特許異議申立
2019-700590
液晶表示装置及び偏光板
- 審判番号
- 2019-700590
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-014654
- 登録番号
- 特許第6459175号(P6459175)
- 請求日
- 2019年07月29日
- 審決日
- 2020年07月22日
- 公報発行日
- 2020年12月25日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】東洋紡株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】鈴木 美香
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬川 勝久
- 審判官 星野 浩一
- 審判官 山村 浩
- 分類
- P1651.121-ZDA(G02F) / P1651.537-ZDA(G02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6459175号発明「液晶表示装置及び偏光板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6459175号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項1-3について訂正することを認める。
特許第6459175号の請求項1に係る特許を取り消す。
同請求項2、3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6459175号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成26年1月29日に出願され、平成31年1月11日にその特許権の設定登録がされ、同年1月30日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和元年 7月29日 :特許異議申立人鈴木美香による請求項1ない
し3に係る特許に対する特許異議の申立て
(全請求項)
同年 9月 9日付け :取消理由通知(同年9月12日発送)
同年11月11日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年11月27日付け :通知書(同年12月2日発送)
同年12月24日 :特許異議申立人鈴木美香による意見書の提出
令和2年 1月16日付け:取消理由通知(同年1月22日発送)
同年 3月23日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 4月 7日付け :通知書(同年4月10日発送)
同年 5月 8日 :特許異議申立人鈴木美香による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年3月23日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲を、次のとおり訂正しようとするものである(下線は、当審が付したものである。以下、同じ。)。
なお、訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2は、一群の請求項である。
また、特許者は、訂正後の請求項2について、別途訂正することを求めている。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「【請求項1】
光源側偏光板及び視認側偏光板、並びにこれらの偏光板の間に配置される液晶セルを含む液晶表示装置であり、
光源側偏光板の光源側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Aを満たし、
光源側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Bを満たす、
液晶表示装置。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下であり、4500~30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルム
条件B:面内リタデーション(Re)が10nm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が20nm以下」と記載されているのを、
「【請求項1】
光源側偏光板及び視認側偏光板、並びにこれらの偏光板の間に配置される液晶セルを含む液晶表示装置であり、
光源側偏光板及び視認側偏光板が、それぞれ、ポリビニールアルコールフィルムからなる偏光子の両側に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板であり、
光源側偏光板の光源側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Aを満たし、
光源側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Bを満たす、
液晶表示装置。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下(ここで、前記熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である)、Nz係数が1.7以下であり、面配向度が0.08~0.13であり、4500~30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルム(但し、厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmである前記ポリエステルフィルムを除く)
条件B:面内リタデーション(Re)が10nm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が20nm以下」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「【請求項2】
液晶セルがインプレーンスイッチング(IPS)型液晶セルである、請求項1に記載の液晶表示装置。」と記載されているのを独立形式に書き改め、
「【請求項2】
光源側偏光板及び視認側偏光板、並びにこれらの偏光板の間に配置される液晶セルを含む液晶表示装置であり、
液晶セルがインプレーンスイッチング(IPS)型液晶セルであり、
光源側偏光板及び視認側偏光板が、それぞれ、ポリビニールアルコールフィルムからなる偏光子の両側に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板であり、
光源側偏光板の光源側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Aを満たし、
光源側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Bを満たす、
液晶表示装置。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下(ここで、前記熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である)、Nz係数が1.7以下であり、面配向度が0.08~0.13であり、4500~30000nmのリタデーションを有する一軸延伸ポリエステルフィルム(但し、厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmである前記ポリエステルフィルムを除く)
条件B:面内リタデーション(Re)が10nm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が20nm以下」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「【請求項3】
偏光子の両面に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板であり、一方の偏光子保護フィルが下記条件Aを満たし、他方の偏光子保護フィルムが下記条件Bを満たす、偏光板。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下であり、4500~30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルム
条件B:面内リタデーション(Re)が10nm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が20nm以下」と記載されているのを、
「【請求項3】
ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両面に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板であり、一方の偏光子保護フィルムが下記条件Aを満たし、他方の偏光子保護フィルムが下記条件Bを満たす、偏光板。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下(ここで、前記熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である)、Nz係数が1.7以下であり、面配向度が0.08~0.13であり、4500~30000nmのリタデーションを有する一軸延伸ポリエステルフィルム(但し、厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmである前記ポリエステルフィルムを除く)
条件B:面内リタデーション(Re)が10nm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が20nm以下」に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な、
(ア)「光源側偏光板」及び「視認側偏光板」について、「ポリビニールアルコールフィルムからなる偏光子の両側に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板」であることを特定し、
