審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2020-003368

トリグリセリドの固体組成物及びその使用

審判番号
2020-003368
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-529444外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年03月11日
審決日
2022年06月15日
公報発行日
2022年11月25日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2016-529444「トリグリセリドの固体組成物及びその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月21日国際公開、WO2015/073816、平成29年 1月19日国内公表、特表2017-501972〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2014年11月14日(パリ条約による優先権主張 2013年11月14日(US)米国)を国際出願日とする特許出願(特願2016-529444号)であり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。 平成30年10月22日 手続補正書の提出 平成31年 3月28日付け 拒絶理由通知(最後の拒絶理由通知) 令和 1年 7月 2日 意見書及び手続補正書の提出 同年10月30日付け 補正の却下の決定(令和1年7月2日提出の手続補正書でした補正を却下)及び拒絶査定 令和 2年 3月11日 手続補正書及び審判請求書の提出 同年12月22日付け 拒絶理由通知(当審) 令和 3年 6月 8日 応対記録(請求人代理人に対し、令和2年12月22日付けの拒絶理由通知の<本願発明>の項目における「令和1年6月5日付け手続補正書」は誤記であり、正しくは「令和2年3月11日付け手続補正書」であると読み替えて対応していただきたい旨を伝えて、了解を得た。) 同年 6月23日 意見書及び手続補正書の提出 同年 9月29日付け 審尋(当審) 令和 4年 1月 4日 回答書の提出 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、令和3年6月23日提出の手続補正書により補正(以下「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1~5に記載されたとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 98%w/wより高い純度を有するトリヘプタノインオイルを含有する、経口投与用に形成されたヒト患者用の医薬品組成物であって、前記トリヘプタノインオイルが0.2%w/w以下の水分を含み、実質的にグリセロールを含まない、前記医薬品組成物。」 第3 拒絶理由の概要 当審において令和2年12月22日付けで通知した拒絶理由は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記の引用文献に記載の発明に基いて、本願の優先日前に、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、という理由(理由3)を含むものである(主たる引用文献は、以下の引用文献B)。 <引用文献> A.特表2002-536304号公報 B.European Journal of Lipid Science and Technology,2012,114(8),p.889-895(DOI:10.1002/ejlt.201100425) C.米国特許出願公開第2006/0004099号明細書 D.特表2013-528648号公報 第4 引用文献の記載事項及び引用発明 1 引用文献Bに記載された事項及び引用発明 (1)引用文献Bに記載された事項 引用文献Bは、外国語で記載された文献であるため、合議体による訳文で示す。読みやすくするために、適宜合議体で改行を加えた。 また、下線は、合議体によるものであり、この審決において以下同様である。 ・摘記b1(タイトル及び要約) 「トリヘプタノインの合成及びげっ歯類用固形食餌としての配合設計」 「様々な代謝性疾患の実験的治療において、トリヘプタノイン強化飼料が、成功裏に用いられている。最大の治療効果は、トリヘプタノインオイルが一日当たりのカロリー摂取量の30%~40%を提供する、ケトン食の内容において達成されている。しかし、トリヘプタノイン強化飼料を用いる前臨床研究は、固形食糧として実験動物への投与が困難であるため、実施できなかった。本研究において、我々は、触媒としてスルホン化木炭を用いて、グリセロール及びヘプタン酸から最高水準の純度でトリヘプタノインを合成することに成功した。そして、トリヘプタノインオイルは、ケトン食の主成分並びに、親水性ヒュームドシリカ、疎水性ヒュームドシリカ、微結晶性セルロース及びタルクの4種の市販の配合剤の組合せを用いて、固形で安定かつ口当たりの良い調製物として配合物化された。食餌療法遵守および安全性について、C57Bl/6マウスで15週間にわたって試験し、全身状態および体重変化を比較した。 実際的応用:本研究は、(i)トリヘプタノインの有効かつ費用対効果の高い合成法、及び(ii)げっ歯類用の固形で安定かつ口当たりの良いケトン食(トリヘプタノイン強化;カロリー摂取量の39%)としてのその配合物の、完全な明細を提供する。トリヘプタノイン強化食餌は、ヒトの疾患の異なるげっ歯類モデルにおいてトリヘプタノインの治療有効性を試験する前臨床研究において、有益である。また、同一の固形化手順を用いることで、他のオイルをケトン食に導入でき、哺乳類の健康及び成長に関して他のオイルの投与量および長期間の効果を研究できる。この手法は、ケトン食がてんかんの治療に臨床で幅広く用いられているため、非常に価値のあるものである。」 ・摘記b2(1 Introduction) 「1 緒言 哺乳類において、グルコース(ブドウ糖)は、末梢組織及び脳に供給される主要な代謝基質である。しかし、長時間の絶食またはケトン食(KD)投与等のある種の環境下において、肝臓は、赤血球及び角膜といった、グルコース依存性組織用のグルコースの使用をひかえ、末梢器官及び脳によって優先的に使用される四炭素(C4)のケトン体(アセト酢酸及びβ-ヒドロキシ酪酸)を産生する。