特許異議申立
2019-700725
空気入りタイヤ
- 審判番号
- 2019-700725
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-120367外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年09月12日
- 審決日
- 2020年04月09日
- 公報発行日
- 2020年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ブリヂストン
- 【権利者代理人】中島 淳
- 【権利者代理人】加藤 和詳
- 【権利者代理人】福田 浩志
- 【異議申立人】佐藤 雅彦
- 分類
- P1652.537-YAA(B60C) / P1652.536-YAA(B60C) / P1652.121-YAA(B60C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6482395号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6482395号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4及び5〕について訂正することを認める。
特許第6482395号の請求項1、2、4及び5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6482395号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年6月15日の出願であって、平成31年2月22日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和1年9月12日に特許異議申立人 佐藤 雅彦(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1、2、4及び5)がされ、同年11月21日付けで取消理由が通知され、令和2年1月24日に特許権者 株式会社ブリヂストン(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年2月3日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、それに対して特許異議申立人から応答がされなかったものである。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和2年1月24日にされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「路面に接地するトレッドと、前記トレッドに設けられ、陸部を区画する複数の溝と、を備え、前記溝の前記トレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、前記溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の踏面側の端部を通り前記踏面に垂直な第1仮想線と、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ前記第1仮想線と直交する第2仮想線と、前記第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をA、前記溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り前記踏面に垂直な第3仮想線と、前記溝底の最深部を通り、前記踏面と平行な第4仮想線と、前記第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をB、としたときに、A<Bに設定されており、前記溝の互いに対向する一方側の溝側壁と他方側の溝側壁とを比較したときに、何れか一方の溝側壁における比率B/Aが、何れか他方の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されており、複数の前記溝で区画される第1の陸部、及び前記第1の陸部よりも剛性の高い第2の陸部を備え、前記第1の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aが、前記第2の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている、空気入りタイヤ。」とあるのを、
「路面に接地するトレッドと、前記トレッドに設けられ、陸部を区画する複数のラグ溝と、を備え、前記ラグ溝の前記トレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の踏面側の端部を通り前記踏面に垂直な第1仮想線と、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ前記第1仮想線と直交する第2仮想線と、前記第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をA、前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り前記踏面に垂直な第3仮想線と、前記溝底の最深部を通り、前記踏面と平行な第4仮想線と、前記第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をB、としたときに、A<Bに設定されており、前記ラグ溝の互いに対向する一方側の溝側壁と他方側の溝側壁とを比較したときに、何れか一方の溝側壁における比率B/Aが、何れか他方の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されており、複数の前記ラグ溝で区画される第1の陸部、及び前記第1の陸部よりも剛性の高い第2の陸部を備え、前記第1の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aが、前記第2の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている、空気入りタイヤ。」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4及び5についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に、
「前記溝の溝幅方向に沿って計測した第2溝側壁の幅寸法が、前記溝の溝幅に対して20~50%の範囲内に設定されている、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。」とあるのを、
「前記ラグ溝の溝幅方向に沿って計測した第2溝側壁の幅寸法が、前記溝の溝幅に対して20~50%の範囲内に設定されている、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。」に訂正する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の【0006】に、
「請求項1に記載の空気入りタイヤは、路面に接地するトレッドと、前記トレッドに設けられ、陸部を区画する複数の溝と、を備え、前記溝の前記トレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、前記溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の踏面側の端部を通り前記踏面に垂直な第1仮想線と、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ前記第1仮想線と直交する第2仮想線と、前記第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をA、前記溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り前記踏面に垂直な第3仮想線と、前記溝底の最深部を通り、前記踏面と平行な第4仮想線と、前記第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をB、としたときに、A<Bに設定されており、前記溝の互いに対向する一方側の溝側壁と他方側の溝側壁とを比較したときに、何れか一方の溝側壁における比率B/Aが、何れか他方の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されており、複数の前記溝で区画される第1の陸部、及び前記第1の陸部よりも剛性の高い第2の陸部を備え、前記第1の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aが、前記第2の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている。」とあるのを、
