特許拒絶査定不服審判
2020-007305
二本鎖RNAによるα-1アンチトリプシンの特異的阻害のための方法及び組成物
- 審判番号
- 2020-007305
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-524365外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年05月29日
- 審決日
- 2021年07月26日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイセルナ ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】相原 礼路
- 分類
- P18 .16 -Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条の2
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第184条の4第3項、特許法第184条の4第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2016-524365「二本鎖RNAによるα-1アンチトリプシンの特異的阻害のための方法及び組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 8日国際公開、WO2015/003113、平成28年 9月23日国内公表、特表2016-528887〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2014年7月3日(パリ条約による優先権主張 2013年7月3日 アメリカ合衆国(US)、2013年10月16日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、出願後の手続きの経緯は、概略以下のとおりである。
平成29年7月 3日 手続補正書提出
平成30年7月23日付け 拒絶理由通知
平成31年1月30日 意見書及び手続補正書提出
同年3月 4日付け 拒絶理由通知
令和 1年9月11日 意見書及び手続補正書提出
令和 2年1月27日付け 拒絶査定
同年5月29日 審判請求書及び手続補正書提出
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年5月29日提出の手続補正書に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「22ヌクレオチド長からなるオリゴヌクレオチド鎖を含む核酸であって、
前記オリゴヌクレオチド鎖が、19ヌクレオチド長からなるα-1アンチトリプシンmRNAの連続した配列に完全に相補性がある領域を有し、前記連続した配列が、配列番号1348に示される標的α-1アンチトリプシンmRNA配列を含み、前記核酸が、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含む、前記核酸。」
第3 拒絶の理由
令和2年1月27日付け拒絶査定の理由は、本件出願の請求項1~15に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた以下の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)、というものである。
先願:国際特許出願PCT/US2014/039109号
(国際公開第2014/190137号)
(特表2016-520312号公報参照)
(令和2年1月27日付け拒絶査定の引用例5に相当)
第4 先願
1 先願明細書等の記載事項
令和2年1月27日付け拒絶査定に引用例5として引用された2014年5月22日(パリ条約による優先権主張 2013年5月22日 アメリカ合衆国(US)、2013年11月1日 アメリカ合衆国(US)、2014年5月6日 アメリカ合衆国(US)、2014年4月15日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする国際特許出願(PCT/US2014/039109)であって、本願の出願日(2014年7月3日)後の2014年11月27日に国際公開され(国際公開第2014/190137号)、その後、特許法184条の4第1項に規定する翻訳文が提出された国際特許出願(以下、「先願」という。)の国際出願日における明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には以下のア~オの事項が記載されている。そして、以下のア~オの事項は、先願において優先権主張の基礎となる米国出願61/826,125(2013年5月22日出願)の出願当初明細書にも記載されている。
