特許異議申立
2019-700748
排気ガス処理装置用保持材および排気ガス処理装置
- 審判番号
- 2019-700748
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-250632
- 登録番号
- 特許第6486328号(P6486328)
- 請求日
- 2019年09月19日
- 審決日
- 2020年12月01日
- 公報発行日
- 2021年05月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】ニチアス株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人あしたば国際特許事務所
- 【権利者代理人】赤塚 賢次
- 【権利者代理人】阪田 泰之
- 【権利者代理人】渋谷 健
- 【異議申立人】松永 健太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 渡邊 豊英
- 審判官 北村 英隆
- 審判官 鈴木 充
- 分類
- P1651.121-ZAA(F01N) / P1651.536-ZAA(F01N) / P1651.537-ZAA(F01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6486328号発明「排気ガス処理装置用保持材および排気ガス処理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6486328号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める。
特許第6486328号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6486328号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成28年12月26日に特許出願がされ、平成31年3月1日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年9月19日に特許異議申立人西口豊美(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和元年12月11日付け(発送日:同年12月17日)で取消通知が通知され、その指定期間内である令和2年2月14日に特許権者から訂正の請求及び意見書の提出がされ、その訂正の請求に対して異議申立人から令和2年3月27日に意見書が提出され、令和2年6月30日付け(発送日:同年7月7日)で取消理由<決定の予告>が通知され、その指定期間内である令和2年9月4日に特許権者から意見書の提出がされたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年2月14日の訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の内容は、以下の(1)ないし(4)のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「無機繊維」とあるのを、
「無機繊維としてアルミナ繊維のみ」に訂正することを請求する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「坪量が1600~3000g/m2」とあるのを、
「坪量が1800~2200g/m2」に訂正することを請求する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「嵩密度が0.125~0.205g/cm3」とあるのを、
「嵩密度が0.145~0.185g/cm3」に訂正することを請求する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に、
「厚さが1~12mm」とあるのを、
「厚さが2.5~8mm」に訂正することを請求する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項1の「無機繊維」を「無機繊維としてアルミナ繊維のみ」とする訂正は、無機繊維の種類を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正前の請求項1の「無機繊維」が「無機繊維としてアルミナ繊維のみ」である点に関して、本件特許明細書には次の記載がある。
「【0014】
本発明に係る排気ガス処理装置用保持材は、無機繊維を含有する湿式成形体からなる。
上記湿式成形体に含まれる無機繊維は湿式成形体を構成する骨格繊維として機能するものであって、上記無機繊維としては、例えば、アルミナ繊維、ムライト繊維、アルミナシリケート繊維、シリカ繊維および生体溶解性繊維から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0015】
本発明に係る排気ガス処理装置用保持材において、アルミナ繊維とは、アルミナ(Al2O3)を主成分とする非晶質繊維または多結晶質繊維を意味し、Al2O3を90~99質量%、SiO2を1~10質量%含むものが好適であり、Al2O3を95~99質量%、SiO2を1~5質量%含むものがより好適であり、Al2O3を96~99質量%、SiO2を1~4質量%含むものがさらに好適である。」
したがって、「無機繊維としてアルミナ繊維のみ」は、上記記載事項の範囲内のものである。
ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2についても実質的に訂正するものであるが、訂正前の請求項2との関係において、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項1の「坪量が1600~3000g/m2」を「坪量が1800~2200g/m2」とする訂正は、排気ガス処理装置用保持材の坪量の範囲を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正前の請求項1の「坪量が1600~3000g/m2」が「坪量が1800~2200g/m2」である点に関して、本件特許明細書には次の記載がある。
「【0026】
本発明に係る排気ガス処理装置用保持材において、湿式成形体は、坪量が、1600~3000g/m2であり、1700~2500g/m2であるものが好ましく、1800~2200g/m2であるものがさらに好ましい。」
したがって、「坪量が1800~2200g/m2」は、上記記載事項の範囲内のものである。
ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2についても実質的に訂正するものであるが、訂正前の請求項2との関係において、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項1の「嵩密度が0.125~0.205g/cm3」を「嵩密度が0.145~0.185g/cm3」とする訂正は、排気ガス処理装置用保持材の嵩密度の範囲を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正前の請求項1の「嵩密度が0.125~0.205g/cm3」が「嵩密度が0.145~0.185g/cm3」である点に関して、本件特許明細書には次の記載がある。
「【0027】 また、本発明に係る排気ガス処理装置用保持材において、湿式成形体は、嵩密度が、0.125~0.205g/cm3であり、0.135~0.195g/cm3であるものが好ましく、0.145~0.185g/cm3であるものがより好ましい。」
したがって、「嵩密度が0.145~0.185g/cm3」は、上記記載事項の範囲内のものである。
ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2についても実質的に訂正するものであるが、訂正前の請求項2との関係において、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項2の「厚さが1~12mm」を「厚さが2.5~8mm」とする訂正は、排気ガス処理装置用保持材の嵩密度の範囲を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正前の請求項1の「厚さが1~12mm」が「厚さが2.5~8mm」である点に関して、本件特許明細書には次の記載がある。
「【0063】 本発明に係る排気ガス処理装置において、本発明に係る排気ガス処理装置用保持材を構成する湿式成形体は、上記排気ガス処理体と当該排気ガス処理体を収容するケーシングとの間隙で圧縮された状態における厚さが、1~12mmであることが好ましく、2~10mmであることがより好ましく、2.5~8mmであることがさらに好ましい。」
したがって、「嵩密度が0.145~0.185g/cm3」は、上記記載事項の範囲内のものである。
ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1及び2について、請求項2は、訂正前の請求項1を直接的に引用するものであるから、訂正前の請求項2は、訂正事項によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1及び同請求項1を直接的に引用する請求項2は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
よって、訂正事項1~3の訂正は、当該一群の請求項〔1及び2〕に対して請求されたものである。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1及び2〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明について
特許第6486328号の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、本件訂正請求により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
排気ガス処理体と当該排気ガス処理体を収容するケーシングとを含み、
前記排気ガス処理体と排気ガス処理体を収容するケーシングとの間隙において、無機繊維としてアルミナ繊維のみを含有し、坪量が1800~2200g/m2、嵩密度が0.145~0.185g/cm3である湿式成形体からなる排気ガス処理装置用保持材が、充填密度0.20~0.60g/cm3に圧縮された状態で配設されている
ことを特徴とする排気ガス処理装置。
【請求項2】
前記圧縮された状態における湿式成形体の厚さが2.5~8mmである請求項1に記載の排気ガス処理装置。」
2 取消理由の概要
令和2年7月7日付けで通知した取消理由<決定の予告>の概要は以下のとおりである。