1990年代から、KDは、難治性てんかん[1]、GLUT-1欠乏症候群[2]、及びピルビン酸脱水酵素欠損症[3]の治療に臨床的に用いられている。 トリヘプタノイン(グリセロールトリエナチエート;1,2,3,-トリエナチオイルグリセロール;グリセロールトリヘプタノエート;トリエナンチンとも呼ばれる)は、三つのヘプタノイル鎖(C7:0)からなる特別な非天然のTAGである。KDに添加されると、トリヘプタノインは、肝臓内で、β-ケト-ペンタノエート及びβ-ヒドロキシペンタノエート等の非天然のケトン体に代謝される。末梢器官及び脳において、これらの血液由来五炭素ケトン(C5)は、スクシニル-CoAを介して直接トリカルボン酸サイクル(TCAサイクル、Krebsサイクルとも呼ばれる)に入り、「従来の」C4ケトン体とは異なって、補充炭素を提供する。補充反応は、TCAサイクルの中間体を補充し、よって生合成経路用の成分を提供する、反応である。トリヘプタノイン由来のC5は、中間代謝の様々な段階を回避して、ミトコンドリアを直接「活性化」できる[4]。この機構は、ミトコンドリア脂肪酸酸化欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、及び成人ポリグルコサン小体病等の代謝性疾患の治療において成功裏に用いられている[5~7]。興味深いことに、最近の臨床試験によれば、ハンチントン舞踏病の患者であっても、トリヘプタノイン食が有益である[8]。近年、基礎研究により、ミトコンドリア代謝の二次的混乱が伴い、癌、神経変性、及び心血管疾患等の多くの複合病を悪化させることが明らかとなった[1、9、10]。これらの疾患の別の動物モデルにおいて、トリヘプタノインの可能性がある治療効果を集中的にスクリーニングすれば、数多くの年齢が関係する病状の医療食事療法についての新たな地平が開かれるはずである。 いくつかの研究においてトリヘプタノインが非経口的に投与されている[11]ものの、KDと共に投与される(高タンパク質で高脂質であって、カロリーの最大三分の一がトリヘプタノインによって提供される)際に、トリヘプタノインは、最高の補助能(C5ケトンの産生能)を有する。しかし、トリヘプタノイン/KDsを用いる前臨床研究は、トリヘプタノインが低粘度であるため、固形食糧として実験動物にそれらを投与しにくいために、できなかった。本研究において、我々は、トリヘプタノインを単純な前駆体から製造する効率的な合成方法を開発し、トリヘプタノイン強化の、口当たりが良く、低拡散で、投与が容易な、固形飼料を作り上げた。 われわれの主要な目標は、かなりの量のトリヘプタノインを、トリヘプタノインが長期間の高用量療法で治療に用いられているために非常に重要な、卓越した純度レベルで提供する、有効で、経済的で、環境に優しい合成法を開発することであった。このため、非ハロゲン化溶剤中で触媒としてスルホン化木炭を用いることを考えた[12]。次に、われわれは、各添加剤の増粘能または吸収能ばかりではなく、それらのケトン生成との相関(すなわち、炭水化物含有量)およびげっ歯類における半数致死量をも考慮した、配合を設計した。この目標達成のため、親水性ヒュームドシリカ、疎水性ヒュームドシリカ、微結晶性セルロース、およびタルクの4種の購入可能な配合剤の組合せを本研究に用いた。最後に、食餌療法遵守および安全性について、C57Bl/6マウスで試験し、全身状態および体重変化を15週間にわたって比較した。」 ・摘記b3(2 Materials and methods) 「2 材料及び方法 2.1 化学薬品 ・・・ 2.2 トリヘプタノインの化学合成 2.2.1 一般的方法 NMRスペクトルは、400MHz(1H)及び100.6MHz(13C)にてCDCl3中で記録し、化学シフトは、内部標準としてのTMSまたは残留クロロホルム(δ=7.26ppm、δ=77.0ppm)からのδ値で報告した。データは、以下のように報告した:化学シフト、多重度、結合定数、積分強度。多重度は、以下の省略記号を用いて報告した:dd、ダブレットのダブレット;t、トリプレット;tt、トリプレットのトリプレット;m、マルチプレット。溶剤留去は、ロータリーエバポレーターで行った。薄層クロマトグラフィーは、SiO2(シリカゲル60 F254)上で実施し、各スポットは、1%KMnO4水溶液にて同定した。マススペクトルは、ESI+技術を用いるLTQスペクトロメーターで記録した。 2.2.2 スルホン化木炭触媒の調製 ・・・ 2.2.3 エステル化手順 スルホン化木炭触媒(4.20g、グリセロールに対し2.3重量%)を、グリセロール(176.85g、1.92mol)、ヘプタン酸(1000g、7.68mol、4.0当量)、及びトルエン(350mL)の混合物に加えた。この反応混合物を、Dean-Stark装置内で水が留去されるように還流下で加熱した(内部温度:140℃)(注釈1)(スキーム1を参照)。 後処理;A法:4日後に、トルエン(400mL)を用いて触媒を濾分した(濾紙;Albet 400)。濾液を、15%NaOH水溶液(3×300mL)(注釈2)及び蒸留水(2×50mL)で洗浄した。合わせた水層はトルエン(1×100mL)で抽出され、有機層を蒸留水で洗浄した(2×20mL)。合わせた有機層を、硫酸ナトリウム(Na2SO4)上で乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮して、透明で無色の液状産物を得た。この産物を、真空乾燥オーブン内で乾燥して(60℃、20~30mbar、48時間)、透明で無色のオイル状液体(802g、97.5%)を得たが、純度は99%以上(GC/MS)であった。 後処理;B法:20gスケールの実験:得られた濾液を留去し、残渣を分別蒸留して、透明で無色のオイル状液体(20.14g、94%、190℃、1mmHg)を得たが、純度は99%以上(GC/MS)であった。 [図:0001389992000001.jpg] (「スキーム1.エステル化反応」 左から順に、「グリセロール(1当量)」、「ヘプタン酸(4当量)」、「スルホン化木炭触媒(2.3重量%、)」、「Dean-Starkトラップ還流,トルエン溶媒,4日間」、「トリヘプタノイン;800gスケール 収率=97.5%;GC/MS純度=99%以上」) 2.2.4 分析データ IR(NaCl):2930、1745(s、COOR)、1162cm-1。