特許異議申立
2019-701021
フラックス及びはんだ材料
- 審判番号
- 2019-701021
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-130727
- 登録番号
- 特許第6528102号(P6528102)
- 請求日
- 2019年12月12日
- 審決日
- 2020年09月23日
- 公報発行日
- 2020年11月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社弘輝
- 【権利者代理人】井澤 眞樹子
- 【異議申立人】簑 さくら
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 中澤 登
- 審判官 平塚 政宏
- 分類
- P1651.121-Y (B23K) / P1651.537-Y (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6528102号発明「フラックス及びはんだ材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6528102号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6528102号の請求項1~5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2017-130727号)は、平成29年7月3日に出願されたものであって、令和1年5月24日に特許権の設定登録がなされ、同年6月12日に特許掲載公報が発行されたものであり、同年12月12日に特許異議申立人 簑 さくら(以下、「申立人」という。)より全請求項に係る特許に対して特許異議の申立て(証拠説明書、甲第1号証~甲第16号証を添付)がなされたので、令和2年3月31日付けで取消理由が通知されたところ、同年5月26日に意見書(特許権者)(証拠説明書、乙第1号証を添付)が提出され、同年7月29日に上申書(申立人)が提出されたものである。
第2 本件発明
特許第6528102号の請求項1~5に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載される事項により特定される以下のものである。
以下、請求項1~5に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明5」、総称して「本件発明」といい、また、本件特許(特許第6528102号)の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明及び図面を「本件特許明細書」という。
【請求項1】
溶剤成分と、ロジン成分と、活性剤成分とを含み、前記活性剤成分として、カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体を含み、
前記溶剤成分を20質量%以上70質量%以下、前記ロジン成分を1.0質量%以上80質量%以下含むフラックス。
【請求項2】
前記イソシアヌル酸誘導体が、イソシアヌル酸ビス(2-カルボキシエチル)、トリス(2-カルボキシエチル)イソシアヌル酸及びトリス(3-カルボキシプロピル)イソシアヌル酸からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載のフラックス。
【請求項3】
前記イソシアヌル酸誘導体がフラックス中に固形物換算で1質量%以上10質量%以下含まれている請求項1又は2に記載のフラックス。
【請求項4】
ハロゲン濃度が5000ppm以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のフラックス。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のフラックスとはんだ合金とを含むはんだ材料。
第3 異議申立理由
特許異議申立人は、異議申立理由として次の証拠に基づく以下の概要の進歩性要件違反を主張し、本件特許は取り消されるべき旨を申立てた。
3-1.異議申立理由の概要
(1)異議申立理由1の概要
本件請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2~14号証の記載に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。
(2)異議申立理由2の概要
本件請求項1~5に係る発明は、甲第15号証に記載された発明と甲第2~12及び16号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。
3-2.証拠方法
<申立人>
(1)甲第1号証:特開2015-160234号公報
(2)甲第2号証:国際公開第2017/033930号
(3)甲第3号証:特開2004-18452号公報
(4)甲第4号証:石川金属株式会社のホームページの技術案内、平成27年5月23日~平成31年1月1日、令和1年12月6日印刷、http://www.ishikawa-matal.com/technology.php
(5)甲第5号証:Sn-Ag-In系はんだの実用化状況と今後の課題、島俊典、エレクトロニクス実装学会誌、Vol.6 No.5(2003)、386~393頁
(6)甲第6号証:はんだ付工学-理論から実践まで-、大澤 直、丸善出版株式会社、平成24年7月30日、84~87頁
(7)甲第7号証:、イソシアヌル酸ビス(2-カルボキシエチル)、安全データシート、東京化成工業株式会社、平成30年10月4日
(8)甲第8号証:イソシアヌル酸トリス(2-カルボキシエチル)、安全データシート、東京化成工業株式会社、平成30年10月4日
(9)甲第9号証:グルタル酸、安全データシート、東京化成工業株式会社、平成30年10月4日
(10)甲第10号証:こはく酸、安全データシート、東京化成工業株式会社、平成30年10月4日
(11)甲第11号証:メチルこはく酸、安全データシート、東京化成工業株式会社、平成30年10月4日
(12)甲第12号証:アゼライン酸、安全データシート、東京化成工業株式会社、平成30年10月3日
(13)甲第13号証:アジピン酸、化学大辞典1 縮刷版、化学大辞典編集委員会、共立出版株式会社、昭和62年2月15日、72頁
(14)甲第14号証:ピコリン酸、化学大辞典7 縮刷版、化学大辞典編集委員会、共立出版株式会社、昭和62年2月15日、332頁
(15)甲第15号証:国際公開第2015/022719号
(16)甲第16号証:マレイン酸、化学大辞典8 縮刷版、化学大辞典編集委員会、共立出版株式会社、昭和62年2月15日、899~900頁
<特許権者>
(1)乙第1号証:特許権者が令和2年5月15日に作成した実験成績証明書
なお、以下で、甲第1号証~甲第16号証を「甲1」~「甲16」、乙第1号証を「乙1」と記載することがある。
第4 取消理由
当審は、上記異議申立理由を検討した結果、それらを採用せず、当審で発見した次の理由を取消理由(サポート要件違反)として通知したところ、特許権者から令和2年5月26日に意見書が提出され、同年7月29日に申立人から上申書が提出されたので、同取消理由は解消されたのかについて検討する。
1.取消理由について
通知された取消理由は以下のものである。
ア 本件特許明細書には次のア(ア)~ア(オ)の記載がある。なお、下線は当審で付記した。
ア(ア)「【0002】電子部品の接合等には、はんだ合金とフラックスとを含むはんだ材料等が用いられる。フラックスははんだ付け性を向上させるためのものであり、はんだ材料中に配合されたり、はんだ合金と共に使用されたりするものである。かかるフラックスは、樹脂成分、活性剤成分、溶剤成分等の各種成分を含む(特許文献1及び2)。活性剤成分を含むことで、フラックスは、金属表面の酸化を抑制したりマイグレーションの発生を抑制したりし、その結果接合信頼性を高めることができる。」
ア(イ)「【0003】一方、近年電子機器の小型化及び薄型化に伴って、BGA(Ball Grid Array)基板、CSP(Chip Size Package)基板や多数のチップを配置したMCM(Multi-Chip Module)基板等のモジュール基板が多く使用される。かかるモジュール基板をプリント配線板に実装する際には、ソルダペースト等のはんだ材料をプリント配線板上に印刷等によって配置し、はんだ材料中のはんだ合金が溶融する温度以上に両者を加熱することで、モジュール基板のはんだボール等とプリント配線板上のはんだ材料とを融合させて電気的接合をおこなう。」
