特許異議申立
2019-701039
トリメリット酸トリエステルを含有する塩化ビニル系樹脂用可塑剤
- 審判番号
- 2019-701039
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-172413
- 登録番号
- 特許第6531569号(P6531569)
- 請求日
- 2019年12月19日
- 審決日
- 2020年03月23日
- 公報発行日
- 2020年05月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】新日本理化株式会社
- 【異議申立人】シージーエスター 株式会社
- 【異議申立人代理人】特許業務法人秀和特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 佐藤 健史
- 審判官 近野 光知
- 審判官 橋本 栄和
- 分類
- P1651.113-Y (C08L) / P1651.121-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6531569号発明「トリメリット酸トリエステルを含有する塩化ビニル系樹脂用可塑剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6531569号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6531569号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成27年9月2日に特許出願され、令和1年5月31日にその特許権の設定登録がされ、同年6月19日に特許公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月19日に特許異議申立人シージーエスター株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)。
「【請求項1】
下記一般式(1)で示されるトリメリット酸トリエステルからなり、R1、R2及びR3が主として炭素数9~11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であり、かつR1、R2及びR3を構成するアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50~99%であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。)
(合議体注:以下、一般式(1)は省略する。)
【請求項2】
前記炭素数9~11のアルキル基の比率が、10~26/34~50/30~46の範囲である請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【請求項3】
アルキル基中の直鎖状のアルキル基の比率が、55~95%である請求項1又は2に記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【請求項4】
アルキル基中の直鎖状のアルキル基の比率が、60~95%である請求項3に記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤に使用するためのトリメリット酸トリエステルの製造方法であって、トリメリット酸若しくはその酸無水物と、炭素数9~11の飽和脂肪族アルコールを主成分とし、炭素数9、10、11の各アルコールの占める比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であり、かつ該飽和脂肪族アルコール中に占める直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率(モル比)が50~99%である飽和脂肪族アルコールの混合物とをエステル化反応することを特徴とするトリメリット酸トリエステルの製造方法。
【請求項6】
前記飽和脂肪族アルコールの混合物が、(1)1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、一酸化炭素と水素とのヒドロホルミル化反応による炭素数9~11のアルデヒドを製造する工程及び(2)炭素数9~11のアルデヒドを水素添加してアルコールに還元する工程を具備する方法により得られたものである請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
塩化ビニル系樹脂と請求項1~4の何れかに記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤を含有することを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の塩化ビニル系樹脂組成物を成形して得られる塩化ビニル系樹脂成形体。」
第3 申立書に記載した特許異議申立ての申立理由
本件発明1~8は、下記のとおりの取消理由があるから、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。証拠方法として、下記の甲第1~26号証(以下、それぞれ「甲1」等という。)を提出する。
1 申立理由1-1(新規性):請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由1-2(新規性):請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲5又は甲14に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
3 申立理由2-1(進歩性):請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明、甲1~26に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
4 申立理由2-2(進歩性):請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲5又は甲14に記載された発明、甲1~26に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
5 証拠方法
甲1:特開昭47-4909号公報
甲2:シェルケミカルズジャパン株式会社発行文書、「LINEVOL、販売名称変更のお願い」、2010年1月12日
甲3:シージーエスター株式会社製品カタログ、「Specia1 Pasticizer PL-200 ■技術資料■ September 1,2011」
甲4-1:「LINEV0L911 DATASHEET」(LINEVOL 911 データシート),2005年10月更新版、https://www.shell.com/business-customers/chemicals/our-products/higher-olefins-and-derivatives/linevol/_jcr_content/par/tabbedcontent/tab_402715357/textimage.stream/1519786300959/6928d89cb613e2ff69b91537f3732bal59f6bbd8/datasheet-linevol911.pdf
甲4-2:「LINEVOL」 https://www.shell.com/business-customers/chemicals/our-products/higher-olefins-and-derivatives/linevol.html
甲5:特開昭52-87113号公報
甲6:英国特許出願公告第1450531号明細書
甲7:特開昭50-46834号公報
甲8:英国特許出願公告第1455196号明細書
甲9:特開昭50-123745号公報
甲10:「Trade marknumber UK00000908444Overview」(英国商標登録番号UK00000908444号の概要)、https://trademarks.ipo.gov.uk/ipo-tmcase/page/Results/l/UK00000908444
甲11:「Trade mark number EU004289252 Overview」(欧州商標登録番号EU004289252号の概要)、https://trademarks.ipo.gov.uk/ipo-tmcase/page/Results/4/EU004289252