1H NMR(400MHz、COSY、CDCl3):δ(ppm)=0.89(t、J=6.8Hz、9H、3x -7CH3)、1.25-1.31(m、18H、3x -4CH2-5CH2-6CH2-)、1.61(m、6H、3x -3CH2-)、2.31(m、6H、3x -2CH2-)、4.15(dd、J=11.9、6.0Hz、2H、3xHA)、4.30(dd、J=11.9、4.3Hz、1H、2xHA)、5.27(tt、J=6.0、4.3Hz、1H、HB)。13C NMR(100.6MHz、HSQC、CDCl3):δ(ppm)=13.9(3xC-7、CH3)、22.4(3xC-6、CH2)、24.7(3xC-3、CH2)、28.7(3xC-4、CH2)、31.3(3xC-5、CH2)、33.9(2xC-2A、CH2)、34.1(C-2B、CH)、62.0(2xC-A、CH2)、68.8(C-B、CH)、172.7(C-1B、COOR)、173.1(2xC-1A、COOR)(図1参照)。MS-EI m/z 299(21;C17H31O4●)、285(10;C16H29O4●)、113(100;C7H13O●)、85(16;C6H13●)。元素分析:C24H44O6についての計算値;C 67.26、H 10.35。検出値;C 67.12、H 10.64(注釈3):高解像度MS:C22H48NO6(M++NH4+)446.3474、計算値446.3476(注釈4):UV-Vis(EtOH)=211nm(Imax)。TLC:Rf=0.26(SiO2、CH2Cl2中の2%MeOH溶液)。 合成に対する注釈: (i) 106mLの水を回収したが、反応中に形成されると予測された水の量は103.7mLであって、過剰分は用いた溶剤からである。 (ii) 0.40%の誤差が許容されるが、誤差は、Cについて0.14%、Hについて0.29%であった。 (iii) 5ppmの誤差が許容されるが、0.42ppmであった。 (iv) 反応終了時に、混合物は、1.92molの未反応のヘプタン酸を含有していた。アルカリ精製のために、2molの過剰の塩基、すなわち、3.84mol(153.6g)が用いられた。15%(重量)溶液は、153.6gのNaOH及び870mLの水である。観察結果:ヘプタン酸のナトリウム塩は、一時的固体、すなわち石鹸を形成できるが、瞬時に溶解する。 [図:0001389992000002.jpg] (図1.トリヘプタノイン: :NMR同定用の原子命数法)」 ・摘記b4(「3 Results and discussion」の「3.1」の4~5段落) 「3 結果及び考察 3.1 グルセロールとヘプタン酸からのトリヘプタノインの合成:高収率で高純度 ・・・ したがって、我々は、不均一系触媒(スルホン化木炭)の下でのトルエン中でのグリセロールによるヘプタン酸(33モル%過剰)のエステル化を含む、トリヘプタノイン合成の代替法を開発した。この反応は、純度を損なうことなく、94%~97%の収率を保ったまま、5gから800gにスケールアップされた。「グリーン・ケミストリー指標」[20]に関して、この方法は、水が唯一の副産物であって、触媒のリサイクルが可能である[13]ため、環境に優しいと考えられ得る。この方法の原子効率(AE)は、88.8%であり、炭素有効性(CE)は、75.5%である。非結合の試薬及び溶剤も含まれる、厳密な指標である質量強度(MI)は、1.85g/gである。非常に良好なMI比によって、われわれの合成法が高度に有効であることが確認された。高度に純粋なトリヘプタノインを得るためのこの方法は、クリーンで、費用対効果が高く、安全で、設定が容易である。 全ての分析データ(1H NMR、13C NMR、IR、等)は、以前報告されたデータと一致した。さらに、高解像度MS及び元素分析を実施した。特に、以前の13C NMRの同定は、以前に同定されたピークの31.32(C-5)及び24.70(C-3)が入れ替わっていると二次元研究により明らかにされているため、修正されるべきである。」 ・摘記b5(「4 Conclusions」の1~2段落) 「4 結論 化学的観点から、我々は、(i)ヘプタン酸を小さな過剰量だけで用いて、(ii)触媒金属を用いない、(iii)環境に優しい溶剤及び触媒のみが関与し、(iv)カラムクロマトグラフィーも製品の他の精製手段も必要ではない、といった明確な利点を有する、トリヘプタノインの費用対効果の高い合成法を開発した。トリヘプタノインは、94%~97%の収率で単離され、純度は99%以上(GC/MS)で、さらなる精製が不必要であった。この反応は、5gから800gまで正常にスケールアップされた。 4つの医薬添加剤を組み合わせることで、パイロットBMの拡散能及び粘弾性特性が改善され、固形で、口当たりが良く、非毒性で、安定で、取り扱いが容易な、げっ歯類用TKD配合物が得られた。最終的に、動物試験により、この飼料が良く容認され、補充のTKDを必要とする幅広い慢性試験において使用可能であることが示された。」 (合議体注:上記において、「TKD]とは、引用文献Bの「3.2 The combination of four pharmaceutical additives improves the spreading capacity and viscoelastic parameters of the triheptanoin-rich ketogenic diet(TKD)」の項目欄に記載のとおり、「トリヘプタノイン強化ケトン食」を意味する。なお、引用文献Bの原文における「GC-MS」は「GC/MS」と同義であるので、訳文では「GC/MS」に統一して記載した。) (2)引用発明 上記(1)の引用文献Bの記載、特に、(摘記b1)要約本文の「本研究において、我々は、触媒としてスルホン化木炭を用いて、グリセロール及びヘプタン酸から最高水準の純度でトリヘプタノインを合成することに成功した。そして、トリヘプタノインオイルは、ケトン食の主成分並びに、親水性ヒュームドシリカ、疎水性ヒュームドシリカ、微結晶性セルロース及びタルクの4種の市販の配合剤の組合せを用いて、固形で安定かつ口当たりの良い調製物として配合物化された。」なる記載、同要約「実際的応用」の「トリヘプタノイン強化食餌は、ヒトの疾患の異なるげっ歯類モデルにおいてトリヘプタノインの治療有効性を試験する前臨床研究において、有益である。」