特許無効審判
2019-800006
移動通信端末機の活性化時に,特定動作が行われるようにするための方法,及び移動通信端末機
- 審判番号
- 2019-800006
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2014-536982
- 登録番号
- 6353363
- 請求日
- 2019年01月30日
- 審決日
- 2020年12月24日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】Apple Japan 合同会社
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】北原 潤一
- 【請求人代理人】米山 朋宏
- 【請求人代理人】梶並 彰一郎
- 【被請求人】ファーストフェイス カンパニー リミテッド
- 【被請求人代理人】城山 康文
- 【被請求人代理人】後藤 未来
- 【被請求人代理人】大出 萌
- 【被請求人代理人】金山 賢教
- 【被請求人代理人】市川 祐輔
- 審判長/審判官
- 審判長 北岡 浩
- 審判官 中野 浩昌
- 審判官 吉田 隆之
- 分類
- P1123.121-ZAA(H04M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法123条1項2号特許法169条2項民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第2項、特許法第126条第5項、特許法第123条第1項第2号、特許法第134条の2第3項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6353363号発明「移動通信端末機の活性化時に,特定動作が行われるようにするための方法,及び移動通信端末機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6353363号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4,9〕について訂正することを認める。
特許第6353363号の請求項1,4に記載された発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6353363号(以下「本件特許」という。)についての出願は,2012年(平成24年)10月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年10月19日(以下,この日付を「本件優先日」という。) 韓国)を国際出願日とする出願であって,本件特許についての手続の経緯は,以下のとおりである。
平成30年 6月15日 特許権の設定登録
平成31年 1月30日 特許無効審判の請求
平成31年 3月 7日 手続補正書(請求人)
令和 1年 6月17日 答弁書(被請求人)
令和 1年 8月 1日付け審理事項通知
令和 1年10月 1日 口頭審理陳述要領書(請求人)
令和 1年10月 1日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
令和 1年10月10日付け審理事項通知(その2)
令和 1年10月21日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
令和 1年10月21日 口頭審理陳述要領書(その2)(被請求人)
令和 1年10月25日付け審理事項通知(その3)
令和 1年10月29日 口頭審理陳述要領書(3)(請求人)
令和 1年10月29日 口頭審理陳述要領書(その3)(被請求人)
令和 1年10月29日 第1回口頭審理
令和 1年11月 7日 上申書(請求人)
令和 2年 2月13日付け審決の予告
令和 2年 5月20日 答弁書,訂正請求書
令和 2年 9月 7日 弁駁書
令和 2年 9月25日 上申書(被請求人)
令和 2年 9月28日 上申書2(被請求人)
第2 訂正請求について
1 訂正の内容
令和2年5月20日に提出した訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は,本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1乃至4及び9について訂正することを求めるものである。
そして,本件訂正における訂正事項は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記使用者による追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が,前記非活性状態から前記活性状態への前記切り替えのための前記操作入力により行われ,
前記活性化ボタンにおいて前記非活性状態にあるときに前記操作入力を受け付けると,前記使用者識別機能による認証の結果に関わらず,前記ディスプレイ部をオンにし前記活性状態へ切り替え,
前記使用者識別機能による認証の結果,前記使用者が正当な使用者と認証されなければ,前記移動通信端末機のロック状態を維持するとともに,前記ディスプレイ部にメッセージを表示するよう構成されることを特徴とする移動通信端末機。」
と記載されているのを,
「前記非活性状態にあるときに使用者による前記操作入力を受け付けると,前記ディスプレイ部にロック画面が表示された前記活性状態へ切り替え,
前記使用者による追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が,前記非活性状態から前記ロック画面が表示された前記活性状態への前記切り替えのための前記操作入力により行われ,
前記活性化ボタンにおいて前記非活性状態にあるときに前記操作入力を受け付けると,
前記使用者識別機能による認証の結果に関わらず,前記ディスプレイ部をオンにし前記活性状態へ切り替え,
前記使用者識別機能による認証の結果,前記使用者が正当な使用者と認証されなければ,前記移動通信端末機のロック状態を維持するとともに,前記ディスプレイ部にメッセージを表示するよう構成されることを特徴とする移動通信端末機。」
に訂正する。(請求項1を引用する請求項2乃至4及び9も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に
「前記活性化ボタンにより得た指紋と,既に保存された使用者の指紋情報と比較して前記指紋認識を行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の移動通信端末機。」と記載されているのを,
「前記ロック画面には,現在の時間を表示することができ,
前記活性化ボタンにより得た指紋と,既に保存された使用者の指紋情報と比較して前記指紋認識を行うこと,
を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の移動通信端末機。」
に訂正する。(請求項4を引用する請求項9も同様に訂正する)。
2 一群の請求項
訂正前の請求項2乃至4及び9は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって,訂正事項1により訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。また,訂正前の請求項9は請求項4を引用するものであって,訂正事項2により訂正される請求項4に連動して訂正されるものである。
したがって,訂正前の請求項1乃至4及び9に対応する訂正後の請求項1乃至4及び9は,特許法134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1のうち,「前記非活性状態にあるときに使用者による前記操作入力を受け付けると,前記ディスプレイ部にロック画面が表示された前記活性状態へ切り替え,」という構成要件の追加(以下「訂正事項1A」という。)は,発明を特定するための事項を直列的に付加するものである。
また,訂正事項1のうち,「前記使用者による追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が,前記非活性状態から前記活性状態への前記切り替えのための前記操作入力により行われ」とあるのを,「前記使用者による追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が,前記非活性状態から前記ロック画面が表示された前記活性状態への前記切り替えのための前記操作入力により行われ」とする訂正(以下「訂正事項1B」という。)は,訂正前の「前記活性状態」を「前記ロック画面が表示された前記活性状態」に限定するものである。
したがって,訂正事項1は,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項追加の有無
(ア)願書に添付した明細書の記載
願書に添付した明細書には,以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)
「【0023】
本明細書において,「非活性状態」とは,移動通信端末機が通信可能な状態ではあるが,ディスプレイ画面がオフ(off)の状態を意味する。ディスプレイ画面がオフの状態であっても,所定の機能(例えば,音楽再生機能など)は動作し得る。このように,本明細書において「非活性状態」という用語は移動通信端末機が所定の動作をしているか否かを問わず,ディスプレイ画面がオフの状態を包括する概念である。しかし,移動通信端末機が完全にオフされた状態を除く。
【0024】
本明細書において,「活性状態」とは,移動通信端末機のディスプレイ画面がオン(on)状態の場合を意味する。「非活性状態」から「活性状態」への転換とは,ディスプレイ画面がオフの状態からディスプレイ画面をオン状態に切り替えることを意味することであって,オン状態のディスプレイ画面にどのような情報が表示されるかは問わない。例えば,単にロック画面だけが表示される場合であっても,これは移動通信端末機の「活性状態」といえる。
【0025】
移動通信端末機の構成
図1は,本発明による移動通信端末機の外観を示す図である。
【0026】
図1を参照すると,本発明の移動通信端末機100は,ディスプレイ部110,活性化ボタン120を含むことができる。また,カメラ130がさらに含まれることができる。」
「【0029】
活性化ボタン120は移動通信端末機100の非活性状態を活性状態に切り替えるようにする手段である。すなわち,移動通信端末機100が非活性状態の際に,使用者が活性化ボタン120を押すと活性状態に切り替わる。図1は,移動通信端末機100が非活性状態の際に,活性化ボタン120を押すことで,ディスプレイ部110にロック画面が表示された状態を例示する。しかし,活性化ボタン120は,これとは異なる動作のための手段(例えば,ディスプレイ部110にある動作状態が表示される間に待機画面に移動するための手段,現在動作中のプログラムリストを表示する手段)として機能することができる。」
「
[図:0001393418000001.jpg]
」(図1)
(イ)訂正事項1Aについて
上記(ア)の「非活性状態」及び「活性状態」の意義,「活性化ボタン120」の機能等を総合すると,願書に添付した明細書には,本実施例の移動通信端末機が,「非活性状態の際に,使用者が活性化ボタン120を押すと活性状態に切り替わ」り,「ディスプレイ部110にロック画面が表示された状態」になることが記載(特に【0029】)されている。
一方,訂正事項1Aの「前記非活性状態にあるときに使用者による前記操作入力を受け付けると,前記ディスプレイ部にロック画面が表示された前記活性状態へ切り替え,」という構成要件のうち「使用者による前記操作入力」は,請求項1の「前記移動通信端末機の非活性状態から前記移動通信端末機の活性状態への切り替えのために,前記非活性状態にあるときに使用者による操作入力を受け付ける活性化ボタン」の記載からみて,「活性化ボタンが」「受け付ける」「使用者による操作入力」のことである。
したがって,訂正事項1Aに係る構成要件は,願書に添付した明細書に記載された事項である。
(ウ)訂正事項1Bについて
訂正事項1Bにより限定する「前記ロック画面が表示された」のうちの「前記ロック画面」は,訂正事項1Aにより請求項1に導入された「ロック画面」のことである。
そして,上記(ア)(特に【0029】)より,非活性状態の際に使用者が活性化ボタンを押すことは,前記非活性状態から,ロック画面が表示された活性状態へ切り替えるための操作といえるから,訂正事項1Bにより「前記活性状態」を「前記ロック画面が表示された前記活性状態」に限定することは,願書に添付した明細書に記載された事項である。
(エ)小括
訂正事項1は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するか否か
訂正事項1は,上記ア,イのとおり請求項1を本件明細書等に記載した事項により限定するものであって,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
したがって,訂正事項1は,特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2の「前記ロック画面には,現在の時間を表示することができ,」という構成要件の追加は,発明を特定するための事項を直列的に付加するものであるから,訂正事項2は,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項追加の有無
(ア)願書に添付した明細書には,上記(1)イ(ア)の事項に加え,以下の事項が記載されている。
「【0005】