甲12:「商標出願・登録情報 登録第0814323号 書誌と商標見本」、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/cl800/TR/JP-1967-037508/D121E966D8114828D316E1A307FCCBED044604E5818817EF541A1560147F42F9/40/ja
甲13:「商標出願・登録情報 登録第0825370号書誌と商標見本」、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/cl800/TR/JP-1967-037509/742C470EC1B5E5C270CD9DEE3E1F0B7F2D530478D6697B7BCA514F9DA163C59A/40/ja
甲14:特開昭52-116401号公報
甲15:特開平6-3356号公報
甲16:特開平7-260775号公報
甲17:特開2006-241261号公報
甲18:特開昭59-100152号公報
甲19:特開昭63-145027号公報
甲20:特公平5-62898号公報
甲21:特開平5-295199号公報
甲22:国際公開第2005/033197号
甲23:国際公開第2011/152295号
甲24:特開2014-189688号公報
甲25:村井孝一編著,「可塑剤-その理論と応用-」,初版,昭和48年3月1日,p.44-49
甲26:「塩化ビニル可塑剤カタログ集」,昭和61年6月30日,p.220,226,227
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立理由1-1及び1-2(新規性)、並びに申立理由2-1及び2-2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1-1(新規性)及び2-1(進歩性)について
(1)甲1に記載された事項
甲1には、次の事項が記載されている。
ア 「本発明はトリメリト酸または無水物と、アルキル鎖に炭素原子6乃至11個を有する脂肪族アルコール1種またはそれ以上とから成る合成潤滑剤または官能流体ベース・ストックに関するものである。
官能流体ベース・ストックとして使用するに適する安価な合成カルボン酸エステルを提供する種々の提案が既になされている。例えばo-フタル酸及びイソフタル酸エステルの適合性は上記用途のために試験された。しかしそれらエステル型はどちらも上記目的には完全には適しない その理由は上記両エステルは比較的低粘度、低粘度指数、高流動点及び高度揮発性を有するからである。
更にo-フタル酸エステルは使用中に分解して、揮発性の固体無水フタル酸(非常に望ましくない影響)を生成する傾向を有する。o-フタル酸エステル及びイソ-フタル酸エステルの粘度を増大するため高分子量アルコール類を使用すると、より高い流動点を有する生成物を生成するが、例えば同一目的にグリコール類及びアルコールから複合エステル類を生成することは、鉱油及び鉱油添加剤の融和性を減少させる。」(第1頁左下欄11行~同右下欄14行)
イ 「トリメリト酸エステルの生成に使用するため適当な脂肪族アルコール類の例は、イソ-ヘキシルアルコール、イソヘプチルアルコール、イソオクチルアルコール、3,5,5-トリメチルヘキシルアルコール、イソデシルアルコール及びイソウンデシルアルコールを包含する。より望ましいアルコール出発物質は、直鎖アルコール類例えばn-ヘキシルアルコール、アルキル鎖に炭素原子6乃至11個を有するアルコール類の市販の混合物、例えばアルフォール(Alfol)610(C6,C8及びC10アルコール類の混合物)、リネボール(Linevol)79及びリネボール911(それぞれC7,C8及びC9アルコール類の混合物及びC9,C10及びC11アルコール類の混合物)である。上記アルコール類の2種またはそれ以上の混合物はすべて使用される。」(第2頁左上欄15行~同右上欄11行)
ウ 「実施例1~3
A 無水トリメリト酸970部、リネボール79(主として直鎖C7~C9脂肪族アルコール類から成る市販混合物)2,000部、p-トルエンスルホン酸6部及びトルエン200部から成る混合物を還流条件下に加熱し、反応中に生成された水を連続的に除去する。混合物の内部温度は、必要なときは更にトルエンを添加して135℃に保持した。もはや水が生成されなくなったときに加熱を停止し、そのとき反応体の酸価は5mg、KOH/g以下であった。次に反応混合物はトルエンエントレイナー(entrainer)のストリッピング、残留物を水性ソーダ灰で洗滌して残留酸性度を除去し、そして最後に木炭で処理して色彩を改善して精製した。
同様に、トリ-リネボール911トリメリテート(市販の主として直鎖C9~C11脂肪族アルコールから成る混合物であるリネボール911から生成)及びトリ-アルフォール610トリメリテート(市販の直鎖C6,C8~C10脂肪族アルコールの混合物であるアルフォール610から生成)は、それぞれリネボール911またはアルフォール610の当量をリネボール79に代用して生成した。」(第3頁左下欄13行~同右下欄16行)
甲1の上記ウには、上記リネボール79に代えて、リネボール911(主として直鎖C9~C11脂肪族アルコールから成る混合物)の所定部を用いて、無水トリメリット酸とリネボール911をエステル化反応させて、トリ-リネボール911トリメリテートを生成したことが記載されている。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「無水トリメリット酸と、リネボール911(主として直鎖C9~C11脂肪族アルコールから成る混合物)を反応させたトリ-リネボール911トリメリテート」(以下、「甲1発明1」という。)
「無水トリメリト酸970部、リネボール911(主として直鎖C9~C11脂肪族アルコールから成る混合物)所定部、p-トルエンスルホン酸6部及びトルエン200部から成る混合物を還流条件下に加熱し、反応中に生成された水を連続的に除去し、混合物の内部温度は、必要なときは更にトルエンを添加して135℃に保持し、もはや水が生成されなくなったときに加熱を停止し、次に反応混合物はトルエンエントレイナーのストリッピング、残留物を水性ソーダ灰で洗滌して残留酸性度を除去し、そして最後に木炭で処理して色彩を改善して精製したトリ-リネボール911トリメリテートの製造方法」(以下、「甲1発明2」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
まず、本件発明1の「R1、R2及びR3が主として炭素数9~11のアルキル基から構成され」における「主として」は、本件明細書の段落【0026】によると、飽和脂肪族アルコール全体に占める炭素数9~11の飽和脂肪族アルコールの比率(モル比)が90%以上であることを意味すると解される。そして、甲1発明1の「リネボール911」に関して、甲4-1には、リネボール911は、直鎖状のアルキル比率が80%以上であり、炭素数9、炭素数10及び炭素数11のアルキルアルコールを、それぞれ18%、42%及び38%の質量%で含有することが記載されており、炭素数9~11以外のアルキルアルコールは2%(=100-(18+42+38))であるから、「R1、R2及びR3が主として炭素数9~11のアルキル基から構成され」る点で両者は一致する。
また、上記リネボール911における上記炭素数9~11のアルキルアルコールの質量%から換算したモル比は、炭素数9~11以外のアルキルアルコールを無視すると、概ね20.4%、43.5%及び36.1%になり、また、炭素数9~11以外のアルキルアルコールの全てが炭素数1のメタノールであると仮定すると、概ね18.5%、39.4%及び32.8%になる。そして、原料アルコールのモル比が、生成されたエステルのアルコール残基のモル比と同じであるといえるから、いずれにしても、本件発明1の「炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲」を満たすこととなり、甲1発明1の「トリ-リネボール911トリメリテート」は、本件発明1の一般式(1)で表されるものであるといえる。