理由1(委任省令要件)本件特許は、発明の詳細は説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2(進歩性)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由3(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
甲第2号証 特開2015-71836号公報
3 通知した取消理由についての判断
事案に鑑み、理由3から判断する。
(1)理由3について
本件発明1及び2におけるアルミナ繊維のみを含有する無機繊維は、坪量、嵩密度、充填密度及び圧縮された状態における湿式成形体の厚さにおいて、特許請求の範囲に記載された数値範囲に含まれる全ての発明特定事項を含むものであり、その数値範囲に含まれる発明特定事項全ての組み合わせにおいて、本件発明の課題(本件特許公報の段落【0008】等参照)を解決できなければならない。
ここで、請求項1及び2に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとについて、実質的な対応関係について検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、坪量2000g/m2、嵩密度0.167g/cm3、充填密度が0.4g/cm3、厚さ12mmの保持材(本件特許公報の段落【0029】、【0069】等)が実施例1として記載され、実施例1が比較例1及び2と比較して、坪量が2000g/m2であるとき面圧残存率が高く(本件特許公報の【図3】等参照)、充填密度が0.25乃至0.60g/cm3において面圧が高いこと(本件特許公報の【図2】等参照)が示されているのみであり、それ以外の実施例は記載されておらず、上記課題を解決し得ることを、本件発明1及び2に示された範囲にまで拡張できるとはいえない。
そして、特許権者は、令和2年2月14日の意見書において、数値範囲の限定をおこなった訂正により、「本件請求項1および請求項2に係る発明は、本件明細書の記載に十分対応するものとなり、本件明細書の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、発明の課題とその数値範囲による特定との実質的な関係が明確となり、本件発明の課題解決手段が明確になったものと思料します。」(9ページ21ないし24行)と述べているが、上記実施例以外の発明特定事項については述べておらず、本件発明1及び2の発明特定事項を備えていれば上記課題を解決し得るとする機序について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、理解し得るとする具体的理由を述べていない。
したがって、坪量、嵩密度、充填密度及び圧縮された状態における湿式成形体の厚さについて、所定の数値範囲における組み合わせを発明特定事項とする本件発明1及び2は、上記課題を解決しないものをも含み得るものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとは、必ずしもいえない。
なお、特許権者は、令和2年9月4日の意見書の5(4)において、「しかしながら、上述したように、本件請求項1に係る発明(本件発明1)は、『嵩密度が0.145~0.185g/cm3』という極狭い範囲内にある湿式成形体からなる排気ガス処理装置用保持材を、『充填密度0.20~0.60g/cm3』に圧縮した状態で配設することを規定するものであり、係る点については、嵩密度が0.167g/cm3である湿式成形体からなる排気ガス処理装置用保持材を、充填密度0.25~0.60g/cm3で充填することを開示する本件明細書の実施例1によって、十分にサポートされているものと思料します。」、「そして、本件発明1は、嵩密度が上述した極く狭い範囲内にある湿式成形体からなる排気ガス処理装置用保持材において、『坪量が1800~2200g/m2』であることをさらに規定するものでありますが、上記坪量の下限値1800g/m2を境にして初期面圧および面圧維持率に差異を生じることは、上述した図aおよび図bに示す実施例1と比較例1、比較例2との対比により十分にサポートされており、本点については、今回例示した参考実験例2の結果(坪量が1540g/m2である湿式成形体は面圧維持率を十分に維持できないこと)によっても、確認し得るものであります。また、上記図bに例示する参考実験例1の結果(坪量が2640g/m2である湿式成形体の面圧残存率評価結果)からも明らかなように、坪量の上限値側についてはある程度まで面圧残存効果を奏することは分かっておりますが、本件明細書の実施例1における坪量(2000g/m2)の記載に基づいて、上限値を敢えて2200g/m2に制限しています。」と主張している。
ここで、特許権者の「坪量の下限値1800g/m2を境にして初期面圧および面圧維持率に差異を生じること」についてみると、上記意見書「図b」において、新たに参考実験例2として「坪量1540g/m2、嵩密度0.165g/cm3である湿式成形体」のデータを追加したものが示されている。そして、例えば2500回繰り返し圧縮後における面圧残存率の低い順に坪量をみていくと、1540g/m2、1320g/m2、1350g/m2、2000g/m2、2640g/m2となっていることから坪量と面圧残存率との関係が比例関係にあるといえず、坪量1800g/m2における面圧残存率について推測することが困難といえ、坪量の下限値1800g/m2を境にして初期面圧および面圧維持率に差異を生じることが十分に記載されているとはいえない。