具体的に,端末機には,ディスプレイがオフの状態の非活性化状態からディスプレイがオン状態の活性化状態に切り替えるボタンが備えられているのが一般的であるが,現在多くの使用者はこのような活性化切り替えボタンを意識的または無意識的に数回押す動作を行う。通常的な端末機では,活性化切り替えボタンが押された際,使用者が設定した背景画面に,現在時間などの非常に簡単な情報だけが表示されるのが一般的であった。よって,使用者は端末機の活性化ボタンを押した場合,いかなる情報及び興味も得ることができずに,端末機は再び非活性化状態に切り替わることとなる。」
上記(1)イ(イ)で説示したとおり,願書に添付した明細書には,移動通信端末機において,非活性状態の際に活性化ボタンを押すことで,ロック画面が表示されることが記載されている。
さらに,「活性化切り替えボタンが押された際,使用者が設定した背景画面に,現在時間などの非常に簡単な情報だけが表示されるのが一般的」(【0005】)であることが記載されているところ,「活性化切り替えボタンが押された際,使用者が設定した背景画面に,現在時間などの非常に簡単な情報だけが表示され」ている画面は「ロック画面」であるから,「ロック画面」に「現在時間などの非常に簡単な情報だけが表示されるのが一般的」であることが記載されているといえる。
また,訂正事項2の「前記ロック画面」は,請求項4が引用する請求項1において,前記訂正事項1(訂正事項1A)によって,導入された事項であり,訂正事項1に係る「前記非活性状態にあるときに使用者による前記操作入力を受け付けると,前記ディスプレイ部にロック画面が表示された前記活性状態へ切り替え」という記載の「ロック画面」を受けたものである。
そうすると,使用者による前記操作入力を受け付けると表示される「前記ロック画面」にも,一般的なロック画面と同様に,現在時間を表示できると解することができるから,明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,「前記ロック画面には,現在の時間を表示することができ」ることが新たな技術的事項を導入するものとまではいえない。
よって,訂正事項2によって追加される技術的事項は,願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものである。
(イ)一方,請求人は,令和2年9月7日に提出した弁駁書において,以下の理由のとおり,訂正事項2は,特許法134条の2第9項において準用される同法126条5項に規定された「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」の訂正とは言えず,請求項4に係る訂正請求(訂正事項2)は認められない旨,主張する。
すなわち,
「しかし,被請求人が引用する上記の段落【0005】の記載は,本件発明に関する記載ではなく,従来技術である「通常的な端末機」に関する記載である。そして,段落【0005】の記載及び当該段落より前の段落(段落【0001】乃至【0004】)の記載を見ても,「ロック画面」は全く念頭に置かれていない。このような段落【0005】の記載から,訂正事項2によって追加された「前記ロック画面には,現在の時間を表示することができ,」との構成が開示されているとはいえない。
段落【0005】の他に被請求人がその主張の根拠として挙げている本件明細書の記載はなく,また,上述のとおり,本件明細書における本件発明の実施形態のいずれにおいても,「ロック画面」において「現在の時間」を表示することについての記載はなく,図面を見ても「現在の時間」を表示した「ロック画面」は存在しない。」(弁駁書6頁19行-7頁7行)
請求人の上記主張について検討すると,「ロック画面」について,本件明細書等に明確に定義されていないところ,請求項1で特定される「ロック画面」は,「前記非活性状態にあるときに使用者による前記操作入力を受け付けると,前記ディスプレイ部に」「表示され」る画面のことである。
そうすると,上記(ア)で説示したとおり,請求項1で特定される「ロック画面」にも,「活性化切り替えボタンが押された際,使用者が設定した背景画面に,現在時間などの非常に簡単な情報だけが表示され」(【0005】)ている一般的なロック画面と同様に,現在時間が表示できると解することができ,訂正事項2によって追加された「前記ロック画面には,現在の時間を表示することができ」ることは,願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであるから,請求人の前記主張は採用しない。
(ウ)したがって,訂正事項2は,本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するか否か
訂正事項2は,上記ア,イのとおり請求項4を本件明細書等に記載した事項により限定するものであって,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
したがって,訂正事項2は,特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
上記(1)及び(2)で説示したように,訂正事項1は請求項1乃至4及び9を対象とし,訂正事項2は請求項4及び9を対象とする訂正であるところ,本件特許無効審判が請求されていない請求項2,3及び9についても特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正をするものである。
そこで,本件訂正後の請求項2,3及び9に係る発明について,特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(いわゆる独立特許要件)に適合するか否かを検討すると,当審は,本件訂正後の請求項2,3及び9に係る発明について特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。また,請求人も,本件訂正後の請求項2,3及び9に係る発明について,独立特許要件を充足しない,との主張はしていない。
よって,本件特許無効審判が請求されていない請求項2,3及び9に係る訂正は,特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
4 訂正請求についての結論
本件訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号を目的とするものに該当し,同条第3項の規定に適合するとともに,同条第9項で準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1-4,9〕について,訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2で本件訂正は認められたから,本件特許の請求項1ないし10に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ,そのうち請求項1及び4に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は,それぞれ次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
ディスプレイ部と,メモリ手段と通信部とを備えた移動通信端末機であって,
前記移動通信端末機は,前記移動通信端末機の非活性状態から前記移動通信端末機の活性状態への切り替えのために,前記非活性状態にあるときに使用者による操作入力を受け付ける活性化ボタンを備え,
前記非活性状態とは,前記移動通信端末機が通信可能な状態で,かつ,前記ディスプレイ部がオフの状態と定義し,前記活性状態とは,前記移動通信端末機が通信可能で,かつ,前記ディスプレイ部がオンの状態であると定義され,
前記非活性状態にあるときに使用者による前記操作入力を受け付けると,前記ディスプレイ部にロック画面が表示された前記活性状態へ切り替え,
前記使用者による追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が,前記非活性状態から前記ロック画面が表示された前記活性状態への前記切り替えのための前記操作入力により行われ,
前記活性化ボタンにおいて前記非活性状態にあるときに前記操作入力を受け付けると,前記使用者識別機能による認証の結果に関わらず,前記ディスプレイ部をオンにし前記活性状態へ切り替え,
前記使用者識別機能による認証の結果,前記使用者が正当な使用者と認証されなければ,前記移動通信端末機のロック状態を維持するとともに,前記ディスプレイ部にメッセージを表示するよう構成されることを特徴とする移動通信端末機。」
「【請求項4】
前記ロック画面には,現在の時間を表示することができ,
前記活性化ボタンにより得た指紋と,既に保存された使用者の指紋情報と比較して前記指紋認識を行うこと,
を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の移動通信端末機。」
第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は,「特許第6353363号にかかる特許請求の範囲の請求項1及び4にかかる発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」を請求の趣旨として以下(1)の無効理由を主張し,証拠方法として以下(2)の甲第1号証ないし甲第19号証を提出した。以下,甲各号証を「甲1」等と記載することがある。
(1)無効理由
本件特許の,請求項1及び請求項4に係る発明は,本件優先日前に公然実施された公然実施発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて,本件優先日当時の当業者が容易に想到することができたものであるから,これらの発明に係る本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効にすべきものである。
(2)証拠方法
以下の証拠方法のうち,甲3~甲7は審判請求書に添付されて提出されたものであり,甲1,甲2,甲8,甲9,甲11~甲16は口頭審理陳述要領書に添付されて提出されたものであり,甲17は口頭審理陳述要領書(2)に添付されて提出されたものであり,甲18は口頭審理陳述要領書(3)に添付されて提出されたものであり,甲10は令和1年11月7日提出の上申書に添付されて提出されたものであり,甲19は弁駁書に添付されて提出されたものである。
甲第1号証:Apple Inc.,「iPhone ユーザガイド iOS 4.2および4.3ソフトウエア向け」,更新日:平成23年(2011年)3月18日
甲第2号証:マックピープル編集部,「iPhoneパーフェクトガイドiOS 4&iPhone 4対応版」,株式会社アスキー・メディアワークス,平成22年(2010年)11月1日発行
甲第3号証:特表2010-541046号公報
甲第4号証:Apple Inc.,プレスリリース「iPhone 4の販売台数,170万台を突破」,平成22年(2010年)6月28日,(URL https://www.apple.com/jp/newsroom/2010/06/28iPhone-4-Sales-Top-1-7-Million/)
甲第5号証:角謙二,「iPhone 10周年完全図鑑」,株式会社エイ出版社(「エイ」は「木」偏に「世」),平成30年(2018年)3月30日発行
甲第6号証:Apple Inc.,「Appleセキュリティアップデート(2010)について」と題するページ,作成日:平成24年(2012年)3月13日,(URL https://support.apple.com/ja-jp/HT5165)
甲第7号証:Apple Inc.,「Appleセキュリティアップデート(2011~2012)」と題するページ ,作成日:平成28年(2016年)2月5日,(URL https://support.apple.com/ja-jp/HT204611)
甲第8号証:梶並彰一郎,報告書(ユーザガイドの作成年月日等について),作成日:令和元年(2019年)9月27日
甲第9号証:Michael Hulse,宣誓供述書(Michael Hulse),作成日:令和元年(2019年)9月27日
甲第10号証:Brittany Paine,宣誓供述書(Brittany Paine),作成日:令和元年(2019年)9月24日
甲第11号証:本件特許の出願手続における平成28年12月20日付け意見書
甲第12号証:株式会社アスキー・メディアワークス,「iPhone 4パーフェクトガイド mini」(抄),マックピープル2010年9月号特別付録,発行日:平成22年(2010年)8月29日
甲第13号証:米国特許出願公開第2009/0083850号明細書
甲第14号証:(株)朝日新聞社及び(株)VOYAGE GROUP,コトバンクのURL https://kotobank.jp/word/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%AC%E3%82%B9-4001の頁画面出力物,印刷者:梶並彰一郎,印刷日:令和元年(2019年)9月27日
甲第15号証:梶並彰一郎,報告書(iOS 4.3を搭載したiPhone 4の動作について),作成日:令和元年(2019年)9月27日
甲第16号証:東京高判平成13年11月1日(平成12年(行ケ)238号)
甲第17号証:梶並彰一郎,報告書(2)(iOS 4.3を搭載したiPhone 4の動作について),作成日:令和元年(2019年)10月17日
甲第18号証:Michael Hulse,宣誓供述書(Michael Hulse),作成日:令和元年(2019年)10月15日
甲第19号証:特許庁審判部,訂正の請求単位の考え方,作成日:平成29年8月23日(更新日:令和元年8月16日)
(3)請求人が主張する公然実施発明について
請求人は,審判請求書9頁で,「iOS 4.2または4.3を搭載したiPhone 4」を「公然実施発明」と称し,「公然実施発明」は「スマートフォン」であるとしている。
そして,請求人が主張する公然実施発明は,口頭審理陳述要領書(2)6-7頁に記載された以下のとおりのものである。
(請求人が主張する公然実施発明)
「ディスプレイ部と,メモリ手段と通信部を備えたスマートフォンであって,
