特許異議申立
2019-700639
ジルコニア焼結体、ジルコニア組成物及びジルコニア仮焼体並びにこれらの製造方法、及び歯科用補綴物
- 審判番号
- 2019-700639
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-515891
- 登録番号
- 特許第6473081号(P6473081)
- 請求日
- 2019年08月09日
- 審決日
- 2020年01月29日
- 公報発行日
- 2021年05月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】クラレノリタケデンタル株式会社
- 【権利者代理人】加藤 朝道
- 【異議申立人】末吉 直子
- 審判長/審判官
- 審判長 菊地 則義
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.537-ZC (B28B) / P1651.113-ZC (B28B) / P1651.121-ZC (B28B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6473081号発明「ジルコニア焼結体、ジルコニア組成物及びジルコニア仮焼体並びにこれらの製造方法、及び歯科用補綴物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6473081号の請求項9~31、33、34に係る特許を取り消す。
同請求項1~8、32に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6473081号の請求項1~34に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)5月8日(優先権主張 平成25年5月10日(JP)日本国)を国際出願日として出願され、平成31年2月1日にその特許権の設定登録がされ、平成31年2月20日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、請求項1~34に係る特許に対して、令和1年8月9日付けで特許異議申立人末吉直子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、令和1年10月29日付けで、請求項9~31、33、34に係る特許に対する取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかったものである。
第2 特許異議申立について
1 本件発明
特許第6473081号の請求項1~34に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明34」といい、まとめて、「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~34に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
ジルコニア、ジルコニアの相転移を抑制する安定化剤及び顔料を含有し、前記顔料の含有率が異なる少なくとも3つの粉末を作製する工程と、
少なくとも3つの前記粉末を型内に積層する積層工程と、を含み、
前記積層工程において、前記型内の前記粉末のうちの1つの上に別の1つの前記粉末を充填する度に、前記型に振動を与えて前記粉末間の境界において上下層の前記粉末が部分的に混合した混合層を形成することを特徴とするジルコニア組成物の製造方法。
【請求項2】
ジルコニア、ジルコニアの相転移を抑制する安定化剤及び顔料を含有し、前記顔料の含有率が異なる低添加率粉末及び高添加率粉末を作製する工程と、
前記低添加率粉末と前記高添加率粉末とを混合して少なくとも1つの積層用粉末を作製する混合工程と、
前記低添加率粉末、前記高添加率粉末及び前記積層用粉末のうち、少なくとも3つの粉末を型内に積層する積層工程と、
を含み、
前記積層工程において、前記型内の前記粉末のうちの1つの上に別の1つの前記粉末を充填する度に、前記型に振動を与えて前記粉末間の境界において上下層の前記粉末が部分的に混合した混合層を形成することを特徴とするジルコニア組成物の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程において、前記低添加率粉末と前記高添加率粉末の混合割合が異なる2以上の前記積層用粉末を作製し、
前記積層工程において、前記低添加率粉末又は前記高添加率粉末の含有率が順に変化するように、前記少なくとも3つの粉末を前記型内に積層することを特徴とする請求項2に記載のジルコニア組成物の製造方法。
【請求項4】
前記積層工程において、1つの前記粉末を前記型に充填した後、当該粉末の上面を平坦にならすことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア組成物の製造方法。
【請求項5】
前記積層工程において、前記粉末中の顔料の含有率が順に変化するように、前記粉末を積層することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のジルコニア組成物の製造方法と、
前記組成物を800℃~1200℃で焼成する工程と、
