2020-002442
改質蛍光体およびその組成物
- 審判番号
- 2020-002442
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-503584外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年02月25日
- 審決日
- 2022年08月03日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ローディア オペレーションズ
- 【請求人代理人】園田・小林特許業務法人
- 分類
- P18 .121-WZ (C09K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 6項目
第1 手続の経緯
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本願は、2015年8月3日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年8月4日(EP)欧州特許庁、2015年2月6日(EP)欧州特許庁〕を国際出願日とする特許出願であって、
令和元年5月21日付けの拒絶理由通知に対し、令和元年8月27日受付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
令和元年9月11日付けの拒絶査定に対し、令和2年2月25日受付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、
令和3年2月3日付けの審判合議体による拒絶理由通知に対し、令和3年8月10日受付けで意見書及び誤訳訂正書の提出がなされ、
令和3年11月25日付けの拒絶理由通知(最後)に対し、令和4年5月26日受付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~13に係る発明は、令和4年5月26日受付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)は、次のとおりのものである(なお、令和4年5月26日受付けの手続補正による補正後の請求項1についての補正は、令和3年8月10日受付けの誤訳訂正書を提出して補正した請求項1~4を引用する請求項5について、その旧請求項1を引用する請求項5を、他の請求項を引用しない新請求項1にするとともに、旧請求項1の「希土類、亜鉛およびマンガンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む蛍光体の中で選択され、ここで、」を削除することで記載を明瞭にすることを目的としたものと解することができるので、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当せず、独立特許要件の検討を要するものではないといえる。)。
「【請求項1】少なくとも0.10μmかつ最大でも1.00μmの平均直径d50を有する蛍光体粒子およびその上にコーティングされた少なくとも1種の両親媒性物質を含む改質蛍光体であって、前記蛍光体が、BaMgAl10O17;Ba0.9Eu0.1MgAl10O17;Ba0.9Eu0.1Mg0.6Mn0.4Al10O17;Ba0.9Eu0.1Mg0.8Mn0.2Al10O17;Ba0.9Eu0.1Mg0.95Mn0.05Al10O17;BaMgAl14O23;Ba0.9Eu0.1MgAl14O23;Ba0.8Eu0.2Mg1.93Mn0.07Al16O27の1つに相当する、アルミン酸塩から選択され、前記両親媒性物質が、ステアリン酸、イソステアリン酸、それらの異性体及びそれらの塩からなる群から選択され、前記少なくとも1種の両親媒性物質が、前記蛍光体粒子の全重量に対して少なくとも0.1重量%かつ最大でも10.0重量%である、改質蛍光体。」
第3 令和3年6月30日付けの拒絶理由通知の概要
令和3年11月25日付けの拒絶理由通知には、理由1として、次の理由が示されている。
「理由1:この出願の請求項1~15に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1~4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
そして、その「記」には、次のような指摘がなされている。