なる記載、(摘記b2)の「1 緒言」の2段落中程の「トリヘプタノイン由来のC5は、中間代謝の様々な段階を回避して、ミトコンドリアを直接「活性化」できる[4]。この機構は、ミトコンドリア脂肪酸酸化欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、及び成人ポリグルコサン小体病等の代謝性疾患の治療において成功裏に用いられている[5~7]。・・・近年、基礎研究により、ミトコンドリア代謝の二次的混乱が伴い、癌、神経変性、及び心血管疾患等の多くの複合病を悪化させることが明らかとなった[1、9、10]。これらの疾患の別の動物モデルにおいて、トリヘプタノインの可能性がある治療効果を集中的にスクリーニングすれば、数多くの年齢が関係する病状の医療食事療法についての新たな地平が開かれるはずである。」なる記載、及び、(摘記b5)の「トリヘプタノインは、94%~97%の収率で単離され、純度は99%以上(GC-MS)」及び「4つの医薬添加剤を組み合わせることで、・・・固形で、口当たりが良く、非毒性で、安定で、取り扱いが容易な、げっ歯類用TKD配合物が得られた。」なる記載、(摘記b3)の「2.2.3」のエステル化手順により、後処理工程を経て得られたトリヘプタノインは、「純度は99%以上(GC/MS)」の「透明で無色のオイル状液体」であるとの記載によれば、引用文献Bには、以下の発明が記載されているといえる。 「口当たりの良い固形TKD(トリヘプタノイン強化ケトン食)配合物に配合される、純度99%以上(GC/MS)のトリヘプタノインオイルであって、 前記配合物は、トリヘプタノインオイル、ケトン食の主成分、並びに、親水性ヒュームドシリカ、疎水性ヒュームドシリカ、微結晶性セルロース及びタルクの4つの配合剤の組合せからなる配合物であり、トリヘプタノインの治療有効性を試験する前臨床研究において、ヒトの疾患のげっ歯類モデルに使用されるものである、前記トリプタノインオイル。」(以下「引用発明B」という。) (以下、「ケトン食の主成分、並びに、親水性ヒュームドシリカ、疎水性ヒュームドシリカ、微結晶性セルロース及びタルクの4つの配合剤の組合せ」を「所定の配合成分」ともいう。) 第5 本願発明と引用発明Bとの対比・判断 1 対比 ア 引用発明Bの「トリヘプタノインオイル」は、「口当たりの良い固形TKD(トリヘプタノイン強化ケトン食)配合物に配合されるものであるから、本願発明の「経口投与用」のものであるといえる。 イ 本願明細書の【0003】に「トリヘプタノインなどのトリグリセリド薬」と記載されるとおり、本願発明の「トリヘプタノインオイル」は、「医薬」である。そして、引用発明Bの「トリヘプタノインオイル」も、「トリヘプタノインの治療有効性を試験する前臨床研究において、ヒトの疾患のげっ歯類モデルに使用される」ものであって「医薬」であるといえる。 そうすると、引用発明Bの口当たりの良い固形TKD(トリヘプタノイン強化ケトン食)配合物に配合される「トリヘプタノインオイル」と、本願発明の医薬品組成物に含まれる「トリヘプタノインオイル」は、「医薬」である限りにおいて一致するといえる。 ウ したがって、本願発明と引用発明Bは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 経口投与用の医薬として用いられるトリヘプタノインオイル。 <相違点1> 本願発明は、「トリヘプタノインオイルを含有する、経口投与用に形成されたヒト患者用の医薬品組成物」であるのに対し、 引用発明Bは、「口当たりの良い固形TKD(トリヘプタノイン強化ケトン食)配合物に配合されるトリヘプタノインオイルであって、 前記配合物は、トリヘプタノインオイルと、ケトン食の主成分、並びに、親水性ヒュームドシリカ、疎水性ヒュームドシリカ、微結晶性セルロース及びタルクの4つの配合剤の組合せ(つまり、「所定の配合成分」)からなる配合物であり、トリヘプタノインの治療有効性を試験する前臨床研究において、ヒトの疾患のげっ歯類モデルに使用されるものである」「トリプタノインオイル」である点。 <相違点2> 医薬として用いられるトリヘプタノインオイルについて、本願発明では「98%w/wより高い純度を有する」ものであり、「0.2%w/w以下の水分を含み」、「実質的にグリセロールを含まない」ことが特定されているのに対し、引用発明Bでは、「純度99%以上(GC/MS)」であることが特定されている点。 2 判断 (1)相違点1について 引用発明Bの、「トリヘプタノンオイル」が所定の配合成分と組合せて配合された「口当たりの良い固形TKD(トリヘプタノイン強化ケトン食)配合物」は、「トリヘプタノインの治療有効性を試験する前臨床研究において、ヒトの疾患のげっ歯類モデルに使用されるもの」である。 そして、引用文献Bの(摘記b2)の「1 緒言」の2段落中程に、「トリヘプタノイン由来のC5は、中間代謝の様々な段階を回避して、ミトコンドリアを直接「活性化」できる[4]。この機構は、ミトコンドリア脂肪酸酸化欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、及び成人ポリグルコサン小体病等の代謝性疾患の治療において成功裏に用いられている[5~7]。・・・近年、基礎研究により、ミトコンドリア代謝の二次的混乱が伴い、癌、神経変性、及び心血管疾患等の多くの複合病を悪化させることが明らかとなった[1、9、10]。これらの疾患の別の動物モデルにおいて、トリヘプタノインの可能性がある治療効果を集中的にスクリーニングすれば、数多くの年齢が関係する病状の医療食事療法についての新たな地平が開かれるはずである。」と記載されており、この記載は、従来から、トリヘプタノインが、ミトコンドリア脂肪酸酸化欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、及び成人ポリグルコサン小体病等のヒトの代謝性疾患の治療に用いられていること、及び、トリヘプタノインが代謝の異常に関係して悪化する疾患のための医療食事療法における治療において有用である可能性があることを示すものであるから、上記「トリヘプタノインの治療有効性を試験する前臨床研究」が、「トリヘプタノイン」を「ヒトの(代謝に関係する)疾患の治療」のための医薬として用いることを前提としてなされている研究であることは、明らかである。 