「請求項1に記載の空気入りタイヤは、路面に接地するトレッドと、前記トレッドに設けられ、陸部を区画する複数のラグ溝と、を備え、前記ラグ溝の前記トレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の踏面側の端部を通り前記踏面に垂直な第1仮想線と、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ前記第1仮想線と直交する第2仮想線と、前記第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をA、前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り前記踏面に垂直な第3仮想線と、前記溝底の最深部を通り、前記踏面と平行な第4仮想線と、前記第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をB、としたときに、A<Bに設定されており、前記ラグ溝の互いに対向する一方側の溝側壁と他方側の溝側壁とを比較したときに、何れか一方の溝側壁における比率B/Aが、何れか他方の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されており、複数の前記ラグ溝で区画される第1の陸部、及び前記第1の陸部よりも剛性の高い第2の陸部を備え、前記第1の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aが、前記第2の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている。」に訂正する。
(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の【0007】に、
「請求項1に記載の空気入りタイヤでは、トレッドに複数の溝が形成されているため、基本的な排水性能を得ることができる。」とあるのを、
「請求項1に記載の空気入りタイヤでは、トレッドに複数のラグ溝が形成されているため、基本的な排水性能を得ることができる。」に訂正する。
(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の【0007】に、
「また、溝のトレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、溝の長手方向に直交する断面で見たときの、第1溝側壁の踏面側の端部を通り踏面に垂直な第1仮想線と、第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ第1仮想線と直交する第2仮想線と、第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をAとし、溝の長手方向に直交する断面で見たときの、第1溝側壁の溝底側の端部を通り踏面に垂直な第3仮想線と、溝底の最深部を通り、踏面と平行な第4仮想線と、第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をBとしたときに、面積Aと面積Bとの関係をA<Bとすることで、溝のボリュームを確保しつつ、陸部の剛性を確保するための陸部の溝底側の剛性を高めることができ、排水性能と陸部の剛性との高度な両立が可能となる。」とあるのを、
「また、ラグ溝のトレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、第1溝側壁の踏面側の端部を通り踏面に垂直な第1仮想線と、第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ第1仮想線と直交する第2仮想線と、第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をAとし、ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、第1溝側壁の溝底側の端部を通り踏面に垂直な第3仮想線と、溝底の最深部を通り、踏面と平行な第4仮想線と、第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をBとしたときに、面積Aと面積Bとの関係をA<Bとすることで、ラグ溝のボリュームを確保しつつ、陸部の剛性を確保するための陸部の溝底側の剛性を高めることができ、排水性能と陸部の剛性との高度な両立が可能となる。」に訂正する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の【0007】に、
「ここで、請求項1に記載の空気入りタイヤによれば、溝の互いに対向する一方側の溝側壁と他方側の溝側壁とを比較したときに、何れか一方の溝側壁における比率B/Aが、何れか他方の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されているため、比率B/Aが大きく設定された溝側壁を有する陸部の方が、相対的に比率B/Aが小さく設定された溝側壁を有する陸部よりも剛性の向上効果が高くなる。」とあるのを、
「ここで、請求項1に記載の空気入りタイヤによれば、ラグ溝の互いに対向する一方側の溝側壁と他方側の溝側壁とを比較したときに、何れか一方の溝側壁における比率B/Aが、何れか他方の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されているため、比率B/Aが大きく設定された溝側壁を有する陸部の方が、相対的に比率B/Aが小さく設定された溝側壁を有する陸部よりも剛性の向上効果が高くなる。」に訂正する。
(7)訂正事項7
願書に添付した明細書の【0017】に、
「請求項4に記載の発明は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の気入りタイヤにおいて、面積Bと面積Aとの比率B/Aが120%以上に設定されている。」とあるのを、
「請求項4に記載の発明は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の空気入りタイヤにおいて、面積Bと面積Aとの比率B/Aが120%以上に設定されている。」に訂正する。
(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の【0018】に、
「請求項5に記載の発明は、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記溝の溝幅方向に沿って計測した第2溝側壁の幅寸法が、前記溝の溝幅に対して20~50%の範囲内に設定されている。」とあるのを、
「請求項5に記載の発明は、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記ラグ溝の溝幅方向に沿って計測した第2溝側壁の幅寸法が、前記ラグ溝の溝幅に対して20~50%の範囲内に設定されている。」に訂正する。
(9)訂正事項9
願書に添付した明細書の【0019】に、
「請求項5に記載の空気入りタイヤによれば、溝の幅方向に沿って計測した第2溝側壁の幅寸法を溝の溝幅に対して20~50%の範囲内に設定することで、陸部の剛性を高めること、及び溝のボリュームを確保することを、高度に両立できる。」とあるのを、
「請求項5に記載の空気入りタイヤによれば、ラグ溝の幅方向に沿って計測した第2溝側壁の幅寸法をラグ溝の溝幅に対して20~50%の範囲内に設定することで、陸部の剛性を高めること、及びラグ溝のボリュームを確保することを、高度に両立できる。」に訂正する。
(10)訂正事項10
願書に添付した明細書の【0019】に、
「第2溝側壁の幅寸法が溝の溝幅に対して20%未満になると、陸部の剛性を十分に高めることが困難となる。一方、第2溝側壁の幅寸法が溝の溝幅に対して50%を超えると、溝のボリュームを十分に確保することが困難となる。」とあるのを、
「第2溝側壁の幅寸法がラグ溝の溝幅に対して20%未満になると、陸部の剛性を十分に高めることが困難となる。一方、第2溝側壁の幅寸法がラグ溝の溝幅に対して50%を超えると、ラグ溝のボリュームを十分に確保することが困難となる。」に訂正する。
(11)訂正事項11
願書に添付した明細書の【0041】に、
「なお、ラグ溝16は、1/3点P2からタイヤ赤道面CLの端部にかけては、溝深さが一定である。」とあるのを、
「なお、ラグ溝16は、1/3点P2からタイヤ赤道面CL側の端部にかけては、溝深さが一定である。」に訂正する。
(12)訂正事項12
願書に添付した明細書の【0078】に、
「本実施形態の空気入りタイヤ10もA1<B1、A2<B2設定されているので、第1の実施形態と同様に、ラグ溝16の排水性能に必要な溝のボリュームを確保しつつ、各ブロックのブロック剛性を高めることができる。」とあるのを、