なお、本件発明1の「主として」に関連して、本件明細書の段落【0026】には、「上記「主として」とは、飽和脂肪族アルコール全体に占める炭素数9~11の飽和脂肪族アルコールの比率(モル比)が90%以上、好ましくは95%以上を意味する。」と記載されている。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「下記一般式(1)で示されるトリメリット酸トリエステルからなり、R1、R2及びR3が主として炭素数9~11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であるトリメリット酸エステル」の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明1は、「R1、R2及びR3を構成するアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50~99%であ」るのに対して、甲1発明1は、上記アルキル基の比率(モル比)が不明である点。
相違点2: 本件発明1は、「塩化ビニル系樹脂用可塑剤」であるのに対して、甲1発明1は、その用途が特定されていない点。
イ 検討
まず、相違点2について検討する。
甲1のアには、甲1発明1のトリメリット酸トリエステルを合成潤滑剤に用いることは示唆されているが、塩化ビニル系樹脂用可塑剤に用いることは記載も示唆もされていない。
そうすると、上記相違点1は実質的な相違点であり、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえず、申立理由1-1は理由がない。
また、申立理由1-2に関して、甲2、甲3(第1頁、第4頁、第13頁)、甲4-1、甲4-2、甲5(第1頁右下欄11~19行、第4頁左下欄16行~第5頁左下欄7行、実施例6、実施例9)、甲6(第5頁44~45行)、甲7(第7頁左上欄14~17行)、甲8(第1頁8~13行、第2頁51~76行)、甲9(第2頁右上欄16~20行、第3頁右下欄11行~第4頁左上欄13行)、甲10~甲13、甲14(第2頁左上欄12~16行、第3頁右下欄17行~第4頁右下欄3行、第4頁右下欄14行~第5頁右上欄8行、第7頁左下欄17行~同右下欄4行、実施例2実施例3)、甲15(段落【0025】)、甲16(段落【0019】)、甲17(段落【0011】~【0013】)、甲18(特許請求の範囲、第2頁左上欄7~18行)、甲19(特許請求の範囲、第3頁右上欄2行~同左下欄2行)、甲20(第1頁左欄20行~同右欄11行、第2頁左欄16~24行、第2頁右欄9~22行)、甲21(特許請求の範囲、段落【0018】)、甲22(フロントページの要約)、甲23(フロントページの要約)、甲24(段落【0001】~【0008】)、甲25(44~49頁)、甲26(220頁、226~227頁)のいずれの記載をみても、甲1発明1のトリメリット酸トリエステルを、塩化ビニル系樹脂用可塑剤として用いると、塩化ビニル系樹脂の耐寒性が改善されることは記載も示唆もないし、このことが本件出願時の技術常識であるといえるものでもないから、甲1発明1のトリメリット酸トリエステルを、塩化ビニル系樹脂用可塑剤に用いることが動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明1は、良好な可塑化性能、柔軟性、及び優れた耐熱性を保持しつつ、耐寒性を大きく改善することが可能であり、寒冷地などでも使用可能な可塑化剤として、様々な用途で使うことができる(本件明細書の段落【0023】)という優れた効果を奏し、この効果は、本件明細書の実施例1及び2の評価試験結果を記した表1から、具体的に確認することができるものであり、上記甲1~26のいずれの記載からも予測し得たものではない。
そうすると、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲1に記載された発明、並びに、記載に基づき、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明でないし、甲1に記載された発明、及び甲1~26に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明2~4、7及び8について
本件発明2~4、7及び8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(2)イで述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明であるといえないし、甲1に記載された発明、及び、甲1~26に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件発明5及び6について
ア 対比
請求項1を引用する本件発明5を独立形式で記載すると、次のようになる。
「下記一般式(1)で示されるトリメリット酸トリエステルからなり、R1、R2及びR3が主として炭素数9~11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であり、かつR1、R2及びR3を構成するアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50~99%であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂用可塑剤に使用するためのトリメリット酸トリエステルの製造方法であって、トリメリット酸若しくはその酸無水物と、炭素数9~11の飽和脂肪族アルコールを主成分とし、炭素数9、10、11の各アルコールの占める比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であり、かつ該飽和脂肪族アルコール中に占める直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率(モル比)が50~99%である飽和脂肪族アルコールの混合物とをエステル化反応することを特徴とするトリメリット酸トリエステルの製造方法。
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。)」
上記本件発明5と甲1発明2とを対比する。
甲1発明2は、無水トリメリット酸とリネボール911を含む混合物を加熱してエステル化反応が行っている。そして、リネボール911は、上記(2)アで述べたとおりの炭素数9~11のアルキルアルコールのモル%を有するものであり、甲1発明2の方法により製造されるトリ-リネボール911トリメリテートも、炭素数9~11のアルキルアルコールに由来する残基を有するものである。
そうすると、上記本件発明5と甲1発明2とは、
「下記一般式(1)で示されるトリメリット酸トリエステルからなり、R1、R2及びR3が主として炭素数9~11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であるトリメリット酸トリエステルの製造方法であって、トリメリット酸若しくはその酸無水物と、炭素数9~11の飽和脂肪族アルコールを主成分とし、炭素数9、10、11の各アルコールの占める比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲である飽和脂肪族アルコールの混合物とをエステル化反応することを特徴とするトリメリット酸トリエステルの製造方法。
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。)」
の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1a:上記本件発明5は、「R1、R2及びR3を構成するアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50~99%であ」り、「飽和脂肪族アルコール中に占める直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率(モル比)が50~99%」であるのに対して、甲1発明2は、上記直鎖状のアルキル基及び直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率(モル比)が不明である点。
相違点2a:上記本件発明5は、「塩化ビニル系樹脂用可塑剤」であるのに対して、甲1発明2は、その用途が特定されていない点。
イ 検討
