特許異議申立
2019-700547
排水装置
- 審判番号
- 2019-700547
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-078261
- 登録番号
- 特許第6454842号(P6454842)
- 請求日
- 2019年07月11日
- 審決日
- 2020年07月16日
- 公報発行日
- 2020年10月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】丸一株式会社
- 【権利者代理人】松本 好史
- 【権利者代理人】竹田 千穂
- 【権利者代理人】平山 照
- 【権利者代理人】小澤 壯夫
- 【異議申立人】平賀 博
- 審判長/審判官
- 審判長 秋田 将行
- 審判官 森次 顕
- 審判官 袴田 知弘
- 分類
- P1651.113-YAA(E03C) / P1651.121-YAA(E03C) / P1651.536-YAA(E03C) / P1651.537-YAA(E03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第131条の2第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6454842号発明「排水装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6454842号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1,2,5,6〕について訂正することを認める。
特許第6454842号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6454842号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成26年4月4日に出願され、平成30年12月28日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月23日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。
令和 1年 7月11日 特許異議申立人平賀博(以下「申立人」とい
う。)による請求項1ないし6に係る発明の
特許に対する特許異議の申立て
同年10月 3日付け 取消理由通知
同年12月 6日 意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 1月15日付け 訂正拒絶理由通知
同年 2月19日 意見書及び手続補正書の提出
なお、申立人は意見書の提出を希望しており、当審は令和1年12月6日提出の訂正請求書による訂正の請求(令和2年2月19日提出の手続補正書により補正されたもの)について、令和2年2月28日付け通知書によって意見を提出する機会を与えたが、申立人から期間内に応答はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1.訂正請求の補正について
令和1年12月6日提出の訂正請求書及びこれに添付した訂正特許請求の範囲及び明細書は、令和2年2月19日提出の手続補正書により補正されたので、まず当該補正(以下「本件補正」という。)の適否について検討する。
(1)補正の内容
本件補正の内容は以下のとおりである(下線は当審で付した。以下同様。)。
ア.特許請求の範囲の請求項2に「遠隔操作用弁部材21及び作動部3に反発しあう極性に配置した磁石部を備え」と記載されているのを「端部を含む一部の部材として遠隔操作用弁部材21及び作動部3に反発しあう極性に配置した磁石部を備え」に訂正するとした、本件補正前の訂正事項2を削除する。
イ.願書に添付した明細書の段落【0007】に「遠隔操作用弁部材21及び作動部3に反発しあう極性に配置した磁石部を備え」と記載されているのを「端部を含む一部の部材として遠隔操作用弁部材21及び作動部3に反発しあう極性に配置した磁石部を備え」に訂正するとした、本件補正前の訂正事項4を削除する。
ウ.願書に添付した明細書の段落【0012】に「遠隔操作用弁部材の端部から一部の部材を取り外すことで、」及び「遠隔操作用弁部材の磁石部を取り外すことで、」と記載されているのを、「作動部に干渉する端部を含む一部の部材を遠隔操作用弁部材より取り外すことで、」及び「端部を含む一部の部材としての磁石部を遠隔操作用弁部材より取り外すことで、」に訂正するとした、本件補正前の訂正事項5(本件補正後の訂正事項3に対応)のうち、「遠隔操作用弁部材の磁石部を取り外すことで、」と記載されているのを「端部を含む一部の部材としての磁石部を遠隔操作用弁部材より取り外すことで、」に訂正するとした部分を削除する。
(2)補正の適否
ア.上記「(1)ア.」の補正は、請求項2に係る訂正事項を削除する補正であるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
イ.上記「(1)イ.及びウ.」の補正は、請求項2に係る訂正事項が上記「(1)ア.」の補正によって削除されることに伴い、これに対応する明細書の訂正事項を削除する補正であるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