ア(ウ)「【0004】しかし、加熱時にモジュール基板及びプリント配線板の基板が熱によって反ることがある。かかる基板の反りによって、はんだボールとソルダペーストとが離れた状態になり、はんだボール表面は高温によって表面に酸化被膜が生じやすくなる。一方、ソルダペースト中のフラックスも熱によって活性力が低下する。よって、加熱後、冷却されて基板の反りが戻り、はんだボールとソルダペーストとが接合した場合でも、フラックスの活性作用が低下しているためはんだボール表面の酸化被膜を十分に除去できず、未融合に状態になり、その結果接合不良の原因となる。」
ア(エ)「【発明が解決しようとする課題】【0006】本発明は、前記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、高温でも活性が低下しにくく、マイグレーションの発生も十分に抑制しうるフラックス及びはんだ材料を提供することを課題とする。」
ア(オ)以下に示す【表1】(【0050】)の実施例4と比較例2を対比すると、「耐熱性試験結果」は共に「45s」であり活性が低下しにくいといえるが、比較例2はハロゲンが「13000ppm」含まれるためにマイグレーションが観察され、そのために「比較例」とされていることがみてとれる。
同じく実施例6と比較例1を対比すると、「耐熱性試験結果」は共に「50s」であり活性が低下しにくいといえるが、実施例6はハロゲンが「3250ppm」含まれ、これは5000ppm以下(【0027】)であるためにマイグレーションは観察されないが、「比較例1」はハロゲンが「13160ppm」含まれ、これは5000ppm超(【0027】)であるためにマイグレーションが観察され、そのために「比較例」とされていることがみてとれる。
ア(カ)上記ア(ア)には、「フラックス」は「金属表面の酸化を抑制したりマイグレーションの発生を抑制したりし、その結果接合信頼性を高める」ものであることが記載され、上記ア(イ)及びア(ウ)には加熱時の「金属表面の酸化を抑制」すべきことについて詳細が示されており、マイグレーションの発生の抑制についての詳細は示されていないが、それらを受けて、ア(エ)には「高温でも活性が低下しにくく、マイグレーションの発生も十分に抑制しうるフラックス及びはんだ材料を提供」することが記載されている。
また、上記ア(オ)の実験例の記載を参酌すれば、活性が低下しにくいと同時にマイグレーションのないものが実施例とされていることが理解される。
ア(キ)これらの記載からみて、本件特許に係る発明の解決しようとする課題は「高温でも活性が低下しにくく」、かつ、「マイグレーションの発生も十分に抑制しうる」フラックス及びはんだ材料を提供することであると認められる。
イ しかるに、本件請求項1~3,5に係る発明は、マイグレーションの発生を十分に抑制しうるための特定事項(「ハロゲン濃度が5000ppm以下である」こと。)を有さない。
したがって、本件請求項1~3,5に係る発明は、マイグレーションの発生を十分に抑制し得ない発明を含むものであり、そのような発明が上記課題を解決し得ないことは明らかである。
ウ よって、本件請求項1~3,5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
2.意見書(特許権者)と上申書(申立人)の主張を踏まえた当審の判断
ア 上記1.の取消理由では、本件発明の課題は「高温でも活性が低下しにくく、マイグレーションの発生も十分に抑制しうるフラックス及びはんだ材料を提供すること」であると認定した上で、特に「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(「イソシアヌル酸トリス(3-カルボキシプロピル)」)と「ハロゲン化合物」(「トランス-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール」)を含む唯一の実施例である実施例6では、「耐熱性試験結果」が「50s」と長く、「ハロゲン濃度」が「3250(ppm)」で「5000ppm以下」であるから「マイグレーション」が発生しなかったと解されることから、請求項1において「ハロゲン濃度が5000ppm以下である」ことが特定されるべきであると認定したものである。
イ これに対して特許権者は以下に示す乙1(実験成績証明書)を提出した。乙1では、実施例6において「ハロゲン化合物」(「トランス-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール」)(添加量0.5%、ハロゲン濃度3250ppm)の添加量を増加させる「追加試験1」(添加量1.0%、ハロゲン濃度6500ppm)、「追加試験2」(添加量1.6% ハロゲン濃度10400ppm)を行い、いずれも「マイグレーション」が発生しないことを確かめている。
ウ そうすると、乙1により、ハロゲン濃度が増加しても、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(「イソシアヌル酸トリス(3-カルボキシプロピル)」)が含まれていることで、「マイグレーション」が発生しないことが理解されるから、本件発明において、ハロゲン濃度を特定しなくても、「マイグレーション」を発生させないという課題は解決できることが明らかになったということができる。
エ これに対して、申立人は上申書において、本件特許明細書には、本件発明はハロゲン濃度が5000ppmよりも高い場合には「マイグレーション」の発生が抑制できず課題を解決できないことが記載されていたのであり、ハロゲン濃度が5000ppmよりも高い場合にも課題が解決できることを立証しようとする乙1は、本件特許明細書の開示の範囲を逸脱するものであるから、これを参酌することは許されない旨を主張する。
オ ここで、上記摘示箇所に加えて本件特許明細書の次の記載を参酌する。下線は当審で付与した。
A.「【0021】前記イソシアヌル酸誘導体のフラックスにおける含有量(固形分換算)は特に限定されるものではないが、例えば、1質量%以上10質量%以下、好ましくは2質量%以上8質量%以下であること等が挙げられる。イソシアヌル酸誘導体のフラックスにおける含有量が前記範囲である場合には、加熱下での活性力の低下をより抑制しつつ、マイグレーションの発生もより抑制できるフラックスが得られる。」
B.「【0027】本実施形態のフラックス中にアミンハロゲン塩、ハロゲン化合物が含まれる場合には、フラックス中のハロゲン濃度は好ましくは5000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下、例えば好ましくは1500ppm以下であることが挙げられる。マイグレーション発生の抑制効果の観点から、及び環境への影響の観点からはハロゲン化合物は含まれていない(0ppmである)ことが好ましいが、含まれている場合には前記範囲であることでマイグレーションの発生もより抑制しやくなる。尚、一般的なハロゲンフリーに関する規格を満たすためには1500ppm以下であることが好ましい。」
C.「【0041】本実施形態のフラックス及びはんだ材料は高温加熱によっても高い活性力を維持しうる。従って、従来用いられていたハロゲン化合物系の活性剤を使用することなく、或は、低濃度でのハロゲン化合物系の活性剤の使用でも活性力の高いフラックスを得ることができる。また、ハロゲン化合物を使用する必要がないためマイグレーションの発生をより抑制できる。
さらに、ハロゲン化合物を使用することなく、或いは、低濃度での使用でも高温での加熱に対して高い活性力を有するフラックス及びはんだ材料であるため、環境への影響の観点からも好ましい。」
カ 上記Bには「フラックス中のハロゲン濃度は好ましくは5000ppm以下」であれば「マイグレーションの発生もより抑制しやくなる」ことが記載され、これは、「フラックス中のハロゲン濃度」が「5000ppm超」であったとしても、「マイグレーションの発生を抑制でき」、「5000ppm以下」なら、「より抑制しやすく」なるものであることと解することができる。
