベースラインの血清リン脂質レベルと、1日あたり4gの90%エチル-DHA、1日あたり4gの95%エチル-EPA及び少量の存在するDHA、又はコーン油を7週間補充した後の血清リン脂質レベルとが記載されている(Am.J.Clin.Nutr.1997、66、649-59(1997))。これらの組成物に存在する更なる脂肪酸と構成成分の完全なプロファイルは明らかにされていない。7週間の補充後、対象が示した血清リン脂質EPAの増加はたった297%である。これに対して、本発明の組成物では、上記のように417%増加している。血漿/血清脂肪酸における他の変化の比較を、表4に示す。
【0142】
【表4】
[図:0001391219000003.jpg]
【0143】
・・・さらに、日本でのエイコサペンタエン酸(EPA)脂質介入試験(JELIS)において、Yokoyamaらは、18000人超の患者を、EPA組成物(Epadel)1800mgをスタチンと共に摂取するか、又はスタチンのみを摂取するかに無作為に割り当て、5年間の追跡調査を行ったことを報告している(Lancet 2007、369、1090-98)。5年間の処置後、対象が示した血漿EPAの増加はたった70%であった(ベースラインの93mg/Lから169mg/Lへ)。
【0144】
・・・図1及び2は、現行試験のAMR101処置により観察される血漿/血清EPAレベルの変化を、JELIS試験及びGrimsgaardにおける異なるEPA組成物で観察される血漿/血清EPAレベルの変化と比較して示している。気づくように、1日あたり約2gのAMR101により、ベースラインと比較した血漿EPAにおいて、たった6週間後に、JELIS試験で5年間の処置後に観察された増加(2倍未満)よりもはるかに大きい増加(約4倍)が達成された。さらに、1日あたり4gの用量のAMR101の6週間にわたる処置によって、Grimsgaardにより報告された7週間の処置後の値(87.66μg/g血清)よりもはるかに高い血漿EPAレベル(>250μg/g)が達成された。全体として、1日あたり4gの用量のAMR101では、血漿EPAにおいて、ベースラインに対して5倍を超える増加があった。一方、1日あたり4gの用量のGrimsgaard組成物では、血清EPAの増加が3倍未満であった。これらの結果は予想し得ないものであった。」
「【図1】
[図:0001391219000004.jpg]
【図2】
[図:0001391219000005.jpg]
」
(ウ)実施例2(【0145】~【0153】)
・1g、1日2回の6ヶ月にわたるEPA(E-EPAとして投与)による、多施設、無作為抽出、二重盲検、プラセボ対照化試験で、ハンチントン病患者の運動パフォーマンスが改善するかどうかを判定し、また、事後分析を行って、EPAの非空腹時トリアシルグリセロールに対する効果を評価した(【0145】)。
・AMR101の500mgの経口カプセル2個の形態での活性薬物を1日2回、6ヶ月間服用する群(n=158)、又は軽パラフィン油及び0.2%dl-α-トコフェロールを含有する500mgの経口カプセル2個の形態でのプラセボを1日2回、6ヶ月間服用する群(n=154)のいずれかに、1:1の比率で個体を無作為化した(【0147】)。
・E-EPA投与後の対象の脂質パラメータ等の測定結果に関し、以下の記載がある。
「【0151】
・・・AMR101に関しては145人の対象(帰属者の92%)及びプラセボに関しては141人の対象(帰属者の92%)について、赤血球のEPA量を、ベースライン及び6ヶ月目で判定した。20:5n3(EPA)のベースライン赤血球量は、6ヶ月後、AMR101服用者では有意に増加したが(平均で0.52%から3.07%へ)、プラセボ服用者では減少した(平均で0.61%から0.55%へ)(p<0.0001)。6ヶ月後、AMR101を服用した個体は、TGが、ベースラインの171mg/dLから26mg/dL低下したが、プラセボを服用した個体では、ベースラインの187mg/dLから11mg/dL低下した(p=0.007)。総コレステロールでは、AMR101を服用した個体におけるベースライン204mg/dLからの減少(9.5mg/dL)は、プラセボを服用した個体のベースライン208mg/dLからの減少(2.5mg/dL)よりも有意に大きかった(p=0.009)。脂質及び運動スコア(Motor Scoer)データを、表5及び6にそれぞれ示す。
・・・
【0153】
【表6】
[図:0001391219000006.jpg]