上記相違点について検討すると、相違点2aは上記相違点2と実質的に同じ内容であり、上記(2)イで本件発明1について述べたのと同じ理由により、相違点2aは実質的な相違点であるから、相違点1aについて検討するまでもなく、上記本件発明5は甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明、及び甲1~26に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そして、請求項2~4を引用する本件発明5、及び本件発明5を引用する本件発明6も、請求項1を引用する本件発明5と同様に、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明、及び甲1~26に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5)小括
したがって、本件発明1~8は、甲1に記載された発明でないし、甲1に記載された発明、及び甲1~26の記載から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由2-1(新規性)及び2-2(進歩性)について(甲5を主引用文献とする)
(1)甲5に記載された事項
甲5には、次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
1. 多価カルボン酸とアルコールとを反応させてエステルを製造するに際し,エステル化反応生成液からアルコールを留去して得られる粗エステルを熱処理したのち吸着処理することを特徴とするエステルの製造方法」
イ 「【発明の詳細な説明】
本発明はエステル化反応生成液中に存在する酸性物質および水などの不純物を除去し電気的絶縁性,透明度および熱安定性に優れたエステルを製造する新規なる方法に関する。
多価カルボン酸とアルコールとの反応により生成するエステルは主として熱可塑性合成樹脂用の可塑剤として用いられ,優れた電気的絶縁性,透明度および熱安定性が要求される。」(第1頁右下欄11~19行)
ウ 「上記したエステルの製造法もしくは品質改善法の欠点を解消すべく廃水を実質的に排出することなく,電気的絶縁性,透明度および熱安定性に優れたエステルを容易にかつ効率的に製造する全く新規なる方法の開発が産業界において強く求められている。」(第3頁右下欄2~7行)
エ 「本発明におけるエステル化反応生成液は通常の多価カルボン酸とアルコールとの反応によって得られたものであればよく,目的エステル,未反応の多価カルボン酸,未反応のアルコール,多価カルボン酸の半エステル,エステル化反応によって生成する水,微量の重金属塩,無機物および高沸物など場合により触媒などを含んでいる。なお,エステル化反応によって生成する水はアルコールとの共沸混合物としてその大部分が反応系外に除去されるのでごく微量である。
多価カルボン酸には特に制限はないが,一般的には,芳香族多価カルボン酸たとえばフタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,ニトロフタル酸,アミノフタル酸,ヘミメリト酸,トリメリト酸,トリメシン酸,プレニト酸,メロファン酸,ピロメリト酸,ベンゼンペンタカルボン酸,メリト酸およびナフタル酸など,脂肪族飽和多価カルボン酸たとえばシュウ酸,マロン酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,エチルコハク酸,ピメリン酸,エチルグルタル酸,スベリン酸,アゼライン酸,セバシン酸およびブラシル酸など,脂肪族不飽和多価カルボン酸たとえばマレイン酸,フマル酸,イタコン酸,メサコン酸,シトラコン酸およびアコニット酸など,オキシカルボン酸たとえばリンゴ酸,酒石酸およびクエン酸など,脂環式多価カルボンたとえばヘキサヒドロフタル酸,ヘキサヒドロイソフタル酸およびヘキサヒドロテレフタル酸などならびにこれらの多価カルボン酸の酸無水物であり,これらの多価カルボン酸ならびに酸無水物は混合物として使用されてもよい。これらの多価カルボン酸のうち芳香族多価カルボン酸,脂肪族飽和多価カルボン酸およびこれらの多価カルボン酸の酸無水物は工業的に好ましく,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,トリメリト酸およびこれらの酸の酸無水物ならびにアジピン酸は特に好ましい。
アルコールにも特に制限はないが,一般的には,脂肪族飽和一価アルコールたとえばメチルアルコール,エチルアルコール,n-プロピルアルコール,イソプロピルアルコール,n-ブチルアルコール,第二級ブチルアルコール,第三級ブチルアルコール,イソブチルアルコール,n-アミルアルコール,第二級アミルアルコール,第三級アミルアルコール,イソアミルアルコール,第二級イソアミルアルコール,活性アミルアルコール,ジエチルカルビノール,第三級ブチルカルビノール,ヘキサノール,ヘプタノール,オクタノール,2-エチルヘキサノール,ノナノール,デカノール,8-メチルノナノール,ウンデカノール,ドデカノール,トリデカノールなど,脂肪族飽和多価アルコールたとえばエチレングリコール,ジエチレングリコール,プロピレングリコール,トリメチレングリコール,テトラメチレングリコール,1.2-ブタンジオール,1.3-ブタンジオール,2.3-ブタンジオール,2.2-ジメチル-1.3-プロパンジオール,グリセリン,ジグリセリン,トリメチロールプロパン,ペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールなど,脂肪族不飽和アルコールたとえばアリルアルコール,クロチルアルコールおよびプロパルギルアルコールなど,脂環式アルコールたとえばシクロペンタノールおよびシクロヘキサノールなど,芳香環を持つアルコールたとえばベンジルアルコール,β-フェニルエチルアルコール,メチルフェニルカルビノール,フタリルアルコールおよびシンナミルアルコールなど,複素環式アルコールたとえばフルフリルアルコールなどならびにこれらのアルコールの混合物がある。これらのアルコールのうち特に炭素原子数1~13の脂肪族飽和一価アルコールは好適に用いられる。」(第4頁左下欄16行~第5頁左下欄7行)
オ 「実施例6
水酸化アルミニウムに対する水酸化ナトリウムの重量比が1/10である混合物を触媒として用い無水トリメリト酸と2-エチルヘキサノールとを反応させて得られ,トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテートを88.72%,ビス(2-エチルヘキシル)トリメリテートを1.02%,モノ(2-エチルヘキシル)トリメリテートを0.31%,2-エチルヘキサノールを9.10%および触媒0.60%を含むエステル化反応生成液609部から50~60℃,0.5mmHg下で2-エチルヘキサノールを留去した。得られた粗エステルをこれに窒素ガスを吹き込むことなく強制攪拌下で熱処理した。熱処理温度,時間および圧力はそれぞれ320~325℃,275時間および1.5kg/cm2Gとした。熱処理したエステル554部から180~195℃,0.4~0.6mmHg下で単蒸留により複分解反応によって生成したトリメリト酸を主成分とし熱処理したエステルの5%に相当する留分を除去した。かくして得られたエステル相をこれに固形吸着剤として6MgO・Al2O3の組成を持つ複合金属酸化物を1.4部添加し強制攪拌下で吸着処理した。吸着処理温度,時間および圧力はそれぞれ140℃,2.5時間および常圧とした。次に,吸着処理したエステルを10~20mmHg下で孔径5~10ミクロンのガラスフィルターを用いて濾過し得られた濾液を製品とした。
得られた製品のトリス(2-エチルヘキシル)トリメリテートは第6表に示す通り高品質でかつ熱安定性に優れていた。」(第11頁右上欄10行~同右下欄1行)
カ 「実施例9