また、本願の発明者が先願に係る発明をした者と同一の者ではなく、また本願出願の時にその出願人が先願の出願人と同一の者でもない。
なお、下線は当審が付与した。先願明細書等の以下の事項については、先願明細書等の翻訳文が記載されている特表2016-520312号公報(以下、「公表公報」という)の該当箇所の訳文をもって示し、先願明細書等の記載箇所を国際公開第2014/190137号における請求項、頁及び行で示した後に、括弧書きで当該公表公報の明細書等における対応箇所を明示した。
ア 「細胞におけるSerpina1の発現を阻害する2本鎖RNAi物質であって、
該2本鎖RNAi物質が2本鎖領域を形成するセンス鎖およびアンチセンス鎖を含み、
該センス鎖が、配列番号1、配列番号2、または配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、または配列番号11のヌクレオチド配列のいずれかと3ヌクレオチド以下が異なる少なくとも15連続ヌクレオチドを含み、該アンチセンス鎖が配列番号15、配列番号16、または配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、または配列番号25のヌクレオチド配列のいずれかと3ヌクレオチド以下が異なる少なくとも15連続ヌクレオチドを含み、
該センス鎖の本質的にすべてのヌクレオチドおよび該アンチセンス鎖の本質的にすべてのヌクレオチドが修飾ヌクレオチドであり、
該センス鎖が3’末端に結合したリガンドと結合している2本鎖RNAi物質。」(請求項1(公表公報の請求項1)
イ 「図8AはホモサピエンスSerpina1転写産物変異体1のヌクレオチド配列(配列番号1)を示す;図8BはホモサピエンスSerpina1転写産物変異体3のヌクレオチド配列(配列番号2)を示す;図8CはホモサピエンスSerpina1転写産物変異体2のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す;図8DはホモサピエンスSerpina1転写産物変異体4のヌクレオチド配列(配列番号4)を示す;図8EはホモサピエンスSerpina1転写産物変異体5のヌクレオチド配列(配列番号5)を示す;図8FはホモサピエンスSerpina1転写産物変異体6のヌクレオチド配列(配列番号6)を示す;図8GはホモサピエンスSerpina1転写産物変異体7のヌクレオチド配列(配列番号7)を示す;図8HはホモサピエンスSerpina1転写産物変異体8のヌクレオチド配列(配列番号8)を示す;図8IはホモサピエンスSerpina1転写産物変異体9のヌクレオチド配列(配列番号9)を示す;図8JはホモサピエンスSerpina1転写産物変異体10のヌクレオチド配列(配列番号10)を示す;図8KはホモサピエンスSerpina1転写産物変異体11のヌクレオチド配列(配列番号11)を示す;図8LはアカゲザルSerpina1のヌクレオチド配列(配列番号12)を示す;図8MはアカゲザルSerpina1転写産物変異体6のヌクレオチド配列(配列番号13)を示す;図8NはアカゲザルSerpina1転写産物変異体4のヌクレオチド配列(配列番号14)を示す;図8Oは配列番号1の逆相補物(配列番号15)を示す;図8Pは配列番号2の逆相補物(配列番号16)を示す;図8Qは配列番号3の逆相補物(配列番号17)を示す;図8Rは配列番号4の逆相補物(配列番号18)を示す;図8Sは配列番号5の逆相補物(配列番号19)を示す;図8Tは配列番号6の逆相補物(配列番号20)を示す;図8Uは配列番号7の逆相補物(配列番号21)を示す;図8Vは配列番号8の逆相補物(配列番号22)を示す;図8Wは配列番号9の逆相補物(配列番号23)を示す;図8Xは配列番号10の逆相補物(配列番号24)を示す;図8Yは配列番号11の逆相補物(配列番号25)を示す;図8Zは配列番号12の逆相補物(配列番号26)を示す;図8AAは配列番号13の逆相補物(配列番号27);そして図8ABは配列番号14の逆相補物(配列番号28)を示す。」(第16頁第23行目~第17頁第13行目(公表公報の【0092】))