また、上記Cには「ハロゲン化合物を使用する必要がないためマイグレーションの発生をより抑制できる」と記載され、これは、「ハロゲン化合物を使用した」としても「マイグレーションの発生を抑制できる」ものであり、「ハロゲン化合物を使用」しなければ「マイグレーションの発生をより抑制できる」ものであることと解することができる。
そして、上記Aの、本件発明の「フラックス」に「イソシアヌル酸誘導体」が含まれることで「マイグレーション発生」を「抑制しやすくなる」旨の記載は、上記B,Cの記載を踏まえれば、ハロゲン化合物を5000ppm超で使用しても、「マイグレーション発生」を抑制でき、ハロゲン化合物を5000ppm以下で使用すれば「マイグレーション発生」を「より抑制」できるものと解することができるといえる。
キ そうであれば、本件特許明細書には、本件発明の「フラックス」に「イソシアヌル酸誘導体」が含まれることで、ハロゲン濃度が5000ppm以下であれば「マイグレーションの発生をより抑制できる」ものであり、ハロゲン濃度が5000ppm超であっても「マイグレーションの発生を抑制できる」ものであることが記載されていたと解することができるので、ハロゲン濃度が5000ppmよりも高い場合にも課題が解決できることを立証しようとする乙1は、本件特許明細書の記載を裏付けようとするものであって、(本件特許明細書の開示の範囲を逸脱するものかどうかはともかく)参酌することができないものとまではいえず、申立人の上記主張は採用できない。
ク また、活性剤としてのハロゲン化合物は、「耐熱性試験結果」を良好ならしめるものの、「マイグレーション」の発生が懸念されることから、その添加量には自ずと上限が存在するものといえる。
そこで、乙1の比較例1、比較例2をみると、ハロゲン濃度13000ppm程度で「マイグレーション」の発生が観察されるから、当該上限はそれより低い濃度にあるといえる。
他方で、「追加試験2」はハロゲン濃度10400ppmで本件発明の効果を確認しており、このハロゲン濃度は活性剤としてのハロゲン化合物の添加量の上限に近いと解し得るものであり、追加試験は、概ね、そのようなハロゲン化合物の添加量の上限近傍の濃度における実験と解し得る。
すなわち、請求項に記載の本件発明の「フラックス」は、活性剤としてのハロゲン化合物を含み得るが、その濃度は当然に通常に添加し得る範囲のものであり、乙1の「追加試験」は、通常添加し得るハロゲン化合物の上限の濃度を添加しても、本件発明は「高温でも活性が低下しにくく、マイグレーションの発生も十分に抑制しうる」という課題を解決できることを裏付けるものであるといえる。
3.取消理由についての結言
以上から、本件請求項1~3,5に係る発明が、マイグレーションの発生を十分に抑制しうるための特定事項(「ハロゲン濃度が5000ppm以下である」こと。)を有さず、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないからサポート要件に違反するという取消理由は、その根拠がなく、同取消理由は解消された。
第5 異議申立理由について
次に、取消理由として通知しなかった異議申立理由について検討する。
1.異議申立理由1について
1-1.異議申立理由1(甲1を主引例とする場合)の概要(再掲)
本件請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2~14号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。
1-2.甲1の記載事項
甲1には次のことが記載されている。本決定の以下の記載で「・・・」は記載の省略を示す
記載事項ア
【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)溶剤、(C)活性剤、(D)チクソ剤および(E)酸化防止剤を含有し、
前記(C)成分は、(C1)炭素数4~6のジカルボン酸と、(C2)下記一般式(1)で表される化合物とを含有する
ことを特徴とするフラックス組成物。
【化1】
(前記一般式(1)中、R1、R2、R3およびR4は、同一でも異なっていてもよく、水素または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(C2)成分が、ピコリン酸である
ことを特徴とするフラックス組成物。
記載事項イ
【0005】そこで、本発明は、はんだ組成物としたときに、はんだ塗れ広がりおよび連続印刷時の粘度安定性に優れ、かつはんだボールの発生を十分に抑制できるフラックス組成物、およびこれを用いたはんだ組成物、並びに、このはんだ組成物を用いたプリント配線基板を提供することを目的とする。
記載事項ウ
【0013】[(A)成分]本発明に用いる(A)ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。・・・
【0014】前記(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、35質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。・・・
記載事項エ
【0015】[(B)成分]本発明に用いる(B)溶剤としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。・・・
【0016】前記(B)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、20質量%以上60質量%以下であることが好ましく、30質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。・・・
記載事項オ
【0017】[(C)成分]本発明に用いる(C)活性剤は、以下説明する(C1)成分および(C2)成分を両方含有する必要がある。前記(C1)成分は、炭素数4~6のジカルボン酸であり、具体的には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
記載事項カ
【0023】前記(C)成分では、前記(C1)成分および前記(C2)成分と、これら以外の活性剤である(C3)成分を併用してもよい。この(C3)成分としては、(C1)成分および(C2)成分以外の有機酸、非解離性のハロゲン化化合物からなる非解離型活性剤、アミン系活性剤などが挙げられる。これらの活性剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。前記有機酸としては、モノカルボン酸、(C1)成分以外のジカルボン酸などの他に、その他の有機酸が挙げられる。
【0024】前記非解離性のハロゲン化化合物からなる非解離型活性剤としては、ハロゲン原子が共有結合により結合した非塩系の有機化合物が挙げられる。このハロゲン化化合物としては、塩素化物、臭素化物、フッ化物のように塩素、臭素、フッ素の各単独元素の共有結合による化合物でもよいが、塩素、臭素およびフッ素の任意の2つまたは全部のそれぞれの共有結合を有する化合物でもよい。これらの化合物は、水性溶媒に対する溶解性を向上させるために、例えばハロゲン化アルコールやハロゲン化カルボキシルのように水酸基やカルボキシル基などの極性基を有することが好ましい。ハロゲン化アルコールとしては、例えば2,3-ジブロモプロパノール、2,3-ジブロモブタンジオール、トランス-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、1,4-ジブロモ-2-ブタノール、トリブロモネオペンチルアルコールなどの臭素化アルコール、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,4-ジクロロ-2-ブタノールなどの塩素化アルコール、3-フルオロカテコールなどのフッ素化アルコール、その他これらに類する化合物が挙げられる。ハロゲン化カルボキシルとしては、2-ヨード安息香酸、3-ヨード安息香酸、2-ヨードプロピオン酸、5-ヨードサリチル酸、5-ヨードアントラニル酸などのヨウ化カルボキシル、2-クロロ安息香酸、3-クロロプロピオン酸などの塩化カルボキシル、2,3-ジブロモプロピオン酸、2,3-ジブロモコハク酸、2-ブロモ安息香酸などの臭素化カルボキシル、その他これらに類する化合物が挙げられる。