さらに、上記意見書を参酌すると、「図a」について「湿式成形体からなる排気ガス処理装置用保持材の坪量が1800~2200g/m2であることにより、充填密度が0.20~0.60g/cm3に亘って、坪量が上記範囲外にある湿式成形体からなる排気ガス処理装置用保持材を用いた場合に比較して、同一の充填密度であっても初期面圧が高く、排気ガス処理体に対し優れた保持力を発揮し得る排気ガス処理装置を提供できることが分かります。」(4ページ3乃至8行)と述べているが、意見書の(図a)において充填密度が0.20~0.25g/cm3のデータは示されておらず、充填密度が0.20~0.60g/cm3に亘って優れた保持力を発揮し得るといえるか不明である(本件特許公報における【図2】においても同様に、0.20~0.25g/cm3のデータは示されていない。)。
以上により、上記意見書の記載を参酌しても、坪量の下限値として、どの程度の値を境として面圧残存率に差異を生じるのか十分に示されているとはいえないことから、「坪量の下限値1800g/m2を境にして初期面圧および面圧維持率に差異を生じる」ことがサポートされているといえない。
また、充填密度が0.20~0.25g/cm3のデータは示されておらず、充填密度が0.20~0.60g/cm3に亘って、優れた保持力を発揮し得ることについてもサポートされているといえない。
したがって、本件発明1及び2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に記載したものではない。
(2)理由1について
「排気ガス処理装置用保持材」について、発明の詳細な説明(【0069】における実施例1)において「厚さ12mm、坪量2000g/m2、嵩密度0.167g/cm3)」である構成を備えた一実施例が示され、また、坪量が「2000g/m2」である場合についてのみ比較例との比較をおこなっているが(【0072】ないし【0075】)、それ以外による数値を用いた実施例等は記載されていない。
そして、本件発明1及び2の発明特定事項において「坪量が1800~2200g/m2」、「嵩密度が0.145~0.185g/cm3」、「充填密度が0.2~0.6g/cm3」及び「圧縮された状態における湿式成形体の厚さが2.5~8mm」と数値範囲によって規定されているが、実施例1と比較例との比較結果のみに基づいて、なぜ当該数値範囲を設定できるのか、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を参酌しても不明である。
なお、特許権者は、上記意見書の5(3)において、「そして、本件請求項1に係る発明(本件発明1)は、『嵩密度が0.145~0.185g/cm3』という極狭い範囲内にある湿式成形体からなる排気ガス処理装置用保持材を、『充填密度0.20~0.60g/cm3』に圧縮した状態で配設することを規定するものであり、係る点については、嵩密度が0.167g/cm3である湿式成形体からなる排気ガス処理装置用保持材を、充填密度0.25~0.60g/cm3で充填することを開示する本件明細書の実施例1によって、その根拠が十分に示されているものと思料します。」、「そして、本件発明1は、嵩密度が上述した極く狭い範囲内にある湿式成形体からなる排気ガス処理装置用保持材において、『坪量が1800~2200g/m2』であることをさらに規定するものでありますが、上記坪量の下限値1800g/m2を境にして初期面圧および面圧維持率に差異を生じることは、上述した図aおよび図bに示す実施例1と比較例1、比較例2との対比により十分に示されており、本点については、今回例示した参考実験例2の結果(坪量が1540g/m2である湿式成形体は面圧維持率を十分に維持できないこと)によっても、確認し得るものであります。
また、上記図bに例示する参考実験例1の結果(坪量が2640g/m2である湿式成形体の面圧残存率評価結果)からも明らかなように、坪量の上限値側についてはある程度まで面圧残存効果を奏することは分かっておりますが、本件明細書の実施例1における坪量(2000g/m2)の記載に基づいて、上限値を敢えて2200g/m2に制限しています。」と主張している。
この点について、上記(1)で述べたとおり、坪量の下限値として、どの程度の値を境として面圧残存率に差異を生じるのか十分に示されているとはいえない。
したがって、上記意見書の記載を参酌しても、当業者が本件特許明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、発明の課題とその数値範囲による特定との実質的な関係を理解することができず、その発明の課題の解決手段が理解できないものといえ、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(3)理由2について
(3-1)本件発明1について
ア 甲第2号証の記載
甲第2号証には、「シート状部材の裁断方法、マット及び排ガス浄化装置」に関し、図面(特に【図8】参照。)とともに、次の記載がある。(なお、下線は当審で付した。)
(ア)「【0004】
このような排ガス処理体用の保持シール材は、シート形状の無機質繊維集合体を排ガス処理体の大きさ等に応じた形状に加工することにより製造される。」
(イ)「【0056】
シート状の無機質繊維集合体は、主に無機繊維から構成されており、従来公知のものを好適に用いることができる。
【0057】