ウ 「用語「アンチセンス鎖」は、標的配列(例えば、ヒトSerpina1 mRNA)と実質的に相補的な領域を含む2本鎖RNAi物質の鎖を表す。本明細書で用いている用語「Serpina1をコードするmRNAの部分と相補的な領域」は、Serpina1 mRNA配列の部分と実質的に相補的なアンチセンス鎖の領域を表す。相補的な領域が標的配列と完全に相補的ではない場合は、ミスマッチは末端領域でほぼ許容され、存在する場合は、一般的には末端領域、または例えば5’および/または3’末端の8、7、6、5、4、3、または2ヌクレオチド以内の領域にある。」(第22頁第8~15行目(公表公報の【0116】))
エ 「RNAi物質はセンス鎖とアンチセンス鎖を含む。RNAi物質の各鎖は、長さが12~30ヌクレオチドの範囲でありうる。例えば、各鎖は、14~30ヌクレオチドの長さ、17~30ヌクレオチドの長さ、19~30ヌクレオチドの長さ、25~30ヌクレオチドの長さ、27~30ヌクレオチドの長さ、17~23ヌクレオチドの長さ、17~21ヌクレオチドの長さ、17~19ヌクレオチドの長さ、19~25ヌクレオチドの長さ、19~23ヌクレオチドの長さ、19~21ヌクレオチドの長さ、21~25ヌクレオチドの長さ、または21~23ヌクレオチドの長さでありうる。」(第27頁第34行目~第28頁第2行目(公表公報の【0146】))
オ 「【実施例1】
GalNAc結合オリゴヌクレオチドの合成
Serpina1 mRNAの配列にわたる一連のsiRNA2本鎖を、設計し、合成し、上記技術を用いてセンス鎖の3末端の三価GalNAcと結合させた。これら2本鎖の配列を表1に示す。種々のヌクレオチド修飾を有するこれらの同じ配列も合成し、三価GalNAcと結合した。修飾2本鎖の配列を表2に示す。
表1.Serpina1非修飾配列
[図:0001380334000001.jpg]
」(第120頁第1行目~第121頁(公表公報の【0505】~【0506】))
2 先願明細書等記載の発明
先願明細書等には、細胞におけるSerpina1の発現を阻害する2本鎖RNAi物質のアンチセンス鎖が、ホモサピエンスSerpina1転写産物のヌクレオチド配列の逆相補物の連続ヌクレオチドを含み、該アンチセンス鎖のヌクレオチドが修飾ヌクレオチドであることが記載されている(上記ア、イ)。
また、先願明細書等には、実施例1において、ヌクレオチド修飾を有する、siRNA2本鎖である「AD-59062.2」及び「AD-59062.1」を合成したこと、「AD-59062.2」及び「AD-59062.1」のアンチセンストランス配列は、いずれも23ヌクレオチド長の「AUUAAGAAGACAAAGGGUUUGUU」であることが記載されている(上記オ)。
以上のことから、先願明細書等には、以下の発明が記載されていると認める。
「23ヌクレオチド長からなる、2本鎖RNAi物質のアンチセンス鎖であって、
前記アンチセンス鎖が、23ヌクレオチド長からなるSerpina1転写産物のヌクレオチド配列の逆相補物の連続ヌクレオチドであるAUUAAGAAGACAAAGGGUUUGUUを有し、前記アンチセンス鎖が修飾ヌクレオチドを有する、前記アンチセンス鎖。」(以下、「先願発明」という。)
3 対比、判断
(1)本願発明と先願発明の一致点及び一応の相違点
先願発明の「2本鎖RNAi物質のアンチセンス鎖」は、本願発明の「オリゴヌクレオチド鎖」に相当するとともに、「核酸」にも相当する。
「Serpina1」は、「α-1アンチトリプシン」の別名であり、「転写産物」は「mRNA」であるから、先願発明の「Serpina1転写産物」は、本願発明の「α-1アンチトリプシンmRNA」に相当する。
先願発明のアンチセンス鎖は、Serpina1転写産物のヌクレオチド配列の逆相補物の連続ヌクレオチドであるAUUAAGAAGACAAAGGGUUUGUUを有する核酸であるから、本願発明の「α-1アンチトリプシンmRNAの連続した配列に完全に相補性がある領域を有」する「核酸」であるといえる。