「2.理由1(進歩性)について(1)引用刊行物及びその記載事項刊行物1:特開2010-102972号公報刊行物2:特開2003-213253号公報刊行物3:特表2009-530443号公報刊行物4:特表2011-517466号公報(新たに引用)…(3)…イ.…(オ)…本1発明は、刊行物1~2及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(3)…本願請求項5~6に係る発明について、刊行物1~3にはステアリン酸が記載されており、刊行物2の段落0013(摘記2c)には、150~200gの蛍光体を、25~50gの溶剤等に溶解してから、4~6gのステアリン酸を混合し、加熱処理(溶剤除去)をしているので、当該請求項に係る発明に進歩性はない。」
第4 当審の判断
1.理由1(進歩性)について
(1)刊行物1~4の記載事項
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ア 上記刊行物1には、次の記載がある。
「【請求項1】界面活性剤が表面に付着した蛍光体を用いて成膜した蛍光膜を有するフラットパネルディスプレイ…【請求項3】前記界面活性剤が高級脂肪酸であることを特徴とする請求項1に記載のフラットパネルディスプレイ」
「【0014】本発明が解決しようとする問題点は、フラットパネルディスプレイにおける発光効率向上であり、蛍光膜の膜密度向上実現により発光強度を向上させることである。」
「【0024】以下に比較例を記す。【0025】PDP用蛍光体として一般的に用いられているものとして、(Y、Gd)BO3:Eu(赤色蛍光体)、Zn2SiO4:Mn(緑色蛍光体)、BaMgAl10O17:Eu(青色蛍光体)を用い、蛍光体粉体のタッピング密度を測定した。【0026】円筒系容器に一定重量の蛍光体粉体を投入した後、容器を高さ20cmより200回落下させて蛍光体粉体を充填し、投入重量と蛍光体粉体の示す体積との比を計算し、かさ密度を求めた。表1に示すように、赤、緑、青蛍光体のかさ密度はそれぞれ1.16、1.03、0.83(g/cc)であった。つぎにこれらの蛍光体を用い、図2に示したPDPを作製した。…【0029】…[図:0001392418000001.jpg]…【実施例1】【0031】比較例1と同様の赤、緑、青色蛍光体を用いたが、本実施例では蛍光体を界面活性剤で被覆をした点が比較例とは異なる。界面活性剤としてソルビタン脂肪酸エステルを用いて蛍光体表面を修飾した。【0032】蛍光体粉体とソルビタン脂肪酸エステルとを脱泡攪拌機にて2000rpm、4分間攪拌し界面活性剤で表面被覆された蛍光体粉体を作製した。この際、界面活性剤の添加濃度の異なるものを作製し、かさ密度を測定した。一例として緑蛍光体(Zn2SiO4:Mn)での結果を図11に示した。界面活性剤添加によりかさ密度は向上しており、蛍光体表面被覆によりかさ密度の向上が実現できた。また赤、青色蛍光体についても同様の効果が示された。以下に一例として界面活性剤添加濃度0.1g/ccで表面修飾した赤、緑、青蛍光体を用いた場合の特性結果を示す。表1に示すように表面修飾した蛍光体のかさ密度は比較例に対して三色とも向上した。また、本蛍光体を用いて作製したPDPにおける蛍光膜厚さは、比較例に対して三色とも減少しており、表2に示すように各色の蛍光膜密度はいずれも2g/cc以上となり比較例に対して高密度な蛍光膜が実現できた。PDPの発光輝度は比較例(100)に対して、110となり向上した。蛍光膜密度向上による蛍光膜発光効率の向上および放電空間が広がったことによる放電効率向上により輝度向上が実現できた。…【実施例5】【0039】界面活性剤としてステアリン酸(クロロホルム中20%溶液)を用いた他は実施例1と同様の方法で試料を作製、評価を行った。」
「【0041】…【図7】本発明の一例における表面被覆された蛍光体粒子を示す図。【図8】本発明の一例における表面被覆された蛍光体粒子を示す図。…【符号の説明】【0042】…12…蛍光体粒子、13…界面活性剤。」
「【図7】[図:0001392418000002.jpg]【図8】[図:0001392418000003.jpg]」
イ 上記刊行物2には、次の記載がある。
「【請求項16】結合剤及びステアリン酸を含有する有機ペースト中に分散した蛍光体からなり、該蛍光体が、その結合剤が燃え切った後にその初期の輝度の少なくとも約90%を保持するプラズマディスプレイパネル用蛍光体ペースト。【請求項17】蛍光体がBaMgAl14O23:Eu2+である請求項16に記載の蛍光体ペースト。【請求項18】結合剤がポリビニルブチラールである請求項16に記載の蛍光体ペースト。」
「【0003】…分散剤は、ペーストの安定性のために、即ち、ペースト中の蛍光体粒子の均質な懸濁を固形物を分離させることなく長期間にわたって維持するために重要である。…【0010】…一般に、本発明のPDP蛍光体ペーストは、結合剤、溶剤、可塑剤及び少なくとも1種の分散剤(この分散剤の少なくとも1種はステアリン酸である)を含む有機混合物中に蛍光体粉末の分散体を形成させることによって作られる。ステアリン酸分散剤は、PDPペースト組成物の安定性及び輝度保持性を改善するのに重要な成分であること分かった。」