触媒の不存在下で無水フタル酸とリネボール911(シェル化学株式会社の商品であり,炭素原子数9~11の脂肪族飽和アルコールの直鎖率60%の混合アルコールである)とを反応させて得られ,ジアルキルフタレート93.80%,モノアルキルフタレート0.75%およびアルコール5.08%を含むエステル化反応生成液4260.0部/時は導管1より脱アルコール塔2に供給され塔頂温度90~92.5℃,塔内圧力0.4~0.5mmHg下でアルコールが留去された。脱アルコール塔2の塔頂部から抜き出されたアルコール2165部/時は導管3よりアルコール精製塔を経てエステル化反応缶に送られエステルの製造に再使用された。脱アルコール塔2の塔底部から抜き出された粗エステル4043.5部/時は導管4より熱処理槽5に送られ強制攪拌下で熱処理された。熱処理温度,時間および圧力はそれぞれ230℃,0.75時間および常圧とした。熱処理されたエステルは熱処理槽5の底部より抜き出され導管8より酸留出塔9に送られ塔頂温度150℃,圧力0.3mmHg下で無水フタル酸が留去された。酸留出塔9の塔頂部からは無水フタル酸10.73部/時が抜き出され導管10よりエステル化反応缶に送られエステル化反応に再使用された。酸留出塔9の塔底部から抜き出されたエステル相4032.8部/時は導管11より吸着処理槽12に送られ強制攪拌下で吸着処理された。吸着処理槽12にはMgO・Al2O3の組成を持つ複合金属酸化物12.1部/時が吸着剤として導管13より供給された。吸着処理温度,時間および圧力はそれぞれ75℃,0.5時間および常圧とした。吸着処理槽12の底部から吸着処理されたエステル4044.9部/時が抜き出され導管14より濾過器15に送られた。吸着処理されたエステルは濾過器15において少量の濾過ケーキと濾液とに分離され少量の濾過ケーキは導管16より系外に排出され濾液は蒸留により精製することなくそのままで製品とされた。
上記の如くにして14日間連続的にエステルを製造した結果得られた製品のジアルキルフタレートは第9表に示す通り高品質でかつ熱安定性に優れていた。」(第13頁右上欄1行~同右下欄4行)
甲5の上記オに着目すると、次の発明が記載されている。
「トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート」(以下、「甲5発明1」という。)
「水酸化アルミニウムに対する水酸化ナトリウムの重量比が1/10である混合物を触媒として用い、無水トリメリト酸と2-エチルヘキサノールとを反応させて得られ,トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテートを88.72%,ビス(2-エチルヘキシル)トリメリテートを1.02%,モノ(2-エチルヘキシル)トリメリテートを0.31%,2-エチルヘキサノールを9.10%および触媒0.60%を含むエステル化反応生成液609部から50~60℃,0.5mmHg下で2-エチルヘキサノールを留去し、得られた粗エステルを、これに窒素ガスを吹き込むことなく、320~325℃,275時間および1.5kg/cm2Gとして強制攪拌下で熱処理し、前記熱処理したエステル554部から180~195℃,0.4~0.6mmHg下で単蒸留により複分解反応によって生成したトリメリト酸を主成分とし熱処理したエステルの5%に相当する留分を除去し、かくして得られたエステル相をこれに固形吸着剤として6MgO・Al2O3の組成を持つ複合金属酸化物を1.4部添加し、140℃,2.5時間および常圧で、強制攪拌下で吸着処理し、前記吸着処理したエステルを10~20mmHg下で孔径5~10ミクロンのガラスフィルターを用いて濾過する、トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテートの製造方法」(以下、「甲5発明2」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲5発明1とを対比すると、甲5発明1の「トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート」はトリメリット酸トリエステルであるから、本件発明1と甲5発明1とは、トリメリット酸トリエステルである点で一致し、以下の点で相違する。
相違点3:本件発明1は、「一般式(1)で示され、R1、R2及びR3が主として炭素数9~11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であり、かつR1、R2及びR3を構成するアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50~99%である」のに対して、甲5発明1は、そのような化学構造を有するものではない点。
相違点4:本件発明1は、塩化ビニル系樹脂用可塑剤であるのに対して、甲5発明1は、その用途が特定されていない点。
イ 検討
まず、上記相違点3について検討すると、甲5発明1のエチルヘキシル基は炭素数8のアルキル基であり、炭素数9~11のアルキル基ではないから、相違点3は実質的な相違点であり、本件発明1は甲5に記載された発明ではない。
また、甲5の上記(1)エには、エステル化反応に用いるアルコールとして、炭素数9~11の脂肪族飽和アルコールであるノナノール、デカノール、8-メチルノナノール及びウンデカノールが例示され、上記(1)カには、無水フタル酸と、炭素原子数9~11の脂肪族飽和アルコールからなる直鎖率60%の混合アルコールであるリネボール911とを反応させてフタル酸ジエステルを生成した具体例が記載されている。
ここで、上記リネボール911について、ネオドール911の名称変更前の商品であること(甲2)、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の重量%がおおよそ18~20%/42~45%/35~38%(モル比で22/46/32)であり、上記アルキル基の直鎖率は80~85%であること(甲4-1、甲15、甲16)、及び、原料アルコールのアルキル基の炭素数及びその比率(モル比)は、生成されたエステルのアルコール残基の炭素数及びその比率(モル比)と同様になることは、本件出願時の技術常識であると解される。これらのことから、甲5に記載されたリネボール911と上記ネオドール911の直鎖率は一致しないものの、本件明細書の製造例1(実施例1及び2)でネオドール911が用いられたことも考慮すると、甲5発明1におけるリネボール911のアルコール残基は、本件発明1の「主として炭素数9~11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲」であり、「アルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50~99%」を満たすと解される。
しかしながら、甲5には、「エステル化反応生成液中に存在する酸性物質および水などの不純物を除去し電気的絶縁性,透明度および熱安定性に優れたエステルを製造する新規なる方法」(上記(1)イ)を提供する目的で、「エステル化反応生成液からアルコールを留去して得られる粗エステルを熱処理したのち吸着処理する」(上記(1)ア)という技術的事項が記載されているのであって、具体的に製造されるエステル化合物は、それぞれ、特許請求の範囲に記載された多価カルボン酸とアルコールとを反応させて得られたエステル化合物の例といえるものにすぎず、炭素数9~11の脂肪族飽和アルコールであるノナノール、デカノール、8-メチルノナノール及びウンデカノールは、原料アルコールの具体例を例示したもののひとつのアルコールにとどまり、また、無水フタル酸とリネボール911とを反応させて得られたジアルキルフタレート(実施例9)も、上記エステル化合物の例にとどまるものである。
そうすると、甲5に、いくら、無水トリメリト酸と2-エチルヘキサノールとを反応させて得られたトリス(2-エチルヘキシル)トリメリテートや、無水フタル酸とリネボール911とを反応させて得られたエステル化合物が記載されていたとしても、これらの記載から、甲5発明1において、電気的絶縁性、透明度および熱安定性に優れたエステルを得るとの目的で、原料アルコールである2-エチルヘキサノールに代えて、リネボール911を用いることが動機づけられるとはいえないし、このことが本願出願時の技術常識であるといえるものでもない。
そうすると、甲5発明1において、「一般式(1)で示され、R1、R2及びR3が主として炭素数9~11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であり、かつR1、R2及びR3を構成するアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50~99%である」ことを採用することは、甲5発明1、及び甲1~甲26に記載された事項に基づき、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件発明1は、上記1(2)イで述べたとおりの優れた効果を奏するものであり、その効果は甲1~26のいずれの記載からも予測し得たものではない。