無機繊維は、特に限定されないが、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、ムライト繊維、生体溶解性繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種から構成されていることが望ましく、アルミナ繊維及び生体溶解性繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより望ましい。
無機繊維がアルミナ繊維である場合には、耐熱性に優れているので、高温に晒された場合であっても、変質等が発生することがないため、排ガス処理体とケーシングとの間に配設される保持シール材として特に好適である。また、無機繊維が生体溶解性繊維である場合には、保持シール材を用いて排ガス浄化装置を作製する際に、飛散した無機繊維を吸入等しても、生体内で溶解するため、作業員の健康に害を及ぼすことがない。
【0058】
アルミナ繊維には、アルミナ以外に、例えば、カルシア、マグネシア、ジルコニア等の添加剤が含まれていてもよい。アルミナシリカ繊維の組成比としては、重量比でAl2O3:SiO2=60:40~80:20であることが好ましく、Al2O3:SiO2=70:30~74:26であることがより好ましい。
また、アルミナ繊維のムライト結晶化率は繊維100重量部に対して5重量部以下が好ましいが、さらには3重量部以下が好ましく、1重量部以下が最も好ましい。ムライト結晶化率は蛍光X線装置にて測定でき、5重量部以下であると繊維は脆くなく、弾力性を有するため、保持力及び緩衝性に優れた無機質繊維集合体となる。
【0059】
無機繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、望ましくは0.05~150mm、より望ましくは0.35~100mmである。
無機繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、マットの強度及び柔軟性の観点から、望ましくは1~20μm、より望ましくは1~10μmである。無機質繊維集合体は湿式法で作られることが望ましく、その際の望ましい平均繊維長は0.05~5mmであり、さらには0.5~3mmが望ましい。湿式法により、容易に広範囲の坪量の無機質繊維集合体を製造することが可能であり、特に坪量は限定されないが、望ましい坪量は2000g/m2~6000g/m2であり、より望ましくは3000~5000g/m2である。」
(ウ)「【0065】
無機質繊維集合体の厚さは、15mm以上であることが望ましく、20mm以上であることがより望ましく、25mm以上であることがさらに望ましい。また、50mm以下であることが望ましく、40mm以下であることがより望ましい。厚さが上記範囲内である無機質繊維集合体は、本発明の裁断方法によって、無機質繊維集合体にダメージを与えずに裁断することができるため、高い面圧を有するマットとなる。」
(エ)「【0068】
本発明の排ガス浄化装置は、ケーシングと、上記ケーシングに収容された排ガス処理体と、上記排ガス処理体の周囲に巻き付けられ、上記排ガス処理体及び上記ケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置であって、上記保持シール材は、本発明のシート状部材の裁断方法により裁断された平面視略矩形形状のマットであることを特徴とする。
図8は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
図8に示すように、本発明の排ガス浄化装置300は、ケーシング310と、ケーシング310に収容された排ガス処理体320と、排ガス処理体320及びケーシング310の間に配設されたマット200とを備えている。
排ガス処理体320は、多数のセル325がセル壁326を隔てて長手方向に併設された柱状のものであり、セル325のいずれか一方の端部は、封止材328によって封止されている。なお、ケーシング310の端部には、必要に応じて、内燃機関から排出された排ガスを導入する導入管と、排ガス浄化装置を通過した排ガスが外部に排出される排出管とが接続されることとなる。」
(オ)「【0090】
(面圧の測定)
万能試験機で圧縮復元サイクル試験を行うため、実施例1~2及び比較例1~2に係るマットを試験機にセッティングし、室温状態で、1mm/minの速度でマットの嵩密度(GBD)が所定の値(0.2g/cm3、0.25g/cm3、0.3g/cm3)となるまで圧縮し、このときの荷重を各GBDにおける面圧として測定した。
なお、評価サンプルの嵩密度(GBD:Gap Bulk Density)は、「嵩密度=評価サンプルの重量/(評価サンプルの面積×評価サンプルの厚さ)」で求められる値である。」
これら記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第2号証には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
[引用発明]
「排ガス処理体320と排ガス処理体を収容するケーシング310と、
排ガス処理体320及びケーシング310の間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置であって、保持シール材は無機質繊維集合体を加工することにより製造されるものであり、アルミナ繊維からなり、湿式法で作られ、坪量が2000g/m2~6000g/m2、無機質繊維集合体の厚さは15mm以上、充填密度が0.3g/cm3まで圧縮された状態である、排ガス浄化装置。」