・・・AMR101に対するこれらのデータと比較して、Grimsgaardの報告では、7週間の処置後のEPA群において、血清グリセリドの低下(ベースラインから)は12%のみであった。さらに、JELIS試験における現行のスタチン治療にEpadel EPA組成物を加えた結果では、5年間の処置後に、トリグリセリドの低下は9%のみであった。」
(当審注:表6によれば、AMR101によるベースラインからのトリグリセリドの低下は、6ヶ月後に171mg/dLから25.8mg/dL低下(換算で15%の低下でプラセボと比較して有意である(p=0.007)が、12ヶ月後は、プラセボと比較して低下は有意ではない(p=0.66)。)
(エ)実施例4(【0156】~【0161】)
・健常男性ボランティアにおける複数回投与薬物動態試験を行った。24人の対象を、それぞれ12人の対象からなる2つの処置群に分けた(群A及び群B)。両方の群が受けたAMR101の1日合計用量は同じであったが、投与レジメンは異なっていた。全ての対象は、1日目に単独経口用量2gのAMR101を服用した。処置群Aは、28日間連続で1日1回、用量2gのAMR101を服用した。処置群Bは、27日間連続で1日2回、用量1gのAMR101を服用し、30日目に単独用量2gのAMR101を服用した(【0156】)。
・単独経口用量で2gのAMR101により、血漿脂質EPAの急激な上昇が示された。EPAレベルでは、最大値が投与後5時間目に観察され、投与後48時間までベースラインを上回っていた。血漿脂質からのEPAの消失半減期は、87±65時間(ベースラインを差し引いていないもの)及び42±31時間(ベースラインを差し引いたもの)であった(【0159】)。
・治験実施計画に適合した集団においては、AMR101の経口投与により、RBCのEPAレベルが増加した(【0161】)。
なお、実施例3(【0154】~【0155】)には、表7に、Epadelカプセルの内容物と比較したAMR101カプセルの組成が記載されている。
「
[図:0001391219000007.jpg]
」
ウ (ア) 上記イの本願明細書の記載によれば、実施例1、2、4、特に、実施例1には、本願発明で特定される「少なくとも96重量%のE-EPA」に相当する(a)成分、及び、本願発明の「少なくとも0.2重量%のアラキドン酸エチル成分」に相当する(b)成分を含み、(c)成分のE-DHAが検出されないことから、本願発明の「0.06重量%以下のエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)」を満足すると解される組成物に相当するが、これら本願発明で規定される成分以外に、さらに、(d)~(g)の各種脂肪酸成分を所定量含む「AMR101」なるカプセルを使用した場合に、Epadelカプセルを5年間あるいは、「1日あたり4gの90%エチル-DHA及び4gの95%エチル-EPA及び少量の存在するDHA・・・を7週間」(【0141】)投与したGrimsgaardらの文献での結果に比べて、血清又は血漿EPA濃度が、ベースラインと比較してより向上すること等が示されているし、実施例2には、AMR101投与で6ヶ月目でハンチントン患者のTG(トリグリセリド)が低下したことが示されている。そして、引用文献Bのp.69右欄~p.70の左欄1段落の「1.試験デザイン」にJELIS試験の試験薬剤が「エパデール(R)」(「(R)」は、原文ではRの丸囲いがされた上付き文字)であることが記載されていることからすると、「Epadel」カプセルは、引用発明のカプセルに相当するものである可能性がある。
(イ) しかしながら、引用文献Aには、引用発明のE-EPAカプセルの投与により高リスクの高TG/低HDL-C群では、TGが低下し、また、平均血漿EPAレベルが2.6mol%から4.5mol%に顕著に上昇した旨が記載されているし(摘記a4、表2)、本願明細書で比較されている試験と本願の実施例の試験では、投与される薬剤のみならず、投与対象も投与期間も異なるから、当該結果を根拠にして本願発明の組成物の効果が優れているということはできない。このことは、本願発明の医薬が「トリグリセリド低下治療」を必要とする対象のためのものであるところ、本願の実施例2の表6によれば、AMR101を投与した場合のトリグリセリドの変化がプラセボに比べ、6ヶ月後では有意に低減していたのが、12ヶ月後には有意差がないという結果になっていることからも理解できる。
(ウ) さらに、表7によれば、AMR101カプセルとEpadelカプセルは、組成物の全体から見ると、そのほとんどをE-EPAが占めており、E-EPAの含有量の違いはわずかであり、しかも、E-EPAと拮抗作用を有することが既知のAA-Eの含有量はEpadelカプセルの方がより低いにも関わらず、図2で示される結果には大きな違いがあり、仮に、図1及び2で示される比較データが参酌できる場合であっても、当業者はこの違いが、E-EPAに少量含まれる上記イ(ア)の(d)~(g)の成分の違いによると考えるのが自然である。