前記スマートフォンには,スリープ状態とスリープ解除状態とがあり,スリープ状態は,スマートフォンが通信可能な状態で,かつ,ディスプレイがオフの状態を意味し,スリープ解除状態とは,スマートフォンが通信可能で,かつ,ディスプレイがオンの状態を意味し,
さらに,前記スマートフォンは,ホームボタンを備え,スリープ状態にあるときに,ホームボタンを押すと,ディスプレイがオンとなり,スリープ状態からスリープ解除状態へ切り替えるとともに,ロック画面が表示され,
加えて,前記スマートフォンには,パスコードを入力することによる使用者識別機能として,スリープ状態においてホームボタン(あるいは,スリープ/スリープ解除のオン/オフボタン)を押して,ロック画面においてスライダをドラッグした後,4ケタのパスコードを入力したときに,認証を行う構成が備えられ,
また,前記スマートフォンはホームボタンに複数の機能を備えている,
スマートフォン。」
2 被請求人の主張
被請求人は,「本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」を答弁の趣旨として,請求人が主張する「公然実施発明」が本件優先日前に公然実施されていたことを争うとともに,仮に公然実施されていたとしても公然実施発明と甲3に開示された構成に基づいて本件発明1及び本件発明2の構成を容易に想到できたとはいえないため,請求人の主張する無効理由には理由がない旨主張するとともに,証拠方法として以下の乙第1号証及び乙第2号証を口頭審理陳述要領書に添付して提出した。
乙第1号証:米国特許出願公開第2008/0049980号明細書
乙第2号証:特開2003-143290号公報
第5 無効理由についての当審の判断
1 本件発明1について
(1)本件発明1
本件発明1は,上記第3の【請求項1】の事項により特定される発明である。
(2)公然実施発明について
ア 公然実施発明が本件優先日前に公然実施されていたことについて
(ア)甲各号証の記載
甲4(1頁)には,2010年6月24日にiOS 4を搭載したiPhone 4が発売されたことが記載されている。
甲5(024頁)には,iPhone 4について,発売日が2010年6月24日であること,発売時のOSがiOS 4.0であることが記載されている。
甲6(1/4)には,iOS 4.2が,iPhone 3G以降のiOS 2.0~4.1を対象として,2010年11月22日にリリースされて利用可能となったことが記載されている。
甲7(5/6)には,iOS 4.3が,iPhone 3GS以降のiOS 3.0~4.2.1を対象として,2011年3月9日にリリースされて利用可能となったことが記載されている。
甲8の報告書には,甲1に係る「ユーザガイド」の文書のプロパティの記載から,「ユーザガイド」の「作成年月日」が2011年3月18日であることが示されている。
甲9(3.)及び甲18(3.)には,甲1に係るiPhoneユーザガイド(iOS 4.2および4.3向け)の日本語版が,2011年3月22日以降,アップルの公式サポートサイトの日本語版を通じてダウンロード可能となったことが,宣誓とともに示されている。
甲10(8.)には,iPhoneユーザガイド(iOS 4.2および4.3向け)には,iOS 4.2またはiOS 4.3がiPhone 4で利用可能になっている間にインストールされた,iOS 4.2またはiOS 4.3のいずれかを有するiPhone 4で利用可能な機能が記載されていることが,宣誓とともに示されている。
(イ)公然実施発明が本件優先日前に公然実施されていたか否かの判断
本件優先日は2011年(平成23年)10月19日である。
一方,公然実施発明のスマートフォンは,「iOS 4.2または4.3を搭載したiPhone 4」であるところ,「iPhone 4」は当初OSであるiOS 4.0を搭載して2010年(平成12年)6月24日に発売され(甲4,5),その後,iOS4.2が2010年11月22日にリリースされて利用可能となり(甲6),iOS 4.3が2011年3月9日にリリースされて利用可能となり(甲7),甲1に係るiPhoneユーザガイド(iOS 4.2および4.3向け)の日本語版が2011年3月22日以降アップルの公式サポートサイトの日本語版を通じてダウンロード可能となった(甲8,甲9,甲18)ものと認められる。
そして,iPhoneユーザガイド(iOS 4.2および4.3向け)は,iOS 4.2またはiOS 4.3がiPhone 4で利用可能になっている間にインストールされた,iOS 4.2またはiOS 4.3のいずれかを有するiPhone 4で利用可能な機能が記載されている(甲10)ものであるところ,仮に,ユーザガイドに記載されている機能が部分的にインストールされるものであれば,ユーザガイドにその旨が記載されているのが自然であるといえるが,iPhoneユーザガイド中にその旨の記載はない。
そうすると,前記ユーザガイドに記載された機能が部分的にインストール可能になったことなどを疑わせる具体的な事情はないから,「iOS 4.2または4.3を搭載したiPhone 4」である公然実施発明のスマートフォンは,本件優先日前に公然実施されていると推認される。
なお,被請求人は,答弁書(別紙2頁)の「第2」の「1」,口頭審理陳述要領書(19~20頁)の「第4」,口頭審理陳述要領書(その2)(7頁)の「第4」及び口頭審理陳述要領書(その3)(4頁)の「第3」において,公然実施発明が本件優先日前に公然実施されていたことを一貫して争っている。しかしながら,被請求人は,争うことの具体的理由,例えば,iPhone 4の機能のうち公然実施発明に含まれる機能が本件優先日以前に利用可能ではなかったこと,又は,iPhone 4の機能が本件優先日以前に利用可能であっても公然実施発明に含まれる全ての機能がインストールされるものではないこと等を示す具体的な根拠を示していない。
したがって,被請求人の主張は,上記推認を覆すに足りる証拠を伴うものではないから採用しない。
よって,「iOS 4.2または4.3を搭載したiPhone 4」である公然実施発明は,本件優先日前に公然実施されていたものと認める。
イ 公然実施発明の内容について
(ア)甲1に記載された事項
甲1である「iPhone ユーザガイド iOS 4.2および4.3ソフトウエア向け」には,以下の事項が記載されている。
以下,順に9頁,11頁,12頁,22頁,29頁,36頁,44頁,49頁,60頁,153頁,193頁及び194頁の内容を示す。
[図:0001393418000002.jpg]
[図:0001393418000003.jpg]
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[図:0001393418000013.jpg]
(イ)甲2に記載された事項
甲2である「iPhoneパーフェクトガイドiOS 4&iPhone 4対応版」には,以下の事項が記載されている。
以下,順に22頁及び39頁の内容を示す。
[図:0001393418000014.jpg]
[図:0001393418000015.jpg]
(ウ)甲1及び甲2に基づく公然実施発明について
上記(ア)(イ)より,「iOS 4.2又は4.3を搭載したiPhone 4」(以下,単に「iPhone 4」ともいう。)について,以下のことがいえる。
a 甲1の9頁には,iOS 4.2又は4.3を搭載したiPhone 4の概要として,iPhone 4を写した写真が掲載されており,その正面に「Apple Retina ディスプレイ」と称する「ディスプレイ」と後述の「ホームボタン」が備えられている。
さらに,甲1の153頁の「計算機」の項には,数字をメモリに保存したり,メモリに保存された数字を消去することが記載されており,また,以下のdで詳述する49頁の「セキュリティ機能」についての「パスコードとデータ保護」に示唆されるように,パスコードや,メールメッセージ,添付ファイルを保存するための手段である「メモリ」がiPhone 4に備えられていることは明らかである。
また,甲1の60頁に「電話をかける/電話に出る」ことが記載され,同22頁に「インターネットに接続する」ことが記載されているから,iPhone 4は,「通信部」を備えているといえる。
そうすると,iOS 4.2又は4.3を搭載したiPhone 4は,ディスプレイと,メモリと通信部とを備えているといえる。
b 甲1の11頁には,「スリープ/スリープ解除のオン/オフボタン」について,「iPhoneをあまり使用していないときは,ロックしてディスプレイをオフにすることでバッテリーを節約できます。」と記載されていることから,ロックしてディスプレイをオフにした「スリープ状態」と,ディスプレイをオンにした「スリープ解除状態」とがあるといえる。さらに,甲1には,前記記載に続けて「iPhone がロックされているときは,画面に触れても操作できません。その場合でも,電話に出たり,テキストメッセージやアップデートを受信したりできます。」と記載されているから,ディスプレイをオンにした「スリープ解除状態」はもちろん,ロックして画面(ディスプレイ)をオフにした「スリープ状態」であっても,通信が可能であるといえる。
そうすると,iOS 4.2又は4.3を搭載したiPhone 4には,スリープ状態とスリープ解除状態とがあり,スリープ状態は,iPhone 4が通信可能で,かつ,ロックしてディスプレイをオフにした状態のことであり,スリープ解除状態は,iPhone 4が通信可能で,かつ,ディスプレイをオンにした状態のことであるといえる。
c 上記aより,iOS 4.2又は4.3を搭載したiPhone 4は「ホームボタン」を備えている。そして,甲1の12頁には「iPhoneのロックを解除する」ためのユーザの操作について,「ホームボタン,またはスリープ/スリープ解除のオン/オフボタンを押して,スライダをドラッグします。」と記載されている。さらに,甲1の36頁には,「ロック画面」が記載され,該「ロック画面」の下方には,ドラッグするためのスライダが看取できる。
この点に関連し,iOS 4を搭載したiPhone 4の操作に関する事項が記載されている甲2(22頁)には,iOS 4のバージョンが4.2又は4.3であるかは明記されていないものの,iPhone 4の「スリープとロックの解除」のためのユーザの操作について,「電源ボタンを押すとスリープ状態になる。しばらく操作しないと自動的にスリープになるが,すぐにiPhoneを収納したい場合などに便利だ」の記載とともに電源ボタンが角丸四角で囲まれたiPhoneの図面が示され,該図面からの右向きの矢印の先に「スリープ時は画面がブラックアウトし,タッチパネル上を指で触っても操作できないロック状態になる」の記載とともにブラックアウトした画面が示され,この画面からの右向きの矢印の先に「スリープ時に電源ボタンかホームボタンを押すと,スリープから復帰してロックを解除できるようになる」の記載とともに,上記甲1の「ロック画面」と同様の画面が示されている。そして,画面がブラックアウト,すなわちディスプレイをオフにした状態は「スリープ状態」であり,前記ロック画面を表示,すなわちディスプレイをオンにした状態は「スリープ解除状態」であるといえ,ブラックアウトした画面とロック画面の間の矢印は,ホームボタンを押すことにより,ブラックアウトした画面からロック画面へと画面が推移することを意味すると解することができ,この点は,甲1の12頁の記載と整合し,iOS 4.2又は4.3を搭載したiPhone 4も,スリープ状態でホームボタンが押された場合の画面は甲2と同様に推移することが推認できる。
以上より,iOS 4.2又は4.3を搭載したiPhone 4は,ホームボタンを備え,スリープ状態にあるときに,ユーザがホームボタンを押すと,ディスプレイがオンとなり,スリープ状態からスリープ解除状態へ切り替えるとともに,ロック画面が表示されて,ロックを解除できるようになるものといえる。
d 甲1の49頁には,「セキュリティ機能」について,「セキュリティ機能は,ほかのユーザがiPhone上の情報にアクセスできないように保護する場合に役立ちます。」と記載されているから,iOS4.2又は4.3を搭載したiPhone 4のセキュリティ機能は,使用者が,ほかのユーザであるのか,所有者であるのかを識別するための使用者識別機能であるといえる。さらに,前記記載に続けて「パスコードとデータ保護」について,「iPhoneの電源を入れたり,スリープ解除したりするたびに,パスコードを入力する必要があるように設定できます。」及び「パスコードを設定する:「設定」>「一般」>「パスコードロック」と選択し,4桁のパスコードを入力してから,確認のためにそのパスコードをもう一度入力します。iPhoneから,パスコードを入力してロックを解除するか,パスコードロックの設定を表示するように求められます。」と記載されており,前記「使用者識別機能」は「パスコードを入力すること」によるものといえ,さらに,パスコードを入力するとロックが解除されるから,ロックの解除は,4桁のパスコードを入力したときに,認証を行うものといえる。
そして,上記cのロック画面が表示されてロックを解除できるようになることも考慮すると,iOS 4.2又は4.3を搭載したiPhone 4には,パスコードを入力することによる使用者識別機能として,スリープ状態においてホームボタン,またはスリープ/スリープ解除のオン/オフボタンを押して,ロック画面においてスライダをドラッグした後,4ケタのパスコードを入力したときに,認証を行う構成が備えられているといえる。
e iOS 4.2又は4.3を搭載したiPhone 4がスマートフォンの一種であることや,公然と実施されたこと自体は当業者に自明なことである。
f 上記aないしeを総合すると,iOS 4.2又は4.3を搭載したiPhone 4である,「スマートフォン」に関する次の発明が公然実施されたと認められる。以下,この発明を公然実施発明という。
(公然実施発明)
「ディスプレイと,メモリと通信部とを備えたスマートフォンであって,