イ 対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、
引用発明の「排ガス処理体320」は、その機能、作用及び技術的意義からみて、本件発明1の「排ガス処理体」に相当し、以下同様に、「ケーシング310」は「排ガス処理装置用保持材」に、「アルミナ繊維」からなる「無機質繊維集合体」は「無機繊維としてアルミナ繊維のみ」に、「湿式法で作られ」は「湿式成形体からなる」に、「排ガス浄化装置」は「排ガス処理装置」にそれぞれ相当する。
そして引用発明の「充填密度が0.3g/cm3」と、本件発明1の「充填密度0.20~0.60g/cm3」とは「充填密度が所定の密度」という限りで一致する。
そうすると、本件発明1と引用発明には次の一致点、相違点がある。
[一致点]
「排気ガス処理体と当該排気ガス処理体を収容するケーシングとを含み、
前記排気ガス処理体と排気ガス処理体を収容するケーシングとの間隙において、無機繊維としてアルミナ繊維のみを含有し、湿式成形体からなる排気ガス処理装置用保持材が、充填密度が所定範囲の密度に圧縮された状態で配置されている
排気ガス処理装置。」
[相違点1]
本件発明1においては、排気ガス処理装置用保持材が「坪量が1800~2200g/m2、嵩密度が0.145~0.185g/cm3」であるのに対して、引用発明においては、保持シール材が「坪量が2000g/m2~6000g/m2」であり、嵩密度が明確に示されていない点。
[相違点2]
充填密度に関して、本件発明が「充填密度0.20~0.60g/cm3」であるのに対して、引用発明は「充填密度が0.3g/cm3」である点。
ウ 判断
上記[相違点1]について検討する。
引用発明においては、保持シール材について、坪量2000g/m2~6000g/m2、無機繊維集合体の厚さが15mm以上であると特定している。
そして、坪量及び厚さを当該数値範囲内においてどのように設定するかは、使用条件等に応じて当業者が適宜決定し得る事項といえる。例えば、坪量2200g/m2、厚さ15mmとすれば、嵩密度は、0.147g/cm3となり、本件発明1の数値範囲を満たす。そうすると、引用発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たものである。
これに対して、特許権者は上記意見書において「甲第2号証は、その段落【0059】において無機質繊維集合体の坪量として2000g/m2~6000g/m2という広範な範囲を形式的に規定するものであって、具体的には、その実施例において、坪量が3000g/m2(製造例1)及び4500g/m2(製造例2)である無機質繊維集合体を開示するものに過ぎず」、「湿式成形体の『坪量が1800~2200g/m2』であるという技術的事項を実質的に開示するものでもありません。」、「さらに、甲第2号証は、無機質繊維集合体の嵩密度範囲について明示するものでなく、その実施例において、嵩密度が1.82g/cm3・・・または1.81g/cm3・・・である無機質繊維集合体を開示するものに過ぎず、「湿式成形体からなる排気ガス処理装置用保持材の『嵩密度が0.145~0.185g/cm3』という技術事項を何等開示するものでもありません。」と主張している。
しかし、引用発明に示されている坪量は実施例に限定されるものではなく(甲第2号証段落【0083】)、例えば引用発明に含まれる、坪量2200g/m2、厚さ15mmとすることにより嵩密度は0.147g/cm3となり、本発明の数値範囲を満たすこととなる。
そうすると、引用発明において、相違点1に係る本件発明1のような発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものである。
上記[相違点2]について検討する。
引用発明は「充填密度が0.3g/cm3」であり、本件発明1の「充填密度0.20~0.60g/cm3」に含まれることから、実質的に相違点とはいえない。
そうすると、引用発明において、相違点2に係る本件発明1のような発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものである。
(3-2)本件発明2について
ア 引用発明は、上記(3-1)アに示したとおりである。
イ 対比
本件発明2と引用発明とを対比すると、本件発明1との対比における一致点で一致し、相違点1、2の他に次の点で相違する。
[相違点3]
本件発明2においては、「圧縮された状態における湿式成形体の厚さが2.5~8mm」であるのに対して、引用発明においては、保持シール材が圧縮された状態における厚さが示されていない点。
ウ 判断
上記(3-1)ウにおいて示したように、引用発明の保持シール材について、厚さ15mm、嵩密度0.147g/cm3及び充填密度0.3g/cm3とすると、圧縮厚さは7.35mm(=0.147g/cm3×1.5cm÷0.3g/cm3)となり、本件発明2における「厚さが2.5~8mm」を満たすといえる。
したがって、上記相違点3は実質的な相違点とはいえない。
そうすると、相違点1及び2は、上記(3-1)ウで検討したとおりであるから、引用発明から本件発明2の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
第4 むすび
以上のとおり、本件発明1及び2は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700748