(3)本件発明2~4、7及び8について
本件発明2~4、7及び8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(2)イで述べたのと同じ理由により、甲5に記載された発明であるといえないし、甲5に記載された発明、及び、甲1~26に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件発明5及び6について
ア 対比
請求項1を引用する本件発明5を独立形式で記載すると、次のようになる。
「下記一般式(1)で示されるトリメリット酸トリエステルからなり、R1、R2及びR3が主として炭素数9~11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であり、かつR1、R2及びR3を構成するアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50~99%であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂用可塑剤に使用するためのトリメリット酸トリエステルの製造方法であって、トリメリット酸若しくはその酸無水物と、炭素数9~11の飽和脂肪族アルコールを主成分とし、炭素数9、10、11の各アルコールの占める比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であり、かつ該飽和脂肪族アルコール中に占める直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率(モル比)が50~99%である飽和脂肪族アルコールの混合物とをエステル化反応することを特徴とするトリメリット酸トリエステルの製造方法。
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。)」
上記本件発明5と甲5発明2とを対比する。
甲5発明2の「無水トリメリト酸」及び「トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート」は、上記本件発明5の「トリメリット酸若しくはその酸無水物」及び「トリメリット酸トリエステル」に相当する。また、甲5発明2の「2-エチルヘキサノール」は、炭素数8の飽和脂肪族アルコールであるから、飽和脂肪族アルコールを原料アルコールに用いる点で、上記本件発明5と共通する。
そうすると、本件発明5と甲5発明2とは、「トリメリット酸トリエステルの製造方法であって、トリメリット酸若しくはその酸無水物と、飽和脂肪族アルコールとをエステル化反応するトリメリット酸トリエステルの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点3a:上記本件発明5は、「下記一般式(1)で示されるトリメリット酸トリエステルからなり、R1、R2及びR3が主として炭素数9~11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であり、かつR1、R2及びR3を構成するアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50~99%である」「トリメリット酸トリエステルの製造方法であって、【化1】(式中、R1、R2及びR3は同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。)」「炭素数9~11の飽和脂肪族アルコールを主成分とし、炭素数9、10、11の各アルコールの占める比率(モル比)が8~28/32~52/28~48の範囲であり、かつ該飽和脂肪族アルコール中に占める直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率(モル比)が50~99%である飽和脂肪族アルコールの混合物」を用いるのに対して、甲5発明2は、上記一般式(1)で示される化学構造を有するトリメリット酸トリエステルの製造方法ではなく、上記飽和脂肪族アルコールの混合物を用いるものでもない点。
相違点4a:上記本件発明5は、トリメリット酸トリエステルが「塩化ビニル系樹脂用可塑剤に使用するための」ものであるのに対して、甲5発明2は、トリメリット酸トリエステルの用途が特定されていない点。
イ 検討
上記相違点について検討すると、相違点3aは上記相違点3と実質的に同じ内容であり、上記(2)イで本件発明1について述べたのと同じ理由により、相違点3aは実質的な相違点であるから、相違点4aについて検討するまでもなく、上記本件発明5は甲5に記載された発明ではないし、甲5に記載された発明、及び甲5、14、18、19、21~24に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そして、請求項2~4を引用する本件発明5、及び本件発明5を引用する本件発明6も、請求項1を引用する本件発明5と同様に、甲5に記載された発明ではないし、甲5に記載された発明、及び甲1~26に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5)小括
したがって、本件発明1~8は、甲5に記載された発明でないし、甲5に記載された発明、及び甲1~26に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立理由2-1(新規性)及び2-2(進歩性)について(甲14を主引用文献とする)
(1)甲14に記載された事項
甲14には、次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
1. カルボン酸および/またはカルボン酸半エステルとアルコールとを反応させて得られたエステル化反応生成液中に存在する酸性物質をアルカリ性中和剤で中和してカルボン酸エステルを製造するに際し,該酸性物質とアンモニアとの反応により生成される塩類をあらかじめ含有せしめたアンモニア水溶液を用いてエステル化反応生成液を中和処理し,中和処理液をエステル相と中和処理廃水とに分離し,該中和処理廃水を単独でもしくは補助燃料と共に焼却処理することを特徴とするカルボン酸エステルの製造法」
イ 「【発明の詳細な説明】
本発明は,エステル化反応生成液中に存在する酸性物質を除去し電気的絶縁性,透明度および熱安定性に優れたカルボン酸エステルを製造する方法に関する。」(第2頁左上欄12~16行)
ウ 「本発明者らは,この新知見に基づき,中和処理時,蒸留時および加熱時の目的エステルのケン化分解を防止し,かつ,中和処理廃水による自然環境の汚染を防止し電気的絶縁性,透明度および熱安定性に優れたカルボン酸エステルを容易かつ効率的に製造する方法を提供すべくさらに研究を重ねた結果,本発明に到達した。」(第3頁左下欄18行~同右下欄4行)
エ 「本発明におけるエステル化反応生成液はカルボン酸および/またはカルボン酸半エステルとアルコールとを反応させて得られた通常のものであればよく,目的エステル,未反応のアルコールおよびカルボン酸半エステルなど場合により遊離のカルボン酸,触媒,エントレイナーなどを含んでいる。なお,通常の条件下で得られるエステル化反応生成液中には遊離のカルボン酸は実質的に存在しないが,エステル化反応生成液中に多量の遊離のカルボン酸が存在する場合にも本発明の方法が有効であることは言うまでもない。