を含むことを特徴とするジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のジルコニア組成物の製造方法と、
前記組成物を1400℃~1600℃で焼成する工程と、
を含むことを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載のジルコニア仮焼体の製造方法と、
前記ジルコニア仮焼体を1400℃~1600℃で焼成する工程と、
を含むことを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の方法によって製造された状態であることを特徴とするジルコニア焼結体。
【請求項10】
前記ジルコニア組成物を焼結させた状態であるジルコニア焼結体であって、
前記ジルコニア焼結体から長手方向を積層方向に沿って切り出した試験片が、
JISR1601に準拠し、前記混合層が荷重印加方向に沿って前記試験片を横断するように存在する前記試験片に対して、3点曲げ試験の荷重点を前記混合層の位置に合わせて測定した曲げ強度が1100MPa以上であるという試験条件を満たす、
ことを特徴とする請求項9に記載のジルコニア焼結体。
【請求項11】
前記曲げ強度が1200MPa以上であることを特徴とする請求項10にジルコニア焼結体。
【請求項12】
前記ジルコニア組成物を800℃~1200℃で仮焼させた状態であるジルコニア仮焼体であって、
前記ジルコニア仮焼体から長手方向を積層方向に沿って切り出した試験片が、
JISR1601に準拠し、前記混合層が荷重印加方向に沿って前記試験片を横断するように存在する前記試験片に対して、3点曲げ試験の荷重点を前記混合層の位置に合わせて測定した曲げ強度が、前記2つのジルコニア粉末の1つを単独で前記試験片の仮焼温度と同じ温度で仮焼させた他の試験片の曲げ強度の90%以上であるという試験条件を満たす、
ことを特徴とする請求項9~11のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項13】
前記ジルコニア組成物を800℃~1200℃で仮焼させた状態であるジルコニア仮焼体を作製し、
前記ジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片とし、前記試験片において、幅50mm×奥行き5mmとなる面を底面としたとき、前記ジルコニア粉末の積層によって形成される境界面が前記底面と同方向に延在しており、
前記試験片を1500℃で2時間焼成し、
2つの前記底面のうち、凹面に変形した底面を下にして載置したとき、
(凹面に変形した前記底面と接地面との最大間隔)/(前記幅方向における接地部分間の距離)×100が0.15以下であるという試験条件を満たす、
ことを特徴とする請求項9~12のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項14】
一端から他端に向かう第1方向に延在する直線上において、
前記一端から全長の25%までの区間にある第1点のL*a*b*表色系による色度(L*,a*,b*)を(L1,a1,b1)とし、
前記他端から全長の25%までの区間にある第2点のL*a*b*表色系による色度(L*,a*,b*)を(L2,a2,b2)としたとき、
L1が58.0以上76.0以下であり、
a1が-1.6以上7.6以下であり、
b1が5.5以上26.7以下であり、
L2が71.8以上84.2以下であり、
a2が-2.1以上1.8以下であり、
b2が1.9以上16.0以下であり、
L1<L2であり、
a1>a2であり、
b1>b2であり、
前記第1点から前記第2点に向かってL*a*b*表色系による色度の増減傾向が変化しないことを特徴とする請求項9~13のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項15】
前記第1点と前記第2点とを結ぶ直線上において、
前記第1点から前記第2点に向かってL*値が1以上減少する区間が存在せず、
前記第1点から前記第2点に向かってa*値が1以上増加する区間が存在せず、
前記第1点から前記第2点に向かってb*値が1以上増加する区間が存在しない
ことを特徴とする請求項14に記載のジルコニア焼結体。
【請求項16】
前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第1点と前記第2点の間にある第3点のL*a*b*表色系による色度(L*,a*,b*)を(L3,a3,b3)としたとき、
L3が62.5以上80.5以下であり、
a3が-1.8以上5.5以下であり、
b3が4.8以上21.8以下であり、
L1<L3<L2であり、
a1>a3>a2であり、
b1>b3>b2である、
ことを特徴とする請求項14又は15に記載のジルコニア焼結体。
【請求項17】
前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第3点と前記第2点の間にある第4点のL*a*b*表色系による色度(L*,a*,b*)を(L4,a4,b4)としたとき、
L4が69.1以上82.3以下であり、
a4が-2.1以上1.8以下であり、
b4が3.5以上16.2以下であり、
L1<L3<L4<L2であり、
a1>a3>a4>a2であり、
b1>b3>b4>b2である、
ことを特徴とする請求項16に記載のジルコニア焼結体。