(イ)「熱収縮率」について、「フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である」ことを特定し、
(ウ)「4500~30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルム」について、「Nz係数が1.7以下、面配向度が0.08~0.13である」ことを特定し、
(エ)「厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmであるポリエステルフィルム」を除くものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項追加の有無
(ア)本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0017】
斜め方向の熱収縮率差を求める為のフィルムの熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である。」
「【0028】
(Nz係数)
偏光子保護フィルムAは、上述のリタデーションの範囲であることに加えて、|ny-nz|/|ny-nx|で表されるNz係数が1.7以下であることが好ましい。」
「【0030】
(面配向係数)
……面配向度が0.13以下にすることで、液晶表示装置を斜め方向から観察した場合に角度によって観察される虹斑を完全に解消することができる。面配向度は0.08以上が好ましく、より好ましくは0.10以上である。面配向度が0.08未満では、フィルム厚みが変動し、リタデーションの値がフィルム面内で不均一になる場合がある。」
「【0034】
(フィルム厚み)
偏光子保護フィルムAの厚みは、特に制限されないが、通常15~300μmであり、好ましくは15~200μmである。」
「【0048】
(配向ポリエステルフィルムの製造方法)
偏光子保護フィルムとして用いるフィルムは、一般的なフィルムの製造方法に従って製造することができる。……偏光子保護フィルムは、一軸延伸フィルムでも、二軸延伸フィルムであっても良い。」
「【0092】
2.偏光板
偏光板は、ヨウ素で染色されたポリビニルアルコール系フィルム等からなる偏光子の両側を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成である。……。」
(イ)上記(ア)からして、上記ア(ア)ないし(ウ)は、新規事項を追加するものではない。
また、本件特許明細書に、「厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmであるポリエステルフィルム」以外のポリエステルフィルムが記載されていることは明らかである。
ウ 実質拡張変更の有無
上記イに照らして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、請求項間の引用を解消して、独立形式請求項に改める訂正であって、訂正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な、
(ア)「光源側偏光板」及び「視認側偏光板」について、「ポリビニールアルコールフィルムからなる偏光子の両側に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板」であることを特定し、
(イ)「熱収縮率」について、「フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である」ことを特定し、
(ウ)「4500~30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルム」について、「『Nz係数が1.7以下であり、面配向度が0.08~0.13である』『一軸延伸ポリエステルフィルム』」であることを特定し、
(エ)「厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmであるポリエステルフィルム」を除くものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項追加の有無
(ア)本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0017】
斜め方向の熱収縮率差を求める為のフィルムの熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である。」
「【0028】
(Nz係数)
偏光子保護フィルムAは、上述のリタデーションの範囲であることに加えて、|ny-nz|/|ny-nx|で表されるNz係数が1.7以下であることが好ましい。」
「【0030】
(面配向係数)
……面配向度が0.13以下にすることで、液晶表示装置を斜め方向から観察した場合に角度によって観察される虹斑を完全に解消することができる。面配向度は0.08以上が好ましく、より好ましくは0.10以上である。面配向度が0.08未満では、フィルム厚みが変動し、リタデーションの値がフィルム面内で不均一になる場合がある。」
「【0034】
(フィルム厚み)
偏光子保護フィルムAの厚みは、特に制限されないが、通常15~300μmであり、好ましくは15~200μmである。」
「【0048】
(配向ポリエステルフィルムの製造方法)
偏光子保護フィルムとして用いるフィルムは、一般的なフィルムの製造方法に従って製造することができる。……偏光子保護フィルムは、一軸延伸フィルムでも、二軸延伸フィルムであっても良い。」
「【0092】
2.偏光板
偏光板は、ヨウ素で染色されたポリビニルアルコール系フィルム等からなる偏光子の両側を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成である。……。」
(イ)上記(ア)からして、上記ア(ア)ないし(ウ)は、新規事項を追加するものではない。
また、本件特許明細書に、「厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmであるポリエステルフィルム」以外のポリエステルフィルムが記載されていることは明らかである。
ウ 実質拡張変更の有無
上記イに照らして、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3に係る発明を特定するために必要な、
(ア)「偏光子」について、「ポリビニールアルコールフィルムからなる偏光子」であることを特定し、
(イ)「熱収縮率」について、「フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である」ことを特定し、
(ウ)「4500~30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルム」について、「『Nz係数が1.7以下であり、面配向度が0.08~0.13である』『一軸延伸ポリエステルフィルム』」であることを特定し、
(エ)「厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmであるポリエステルフィルム」を除くものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である
また、(オ)「一方の偏光子保護フィルが下記条件Aを満たし」を「一方の偏光子保護フィルムが下記条件Aを満たし」に訂正するものであるから、「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする訂正である。
イ 新規事項追加の有無
(ア)本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0017】
斜め方向の熱収縮率差を求める為のフィルムの熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である。」
「【0028】
(Nz係数)
偏光子保護フィルムAは、上述のリタデーションの範囲であることに加えて、|ny-nz|/|ny-nx|で表されるNz係数が1.7以下であることが好ましい。」
「【0030】
(面配向係数)
……面配向度が0.13以下にすることで、液晶表示装置を斜め方向から観察した場合に角度によって観察される虹斑を完全に解消することができる。面配向度は0.08以上が好ましく、より好ましくは0.10以上である。面配向度が0.08未満では、フィルム厚みが変動し、リタデーションの値がフィルム面内で不均一になる場合がある。」
「【0034】
(フィルム厚み)
偏光子保護フィルムAの厚みは、特に制限されないが、通常15~300μmであり、好ましくは15~200μmである。」
「【0048】
(配向ポリエステルフィルムの製造方法)
偏光子保護フィルムとして用いるフィルムは、一般的なフィルムの製造方法に従って製造することができる。……偏光子保護フィルムは、一軸延伸フィルムでも、二軸延伸フィルムであっても良い。」
「【0092】
2.偏光板
偏光板は、ヨウ素で染色されたポリビニルアルコール系フィルム等からなる偏光子の両側を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成である。……。」
(イ)上記(ア)からして、上記ア(ア)ないし(ウ)及び(オ)は、新規事項を追加するものではない。
また、本件特許明細書に、「厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmであるポリエステルフィルム」以外のポリエステルフィルムが記載されていることは明らかである。
ウ 実質拡張変更の有無
上記イに照らして、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない
3 訂正の適否についての小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-3について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明の認定
本件訂正は、上記「第2」のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」という。)は、本件訂正後の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認められる。
[本件訂正発明1]
「光源側偏光板及び視認側偏光板、並びにこれらの偏光板の間に配置される液晶セルを含む液晶表示装置であり、