「本実施形態の空気入りタイヤ10もA1<B1、A2<B2に設定されているので、第1の実施形態と同様に、ラグ溝16の排水性能に必要な溝のボリュームを確保しつつ、各ブロックのブロック剛性を高めることができる。」に訂正する。
(13)訂正事項13
願書に添付した明細書の【0093】に、
「評価は、従来例にかかるタイヤのラップタイムを100とした指数表示とし、数値が小さいほどラップタイムが短く、ドライ性能に優れていることを示す。」とあるのを、
「評価は、従来例にかかるタイヤのラップタイムを100とした指数表示とし、数値が大きいほどラップタイムが短く、ドライ性能に優れていることを示す。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
請求項1、2、4及び5に係る訂正事項1は、訂正前の請求項1の「溝」を「ラグ溝」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
請求項5に係る訂正事項2は、訂正前の請求項5の「溝」を「ラグ溝」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3ないし6について
訂正事項3ないし6は、訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3ないし6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項3ないし6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項7について
訂正前の明細書の【0007】に記載された「気入りタイヤ」は「空気入りタイヤ」の誤記であり、訂正事項7はその誤記の訂正を目的とするものである。
また、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項8ないし10について
訂正事項8ないし10は、訂正事項2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項8ないし10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項8ないし10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)訂正事項11について
訂正前の明細書の【0041】に記載された「タイヤ赤道面CL」は「タイヤ赤道面CL側」の誤記であり、訂正事項11はその誤記の訂正を目的とするものである。
また、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)訂正事項12について
訂正前の明細書の【0078】に記載された「A2<B2設定されているので」は「A2<B2に設定されているので」の誤記であり、訂正事項12はその誤記の訂正を目的とするものである。
また、訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項12は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(8)訂正事項13について
ラップタイムを指数値で表示し、指数値が大きいほどラップタイムが短いことを表すことは本件特許の出願時の技術常識であるから(令和2年1月24日に特許権者が提出した意見書に添付された乙第1号証(特許第6594051号公報)、乙第2号証(特許第4367965号)、乙第3号証(特許第5023644号公報)、乙第4号証(特許第6306862号公報)及び乙第5号証(特許第6537184号公報)参照。)、訂正前の明細書の【0093】に記載された「数値が小さいほどラップタイムが短く、」は「数値が大きいほどラップタイムが短く、」の誤記であることは明らかであり、訂正事項13はその誤記の訂正を目的とするものである。
また、訂正事項13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項13は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 訂正の適否についてのむすび
以上のとおり、訂正事項1ないし13は、それぞれ、特許法120条の5第2項ただし書第1、2又は3号に掲げる事項を目的とするものである。
さらに、訂正事項1ないし13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4及び5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
路面に接地するトレッドと、
前記トレッドに設けられ、陸部を区画する複数のラグ溝と、
を備え、
前記ラグ溝の前記トレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、
前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の踏面側の端部を通り前記踏面に垂直な第1仮想線と、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ前記第1仮想線と直交する第2仮想線と、前記第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をA、前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り前記踏面に垂直な第3仮想線と、前記溝底の最深部を通り、前記踏面と平行な第4仮想線と、前記第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をB、としたときに、A<Bに設定されており、
前記ラグ溝の互いに対向する一方側の溝側壁と他方側の溝側壁とを比較したときに、何れか一方の溝側壁における比率B/Aが、何れか他方の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されており、
複数の前記ラグ溝で区画される第1の陸部、及び前記第1の陸部よりも剛性の高い第2の陸部を備え、前記第1の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aが、前記第2の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記陸部の蹴り出し側の前記溝側壁における比率B/Aが、前記陸部の踏み込み側の前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
面積Bと面積Aとの比率B/Aが120%以上に設定されている、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ラグ溝の溝幅方向に沿って計測した第2溝側壁の幅寸法が、前記溝の溝幅に対して20~50%の範囲内に設定されている、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の空気入りタイヤ。」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由及び令和1年11月21日付けで通知された取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要
令和1年9月12日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3(明確性要件)
本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(4)証拠方法
甲第1号証:特開昭60-197409号公報
甲第2号証:特開2007-1434号公報
(以下、順に「甲1」のようにいう。)
2 令和1年11月21日付けで通知された取消理由の概要
令和1年11月21日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、下記ア及びイの点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、取消理由1は申立理由2とおおむね同旨である。
ア サポート要件違反1
発明の詳細な説明において、実際に本件特許発明1、2、4及び5の発明の課題である「ウエット性能とドライ路面走行時の操縦安定性能とを高度に両立させることができる」ことを確認している実施例はない。
イ サポート要件違反2
発明の詳細な説明に実際に記載されているのは、空気入りタイヤのラグ溝において「比率B/A」が特定の関係を満たすものだけである。
(2)取消理由2(明確性要件)
本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、下記ア及びイの点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、申立理由3として明確性要件違反の理由が2点指摘されているが、下記イはそのうちの1点とおおむね同旨である。