【0025】前記アミン系活性剤としては、アミン類(エチレンジアミンなどのポリアミンなど)、アミン塩類(トリメチロールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミンなどのアミンやアミノアルコールなどの有機酸塩や無機酸塩(塩酸、硫酸、臭化水素酸など))、アミノ酸類(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、バリンなど)、アミド系化合物などが挙げられる。具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩(塩酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、セバシン酸塩など)、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、これらのアミンの臭化水素酸塩などが挙げられる。
記載事項キ
【0037】リフロー工程においては、前記はんだ組成物上に前記電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品および配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、前記電子部品を前記配線基板に実装することができる。リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、Sn-Ag-Cu系のはんだ合金を用いる場合には、プリヒートを温度150~190℃で60~120秒行い、ピーク温度を240~270℃に設定すればよい。
1-3.甲1に記載された発明
ア 記載事項アから、【請求項1】を引用する【請求項2】に着目すれば、甲1には、「(A)ロジン系樹脂、(B)溶剤、(C)活性剤、(D)チクソ剤および(E)酸化防止剤を含有し、前記(C)成分は、(C1)炭素数4~6のジカルボン酸と、(C2)ピコリン酸とを含有するフラックス組成物。」に関する発明が記載されているといえる。
イ 記載事項ウから、「(A)ロジン系樹脂」は「フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下」含まれ、記載事項エから、「(B)溶剤」は「フラックス組成物100質量%に対して、20質量%以上60質量%以下」含まれるものである。
ウ 記載事項オから、「(C1)炭素数4~6のジカルボン酸」は、具体的には「コハク酸、グルタル酸、アジピン酸」である。
エ 記載事項カから、「(C)活性剤」は、「(C1)成分」及び「(C2)成分」と、「これら以外の活性剤である(C3)成分を併用」できるものである。
オ 以上から、請求項1(本件発明1)の記載に則して整理すると、甲1には、
「(B)溶剤、(A)ロジン系樹脂、(C)活性剤、(D)チクソ剤および(E)酸化防止剤を含有し、前記(C)成分は、(C1)炭素数4~6のジカルボン酸と、(C2)ピコリン酸と、(C3)成分とからなり、前記(B)溶剤をフラックス組成物100質量%に対して、20質量%以上60質量%以下、前記(A)ロジン系樹脂をフラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下含むフラックス組成物。」(以下、「引用発明1」という。)の発明が記載されていると認められる。
1-4.本件発明1と引用発明1との対比
ア 引用発明1の「(B)溶剤」、「(A)ロジン系樹脂」、「フラックス組成物」は、それぞれ本件発明1の「溶剤成分」、「ロジン成分」、「フラックス」に相当する。
イ 本件特許明細書には、「【0022】本実施形態のフラックスは、イソシアヌル酸誘導体の他に、公知のフラックスの成分、例えば、イソシアヌル酸誘導体以外の活性剤成分、樹脂成分、溶剤成分、酸化防止成分、チキソトロピック成分等を含んでいてもよい。」と記載されるから、本件発明1は、引用発明1の「(D)チクソ剤および(E)酸化防止剤」を包含するものである。
同様に、本件発明1「活性剤成分」は、「イソシアヌル酸誘導体以外の活性剤成分」を含み得るから、引用発明1の「(C1)炭素数4~6のジカルボン酸と、(C2)ピコリン酸と、(C3)成分」からなる「(C)活性剤」は、本件発明1「活性剤成分」に相当する。
ウ そして、本件特許明細書には「【0030】前記溶剤成分のフラックスにおける含有量は、20質量%以上70質量%以下、好ましくは30質量%以上60質量%以下等が挙げられる。」と記載され、「【0028】本実施形態のフラックスは、樹脂成分をロジン成分として含んでいる。・・・前記樹脂成分のフラックスにおける含有量は、固形物換算で1.0質量%以上80質量%以下、好ましくは10質量%以上40質量%以下等が挙げられる。」と記載されることから、本件発明1における「溶剤成分」と「ロジン成分」の含有量の割合(質量%)は「フラックス」に対するものである。
そして、ロジンのフラックスに対する含有量の割合は固形物換算であることが通常であるから、引用発明1についても同様であるといえる。
そうすると、本件発明1の「前記溶剤成分を20質量%以上70質量%以下」含むことと、引用発明1の「(B)溶剤をフラックス組成物100質量%に対して、20質量%以上60質量%以下」含むことは、「前記溶剤成分を20質量%以上60質量%以下」含む点で一致し、本件発明1の「前記ロジン成分を1.0質量%以上80質量%以下含む」ことと、引用発明1の「前記(A)ロジン系樹脂をフラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下含む」ことは、「前記ロジン成分を30質量%以上70質量%以下含む」点で一致する。
エ 以上から、本件発明1と引用発明1とは、次に示す一致点、相違点を有する。
<一致点>
「溶剤成分と、ロジン成分と、活性剤成分とを含み、前記溶剤成分を20質量%以上60質量%以下、前記ロジン成分を30質量%以上70質量%以下含むフラックス。」である点
<相違点>
本件発明1は「活性剤成分として、カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体を含」むのに対して、引用発明1は「(C)活性剤」として「(C3)成分」を含む点。
1-5.相違点の検討
上記相違点に関して、引用発明1の「(C3)成分」として「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」を採用できるかについて検討する。
(1)甲1について
上記甲1の記載事項カには、「(C3)成分」の具体的物質が列記されているが、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」は記載されていない。
(2)甲2について
そこで、引用発明1と同じく電子部品の電気的接続に用いられ、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」を含む(後述)異方性導電ペーストに関する甲2について検討する。
(2-1)甲2の記載
甲2には次の記載がある。
記載事項ヤ
[0009]本発明者らは、従来のはんだ粉や、はんだ層を表面に有する導電性粒子を含む異方性導電材料では、異方性導電材料の硬化物において、はんだに由来する黒いすすが含まれることがあることを見出した。特に、はんだがフラックスによりフラックス作用を受けるときに、黒いすすが発生しやすい。この黒いすすは、電極間の接続抵抗を高くし、導通信頼性を低下させる。
記載事項ユ
[0012]本発明の目的は、硬化物において黒いすすの発生を抑制し、更に電極上に導電性粒子におけるはんだを選択的に配置することができ、導通信頼性を高めることができる導電材料を提供することである。また、本発明の目的は、上記導電材料を用いた接続構造体を提供することである。
[0013]本発明の広い局面によれば、導電部の外表面部分に、はんだを有する複数の導電性粒子と、熱硬化性成分と、フラックスとを含み、前記熱硬化性成分又は前記フラックスとして、イソシアヌル骨格を有する化合物を含み、前記導電性粒子における前記はんだの融点での導電材料の粘度が0.1Pa・s以上、20Pa・s以下である、導電材料が提供される。
記載事項ヨ
[0181]上記イソシアヌル骨格を有するフラックスとしては、カルボキシル基とイソシアヌル骨格とを有する化合物等が挙げられる。上記イソシアヌル骨格を有するフラックスの市販品としては、CIC酸及びMACIC-1(四国化成工業社製)等が挙げられる。・・・
記載事項ラ
[0237]~[0252]には、実験に用いられる「異方性導電ペースト」について記載されており、同「異方性導電ペースト」は、以下の[表1]([0254])に記載の「配合成分」と「評価」を有する。