また、トリヘプタノインを、上記のようなヒトの代謝性疾患の治療のための医薬として用いることは、本願の優先日前から周知であった(例えば、引用文献Aには、トリヘプタノイン(オイル)をカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII等の各種脂肪酸代謝に関与する酵素の欠乏により引き起こされる脂肪酸代謝不全の治療に用いること(請求項31を引用する請求項32を引用する請求項38を引用する請求項41を引用する請求項44を引用する請求項46、及び請求項31を引用する請求項32を引用する請求項33、並びに、実施例2の重篤なトランスロカーゼ不全患者におけるトリヘプタノインによる介入試験)が、引用文献Cには、糖原病の治療に使用することが(請求項1、8、10、11及び[0097]及び図5、実施例2)、引用文献Dには、成人ポリグルコサン小体疾患の治療に使用することが(請求項1、【0091】-【0097】等)が、記載されている。)。 さらに、引用文献Bには、「われわれの主要な目標は、かなりの量のトリヘプタノインを、トリヘプタノインが長期間の高用量療法で治療に用いられているために非常に重要な、卓越した純度レベルで提供する、有効で、経済的で、環境に優しい合成法を開発することであった」(摘記b2の最終段落)と記載されており、引用文献Bは、ヒトの治療に用いるための卓越した純度のトリヘプタノインを提供することも目標としてなされた研究であることが理解できる。 そうすると、「トリヘプタノインの治療有効性を試験する前臨床研究において、ヒトの(代謝に関係する)疾患のげっ歯類モデルに使用される」、所定の配合成分と組合せて「口当たりの良い固形TKD(トリヘプタノイン強化ケトン食)配合物に配合される」、引用発明Bの「トリヘプタノインオイル」を、ヒトの(代謝に関係する)疾患の治療のための医薬として用いて「トリヘプタノインオイルを含有する、経口投与用に形成されたヒト患者用の医薬品組成物」とすることは、当業者が、当然に想到し得ることに過ぎない。 よって、引用発明Bを本願発明の相違点1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得ることである。 (2)相違点2について ア まず、引用発明Bのトリヘプタノインオイルの純度について検討する。 引用文献B((摘記b1)の本文)には、「最高水準の純度でトリヘプタノインを合成することに成功した。」と記載されている。 そして、引用文献Bには、上記「最高水準の純度」について、引用発明Bのトリヘプタノンオイルは、「GC/MS」で確認された「純度」が「99%以上」のものであったことが記載されている((摘記b3)の2.2.3)から、引用発明Bの「トリヘプタノインオイル」は、「98%w/wより高い純度を有する」ものであるといえる。 イ 次に、引用発明Bのトリヘプタノインオイルにおける、グリセロールの含有量について検討する。 (ア) 引用発明Bのトリヘプタノインオイルの製造に関し、引用文献B((摘記b3)の「2.2.3」(エステル化手順)には、原料のヘプタン酸をグリセロール1当量に対して4当量用い(当審注:これは、(摘記b4)の「3.1」に記載のとおり、原料のヘプタン酸の量がグリセロールの量に対して過剰である条件下であることを意味する。)、グリセロール及びトルエンを含む反応液にスルホン化木炭触媒を加えて、水が留去されるように還流下で加熱反応させて合成して得られたトリヘプタノインを含有する反応液から、触媒を除く工程を経て、濾液(有機層であるトルエン層)を、未反応のヘプタン酸をアルカリ精製で除くために15%NaOH水溶液で3回洗浄し、次いで、蒸留水で2回洗浄する工程の後、合わせた水層をトルエンで抽出した有機層と、最初の洗浄された有機層とを合わせて硫酸ナトリウムで乾燥し、さらに、(硫酸ナトリウムを)濾過した後、濾液を減圧濃縮して真空乾燥オーブンで乾燥(60℃、20~30mbar、48時間)させる工程(800gの大スケールの場合の方法A)、あるいは、得られた濾液を留去し、その残渣を分別蒸留する工程(190℃、1mmHgでの収率94%)(20gの小スケールの場合の方法B)を経ることにより、GC/MSで確認された純度が99%以上である透明で無色のオイル状液体として、トリヘプタノインを得たことが記載されている。 すなわち、トリヘプタノインオイルの合成反応は、原料のヘプタン酸の量がグリセロールの量に対して過剰である条件下で行われ、上記合成反応では、「水が留去されるように還流下で加熱」して反応が行われているところ、「注釈1」(合成に対する注釈(i))に、「106mLの水を回収したが、反応中に形成されると予測された水の量は103.7mLであって、過剰分は用いた溶剤からである。」と記載されるとおり、合成反応自体が水が十分除去された条件下で行われているので、引用発明Bのトリヘプタノインオイルの合成反応では、エステル化反応が完全に進行したことがうかがわれる。 そうすると、引用発明Bのトリヘプタノインオイルの合成反応後の溶液中に、未反応のグリセロールは存在しないと解されるので、引用発明Bのトリヘプタノインオイルは「実質的にグリセロール」を含まないといえる。 (イ) その上、引用文献Bでは、上記合成反応の後処理において、方法Aでは、反応生成物を含むトルエン有機層をアルカリ水溶液及び蒸留水で洗浄しており、当該工程によって、水溶性のグリセロールは除去されると解されるし、方法Bでも、分別蒸留がされ、190℃、1mmHgの条件でトリヘプタノイン分画を得ているのであるから、方法A及び方法Bのいずれの後処理を行った場合でも、後処理後に得られたトリヘプタノインオイルは「実質的にグリセロール」を含まないものであると解される。 (ウ) したがって、引用発明Bのトリヘプタノインオイルは、「実質的にグリセロールを含まない」ものであると解される。 ウ さらに、引用発明Bのトリヘプタノインオイルにおける、水分の含有量について検討する。 水分の含有量に関しては、上記イ(ア)に記載したとおり、引用文献Bには、後処理工程として、ヘプタノインのエステル化反応後の反応液から、触媒を除いて15%NaOH水溶液洗浄及び蒸留水洗浄した後の有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、(硫酸ナトリウムを)濾過後、濾液を減圧濃縮して真空乾燥オーブンで乾燥させる工程(大スケールの場合の方法A;条件は、60℃、20~30mbar、48時間)、あるいは、得られた濾液を留去し、その残渣を分別蒸留する工程(小スケールの場合の方法B;条件は、190℃、1mmHgでの収率94%)により、ヘプタノインオイル分画を得たことが記載されており、当該後処理工程によって、ヘプタノインオイル中の水は十分に除去されたと解される。 