そして、本願明細書の一部である配列表によれば、本願発明における配列番号1348に示される標的α-1アンチトリプシンmRNA配列は「AAACCCUUUGUCUUCUUAA」であるところ、先願発明のアンチセンス鎖の2~20番目のヌクレオチドである「UUAAGAAGACAAAGGGUUU」は、これと完全に相補性がある領域であるから、先願発明のアンチセンス鎖は、本願発明の配列番号1348に示される標的α-1アンチトリプシンmRNA配列を含む連続した配列に完全に相補性がある領域を有するものであるといえる。
また、本願の請求項1には、「22ヌクレオチド長からなるオリゴヌクレオチド鎖を含む核酸であって」と記載されており、当該記載によれば、22ヌクレオチド長からなるものは、「オリゴヌクレオチド鎖」又は「核酸」のいずれかであると解される。そして、22ヌクレオチド長からなるものが、「オリゴヌクレオチド鎖」であれば、本願発明の核酸のヌクレオチド長は、核酸は22ヌクレオチド長からなるオリゴヌクレオチド鎖を「含む」ものであるから、22ヌクレオチド長以上の長さであり、そして、先願発明のアンチセンス鎖の23ヌクレオチド長も22ヌクレオチド長以上の長さに相当する。
そこで、22ヌクレオチド長からなるものが、(a)「オリゴヌクレオチド鎖」である場合と、(b)「核酸」である場合とに分けて、本願発明と先願発明との一致点及び一応の相違点を整理すると、以下のとおりとなる。
(a)22ヌクレオチド長からなるものが「オリゴヌクレオチド鎖」である場合
<一致点a>
「23ヌクレオチド長からなるオリゴヌクレオチド鎖である核酸であって、
前記オリゴヌクレオチド鎖が、α-1アンチトリプシンmRNAの連続した配列に完全に相補性がある領域を有し、前記連続した配列が、「AAACCCUUUGUCUUCUUAA」である標的α-1アンチトリプシンmRNA配列を含み、前記核酸が、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含む、前記核酸。」
<一応の相違点a>
「α-1アンチトリプシンmRNAの連続した配列に完全に相補性がある領域」のヌクレオチド長が、先願発明ではオリゴヌクレオチド鎖全体である23ヌクレオチド長からなるのに対し、本願発明ではオリゴヌクレオチド鎖のうちに含まれる19ヌクレオチド長からなる点。
(b)22ヌクレオチド長からなるものが「核酸」である場合
<一致点b>
「オリゴヌクレオチド鎖である核酸であって、
前記オリゴヌクレオチド鎖が、α-1アンチトリプシンmRNAの連続した配列に完全に相補性がある領域を有し、前記連続した配列が、「AAACCCUUUGUCUUCUUAA」である標的α-1アンチトリプシンmRNA配列を含み、前記核酸が、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含む、前記核酸。」
<一応の相違点b-1>
「オリゴヌクレオチド鎖である核酸」のヌクレオチド長が、先願発明では23ヌクレオチド長からなるのに対し、本願発明では22ヌクレオチド長からなる点。
<一応の相違点b-2>
「α-1アンチトリプシンmRNAの連続した配列に完全に相補性がある領域」のヌクレオチド長が、先願発明ではオリゴヌクレオチド鎖全体である23ヌクレオチド長からなるのに対し、本願発明ではオリゴヌクレオチド鎖のうちに含まれる19ヌクレオチド長からなる点。
(2)一応の相違点についての判断
上記一応の相違点について検討する。
まず、一応の相違点b-1については、先願明細書等には、アンチセンス鎖のヌクレオチド長が「21~23ヌクレオチド長」でありうることが記載されており(上記エ)、22ヌクレオチド長はその中央値であるから、アンチセンス鎖である核酸のヌクレオチド長が22ヌクレオチド長からなるものも、先願明細書に実質的に記載されているといえる。
次に、一応の相違点a及びb-2については、先願明細書等には、ホモサピエンスSerpina1転写産物のヌクレオチド配列の逆相補物の連続ヌクレオチドについて、19連続ヌクレオチドにもその範囲が及ぶ、「少なくとも15連続ヌクレオチド」であると記載されているから(上記ア、イ)、ホモサピエンスSerpina1転写産物のヌクレオチド配列の逆相補物の連続ヌクレオチドの長さを「19ヌクレオチド長からなる」ものとすることは、先願明細書等に実質的に記載されている。また、mRNAの翻訳を阻害するために、転写産物のヌクレオチド配列の逆相補物の連続ヌクレオチドの長さが「19ヌクレオチド長からなる」ものは広く用いられており、そして、国際公開第2012/178033号の表3に記載されているとおり、Serpina1の発現を阻害するための2本鎖リボ核酸(dsRNA)のアンチセンス鎖として、Serpina1転写産物のヌクレオチド配列の逆相補物の連続ヌクレオチドである「19ヌクレオチド長からなる」ものも、本願の優先権主張の日前に既に知られている。