光源側偏光板及び視認側偏光板が、それぞれ、ポリビニールアルコールフィルムからなる偏光子の両側に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板であり、
光源側偏光板の光源側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Aを満たし、
光源側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Bを満たす、
液晶表示装置。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下(ここで、前記熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である)、Nz係数が1.7以下であり、面配向度が0.08~0.13であり、4500~30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルム(但し、厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmである前記ポリエステルフィルムを除く)
条件B:面内リタデーション(Re)が10nm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が20nm以下」
[本件訂正発明2]
「光源側偏光板及び視認側偏光板、並びにこれらの偏光板の間に配置される液晶セルを含む液晶表示装置であり、
液晶セルがインプレーンスイッチング(IPS)型液晶セルであり、
光源側偏光板及び視認側偏光板が、それぞれ、ポリビニールアルコールフィルムからなる偏光子の両側に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板であり、
光源側偏光板の光源側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Aを満たし、
光源側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Bを満たす、
液晶表示装置。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下(ここで、前記熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である)、Nz係数が1.7以下であり、面配向度が0.08~0.13であり、4500~30000nmのリタデーションを有する一軸延伸ポリエステルフィルム(但し、厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmである前記ポリエステルフィルムを除く)
条件B:面内リタデーション(Re)が10nm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が20nm以下」
[本件訂正発明3]
「ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両面に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板であり、一方の偏光子保護フィルムが下記条件Aを満たし、他方の偏光子保護フィルムが下記条件Bを満たす、偏光板。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下(ここで、前記熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である)、Nz係数が1.7以下であり、面配向度が0.08~0.13であり、4500~30000nmのリタデーションを有する一軸延伸ポリエステルフィルム(但し、厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmである前記ポリエステルフィルムを除く)
条件B:面内リタデーション(Re)が10nm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が20nm以下」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし3に係る特許(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)に対して、当審が令和2年1月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
【理由1】(新規性欠如)
本件発明1ないし本件発明3は、甲第9号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1ないし本件発明3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
甲第9号証:国際公開第2011/162198号
【理由2】(進歩性欠如)
本件発明1ないし本件発明3は、甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1ないし本件発明3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。
甲第9号証 :国際公開第2011/162198号
甲第10号証:特開2009-6543号公報
【理由3】(明確性要件違反)
本件発明1ないし本件発明3に係る特許は、下記の理由により、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1ないし本件発明3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。
理由(1):「条件A」に関する発明特定事項は、液晶表示装置及び偏光板の構成(物の構造)をどのように特定することになるのか不明瞭である。
理由(2):熱収縮率は、測定条件(温度、湿度、時間等)により異なるものと解され、「条件A」に該当するフィルムを特定することができない。
第5 当審の判断
1 甲第9号証の記載内容
(1)甲第9号証には、以下の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
[請求項1] バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は白色発光ダイオードであり、
前記偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、
前記偏光子保護フィルムの少なくとも1つは3000~30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムである、液晶表示装置。
[請求項2]
……
[請求項4] 前記白色発光ダイオードが、青色LED素子と黄色蛍光体とで構成される、請求項1~3のいずれかに記載の液晶表示装置。」
イ 「[0021] 上記効果を奏するために、偏光子保護フィルムに用いられるポリエステルフィルムは、3000~30000nmのリタデーションを有することが好ましい。リタデーションが3000nm未満では、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察した時に強い干渉色を呈するため、包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し、良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm、次に好ましい下限値は5000nm、より好ましい下限値は6000nm、更に好ましい下限値は8000nm、より更に好ましい下限値は10000nmである。
一方、リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有するポリエステルフィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか、フィルムの厚みも相当に厚くなり、工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。
[0022]
……
[0025] 本発明の偏光板は、ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムを張り合わせた構造を有し、いずれかの偏光子保護フィルムが上記特定のリタデーションを有する偏光板保護フィルムであることを特徴とする。他方の偏光子保護フィルムには、TACフィルムやアクリルフィルム、ノルボルネン系フィルムに代表されるような複屈折が無いフィルムを用いることが好ましい。」
ウ 「[0035] 易接着層には易滑性を付与するために粒子を添加することが好ましい。微粒子の平均粒径は2μm以下の粒子を用いることが好ましい。粒子の平均粒径が2μmを超えると、粒子が被覆層から脱落しやすくなる。易接着層に含有させる粒子としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、シリカ、アルミナ、タルク、カオリン、クレー、リン酸カルシウム、雲母、ヘクトライト、ジルコニア、酸化タングステン、フッ化リチウム、フッ化カルシウム等の無機粒子や、スチレン系、アクリル系、メラミン系、ベンゾグアナミン系、シリコーン系等の有機ポリマー系粒子等が挙げられる。これらは、単独で易接着層に添加されてもよく、2種以上を組合せて添加することもできる。」
エ 「[0038] 本発明の保護フィルムであるポリエステルフィルムは、一般的なポリエステルフィルムの製造方法に従って製造することができる。例えば、ポリエステル樹脂を溶融し、シート状に押出し成形された無配向ポリエステルをガラス転移温度以上の温度において、ロールの速度差を利用して縦方向に延伸した後、テンターにより横方向に延伸し、熱処理を施す方法が挙げられる。
[0039] 本発明のポリエステルフィルムは一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもかまわないが、二軸延伸フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合、フィルム面の真上から観察しても虹状の色斑が見られないが、斜め方向から観察した時に虹状の色斑が観察される場合があるので注意が必要である。