【請求項18】
前記第3点は前記一端から全長の45%の距離にあり、
前記第4点は前記一端から全長の55%の距離にある、
ことを特徴とする請求項17に記載のジルコニア焼結体。
【請求項19】
前記第1点、前記第3点、前記第4点及び前記第2点において、
隣接する2点におけるL*値の差をΔL*とし、
隣接する2点におけるa*値の差をΔa*とし、
隣接する2点におけるb*値の差をΔb*とし、
以下の式1よりΔE*abを算出した場合、
前記第1点と前記第3点間のΔE*abは3.7以上14.3以下であり、
前記第3点と前記第4点間のΔE*abは1.8以上10.5以下であり、
前記第4点と前記第2点間のΔE*abは1.0以上9.0以下である、
ことを特徴とする請求項17又は18に記載のジルコニア焼結体。
[式1]
【請求項20】
前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第1点と前記第2点の間にある第3点のL*a*b*表色系による色度(L*,a*,b*)を(L3,a3,b3)としたとき、
L3が69.1以上82.3以下であり、
a3が-2.1以上1.8以下であり、
b3が3.5以上16.2以下であり、
L1<L3<L2であり、
a1>a3>a2であり、
b1>b3>b2である、
ことを特徴とする請求項14又は15に記載のジルコニア焼結体。
【請求項21】
一端から他端に向かう第1方向に向かって色が変化しており、
前記一端から前記他端に向かう直線上においてL*a*b*表色系による色度の増減傾向が変化しないことを特徴とする請求項9~13のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項22】
前記一端と前記他端とを結ぶ直線上において、前記一端から全長の25%までの区間にある第1点から、前記他端から全長の25%までの区間にある第2点に向かってL*値は増加傾向にあり、a*値及びb*値は減少傾向にあることを特徴とする請求項21に記載のジルコニア焼結体。
【請求項23】
前記一端から前記他端までの距離は5mm~18mmであることを特徴とする請求項14~22のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項24】
前記第1方向と直交する第2方向に沿って色が変化しないことを特徴とする請求項14~23のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項25】
前記第2方向に延在する直線上の2点において、
前記2点間のL*値の差をΔL*とし、
前記2点間のa*値の差をΔa*とし、
前記2点間のb*値の差をΔb*とし、
以下の式2よりΔE*abを算出した場合、
ΔE*abが1未満であることを特徴とする請求項24に記載のジルコニア焼結体。
[式2]
【請求項26】
JISR1601に準拠して測定した曲げ強度が1000MPa以上であることを特徴とする請求項14~25のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項27】
JISR1607に準拠して測定した破壊靭性が3.5MPa・m1/2以上であることを特徴とする請求項14~26のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項28】
180℃、1MPaで5時間水熱処理試験を施した後のジルコニア焼結体のX線回折パターンにおいて、2θが30°付近の正方晶由来の[111]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さに対する、2θが28°付近の単斜晶由来の[11-1]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さの比が1以下であるという試験条件を満たす、
ことを特徴とする請求項14~27のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項29】
請求項6に記載の方法によって製造された状態であることを特徴とするジルコニア仮焼体。
【請求項30】
前記ジルコニア仮焼体から長手方向を積層方向に沿って切り出した試験片が、
JISR1601に準拠し、前記混合層が荷重印加方向に沿って前記試験片を横断するように存在する前記試験片に対して、3点曲げ試験の荷重点を前記混合層の位置に合わせて測定した曲げ強度が、前記2つのジルコニア粉末の1つを単独で前記試験片の仮焼温度と同じ温度で仮焼させた他の試験片の曲げ強度の90%以上であるという試験条件を満たす、
ことを特徴とする請求項29に記載のジルコニア仮焼体。
【請求項31】
前記ジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片とし、前記試験片において、幅50mm×奥行き5mmとなる面を底面としたとき、前記ジルコニア粉末の積層によって形成される境界面が前記底面と同方向に延在しており、
前記試験片を1500℃で2時間焼成し、
2つの前記底面のうち、凹面に変形した底面を下にして載置したとき、
(凹面に変形した前記底面と接地面との最大間隔)/(前記幅方向における接地部分間の距離)×100が0.15以下であるという試験条件を満たす、