記載事項リ
上記記載事項ラと同じく、は、以下の[表2]([0255])に記載の「配合成分」と「評価」を有する「異方性導電ペースト」を示す。
記載事項ル
記載事項ラ、リに記載されるように、実験に用いられる「異方性導電ペースト」について[0237]~[0252]に記載されるところ、[0243]には次の記載がある。
[0243]上記ガラスエポキシ基板の上面のペリフェラル部分に、作製直後の異方性導電ペーストを厚さ100μmとなるように塗工し、異方性導電ペースト層を形成した。次に、異方性導電ペースト層の上面に半導体チップを電極同士が対向するように積層した。異方性導電ペースト層には、上記半導体チップの重量は加わる。その状態から、異方性導電ペースト層の温度が、昇温開始から5秒後に139℃(はんだの融点)となるように加熱した。さらに、昇温開始から15秒後に、異方性導電ペースト層の温度が160℃となるように加熱し、異方性導電ペーストを硬化させ、接続構造体を得た。加熱時には、加圧を行わなかった。
(2-2)甲2に記載される技術手段
ア 記載事項ヤ、ユから、甲2には、異方性導電材料の硬化物における黒いすすの発生を抑制し導通信頼性を高めることを課題として、導電部の外表面部分に、はんだを有する複数の導電性粒子と、熱硬化性成分と、フラックスとを含み、前記熱硬化性成分又は前記フラックスとして、イソシアヌル骨格を有する化合物を含ませることを、その解決手段とする技術手段が記載されているといえる。
イ そして、記載事項ラによれば、[表1]において、「実施例1」~「実施例7」では、「熱硬化性化合物」として「イソシアヌル骨格」を有する材料が用いられており「黒いすす」は発生していないが、比較例1では「イソシアヌル骨格」を有する材料が用いられておらず、「黒いすす」が発生している。
また、記載事項リによれば、実施例10において「フラックス」に「CIC酸」が用いられており、「黒いすす」は発生していない。
ウ ここで、「CIC酸」は、記載事項ヨから、カルボキシル基とイソシアヌル骨格とを有する化合物であり、甲第3号証(後述)によれば、「CIC酸」は「1,3,5-トリス(2-カルボキシエチル)イソシアヌレート」であり、これは本件発明2の「トリス(2-カルボキシエチル)イソシアヌル酸」にあたるので、本件発明1の「カルボキシ基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」にあたる。
エ そうすると、甲2には、異方性導電材料の硬化物における黒いすすの発生を抑制し導通信頼性を高めることを課題として、導電部の外表面部分に、はんだを有する複数の導電性粒子と、熱硬化性成分と、フラックスとを含み、前記フラックスとして、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」を含ませるという技術手段が記載されているといえる。
(2-3)引用発明1の「(C3)成分」として甲2の「CIC酸」を適用して、本件発明1を容易に発明をすることができるかについて
ア 引用発明1の課題は、記載事項イから、「はんだ塗れ広がりおよび連続印刷時の粘度安定性に優れ、かつはんだボールの発生を十分に抑制できる」フラックス組成物を提供することといえる。
一方、甲2の技術手段の課題は、記載事項ヤ、ユから、「硬化物における黒いすすの発生を抑制し導通信頼性を高める」ことのできるフラックスを有する「異方性導電材料」を提供することといえる。
そうすると、両者に課題の共通性は見いだせない。
イ 引用発明1は「フラックス組成物」(ソルダペースト)の成分として「(C3)成分」を含むが、記載事項カには「(C3)成分」としての具体例として「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」は記載がなく、同誘導体を採用できることの示唆もない。
一方、甲2の技術手段は、「異方性導電材料」の「フラックス」に、「硬化物」としたときに「黒いすすの発生」を抑制できるように「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」を含ませるものである。
そうすると、引用発明1は「ソルダペースト」の「フラックス」に関する技術であるのに対して、甲2の技術手段は「異方性導電材料」の「フラックス」に関する技術であるから両者の技術分野が異なり、また、両者の技術内容に共通部分が見いだせず、引用発明1の「ソルダペースト」の「フラックス」の成分として、甲2の技術手段の「異方性導電材料」の「フラックス」の成分を適用できることの理由も見いだせない。
ウ すると、引用発明1と甲2の技術手段とは、課題の共通性がなく、技術分野が異なり、引用発明1の「ソルダペースト」の「フラックス」の成分として、甲2の技術手段の「異方性導電材料」の「フラックス」の成分を適用できることの理由もないから、引用発明1の「(C3)成分」として甲2の「CIC酸」を適用できる動機付けが認められない。
エ したがって、引用発明1の「(C3)成分」として甲2の「CIC酸」を適用して、本件発明1を容易に発明をすることができるとはいえない。
なお、以下に他の甲各号証に記載された内容を列挙するように、いずれも引用発明1に甲2の技術手段を適用できることを記載もしくは示唆するものではない。
オ 甲第3号証
「1,3,5-トリス(2-カルボキシエチル)イソシアヌレート」が「CIC酸」と呼称されること(【0004】)
カ 甲第4号証
ソルダペースト中のフラックスにおいて、高温での加熱時に、フラックスの活性(ぬれ性)の低下が生じること(1頁「余熱時に起こるソルダペーストの劣化」)
キ 甲第5号証
リフロ-温度は高温化の傾向にあり、活性剤として使用される有機酸やハロゲン系活性剤の分解温度を高く設定する必要があること(388頁 「3.1 リフロ-温度と活性剤の選択」)
ク 甲第6号証
マイグレーションとは、樹脂基板上の配線間や電極間に水分やハロゲンイオンが存在する場合に、電圧が印加されると、陽極金属がイオンとなって溶出し、陰極で金属となって析出する現象のことであり、Cl-、Br-、I-、F-などのハロゲンイオンの存在により助長されるので、使用される各種素材に含まれるハロゲン元素をできるだけ少なくすることは、マイグレーション発生防止に役立つこと(85~86頁「(3)マイグレーション」)
ケ 甲第7号証
「イソシアヌル酸ビス(2-カルボキシエチル)」(本件請求項2の「イソシアヌル酸誘導体」の一つである「イソシアヌル酸ビス(2-カルボキシエチル)」に相当)の「融点」が「289℃」であること(1/3頁「3.組成、成分情報」「化学名又は一般名」、2/3頁「9.物理的及び化学的性質」「融点」)
コ 甲第8号証
「イソシアヌル酸トリス(2-カルボキシエチル)」(本件請求項2の「イソシアヌル酸誘導体」の一つである「トリス(2-カルボキシエチル)イソシアヌル酸」に相当、甲3の「CIC酸」に相当、甲2[0235]と[表1]([0254])と[表2][0255]の「フラックス」中の成分の一つの「CIC酸」に相当)の「融点」が「228℃」であること(1/3頁「3.組成、成分情報」「化学名又は一般名」、2/3頁「9.物理的及び化学的性質」「融点」)
サ 甲第9号証
「グルタル酸」(本件特許明細書【0023】、【表1】(【0050】)の「有機酸」の一つに相当、甲1【0017】の「活性剤」である「C1(成分)」に相当、甲2[表1]([0254])と[表2][0255]の「フラックス」中の成分の一つに相当))の「融点」が「98℃」、「沸点」が「200℃/2.7kPa」であること(1/3頁「3.組成、成分情報」「化学名又は一般名」、2/3頁「9.物理的及び化学的性質」「融点」「沸点/沸騰範囲」)
シ 甲第10号証
「こはく酸」(本件特許明細書【0023】、【表1】(【0050】)の「有機酸」の一つに相当、甲1【0017】の「活性剤」である「C1(成分)」に相当)の「融点」が「187℃」、「沸点」が「235℃」であること(1/3頁「3.組成、成分情報」「化学名又は一般名」、2/3頁「9.物理的及び化学的性質」「融点」「沸点/沸騰範囲」)
ス 甲第11号証
「メチルこはく酸」(本件特許明細書【0023】、【表1】(【0050】)の「有機酸」の一つに相当)の「融点」が「116℃」であること(1/3頁「3.組成、成分情報」「化学名又は一般名」、2/3頁「9.物理的及び化学的性質」「融点」)
セ 甲第12号証