「【0013】【実施例】600mlビーカー中で、150~200gの青色発光PDP蛍光体のBaMgAl14O23:Eu2+を、25~50gの溶剤(α-テルピネオール又はイソブチルアルコール)、5~10gのメンヘーデン魚油及び予め16~20gの同一溶剤に溶解させた4~6gの分散剤(ステアリン酸又はポリエチレングリコール)と共に混合した。次いで、これらの材料を1~2時間にわたって混合して蛍光体の分散体を形成させた。その後、4~6gのフタル酸ジイソブチル可塑剤及び5~15gの結合剤(エチルセルロース又はポリビニルブチラール)(この結合剤は、最初に25~35gの溶剤に溶解しておいた)を添加した。次いで、このペーストをさらに1~2時間にわたって混合した。ペーストをシールキャップ付きのプラスチック容器に貯蔵した。粘度をB型RVトルクDV-III型式流動計を使用して20rpmで測定した。結合剤の燃え切りについては、8gのペーストをガラス皿に置き、次のプログラムに従って箱形炉内で20SCFHで空気雰囲気下に加熱した。・10℃/分で110℃まで加熱・110℃で1時間加熱・10℃/分で500℃まで加熱・500℃1時間加熱。【0014】蛍光体粉末の輝度を結合剤の燃え切り前及び後で測定し、それを輝度を保持した%(原蛍光体の輝度との比較)として表1に報告した。ペーストが空気の非存在下に燃焼したときには、蛍光体の輝度は低下し、その色は変化したことに留意すべきである。ペーストの安定性を、蛍光体固形物がそのペーストをある期間にわたって放置した後に有機媒質から分離するようになった程度を視覚的に観察することによって決定した。ペーストを少なくとも4ヶ月にわたって放置した後に有機媒質からのその固形物の目に見える分離が全く無かったならば、ペーストが優秀な安定性を有しているとみなした。ペーストを少なくとも2週間にわたって放置した後に有機媒質からのその固形物の分離が殆どなかった又は全くなかったならば、ペーストが良好な安定性を有しているとみなした。たとえペーストの上部部分にいくつかの目に見える分離があったとしても、その固形物が1~2時間にわたるロール練りによってペーストに再混合され得たならば、ペーストの安定性はそれでも良好であるとみなした。ほんの1~2日間放置した後に固形物が有機媒質から分離したならば、ペーストが不安定であるとみなした。典型的には、不安定なペースト中の固形物は、ロール練りによってペーストに再混合できなかった。その結果をそれぞれのペースト組成物の反復試料について表1に与える。」
ウ 上記刊行物4には、次の記載がある。
「【0010】本発明のアルミン酸塩は粒子からなり、この本質的な特徴は、これらの粒子がサブミクロン単結晶粒子であることである。【0011】より正確には、これらの粒子は、平均寸法(d50)80から400nm、より具体的には100から300nmを有する。この寸法は、80から200nm、さらにより具体的には100から200nmであることができる。本発明のアルミン酸塩の幾つかの適用例では、例えば、後に記載されるように、透明材料を製造するために、100から150nmの寸法を有する粒子を含むアルミン酸塩を使用することが可能である。」
「【0031】従って、挙げることのできるこの種の生成物の例には、次式のものが含まれる:BaMgAl10O17、Ba0.9Eu0.1MgAl10O17、Ba0.9Eu0.1Mg0.6Mn0.4Al10O17、Ba0.9Eu0.1Mg0.8Mn0.2Al10O17、Ba0.9Eu0.1Mg0.95Mn0.05Al10O17、BaMgAl14O23、Ba0.9Eu0.1MgAl14O23、Ba0.8Eu0.2Mg1.93Mn0.07Al16O27。」
「【0040】分散剤の量は、1%から15%、より具体的には4%から8%であることができ、この量は分散体中の固体の重量に対する分散剤の重量によって表わされる。」
(2)刊行物1に記載された発明
摘記1aの「界面活性剤が表面に付着した蛍光体…前記界面活性剤が高級脂肪酸である」との記載、
摘記1cの「PDP用蛍光体として…BaMgAl10O17:Eu(青色蛍光体)を用い、…【実施例1】…では蛍光体を界面活性剤で被覆をした点が比較例とは異なる。…以下に一例として界面活性剤添加濃度0.1g/ccで表面修飾した赤、緑、青蛍光体を用いた場合の特性結果を示す。表1に示すように表面修飾した蛍光体のかさ密度は比較例に対して三色とも向上した。…【実施例5】…界面活性剤としてステアリン酸(クロロホルム中20%溶液)を用いた他は実施例1と同様の方法で試料を作製、評価を行った。」との記載、及び「表1…かさ密度(g/cc)…実施例5…青 BaMgAl10O17:Eu…1.09」との記載、並びに
摘記1dの「本発明の一例における表面被覆された蛍光体粒子を示す図。」との記載からみて、刊行物1には、実施例5として、