エステル化反応に用いるカルボン酸には特に制限はないが,一般的には,芳香族一価カルボン酸たとえば安息香酸,ニトロ安息香酸,アミノ安息香酸,トルイル酸,ジメチル安息香酸,エチル安息香酸,トリメチル安息香酸,n-プロピル安息香酸,イソプロピル安息香酸,テトラメチル安息香酸,ナフトエ酸およびメチルナフトエ酸など,芳香族多価カルボン酸たとえばフタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,ニトロフタル酸,アミノフタル酸,ヘミメリト酸,トリメリト酸,トリメシン酸,プレニト酸,メロファン酸,ピロメリト酸,ベンゼンベンタカルボン酸,メリト酸およびナフタル酸など,脂肪族飽和一価カルボン酸たとえばギ酸,酢酸,プロピオン酸,n-酪酸,イソ酪酸,n-吉草酸,イソ吉草酸,メチルエチル酢酸,トリメチル酢酸,カプロン酸,ヘプトン酸,カプリル酸,ペラルゴン酸,カプリン酸,ウンデシル酸,ラウリン酸,トリデシル酸,ミリスチン酸,ペンタデシル酸,パルミチン酸,マルガリン酸,ステアリン酸,ノナデカン酸およびアラキン酸など,脂肪族飽和多価カルボン酸たとえばシュウ酸,マロン酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,エチルコハク酸,ピメリン酸,エチルグルタル酸,スベリン酸,アゼライン酸,セバシン酸およびブラシル酸など,脂肪族不飽和一価カルボン酸たとえばアクリル酸,メタクリル酸,クロトン酸,イソクロトン酸,ウンデシレン酸,オレイン酸,エライジン酸,セントレイン酸,エルカ酸,プラシジン酸,ソルビン酸,リノール酸,リノレン酸,アラキドン酸,プロピオール酸,ステアロール酸およびケイヒ酸など,脂肪族不飽和多価カルボン酸たとえばマレイン酸,フマル酸,イタコン酸,メサコン酸,シトラコン酸およびアコニット酸など,オキシカルボン酸たとえばリンゴ酸,酒石酸およびクエン酸など,脂環式カルボン酸たとえばヘキサヒドロ安息香酸およびヘキサヒドロフタル酸など,ハロゲノカルボン酸たとえばクロル安息香酸,ブロム安息香酸,フルオル酢酸,クロル酢酸,ブロム酢酸,ヨード酢酸,クロルプロピオン酸,ブロムプロピオン酸,クロル酪酸,ブロム酪酸,クロルマロン酸,クロルコハク酸,クロルアクリル酸,ブロムアクリル酸,クロルマレイン酸,クロルフマル酸,クロルリンゴ酸およびクロルケイヒ酸などならびにこれらのカルボン酸の酸無水物などがある。これらのカルボン酸は単独で用いてもよいし2種以上の混合物として用いてもよい。カルボン酸のうち,芳香族カルボン酸,芳香族カルボン酸無水物,脂肪族カルボン酸および脂肪族カルボン酸無水物は工業的に好ましく,安息香酸,トルイル酸,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,トリメリト酸およびこれらのカルボン酸の酸無水物ならびにアジピン酸は特に好ましい。
エステル化反応に用いるカルボン酸半エステルとは,未だエステル化されていないカルボキシル基を少なくとも1個有する多価カルボン酸部分エステルを意味したとえばフタル酸モノエステル,トリメリト酸モノエステル,トリメリト酸ジエステルおよびアジピン酸モノエステルなどがある。なお,エステル化反応生成液中に存在するカルボン酸半エステルの種類は上記のカルボン酸半エステルの種類と同じである。
エステル化反応に用いるアルコールにも特に制限はないが,一般的には,脂肪族飽和一価アルコールたとえばメチルアルコール,エチルアルコール,n-プロピルアルコール,イソプロピルアルコール,n-ブチルアルコール,第二級ブチルアルコール,第三級ブチルアルコール,イソブチルアルコール,n-アミルアルコール,第二級アミルアルコール,第三級アミルアルコール,イソアミルアルコール,第二級イソアミルアルコール,活性アミルアルコール,ジエチルカルビノール,第三級ブチルカルビノール,ヘキサノール,ヘプタノール,オクタノール,2-エチルヘキサノール,ノナノール,デカノール,8-メチルノナノール,ウンデカノール,ドデカノール,トリデカノールなど,脂肪族飽和多価アルコールたとえばエチレングリコール,ジエチレングリコール,プロピレングリコール,トリメチレングリコール,テトラメチレングリコール,1,2-ブタンジオール,1,3-ブタンジオール,2,3-ブタンジオール,2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール,グリセリン,ジグリセリン,トリメチロールプロパン,ペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールなど,脂肪族不飽和アルコールたとえばアリルアルコール,クロチルアルコールおよびプロバルギルアルコールなど,脂環式アルコールたとえばシクロペンタノールおよびシクロヘキサノールなど,芳香環を持つアルコールたとえばベンジルアルコール,β-フェニルエチルアルコール,メチルフェニルカルビノール,フタリルアルコールおよびシンナミルアルコールなど,複素環式アルコールたとえばフルフリルアルコールなどならびにこれらのアルコールの混合物がある。これらのアルコールのうち特に炭素原子数1~13の脂肪族飽和一価アルコールは好適に用いられる。」(第3頁右下欄17行~第4頁右下欄3行)
(オ)「エステル化反応に用いるアルコールにも特に制限はないが,一般的には,脂肪族飽和一価アルコールたとえばメチルアルコール,エチルアルコール,n-プロピルアルコール,イソプロピルアルコール,n-ブチルアルコール,第二級ブチルアルコール,第三級ブチルアルコール,イソブチルアルコール,n-アミルアルコール,第二級アミルアルコール,第三級アミルアルコール,イソアミルアルコール,第二級イソアミルアルコール,活性アミルアルコール,ジエチルカルビノール,第三級ブチルカルビノール,ヘキサノール,ヘプタノール,オクタノール,2-エチルヘキサノール,ノナノール,デカノール,8-メチルノナノール,ウンデカノール,ドデカノール,トリデカノールなど,脂肪族飽和多価アルコールたとえばエチレングリコール,ジエチレングリコール,プロピレングリコール,トリメチレングリコール,テトラメチレングリコール,1,2-ブタンジオール,1,3-ブタンジオール,2,3-ブタンジオール,2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール,グリセリン,ジグリセリン,トリメチロールプロパン,ペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールなど,脂肪族不飽和アルコールたとえばアリルアルコール,クロチルアルコールおよびプロバルギルアルコールなど,脂環式アルコールたとえばシクロペンタノールおよびシクロヘキサノールなど,芳香環を持つアルコールたとえばベンジルアルコール,β-フェニルエチルアルコール,メチルフェニルカルビノール,フタリルアルコールおよびシンナミルアルコールなど,複素環式アルコールたとえばフルフリルアルコールなどならびにこれらのアルコールの混合物がある。これらのアルコールのうち特に炭素原子数1~13の脂肪族飽和一価アルコールは好適に用いられる。」(第4頁右下欄13行~第5頁右上欄第8行)
カ 「本発明の方法によれば,エステル化反応生成液中に存在する酸性物質が短時間で除去され,中和処理時,蒸留時および加熱時の目的エステルのケン化分解が防止される。本発明の方法によって製造されるカルボン酸エステルは酸性物質を含まず電気的絶縁性,透明度および熱安定性に優れ熱可塑性合成樹脂用の可塑剤として好適である。」(第7頁左下欄17行~同右下欄4行)
キ 「実施例2
p-トルエンスルホン酸を触媒として用いトリメリト酸と2-エチルヘキサノールとを反応させて得られトリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 92.87%,ビス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 1.67%,2-エチルヘキサノール 4.18%およびp-トルエンスルホン酸 1.10%を含むエステル化反応生成液5328部/時は導管1より,トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 0.53%,モノアンモニウムビス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 23.79%,2-エチルヘキサノール 1.25%,p-トルエンスルホン酸アンモニウム 17.00%およびアンモニア 1.00%を含む含塩アンモニア水溶液2328部/時は導管2よりそれぞれ中和処理槽3に供給され65℃,平均滞留時間2分間,常圧下にて中和処理が行なわれた。中和処理液7656部/時は導管4より液分離槽5へ送られ64℃,平均滞留時間90分間にて中和処理廃水2478部/時とエステル相5178部/時とに分離された。トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 0.58%,モノアンモニウムビス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 25.96%,2-エチルヘキサノール 1.36%,p-トルエンスルホン酸アンモニウム 18.56%およびアンモニア 0.56%を含む中和処理廃水のうち2133部/時は導管6より,一方5.85%のアンモニア水溶液195部/時が導管7よりそれぞれ調整槽8へ供給され含塩アンモニア水溶液が調製された。中和処理廃水の残り345部/時は導管6の途中から抜き出され導管9より燃焼却炉10へ送られ補助燃料の供給なしに単独で焼却処理され廃ガスは導管11より大気中へ放散された。トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 95.51%,モノアンモニウムビス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 0.06%,2-エチルヘキサノール4.21%,p-トルエンスルホン酸アンモニウム 0.01%およびアンモニア 0.005%未満を含むエステル相は導管12より後処理工程に送られ40℃下で8分間水1100部/時を用いて水洗処理され137~140℃,40~45mmHg下で未反応の2-エチルヘキサノールを留去され,0.5~1.0mmHg下で165~180℃の初留分をカットされ,0.1~0.2mmHg下で真空蒸留により精製され225~233℃の留分5143部/時が製品化された。