ア 明確性要件違反1
発明の詳細な説明における具体的な実施例のタイヤトレッドパターンとして示されている図1のパターンにおいて、ラグ溝16の側壁となるサイプを有する陸部の形状は同じであり、剛性に差はないことになるので、請求項1の「複数の前記ラグ溝で区画される第1の陸部、及び前記第1の陸部よりも剛性の高い第2の陸部を備え、前記第1の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aが、前記第2の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている」という記載の意味は明確でない。
イ 明確性要件違反2
請求項2に「前記陸部の蹴り出し側の前記溝側壁における比率B/Aが、前記陸部の踏み込み側の前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている」と記載されているが、本件特許発明2における「陸部を区画する複数の溝」は、「周方向溝」を含んでいるので、上記溝が「周方向溝」の場合に、「蹴り出し側の前記溝側壁」及び「踏み込み側の前記溝側壁」の意図するものが不明である。
(3)取消理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・発明の詳細な説明の【0094】の【表1】の「B/A」が、請求項1に記載された「一方側の溝側壁」と「他方側の溝側壁」のうちのどちらの「溝側壁」の「B/A」なのか不明である。
第5 当審の判断
1 取消理由について
(1)取消理由1(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
イ 発明の詳細な説明の記載及び図面
発明の詳細な説明には、おおむね次の記載がある。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、排水性能を得るために、トレッドに溝を形成した空気入りタイヤが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008-520496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来より、トレッドのネガティブ率を大きくとることで、ウエット路面走行時のハイドロプレーニング性能を向上させる技術が知られている。また、トレッドの陸部の剛性を大きくすることで、ドライ路面走行時の操縦安定性能を向上させる技術が知られている。
乗用車用等のタイヤでは、ウエット路面走行時のハイドロプレーニング性能とドライ路面走行時の操縦安定性能との高度な両立が求められている。陸部を小さくしてトレッドパターンのネガティブ率を大きくとることでウエット路面走行時のハイドロプレーニング性能を向上させることができ、反対に陸部を大きくして陸部の剛性を大きくすることでドライ路面走行時の操縦安定性能を向上させることができる。
他性能との兼ね合いから、トレッドパターンのネガティブ率を小さくすることで陸部の剛性を大きくすることが出来ない場合、溝側壁を傾斜させて陸部の剛性を大きくする手法があるが、溝のボリュームが減って排水性能が低下するためハイドロプレーニング性能が低下する。また、溝のボリュームが減ることは、溝が細くなって相対的にゴム量増加することになるので、転がり抵抗の悪化にも繋がる。
一方、溝側壁を踏面に対して垂直に近づけて溝の容積を増大させると、溝で区画される陸部の剛性が低下する。
このため、ウエット性能とドライ路面走行時の操縦安定性能との高度な両立が困難であった。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決しようとするものであり、ウエット性能とドライ路面走行時の操縦安定性能との高度な両立を可能とする空気入りタイヤを提供することを目的とする。」
・「【0006】
請求項1に記載の空気入りタイヤは、路面に接地するトレッドと、前記トレッドに設けられ、陸部を区画する複数のラグ溝と、を備え、前記ラグ溝の前記トレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の踏面側の端部を通り前記踏面に垂直な第1仮想線と、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ前記第1仮想線と直交する第2仮想線と、前記第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をA、前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り前記踏面に垂直な第3仮想線と、前記溝底の最深部を通り、前記踏面と平行な第4仮想線と、前記第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をB、としたときに、A<Bに設定されており、前記ラグ溝の互いに対向する一方側の溝側壁と他方側の溝側壁とを比較したときに、何れか一方の溝側壁における比率B/Aが、何れか他方の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されており、複数の前記ラグ溝で区画される第1の陸部、及び前記第1の陸部よりも剛性の高い第2の陸部を備え、前記第1の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aが、前記第2の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている。
【0007】
請求項1に記載の空気入りタイヤでは、トレッドに複数のラグ溝が形成されているため、基本的な排水性能を得ることができる。
また、ラグ溝のトレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、第1溝側壁の踏面側の端部を通り踏面に垂直な第1仮想線と、第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ第1仮想線と直交する第2仮想線と、第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をAとし、ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、第1溝側壁の溝底側の端部を通り踏面に垂直な第3仮想線と、溝底の最深部を通り、踏面と平行な第4仮想線と、第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をBとしたときに、面積Aと面積Bとの関係をA<Bとすることで、ラグ溝のボリュームを確保しつつ、陸部の剛性を確保するための陸部の溝底側の剛性を高めることができ、排水性能と陸部の剛性との高度な両立が可能となる。」
・「【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の空気入りタイヤにおいて、前記陸部の蹴り出し側の前記溝側壁における比率B/Aが、前記陸部の踏み込み側の前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている。
【0009】
請求項2に記載空気入りタイヤによれば、陸部の蹴り出し側の溝側壁における比率B/Aを、陸部の踏み込み側の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定することで、陸部の蹴り出し側の剛性を、踏み込み側の剛性よりも高くすることができ、タイヤ回転により陸部が接地した際の陸部の変形を抑えることができる。」
・「【0017】
・・・(略)・・・
請求項4に記載の発明は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の空気入りタイヤにおいて、面積Bと面積Aとの比率B/Aが120%以上に設定されている。
面積Bと面積Aとの比率B/Aを120%以上に設定することで、溝のボリュームを確保しつつ、陸部の溝底側の剛性をより高めることができる。」
・「【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記ラグ溝の溝幅方向に沿って計測した第2溝側壁の幅寸法が、前記ラグ溝の溝幅に対して20~50%の範囲内に設定されている。
【0019】
請求項5に記載の空気入りタイヤによれば、ラグ溝の幅方向に沿って計測した第2溝側壁の幅寸法をラグ溝の溝幅に対して20~50%の範囲内に設定することで、陸部の剛性を高めること、及びラグ溝のボリュームを確保することを、高度に両立できる。
第2溝側壁の幅寸法がラグ溝の溝幅に対して20%未満になると、陸部の剛性を十分に高めることが困難となる。一方、第2溝側壁の幅寸法がラグ溝の溝幅に対して50%を超えると、ラグ溝のボリュームを十分に確保することが困難となる。」