さらに、先願明細書等には、相補的な領域の末端領域において数ヌクレオチドがミスマッチとして許容されることも記載されている。
してみると、先願発明において、ホモサピエンスSerpina1転写産物のヌクレオチド配列の逆相補物の連続ヌクレオチドの長さを「19ヌクレオチド長からなる」ものとすること、その際に、先願発明におけるアンチセンス鎖である23ヌクレオチド長からなる連続ヌクレオチド「AUUAAGAAGACAAAGGGUUUGUU」のうちより、本願発明の配列番号1348に示される「AAACCCUUUGUCUUCUUAA」に完全に相補性がある領域に相当するものである、2~20番目のヌクレオチド「UUAAGAAGACAAAGGGUUU」に19ヌクレオチド長からなる連続ヌクレオチドを設定し、その末端領域に存在する数ヌクレオチドについてはミスマッチなものとすることは、先願明細書に実質的に記載されているといえる。また、仮にそうとまではいえないとしても、先願明細書等に記載されて上記技術的事項をふまえ、遺伝子工学の技術分野の当業者にとっての周知慣用技術を適用したものにすぎない。そして、先願発明の効果は、α-1アンチトリプシンmRNAの翻訳を阻害することであるところ、本願明細書の記載を検討しても、実施例等においてホモサピエンスSerpina1転写産物のヌクレオチド配列の逆相補物の連続ヌクレオチドの長さが「19ヌクレオチド長からなる」ものを用いた、α-1アンチトリプシンmRNAの翻訳阻害についての結果が何ら示されていない本願明細書の記載からは、本願発明がこれに対して新たな効果を奏するものとも認められない。
したがって、一応の相違点a、b-1及びb-2は、先願明細書等に実質的に記載されたもの、又は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)にすぎない。
よって、本願発明と先願発明とは、実質的に同一である。
4 審判請求人の主張
令和2年5月29日付け審判請求書において、請求人は、概ね以下の点を主張している。
19bpのみが標的配列に完全に相補性を有する本願発明の核酸がα-1アンチトリプシンレベルを低下させる効果を有することは、先願明細書等に記載されているに等しい事項ではない点(以下、「主張1」という。)。
本願発明に包含される核酸は22ヌクレオチド長であり、そのうちの19ヌクレオチドが標的配列に完全に相補的で、3つの余分なヌクレオチドを有するものであるが、そのような核酸は先願明細書等に記載されていない点(以下、「主張2」という。)。
しかしながら、上記3(2)にも記載したとおり、本願明細書には実施例等において、α-1アンチトリプシンmRNAのヌクレオチド配列の逆相補物の連続ヌクレオチドの長さが「19ヌクレオチド長からなる」ものを用いた、α-1アンチトリプシンmRNAの翻訳阻害についての結果は何ら示されていないのであるから、「19bpのみが標的配列に完全に相補性を有する本願発明の核酸がα-1アンチトリプシンレベルを低下させる効果を有する」という請求人の上記主張1は、本願明細書の記載に基づかないものである。
また、上記主張2については、本願の請求項1における「22ヌクレオチド長からなるオリゴヌクレオチド鎖を含む核酸であって」の記載について、22ヌクレオチド長からなるものが「核酸」である場合を前提とするものと解されるが、核酸のヌクレオチド長が22ヌクレオチド長からなるものが先願明細書に実質的に記載されているといえることは、上記3(2)に記載したとおりである。そして、19ヌクレオチド長からなる連続ヌクレオチドの末端領域に存在する数ヌクレオチドについてはミスマッチなものとすること、すなわち末端領域に数個の余分なヌクレオチドを有するものとすることが、先願明細書に実質的に記載されている、あるいは、先願明細書等に記載された上記技術的事項をふまえ、遺伝子工学の技術分野の当業者にとっての周知慣用技術を適用したものにすぎないことも、上記3(2)に記載したとおりである。
よって、審判請求書における請求人の主張を採用することはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-007305