[0040] この現象は、二軸延伸フィルムが、走行方向、幅方向、厚さ方向で異なる屈折率を有する屈折率楕円体からなり、フィルム内部での光の透過方向によりリタデーションがゼロになる(屈折率楕円体が真円に見える)方向が存在するためである。従って、液晶表示画面を斜め方向の特定の方向から観察すると、リタデーションがゼロになる点を生じる場合があり、その点を中心として虹状の色斑が同心円状に生じることとなる。そして、フィルム面の真上(法線方向)から虹状の色斑が見える位置までの角度をθとすると、この角度θは、フィルム面内の複屈折が度大きいほど大きくなり、虹状の色斑は見え難くなる。二軸延伸フィルムでは角θが小さくなる傾向があるため、一軸延伸フィルムのほうが虹状の色斑は見え難くなり好ましい。
[0041] しかしながら、完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下するので好ましくない。本発明は、実質的に虹状の色斑を生じない範囲、または液晶表示画面に求められる視野角範囲において虹状の色斑を生じない範囲で、2軸性(2軸対象性)を有していることが好ましい。
[0042] 本発明者等は、保護フィルムの機械的強度を保持しつつ、虹斑の発生を抑制する手段として、保護フィルムのリタデーション(面内リタデーション)と厚さ方向のリタデーション(Rth)との比が特定の範囲に収まるように制御することを見出した。厚さ方向位相差は、フィルムを厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz、△Nyzにそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られる位相差の平均を意味する。面内リタデーションと厚さ方向リタデーションの差が小さいほど、観察角度による複屈折の作用は等方性を増すため、観察角度によるリタデーションの変化が小さくなる。そのため、観察角度による虹状の色斑が発生し難くなると考えられる。
[0043] 本発明者等 本発明のポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は、好ましくは0.200以上、より好ましくは0.500以上、さらに好ましくは0.600以上である。上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が大きいほど、複屈折の作用は等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなる。そして、完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は2.0となる。しかし、前述のように完全な1軸性(1軸対称)フィルムに近づくにつれ配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下する。
[0044] 一方、本発明のポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下である。観察角度による虹状の色斑発生を完全に抑制するためには、上記リタデーションと厚さ方向位相差の比(Re/Rth)が2.0である必要は無く、1.2以下で十分である。また、上記比率が1.0以下であっても、液晶表示装置に求められる視野角特性(左右180度、上下120度程度)を満足することは十分可能である。
[0045]
……
[0049]
本発明のポリエステルフィルムの厚みは任意であるが、15~300μmの範囲が好ましく、より好ましくは15~200μmの範囲である。15μmを下回る厚みのフィルムでも、原理的には3000nm以上のリタデーションを得ることは可能である。しかし、その場合にはフィルムの力学特性の異方性が顕著となり、裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が著しく低下する。特に好ましい厚みの下限は25μmである。一方、偏光子保護フィルムの厚みの上限は、300μmを超えると偏光板の厚みが厚くなりすぎてしまい好ましくない。偏光子保護フィルムとしての実用性の観点からは厚みの上限は200μmが好ましい。特に好ましい厚みの上限は一般的なTACフィルムと同等程度の100μmである。上記厚み範囲においてもリタデーションを本発明の範囲に制御するために、フィルム基材として用いるポリエステルはポリエチレンタレフタレートが好適である。」
オ 「[0057](4)虹斑観察 PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に後述する方法で作成したポリエステルフィルムを偏光子の吸収軸とフィルムの配向主軸が垂直になるように貼り付け、その反対の面にTACフィルム(富士フイルム(株)社製、厚み80μm)を貼り付けて偏光板を作成した。得られた偏光板を、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDを光源(日亜化学、NSPW500CS)とする液晶表示装置の出射光側にポリエステルフィルなるとうに設置した。この液晶表示装置は、液晶セルの入射光側に2枚のTACフィルムを偏光子保護フィルムとする偏光板を有する。液晶表示装置の偏光板の正面、及び斜め方向から目視観察し、虹斑の発生有無について、以下のように判定した。」
(2)甲第9号証に記載された発明
ア 上記(1)アの記載からして、甲第9号証には、
「バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって(請求項1)、
前記バックライト光源は青色LED素子と黄色蛍光体とで構成される白色発光ダイオードであり(請求項4)、
前記偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、
前記液晶セルに対して出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムが、3000~30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムからなるフィルムである(請求項2)、
液晶表示装置。」が記載されているものと認められる。
以下、「2つの偏光板」を、それぞれ、「光源側偏光板」及び「視認側偏光板」という。
また、各偏光板における「(両側の)偏光子保護フィルム」を、それぞれ、「光源側偏光子保護フィルム」及び「視認側偏光子保護フィルム」という。
イ 上記(1)イの記載からして、以下のことが理解できる。
(ア)上記アの「3000~30000nmのリタデーション」は、8000~30000nmが好ましいものと認められる。
(イ)「光源側偏光板」及び「視認側偏光板」は、ポリビニルアルコールにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムを張り合わせた構造を有すること。
(ウ)視認側偏光板の光源側偏光子保護フィルムには、TACフィルムやアクリルフィルム、ノルボルネン系フィルムに代表されるような複屈折が無いフィルムを用いることが好ましいこと。
ウ 上記(1)ウの記載からして、
上記アの「(ポリエステルフィルムからなる)偏光子保護フィルム」は、易接着層を介して偏光子に貼り付けてもよいものと認められる。
エ 上記(1)エの記載からして、以下のことが理解できる。
(ア)面内リタデーションと厚さ方向リタデーションの差が小さいほど、観察角度による複屈折の作用は等方性を増すため、観察角度によるリタデーションの変化が小さくなること。
(イ)Re/Rthが大きいほど、複屈折の作用が等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなるものの、2.0に近づけると機械的強度が低下すること。
(ウ)比(Re/Rth)は、約1.0~1.2であってもよいこと。
(エ)ポリエステルフィルムは、厚みが25~200μmの一軸延伸又は二軸延伸ポリエステルフィルムであってもよいこと。
以下、簡略のため、厚さ方向リタデーションを「Rth」と表記する。
オ 上記(1)オの記載からして、以下のことが理解できる。
上記アの「(ポリエステルフィルムからなる)偏光子保護フィルム」は、その配向主軸が易接着層を介して偏光子の吸収軸に対して垂直になるように貼り付けてもよいこと。
カ 上記アないしオからして、甲第9号証には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「バックライト光源と、光源側偏光板及び視認側偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は、青色LED素子と黄色蛍光体とで構成される白色発光ダイオードであり、
前前光源側偏光板及び前記視認側偏光板は、ポリビニルアルコールにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムを張り合わせた構造を有し、
前記視認側偏光板の光源側偏光子保護フィルムは、
TACフィルムやアクリルフィルム、ノルボルネン系フィルムに代表されるような複屈折が無いフィルムであり、
前記視認側偏光板の光源側偏光子保護フィルムは、
8000~30000nmのリタデーションを有し、複屈折の作用が等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなるように比(Re/Rth)を約1.0~1.2にした、厚み25~200μmの一軸延伸又は二軸延伸ポリエステルフィルムであり、その配向主軸が易接着層を介して前記偏光子の吸収軸に対して垂直になるように貼り付けられている、液晶表示装置。」
2 甲第10号証の記載内容
(1)甲第10号証には、以下の記載がある。
ア 「【0028】
(面配向度(ΔP))
本発明の二軸配向フィルムは、面配向度(ΔP)が0.080~0.160であることが重要である。面配向度(ΔP)は、0.100~0.150がより好ましく、0.110~0.140がさらに好ましい。面配向度(ΔP)が0.160を超えた場合は、密着性改質層の上にハードコート剤を塗設した場合、干渉縞が目立ちやすくなるので好ましくない。一方、面配向度(ΔP)が0.080未満では、二軸延伸フィルムとしての特徴がなくなり、機械的な強度が著しく低下するので好ましくない。また、フィルムの厚み均一性も悪化する
【0029】
(配向主軸の最大歪み)