・「【0026】
複数の前記溝は、タイヤ赤道面上に配置されてタイヤ周方向に沿って延びる周方向溝を含むようにし、前記ラグ溝は、前記周方向溝から前記トレッドの接地端まで延ばすことができる。」
・「【発明の効果】
【0032】
本発明の空気入りタイヤによれば、ウエット性能とドライ路面走行時の操縦安定性能とを高度に両立させることができる。」
・「【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッドを示す平面図である。
【図2】リムに装着して路面に接地させた空気入りタイヤの片側を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。
【図3】リムに装着した無負荷状態の空気入りタイヤの片側を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。
【図4】ラグ溝を示す長手方向に対して直交する方向に切断した断面図である。」
・「【発明を実施するための形態】
【0034】
空気入りタイヤをJATMA YEAR BOOK(日本自動車タイヤ協会規格)に規定されている標準リムに装着し、JATMA YEAR BOOKでの適用サイズ・プライレーティングにおける最大負荷能力(内圧-負荷能力対応表の太字荷重)に対応する空気圧(最大空気圧)の100%の内圧を充填し、最大負荷能力を負荷したときの、トレッドの踏面の路面に接地した部分(接地形状)のタイヤ幅方向の最外位置をいう。なお、使用地又は製造地において、TRA規格、ETRTO規格が適用される場合は各々の規格に従う。
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態にかかる空気入りタイヤ10を図面にしたがって説明する。なお、本実施形態の空気入りタイヤ10は乗用車用であり、内部構造については、従来の空気入りタイヤと同様であるため説明を省略する。また、以後図面において、矢印A方向はタイヤ回転方向(踏み込み側)、矢印B方向はタイヤ回転方向とは反対方向(蹴り出し側)、矢印W方向はタイヤ幅方向を示す。
【0035】
図1に示すように、空気入りタイヤ10のトレッド12には、タイヤ赤道面CL上に、タイヤ周方向に沿って延びるセンター周方向溝14と、センター周方向溝14から接地端12Eに向けて延びる複数本のラグ溝16とが形成されている。さらに、トレッド12には、センター周方向溝14のタイヤ幅方向両側に、タイヤ周方向に隣接する一方のラグ溝16と他方のラグ溝16とを連結するショルダー側周方向溝20が形成されている。これらセンター周方向溝14、ラグ溝16、及びショルダー側周方向溝20がトレッド12における主溝である。」
・「【0045】
(ラグ溝の長手方向に対して直角な断面形状)
図4に示すように、本実施形態のラグ溝16は、溝幅(W0)中心線GCLを境にしてタイヤ回転方向側(矢印A方向側)とタイヤ回転方向側とは反対方向側(矢印B方向側)とで非対称形状となっている。
【0046】
図4に示すように、ラグ溝16は、各ブロックの踏み込み側の溝側壁16Fにおいて、ラグ溝16の溝深さDの1/2の深さ位置P4を境にして踏面12A側が踏み込み側第1傾斜部16Fa(本発明の第1溝側壁)、溝底側が踏み込み側第2傾斜部16Fb(本発明の第2溝側壁)とされている。一方、溝幅中心線GCLを境にして蹴り出し側の溝側壁16Kにおいて、ラグ溝16の溝深さDの1/2の深さ位置P5を境にして踏面12A側が蹴り出し側第1傾斜部16Ka(本発明の第1溝側壁)、溝底側が蹴り出し側第2傾斜部16Kb(本発明の第2溝側壁)とされている。
【0047】
このラグ溝16において、踏み込み側第1傾斜部16Faの溝幅方向に沿って計測した幅寸法はW1、踏み込み側第2傾斜部16Fbの溝幅方向に沿って計測した幅寸法はW2、蹴り出し側第1傾斜部16Kaの溝幅方向に沿って計測した幅寸法はW3、蹴り出し側第2傾斜部16Kbの溝幅方向に沿って計測した幅寸法はW4とする。
ここで、踏み込み側第2傾斜部16Fbの幅寸法W2、及び蹴り出し側第2傾斜部16Kbの幅寸法W4は、ラグ溝16の溝幅W0の20~50%の範囲内に設定することが好ましい。
なお、ラグ溝16において、最深部分を溝底16Bと呼び、ラグ溝16を長手方向に対して直交する断面で見たときに、溝底16Bは、例えば、図4に示すように溝幅方向に寸法を有する場合と、例えば、図6に示すように溝幅方向に寸法を有していない場合がある。
【0048】
ここで、踏み込み側第1傾斜部16Faの踏面12側の端部を通り、踏面12Aに対して垂直な仮想線をFL3(本発明の第1仮想線)、踏み込み側第2傾斜部16Fbの踏面12側の端部(=溝深さDの1/2の深さ位置P4。踏み込み側第1傾斜部16Faの溝底側の端部。)を通り、踏面12Aに対して垂直な仮想線をFL4(本発明の第3仮想線)、踏み込み側第2傾斜部16Fbの踏面12側の端部(=溝深さDの1/2の深さ位置P4)を通り、仮想線FL3と直交して溝幅方向に沿って延びる仮想線をFL5(本発明の第2仮想線)、ラグ溝16の最深部(ここでは、溝幅中心線GCLと溝底16Bとの交点P6)を通り、踏面と平行で溝幅方向に沿って延びる仮想線をFL6(本発明の第4仮想線)、仮想線FL3、仮想線FL5、及び踏み込み側第1傾斜部16Faで囲まれる略三角形の領域(右上がりの斜線部分)の面積をA1、仮想線FL4、仮想線FL6、及び踏み込み側第2傾斜部16Fbで囲まれる略三角形の領域(左上がりの斜線部分)の面積をB1と定義したときに、A1<B1に設定されている。
【0049】
A1<B1とすることで、ラグ溝16の溝のボリュームを確保しつつ、各ブロックの踏み込み側の溝側壁16Fの溝底側のブロック剛性を高めることができ、各ブロックの踏み込み側の溝側壁16Fの溝底側のブロック剛性を高めることで各ブロックの踏み込み側全体のブロック剛性を高めることができる。
なお、B1とA1との比率B1/A1は、ブロック剛性をより高めるには120%以上とすることが好ましく、ブロック剛性をさらに高めるには180%以上とすることがより好ましく、270%以上とすることがより一層好ましい。比率B1/A1の上限は実用的には500%であるが、無限大(∞:A1が零の場合(例えば、踏み込み側第1傾斜部16Faが踏面に対して直角な場合等))であっても良い。
【0050】
また、蹴り出し側第1傾斜部16Kaの踏面12側の端部を通り、踏面12Aに対して垂直な仮想線をFL7、蹴り出し側第2傾斜部16Kbの踏面12側の端部(=溝深さDの1/2の深さ位置P5。蹴り出し側第1傾斜部16Kaの溝底側の端部。)を通り、踏面12Aに対して垂直な仮想線をFL8、仮想線FL7、仮想線FL5、及び蹴り出し側第1傾斜部16Kaで囲まれる略三角形の領域(右上がりの斜線部分)の面積をA2、仮想線FL8、仮想線FL6、及び蹴り出し側第2傾斜部16Kbで囲まれる略三角形の領域(左上がりの斜線部分)の面積をB2と定義したときに、A2<B2に設定されている。なお、B2とA2との比率B2/A2は、120%以上とすることが好ましく、ブロック剛性を高めるには180%以上とすることがより好ましく、270%以上とすることがより一層好ましい。比率B2/A2の上限は実用的には500%であるが、無限大(∞:A2が零の場合(例えば、蹴り出し側第1傾斜部16Kaが踏面に対して直角な場合等))であっても良い。
【0051】
A2<B2とすることで、ラグ溝16の溝のボリュームを確保しつつ、センター側ブロック22、及びショルダー側ブロック26の蹴り出し側の溝側壁16Kの溝底側のブロック剛性を高めることができ、各ブロックの蹴り出し側の溝側壁16Kの溝底側のブロック剛性を高めることで各ブロックの蹴り出し側全体のブロック剛性を高めることができる。
【0052】
また、本実施形態では、比率B1/A1と、比率B2/A2とを対比したときに、比率B1/A1<比率B2/A2に設定されている。これにより、センター側ブロック22、及びショルダー側ブロック26において、踏み込み側のブロック剛性よりも蹴り出し側のブロック剛性が高められている。」
・「【0054】
(作用、効果)
従来の空気入りタイヤでは、ブロック剛性を高めるために、ブロックを区画する溝の溝側壁全体を傾斜させていたが、これでは、溝のボリュームが減少し、ウエット性能が低下するため、ブロック剛性とウエット性能とを高度に両立することが困難であったが、本実施形態の空気入りタイヤ10では、ブロック剛性とウエット性能とを高度に両立することが可能となる。以下に、本実施形態の空気入りタイヤ10を車両に装着した場合の作用効果を説明する。
【0055】