「アゼライン酸」(本件特許明細書【0023】、【表1】(【0050】)の「有機酸」の一つに相当)の「融点」が「108℃」、「沸点」が「306℃」であること(1/3頁「3.組成、成分情報」「化学名又は一般名」、2/3頁「9.物理的及び化学的性質」「融点」「沸点/沸騰範囲」)
ソ 甲第13号証
「アジピン酸」(本件特許明細書【0023】の「有機酸」の一つに相当、甲1【0017】の「活性剤」である「C1(成分)」に相当)の「融点」が「153℃」、「沸点」が「265℃/100mm」であること(72頁「アジピンさん」)
タ 甲第14号証
「ピコリン酸」(甲1の「活性剤」である「C2(成分)」に相当)の「融点」が「136~137℃」であること(332頁「ピコリンさん」)
チ 甲第16号証
「マレイン酸」(本件特許明細書【0023】の「有機酸」の一つに相当)の「融点」が「130~130.5℃」「160℃で沸騰し無水マレイン酸と水とに分解する。」であること(899~900頁「マレインさん」)
(2-4)申立人の主張する論理について
<申立人の論理の概要>
ア 引用発明1の「活性剤」である「(C)成分」は、「(C1)炭素数4~6のジカルボン酸と、(C2)ピコリン酸と、(C3)成分」とからなるが、「第5 1.1-3.ウ」から、(C1)は具体的には「コハク酸、グルタル酸、アジピン酸」であり、「コハク酸」の融点は187℃(甲10)、「グルタル酸」の融点は98℃(甲9)、「アジピン酸」の融点は153℃(甲13)であり、「(C2)ピコリン酸」の融点は136~137℃(甲14)である。
すると、記載事項キから引用発明1でのリフローはんだ付けの「ピーク温度を240~270℃」なので、当該温度範囲では「活性剤」である「(C1)成分」、「(C2)成分」はいずれも活性を消失していると考えられるから、当該温度範囲で活性の維持されている活性剤を「(C3)成分」として採用することは当然に考えられることといえる。
イ ここで、上記「第5 1.1-5.(2-2)エ」から、甲2には、異方性導電材料の硬化物における黒いすすの発生を抑制し導通信頼性を高めることを課題として、導電部の外表面部分に、はんだを有する複数の導電性粒子と、熱硬化性成分と、フラックスとを含み、前記フラックスとして、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(「CIC酸」)を含ませるという技術手段が示されており、「黒いすすの発生」は「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(「CIC酸」)により抑制されているから、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」はそれが含まれていなければすすの出るような高温ですすの発生を抑制している(活性を維持している)活性剤であるといえる。
ウ そうであれば、甲2の技術手段はフラックスの成分として高温で活性を維持する「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」を使用できることを示すから、これを引用発明1の「(C3)成分」として採用することは当業者が容易になし得ることといえる。
<当審の判断>
ア 申立人は、引用発明1へ甲2の技術手段を適用する動機付けについて、甲1及び甲2に直接の記載がないところ、引用発明1の活性剤「(C1)成分」「(C2)成分」はリフローはんだ付けの「ピーク温度」「240~270℃」(以下、「ピーク温度」という。)で活性を失っており、「(C3)成分」として当該温度範囲で活性を維持できる活性剤の使用が必要である旨主張する。
イ しかしながら、そもそも、引用発明1は、「(C3)成分」を含まない「(C1)成分」「(C2)成分」のみで問題なくリフローはんだ付けが行われており、「(C3)成分」は必須とされるものではない。
ウ また、申立人は単に「(C1)成分」「(C2)成分」の融点がピーク温度よりかなり低温であることのみをもって、それらはピーク温度で活性がないとのみ述べるにとどまり、これらの成分が、ピーク温度で活性剤としての機能を奏し得ない程度に活性を失うことを推認させるような根拠はなんら提示されていない。
なお、確かに甲4、甲5にはソルダペースト中のフラックスにおいて高温下ではフラックスの活性が低下する旨記載があるが、活性剤として具体的に「(C1)成分」である「炭素数4~6のジカルボン酸」の活性の低下について記載されているものではない。
エ すなわち、後述するように、甲9には「グルタル酸」の「融点98℃」と共に「沸点」が「200℃/2.7kPa」であることが記載され、甲13には、「アジピン酸」の「融点153℃」と共に「沸点」が「265℃/100mm」であることが記載されており、「2.7kPa」「100mm」は当該沸点が計測される圧力(1気圧は、101kPa、10332mmH2O)を示すといえ、「グルタル酸」「アジピン酸」は常圧下であればピーク温度程度では気化しているものとは考えがたく、ピーク温度においてフラックス中に存在しているといえるから、その時点で活性剤としての機能を奏し得ない程度に活性が失われているとまでは断言できない。
したがって、引用発明1において、「240~270℃」である「ピーク温度」において、「(C1)成分」の活性が、活性剤としての機能を奏し得ない程度にまで失われているとまではいえない。
オ また、甲2では、異方性導電材料の硬化物における黒いすすの発生を抑制することを確かめる実験が行われているところ、異方性導電材料の加熱は、通常のハンダペーストのリフローよりかなり低温であることは技術常識であり、実際、上記記載事項ルから、「異方性導電ペースト層の温度が160℃となるように加熱し、異方性導電ペーストを硬化させ」たことが記載されている。
すなわち、「CIC酸」(本件発明2の「トリス(2-カルボキシエチル)イソシアヌル酸」)の融点は、甲8から228℃であり、上記<申立人の論理の概要>のアでみた「(C1)成分」「(C2)成分」の融点より高温ではあるが、甲2において、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(「CIC酸」)が高温で活性を維持できると申立人が判断した高温とは160℃であって、引用発明1の「240~270℃」である「ピーク温度」において活性が維持されることを確認したものではないので、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(「CIC酸」)が、引用発明1の「240~270℃」である「ピーク温度」において活性が維持されるかは不明である。
カ 以上から、申立人の主張する論理は、そもそも引用発明1へ甲2の技術手段を適用する動機付けを欠き、採用し得ない。
1-6.異議申立理由1についての結言
以上から、本件発明1は、甲第1号証に記載された引用発明1及び甲第2~14号証に記載された技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~5についても同様である。
2.異議申立理由2について
2-1.異議申立理由2(甲15を主引例とする場合)の概要(再掲)
本件請求項1~5に係る発明は、甲第15号証に記載された発明と甲第2~12及び16号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。
2-2.甲15の記載事項
甲15には次のことが記載されている。
記載事項ナ
【請求項1】有機酸と、チキソ剤と、ロジンと、溶剤とを含み、チキソ剤として、炭素数が14~20の脂肪酸モノアルキロールアミドを含むことを特徴とするフラックス。
記載事項ニ
[0006]フラックスには、リフロー炉を使用したはんだ付け工程での加熱によって分解、揮発しない成分が含まれ、フラックス残渣として残留する。フラックス残渣を除去する必要がある用途では、フラックス残渣が洗浄によって確実に除去できる必要がある。
[0007]リフロー炉を使用したはんだ付け工程では、はんだ溶融時間を長くすると、ボイドを低減することができる。しかし、例えばピーク温度を240℃に設定し、このピーク温度を30秒保持するというように、はんだの溶融温度に合わせたピーク温度を所定時間保持するというプロファイルは難しく、通常、ピーク温度を上げ240℃以上を30秒保持するという手法が用いられる。