『界面活性剤としてステアリン酸を用い、界面活性剤添加濃度0.1g/ccで表面修飾した、かさ密度1.09g/ccの青色蛍光体(BaMgAl10O17:Eu)粉体。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。
(3)対比
本1発明と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「界面活性剤としてステアリン酸」は、本1発明の「少なくとも1種の両親媒性物質」及び「前記両親媒性物質が、ステアリン酸、イソステアリン酸、それらの異性体及びそれらの塩からなる群から選択され、」に相当する。
刊1発明の「青色蛍光体(BaMgAl10O17:Eu)粉体」は、本1発明の選択肢の一つである「BaMgAl10O17」のような「アルミン酸塩」に、ユーロピウム(Eu)のような希土類元素をドープしてなる「Ba0.9Eu0.1MgAl10O17」などと同様な「BaMgAl10O17」にユーロピウム(Eu)をドープした「アルミン酸塩」に相当する。
刊1発明の「界面活性剤」で「表面修飾」した「青色蛍光体」の「粉体」は、刊行物1の図7(摘記1e)の記載にあるように、両親媒性物質であるステアリン酸(13)が、蛍光体粒子(12)に「コーティング」された状態にあることが明らかであるから、本1発明の「蛍光体粒子およびその上にコーティングされた少なくとも1種の両親媒性物質を含む改質蛍光体」に相当する。
してみると、本1発明と刊1発明は
『蛍光体粒子およびその上にコーティングされた少なくとも1種の両親媒性物質を含む改質蛍光体であって、前記蛍光体が、BaMgAl10O17にユーロピウム(Eu)をドープした組成のアルミン酸塩から選択され、
前記両親媒性物質が、ステアリン酸、イソステアリン酸、それらの異性体及びそれらの塩からなる群から選択され、
前記少なくとも1種の両親媒性物質が、前記蛍光体粒子の全重量に対して少なくとも0.1重量%かつ最大でも10.0重量%である、改質蛍光体。』という点において一致し、次の(α)~(γ)の3つの点において一応相違する。
(α)蛍光体粒子の「平均直径d50」が、本1発明は「少なくとも0.10μmかつ最大でも1.00μm」の範囲にあるのに対して、刊1発明の「青色蛍光体(BaMgAl10O17:Eu)粉体」は、その粒子サイズが不明な点。
(β)蛍光体粒子の組成が、本1発明は「BaMgAl10O17;Ba0.9Eu0.1MgAl10O17;Ba0.9Eu0.1Mg0.6Mn0.4Al10O17;Ba0.9Eu0.1Mg0.8Mn0.2Al10O17;Ba0.9Eu0.1Mg0.95Mn0.05Al10O17;BaMgAl14O23;Ba0.9Eu0.1MgAl14O23;Ba0.8Eu0.2Mg1.93Mn0.07Al16O27の1つに相当する」ものであるのに対して、刊1発明の「BaMgAl10O17:Eu」は、Euのドープ量が不明な点。
(γ)両親媒性物質の配合量が、本1発明は「前記蛍光体粒子の全重量に対して少なくとも0.1重量%かつ最大でも10.0重量%である」のに対して、刊1発明は「かさ密度1.09g/ccの青色蛍光体」に対して「界面活性剤添加濃度0.1g/ccで表面修飾」したものである点。
(4)判断
ア.相違点(α)について
例えば、刊行物4の段落0011(摘記4a)の「平均寸法(d50)…100から150nmの寸法を有する粒子を含むアルミン酸塩を使用する」との記載からみて、一般的な蛍光体粒子の粒子サイズは0.10~0.15μm程度にあるものと解される。
してみると、刊1発明の青色蛍光体粒子が、本1発明の「少なくとも0.10μmかつ最大でも1.00μmの平均直径d50を有する」という粒子サイズの広範な範囲から逸脱した範囲にあるとは解せないので、上記(α)の相違点について実質的な差異があるとは認められないし、仮に相違するとしても、刊行物4に記載される一般的な粒子サイズのものを選択することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。
イ.相違点(β)について
例えば、刊行物4の段落0031(摘記4b)の「Ba0.9Eu0.1MgAl10O17」との記載にあるように、本1発明と同じユーロピウム(Eu)のドープ量は知られているところ、ユーロピウム(Eu)は蛍光体において賦活剤として用いられていることが明らかであり、賦活剤のドープ量は、少なすぎても、多すぎても発光強度は低下するものであって、賦活剤のドープ量は当業者が適宜決定するものというべきであることから、刊1発明の「青色蛍光体(BaMgAl10O17:Eu)粉体」のEuドープ量の好適化は、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。
ウ.相違点(γ)について