延伸倍率を下げ、面配向度を低下させることによりフィルムの幅方向に対する配向主軸の歪みを小さくすることができる。すなわち、逐次延伸による通常の延伸倍率(3~5倍)では、フィルムの幅方向の端部では、いわゆるボーイング現象により配向主軸が幅方向に対して歪む為、軸方向でのフィルムの物性に差が生じる。しかし、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムでは、延伸倍率を下げ、面配向度を低下しているため、端部においても配向主軸の歪が小さく、これにより幅方向での物性差が小さくなる。本発明のフィルムの配向主軸の最大の歪みは、30°以下が好ましい。特に、二軸配向ポリエステルフィルムがポリエチレンテレフタレートから構成されている場合の配向主軸の最大の歪みは、25°以下が好ましく、更には20°以下が好ましい。配向主軸の歪みが30°を越える場合、熱加工時に生じるねじれやたわみ、平面性の歪みが大きくなる。」
イ 「【0076】
本発明者は、同時二軸延伸による二軸配向ポリエステルフィルムの製造において、面配向が小さく、且つ、厚み斑の小さいポリエステルフィルムを得るためには、延伸倍率と延伸速度と延伸温度の関係が重要である事を見出し、延伸倍率と延伸速度と延伸温度を高度に制御することで本発明に至った。すなわち、延伸速度は小さくする程、延伸温度は高くする程、長鎖高分子の配向性は低くなり、面配向度(ΔP)を小さくする傾向にある。そこで、面配向度(ΔP)を下げるために、単に延伸倍率を小さくするだけでなく、延伸速度と延伸温度を高度に制御することで、厚み斑の少ない二軸配向ポリエステルフィルムの製造が可能となった。以下、それぞれについて詳細に説明するが、本発明の特徴を有する二軸配向ポリエステルフィルムであれば、下記方法以外により得られたとしても本発明の範囲に含まれる。」
(2)甲第10号証に記載の技術事項
上記(1)からして、甲第10号証には、次の技術的事項(以下、「甲第10号証に記載の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
「同時二軸延伸において、延伸倍率、延伸速度及び延伸温度を制御して、二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度(ΔP)を0.110~0.140とすることで、厚み斑が少なく、かつ、フィルムの幅方向に対する配向主軸の歪みの小さい、二軸配向ポリエステルフィルムを得られること。」
3 【理由2】(進歩性欠如)について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
(ア)a 引用発明の「光源側偏光板」は、本件訂正発明1の「光源側偏光板」に相当する。
以下、同様に、
「視認側偏光板」は、「視認側偏光板」に、
「液晶セル」は、「液晶セル」に、
「液晶表示装置」は、「液晶表示装置」に、
「視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルム」は、「視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルム」に、
「視認側偏光板の光源側偏光子保護フィルム」は、「視認側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルム」に、それぞれ、相当する。
b よって、 本件訂正発明1と引用発明とは「光源側偏光板及び視認側偏光板、並びにこれらの偏光板の間に配置される液晶セルを含む液晶表示装置である」点で一致する。
(イ)引用発明の「光源側偏光板及び視認側偏光板」は、「ポリビニルアルコールにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムを張り合わせた構造」を有するから、本件訂正発明1と引用発明とは「光源側偏光板及び視認側偏光板が、それぞれ、ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両側に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板である」点で一致する。
(ウ)a 偏光板は、ポリビニルアルコールフィルムをロールから連続的に巻き出し、染色タンクに搬送して染料を吸着させ、次いで延伸タンクに搬送して搬送方向に延伸して偏光子を形成し、この偏光子の両面に、上下2つのロールから偏光子保護フィルムを連続的に巻き出しながらラミネートし、最後にロール状に巻き取ることにより製造されることが、技術常識であると認められるところ、
引用発明の「視認側偏光子保護フィルム」は、「厚み25~200μmの一軸延伸又は二軸延伸ポリエステルフィルム」であるから、その製造工程における「MD方向」、「TD方向」、「MD方向(フィルム流れ方向)に対して+45度方向」及び「MD方向(フィルム流れ方向)に対して-45度方向」のそれぞれに、所定の熱収縮率を有することは、当業者にとって明らかである(以下「技術常識」という。)。
必要ならば、例えば、下記の文献を参照のこと。
甲第8号証(特開2002-172696公報の【0034】)
国際公開第2013/111779号(【0075】ないし
【0079】)
特開2010-274430号公報(【0002】ないし【0005】)
特開2010-165511号公報(【0013】及び表2)
特開2005-186555号公報(【0007】ないし【0011】)
特開2002-301763号公報(【0033】)
特開平11-254578号公報(【0026】)
特開昭58-36413号公報(特許請求の範囲)
ちなみに、特開2010-165511号公報の表2は、以下のものである。
※ 実施例1における製品中央部で、「45°熱収縮率(%)」と「135°熱収縮率(%)」との差がゼロであることが分かる。
b そうすると、上記工程で製造された引用発明の「視認側偏光板」における「視認側偏光子保護フィルム」は、ポリビニルアルコールのフィルム流れ方向に対して、「+45度方向の熱収縮率」と「-45度方向の熱収縮率」との差が所定値以下であることは、明らかである。
c また、引用発明の「視認側偏光子保護フィルム」は、「比(Re/Rth)を約1.0~1.2とした」ものであるところ、Nz係数は、ReとRthを用いると、Rth/Re+0.5と表せることから、該フィルムのNz係数は、1.3~1.5程度である。
d さらに、面配向度ΔPは「(nx+ny)/2-nz)」又は「Rth/d」で表せることから、引用発明の「8000~30000nmのリタデーションを有し…厚み25~200μmの一軸延伸又は二軸延伸ポリエステルフィルム」は、所定の面配向度を有することは、明らかである。
e そうすると、本件訂正発明1と引用発明とは、
「視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルムが、下記条件Aを満たし、
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差がイ%以下、Nz係数が1.7以下であり、面配向度がロであり、4500~30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムである」点で一致する。
(エ)引用発明の「光源側偏光子保護フィルム」は、「TACフィルムやアクリルフィルム、ノルボルネン系フィルムに代表されるような複屈折が無いフィルム」であるから、所定の面内リタデーション(Re)と、所定の厚み方向リタデーション(Rth)を有することは、当業者にとって明らかであるから、本件訂正発明1と引用発明とは、
「視認側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルムは、下記条件Bを満たす、
条件B:面内リタデーション(Re)がハnm以下であり、かつ、厚み方向のリタデーション(Rth)が二nm以下である」点で一致する。
(オ)引用発明の「視認側偏光子保護フィルム」は、「8000~30000nmのリタデーション」であるから、リタデーションが7350nmであるポリエステルフィルムを含まない。
よって、本件訂正発明1と引用発明とは、「厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmであるポリエステルフィルムを含まない」点で一致する。
(カ)以上のことから、本件訂正発明1と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「光源側偏光板及び視認側偏光板、並びにこれらの偏光板の間に配置される液晶セルを含む液晶表示装置であり、
光源側偏光板及び視認側偏光板が、それぞれ、ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両側に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板であり、
光源側偏光板の光源側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Aを満たし、
光源側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Bを満たす、
液晶表示装置。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差がイ%以下、Nz係数が1.7以下であり、面配向度がロであり、4500~30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルム(但し、厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmである前記ポリエステルフィルムを除く)
条件B:面内リタデーション(Re)がハnm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が二nm以下」
(キ)一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1>
条件Aに関して、
本件訂正発明1は、
a 「フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下(ここで、前記熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である。)」であり、
b 「面配向度が0.08~0.13」であるのに対して、
引用発明は、熱収縮率の差及び面配向度が不明である点。
<相違点2>
条件Bに関して、
本件訂正発明1は、「面内リタデーション(Re)が10nm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が20nm以下」であるのに対して、