[0008]しかし、はんだ溶融時の加熱温度を高くすると、ボイドは低減するが、フラックス残渣が炭化する可能性がある。フラックス残渣が炭化すると、はんだ付けによる接合対象物である例えば基板に固着し、フラックス残渣を洗浄で除去できなくなる。
[0009]本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、フラックス残渣の炭化を抑えて洗浄性を向上させたフラックス、及び、フラックスとはんだ合金の粉末が混合されたソルダペーストと、フラックスまたはソルダペーストを使用して形成されたはんだ継手を提供することを目的とする。
記載事項ヌ
[0017]一方、リフロー炉を使用したはんだ付けでは、はんだ合金中のボイドを抑制する必要がある。はんだ付け工程での加熱の温度を高くすることで、ボイドを抑制できるが、従来、チキソ剤としてフラックスに添加される化合物は、はんだ付け時の加熱の温度を高くすると、炭化してフラックス残渣となる可能性があった。
・・・
[0019]そこで、はんだ付け工程での温度に対する所定の耐熱性を有して炭化が抑えられ、かつ、洗浄によりフラックス残渣の除去が可能な化合物をチキソ剤として添加することで、フラックス残渣の洗浄性を向上させる。
記載事項ネ
[0021]有機酸は、金属酸化膜を除去する活性剤成分として添加される。有機酸は、炭素数が10以下、本例では、炭素数が4~9(C4~C9)のジカルボン酸から選択される。上述した有機酸として、洗浄性を考慮して、アゼライン酸、コハク酸、マレイン酸、スベリン酸、グルタル酸の何れか、あるいは、アゼライン酸、コハク酸、マレイン酸、スベリン酸、グルタル酸が所定の組み合わせで添加される。・・・
記載事項ノ
[0026]チキソ剤として添加される脂肪酸モノアルキロールアミドは、リフロー炉を使用したはんだ付け工程で想定される炉内のピーク温度で炭化しない。・・・
記載事項ハ
[0029]そこで、有機酸の添加量を4~10重量%、チキソ剤である脂肪酸モノアルキロールアミドの添加量を3~10重量%、溶剤の添加量を30~60重量%、残部をロジンとした。
2-3.甲15に記載された発明
ア 記載事項ナから、甲15には「有機酸と、チキソ剤と、ロジンと、溶剤とを含み、チキソ剤として、炭素数が14~20の脂肪酸モノアルキロールアミドを含むフラックス。」に関する発明が記載されているといえる。
イ 記載事項ネから、「有機酸」は、活性剤成分であり、「炭素数が4~9(C4~C9)のジカルボン酸」であり、具体的には「アゼライン酸、コハク酸、マレイン酸、スベリン酸、グルタル酸」である。
ウ 記載事項ハから、フラックスは、「有機酸の添加量を4~10重量%」、「チキソ剤である脂肪酸モノアルキロールアミドの添加量を3~10重量%」、及び「溶剤の添加量を30~60重量%」とするものであり、残部が「ロジン」と規定されるから、当該フラックスは、「20~63重量%」のロジンを含むものといえる。
エ 以上から、請求項1(本件発明1)の記載に則して整理すると、甲15には、
「溶剤、ロジン、活性剤成分である有機酸、チキソ剤を含有し、有機酸は炭素数が4~9(C4~C9)のジカルボン酸であり、チキソ剤として炭素数が14~20の脂肪酸モノアルキロールアミドを含み、溶剤をフラックス100質量%に対して30質量%以上60質量%以下、ロジンをフラックス100質量%に対して20質量%以上63質量%以下含むフラックス。」(以下、「引用発明15」という。)の発明が記載されていると認められる。
2-4.本件発明1と引用発明15との対比
ア 引用発明15の「ロジン」は、本件発明1の「ロジン成分」に相当する。
イ 本件特許明細書には、「【0022】本実施形態のフラックスは、イソシアヌル酸誘導体の他に、公知のフラックスの成分、例えば、イソシアヌル酸誘導体以外の活性剤成分、樹脂成分、溶剤成分、酸化防止成分、チキソトロピック成分等を含んでいてもよい。」と記載されるから、本件発明1は、引用発明15の「チキソ剤」を包含するものである。
ウ また、本件発明1は「活性剤成分」として「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」を含むところ、本件特許明細書には「【0023】本実施形態のフラックスは、イソシアヌル酸誘導体以外の活性剤成分としてさらに有機酸を含んでいてもよい。有機酸は、フラックスの活性剤成分等として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えば、グルタル酸、コハク酸、メチルコハク酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ステアリン酸、安息香酸、ドデカン二酸、マレイン酸、シアヌル酸等が挙げられる。」と記載され、これらの有機酸は、上記2-3.イから、引用発明15の「有機酸」と重複するので、本件発明1の「活性剤成分とを含み、前記活性剤成分として、カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体を含み」と引用発明15とは「活性剤成分」として有機酸である「炭素数が4~9(C4~C9)のジカルボン酸」を含む点で一致する。
エ 本件発明1の「前記溶剤成分を20質量%以上70質量%以下」含むことと、引用発明15の「溶剤をフラックス100質量%に対して30質量%以上60質量%以下」含むことは、「前記溶剤成分を30質量%以上60質量%以下」含む点で一致し、本件発明1の「前記ロジン成分を1.0質量%以上80質量%以下含む」ことと、引用発明15の「ロジンをフラックス100質量%に対して20質量%以上63質量%以下含む」ことは、「前記ロジン成分を20質量%以上63質量%以下含む」点で一致する。
オ 以上から、本件発明1と引用発明15とは、次に示す一致点、相違点を有する。
<一致点>
「溶剤成分と、ロジン成分と、活性剤成分とを含み、前記溶剤成分を30質量%以上60質量%以下、前記ロジン成分を20質量%以上63質量%以下含むフラックス。」である点
<相違点>
本件発明1は「活性剤成分として、カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体を含」むのに対して、引用発明15は同誘導体を含まない点。
2-5.相違点の検討
上記相違点に関して、引用発明15の「活性剤成分」として「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」をさらに含むことができるかについて検討する。
(1)甲15について
上記甲15には、フラックスに、「活性剤成分」として「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」を、さらに含ませることができるかについて記載も示唆もない。
(2)甲2について
そこで、引用発明15と同じく電子部品の電気的接続に用いられ、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」を含む異方性導電ペーストに関する甲2について検討する。
(2-1)甲2の検討の援用
この検討は上記「1.1-5.(2)(2-1)~(2-2)」を援用する。
したがって、甲2には、異方性導電材料の硬化物における黒いすすの発生を抑制し導通信頼性を高めることを課題として、導電部の外表面部分に、はんだを有する複数の導電性粒子と、熱硬化性成分と、フラックスとを含み、前記フラックスとして、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」を含ませるという技術手段が記載されているといえる。
(2-2)引用発明15の「活性剤成分」として甲2の「CIC酸」を適用して、本件発明1を容易に発明をすることができるかについて
ア 引用発明15の課題は、記載事項ニから、「フラックス残渣の炭化を抑えて洗浄性を向上させたフラックス」を提供することといえる。
一方、甲2の技術手段の課題は、記載事項ヤ、ユから、「硬化物における黒いすすの発生を抑制し導通信頼性を高める」ことのできるフラックスを有する「異方性導電材料」を提供することといえる。
そうすると、両者は「炭化」すなわち「すすの発生」を抑制するという点で課題の共通性があるといえる。
そこで両者の課題の解決手段をみると、引用発明15は、記載事項ナ、ヌから「チキソ剤として炭素数が14~20の脂肪酸モノアルキロールアミド」を用いるものであるのに対して、甲2の技術手段は「活性剤」として「カルボキシ基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(CIC酸)を用いるものである。