空気入りタイヤ10がウエット路面を走行した際には、接地面内の水(トレッド12の踏面12Aと路面との間に介在する水)は、センター周方向溝14、ラグ溝16、及びショルダー側周方向溝20に取り込まれ、センター周方向溝14、及びショルダー側周方向溝20によってタイヤ周方向外側に排水され、ラグ溝16によってタイヤ幅方向外側に排水される。なお、センター周方向溝14、及びショルダー側周方向溝20に取り込まれた水の一部は、ラグ溝16を介してタイヤ幅方向外側に排水される。本実施形態の空気入りタイヤ10は、このようにして接地面内の水を排水し、ウエット性能を得ている。また、本実施形態の空気入りタイヤ10では、タイヤ赤道面CL上にタイヤ周方向に沿って延びるセンター周方向溝14が配置されているので、接地圧の高いタイヤセンター部での排水性能を高めることができ。
【0056】
本実施形態の空気入りタイヤ10では、各ブロックの踏み込み側において、仮想線FL3、仮想線FL5、及び踏み込み側第1傾斜部16Faで囲まれる略三角形の領域の面積A1と、仮想線FL4、仮想線FL6、及び踏み込み側第2傾斜部16Fbで囲まれる略三角形の領域の面積B1とを比較したときに、A1<B1に設定されているので、センター側ブロック22、及びショルダー側ブロック26の各ブロックの踏み込み側の溝底側(即ち、各ブロックの踏み込み側の基部)の剛性を高めることができ、これによって、ラグ溝16の排水性能に必要な溝のボリュームを確保しつつ、各ブロックの踏み込み側のブロック剛性を高めることができる。
【0057】
さらに、本実施形態の空気入りタイヤ10では、各ブロックの蹴り出し側において、仮想線FL7、仮想線FL5、及び蹴り出し側第1傾斜部16Kaで囲まれる略三角形の領域の面積A2と、仮想線FL8、仮想線FL6、及び蹴り出し側第2傾斜部16Kbで囲まれる略三角形の領域の面積B2とを比較したときに、A2<B2に設定されているので、各ブロックの蹴り出し側の溝底側(即ち、各ブロックの蹴り出し側の基部)の剛性を高めることができ、ラグ溝16の排水性能に必要な溝のボリュームを確保しつつ、各ブロックの蹴り出し側のブロック剛性を高めることができる。
【0058】
以上説明した様に、本実施形態の空気入りタイヤ10では、各ブロックの踏み込み側のブロック剛性、及び蹴り出し側のブロック剛性を高めることで、ドライ路面での操縦安定性に必要なブロック全体のブロック剛性を高めることができる。また、本実施形態の空気入りタイヤ10では、ブロック剛性を高めるために溝側壁全体を傾斜させてトレッド12のゴムの使用量を増やすことが無いので、転がり抵抗の増大も抑制できる。
【0059】
このようにして、本実施形態の空気入りタイヤ10は、ウエット性能(特には、ハイドロプレーニング性能)、及びドライ性能(特には、ドライ路面での操縦安定性能)を得つつ、ウエット性能とドライ性能との高度な両立が可能となる。また、センター側ブロック22、及びショルダー側ブロック26の各ブロックの変形が抑えられることにより、各ブロックの路面に対する引き摺りが抑えられ、各ブロックの耐摩耗性を向上させることができる。
【0060】
さらに、本実施形態の空気入りタイヤ10では、比率B1/A1<比率B2/A2に設定されて、センター側ブロック22、及びショルダー側ブロック26の各ブロックにおいて、踏み込み側のブロック剛性よりも蹴り出し側のブロック剛性が高められているため、蹴り出し側のブロック剛性よりも踏み込み側のブロック剛性を高めた場合に比較して、空気入りタイヤ10が矢印A方向に回転(駆動時)して各ブロックが路面に接地した際のタイヤ周方向の変形を効果的に抑えることができる。」
・「【0063】
ここで、踏み込み側第2傾斜部16Fbの幅寸法W2、及び蹴り出し側第2傾斜部16Kbの幅寸法W4を、ラグ溝16の溝幅W0の20~50%の範囲内に設定することで、ブロック剛性と、排水性能とを高度に両立することができる。なお、ラグ溝16の溝幅W0に対する幅寸法W2、及び幅寸法W4の割合が20%未満になると、ブロック剛性を十分に高めることが困難となる。一方、ラグ溝16の溝幅W0に対する幅寸法W2、及び幅寸法W4の割合が50%を超えると、ラグ溝16のボリュームを十分に確保することが困難となる。また、幅寸法W2、及び幅寸法W4の何れか一方を大きくし過ぎると、何れか他方を大きくすることが出来なくなる。」
・「【0090】
[試験例1]
本発明の効果を確かめるため、従来例、及び本発明の適用された実施例のタイヤ1~4を試作した。各タイヤの諸元は、表1に示した通りである。各タイヤは、図1で示されるトレッドパターンを有しており、表1に示すようにラグ溝の溝側壁の面積A及び面積Bの関係が異なっている。
上記各タイヤについて、ウエット路面でのハイドロプレーニング性能、ドライ路面でのラップタイム、及び耐摩耗性を評価する以下の試験を行った。
【0091】
<ハイドロプレーニング性能(直線)>
タイヤサイズ195/65R15の上記各供試タイヤを適用リムに組み込んで、内圧を200kPaとして、水深7mmの湿潤路面を加速し、ハイドロプレーニング現象の発生速度を比較することにより、排水性能を評価した。
評価は、従来例にかかるタイヤの評価結果を100としたときの相対値で指数評価し、数値が大きい方がウエット性能に優れていることを示す。
【0092】
<ハイドロプレーニング性能(コーナリング)>
タイヤサイズ195/65R15の上記各タイヤを適用リムに組み込んで、内圧を200kPaとして、水深5mm、半径80mのウエット路面通過時のハイドロプレーニング発生限界横Gを計測した。評価は従来例のタイヤのハイドロプレーニング発生限界横Gを100とする指数で表しており、数値が大きいほどコーナリング時のハイドロプレーニング性能が良いことを表している。
【0093】
<ラップタイム>
タイヤサイズ195/65R15の上記各タイヤを適用リムに組み込んで、内圧を200kPaとして、路面が乾燥したテストコースを走行してラップタイムを計測した。
評価は、従来例にかかるタイヤのラップタイムを100とした指数表示とし、数値が大きいほどラップタイムが短く、ドライ性能に優れていることを示す。
【0094】
<偏摩耗性>
タイヤサイズ195/65R15の上記各タイヤを適用リムに組み込んで、内圧を200kPaとして、テストコース内でセンター部が1.2mm摩耗するまで走行させた。
摩耗量比はショルダー端部の摩耗量をセンター部の摩耗量で除したもので、数値1に近いほど均一に摩耗しており、偏摩耗性に優れている事を示す。
【表1】
【0095】
表1に示すように、本発明の適用された実施例1~4のタイヤは、いずれも従来例にかかるタイヤと比較して、ハイドロプレーニング性能、及びラップタイムに優れていることがわかる。
【表2】
表2に示すように、本発明の適用された実施例1~4のタイヤは、いずれも従来例に係るタイヤと比較して、装着部内側端部の摩耗量とセンター部の摩耗量との比が小さく、偏摩耗性に優れていることがわかる。」
・「【図1】
」(当審注:時計回りに90度回転させている。)
・「【図4】
」
ウ 取消理由1の判断
(ア)発明の課題
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0005】によると、本件特許発明1、2、4及び5の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「ウエット性能とドライ路面走行時の操縦安定性能との高度な両立を可能とする空気入りタイヤを提供すること」である。
(イ)判断
発明の詳細な説明の【0006】及び【0007】には、本件特許発明1、2、4及び5に共通する「路面に接地するトレッドと、
前記トレッドに設けられ、陸部を区画する複数のラグ溝と、
を備え」という発明特定事項(以下、「発明特定事項1」という。)及びその作用機序が記載されている。
発明の詳細な説明の【0006】、【0007】及び【0048】ないし【0051】には、本件特許発明1、2、4及び5に共通する「前記ラグ溝の前記トレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、
前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の踏面側の端部を通り前記踏面に垂直な第1仮想線と、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ前記第1仮想線と直交する第2仮想線と、前記第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をA、前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り前記踏面に垂直な第3仮想線と、前記溝底の最深部を通り、前記踏面と平行な第4仮想線と、前記第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をB、としたときに、A<Bに設定されており」という発明特定事項(以下、「発明特定事項2」という。)及びその作用機序が記載されている。
発明の詳細な説明の【0006】及び【0007】には、本件特許発明1、2、4及び5に共通する「前記ラグ溝の互いに対向する一方側の溝側壁と他方側の溝側壁とを比較したときに、何れか一方の溝側壁における比率B/Aが、何れか他方の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されており、