前記スマートフォンには,スリープ状態とスリープ解除状態とがあり,スリープ状態とは,スマートフォンが通信可能な状態で,かつ,ロックしてディスプレイをオフにした状態のことであり,スリープ解除状態とは,スマートフォンが通信可能な状態で,かつ,ディスプレイをオンにした状態のことであり,
さらに,前記スマートフォンは,ホームボタンを備え,スリープ状態にあるときに,ユーザがホームボタンを押すと,ディスプレイがオンとなり,スリープ状態からスリープ解除状態へ切り替えるとともに,ロック画面が表示され,
加えて,前記スマートフォンには,パスコードを入力することによる使用者識別機能として,スリープ状態においてホームボタンを押して,ロック画面においてスライダをドラッグした後,4ケタのパスコードを入力したときに,認証を行う構成が備えられている,
スマートフォン。」
(3)甲3について
ア 甲3の記載
甲3には,図面とともに以下の事項が記載されている。
「【請求項15】
ユーザをシームレスに認証するための電子デバイスであって,
ユーザから入力を受信する入力メカニズムと,
前記入力が受信される時に,前記ユーザの識別特徴を検出する検知素子と,
前記検出された識別特徴に基づいて,前記ユーザを認証するプロセッサと,を備える,電子デバイス。
【請求項16】
請求項15に記載の電子デバイスであって,前記検知素子は,前記入力メカニズムに内蔵されている,電子デバイス。
【請求項17】
請求項15に記載の電子デバイスであって,前記検知素子は,前記検知素子の視野が,前記入力メカニズムに入力を提供するユーザの少なくとも1つの識別特徴を捉えるよう配置される,電子デバイス。
【請求項18】
請求項15に記載の電子デバイスであって,前記入力メカニズムは,キーボードと,ボタンと,マウスと,タッチパッドと,タッチスクリーンと,スクロールホイールと,の内の少なくとも1つを備える,電子デバイス。
【請求項19】
請求項15に記載の電子デバイスであって,前記検知素子は,前記ユーザの皮膚の特徴およびユーザの皮下の特徴の少なくとも一方を検出する,電子デバイス。」
「【0001】
本発明は,内蔵認証システムを備えた電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス,特に携帯型電子デバイスは,個人情報を格納するために用いられる。例えば,ユーザは,ユーザが用いる連絡先,電子メール,カレンダー情報,文書,および,その他の情報を格納するために,携帯電話,PDA,スマートフォン,または,その他の電子デバイスを用いてよい。この情報は,必ずしも秘密にしなくてもよいが,ユーザは,情報の少なくとも一部を他人に利用できなくするよう望んでもよい。許可されていない人物がユーザの個人情報にアクセスし閲覧することを防ぐ方法の1つとして,デバイス機能を有効にする前,または,デバイスリソースにアクセスする前に,パスワードまたはパスコードの提供を電子デバイスのユーザに要求する方法が挙げられる。例えば,電子デバイスは,デバイスのホームスクリーン(例えば,スプリングボード)またはメニューを表示する前に,4つの数字または4つの文字のPINを入力するよう,ユーザに要求してよい。別の例として,ユーザの指紋を検出するためまたはユーザの網膜を走査するための付属デバイスをデバイスに接続することによって,ユーザが,デバイスへのアクセス権を受ける前に,承認された指紋または網膜を最初に示さなければいけないようにしてもよい。
【0003】
これらの方法は両方とも有効でありうるが,パスワードまたはパスコードに基づくアクセス制限は,パスワードまたはパスコードを知っている他のユーザがいない限りは,効果的である。パスワードまたはパスコードが知られると,制限メカニズムは,効果がなくなりうる。また,パスワードまたはパスコードを忘れて,許可ユーザがデバイスにアクセスできなくなる場合もある。さらに,ユーザに指紋を提供するまたは網膜スキャンを受けるよう要求することは,ユーザがデバイスにアクセスできるまでに求めるステップを増やすため,時間がかかり,ユーザにとって煩わしい場合がある。この方法は,パスワードまたはパスコードの入力よりも安全であるが,ハードウェア(例えば,必要なスキャナ,検出器,または,リーダ)のコストと時間がかかる。したがって,例えば,ユーザがデバイスをオンにする,ロック解除する,または,起動する時に,デバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証するように,生体認証および他の認証メカニズムを実装した電子デバイスを提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0004】
電子デバイスのユーザを認証するための方法,電子デバイス,および,コンピュータ読み取り可能な媒体が提供されている。一部の実施形態において,電子デバイスは,ユーザをシームレスに認証しうる。電子デバイスは,ユーザから入力を受信してよく,その入力は,電子デバイスの入力メカニズムによって提供される。電子デバイスは,ユーザが,入力メカニズムの中またはその近傍に組み込まれた1または複数のセンサから入力を提供する時に,識別情報を検出してよい。電子デバイスは,検出した識別情報を,デバイスのライブラリに格納されている識別情報と比較することによって,ユーザを認証してよい。例えば,センサは,ユーザの皮膚の特長,または,ユーザの皮下の特長を検出するためのセンサを含んでよい。センサは,タッチスクリーン,ボタン(例えば,キーボードまたはマウスのボタン),入力メカニズム近傍のデバイスの筐体(例えば,キーボードの近くのラップトップ筐体),または,任意の他の適切な位置の少なくとも一カ所に組み込まれてよい。
【0005】
一部の実施形態において,電子デバイスは,デバイスの検知素子に対して位置合わせするようユーザに指示することなく,ユーザが検知素子に対して位置合わせされていることを決定してよい。例えば,検知素子は,センサの検知領域が,電子デバイスを操作する際に予期されるユーザの位置を含むように配置されてよい。センサは,検知素子を用いて,ユーザの1または複数の生体属性(例えば,顔または眼の特長)を検出してよい。例えば,センサは,デバイスのディスプレイに隣接したカメラまたは光学センサを備えてよい。次いで,ユーザは,検出された生体属性を,電子デバイスに格納された,または,電子デバイスがアクセスできる生体属性のライブラリと比較することによって認証されてよい。」
「【0031】
一部の実施形態において,ユーザは,電子デバイスをロック解除する前に(例えば,デバイスの任意のリソースにアクセスする前に),認証を要求されてよい。図4は,本発明の一実施形態に従って,ユーザがデバイスリソースにアクセスする前に,ユーザに認証を指示するためのディスプレイスクリーンの一例を示す概略図である。ディスプレイスクリーン400は,ディスプレイのロックを解除するためのオプション410を備えてよい。例えば,オプション410は,スクリーンの一部を横切って(横断して)ドラッグされるスライダを備えてよい。別の例として,オプション410は,ユーザが選択すべきオプションまたは一連のオプション(例えば,いくつかのキーを同時または連続的に押す,または,ディスプレイスクリーン400のいくつかの領域に触れる,など)を備えてもよい。
【0032】
ディスプレイスクリーン400は,デバイスリソースにアクセスする前に,認証を受けるようユーザに指示する通知420を含んでよい(例えば,情報およびアプリケーションを起動するホームスクリーン)。通知420は,例えば,ポップアップ,オーバーレイ,新たなディスプレイスクリーン,または,ユーザに指示を提供するための任意の他の適切なタイプのディスプレイなど,任意の適切なタイプの通知を含みうる。電子デバイスは,例えば,ユーザがデバイスのスイッチを入れた時(例えば,その後ディスプレイスクリーン400を見る時),第1の認証なしにユーザがデバイスリソースへのアクセスを試みたことに応じて(例えば,エラーメッセージとして),ユーザによるヘルプの要求に応じて,または,任意のその他の適切な時点など,任意の適切な時に通知420を表示してよい。通知420は,例えば,ユーザが認証を行う方法,許可ユーザのリスト,または,任意のその他の適切な情報など,任意の適切な指示を含んでよい。
【0033】
ユーザが適切に認証されると,電子デバイスは,認証されたユーザに関連づけられたオプション(例えば,特定のユーザが購入したアプリケーションのオプション)を表示してよい。一部の実施形態において,電子デバイスは,以前には利用できなかったリソースまたはコンテンツ(例えば,電話または電子メールアプリケーションの連絡先リストまたは以前のメッセージ,など)へのアクセスを提供してよい。図5AないしCは,本発明の実施形態に従って,ユーザ認証に応答して提供された異なるユーザに関連づけられたディスプレイスクリーンの例を示す概略図である。ディスプレイスクリーン500Aは,いくつかのオプション510Aを備えてよい。表示されたオプションは,電子デバイスのデフォルトまたは基本的なディスプレイに共通するいくつかのオプションを含んでよい(例えば,ディスプレイスクリーン500Aは,図2のディスプレイスクリーン200とオプションを共有している)。ディスプレイスクリーン500Aは,特定の認証済みユーザにだけ利用可能な追加のアプリケーションまたはリソースのためのいくつかのオプション512Aを備えてよい。例えば,ディスプレイスクリーン510Aは,ゲーム,システム,および,メディアアプリケーションのための追加のオプション512Aを備えてよい。」
「【0045】
センサは,電子デバイス内の任意の適切な位置に配置されてよい。一部の実施形態において,センサは,ユーザが電子デバイスを操作する時または操作し始める時に,ユーザの皮膚の適切な部分を検出するよう動作できるように配置されてよい。センサの位置は,検出すべきユーザの皮膚の部分(例えば,指,手,または,掌)によって異なってよい。図6は,本発明の一実施形態に従って,ユーザの指紋を検出するための電子デバイスのディスプレイの一例を示す概略図である。ディスプレイ600は,電子デバイスのロックを解除するようユーザに指示するスクリーン602を備えてよい。例えば,スクリーン602は,ブロック610に指を置いてトラック612に沿って指をドラッグすることによって,トラック612に沿ってブロック610をスライドさせて電子デバイスのロックを解除するよう,ユーザに指示する矢印を有するブロック610を備えてよい。
【0046】
ロック解除処理中にユーザを認証するために,ディスプレイ600は,トラック612に沿ってディスプレイ内にセンサ620を備えてよい。例えば,センサ620は,ディスプレイスタック(例えば,容量検知素子,光源,および,ディスプレイ面を備えうるディスプレイスタック)内に組み込まれてよい。別の例として,センサ620は,ディスプレイスタックの下に配置されてもよい。さらに別の例として,センサ620は,ディスプレイスタックの既存の構成要素を含んでもよい(例えば,タッチスクリーンディスプレイのディスプレイスタックは,容量センサを備えうる)。かかる例において,認証システムは,ユーザの皮膚の隆線と谷線を区別するのに十分な解像度を有する(例えば,タッチスクリーンディスプレイの)ディスプレイスタックの容量検知素子の検出出力を用いてよい。一部の実施形態において,ディスプレイスタックの容量検知素子は,ディスプレイの特定の部分を用いた認証を可能にするために,いくつかのタイプまたは密度の容量検知素子を備えてよい(例えば,トラック612の少なくとも一部に沿ったディスプレイスタックには,認証のために非常に精細な検知素子を用いて,ディスプレイ600の残りの領域にはあまり精細でない検知素子を用いる)。
【0047】
一部の実施形態において,センサ620は,ディスプレイ600内で見えないように,電子デバイスに埋め込まれてよい。例えば,センサ620は,ユーザが指紋スキャナを見ることができないように,ディスプレイ600上に組み立てられ,印刷され,または,直接エッチング(例えば,ガラス上にエッチング)されてよい。ユーザがセンサ620に適切な指紋を提供するのが困難な場合,ディスプレイ600は,認証の際にユーザを支援するために,センサ620の輪郭を強調してよい(例えば,センサ620の上に位置するアイコン上に指を置くよう指示するアイコンを表示する,など)。
【0048】
図7は,本発明の一実施形態に従って,ユーザの指紋を検出するための電子デバイスの別の例を示す概略図である。電子デバイス700は,ユーザが電子デバイス700に入力を提供するために作動させうる入力メカニズム710および712を備えてよい。例えば,入力メカニズム710は,キーボードを含んでよく,入力メカニズム712は,タッチパッドまたはトラックパッドを含んでよい。ただし,電子デバイス700と遠隔接続された入力メカニズム(例えば,有線または無線マウス)など,任意の他の入力メカニズムが,電子デバイス700で用いられてもよいことを理解されたい。
【0049】
ソースへの安全なアクセスを提供するために,電子デバイス700は,ユーザを特定するためにユーザの指紋の特徴を検出する少なくとも1つのセンサ720を備えてよい。シームレスなユーザ体験を提供するために,センサ720は,入力メカニズム710および712の少なくとも一方の中または下に組み込まれてよい。一部の実施形態において,入力メカニズム710は,ユーザが電子デバイス700に入力を提供するために押下しうる複数の別個のキーを備えうるため,1または複数のキーに内蔵されたセンサ720を備えてよい。例えば,光学または容量センサは,ユーザが指をキーに置いた(例えば,ユーザの人差し指を「F」または「J」キーに置いた)時に,センサがユーザを認証するためにユーザの指先の特徴を検出できるように,キーの上面に配置されてよい。ユーザの指がキーの上に置かれている間にユーザを認証するために,二次元すなわち移動センサが,用いられ得る。
【0050】