そうすると、後処理後に得られたヘプタノインオイル中には、水分は実質的には存在しないものと解されるので、引用発明Bのトリヘプタノインオイルは、「0.2%w/w以下の水分を含」むものであると解される。 エ したがって、引用発明Bのトリヘプタノインオイルは、「98%w/wより高い純度を有する」ものであり(上記ア)、「実質的にグリセロール」を含まないものであり(上記イ)、さらに「0.2%w/w以下の水分を含」むものであるから(上記ウ)、相違点2は実質的な相違点ではない。 オ 仮に、相違点2が実質的な相違点であるとしても、エステルが水分存在下で加水分解を起こす可能性があることは技術常識である(山川浩司著「有機薬品合成化学-第2版-」、(株)廣川書店、昭和60年1月25日第2版10刷発行、364頁「エステルの加水分解」の項目)から、エステルである「トリヘプタノインオイル」の加水分解を防ぐために、可能な限り水分の含有量が少ないトリヘプタノインオイルを得ることが好ましいことは当然である。 加えて、有効成分ではない不純物の含有量が可能な限り少ない、可能な限り純度が高いトリヘプタノインオイルを使用する方が望ましいことは当然である。 そうすると、引用文献Bのトリヘプタノインオイルを、より精密な精製を行う、乾燥時間を延長する等の手法により、より水分が少なく、より純度の高いトリヘプタノインオイルとして、相違点2に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。 なお、審尋の留意事項においても指摘したとおり、n-ヘプタン酸が牛脂臭のする物質であることは周知であり(「化学大辞典1 縮刷版」、共立出版(株)、昭和53年9月10日第22刷発行、946頁「エナントさん」の項目)、エステルが水分の存在下で加水分解して酸を生成する場合があることも技術常識(上記「有機薬品合成化学-第2版-」、364頁「エステルの加水分解」の項目)であるという点からみても、引用発明Bのトリヘプタノインオイルについて、乾燥時間を延長する等の手法により水分を低減させて、「0.2%w/w以下」程度のものとすることは、当業者が適宜なし得ることに過ぎない。 (3)本願発明の効果について ア 本願明細書の【0071】には、「いくつかの実施形態では、本明細書で述べるトリヘプタノインオイルは、低粘度の無色オイルであり、無味無臭である。本明細書で述べるトリヘプタノインオイルは、典型的には室温で貯蔵され、光から保護され、また、その安定性は、このような条件で24か月を超える場合がある。」と記載されている。 イ また、本願明細書には、本願発明の「98%w/wより高い純度を有するトリヘプタノインオイル」、「0.2%w/w以下の水分」、「実質的にグリセロールを含まない」との条件のトリヘプタノインオイルに関し、表4に、水分含量は不明であるが、他の二つの条件を満足するものが記載され、表5に、オイル試料2として、グリセロールが検出されず(ND)、総不純物が1.3%であることから、本願発明の「98%w/wより高い純度を有する」、「実質的にグリセロールを含まない」との条件を満たすが、水分含量は不明であるオイル試料2が記載されている。 そして、トリヘプタノインオイルの安定性については、実施例1に、トリヘプタノンオイルを含有する固体試料が25℃/60%RH(相対湿度)あるいは40℃/75%RHで貯蔵した後にも安定であったとの結果が示される(【0099】-【0103】、特に、表6-7)のみであり、本願明細書には、固体試料の形態ではないオイル試料の安定性の結果は記載されていない。 さらに、実施例2、3として、その純度が不明であり、本願発明のトリヘプタノインオイルであるのかが不明なトリヘプタノインオイル試料、あるいは本願発明のトリヘプタノインオイルであるのかが不明なトリヘプタノインオイルを含有する固体試料を動物に1回(実施例2)あるいは複数回(実施例3)投薬後に薬物動態(PK)プロファイルの結果、及び、嘔吐や胃部不快感といった副作用の調査結果(実施例3)が記載されている(【0104】-【0120】、図1-40)。 ウ しかし、上記イで指摘した本願明細書の記載からは、本願発明のトリヘプタノインオイルが、【0071】に記載のような「無味無臭」であり、「室温で貯蔵され、光から保護され、また、その安定性は、このような条件で24か月を超える」という性質を有すること(上記ア)を、当業者が理解できるとはいえない。 そうすると、本願明細書の記載から、本願発明により、引用文献B並びに本願優先日当時の周知技術及び技術常識から予期できない格別の効果が奏されているとは解されない。 エ 仮に、本願発明のトリヘプタノインオイルが、「98%w/wより高い純度を有する」、「実質的にグリセロールを含まない」、「0.2%w/w以下の水分を含み」との条件を満たすことで、【0071】に記載のような効果を奏することを請求人が追加実験等で示した場合であっても、上記(2)ア~エで記載したとおり、引用発明Bのトリヘプタノインオイルもこれらの条件を満たすものであるといえるから、本願発明で奏される効果は、引用発明Bにおいても奏される効果に過ぎないといえる。 (4)以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明B及び引用文献B(並びに本願優先日当時の周知技術及び技術常識)から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)請求人の主張について ア 請求人は、令和3年6月23日提出の意見書の「2-2-5」の項目及び審尋に対する回答書において、以下の旨の内容を含む主張をしている。 (ア)主張1 引用文献Bは、げっ歯類への適用を目的とした文献であって、ヒト患者への適用を目的とした文献ではなく、高い純度を有するトリヘプタノインオイルの調製を含め、ヒト患者用の医薬品組成物として備えるべき事項について、何ら開示も示唆もない。そして、このことは、引用文献Bにおいては、ヒト患者に投与するために適した医薬組成物として提供するために最小限しなければならない不純物の量についての試験、例えば最終製品中のトルエンの量についての残留試験を行っていないことからも分かる。(意見書の14頁3~4段落) (イ)主張2 引用文献Bにおける99%以上の純度のトリヘプタノインオイルに関する開示は、何ら分析的な手法により裏付けられた開示ではない。