複数の前記ラグ溝で区画される第1の陸部、及び前記第1の陸部よりも剛性の高い第2の陸部を備え、前記第1の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aが、前記第2の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている」という発明特定事項及びその作用機序が記載されている。
発明の詳細な説明の【0008】、【0009】、【0052】及び【0060】には、本件特許発明2の「前記陸部の蹴り出し側の前記溝側壁における比率B/Aが、前記陸部の踏み込み側の前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている」という発明特定事項及びその作用機序が記載されている。
発明の詳細な説明の【0017】及び【0049】には、本件特許発明4の「面積Bと面積Aとの比率B/Aが120%以上に設定されている」という発明特定事項及びその作用機序が記載されている。
発明の詳細な説明の【0018】、【0019】及び【0063】には、本件特許発明5の「前記ラグ溝の溝幅方向に沿って計測した第2溝側壁の幅寸法が、前記溝の溝幅に対して20~50%の範囲内に設定されている」という発明特定事項及びその作用機序が記載されている。
そして、発明の詳細な説明の【0090】ないし【0095】によると、上記発明特定事項1及び2を備えた実施例1ないし4が、ハイドロプレーニング性能及びラップタイムが従来例よりも優れ、実際に「ウエット性能とドライ路面走行時の操縦安定性能とを高度に両立させることができる」ことを確認している。
したがって、本件特許発明1、2、4及び5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
なお、上記のとおり、実施例1ないし4により、実際に「ウエット性能とドライ路面走行時の操縦安定性能とを高度に両立させることができる」ことを確認しているので、サポート要件違反1は解消している。
また、本件特許発明1、2、4及び5における「溝」は「ラグ溝」であるから、サポート要件違反2も解消している。
エ 取消理由1についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、取消理由1によっては取り消すことはできない。
(2)取消理由2(明確性要件)について
ア 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
イ 取消理由2の判断
(ア)請求項1に「複数の前記ラグ溝で区画される第1の陸部、及び前記第1の陸部よりも剛性の高い第2の陸部を備え、前記第1の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aが、前記第2の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている」と記載されている。
そして、「第2の陸部」の剛性を「第1の陸部」の剛性より高くすることは、「第2の陸部」の周方向の長さを「第1の陸部」の周方向の長さより長くしたり、陸部に設けるサイプを変えることで可能である。
したがって、請求項1の上記記載の意味が不明確であるということはできず、明確性要件違反1は解消している。
(イ)請求項2に「前記陸部の蹴り出し側の前記溝側壁における比率B/Aが、前記陸部の踏み込み側の前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている」と記載されているが、請求項2は請求項1を引用しているから、「前記溝」は「ラグ溝」であり、「周方向溝」ではない。
したがって、請求項2の上記記載の意味が不明確であるということはできず、明確性要件違反2は解消している。
(ウ)他に請求項1及び2に不明確な記載はなく、また、請求項1及び2の記載を引用する請求項4及び5にも不明確な記載はない。
(エ)したがって、請求項1、2、4及び5の記載は明確であり、本件特許発明1、2、4及び5に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
ウ 取消理由2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、取消理由2によっては取り消すことはできない。
(3)取消理由3(実施可能要件)について
ア 実施可能要件の判断基準
物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
イ 発明の詳細な説明の記載及び図面
発明の詳細な説明の記載及び図面は、上記1(1)イのとおりである。
ウ 取消理由3の判断
発明の詳細な説明の【0094】の【表1】の「B/A」が、請求項1に記載された「一方側の溝側壁」と「他方側の溝側壁」のうちのどちらの「溝側壁」の「B/A」なのか不明であるとしても、本件特許発明1の各発明特定事項について、発明の詳細な説明の【0006】、【0007】、【0048】及び【0090】ないし【0095】に詳細に記載されている。
したがって、本件特許発明1について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1に係る「空気入りタイヤ」という物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえる。
また、本件特許発明2、4及び5の各発明特定事項についても、発明の詳細な説明の【0008】、【0009】、【0017】ないし【0019】、【0049】、【0052】、【0060】、【0063】、【0090】ないし【0095】に詳細に記載されている。
したがって、本件特許発明2、4及び5について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明2、4及び5に係る「空気入りタイヤ」という物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえる。
エ 取消理由3についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、取消理由3によっては取り消すことはできない。
2 取消理由において採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由において採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)及び2点ある申立理由3(明確性)のうちの1点である。
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)について
ア 甲1及び2に記載された事項等
(ア)甲1に記載された事項及び甲1発明
a 甲1に記載された事項
甲1には、「自動車用空気タイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、摘記に際し、半角文字は全角文字に置き換えた。
・「2.特許請求の範囲
〔1〕タイヤ円周方向に連続するジグザグ状の主溝を備え、その振幅がピッチ長のl/3以下の自動車用空気タイヤにおいて、上記主溝の溝壁の傾斜角度がジグザグ状の主溝に沿って変化し、タイヤ回転軸中心を通る平面内でトレッド表面に垂直な法線に対する溝壁の傾斜角度が主溝に面するリブの谷部付近で最小に、山部付近で最大に設定され、その最小傾斜角度が-10~15度(ただし、溝縁を通る上記法線に対して溝幅を狭める方向の傾斜を正とする)、最大傾斜角度が20~40度、最大傾斜角度と最小傾斜角度の差が8度以上であることを特徴とする自動車用空気タイヤ。」(第1ページ左下欄第4ないし16行)
・「この発明は、タイヤ円周方向に連続するジグザグ状の主溝を備えた自動車用空気タイヤに関する。」(第1ページ左下欄下から3及び2行)
・「第1図において、11は自動車用空気タイヤのトレツド、12は主溝、13,14はリブ、Nはタイヤ円周方向中心線であり、上記主溝12はタイヤ円周方向に連続するジグザグ状に形成されている。そして上記の主溝12の溝壁12a,12bの傾斜角度は、主溝12に沿つて連続的に変化しており(第2図および第3図参照)、上記傾斜角度を、タイヤ回転軸中心を通る平面(タイヤ円周方向中心線Nに垂直な平面)内で溝壁12c,12dを通りトレツド11の表面に垂直な法線Pを基準として測定し、溝幅が狭くなる方向の傾斜角度を正としたとき、リブ13および14が主溝に対して突出する山部13aおよび14aでそれぞれ傾斜角度θaが最大となり、反対の谷部13bおよび14bでそれぞれ傾斜角度θbが最小となつている。」(第2ページ右下欄第4ないし18行)
・「
」
b 甲1発明