ウ.したがって、本件補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第131条の2第1項の規定に適合するので、当該補正を認める。
2.訂正の内容
本件補正は上記「1.」のとおり認められるから、令和1年12月6日提出の訂正請求書(令和2年2月19日提出の補正書により補正されたもの。以下、単に「本件訂正請求書」という。)による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
ア.「上下動により排水口1aを開閉する遠隔操作用弁部材21と」
とあるのを、
「端部を含む一部の部材が作動部3に干渉し、上下動により排水口1aを開閉する遠隔操作用弁部材21と」
と訂正し、
イ.「遠隔操作用弁部材21の端部から一部の部材を取り外すことで、手動用弁部材22とすることを特徴とする」
とあるのを、
「作動部3に干渉する端部を含む一部の部材を遠隔操作用弁部材21より取り外すことで、手動用弁部材22とすることを特徴とする」
と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、5及び6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0006】に、
ア.「上下動により排水口1aを開閉する遠隔操作用弁部材21と」
とあるのを、
「端部を含む一部の部材が作動部3に干渉し、上下動により排水口1aを開閉する遠隔操作用弁部材21と」
と訂正し、
イ.「遠隔操作用弁部材21の端部から一部の部材を取り外すことで、手動用弁部材22とすることを特徴とする」
とあるのを、
「作動部3に干渉する端部を含む一部の部材を遠隔操作用弁部材21より取り外すことで、手動用弁部材22とすることを特徴とする」
と訂正する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0012】に、
「遠隔操作用弁部材の端部から一部の部材を取り外すことで、」
とあるのを、
「作動部に干渉する端部を含む一部の部材を遠隔操作用弁部材より取り外すことで、」
と訂正する。
3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的の適否
上記訂正事項1のうち上記「2.(1)ア.」の訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1について、「遠隔操作用弁部材21」が「端部を含む一部の部材が作動部3に干渉」するものであることを特定するものである。
次に、上記訂正事項1のうち上記「2.(1)イ.」の訂正についてみると、訂正後の「作動部3に干渉する端部を含む一部の部材」を「遠隔操作用弁部材21より取り外す」場合に、当該「一部の部材」が「遠隔操作用弁部材21の端部から」取り外されることになることは自明であるから、当該訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1について、「一部の部材」が「作動部3に干渉する端部を含む」ことを特定するものであるといえる。
そうすると、上記訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)には以下の記載がある。
a.段落【0014】
「第一磁石部2cは、その内部に永久磁石を備えた棒状の部材であって、棒状の部分が弁軸2b内部に収納されると共に、その一端に弁軸2bの係合部9aに着脱自在に係合する被係合部9bを備えてなる。上記のように、弁軸2bの内部に第一磁石部2cを収納する際、係合部9aと被係合部9bとを係合させるためには、弁軸2bに第一磁石部2cを挿入する際に特定の定まった方向(以下「適正な方向」)に挿入させる必要があるように構成されており、適正な方向以外の方向では弁軸2bに第一磁石部2cを挿入したり、係合部9aと被係合部9bとが係合することができないよう構成されている。このため、第一磁石部2cの永久磁石と第二磁石部3cの永久磁石とは常に反発する方向に配置される。」
b.段落【0016】
「この状態より操作部4のタッチパネル4cに操作を加え、排水口1aを開口するように操作を行うと、作動部3のステッピングモーターが作動し、図6に示したように、第二磁石部3cが排水口1aの直下となる位置までスライド部3bが突出する。すると、第一磁石部2cの磁石と第二磁石部3cの磁石とが反発し、この反発力によって遠隔操作用弁部材21の磁石部、弁軸2b、弁体部2aが上昇する。支持部材6は排水口1aに係合し固定されており、該支持部材6がガイド部として機能するため、遠隔操作用弁部材21は排水口1aに対して傾いたりせず、単純に上昇のみを行う。
(中略)
この状態より操作部4のタッチパネル4cに操作を加え、排水口1aを閉口するように操作を行うと、作動部3のステッピングモーターが作動しスライド部3bが作動部本体3a側に後退する。これにより、第二磁石部3cが縦管部5cの直下となる位置から移動し、第一磁石部2cの磁石と第二磁石部3cの磁石とが離間して磁力の反発で生じる応力が弱まるため、遠隔操作用弁部材21の磁石部、弁軸2b、弁体部2aが降下する。この時は、開口時同様に支持部材6がガイド部として機能するため、遠隔操作用弁部材21は排水口1aに対して傾いたりせず、単純に降下する。」