センサ720は,電子デバイスにおいてユーザが押下しうる任意のボタンまたはその他の物理的入力の中,近傍,または,裏側に配置されてもよい。例えば,センサ720は,携帯型メディアプレーヤまたは携帯電話のホームボタン(例えば,図8Bのボタン812)の背後に配置されてよい。センサ720は,外部のカバーまたは表面(例えば,ガラスまたはプラスチック表面)と,スイッチまたは電子回路に作用する機械的構成要素との間に配置されてよい。例えば,指紋検知メカニズムが,透明な表面の下に組み込まれてよく,そうすれば,検知メカニズムは,その表面を介して,ユーザの指紋の隆線および谷線を検出することができる。一部の実施形態においては,透明な表面を追加しなくてもよい(例えば,検知メカニズムが,ユーザが指を置くことのできる表面を備える場合)。
【0051】
一部の実施形態において,入力メカニズム712は,パッドの一部または全体の下に組み込まれたセンサ720を備えてよく,そうすれば,(例えば,ディスプレイ715上のインジケータを動かすために)ユーザが入力メカニズム712上に指を置いた時に,センサ720がユーザを認証するためにユーザの指の特徴を検出することができる。センサ720は,ユーザがパッドを横切って指を移動させた時にユーザを認証する一次元センサであってもよいし,ユーザの指をパッド上で静止させた時(例えば,ユーザが最初に指をパッドの上に置いた時)にユーザを認証する二次元センサであってもよい。センサ720は,認証のためにユーザが入力メカニズム712の特定の部分の上に指を置く必要がないように,入力メカニズム712の表面全体を網羅してよい。電子デバイス700は,ユーザが十分に検出可能な入力を提供するのを支援するために,例えば,強調表示,ディスプレイ上の指示,または,任意のその他の適切な方法を用いて,各センサ720の位置を特定するよう動作してよい。一部の実施形態において,任意の他の適切な入力メカニズム(例えば,ボタン,ホイール,キー,または,スクリーン)が,ユーザの指紋の特徴をシームレスに検出するセンサ720を備えてもよい。
【0052】
図8Aおよび8Bは,本発明の一実施形態に従って,ユーザの手紋を検出するための電子デバイスの一例を示す概略図である。電子デバイス800は,ディスプレイ810を保持する筐体802を備えてよい。筐体802は,電子デバイスの構成要素を保護するために,電子デバイス800の背面(例えば,ディスプレイ810を備えない側の表面)を実質的に構成してよい。ユーザが電子デバイス800を持つ時,ユーザの手830は,図8Bに示すように,ディスプレイ810が見えるように,筐体802の周りで凹状にされてよく,その時,少なくともユーザの掌832が背面804に触れるよう配置される。電子デバイス800は,背面804内に組み込まれユーザの掌または手の特徴を検出するセンサ820を備えてよい。背面802(または,ディスプレイ810の表面と反対側にある電子デバイスの任意の表面)にセンサ820を配置することにより,センサ820は,ユーザが電子デバイス800を持った時に,ユーザを認証することができる。センサ820は,二次元センサを備えてよく,それにより,電子デバイス800は,背面804に触れて手を移動またはスライドさせるようユーザに要求することなく,ユーザをシームレスに認証することがきる。」
「【0065】
電子デバイスは,任意の適切な方法を用いて,許可ユーザを反映する生体情報を取得してよい。例えば,ユーザが特定のデバイスリソースに対して用いるよう認証システムを選択すると,電子デバイスは,ライブラリに格納すべき生体情報(例えば,指紋,眼の走査結果,または,DNA配列)を提供するようユーザに指示してよい。電子デバイスは,例えば,視覚的な合図,聴覚的な合図を用いる方法,および,認証システムのセンサの位置を強調または特定する方法など,任意の適切な方法を用いて,生体情報入力を提供するようユーザに指示してよい。取得されてライブラリに格納された生体情報は,ユーザが認証を試みる時に取り出され,ユーザによって提供された生体情報と比較されてよい。提供された生体認証情報がライブラリに格納された情報(例えば,要求されたリソースに関連づけられた情報)と適合する場合,電子デバイスは,制限されたリソースへのアクセスを提供してよい。一部の実施形態において,同様の方法を用いて,非生体認証情報を受信してもよい。」
「【0078】
図15は,本発明の一実施形態に従って,ユーザを認証するための方法の一例を示すフローチャートである。処理1500は工程1502で始まる。工程1504で,電子デバイスは,デバイスのユーザを特定してよい。例えば,電子デバイスは,ユーザに関連づけられたユーザ名またはパスワードを受信してよい。別の例として,電子デバイスは,認証システムを用いて認証情報を受信し,受信した認証システムからユーザを特定してもよい。電子デバイスは,例えば,ユーザがデバイスを操作する時に認証情報をシームレスに取得できるように認証システムのセンサを配置することによって,ユーザからの明示的な入力を要求することなく,認証情報を自動的に受信しうる。別の例として,センサは,ユーザがセンサの視野すなわち検知領域内に入るとすぐに,ユーザの属性の特徴を検出するよう動作してもよい。一部の実施形態において,処理1500は,工程1502から工程1506に直接移行してもよい。
【0079】
工程1506で,電子デバイスは,制限されたリソースへのアクセス要求が受信されたか否かを判定してよい。例えば,電子デバイスは,ユーザが,特定のユーザに関連づけられたデータ(例えば,連絡先リストまたは他の個人情報)にアクセスするための命令を提供したか否かを判定してよい。別の例として,電子デバイスは,ユーザが,制限されたアプリケーション(例えば,管理者などの特定の階層のユーザに制限されたアプリケーション,または,特定のユーザが購入したアプリケーション)にアクセスするための命令を提供したか否かを判定してもよい。制限されたリソースにアクセスするための命令を受信していないと,電子デバイスが判定した場合,処理1500は,工程1506に戻って,ユーザから受ける入力を監視し続けてよい。
【0080】
一方,工程1506で,制限されたリソースにアクセスするための命令を受信したと,電子デバイスが判定した場合,処理1500は,工程1508に進んでよい。工程1508で,電子デバイスは,特定されたユーザがリソースへのアクセスを許可されているか否かを判定してよい。例えば,電子デバイスは,ユーザが,制限されたリソースにアクセスするのに適切な認証情報を提供したか否かを判定してよい。電子デバイスは,例えば,通常の使用中に認証情報を取得できるように,デバイスに認証センサを内蔵することによって,ユーザの知るところなく,適切な認証情報を取得してよい。特定されたユーザが許可されていないと,電子デバイスが判定した場合,処理1500は,工程1510に進んでよい。工程1510で,電子デバイスは,認証を行うようユーザに指示してよい。例えば,電子デバイスは,認証システム(例えば,上述の認証システムのいずれか)に認証情報を提供するようユーザに指示してよい。一部の実施形態において,電子デバイスは,ユーザによる複数の入力を検出し,それらの入力が,許可ユーザに関連づけられたパターンを有しているか否か,または,許可ユーザに関連づけられた属性を共有しているか否かを判定してよい(例えば,ユーザが,許可ユーザの属性またはパターンに対応する適切な入力を提供したか否かを判定する,または,入力の属性またはパターンが,許可ユーザに関連づけられた属性またはパターンと適合するか否かを判定する)。次いで,処理1500は,ユーザが適切な認証情報を提供したか否かを判定する工程1508に戻ってよい。
【0081】
一方,工程1508で,ユーザが許可されていると,電子デバイスが判定した場合,処理1500は,工程1512に進んでよい。工程1512で,電子デバイスは,要求された制限されたリソースへのアクセスをユーザに提供してよい。例えば,電子デバイスは,個人データへのアクセスまたはユーザに固有のアプリケーションへのアクセスをユーザに提供してよい。次いで,処理1500は,工程1514で終了してよい。」
「
[図:0001393418000016.jpg]
」(図5A)
「
[図:0001393418000017.jpg]
」(図8B)
「
[図:0001393418000018.jpg]
」(図15)
イ 甲3に記載された事項
上記アの記載からみて,甲3には,「内蔵認証システムを備えた電子デバイス」(【0001】)であって,例えば「スマートフォン」や「携帯電話」(【0002】)に関する以下の事項が記載されていると認められる。
(ア)甲3に記載された発明が解決しようとする技術課題について
甲3は,「内蔵認証システムを備えた電子デバイス」(【0001】)に関するものであって,「電子デバイス,特に携帯型電子デバイスは,個人情報を格納するために用いられ」,そのために,ユーザは,例えば,「携帯電話,PDA,スマートフォン,または,その他の電子デバイスを用い」ているところ,「許可されていない人物がユーザの個人情報にアクセスし閲覧することを防ぐ方法の1つとして,デバイス機能を有効にする前,または,デバイスリソースにアクセスする前に,パスワードまたはパスコードの提供を電子デバイスのユーザに要求する方法が挙げられ」,「例えば,電子デバイスは,デバイスのホームスクリーン(例えば,スプリングボード)またはメニューを表示する前に,4つの数字または4つの文字のPINを入力するよう,ユーザに要求」したり,「別の例として,ユーザの指紋を検出するためまたはユーザの網膜を走査するための付属デバイスをデバイスに接続することによって,ユーザが,デバイスへのアクセス権を受ける前に,承認された指紋または網膜を最初に示さなければいけないように」されていた(【0002】)が,「パスワードまたはパスコードに基づくアクセス制限は,…パスワードまたはパスコードが知られると,制限メカニズムは,効果がなくなり」,また,「パスワードまたはパスコードを忘れて,許可ユーザがデバイスにアクセスできなくなる場合もあ」り,「さらに,ユーザに指紋を提供するまたは網膜スキャンを受けるよう要求することは,ユーザがデバイスにアクセスできるまでに求めるステップを増やすため,時間がかかり,ユーザにとって煩わしい場合があ」り,「この方法は,パスワードまたはパスコードの入力よりも安全であるが,ハードウェア…のコストと時間がかかる」(【0003】)という技術課題が認識されている。
そして,このような技術課題の認識のもとで,甲3には,「例えば,ユーザがデバイスをオンにする,ロック解除する,または,起動する時に,デバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証するように,生体認証および他の認証メカニズムを実装した電子デバイスを提供することが望ましい。」(【0003】)と記載され,そのうち「例えば,ユーザがデバイスをオンにする,ロック解除する,または,起動する時」とは,【0002】に記載された「デバイス機能を有効にする前,または,デバイスリソースにアクセスする前」にユーザが行い得る操作を例示したものといえる。
そうすると,甲3に記載された発明は,「デバイスのホームスクリーンまたはメニューを表示する前に,4つの数字または4つの文字のPINを入力するよう,ユーザに要求することは,パスコードが知られると,制限メカニズムは,効果がなくなりなり」,また,「パスワードまたはパスコードを忘れて,許可ユーザがデバイスにアクセスできなくなる場合もあ」り,「さらに,ユーザに指紋を提供するまたは網膜スキャンを受けるよう要求することは,ユーザがデバイスにアクセスできるまでに求めるステップを増やすため,時間がかかり,ユーザにとって煩わしい場合があ」るといった技術課題の認識のもと,「許可されていない人物がユーザの個人情報にアクセスし閲覧することを防ぐため,デバイス機能を有効にする前,または,デバイスリソースにアクセスする前の,例えば,ユーザがデバイスをオンにする,ロック解除する,または,起動する時に,デバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証するように,生体認証および他の認証メカニズムを実装した電子デバイスを提供すること」を目的とするものと解される。
(イ)甲3に記載された発明について
a 甲3の特許請求の範囲の請求項15,該請求項15を引用する請求項18及び請求項19記載された「電子デバイス」に関する発明は,以下のとおりである。
「【請求項15】
ユーザをシームレスに認証するための電子デバイスであって,
ユーザから入力を受信する入力メカニズムと,
前記入力が受信される時に,前記ユーザの識別特徴を検出する検知素子と,
前記検出された識別特徴に基づいて,前記ユーザを認証するプロセッサと,
を備える,電子デバイス。」
「【請求項18】
請求項15に記載の電子デバイスであって,前記入力メカニズムは,キーボードと,ボタンと,マウスと,タッチパッドと,タッチスクリーンと,スクロールホイールと,の内の少なくとも1つを備える,電子デバイス。
【請求項19】
請求項15に記載の電子デバイスであって,前記検知素子は,前記ユーザの皮膚の特徴およびユーザの皮下の特徴の少なくとも一方を検出する,電子デバイス。」
b 上記aの請求項15,18及び19に記載された発明の各特定事項に関し,甲3の発明の詳細な説明の発明を実施するための形態及び図面には,以下の事項が記載されている。
(a)「電子デバイス」の構成について
段落【0050】の「センサ720は,電子デバイスにおいてユーザが押下しうる任意のボタンまたはその他の物理的入力の中,近傍,または,裏側に配置されてもよい。例えば,センサ720は,携帯型メディアプレーヤまたは携帯電話のホームボタン(例えば,図8Bのボタン812)の背後に配置されてよい。」との記載によれば,電子デバイスは,携帯電話を対象とするものであり,ホームボタンを備えるものである。
また,段落【0014】より,「電子デバイス100」は,「プロセッサ102,ストレージ104,メモリ106,通信回路108,入力/出力回路110,認証システム112,および,電源114を備え」ており,段落【0022】より,「I/O回路110」(入力/出力回路110)は,ユーザに可視表示を提供するディスプレイ回路(例えば,スクリーンまたは投影システム)を備えて」いる。