ことを特徴とする請求項29又は30に記載のジルコニア仮焼体。
【請求項32】
請求項1~5のいずれかに記載の方法によって製造された状態であることを特徴とするジルコニア組成物。
【請求項33】
請求項29~31のいずれか一項に記載のジルコニア仮焼体を切削加工した後、焼結された状態であることを特徴とする歯科用補綴物。
【請求項34】
前記切削加工は、CAD/CAMシステムを用いて行うことを特徴とする請求項33に記載の歯科用補綴物。」
2 取消理由について
(1)取消理由の概要
本件発明9~31、33、34に係る特許に対して、令和1年10月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
ア 本件発明9~28に係る特許に対して
請求項9には、「請求項7又は8に記載の方法によって製造された状態であることを特徴とするジルコニア焼結体。」と記載されているところ、「請求項7又は8に記載の方法によって製造された状態であること」は、請求項7及び8の記載によれば、請求項1~5に記載された「ジルコニア組成物の製造方法」によって製造された積層構造のジルコニア組成物を、最終的に1400℃~1600℃で焼成した状態であることといえるが、このような状態であることは、請求項1~5に記載された「ジルコニア組成物の製造方法」によって製造された積層構造のジルコニア組成物が、単に「焼結された状態」であることを特定しているのか、当該積層構造のジルコニア組成物が「焼結された状態」であることに加えて、焼成温度に関係する物性を有していることを特定しているのか、あるいは、それ以外の状態であることを特定しているのかが明らかでないから、本件発明9及びこれを引用する本件発明10~28は明確でない。
よって、本件発明9~28に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものである。
イ 本件発明29~31、33、34に係る特許に対して
請求項29には、「請求項6に記載の方法によって製造された状態であることを特徴とするジルコニア仮焼体。」と記載されているところ、「請求項6に記載の方法によって製造された状態であること」は、請求項6の記載によれば、請求項1~5に記載された「ジルコニア組成物の製造方法」によって製造された積層構造のジルコニア組成物を、800℃~1200℃で焼成した状態であることといえるが、このような状態であることは、請求項1~5に記載された「ジルコニア組成物の製造方法」によって製造された積層構造のジルコニア組成物が、単に「仮焼された状態」であることを特定しているのか、当該積層構造のジルコニア組成物が「仮焼された状態」であることに加えて、焼成温度に関係する物性を有していることを特定しているのか、あるいは、それ以外の状態であることを特定しているのかが明らかでないから、本件発明29及びこれを引用する本件発明30、31、33、34は明確でない。
よって、本件発明29~31、33、34に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものである。
ウ 本件発明34に係る特許に対して
請求項34には、「前記切削加工は、CAD/CAMシステムを用いて行うことを特徴とする請求項33に記載の歯科用補綴物。」と記載されているところ、請求項33の記載を踏まえると、請求項34は、「請求項29~31のいずれか一項に記載のジルコニア仮焼体を」「CAD/CAMシステムを用いて」「切削加工した後、焼結された状態である」「歯科用補綴物」を特定するものであるといえるが、「CAD/CAMシステムを用いて」「切削加工した後、焼結された状態である」ことは、単に、歯科用補綴物の形状に加工されて焼結された状態であることを特定しているのか、あるいは、それ以外の状態であることを特定しているのか明らかでないから、本件発明34は明確でない。
よって、本件発明34に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものである。
(2)当審の判断
手続の経緯に示したとおり、上記(1)の取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。
そして、上記取消理由は妥当なものと認められるので、本件発明9~31、33、34に係る特許は、上記取消理由によって取り消されるべきものである。
3 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由において採用しなかった特許異議申立理由(以下、「申立理由」という。)のうち、取消理由を通知していない本件発明1~8、32に係る特許に対する申立理由について検討する。
(1)特許法第36条第6項第2号に関する申立理由について
ア 申立人は、請求項1及び2に記載の「ジルコニア組成物」と称されているものは、組成の異なる少なくとも3つの粉体を積層したものであり、少なくとも一定の組成を有する「組成物」には当たらないため、本件発明1及び2、並びに、これらを引用する本件発明3~8、32は明確でない旨を主張している(特許異議申立書第21頁「ア 具体的理由A」)。
この点について検討するに、請求項1及び2の記載からみて、請求項1及び2に記載の「ジルコニア組成物」は、一様な組成を有する組成物ではなく、顔料の含有率が積層方向に変化しているジルコニア組成物を示していることは明らかであるから、申立人の上記主張は採用できない。