このような条件下で4日間連続的にエステルを製造した結果,得られた製品のトリス(2-エチルヘキシル)トリメリテートは第2表に示す通り高品質でかつ熱安定性に優れていた。」(第8頁右下欄第1行~第9頁右上欄12行)
ク 「実施例3
p-トルエンスルホン酸を触媒として用いイソフタル酸とリネボール911(シェル化学株式会社の商品であり,炭素原子数9~11の脂肪族飽和アルコールの混合物である)とを反応させて得られジアルキルイソフタレート 91.21%,モノアルキルイソフタレート 1.40%,アルコール 6.29%およびp-トルエンスルホン酸 0.90%を含むエステル化反応生成液4227部/時は導管1より,ジアルキルイソフタレート 0.21%,モノアンモニウムモノアルキルイソフタレート 13.05%,アルコール 0.43%,p-トルエンスルホン酸アンモニウム 8.77%,アンモニア 1.48%を含む含塩アンモニア水溶液2160部/時は導管2よりそれぞれ中和処理槽3に供給され25℃,平均滞留時間5分間,常圧下にて中和処理が行なわれた。中和処理液6387部/時は導管4より液分離槽5へ送られ50℃,平均滞留時間90分間にて中和処理廃水2248部/時とエステル相4139部/時とに分離された。ジアルキルイソフタレート 0.25%,モノアンモニウムモノアルキルイソフタレート 15.25%,アルコール 0.50%,p-トルエンスルホン酸アンモニウム 10.25%およびアンモニア 1.09%を含む中和処理廃水のうち1848部/時は導管6より,一方,3.79%のアンモニア水溶液312部/時が導管7よりそれぞれ調整槽8へ供給され含塩アンモニア水溶液が調製された。中和処理廃水の残り400部/時は導管6の途中から抜き出され導管9より焼却炉10へ送られ導管13よりのC重油120部/時の供給下に焼却処理され廃ガスは導管11より大気中へ放散された。ジアルキルイソフタレート 93.11%,モノアンモニウムモノアルキルイソフタレート 0.03%,アルコール 6.35%,p-トルエンスルホン酸アンモニウム 0.02%およびアンモニア0.005%未満を含むエステル相は導管12より後処理工程に送られ50℃下で10分間水1000部/時を用いて水洗処理され137~140℃,30~35mmHg下で未反応のアルコールを留去され,0.3~0.5mmHg下で170~185℃の初留分をカットされ,0.1~0.2mmHg下で真空蒸留により精製され220~234℃の留分4118部/時が製品化された。
このような条件下で5日間連続的にエステルを製造した結果,得られた製品のジアルキルイソフタレートは第3表に示す通り高品質でかつ熱安定性に優れていた。」(第9頁左下欄第1行~第10頁左上欄10行)
甲14には、上記キに着目すると、以下の発明が記載されている。
「トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート」(以下、「甲14発明1」という。)
「p-トルエンスルホン酸を触媒として用いトリメリト酸と2-エチルヘキサノールとを反応させて得られトリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 92.87%,ビス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 1.67%,2-エチルヘキサノール 4.18%およびp-トルエンスルホン酸 1.10%を含むエステル化反応生成液5328部/時、及び、トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 0.53%,モノアンモニウムビス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 23.79%,2-エチルヘキサノール 1.25%,p-トルエンスルホン酸アンモニウム 17.00%およびアンモニア 1.00%を含む含塩アンモニア水溶液2328部/時を、それぞれ中和処理槽に供給され、65℃,平均滞留時間2分間,常圧下にて中和処理が行なわれ、中和処理液7656部/時は、液分離槽へ送られ、64℃,平均滞留時間90分間にて、中和処理廃水2478部/時とエステル相5178部/時とに分離され、トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 0.58%,モノアンモニウムビス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 25.96%,2-エチルヘキサノール 1.36%,p-トルエンスルホン酸アンモニウム 18.56%およびアンモニア 0.56%を含む中和処理廃水のうち2133部/時,及び、5.85%のアンモニア水溶液195部/時が、それぞれ調整槽へ供給されて含塩アンモニア水溶液が調製され、中和処理廃水の残り345部/時は、燃焼却炉へ送られ補助燃料の供給なしに単独で焼却処理され、廃ガスは大気中へ放散され、トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 95.51%,モノアンモニウムビス(2-エチルヘキシル)トリメリテート 0.06%,2-エチルヘキサノール4.21%,p-トルエンスルホン酸アンモニウム 0.01%およびアンモニア 0.005%未満を含むエステル相は、後処理工程に送られ、40℃下で8分間水1100部/時を用いて水洗処理され、137~140℃,40~45mmHg下で未反応の2-エチルヘキサノールを留去され,0.5~1.0mmHg下で165~180℃の初留分をカットされ,0.1~0.2mmHg下で真空蒸留により精製され225~233℃の留分5143部/時が製品化される、トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテートの製造方法」(以下、「甲14発明2」という。)
(2)本件発明1~4、7、8について
甲14発明1は、甲5発明1と同じ「トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート」であるから、上記2(2)で述べたのと同じ理由により、本件発明1~8は、甲14に記載された発明でないし、甲14に記載された発明、及び甲1~26に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明5及び6について
甲14発明2は、トリメリト酸と2-エチルヘキサノールとをエステル化反応させるトリス(2-エチルヘキシル)トリメリテートの製造方法であり、甲5発明2とは無水トリメリット酸ではない点で相違するが、上記エステル化反応は実質的に同じであり、上記2(4)で述べたのと同じ理由により、本件発明5及び6は、甲14に記載された発明ではないし、甲14に記載された発明、及び甲1~26に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)小括
したがって、本件発明1~8は、甲14に記載された発明でないし、甲14に記載された発明、及び甲1~26に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
他に本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-701039