引用発明は、不明である点。
イ 判断
(ア)まず、上記<相違点2>について検討する。
引用発明の「TACフィルムやアクリルフィルム、ノルボルネン系フィルムに代表されるような複屈折が無いフィルム」は、複屈折の生じないことを期待して採用するものであるから、面内リタデーション(Re)と厚み方向リタデーション(Rth)の両方がゼロに近いフィルムを選択することは、適宜なし得ることである。
必要ならば、下記の文献を参照。
特開2013-190778号公報(【0105】)
特開2010-243858号公報(【0032】)
特開2009-292961号公報(【要約】)
ちなみに、特開2010-243858号公報の【0032】には、以下の記載がある。
「【0032】
〔B-2.透明保護フィルム〕
前記透明保護フィルムは、特に制限されないが、色付が無いことが好ましい。前記透明保護フィルムの、波長550nmにおける面内位相差値Re[550]は、例えば、0~10nmの範囲であり、好ましくは、0~6nmの範囲であり、さらに好ましくは、0~3nmの範囲である。前記透明保護フィルムの、波長550nmにおける厚み方向位相差値Rth[550]は、例えば、0~20nmの範囲であり、好ましくは、0~10nmの範囲であり、より好ましくは、0~6nmの範囲であり、さらに好ましくは、0~3nmの範囲である。」
(イ)次に、上記<相違点1>について検討する。
a 偏光板(偏光子フィルムと偏光子保護フィルム)に反りが発生すると、光漏れなどの問題を生じることは、当該技術分野において周知の課題である。
必要ならば、特許異議申立書の第33ないし34頁に例示された下記の文献Aないし文献D等を参照。
文献A:特開2005-309394号公報(【0005】)
文献B:特開2007-264535号公報(【0001】~
【0002】)
文献C:特開2008-26797号公報(【0003】)
文献D:特開2009-98653号公報(【0004】)
さらに、必要ならば、国際公開第2007/023929号([要約]、[0314]及び図4を参照。)を参照。
ちなみに、図4は、以下のものである。
10…偏光膜
11…フィルム
12…(カールを矯正するための)フィルム
b ところで、フィルムの製品中央部では、熱収縮率の斜め差は小さいものの、フィルムの製品端部では、熱収縮率の斜め差が大きくなり、加工時等に、シワやカールなどが発生することは、当業者によく知られていることであって、熱収縮率の斜め差を小さくするために、オフラインアニール処理を施すことも、当業者によく知られていることである。
たとえば、上記「技術常識」を示す文献として提示した国際公開第2013/111779号の【0078】には「さらに、熱収縮率を低下させるためには、上記の工程で製造されたフィルムを一旦ロール状に巻き取った後、オフラインでアニールさせることもできる。」と記載されている。
また、特開2010-274430号公報の【0004】には「オフラインで二軸延伸ポリエステルフィルムに熱弛緩処理方法は、多数提案されている。例えば、懸垂状態で連続的に走行させたフィルムを、特定の温度条件下で弛緩することによって熱収縮率を0.1%以下にする方法がある(特許文献1)。」
さらに、特開2005-186555号公報の【0007】には「加工フィルムの取位置、つまり、製膜時にその機台の幅方向のどの位置の製品ロールかで加工特性が変化すること、いわゆるボーイング現象は良く知られている。機台の中心は長手方向と45度をなす直角二方向の物性の差異は少ないが、中央から機台の端に行くに従ってその長手方向と45度をなす直角二方向の特性の差異は大きくなり、歪が端部の製品程多く残っている。」と記載されている。
c してみると、偏光板に反りが生じないように、引用発明の「厚み25~200μmの一軸延伸又は二軸延伸ポリエステルフィルム」として、例えば、「製品中央部のロールフィルム」や「オフラインアニール処理を施したフィルム」を使用することに何ら困難性は認められない。
そして、該フィルムは、「フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下(ここで、前記熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である。)」であると認められる。
また、「0.4%以下」に臨界的な技術的意義は認められない。
d 次に、面配向度について検討する。
甲第10号証には、下記の「甲第10号証に記載された技術事項」が記載されている。
「同時二軸延伸において、延伸倍率、延伸速度及び延伸温度を制御して、二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度(ΔP)を0.110~0.140とすることで、厚み斑が少なく、かつ、フィルムの幅方向に対する配向主軸の歪みの小さい、二軸配向ポリエステルフィルムを得られること。」
そうすると、引用発明の「(8000~30000nmのリタデーションを有する)二軸延伸ポリエステルフィルム」においても、厚み斑が少なく、かつ、フィルムの幅方向に対する配向主軸の歪みの小さいものとなるように、面配向度を「0.11~0.14」程度に設定することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、「0.13以下」に臨界的な技術的意義は認められない。
(ウ)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点1>及び<相違点2>に係る本件訂正発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
ウ 効果
本件訂正発明1の奏する効果は、当業者が引用発明の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。
エ 令和2年3月23日提出の意見書(特許権者)における主張について
(ア)特許権者は、甲第10号証に記載された「ポリエステルフィルム」は、ほぼ等方的に二軸延伸されたポリエステルフィルムであり、引用発明の「視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルム」とは全く物性が異なるものであるから、面配向度だけを参考にして抜き出して、引用発明の「視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルム」に適用する動機のない旨主張する(第10頁後段ないし第11頁中段)。
しかしながら、甲第9号証の表1に示された、例えば、実施例8のフィルムは、走行方向延伸倍率3.5、幅方向延伸倍率3.7であり、ほぼ等方的に二軸延伸されたフィルムであるといえるから、甲第10号証に記載された「ポリエステルフィルム」と全く物性が異なるものであるとはいえない。
(イ)よって、特許権者の主張は、上記判断を左右するものではない。
オ 本件訂正発明1についての小括
本件訂正発明1は、当業者が引用発明及び甲第10号証に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
(2)本件訂正発明2について
ア 対比
(ア)a 引用発明の「光源側偏光板」は、本訂正件発明2の「光源側偏光板」に相当する。
以下、同様に、
「視認側偏光板」は、「視認側偏光板」に、
「液晶セル」は、「液晶セル」に、
「液晶表示装置」は、「液晶表示装置」に、
「視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルム」は、「視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルム」に、
「視認側偏光板の光源側偏光子保護フィルム」は、「視認側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルム」に、それぞれ、相当する。
b よって、 本件訂正発明2と引用発明とは「光源側偏光板及び視認側偏光板、並びにこれらの偏光板の間に配置される液晶セルを含む液晶表示装置である」点で一致する。
(イ)引用発明の「光源側偏光板及び視認側偏光板」は、「ポリビニルアルコールにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムを張り合わせた構造」を有するから、本件訂正発明2と引用発明とは「光源側偏光板及び視認側偏光板が、それぞれ、ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両側に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板である」点で一致する。
(ウ)a 偏光板は、ポリビニルアルコールフィルムをロールから連続的に巻き出し、染色タンクに搬送して染料を吸着させ、次いで延伸タンクに搬送して搬送方向に延伸して偏光子を形成し、この偏光子の両面に、上下2つのロールから偏光子保護フィルムを連続的に巻き出しながらラミネートし、最後にロール状に巻き取ることにより製造されることが、技術常識であると認められるところ、
引用発明の「視認側偏光子保護フィルム」は、「厚み25~200μmの一軸延伸又は二軸延伸ポリエステルフィルム」であるから、その製造工程における「MD方向」、「TD方向」、「MD方向(フィルム流れ方向)に対して+45度方向」及び「MD方向(フィルム流れ方向)に対して-45度方向」のそれぞれに、所定の熱収縮率を有することは、当業者にとって明らかである。
b そうすると、上記工程で製造された引用発明の「視認側偏光板」における「視認側偏光子保護フィルム」は、ポリビニルアルコールのフィルム流れ方向に対して、「+45度方向の熱収縮率」と「-45度方向の熱収縮率」との差が所定値以下であることは、明らかである。
c また、引用発明の「視認側偏光子保護フィルム」は、「比(Re/Rth)を約1.0~1.2とした」ものであるところ、Nz係数は、ReとRthを用いると、Rth/Re+0.5と表せることから、該フィルムのNz係数は、1.3~1.5程度である。
d さらに、面配向度ΔPは「(nx+ny)/2-nz)」又は「Rth/d」で表せることから、引用発明の「8000~30000nmのリタデーションを有し…厚み25~200μmの一軸延伸又は二軸延伸ポリエステルフィルム」は、所定の面配向度を有することは、明らかである。
e そうすると、本件訂正発明2と引用発明とは、