そうすると,請求項15に記載された発明の「電子デバイス」は,ユーザに可視表示を提供するディスプレイ回路とホームボタンとを備える,携帯電話を対象とするものである。
(b)「ユーザから入力を受信する入力メカニズム」について
段落【0020】より,「電子デバイス100は,入力/出力回路110にユーザが入力を提供することを可能にする任意の適切なメカニズムまたは構成要素を備えてよ」く,「例えば,ボタン,キーパッド,ダイヤル,クリックホイール,または,タッチスクリーンなど,任意の適切な入力メカニズムを備えてよ」いことが記載されているから,「入力メカニズム」には,上記(a)のホームボタンも含まれるといえる。
また,段落【0049】の「一部の実施形態において,入力メカニズム710は,ユーザが電子デバイス700に入力を提供するために押下しうる複数の別個のキーを備えうるため,1または複数のキーに内蔵されたセンサ720を備えてよい。」との記載から,「ユーザから入力を受信する」ことは,「ユーザが押下したことを受信する」ことといえる。
そうすると,請求項15及び18に記載された発明の「ユーザから入力を受信する入力メカニズム」は,「ユーザが押下したことを受信するホームボタン」を含む。
(c)「前記入力が受信される時に,前記ユーザの識別特徴を検出する検知素子」について
(c-1)「前記ユーザの識別特徴を検出する検知素子」について,段落【0024】に,「認証システム112は,デバイス100のユーザを特定する入力を受信または検出する任意の適切なシステム又はセンサを備えてよい。例えば,認証システム112は,皮膚のパターンを検知するメカニズム,ユーザの顔のパターン,眼の特徴(例えば,網膜),または,静脈パターンに基づいてユーザを特定するための光学システム,または,任意の他のユーザ特有の生体特徴または属性を検出するための任意の他のセンサを備えてよい。」,段落【0010】に,「一部の実施形態において,認証システムは,ユーザの生体特徴または属性を検出するためのシステムを備えてよい。例えば,電子デバイスは,指紋,手紋(hand print),掌紋,指関節紋(knuckle print),血管パターン,または,任意のその他の適切なユーザの皮膚の一部もしくは皮下の一部など,ユーザの皮膚の特徴または皮下の特徴に基づいて,ユーザを検出および認証するシステムを備えてよい。」と記載されており,「ユーザの識別特徴」とは,ユーザを識別する生体特徴であって,「指紋」の特徴を含むといえる。
そうすると,請求項15及び19に記載された発明の「前記ユーザの識別特徴を検出する検知素子」は,「ユーザの指紋の特徴を検出するセンサ」を含むといえる。
(c-2)上記(c-1)の「ユーザの指紋の特徴を検出するセンサ」の配置に関し,段落【0049】には,「リソースへの安全なアクセスを提供するために,電子デバイス700は,ユーザを特定するためにユーザの指紋の特徴を検出する少なくとも1つのセンサ720を備えてよい。」と記載され,その例として,段落【0050】には,「センサ720は,電子デバイスにおいてユーザが押下しうる任意のボタンまたはその他の物理的入力の中,近傍,または,裏側に配置されてもよい。例えば,センサ720は,携帯型メディアプレーヤまたは携帯電話のホームボタン(例えば,図8Bのボタン812)の背後に配置されてよい。」と記載され,さらに,段落【0051】には,「任意の他の適切な入力メカニズム(例えば,ボタン,ホイール,キー,または,スクリーン)が,ユーザの指紋の特徴をシームレスに検出するセンサ720を備えてもよい。」と記載されている。これらの記載からみて,甲3には,ユーザが押下しうるホームボタンの中,近傍,または,裏側(例えば,背後)にユーザの指紋の特徴を検出するセンサを配置することが記載されている。
(c-3)さらに,段落【0078】には,「図15は,本発明の一実施形態に従って,ユーザを認証するための方法の一例を示すフローチャートである。」と記載されており,図15のフローチャートは,上記aの発明のユーザを認証する方法,すなわち手順に関するものといえ,さらに同段落には,図15の処理1500は,工程1502で始まること,デバイスのユーザを特定する工程1504について,「電子デバイスは,例えば,ユーザがデバイスを操作する時に認証情報をシームレスに取得できるように認証システムのセンサを配置することによって,ユーザからの明示的な入力を要求することなく,認証情報を自動的に受信しうる。」ことが記載されており,上記(c-2)のように配置されたセンサは,ユーザがデバイスを操作する時,すなわちホームボタンを押下したことを受信した時に,ユーザからの明示的な入力を要求することなく,ユーザの指紋の特徴を検出しうるものといえる。
(c-4)そうすると,請求項15,18及び19に記載された発明の「前記入力が受信される時に,前記ユーザの識別特徴を検出する検知素子」は,「ホームボタンの背後に配置されたセンサであって,ユーザがホームボタンを押下したことを受信した時,ユーザからの明示的な入力を要求することなく,ユーザの指紋の特徴を検出するセンサ」を含むといえる。
(d)「前記検出された識別特徴に基づいて,前記ユーザを認証するプロセッサ」について
(d-1)「前記検出された識別特徴」は,上記(c)のとおり,「ユーザの指紋の特徴」を含む。
(d-2)ユーザを認証することについて,段落【0065】には,「電子デバイスは,任意の適切な方法を用いて,許可ユーザを反映する生体情報を取得してよい。例えば,ユーザが特定のデバイスリソースに対して用いるよう認証システムを選択すると,電子デバイスは,ライブラリに格納すべき生体情報(例えば,指紋,眼の走査結果,または,DNA配列)を提供するようユーザに指示してよい。電子デバイスは,例えば,視覚的な合図,聴覚的な合図を用いる方法,および,認証システムのセンサの位置を強調または特定する方法など,任意の適切な方法を用いて,生体情報入力を提供するようユーザに指示してよい。取得されてライブラリに格納された生体情報は,ユーザが認証を試みる時に取り出され,ユーザによって提供された生体情報と比較されてよい。提供された生体認証情報がライブラリに格納された情報(例えば,要求されたリソースに関連づけられた情報)と適合する場合,電子デバイスは,制限されたリソースへのアクセスを提供してよい。」,段落【0080】には,「工程1508で,電子デバイスは,特定されたユーザがリソースへのアクセスを許可されているか否かを判定してよい。例えば,電子デバイスは,ユーザが,制限されたリソースにアクセスするのに適切な認証情報を提供したか否かを判定してよい。電子デバイスは,例えば,通常の使用中に認証情報を取得できるように,デバイスに認証センサを内蔵することによって,ユーザの知るところなく,適切な認証情報を取得してよい。特定されたユーザが許可されていないと,電子デバイスが判定した場合,処理1500は,工程1510に進んでよい。工程1510で,電子デバイスは,認証を行うようユーザに指示してよい。」,段落【0081】には,「一方,工程1508で,ユーザが許可されていると,電子デバイスが判定した場合,処理1500は,工程1512に進んでよい。工程1512で,電子デバイスは,要求された制限されたリソースへのアクセスをユーザに提供してよい。」と記載されているから,ユーザの認証は,予めユーザから取得してライブラリに格納された生体情報(例えば,指紋の情報)と,ユーザが認証を試みるときに取り出され,ユーザによって提供された生体情報とを比較することで行い,提供された生体認証情報がライブラリに格納された情報と適合するか,適合しないかが判定されるものといえる。そして,適合すると判定した場合,すなわち,ユーザが許可されていると,電子デバイスが判断した場合,電子デバイスはユーザに制限されたリソースへのアクセスを提供するものといえ,適合しないと判定した場合,すなわち,ユーザが許可されていないと,電子デバイスが判断した場合,電子デバイスは,認証を行うようユーザに指示するものである。
なお,電子デバイスのこれらの動作を電子デバイスの「プロセッサ」で制御していることは明らかである。
(d-3)上記(d-1),(d-2)より,請求項15及び19に記載された発明の「前記検出された識別特徴に基づいて,前記ユーザを認証するプロセッサ」は,「ライブラリに格納された指紋の情報と検出した前記ユーザの指紋の特徴とを比較することで,前記ユーザの指紋の特徴がライブラリに格納された指紋の情報に適合するか,適合しないかが判定され,適合する,すなわち,ユーザが許可されていると判定した場合は,ユーザに制限されたリソースへのアクセスを提供し,適合しない,すなわち,ユーザが許可されていないと判定した場合は,認証を行うようユーザに指示するプロセッサ」を含むといえる。
(e) 上記(a)ないし(d)を総合すると,甲3には,請求項15,18及び19に記載された発明に関連して,次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲3発明)
「ユーザをシームレスに認証するための,ユーザに可視表示を提供するディスプレイ回路とホームボタンとを備える携帯電話であって,
ユーザが押下したことを受信する前記ホームボタンと,
前記ホームボタンの背後に配置されたセンサであって,ユーザが前記ホームボタンを押下したことを受信した時,ユーザからの明示的な入力を要求することなく,ユーザの指紋の特徴を検出するセンサと,
ライブラリに格納された指紋の情報と検出した前記ユーザの指紋の特徴とを比較することで,前記ユーザの指紋の特徴がライブラリに格納された指紋の情報に適合するか,適合しないかが判定され,適合する,すなわち,ユーザが許可されていると判定した場合は,ユーザに制限されたリソースへのアクセスを提供し,適合しない,すなわち,ユーザが許可されていないと判定した場合は,認証を行うようユーザに指示するプロセッサと,
を備えること。」
(4)周知慣用技術について
ア 周知例1
本件優先日前に公開された「株式会社NTTドコモ,F-12C 取扱説明書‘11.7,2011年7月,第1版,pp.46-49,123,[online],URL:https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/support/manual/F-12C_J_OP_All.pdf,検索日:令和2年1月15日」(以下「周知例1」という。)には,以下の事項が記載されている。
以下,順に48頁及び123頁の内容を示す。
[図:0001393418000019.jpg]
[図:0001393418000020.jpg]
「画面ロック」の項(48頁)に,「画面ロックを設定するとロック画面を解除したあとに,認証操作が必要となるので,他人が不正にFOMA端末を使用するのを防ぐことができます。」と記載され,エラーメッセージの項(123頁)に,画面ロック解除用暗証番号またはパスワードに誤りがあるときに「暗証番号が一致しません/パスワードが一致しません 再入力してください」と表示されることが記載されている。
イ 周知例2
また,本件優先日前に公開された「田中裕子,ポケット百科 iPad2 知りたいことがズバッとわかる本,株式会社翔泳社,2011年6月16日,初版,pp.292-293」(以下「周知例2」という。)には,以下の事項が記載されている。
[図:0001393418000021.jpg]
[図:0001393418000022.jpg]
「iPadを他人に勝手に使われないようにしたい」というFAQ(292-293頁)において,「ATTENTION iPadをパスコードで保護しておくと,「ロック解除」を行ったときに毎回パスコードの入力が必要になる。」と記載され,「STEP2 使用後に画面をオフにする」の項において,「以上の設定をしたら,iPad利用後に画面をオフにする習慣を付けると,必ずパスコードがかかるようになる。」及び「誤ったパスコードを入力すると,エラーメッセージが表示されるので,再度正しいパスコードを入力しよう」と記載されている。
ウ 周知慣用技術
周知例1の「FOMA端末」及び周知例2の「iPad」はいずれも移動通信端末機といえ,周知例1の「暗証番号」,「パスワード」及び周知例2の「パスコード」は,いずれも「認証情報」といえるところ,上記周知例1及び2に記載されているように,「移動通信端末機において,ロック解除時に誤った認証情報を入力するとエラーメッセージが表示されること。」は,本件優先日時点において,周知慣用技術であったと認められる。
(5)対比
本件発明1と公然実施発明とを対比する。
ア 公然実施発明の「ディスプレイ」,「メモリ」及び「通信部」は,それぞれ本件発明1の「ディスプレイ部」,「メモリ手段」及び「通信部」に相当し,公然実施発明の「スマートフォン」は,本件発明1の「移動通信端末機」に含まれる。
イ 公然実施発明の「スリープ状態」は,「スマートフォンが通信可能な状態で,かつ,ロックしてディスプレイをオフにした状態」のことであるから,本件発明1の「非活性状態」の「前記移動通信端末機が通信可能な状態で,かつ,前記ディスプレイ部がオフの状態」であるという定義に該当する。また,公然実施発明の「スリープ解除状態」は,「スマートフォンが通信可能な状態で,かつ,ディスプレイをオンにした状態」のことであるから,本件発明1の「活性状態」の「前記移動通信端末機が通信可能で,かつ,前記ディスプレイ部がオンの状態」であるという定義に該当する。よって,公然実施発明の「スリープ状態」及び「スリープ解除状態」は,それぞれ本件発明1の「非活性状態」及び「活性状態」に相当する。
ウ 公然実施発明の「ホームボタン」は,「スリープ状態にあるときに,ユーザがホームボタンを押すと,ディスプレイがオンとなり,スリープ状態からスリープ解除状態へ切り替える」ものであり,ホームボタンを「ユーザが」「押す」ことは,本件発明1の「使用者による操作入力」に相当し,「スリープ状態からスリープ解除状態へ切り替える」ことは,本件発明1の「前記移動通信端末機の非活性状態から前記移動通信端末機の活性状態への切り替え」に相当する。そうすると,公然実施発明の「前記スマートフォンは,ホームボタンを備え,スリープ状態にあるときに,ホームボタンを押すと,ディスプレイがオンとなり,スリープ状態からスリープ解除状態へ切り替える」ことは,本件発明1の「前記移動通信端末機は,前記移動通信端末機の非活性状態から前記移動通信端末機の活性状態への切り替えのために,前記非活性状態にあるときに使用者による操作入力を受け付ける活性化ボタンを備え」ることに相当する。