また、AMR101カプセル(前者)とEpadelカプセル(後者)とを対比すると、(d)成分のODTA-Eは後者0.09重量%に対し前者0.25重量%と、(f)成分のETA―Eが後者0.11重量%に対し前者0.38重量%と、(g)成分であるHPA-Eが後者0.06重量%に対し前者0.11重量%となっており、これらそれぞれの成分としては顕著に増加している成分が結果に影響している可能性も考えられる。
(エ) そうすると、仮に、本願明細書に記載されるAMR101が血清又は血漿EPA濃度の向上の点で、引用発明のカプセルやGrimsgaardらの文献に記載の薬剤に比べて優れるとの結果から、本願発明で特定される対象に投与した場合についても同様の傾向であると推定する場合であっても、それは、あくまで、本願発明で特定される所定の成分の他に、上記イ(ア)の(d)~(g)の各種脂肪酸成分を所定量含む場合の効果に過ぎず、これら4成分が所定量含まれることについての特定のない本願発明全体にわたって奏される効果ともいえない。
エ したがって、本願明細書の記載から、本願発明により、引用発明及び引用文献A~Gの記載(並びに本願優先日当時の周知技術及び技術常識)から予期できない格別の効果が奏されているとは解されない。
3 請求人の主張について
ア 請求人は、令和4年2月1日提出の意見書の「5.」において、以下の主張旨主張している。
・本願発明と、引用発明とは、(i)引用文献Aには、安定スタチン治療を受けている患者が記載されていない点、(ii)本願発明では「1日あたり2g~4gのE-EPAを提供するために毎日投与」であるのに対して、引用文献Aには、「カプセル中に98%を超える純度を有するEPAエチルエステル(E-EPA)のわずか1.8g」を毎日投与する点、及び(iii)引用文献Aには、「0.06重量%以下のエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)を含む」組成物が記載されていない点において少なくとも相違している。
(意見書の3頁「5.」の3段落目)
・(iv)本願発明の顕著な効果は、当業者が引用文献A~Gから予測できなかったものである。(意見書の4頁5段落3~5行)
以下、 上記の(i)~(iv)に対応する点の主張を、それぞれ、「主張(i)」~「主張(iv)」という。
イ (ア)主張(i)について
主張(i)に関し、請求人は、より具体的には、以下の旨を主張する。
引用文献A~C及びFがJELISに関する文献であり、引用文献D、E、Fを参照しても、引用発明において「安定スタチン治療」を受けている患者を対象とすることは当業者が容易に想到し得た事項ではない。(意見書の4頁下から5段落目の1~3行)
そこで検討すると、上記2(1)で相違点1についての判断で説示したとおり、引用発明において、E-EPAを含む組成物を投与する対象を、「安定スタチン治療」を受けている患者とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(イ)主張(ii)について
主張(ii)に関し、請求人は、より具体的には、以下の旨を主張する。
引用文献Aでは、E-EPAカプセルのわずか1.8gを投与することを教示している。一方、本願発明は、「1日あたり2g~4gのエイコサペンタエン酸エチルエステル(E-EPA)を提供するために毎日投与」、すなわち、引用文献Aに教示されている用量の2倍を超える用量の投与を教示しているから、引用文献Aに基づき、当業者が本願発明において要求される毎日投与する用量に好適化する動機付けは存在しない。(意見書の4頁下から3~2段落)
そこで検討すると、本願発明の範囲に含まれる用量の2gは、引用発明の1.8gのわずか1.1倍であるし、上記2(2)で相違点2についての判断で説示したとおり、引用文献Aには、患者の状態に応じてE-EPAの量を2700mg/日まで増量できる旨が記載されているし、E-EPAを本願発明の程度の投与した例も既知であって、引用発明を「1日あたり2g~4gのエイコサペンタエン酸エチルエステル(E-EPA)を提供する」用量とすることは当業者が容易になし得ることである。
よって、請求人の主張(ii)は採用できない。
(ウ)主張(iii)について
主張(iii)に関し、請求人は、より具体的には、以下のとおり主張する。