イ 申立人は、本件発明32は、ジルコニア組成物といった「物の発明」に係るものであるが、この発明は、本件発明1~5の製造方法を引用しており、その物の製造方法に関する特定事項を含むため、本件発明32は明確でないし、また、製造方法に関する特定事項が状態を示すとしても、具体的な原料組成や原料粒子径が特定されておらず、どのような状態にあるか不明であるため、本件発明32は明確でない旨を主張している(特許異議申立書第21~22頁「イ 具体的理由B」及び同23頁「オ 具体的理由E」)。
この点について検討するに、本件発明32の組成物は、ジルコニア、ジルコニアの相転移を抑制する安定化剤及び顔料を含有する組成物であって、本件発明1~5の製造方法によって特定される、積層方向に変化している顔料の含有率の状態を示していることは明らかであるから、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 申立人は、本件特許明細書の実施例から明らかなように、顔料は複数種用いられることが一般的であるところ、本件発明2及び5における「顔料の含有率」は、特定の1つの顔料のみの含有率を意味するのか、複数の顔料の含有率を意味するのか定かでないし、顔料の種類も特定されていないため、本件発明2及び5、並びに、これらを引用する本件発明3~8、32は明確でない旨を主張している(特許異議申立書第24頁「ケ 具体的理由I」及び同24~25頁「コ 具体的理由J」)。
この点について検討するに、本件発明2及び5の「顔料の含有量」は、本件特許明細書の段落【0006】、【0018】、【0059】及び【0094】などの記載からみて、ジルコニア焼結体の着色を変化させるためのものであり、変化させる顔料の種類や数に関わらず、ジルコニア焼結体の着色を変化できることは明らかであるため、本件発明2及び5の「原料の含有量」は、特定の1つの顔料のみの含有率でも、複数の顔料の含有率でも良いことは明らかであるし、原料の種類を特定する必要が無いことも明らかであるから、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小活
以上のとおりであるから、特許法第36条第6項第2号に関する申立理由に理由はない。
(2)特許法第36条第6項第1号に関する申立理由
申立人は、本件発明の課題は、「自然なグラデーションを有するジルコニア焼結体を得ること」であるところ、本件発明1及び2は、「型に振動を与えて前記粉末間の境界において上下層の前記粉末が部分的に混合した混合層を形成する」ことが規定されているものの、振動の方法や混合層の形成範囲等が特定されていないし、また、「少なくとも3つの粉末を型内に積層する」ことが特定されているものの、その積層順や顔料の種類が特定されていないため、上記課題を解決し得ない範囲を含むものであるから、本件発明1及び2、並びに、これを引用する本件発明3~8、32はサポート要件を満たさない旨を主張している(特許異議申立書第25~26頁「ア 具体的理由K」及び同26~28頁「イ 具体的理由L」)。
そこで検討するに、本件発明1及び2は、「前記積層工程において、前記型内の前記粉末のうちの1つの上に別の1つの前記粉末を充填する度に、前記型に振動を与えて前記粉末間の境界において上下層の前記粉末が部分的に混合した混合層を形成する」との特定事項を有する「ジルコニア組成物の製造方法」の発明である。
そして、本件特許明細書の段落【0119】に「・・・各層を充填する度に振動を与えることにより、隣接する層間において、上下層の粉末が混合した境界層を形成することができると考えられる。・・・隣接する層間の色の差異を緩和することができる。これにより、焼結体において、積層方向に色を自然に変化させることができる(グラデーションを作り出すことができる)。」ことが記載されていることからして、前記特定事項によって形成された混合層によって、隣接する上下層間の色の急激な変化を緩和でき、積層方向の色を自然に変化させると認識することができるから、本件発明1及び2は、混合層を形成するための振動方法、混合層の形成範囲、積層順序、あるいは、顔料の種類を限定しなくとも、上記課題を解決できると当業者であれば認識できる範囲のものである。
また、本件発明1及び2を引用する本件発明3~8、32についても同様である。
したがって、申立人の上記主張は採用できないから、特許法第36条第6項第1号に関する申立理由に理由はない。
(3)特許法第29条第1項第3号及び第2項に関する申立理由
ア 申立人は、本件発明1~8、32は、下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、あるいは、甲第1号証に記載された発明、及び、下記の甲第2号証~甲第4号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨を主張している(特許異議申立書第28~47頁)。
(証拠方法)
甲第1号証:中国特許出願公開第102285795号明細書
甲第2号証:特開2000-34504号公報
甲第3号証:特開平1-197421号公報
甲第4号証:独国特許出願公開第102006024489号明細書
イ 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、