エ 公然実施発明の「スリープ状態にあるときに,ユーザがホームボタンを押すと,ディスプレイがオンとなり,スリープ状態からスリープ解除状態へ切り替えるとともに,ロック画面が表示され」は,「ロック画面」が「スリープ状態にあるときに,ユーザがホームボタンを押すと,ディスプレイがオンとなり」表示される画面であるといえるから,本件発明1の「前記非活性状態にあるときに使用者による前記操作入力を受け付けると,前記ディスプレイ部にロック画面が表示された前記活性状態へ切り替え」に相当する。
オ 本件発明1と公然実施発明とは,「使用者識別機能」を備える点で共通するものの,本件発明1では「前記使用者による追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が,前記非活性状態から前記ロック画面が表示された前記活性状態への前記切り替えのための前記操作入力により行われ」るのに対し,公然実施発明では,「パスコードを入力することによる使用者識別機能」が「スリープ状態においてホームボタンを押して,ロック画面においてスライダをドラッグした後,4ケタのパスコードを入力したときに,認証を行う」ものである点で相違する。
カ ここで,本件発明1の「前記活性化ボタンにおいて前記非活性状態にあるときに前記操作入力を受け付けると,前記使用者識別機能による認証の結果に関わらず,前記ディスプレイ部をオンにし前記活性状態へ切り替え」る点について検討すると,本件発明1は,「前記移動通信端末機は,前記移動通信端末機の非活性状態から前記移動通信端末機の活性状態への切り替えのために,前記非活性状態にあるときに使用者による操作入力を受け付ける活性化ボタンを備え」,「前記非活性状態にあるときに使用者による前記操作入力を受け付けると,前記ディスプレイ部にロック画面が表示された前記活性状態へ切り替え」るものであって,この切り替えは,「前記使用者識別機能による認証の結果」を待たずに実行される,すなわち「前記使用者識別機能による認証の結果」とは無関係に実行されるものと解するのが自然である。
一方,公然実施発明の「スリープ状態にあるときに,ユーザがホームボタンを押すと,ディスプレイがオンとなり,スリープ状態からスリープ解除状態へ切り替える」点は,公然実施発明が備える,「パスコードを入力することによる使用者識別機能」による認証の結果とは無関係に実行される。
したがって,本件発明1の「前記活性化ボタンにおいて前記非活性状態にあるときに前記操作入力を受け付けると,前記使用者識別機能による認証の結果に関わらず,前記ディスプレイ部をオンにし前記活性状態へ切り替え」る点と,公然実施発明の「スリープ状態にあるときに,ユーザがホームボタンを押すと,ディスプレイがオンとなり,スリープ状態からスリープ解除状態へ切り替える」点とは,実質的に同一の事項である。
キ 上記オに関連して,本件発明1の「前記使用者識別機能による認証の結果,前記使用者が正当な使用者と認証されなければ,前記移動通信端末機のロック状態を維持するとともに,前記ディスプレイ部にメッセージを表示するよう構成されること」は,公然実施発明に特定されていない。
以上を総合すると,本件発明1と公然実施発明とは,以下の一致点及び相違点1を有する。
<一致点>
「ディスプレイ部と,メモリ手段と通信部とを備えた移動通信端末機であって,
前記移動通信端末機は,前記移動通信端末機の非活性状態から前記移動通信端末機の活性状態への切り替えのために,前記非活性状態にあるときに使用者による操作入力を受け付ける活性化ボタンを備え,
前記非活性状態とは,前記移動通信端末機が通信可能な状態で,かつ,前記ディスプレイ部がオフの状態と定義し,前記活性状態とは,前記移動通信端末機が通信可能で,かつ,前記ディスプレイ部がオンの状態であると定義され,
前記非活性状態にあるときに使用者による前記操作入力を受け付けると,前記ディスプレイ部にロック画面が表示された前記活性状態へ切り替え,
使用者識別機能を備え,
前記活性化ボタンにおいて前記非活性状態にあるときに前記操作入力を受け付けると,前記使用者識別機能による認証の結果に関わらず,前記ディスプレイ部をオンにし前記活性状態へ切り替える,
移動通信端末機。」
<相違点1>
「使用者識別機能」に関して,本件発明1では,「前記使用者による追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が,前記非活性状態から前記ロック画面が表示された前記活性状態への前記切り替えのための前記操作入力により行われ」るのに対し,公然実施発明では,「パスコードを入力することによる使用者識別機能」が「スリープ状態においてホームボタンを押して,ロック画面においてスライダをドラッグした後,4ケタのパスコードを入力したときに,認証を行う」ものである点。
この点に伴い,本件発明1では,「前記使用者識別機能による認証の結果,前記使用者が正当な使用者と認証されなければ,前記移動通信端末機のロック状態を維持するとともに,前記ディスプレイ部にメッセージを表示するよう構成される」のに対し,公然実施発明では,この点が特定されていない点。
(6)判断
ア 公然実施発明に甲3発明を適用する動機付けについて
(ア)上記(3)イ(ア)のとおり,甲3発明は,「許可されていない人物がユーザの個人情報にアクセスし閲覧することを防ぐため,デバイス機能を有効にする前,または,デバイスリソースにアクセスする前の,例えば,ユーザがデバイスをオンにする,ロック解除する,または,起動する時に,デバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証するように,生体認証および他の認証メカニズムを実装した電子デバイスを提供すること」を目的とするものであるところ,甲3には,その技術課題として,「デバイスのホームスクリーンまたはメニューを表示する前に,4つの数字または4つの文字のPINを入力するよう,ユーザに要求することは,パスコードが知られると,制限メカニズムは,効果がなくなりなり」,また,「パスワードまたはパスコードを忘れて,許可ユーザがデバイスにアクセスできなくなる場合もあ」り,「さらに,ユーザに指紋を提供するまたは網膜スキャンを受けるよう要求することは,ユーザがデバイスにアクセスできるまでに求めるステップを増やすため,時間がかかり,ユーザにとって煩わしい場合があ」ることが開示されている。
(イ)公然実施発明のスマートフォンも甲3発明の携帯電話も携帯通信端末機であるといえる。そして,公然実施発明は,「スリープ状態においてホームボタンを押して,ロック画面においてスライダをドラッグした後,4ケタのパスコードを入力したときに,認証を行う」ものであるところ,公然実施発明の「スリープ状態においてホームボタンを押」すことは,スリープ状態にあるスマートフォンのホームボタンを押して「デバイス機能を有効にする前,または,デバイスリソースにアクセスする前」に「起動する」ことといえ,公然実施発明の「4ケタのパスコードを入力したときに,認証を行う」ことは,甲3発明が技術課題の前提として例示する「デバイスのホームスクリーンまたはメニューを表示する前に,4つの数字または4つの文字のPINを入力するよう,ユーザに要求すること」に該当するといえる。
そうすると,甲3に接した当業者であれば,公然実施発明には,「スリープ状態においてホームボタンを押して」から「認証」を経てデバイスにアクセスできるまでの一連の動作に関して,甲3発明と共通の技術課題が存在することを想起するものといえ,公然実施発明には,「許可されていない人物がユーザの個人情報にアクセスし閲覧することを防ぐため,デバイス機能を有効にする前,または,デバイスリソースにアクセスする前」の「起動する時に」,「デバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証する」ことを目的とした甲3発明を適用する動機付けがあるといえる。
(ウ)なお,請求人は,口頭審理陳述要領書(令和1年10月1日)において,「(デバイスを)起動する」とは,デバイスをスリープ状態からスリープ解除状態に移行することを意味すると解するのが素直である。 しかるところ,公然実施発明において,スリープ状態にあるときにホームボタンを押して,ディスプレイをオンにして,スリープ解除状態へ切り替えて,ロック画面を表示する操作は,「起動するとき」にあたるといえる。」(別紙第32頁第7~12行),「なお,甲3に対応する米国の公開特許公報(甲13)の対応する記載は,「turns on, unlocks or wakes the device」(段落[0004])となっており,かかる記載からも,このように解するのが自然といえる。」(同頁の脚注3)等と主張している。
これに対し,被請求人は,口頭審理陳述要領書(その2)(令和1年10月21日)において,「甲3の「(デバイスを)起動する」について,請求人の「解釈には何ら根拠がなく,誤りである。」(第11頁第18行~第12頁第30行)等と主張している。
そこで検討するに,甲3発明のような「携帯電話」がスリープ機能を備えることは一般的である。そして,甲3の「起動する時」(段落【0003】)が,デバイスをスリープ状態からスリープ解除状態に移行する時であるとまでは言えないものの,一般に,スマートフォンを「起動する時」には,スリープ状態にあるスマートフォンをスリープ解除状態に移行する時も含まれるといえるから,上記のとおり,甲3に接した当業者であれば,公然実施発明においても,甲3発明と共通の技術課題が存在すること想起することに変わりはなく,「デバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証する」ことを目的とした甲3発明を適用する動機付けがあるといえる。
イ 相違点1についての判断
(ア)甲3には,上記ア(ア)の技術課題に対して「デバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証する」ための,上記(3)イ(イ)で示した,以下の甲3発明が記載されている。(再掲)
「ユーザをシームレスに認証するための,ユーザに可視表示を提供するディスプレイ回路とホームボタンとを備える携帯電話であって,
ユーザが押下したことを受信する前記ホームボタンと,
前記ホームボタンの背後に配置されたセンサであって,ユーザが前記ホームボタンを押下したことを受信した時,ユーザからの明示的な入力を要求することなく,ユーザの指紋の特徴を検出するセンサと,
ライブラリに格納された指紋の情報と検出した前記ユーザの指紋の特徴とを比較することで,前記ユーザの指紋の特徴がライブラリに格納された指紋の情報に適合するか,適合しないかが判定され,適合する,すなわち,ユーザが許可されていると判定した場合は,ユーザに制限されたリソースへのアクセスを提供し,適合しない,すなわち,ユーザが許可されていないと判定した場合は,認証を行うようユーザに指示するプロセッサと,
を備えること。」
(イ)ここで,甲3発明の「携帯電話」は,ユーザの認証を指紋の特徴に基づいて行い,ユーザが許可されているか,許可されていないかを判定する機能を備えており,同機能は,本件発明1の「指紋認識による使用者識別機能」に相当する。
(ウ)そして,甲3発明の「携帯電話」は,ユーザをシームレスに認証するために,「ユーザが押下したことを受信する前記ホームボタン」と,「前記ホームボタンの背後に配置されたセンサであって,ユーザが前記ホームボタンを押下したことを受信した時,ユーザからの明示的な入力を要求することなく,ユーザの指紋の特徴を検出するセンサ」とを備えているところ,「ユーザからの明示的な入力を要求することなく,ユーザの指紋の特徴を検出する」ことは,ユーザによる追加の操作なしに指紋認識を行っていることに他ならない(本件発明1の「前記使用者による追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が」「行われ」ること相当する。)。
(エ)さらに,甲3発明の「携帯電話」は,プロセッサにより,「ライブラリに格納された指紋の情報と検出した前記ユーザの指紋の特徴とを比較することで,前記ユーザの指紋の特徴がライブラリに格納された指紋の情報に適合するか,適合しないかが判定され」るところ,判定の結果は,本件発明1の「使用者識別機能による認証の結果」に相当する。そして,前記「携帯電話」は,判定の結果,「ユーザが許可されていないと判定した場合」(本件発明1の「前記使用者が正当な使用者と認証されな」い場合に相当する。)は,「認証を行うようユーザに指示」するものであり,このときユーザに制限されたリソースへのアクセスを提供しないことも明らかである。そして,「前記ユーザに制限されたリソースへのアクセスを提供しない」ことは,本件発明1の「携帯通信端末機のロック状態を維持すること」に他ならない。
(オ)上記(イ)ないし(エ)より,甲3発明は,「ユーザがホームボタンを押下したことを受信した時,ユーザによる追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が行われ,前記使用者識別機能による認証の結果,前記ユーザが正当なユーザと認証されなければ,認証を行うようにユーザに指示し,前記ユーザに制限されたリソースへのアクセスを提供しない」構成を有するといえる(本件発明1の「指紋認識による使用者識別機能が行われ」,「前記使用者識別機能による認証の結果,前記使用者が正当な使用者と認証されなければ,前記移動通信端末機のロック状態を維持する」ことに相当する。)。