しかしながら、引用発明15、甲2の技術手段は共に「すすの発生」を抑制するという効果を奏するものにすぎない。
すなわち、引用発明15の「活性剤成分である有機酸」に甲2の技術手段である「活性剤」としての「カルボキシ基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(CIC酸)を適用することができたとしても、「高温でも活性が低下せず、マイグレーションの発生も抑制しうる」(本件特許明細書【0039】)という効果の奏されることまで予測することはできないし、適用の結果として「炭素数が14~20の脂肪酸モノアルキロールアミド」と「カルボキシ基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(CIC酸)とがいかなる相互作用を示すのか(両者の反応により「すすの発生の抑制」効果は維持され得るのか)も予測できるものではない。
イ そうすると、「ソルダペースト」の「フラックス」に関する技術である引用発明15の「活性剤成分」として、「異方性導電材料」の「フラックス」に関する技術である甲2の技術手段の「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(CIC酸)を適用できたとしても、本件発明の「高温でも活性が低下せず、マイグレーションの発生も抑制しうる」という効果を予測することはできないから、引用発明15に甲2の技術手段を適用できるということはできない。
ウ したがって、引用発明15の「活性剤成分」として甲2の「CIC酸」を適用して、本件発明1を容易に発明をすることができるものとはいえない。
なお、他の甲各号証に記載された内容は上記「第5 1.1-5.(2)(2-3)カ~チ」に列挙するものであり、いずれも引用発明15に甲2の技術手段を適用できることを記載もしくは示唆するものではない。
(2-3)申立人の主張する論理について
<申立人の論理の概要>
ア 記載事項ネから、引用発明15の「活性剤成分」は、具体的には「アゼライン酸、コハク酸、マレイン酸、スベリン酸、グルタル酸」であり、「アゼライン酸」の融点は108℃(甲12)、「コハク酸」の融点は187℃(甲10)、「マレイン酸」の融点は130~130.5℃(甲16)、「グルタル酸」の融点は98℃(甲9)である。
すると、記載事項ニから引用発明15でのリフローはんだ付けの温度は「240℃以上を30秒」なので、当該温度範囲では上記有機酸である「活性剤」はいずれも活性が消失ないし弱くなっていると考えられるから、当該温度範囲で活性の維持されている活性剤を別途採用することは当然に考えられることといえる。
イ ここで、上記「第5 1.1-5.(2-2)エ」から、甲2には、異方性導電材料の硬化物における黒いすすの発生を抑制し導通信頼性を高めることを課題として、導電部の外表面部分に、はんだを有する複数の導電性粒子と、熱硬化性成分と、フラックスとを含み、前記フラックスとして、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(「CIC酸」)を含ませるという技術手段が示されており、「黒いすすの発生」は「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(「CIC酸」)により抑制されているから、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」はそれが含まれていなければすすの出るような高温ですすの発生を抑制している(活性を維持している)活性剤であるといえる。
ウ そうであれば、甲2の技術手段はフラックスの成分として高温で活性を維持する「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」を使用できることを示すから、これを引用発明15において「活性剤成分」として採用することは当業者が容易になし得ることといえる。
<当審の判断>
ア 申立人は、引用発明15へ甲2の技術手段を適用する動機付けについて、甲15及び甲2に直接の記載がないところ、引用発明15の「活性剤成分」はリフローはんだ付けの温度「240℃以上を30秒」(以下、「ピーク温度」という。)で活性を消失ないし弱くなっており、「活性剤成分」として当該温度範囲で活性を維持できる活性剤の使用が必要である旨主張する。
イ しかしながら、そもそも、引用発明15は、「活性剤成分」として「炭素数が4~9(C4~C9)のジカルボン酸」である「アゼライン酸、コハク酸、マレイン酸、スベリン酸、グルタル酸等」のみで問題なくリフローはんだ付けが行われており、他の活性剤成分は必須とされるものではない。
ウ また、申立人は単に上記「アゼライン酸、コハク酸、マレイン酸、スベリン酸、グルタル酸」の融点がピーク温度よりかなり低温であることのみをもって、それらはピーク温度で活性が消失ないし弱くなっていると主張するにとどまり、これらが、ピーク温度で活性剤としての機能を奏し得ない程度に活性を失うことを推認させるような根拠をなんら提示していない。
なお、確かに甲4、甲5にはソルダペースト中のフラックスにおいて高温下ではフラックスの活性が低下する旨記載があるが、活性剤として具体的に「炭素数が4~9(C4~C9)のジカルボン酸」の活性の低下について記載されているものではない。
エ 例えば、先に「第5 1.1-5.(2-3)サ」でみたように、甲9には「グルタル酸」の「融点98℃」と共に「沸点」が「200℃/2.7kPa」であることが記載され、甲13には、「アジピン酸」(C=6)の「融点153℃」と共に「沸点」が「265℃/100mm」であることが記載されており、「2.7kPa」「100mm」は当該沸点が計測される圧力(1気圧は、101kPa、10332mmH2O)を示すといえ、「グルタル酸」「アジピン酸」等の「炭素数が4~9(C4~C9)のジカルボン酸」の中には、常圧下であればピーク温度程度では気化しているものとは考えがたいものが存在し、ピーク温度においてフラックス中に存在しているといえるから、その時点で活性剤としての機能を奏し得ない程度に活性がないかは不明といえる。
したがって、引用発明15において、「240℃以上を30秒」である「ピーク温度」において活性成分である「炭素数が4~9(C4~C9)のジカルボン酸」が活性剤としての機能を奏し得ない程度に活性が維持されていないとまではいえない。
オ また、甲2では、異方性導電材料の硬化物における黒いすすの発生を抑制することを確かめる実験が行われているところ、異方性導電材料の加熱は、通常のハンダペーストのリフローよりかなり低温であることは技術常識であり、実際、上記記載事項ルから、「異方性導電ペースト層の温度が160℃となるように加熱し、異方性導電ペーストを硬化させ」たことが記載されている。
すなわち、「CIC酸」(本件発明2の「トリス(2-カルボキシエチル)イソシアヌル酸」)の融点は、甲8から228℃であり、上記<申立人の論理の概要>のアでみた「活性剤成分」である「有機酸」の融点より高温ではあるが、甲2において、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(「CIC酸」)が高温で活性を維持できると申立人が判断した高温とは160℃であって、引用発明15の「240℃以上を30秒」である「ピーク温度」において活性が維持されることを確認したものではないので、「カルボキシル基を2個以上含むイソシアヌル酸誘導体」(「CIC酸」)が、引用発明1の「240℃以上を30秒」である「ピーク温度」において活性が維持されるかは不明である。
カ 以上から、申立人の主張する論理は、そもそも引用発明15へ甲2の技術手段を適用する動機付けを欠き、採用し得ない。
2-6.異議申立理由2についての結言
以上から、本件発明1は、甲第15号証に記載された引用発明15並びに甲第2~12号証及び甲第16号証に記載された技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~5についても同様である。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議の申立ての理由によって、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-701021