「
」
(当審仮訳:[0022]主色調が淡い黄色であり、5種類の彩度を有する切削可能な歯科用複色ジルコニアセラミックスを作製し、歯科用CAD/CAMシステムを用いて上顎中切歯の歯冠修復物を作製する。
[0023]ジルコニア粉体の原料は、白色及び黄色のジルコニア粉体であり、主成分(wt%)がY2O35.2±0.5、Al2O30.1~0.4及び微量のNa2O、SiO2、Fe2O3であり、残余がZrO2であり、実際の粒子径が90nmである。
[0024]着色ジルコニア粉体の作製については、白色ジルコニア粉体及び黄色ジルコニア粉体を、それぞれ60%:40%、70%:30%、80%:20%、90%:10%、95%:5%の重量分率(wt%)の割合で秤量して混合し、各種の混合粉体の総重量を10gにし、密封管内に入れて、前記割合に従って1、2、3、4、5号と表記して、均一に混合する。
[0025]切削可能な複色ジルコニアセラミックス生地の作製については、1~5の順序に従って、電子天秤で着色ジルコニア混合をそれぞれ3、2、2、2、3(g)秤量して、彩度が徐々に増すように直方体金型(14mm×15mm×20mm)内に順に添加して、積層し、ドライプレス圧力を4Mpaにする。作製した切削可能な複色セラミックス生地をプラスチックフィルムで緊密に包んで、冷間静水等方圧プレス機内に入れ、200MPaの成形圧力で3分間保圧して成形する。)
ことが記載されている。
これら記載を整理すると、甲第1号証には、
「少なくともZrO2、Y2O3及びFe2O3を含有する白色ジルコニア粉体及び黄色ジルコニア粉体を準備し、前記白色ジルコニア粉体及び前記黄色ジルコニア粉体を、それぞれ60wt%:40wt%、70wt%:30wt%、80wt%:20wt%、90wt%:10wt%、95wt%:5wt%の割合で秤量して混合して、5種類の着色ジルコニア混合粉末を形成し、5種類の前記着色ジルコニア混合粉末を直方体金型内に彩度が徐々に増すように順に添加して積層し、ドライプレスする、複色セラミックス生地の製造方法。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
ウ 本件発明1に対する当審の判断
(ア)本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「ZrO2」、「Y2O3」、「Fe2O3」、「複色セラミックス生地」は、それぞれ、本件発明1の「ジルコニア」、「ジルコニアの相転移を抑制する安定化剤」、「顔料」、「ジルコニア組成物」に相当する。
また、甲1発明の「前記白色ジルコニア粉体及び前記黄色ジルコニア粉体を、それぞれ60wt%:40wt%、70wt%:30wt%、80wt%:20wt%、90wt%:10wt%、95wt%:5wt%の割合で秤量して混合して」形成された「5種類の着色ジルコニア混合粉末」は、黄色ジルコニア粉体の割合が異なっていることから、本件発明1の「顔料の含有率が異なる少なくとも3つの粉末」に相当する。
したがって、本件発明1は、甲1発明と、
「ジルコニア、ジルコニアの相転移を抑制する安定化剤及び顔料を含有し、前記顔料の含有率が異なる少なくとも3つの粉末を作製する工程と、
少なくとも3つの前記粉末を型内に積層する積層工程と、を含むジルコニア組成物の製造方法。」
の点で一致し、以下の相違点1で相違している。
(相違点1)
本件発明1では、積層工程において、「前記型内の前記粉末のうちの1つの上に別の1つの前記粉末を充填する度に、前記型に振動を与えて前記粉末間の境界において上下層の前記粉末が部分的に混合した混合層を形成」しているのに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点。
そこで、相違点1を検討するに、甲第1号証には、「型内の粉末のうちの1つの上に別の1つの粉末を充填する度に、前記型に振動を与えて前記粉末間の境界において上下層の前記粉末が部分的に混合した混合層を形成」するとの技術思想は記載も示唆もされていないことから、相違点1は実質的な相違点である。
そして、相違点1の容易想到性について検討するに、「型内の前記粉末のうちの1つの上に別の1つの粉末を充填する度に、前記型に振動を与えて前記粉末間の境界において上下層の前記粉末が部分的に混合した混合層を形成」することは、甲第2号証~甲第4号証のいずれにも記載されていないし、このようなことが、本件特許に係る優先日における技術常識であるともいえないから、甲第2号証~甲第4号証の記載を参酌しても、甲1発明において、「型内の前記粉末のうちの1つの上に別の1つの粉末を充填する度に、前記型に振動を与えて前記粉末間の境界において上下層の前記粉末が部分的に混合した混合層を形成」することは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるともいえないし、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第4号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(イ)申立人は、甲第2号証には、混合率の異なる複数の混合粉末の層を形成するに際し、各層を形成する度に、混合粉末を密に充填させるために、粉末充填容器をタッピングすることが記載されていること、及び、甲第3号証には、色調の異なる複数の粉末化粧料を順次層状に充填する際に、この充填中に型枠に振動を与えて充填された粉末化粧料の境界部分を互いに混ぜ合わせることが記載されていることを根拠にして、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは、甲第2号証及び甲第3号証の記載を参酌して、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している(特許異議申立書第35~37頁「イ-1 本件発明1と甲1発明との対比」)。