そして,甲3の段落【0032】によれば,甲3発明においても,ユーザへの指示を,通知を表示することによって行うこと(本件発明1の「ディスプレイ部にメッセージを表示する」ことに相当する。)が想定されているといえるし,上記(4)のとおり,「移動通信端末機において,ロック解除時に誤った認証情報を入力するとエラーメッセージが表示されること。」は,本件優先日時点において,周知慣用技術であったと認められる。
(カ)そうすると,上記アのとおり,公然実施発明に甲3発明を適用する動機付けはあること,及び,甲3発明で「通知を表示」することによって「ユーザに指示」することは想定の範囲であり,周知慣用技術を採用して適宜なし得る設計事項であることから,「ユーザがホームボタンを押下したことを受信した時,ユーザによる追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が行われ」るために,公然実施発明において,「スリープ状態においてホームボタンを押し」たこと(本件発明1の「前記非活性状態から前記ロック画面が表示された前記活性状態への前記切り替えのための前記操作入力」に相当する。)を受信した時,「スライダをドラッグした後,4ケタのパスコードを入力」することなしに(本件発明1の「前記使用者による追加の操作なしに」に相当する。),「指紋認識による使用者識別機能が行われ,前記ユーザが正当なユーザと認証されなければ」,「通知を表示」することによって「認証を行うようにユーザに指示し,前記ユーザに制限されたリソースへのアクセスを提供しない」ように構成することは,当業者であれば容易に想到し得るものである。
よって,相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は,公然実施発明に対して甲3発明を適用することで当業者が容易に想到し得るものである。
ウ 被請求人の主張について
被請求人は,令和2年5月20日に提出した答弁書の第2の3において,「本件訂正発明1と公然実施発明の相違点1が容易に想到できないこと」に関し,以下の各点について主張するので,以下検討する。なお,本件訂正発明1は,本件発明1のことである。
(ア)「公然実施発明の技術思想は,本件訂正発明1とは全く異なるものであること」(上記答弁書第2の3(1))について
この点について,被請求人が主張する,公然実施発明には,「上記相違点1に係る本件訂正発明1のように『前記使用者による追加の操作なしに,指紋認証による使用者識別機能が,前記被活性状態から前記ロック画面が表示された前記活性状態への前記切り替えのための前記操作入力により行われ』るという技術思想は全くない」こと,また,「公然実施発明の根拠とされた甲1には,本件訂正発明1の目的・課題(本件特許明細書の段落【0006】,【0008】等)を示唆する記載もない」ことは,そのとおりである。
また,被請求人は,パスコードによる使用者識別機能を前提として,「<第2段階>ディスプレイに表示されたスライダに対してドラッグの操作入力」の意義を主張しているが,意図せざる操作等によってロック状態が解除されることを防止するには,少なくとも使用者識別機能(パスワード認証,指紋認証)が機能していれば足りるし,被請求人が示した「パスワードの入力に10回失敗したらデータを消去する」機能(甲1の194頁(上記(2)イ(ア)を参照。))は,ユーザが設定を変更することで選択可能な機能であるから,仮に誤操作によって指紋認証に10回失敗したとしても,必ずデータが消去されてしまうわけではない。
さらに,被請求人は,「以上のような,本件訂正発明1とは異なる公然実施発明の上記構成(とりわけ,<第2段階>に係る処理)は,それ特有の技術的意義・機能を有するものであり,これを敢えて改変して本件訂正発明1のように構成しようとすることは,公然実施発明の技術的意義・機能を損なうものといえ,そのような改変を当業者が敢えて試みる動機付けはない。」と主張しているが,公然実施発明に甲3発明を組み合わせることの動機付けは,公然実施発明のみに基づくものではなく,公然実施発明と甲3発明との関係に基づくものであって,上記アで説示するとおり動機付けはあるから,請求人の前記主張は採用しない。
(イ)「甲3には,相違点1に係る本件訂正発明1の構成が開示されていないこと」(上記答弁書第2の3(2))
この点について,被請求人は,初めに訂正請求前の相違点1に係る本件発明1の構成(「前記使用者による追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が,前記被活性状態から前記活性状態への前記切り替えのための前記操作入力により行われ」)が甲3に開示されていない旨主張するので,以下検討する。
まず,甲3発明について補足する。
甲3には,「上述の本発明の実施形態は,限定ではなく例示の目的としたものであり,本発明は,以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。」(【0082】)と記載されており,甲3に記載した技術事項は,甲3全体から把握されるべきものである。そして,当審で甲3発明を認定するために引用した請求項15には,以下のとおり記載されている。
「ユーザをシームレスに認証するための電子デバイスであって,
ユーザから入力を受信する入力メカニズムと,
前記入力が受信される時に,前記ユーザの識別特徴を検出する検知素子と,
前記検出された識別特徴に基づいて,前記ユーザを認証するプロセッサと,を備える,電子デバイス。」
請求項15の記載より,ユーザをシームレスに認証するための電子デバイスは,「入力メカニズム」と「検知素子」と「認証するプロセッサ」を備えており,これらの動作によりシームレスに認証が行われるものといえるところ,前記電子デバイスは,「入力メカニズム」へのユーザからの入力による動作とともに,「検知素子」は,前記入力が受信される時に,前記ユーザの識別特徴を検出し,「プロセッサ」は,前記検出された識別特徴に基づいて,前記ユーザを認証するように動作する。このとき,ユーザは,「検知素子」が前記ユーザの識別特徴を検出するための,追加の操作を必要としないことは明らかである。さらに,「ユーザをシームレスに認証する」ためには,単にユーザの識別特徴を検出することのみならず,前記検出した識別特徴に基づいて認証することをシームレスに行うことが明らかである。
したがって,上記請求項15を前提として認定した「甲3発明」に誤りはない。
また,被請求人が甲3に記載がないと主張する「前記使用者による追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能が,前記被活性状態から前記活性状態への前記切り替えのための前記操作入力により行われ」のうちの,「非活性状態から活性状態に切り替えるためのホームボタンの押下により」という事項は,甲3に明示はされていないが,甲3発明は,上記(3)イ(ア)のとおり,「許可されていない人物がユーザの個人情報にアクセスし閲覧することを防ぐ方法の1つとして,デバイス機能を有効にする前,または,デバイスリソースにアクセスする前に,パスワードまたはパスコードの提供を電子デバイスのユーザに要求する方法」における技術課題に対し,「例えば,ユーザがデバイスをオンにする,ロック解除する,または,起動する時に,デバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証するように,生体認証および他の認証メカニズムを実装した電子デバイスを提供する」(【0003】)ものであり,甲3発明のような「携帯電話」がスリープ機能を備えることも一般的であることを踏まえれば,上記「例えば,ユーザがデバイスをオンにする,ロック解除する,または,起動する時」には,公然実施発明の「スリープ状態にあるときに,ユーザがホームボタンを押」して「スリープ状態からスリープ解除状態へ切り替える」時が含まれることは当業者に自明といえる。
よって,被請求人の前記主張は採用しない。
次に,被請求人は本件訂正発明1の「ロック画面」に関する構成が甲3に開示されていないから,公然実施発明に甲3発明を組み合わせることができたとしても,相違点1に係る本件訂正発明1の構成を容易に想到することはない旨主張するので,以下検討する。
上記第2の3(2)イ(イ)で説示したとおり,「ロック画面」について,本件明細書には明確に定義されていないところ,本件発明1で特定されるロック画面は,「前記非活性状態にあるときに使用者による前記操作入力を受け付けると,前記ディスプレイに」「表示され」る画面のことである。
そうすると,上記第5の1(5)エで説示したとおり,公然実施発明の「スリープ状態にあるときに,ユーザがホームボタンを押すと,ディスプレイがオンとなり」「表示され」る「ロック画面」は,本件発明1の「ロック画面」に相当する。
そして,甲3発明は,「起動する時に,デバイスが迅速かつシームレスにユーザを認証する」ために「ユーザがホームボタンを押下したことを受信した時,ユーザによる追加の操作なしに,指紋認識による使用者識別機能」(上記イ(オ)参照。)を行うものであって,「ユーザがホームボタンを押下したことを受信した時」に「ロック画面」が表示されているか否かにかかわらず適用できるものであるから,被請求人の前記主張は採用しない。
(ウ)「公然実施発明に甲3発明を組み合わせて相違点1に係る本件訂正発明1の構成を容易に想到できたとはいえないこと」(上記答弁書第2の3(3))
この点について,被請求人は,公然実施発明が以下の手順で行われること,すなわち,
<第1段階>
スリープ状態においてホームボタンに対して操作入力しディスプレイを活性化
<第2段階>
ディスプレイに表示されたスライダに対してドラッグの操作入力
<第3段階>
4ケタのパスコードの操作入力
の3つの段階を備えることを前提とし,公然実施発明と甲3発明とを組み合わせても,
A <第3段階>について甲3発明の指紋認証機能を置き換えたもの,又は
B <第2段階>を排除した上で,<第3段階>について甲3発明の指紋認証機能を置き換えたもの,
にしかならず,本件訂正発明1とは異なる旨主張する。
検討するに,甲3発明を公然実施発明に適用することについては,上記イで説示するとおりであるが,被請求人の手順に即していえば,公然実施発明の<第1段階>ないし<第3段階>に甲3発明を適用することで,<第1段階>においてホームボタンに対する操作入力が行われると指紋認証による使用者識別機能がシームレスに行われるものとなる一方,被請求人がいうAもBもいずれもスリープ状態におけるホームボタンに対する操作入力と指紋認証による使用者識別機能が「シームレス」に行われるものではないから,上記A又はBのものにはならない。
したがって,被請求人の前記主張は採用しない。
(7)本件発明1についてのまとめ
以上のとおり,本件発明1は,公然実施発明及び甲3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件発明1についての特許は,同法第123条第1項第2号に該当し無効とするべきものである。
2 本件発明2について
(1)本件発明2
本件発明2は,本件発明1に,上記第3の【請求項4】に記載された「前記ロック画面には,現在の時間を表示することができ,前記活性化ボタンにより得た指紋と,既に保存された使用者の指紋情報と比較して前記指紋認識を行うこと」との限定を付したものである。
(2)公然実施発明及び甲3発明
公然実施発明は,上記1(2)イ(ウ)fに記載したとおりである。
甲3発明は,上記1(3)イ(イ)b(e)に記載したとおりである。
(3)対比
本件発明2と公然実施発明とを対比すると,上記1(5)での検討を踏まえるに,両者は上記相違点1に加え,以下の相違点2及び相違点3で相違し,他に相違する点はない。
<相違点2>
本件発明2では,「前記活性化ボタンにより得た指紋と,既に保存された使用者の指紋情報と比較して前記指紋認識を行う」のに対し,公然実施発明ではこの特定がない点。
<相違点3>
本件発明2では,「前記ロック画面には,現在の時間を表示することができ」るのに対し,公然実施発明ではこの点が特定されていない点。
(4)判断
ア 相違点1及び相違点2について
相違点1と相違点2とをまとめて検討する。
甲3発明は,「ライブラリに格納された指紋の情報と検出した前記ユーザの指紋の特徴とを比較することで,前記ユーザの指紋の特徴がライブラリに格納された指紋の情報に適合するか,適合しないか」を判定するものであり,「検出した前記ユーザの指紋の特徴」は,「ホームボタンの背後に配置されたセンサ」が検出したものであるから,上記1(6)の判断を踏まえると,本件発明2の「前記活性化ボタンにより得た指紋と,既に保存された使用者の指紋情報と比較して前記指紋認識を行う」構成も有するといえる。
よって,相違点1及び2に係る本件発明2の発明特定事項は,公然実施発明に対して甲3発明を適用することで当業者が容易に想到し得るものである。
イ 相違点3について
スマートフォンにおいて,スリープ時にホームボタンが押された際,使用者が設定した背景画面に,現在時間などの非常に簡単な情報だけが表示されている画面は「ロック画面」である(例えば,甲2の22頁(上記1(2)イ(イ)参照。))から,公然実施発明のスリープ状態にあるときに,ユーザがホームボタンを押すと,表示されるロック画面に現在の時間が表示できるようにすることは,当業者が適宜になし得ることである。
(5)本件発明2についてのまとめ
以上のとおり,本件発明2は,公然実施発明及び甲3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件発明2についての特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とするべきものである。
第6 むすび
以上のとおりであるから,請求項1に係る本件発明1及び請求項4に係る本件発明2についての特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とするべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人の負担とする。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-800006