「視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルムが、下記条件Aを満たし、
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差がイ%以下、Nz係数が1.7以下であり、面配向度がロであり、4500~30000nmのリタデーションを有する一軸延伸ポリエステルフィルムである」点で一致する。
(エ)引用発明の「光源側偏光子保護フィルム」は、「TACフィルムやアクリルフィルム、ノルボルネン系フィルムに代表されるような複屈折が無いフィルム」であるから、所定の面内リタデーション(Re)と、所定の厚み方向リタデーション(Rth)を有することは、当業者にとって明らかであるから、本件訂正発明2と引用発明とは、
「視認側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルムは、下記条件Bを満たす、
条件B:面内リタデーション(Re)がハnm以下であり、かつ、厚み方向のリタデーション(Rth)が二nm以下である」点で一致する。
(オ)引用発明の「視認側偏光子保護フィルム」は、「8000~30000nmのリタデーション」であるから、リタデーションが7350nmであるポリエステルフィルムを含まない。
よって、本件訂正発明2と引用発明とは、「厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmであるポリエステルフィルムを含まない」点で一致する。
(カ)以上のことから、本件訂正発明2と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「光源側偏光板及び視認側偏光板、並びにこれらの偏光板の間に配置される液晶セルを含む液晶表示装置であり、
光源側偏光板及び視認側偏光板が、それぞれ、ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両側に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板であり、
光源側偏光板の光源側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Aを満たし、
光源側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルム又は視認側偏光板の液晶セル側偏光子保護フィルムの少なくとも一方が、下記条件Bを満たす、
液晶表示装置。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差がイ%以下、Nz係数が1.7以下であり、面配向度がロであり、4500~30000nmのリタデーションを有する一軸延伸ポリエステルフィルム(但し、厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmである前記ポリエステルフィルムを除く)
条件B:面内リタデーション(Re)がハnm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が二nm以下」
(キ)一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点3>
液晶セルに関して、
本件訂正発明2は、「インプレーンスイッチング(IPS)型液晶セル」であるのに対して、
引用発明は、不明である点。
<相違点4>
条件Aに関して、
本件訂正発明2は、
a 「フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下(ここで、前記熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である。)」であり、
b 「面配向度が0.08~0.13」であるのに対して、
引用発明は、熱収縮率の差及び面配向度が不明である点。
<相違点5>
条件Bに関して、
本件訂正発明2は、「面内リタデーション(Re)が10nm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が20nm以下」であるのに対して、
引用発明は、不明である点。
イ 判断
(ア)まず、上記<相違点4>について検討する。
a 甲第10号証には、上述のとおり「甲第10号証に記載された技術事項」が記載されている。
引用発明の「8000~30000nmのリタデーションを有し、……厚み25~200μmの一軸延伸又は二軸延伸ポリエステルフィルム」と上記「『同時二軸延伸により得られる』『二軸配向ポリエステルフィルム』」とは、延伸倍率等を制御することにより製造される「延伸ポリエステルフィルム」である点で共通する。
b しかしながら、「甲第10号証に記載の技術事項」は、「『同時二軸延伸により得られる』『二軸延伸ポリエステルフィルム』」に関するものであって、甲第10号証の他の記載を見ても、「一軸延伸ポリエステルフィルム」の面配向度を「0.110~0.140」にすることを示唆する記載はない。
また、特許異議申立人が提出した他の各甲号証の記載を見ても、面配向度に関する記載はなく、面配向度に着目することを示唆する記載もない。
c さらに、引用発明において、一軸延伸ポリエステルフィルムの各複屈折率や厚さを調整することにより、面配向度を0.08~0.13」にするか否かを検討しても、以下のとおり、そのような調整を行う動機はない。
すなわち、当該調整は、面配向度のみならず、一致点として認定された面内リタデーションの値及びNz係数の値にも影響を及ぼすものであり、しかも、当該調整をすることで至ることができる本件訂正発明2は、上記面内リタデーションの値及びNz係数の値に加え、相違点4に係る構成をも備えることにより、「液晶表示装置を斜め方向から観察した場合に角度によって観察される虹斑を完全に解消することができる」という作用効果を奏するものである。
そうすると、引用発明から出発した当業者が、一致点を維持しつつ、相違点4に係る構成に至るためには、甲第10号証や他の各甲号証に、そのような調整をするための積極的ないし具体的な動機が記載されていることを要するというべきところ、これらの証拠には、そのようなものが見いだせない。
したがって、引用発明において、一軸延伸ポリエステルフィルムの各複屈折率や厚さを調整することにより、相違点4に係る構成に至る動機はない。
(イ)以上の検討によれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、当業者が引用発明及び甲第10号証に記載された技術事項に基づいて容易に発明することができたものであるとはいえない。
ウ 令和2年5月8日提出の意見書(特許異議申立人)における主張について
請求人は、甲2号証(特開2011-59488号公報)の【0072】には、Nz係数は、2.0未満であれば小さいほど色ムラ低減の効果を発揮すること、甲第9号証の【0043】には、比(Re/Rth)が大きいほど、複屈折の作用は等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなることが記載されており、引用発明において、色斑低減のためにRthを小さくする動機付けがある旨主張する(第5頁中段ないし第6頁上段)。
しかしながら、「Nz係数(Rth/Re+0.5)」を小さく、比(Re/Rth)を大きくするためには、Rthを小さくする以外に、Reを大きくしてもよいのであるから、甲第9号証が、色斑低減のためにRthを小さくすることを開示しているとまでは言い難い。そうであるならば、甲第2号証の【0072】及び甲第9号証の【0043】の記載を考慮したとしても、上記イ(ア)でした判断が左右されることはない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。
エ 本件訂正発明2についての小括
本件訂正発明2は、当業者が引用発明及び甲第10号証に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 本件訂正発明3について
ア 対比
(ア)a 引用発明の「光源側偏光板」及び「視認側偏光板」は、本訂正件発明3の「偏光板」に相当する。
以下、同様に、
「視認側偏光板の視認側偏光子保護フィルム」は、「一方の偏光子保護フィルム」に、
「視認側偏光板の光源側偏光子保護フィルム」は、「他方の偏光子保護フィルム」に、それぞれ、相当する。
(イ)引用発明の「光源側偏光板及び視認側偏光板」は、「ポリビニルアルコールにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムを張り合わせた構造」を有するから、本件訂正発明3と引用発明とは「ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両面に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板である」点で一致する。
(ウ)a 偏光板は、ポリビニルアルコールフィルムをロールから連続的に巻き出し、染色タンクに搬送して染料を吸着させ、次いで延伸タンクに搬送して搬送方向に延伸して偏光子を形成し、この偏光子の両面に、上下2つのロールから偏光子保護フィルムを連続的に巻き出しながらラミネートし、最後にロール状に巻き取ることにより製造されることが、技術常識であると認められるところ、
引用発明の「視認側偏光子保護フィルム」は、「厚み25~200μmの一軸延伸又は二軸延伸ポリエステルフィルム」であるから、その製造工程における「MD方向」、「TD方向」、「MD方向(フィルム流れ方向)に対して+45度方向」及び「MD方向(フィルム流れ方向)に対して-45度方向」のそれぞれに、所定の熱収縮率を有することは、当業者にとって明らかである。
b そうすると、上記工程で製造された引用発明の「視認側偏光板」における「視認側偏光子保護フィルム」は、ポリビニルアルコールのフィルム流れ方向に対して、「+45度方向の熱収縮率」と「-45度方向の熱収縮率」との差が所定値以下であることは、明らかである。
c また、引用発明の「視認側偏光子保護フィルム」は、「比(Re/Rth)を約1.0~1.2とした」ものであるところ、Nz係数は、ReとRthを用いると、Rth/Re+0.5と表せることから、該フィルムのNz係数は、1.3~1.5程度である。
d さらに、面配向度ΔPは「(nx+ny)/2-nz)」又は「Rth/d」で表せることから、引用発明の「8000~30000nmのリタデーションを有し…厚み25~200μmの一軸延伸又は二軸延伸ポリエステルフィルム」は、所定の面配向度を有することは、明らかである。