例えば、刊行物2の段落0013(摘記2c)の「実施例…150~200gの青色発光PDP蛍光体のBaMgAl14O23:Eu2+を、…4~6gの分散剤(ステアリン酸又はポリエチレングリコール)と共に混合した。」との記載にある蛍光体の全量に対する分散剤の量は2~4重量%であり、刊行物4の段落0040(摘記4c)には「分散剤の量は、より具体的には4%から8%である」との記載があるので、刊1発明の「ステアリン酸が表面に付着(表面被覆)した」量が、本1発明の「少なくとも0.1重量%かつ最大でも10.0重量%である」という配合量の広範な範囲から逸脱した範囲にあるとは解せない。
また、刊1発明の「界面活性剤添加濃度0.1g/ccで表面修飾した、かさ密度1.09g/ccの青色蛍光体」は、界面活性剤の添加濃度を重量百分率に換算した場合に、0.1÷1.09×100=9.17重量%となるので、本1発明の「前記少なくとも1種の両親媒性物質が、前記蛍光体粒子の全重量に対して少なくとも0.1重量%かつ最大でも10.0重量%である」という数値範囲を満たすということもできる。
してみると、上記(γ)の相違点について実質的な差異があるとは認められないし、仮に相違するとしても、刊行物2や刊行物4に記載される一般的な分散剤の量で配合することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。
エ.本1発明の効果について
誤訳訂正後の本願明細書の段落0006には「蛍光体の広範囲の表面をそれらの光学特性を低下させることなく改質し、それによって、ポリマーマトリックス中のそれらの分散性を改善することが可能である」との記載、及び同段落0149の「改質蛍光体の良好な分散に関連づけることができる。」との記載にあるところ、両親媒性物質(ステアリン酸)を所定の量で用いた実施例のものが、何らの両親媒性物質を添加しない比較例のものに比して、分散性とこれに関連づけられる性能において優れるという本1発明の効果について、分散剤(ステアリン酸)を用いれば、分散性と分散性に関連した性能が改善されることは、刊行物1の実施例5(摘記1cの段落0029)の記載から当業者にとって自明にすぎないから、本1発明に格別の効果があるとは認められない。
オ.進歩性のまとめ
以上総括するに、本1発明は、刊行物1~2及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(5)審判請求人の主張について
令和4年5月26日付けの意見書の第2頁において、審判請求人は『仮に、引用文献1-4が、上記のA)-D)のいずれかの特徴について個々的に開示している場合でも、当業者は、引用文献1-4に照らし、上記のA)-D)の特徴を同時に有する発明について想到することは困難であると思料致します。…具体的には、審判官殿は、引用文献1-4が補正後の本願発明のA)及びD)について開示していない旨を認定されています。審判請求人は、当該ご認定に同意致します。更に、引用文献1は、補正後の本願発明のC)の特徴についても何ら開示も示唆もしておりません。…更に、補正後の本願発明の両親媒性物質の特定の量が重要です。両親媒性物質の量によって蛍光特性が大きく変化する可能性があることは当業者であれば容易に理解できます。すなわち、本願発明は、「両親媒性物質が、ステアリン酸、イソステアリン酸、それらの異性体及びそれらの塩からなる群から選択され、少なくとも1種の両親媒性物質が、前記蛍光体粒子の全重量に対して少なくとも0.1重量%かつ最大でも10.0重量%である」との特徴を有することにより顕著な効果を奏します。』と主張する。
しかしながら、当該「C)両親媒性物質が、ステアリン酸、イソステアリン酸、それらの異性体及びそれらの塩からなる群から選択され、」の点については、刊行物1(引用文献1)の段落0039(摘記1c)には「実施例5」の具体例において「界面活性剤としてステアリン酸」を用いることが記載されているので、上記「引用文献1は、補正後の本願発明のC)の特徴についても何ら開示も示唆もしておりません。」との主張は、その前提において採用できない。
そして、当該「A)少なくとも0.10μmかつ最大でも1.00μmの平均直径d50を有する蛍光体粒子」の点については、上記(4)ア.の相違点(α)で示したとおりであり、当該「D)少なくとも1種の両親媒性物質が、前記蛍光体粒子の全重量に対して少なくとも0.1重量%かつ最大でも10.0重量%である」の点については、上記(4)ウ.の相違点(γ)で示したとおりであり、刊1発明の「ステアリン酸」の添加濃度は「9.17重量%」と換算されるから、審判請求人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上総括するに、本1発明は、刊行物1~2及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-002442