甲1に記載された事項を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「路面に接するトレッド11と、
トレッド11に設けられ、リブ13、14を区画する複数のタイヤ円周方向に連続するジグザグ状の主溝12と、
を備えている、自動車用空気タイヤ。」
(イ)甲2に記載された事項
甲2には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
トレッド部のショルダー領域に形成されるリブ状の陸部(以下、ショルダーリブという。)と、タイヤ周方向に延在すると共に前記ショルダーリブのタイヤ幅方向内側を区画する周方向溝とを有する空気入りタイヤであって、
前記周方向溝のショルダー領域側の溝壁面は、前記ショルダーリブの踏面の垂線lに対する傾斜角度αが溝底に向かって溝中心側に傾斜している第一傾斜部と、前記第一傾斜部よりも溝底側に位置すると共に前記ショルダーリブの踏面の垂線lに対する傾斜角度βが溝底側に向かって溝中心側に傾斜している第二傾斜部とを有し、且つ、前記第二傾斜部の傾斜角度βが、前記第一傾斜部の傾斜角度αに対してα≦βの関係を有すると共にタイヤ周方向に向かうに連れて変化することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記周方向溝の溝底における溝深さHと、前記第一傾斜部および前記第二傾斜部の境界位置における溝深さhとが0.4≦h/H≦0.8の関係を有する請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第一傾斜部の傾斜角度αが0[deg]≦α≦15[deg]の範囲内にある請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第二傾斜部の傾斜角度βが20[deg]≦β≦60[deg]の範囲内にある請求項1~3のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。」
・「
」
イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「トレッド11」は、本件特許発明1における「トレッド」に相当し、以下同様に、「リブ13、14」は「複数の溝」に、「自動車用空気タイヤ」は「空気入りタイヤ」に、それぞれ相当する。
甲1発明における「タイヤ円周方向に連続するジグザグ状の主溝12」は、本件特許発明1における「ラグ溝」と、「溝」という限りにおいて一致する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「路面に接地するトレッドと、
前記トレッドに設けられ、陸部を区画する複数の溝と、
を備えている、空気入りタイヤ。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点>
「溝」に関して、本件特許発明1においては、「ラグ溝」であって、「前記ラグ溝の前記トレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、
前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の踏面側の端部を通り前記踏面に垂直な第1仮想線と、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ前記第1仮想線と直交する第2仮想線と、前記第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をA、前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り前記踏面に垂直な第3仮想線と、前記溝底の最深部を通り、前記踏面と平行な第4仮想線と、前記第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をB、としたときに、A<Bに設定されており、 前記ラグ溝の互いに対向する一方側の溝側壁と他方側の溝側壁とを比較したときに、何れか一方の溝側壁における比率B/Aが、何れか他方の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されており、
複数の前記ラグ溝で区画される第1の陸部、及び前記第1の陸部よりも剛性の高い第2の陸部を備え、前記第1の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aが、前記第2の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている」と特定されているのに対し、甲1発明においては、「タイヤ円周方向に連続するジグザグ状の主溝12」と特定されている点。
(イ)判断
そこで、相違点について検討する。
甲1には、「ラグ溝」に関する記載はなく、当然、「ラグ溝」を「前記ラグ溝の前記トレッドの踏面から溝深さの1/2の溝深さまでの溝側壁を第1溝側壁、溝深さの1/2の溝深さから溝底の最深部までの溝側壁を第2溝側壁とし、
前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の踏面側の端部を通り前記踏面に垂直な第1仮想線と、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り、かつ前記第1仮想線と直交する第2仮想線と、前記第1溝側壁とで囲まれる領域の面積をA、前記ラグ溝の長手方向に直交する断面で見たときの、前記第1溝側壁の溝底側の端部を通り前記踏面に垂直な第3仮想線と、前記溝底の最深部を通り、前記踏面と平行な第4仮想線と、前記第2溝側壁とで囲まれる領域の面積をB、としたときに、A<Bに設定されており、 前記ラグ溝の互いに対向する一方側の溝側壁と他方側の溝側壁とを比較したときに、何れか一方の溝側壁における比率B/Aが、何れか他方の溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されており、
複数の前記ラグ溝で区画される第1の陸部、及び前記第1の陸部よりも剛性の高い第2の陸部を備え、前記第1の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aが、前記第2の陸部の側壁である前記溝側壁における比率B/Aよりも大きく設定されている」に特定することは記載も示唆もされていない。
また、甲2にも「ラグ溝」に関する記載はないし、当然、「ラグ溝」を上記のように特定することは記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、甲2に記載された事項を適用して、相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
そして、本件特許発明1は、「ウエット性能とドライ路面走行時の操縦安定性能とを高度に両立させることができる」(本件特許明細書の【0032】)という甲1発明及び甲2に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。
(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明2、4及び5について
請求項2、4及び5は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明2、4及び5は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 申立理由1についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
(2)申立理由3(明確性)のうちの取消理由において採用しなかった申立理由について
申立理由3のうちの取消理由において採用しなかった申立理由は、おおむね「本件特許発明1で規定される「第1の陸部」及び「第2の陸部」の剛性は、比率B/Aに基づく剛性の調整前のものであるのか、或いは、比率B/Aに基づく剛性の調整が行われた後のものであるのか不明である。」(特許異議申立書の3(4)オ(ア))というものである。
そこで、検討する。
本件特許発明1は、最終成形品である「空気入りタイヤ」の発明であるから、「第1の陸部」及び「第2の陸部」の剛性は、比率B/Aに基づく剛性の調整が行われた後のものであることは明らかである。
したがって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4及び5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、2点ある申立理由3(明確性)のうちの取消理由において採用しなかった申立理由によっては取り消すことはできない。
第6 結語
上記第5のとおり、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-700725