e そうすると、本件訂正発明3と引用発明とは、
「ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両面に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板であり、一方の偏光子保護フィルムが下記条件Aを満たす、偏光板。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差がイ%以下、Nz係数が1.7以下であり、面配向度がロであり、4500~30000nmのリタデーションを有する一軸延伸ポリエステルフィルムである」点で一致する。
(エ)引用発明の「光源側偏光子保護フィルム」は、「TACフィルムやアクリルフィルム、ノルボルネン系フィルムに代表されるような複屈折が無いフィルム」であるから、所定の面内リタデーション(Re)と、所定の厚み方向リタデーション(Rth)を有することは、当業者にとって明らかであるから、本件訂正発明3と引用発明とは、「他方の偏光子保護フィルムが下記条件Bを満たす、
条件B:面内リタデーション(Re)がハnm以下であり、かつ、厚み方向のリタデーション(Rth)が二nm以下である」点で一致する。
(オ)引用発明の「視認側偏光子保護フィルム」は、「8000~30000nmのリタデーション」であるから、リタデーションが7350nmであるポリエステルフィルムを含まない。
よって、本件訂正発明3と引用発明とは、「厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmであるポリエステルフィルムを含まない」点で一致する。
(カ)以上のことから、本件訂正発明3と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両面に偏光子保護フィルムが設けられた偏光板であり、一方の偏光子保護フィルムが下記条件Aを満たし、他方の偏光子保護フィルムが下記条件Bを満たす、偏光板。
条件A:フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差がイ%以下、Nz係数が1.7以下であり、面配向度がロであり、4500~30000nmのリタデーションを有する一軸延伸ポリエステルフィルム (但し、厚みが75μmであり、リタデーションが7350nmであり、厚み方向のリタデーション(Rth)が7800nmである前記ポリエステルフィルムを除く)
条件B:面内リタデーション(Re)がハnm以下であり、かつ、厚み方向のリタデーション(Rth)が二nm以下」
(キ)一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点6>
条件Aに関して、
本件訂正発明3は、
a 「フィルム流れ方向に対して+45度方向の熱収縮率とフィルム流れ方向に対して-45度方向の熱収縮率との差が0.4%以下(ここで、前記熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である。)」であり、
b 「面配向度が0.08~0.13」であるのに対して、
引用発明は、熱収縮率の差及び面配向度が不明である点。
<相違点7>
条件Bに関して、
本件訂正発明3は、「面内リタデーション(Re)が10nm以下であり、且つ、厚み方向リタデーション(Rth)が20nm以下」であるのに対して、
引用発明は、不明である点。
イ 判断
(ア)まず、上記<相違点6>について検討する。
上記〈相違点4〉と同様。
(イ)以上の検討によれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明3は、当業者が引用発明及び甲第10号証に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 令和2年5月8日提出の意見書(特許異議申立人)における主張について
請求人は、甲2号証(特開2011-59488号公報)の【0072】には、Nz係数は、2.0未満であれば小さいほど色ムラ低減の効果を発揮すること、甲9号証の【0043】には、比(Re/Rth)が大きいほど、複屈折の作用は等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなることが記載されており、引用発明において、色斑低減のためにRthを小さくする動機付けがある旨主張する(第5頁中段ないし第6頁上段)。
しかしながら、「Nz係数(Rth/Re+0.5)」を小さく、比(Re/Rth)を大きくするためには、Rthを小さくする以外に、Reを大きくしてもよく、上記イ(ア)と同様の理由で、そのようにする動機はない。
したがって、当業者が、引用発明、及び甲第2号証又は甲第10号証に記載された技術的事項に基づいて本件訂正発明3に係る構成に至ることはない。
エ 本件訂正発明3についての小括
本件訂正発明3は、当業者が引用発明及び甲第10号証に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)【理由2】(進歩性欠如)についてのまとめ
本件訂正発明1は、「【理由2】(進歩性欠如)」によっては、取り消すべきものである。
本件訂正発明2及び本件訂正発明3は、「【理由2】(進歩性欠如)」によっては、取り消すことができない。
4 【理由3】(明確性要件違反)について
理由(1):「条件A」に関する発明特定事項は、液晶表示装置及び偏光板の構成(物の構造)をどのように特定することになるのか不明瞭である。
理由(2):熱収縮率は、測定条件(温度、湿度、時間等)により異なるものと解され、「条件A」に該当するフィルムを特定することができない。
(1)まず、理由(2)について
本件訂正により、「(ここで、前記熱収縮率は、フィルムを85℃で30分間、水中で加熱処理した時に求められる値である)」との構成が追加され、これにより、測定条件が明確になり、理由(2)は解消された。
(2)次に、理由(1)について
ア 偏光板は、ポリビニルアルコールフィルムをロールから連続的に巻き出し、染色タンクに搬送して染料を吸着させ、次いで延伸タンクに搬送して搬送方向に延伸して偏光子を形成し、この偏光子の両面に、上下2つのロールから偏光子保護フィルムを連続的に巻き出しながらラミネートし、最後にロール状に巻き取ることにより製造されることが、技術常識であると認められる。
イ 上記技術常識によれば、偏光フィルムにおいては、「フィルム流れ方向」と延伸方向とが一致することになる。そして、当該延伸方向が偏光子の吸収軸に対して平行な方向になることも技術常識である。
そうすると、「フィルム流れ方向」とは、偏光子の吸収軸に対して平行な方向であると解するのが自然であり(なお、特許権者もそのように説明をする。)、本件明細書の他の箇所をみても、その理解に反する記載は存在しない。
そうだとすると、製造後の偏光板であっても、偏光子の吸収軸の方向を調べることにより「フィルム流れ方向」を特定することができることになる。
ウ よって、理由(3)は解消された。
(3)令和2年5月8日提出の意見書(特許異議申立人)における主張について
特許異議申立人は、偏光フィルム(偏光子)の吸収軸と保護フィルムの流れ方向とは、平行な方向以外もあり、保護フィルムの流れ方向が偏光子の吸収軸に対して平行な方向であることは、本件特許の出願時に技術常識であるとはいえない旨主張する(第10頁上段)。
しかしながら、「フィルム流れ方向」とは、その文言に照らせば、ポリビニルアルコールフィルムの搬送方向であると解すべきであって、偏光子保護フィルム(ポリエステルフィルム)の搬送方向ではない。
よって、特許異議申立人の主張は、上記(2)の判断を左右するものではない。
(4) 【理由3】(明確性要件違反)についてのまとめ
本件訂正発明1ないし本件訂正発明3は、「【理由3】(明確性要件違反)」によっては、取り消すことができない。
5 【理由1】(新規性欠如)について
(1)本件訂正発明1について
上記「2 【理由2】(進歩性欠如)について」で検討したように、本件訂正発明1と引用発明とは、上記<相違点1>及び上記<相違点2>で相違する。
よて、本件訂正発明1は、引用発明であるとはいえない。
(2)本件訂正発明2について
上記「2 【理由2】(進歩性欠如)について」で検討したように、本件訂正発明2と引用発明とは、上記<相違点3>ないし上記<相違点5>で相違する。
よて、本件訂正発明2は、引用発明であるとはいえない。
(3)本件訂正発明3について
上記「2 【理由2】(進歩性欠如)について」で検討したように、本件訂正発明3と引用発明とは、上記<相違点6>及び上記<相違点7>で相違する。
よて、本件訂正発明3は、引用発明であるとはいえない。
(4)【理由1】(新規性欠如)についてのまとめ
本件訂正発明1ないし本件訂正発明3は、「【理由1】(新規性欠如)」によっては、取り消すことができない。
6 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第2項について
特許異議申立人は、甲第1号証(特開2004-226734号公報)に記載された発明と周知技術とを組み合わせることにより、本件訂正発明1ないし3は、当業者が容易に想到し得る旨を主張している。
しかしながら、甲第1号証に記載された発明は、面配向度について何ら記載されておらず、さらに、一致点を維持しつつ、一軸延伸ポリエステルフィルムの各複屈折率や厚さを調整することにより、面配向度を「0.08~0.13」とする動機はない。
したがって、特許異議申立人の主張する特許異議申立て理由によっては、本件訂正発明2ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
よって、特許異議申立人の当該主張は、採用することはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1は、当業者が甲第9号証及び第10号証に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正発明2及び本件訂正発明3に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載された理由によっては取り消すことができない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-700590