本願出願の時点において用いられていたトリヘプタノインオイルの成分の同定及び定量のための標準的な分析方法であるマススペクトル分析は、トリヘプタノイン分子を直接測定するものではなく、トリヘプタノイン分子とそのほかの炭素数7の化合物、例えば、モノヘプタノエートやジヘプタノエート、ヘプタン酸とを区別することは不可能であった。実際に、引用文献BのSupporting Informationにおける図2には、GCスペクトラムにおいて参照とするべき標準ピークがないし、図3に示されているGC/MSによる分析結果でも、インタクトなトリヘプタノイン分子(分子式がC24H44O6であり、分子量が428.61g/mol)に相当するピークがみられない。したがって、当業者は、引用文献Bに記載された、GC/MSにより分析した99%以上の純度のものは、モノヘプタノエートやジヘプタノエートを含むあらゆる炭素数7の化合物及びトリヘプタノインを含んだものであると理解する。(意見書の14頁最下段落~15頁1段落)及び回答書の2-1) (ウ)主張3 本願発明に係る医薬品組成物は、改善した安定性を備えた医薬品組成物であって、トリヘプタノインオイルの高い純度を維持し、トリヘプタノインオイル中の水とグリセロールとの含有量を厳格に制御することにより、トリヘプタノインオイルを含む組成物が加水分解することより発生するヘプタン酸に由来する不快で、鋭い刺激臭の発生を抑えるものである。 引用文献Bには、トリヘプタノインオイルの加水分解によるヘプタン酸に起因する鋭い刺激臭の問題(課題)についても、そのための、トリヘプタノインオイル中の水分とグリセロールとを厳格に制御することで加水分解を抑えるという課題解決手段についても何ら認識されていないから、引用文献Bに基づいて本願発明の進歩性を否定することはできない。(意見書の12頁最下段落~13頁2段落、15頁2段落の6~末行、同頁の4段落~16頁2段落) イ 請求人の主張について検討する。 (ア)主張1について 上記(1)で説示したとおり、引用文献Bは、「トリヘプタノインの治療有効性を試験する」ために「ヒトの疾患のげっ歯類モデル」を使用して行う「前臨床研究」についてのものであり、これが、トリヘプタノインを「ヒト患者」に適用する医薬品組成物とすることを前提とする研究についての文献であることは当業者に明らかである。 そして、引用文献Bが、げっ歯類への適用を目的とした文献であるとしても、引用文献Bに記載の高純度のヘプタノインオイルをヒトの疾患の治療のための医薬として用いて、ヒト患者に適用する医薬品組成物とすることは、当業者が容易になし得ることであることは、上記(1)に記載したとおりであるし、ヒト患者に適用する医薬組成物とする際に、不純物の含有量等についての試験を行うことは当然である(例えば、日本薬局方においても、一般試験法として種々の確認試験が規定されている。)。 したがって、請求人の主張1は採用できない。 (イ)主張2について 引用文献Bでは、摘記b3の2.2.4に、IR(NaCl)、1H NMR(400MHz、COSY、CDCl3)、13C NMR(100.6MHz、HSQC、CDCl3)、MS-EI m/z、元素分析、高解像度MS等の各種分析結果が詳細に記載され、また、分析結果に関し、摘記b4の3.1には、「全ての分析データ(1H NMR、13C NMR、IR、等)は、以前報告されたデータと一致した。」と記載されている。 また、元素分析結果(C24H44O6)(摘記b3)も、トリヘプタノインの分子式と一致しているし、高解像度MSでは、トリヘプタノイン(M++NH4+、C24H48NO6)の計算値446.3476(M++NH4+)に対し、実測値が446.3474となっており、トリヘプタノイン分子の存在を確認できるピークが確認されている。(なお、引用文献Bでは、「高解像度MS:C22H48NO6(M++NH4+)446.3474、計算値446.3476」と記載されているが、高解像度MSはトリヘプタノインの同定分析であること、そして、「446.3476」という分子量の数値は、「トリヘプタノイン分子C24H44O6の分子量約428.6(M+)にアンモニウムイオンの分子量約18(NH4+)を足した「トリヘプタノインのアンモニウムイオン付加型分子(M++NH4+)C24H48NO6に対応する分子の数値に対応する数値であることから、引用文献Bの高解像度MSについての「C22H48NO6(M++NH4+)」という記載は誤記であり、正しくは「C24H48NO6(M++NH4+)」という記載であることは明らかである。) そうすると、かかる引用文献Bの記載に接した当業者は、引用文献Bにおける「99%以上の純度」とは、実際に「トリヘプタノイン」自体の純度であると理解するといえる。 さらに、請求人が意見書に添付した引用文献BのSupporting Informationの図2には、GC/MS分析の結果、合成されたトリヘプタノインが示した唯一のピークが17.7ppmのピークであったことが記載されている。そして、上記Supporting Informationの図3は、上記「唯一のピーク」における分析結果であり、図3の項目には、「17.7ppmピークのMSスペクトル分析によるケミカルフラグメンテーションは、明らかにトリグリセリド構造のフラグメントだけを示している」と記載されている。 そして、そもそも、GC/MSにおいて、化合物の親ピークが検出されない場合があることは技術常識であり(例えば、上田陽著「機器分析・改稿版」昭和54年9月25日、第2改稿版4刷、(株)廣川書店 p.319~323、特にp.323の7行目には「M+ピークが常に測定できるとは限らない」と記載されている。)、親ピークに対応する数値が検出されなかったことをもって、トリヘプタノインが得られていないということはできない。 加えて、上記のとおりトリヘプタノインは既知物質であり、引用文献Bの著者は、元素分析や高解像度MSを含め、1H NMR、13C NMR、IR等、種々の分析手法を使用して解析を行った結果から、合成された化合物がトリヘプタノインであることを確認した上で、その純度が99%以上(GC/MS)であると記載している((摘記b1)、(摘記b3)、(摘記b5))。 そうすると、引用文献Bの記載から、当業者は、引用文献Bに記載された、GC/MSにより分析した99%以上の純度の物質が、モノヘプタノエートやジヘプタノエートを含むあらゆる炭素数7の化合物及びトリヘプタノインを含んだ混合物であると理解することはなく、実際に99%以上の純度を有するトリヘプタノインであると理解するといえる。 