しかしながら、甲第2号証の各層を形成する度にタッピングすることは、混合粉末を密に充填させるためのものであり、各層の境界において上下層の粉末が部分的に混合した混合層を形成するものではないし、また、甲第3号証の振動を与えて混合層を形成することは、複数の粉末化粧料を順次層状に充填しながら行うものであって、各層を充填する度に行われるものではないから、甲第2号証及び甲第3号証には、各層を充填する度に振動を与えて、各層の境界において上下層の粉末が部分的に混合した混合層を形成することが記載又は示唆されているといえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 本件発明2に対する当審の判断
本件発明2と甲1発明を対比すると、甲1発明の「ZrO2」、「Y2O3」、「Fe2O3」、「着色ジルコニア混合粉末」、「複色セラミックス生地」は、それぞれ、本件発明2の「ジルコニア」、「ジルコニアの相転移を抑制する安定化剤」、「顔料」、「積層用粉末」、「ジルコニア組成物」に相当する。
また、甲1発明の「少なくともZrO2、Y2O3及びFe2O3を含有する白色ジルコニア粉体及び黄色ジルコニア粉体」は、白色ジルコニア粉体と黄色ジルコニア粉体の色の違いがあり、Fe2O3含有量が異なっているといえるから、本件発明2の「顔料の含有率が異なる低添加率粉末及び高添加率粉末」に相当する。
そして、甲1発明の「前記白色ジルコニア粉体及び前記黄色ジルコニア粉体を、それぞれ60wt%:40wt%、70wt%:30wt%、80wt%:20wt%、90wt%:10wt%、95wt%:5wt%の割合で秤量して混合して、5種類の着色ジルコニア混合粉末を形成」すること、「5種類の前記着色ジルコニア混合粉末を直方体金型内に彩度が徐々に増すように順に添加して積層」することは、それぞれ、本件発明2の「前記低添加率粉末と前記高添加率粉末とを混合して少なくとも1つの積層用粉末を作製する混合工程」、「前記低添加率粉末、前記高添加率粉末及び前記積層用粉末のうち、少なくとも3つの粉末を型内に積層する積層工程」に相当する。
したがって、本件発明2は、甲1発明と、
「ジルコニア、ジルコニアの相転移を抑制する安定化剤及び顔料を含有し、前記顔料の含有率が異なる低添加率粉末及び高添加率粉末を作製する工程と、
前記低添加率粉末と前記高添加率粉末とを混合して少なくとも1つの積層用粉末を作製する混合工程と、
前記低添加率粉末、前記高添加率粉末及び前記積層用粉末のうち、少なくとも3つの粉末を型内に積層する積層工程と、を含むジルコニア組成物の製造方法。」
の点で一致し、以下の相違点2で相違している。
(相違点2)
本件発明2では、積層工程において、「前記型内の前記粉末のうちの1つの上に別の1つの前記粉末を充填する度に、前記型に振動を与えて前記粉末間の境界において上下層の前記粉末が部分的に混合した混合層を形成」しているのに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点。
上記相違点2について検討すると、上記ウの相違点1に対する検討と同様であるから、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明であるともいえないし、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第4号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 本件発明3~8、32に対する当審の判断
本件発明3~8、32は、本件発明1又は本件発明2を引用するものであって、少なくとも上記相違点1又は上記相違点2が存在するから、本件発明3~8、32も、上記ウ又はエで検討したとおり、甲第1号証に記載された発明であるともいえないし、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第4号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
カ 小活
以上のとおりであるから、特許法第29条第1項第3号及び第2項に関する申立理由に理由はない。
第3 むすび
以上のとおり、本件請求項9~31、33、34に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるものである。
また、本件請求項1~8、32に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって、特許を取り消すことはできない。そして、他に本件請求項1~8、32に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700639