「引用文献Aには、「0.06重量%以下のエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)」は記載されておらず、引用文献B~Gは、この欠陥を是正しません。したがって、当業者が、引用文献A~Gの記載を組み合わせて本願発明に到達する動機付けは存在しません。」(意見書の5頁14~16行)
そこで検討すると、引用文献Aに「0.06重量%以下のエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)」が記載されていない点は、引用発明との相違点3として指摘しており、引用発明を、本願発明の「0.06重量%以下のエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)を含」む)との条件を満足するものとすることが、当業者が容易になし得たことであることは、上記2(3)において説示したとおりである。
よって、請求人の主張(iii)は採用できない。
なお、本願明細書の【0003】には、「別の実施形態において、本組成物は、ドコサヘキサエン酸(DHA)又はエチル-DHA(DHA-E)などのその誘導体を、実質的に含まないか又は含まず、例えば、約0.06重量%以下、約0.05重量%以下、又は約0.04重量%以下の量で含有する。」と記載されるとおり、本願発明の「0.06重量%以下のエチルドコサヘキサエン酸(E-DHA)を含」む)とは、E-DHA実を質的に含まないか又は含まないことを意味すると解されるところ、そのようなE-EPAは上記2(3)イに記載のとおり既知である。
(エ)主張(iv)について
主張(iv)に関し、請求人は、より具体的には、以下のとおり主張する。
「本願明細書には、JELIS及びその結果「5年間の処置後、対象が示した血漿EPAの増加はたった70%であった」ことが記載されています(明細書0143段落)。これとは逆に、本願明細書の図1及び2は「現行試験のAMR101処置により観察される血漿/血清EPAレベルの変化を、JELIS試験及びGrimsgaardにおける異なるEPA組成物で観察される血漿/血清EPAレベルの変化と比較して示して」おり、「1日あたり約2gのAMR101により、ベースラインと比較した血漿EPAにおいて、たった6週間後に、JELIS試験で5年間の処置後に観察された増加(2倍未満)よりもはるかに大きい増加(約4倍)が達成された」こと、「これらの結果は予想し得ないものであった」ことが記載されています(明細書0144段落)。
本願明細書の実施例には、2g/日(「1グラム2回」)のAMR101治療の6か月後には、JELISレジメンと比較して、投与後の血漿/血清EPAレベルに有意差があっただけでなく、トリグリセリドの減少にも顕著な違いが観察されたことが示されています(明細書0145段落、0147段落、0153段落及び表6)。また、6ヶ月後にAMR101を服用した個体は、TGが、ベースラインの171mg/dLから26mg/dL低下したことも記載されています(明細書0151段落及び表6)。
さらに、「AMR101に対するこれらのデータと比較して、・・・さらに、JELIS試験における現行のスタチン治療にEpadel EPA組成物を加えた結果では、5年間の処置後に、トリグリセリドの低下は9%のみであった。」(明細書0153段落)とも記載されています。」(意見書の4頁3~4段落)
「したがって、JELISに対して示された本願発明1の顕著な効果も、当業者がこれらの文献に基づき予測できなかったものです。」(意見書の4頁5段落3~5行)
しかしながら、上記2(4)イで記載したとおり、請求人が指摘する上記の実施例の結果は、本願発明の実施例には相当するものとはいえないし、上記2(4)ウで記載するとおり、仮に、本願明細書に記載されるAMR101が血清又は血漿EPA濃度の向上の点で、引用発明のカプセルやGrimsgaardらの文献に記載の薬剤に比べて優れるとの結果を、本願発明で特定される対象に投与した場合についても同様の傾向であると推定する場合であっても、それは、あくまで、本願発明で特定される所定の成分の他に、上記2(4)イ(ア)で記載する(d)~(g)の各種脂肪酸成分を所定量含む場合の効果に過ぎず、これら4成分が所定量含まれることについての特定のない本願発明全体にわたって奏される効果ともいえないから、本願発明の効果が、引用文献A~Gから当業者が予測できないものであるとはいえない。
したがって、請求人の主張(iv)も採用できない。
4 まとめ
よって、本願発明は、引用発明及び引用文献A~Gに記載の知見(並びに本願優先日当時の周知技術及び技術常識)から、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-010212