したがって、請求人の主張2も採用できない。 (ウ)主張3について 上記(2)で記載したとおり、引用発明Bの「純度99%以上(GC-MS)」であるトリヘプタノインオイルは、本願発明のトリヘプタノインと同様に、「98%w/wより高い純度を有する」、「0.2%w/w以下の水分を含み」、「実質的にグリセロールを含まない」トリヘプタノインオイルであると解されるから、引用発明Bのトリヘプタノンオイルを用いた場合に、トリヘプタノインオイルの加水分解によるヘプタン酸に起因する鋭い刺激臭の問題は生じないと解される。 また、上記(2)オでも指摘したとおり、n-ヘプタン酸が牛脂臭のする物質であることは周知であり、エステルが水分の存在下で加水分解して酸を生成する場合があることは技術常識であるから、仮に、引用発明Bのトリヘプタノインオイルの水分が「0.2%w/w以下」ではない場合でも、乾燥時間を延長する等の手法により、「水分」が「0.2%w/w以下」であるトリヘプタノインオイルとすることは、当業者が適宜なし得ることに過ぎない。 さらに、審尋に対する回答書の「2-2.」において、請求人は、審尋事項2に対する回答として、請求人が、6の異なる濃度のヘプタン酸を含むトリヘプタノイン溶液を用い、パネラー(28人)により、§64 LFGB L 00.90-7(LFGBはLebensmittel- und Futtermittelgesetzbuchの略で、食品及び動物用食品コード)に従い、三点試験法を実施し、トリヘプタノイン中のヘプタン酸の臭気の閾値を決定したところ、パネラーの平均値としてのヘプタン酸の臭気の閾値は約40ppmであったこと、及び、トリヘプタノイン中の40ppmのヘプタン酸濃度は、トリヘプタノイン中のヘプタン酸として約0.004%に相当することから、トリヘプタノインオイル中において臭気として検知できる約0.004%であるといえる旨を主張するとともに、本願発明の高純度のトリヘプタノインは、検知できない量のヘプタン酸、すなわち、ヘプタン酸の臭気のないトリヘプタノインである旨を主張する。 しかしながら、本願発明のトリヘプタノインオイルは、「98%w/wより高い純度を有する」、「0.2%w/w以下の水分を含み」、「実質的にグリセロールを含まない」ものであって、請求人が回答書において「ヘプタン酸の臭気のないトリヘプタノイン」であると主張する、「トリヘプタノイン中のヘプタン酸」の濃度が「約0.004%」の閾値を超えないトリヘプタノインオイルであることは特定されていないのであるから、本願発明のトリヘプタノインオイルは、ヘプタン酸の臭気がある場合を包含し得るものとなっている。 また、本願明細書中には、ヘプタン酸の臭気のないトリヘプタノイン中のヘプタン酸が約0.004%であることは記載されておらず、本願発明の「98%w/wより高い純度を有するトリヘプタノインオイル」であって、「0.2%w/w以下の水分を含み」、「実質的にグリセロールを含まない」本願発明のトリヘプタノインでありさえすれば、「ヘプタン酸の臭気のない」ものであることを当業者が理解できる根拠となるような実験結果等の記載もない。 したがって、請求人の主張3も採用できない。 (6)よって、本願発明は、引用発明B及び引用文献B(並びに本願優先日当時の周知技術及び技術常識)から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2020-003368

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ根拠条文の審決7,656件(特許法29条2項)
  • 2024-012117拒絶査定不服審判 / 2026-05-25 / 請求不成立前処理剤、及び酸化染毛方法又は脱色方法
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-004310拒絶査定不服審判 / 2026-04-28 / 請求不成立皮膚外用クリーム剤
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-006319拒絶査定不服審判 / 2026-04-27 / 請求不成立男性活力用組成物及び組成物
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-008788拒絶査定不服審判 / 2026-04-13 / 請求不成立糖尿病を治療するための方法および試薬
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-000901拒絶査定不服審判 / 2026-03-26 / 請求不成立慢性便秘症を治療するための医薬組成物
    共通の条文: 特許法29条2項
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)4,292件(121・A61K)
  • 2024-009983拒絶査定不服審判 / 2026-08-28 / 原査定取消(特許/登録すべき)歯科用硬化性組成物
    共通の審決分類: 121・A61K
  • 2023-019302拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)加齢性黄斑変性症(AMD)におけるスタチン療法の機能的バイオマーカー
    共通の審決分類: 121・A61K
  • 2023-018795拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)癌のための予防および治療処置としてのIPSCベースのワクチン
    共通の審決分類: 121・A61K
  • 2024-009350拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)免疫増強剤
    共通の審決分類: 121・A61K
  • 2024-012557拒絶査定不服審判 / 2026-08-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)毛髪洗浄組成物
    共通の審決分類: 121・A61K

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存