c.段落【0017】
「本実施例の遠隔操作用弁部材21は、物理的には排水口1a内部や継手部材5の内部に干渉する形状では無く、第一磁石部2cを取り外し、磁力の反発も無くなった為、遠隔操作用弁部材21が排水口1aの閉口時作動部3に干渉しない弁部材、即ち手動用弁部材22となり、図9に示したように、排水口1aを、手動用弁部材22にて閉口することができる(ここでいう「閉口時に干渉する構造」とは、「物的接触による干渉」だけを指し示すものではなく、例えば「閉口を不可能とする磁力による干渉」等、閉口の障害となる全ての干渉を示すものである)。」
(イ)上記「(ア)a.」の記載を踏まえると、図3ないし図7からは、「第一磁石部2c」が「遠隔操作用弁部材21」の端部を含む一部であることを看取できる。
(ウ)上記「(ア)c.」における「干渉」についての説明を考慮すると、上記「(ア)b.」の「第一磁石部2cの磁石と第二磁石部3cの磁石とが反発」することは、第一磁石部2cの磁石と第二磁石部3cの磁石とが干渉することであるといえる。そうすると、本件特許明細書には、「第一磁石部2c」が「第二磁石部3c」を含む作動部3に干渉することが記載されているものと認められる。
(エ)そうすると、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。
(オ)また、訂正事項1は、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(カ)訂正事項1は、請求項1を引用する請求項2、5及び6についても同様に訂正するものであるが、かかる訂正についても、上記と同様に本件明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(キ)したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2及び3について
上記訂正事項2及び3に係る訂正はいずれも、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲と明細書の記載を整合させる訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、当該訂正は、上記訂正事項1に係る訂正と同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2及び3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
本件特許異議の申立は、訂正前の全ての請求項に対してされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
(4)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1、2、5及び6は、請求項2、5及び6がそれぞれ請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1、2、5及び6に対応する訂正後の請求項1、2、5及び6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、訂正事項1ないし3に係る訂正は、本件訂正前の請求項1、2、5及び6に関係する訂正であるから、本件訂正請求は一群の請求項ごとにされたものである。
4.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第6項及び第7項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び明細書のとおり、訂正後の請求項〔1,2,5,6〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正特許発明1」ないし「本件訂正特許発明6」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
槽体に開口した排水口1aと、
端部を含む一部の部材が作動部3に干渉し、上下動により排水口1aを開閉する遠隔操作用弁部材21と、
該遠隔操作用弁部材21を上下動させる作動部3と、
作動部3の動作を制御して、遠隔操作用弁部材21による排水口1aの開閉を操作する操作部4と、からなる、
槽体に設けられた排水口1aを遠隔操作的に開閉するための排水装置において、
遠隔操作用弁部材21が排水口1aを閉口できなくなった際に、
閉口時作動部3に干渉しない構造であって、操作部4の操作を介さずに排水口1aを閉口する手動用弁部材22を備え、
作動部3に干渉する端部を含む一部の部材を遠隔操作用弁部材21より取り外すことで、
手動用弁部材22とすることを特徴とする排水装置。
【請求項2】
上記排水装置において、遠隔操作用弁部材21及び作動部3に反発しあう極性に配置した磁石部を備え、該磁石部の磁石の反発を利用して遠隔操作用弁部材21を上下動させると共に、
遠隔操作用弁部材21から磁石部を取り外すことで、手動用弁部材22とすることを特徴とする、請求項1に記載の排水装置。
【請求項3】
槽体に開口した排水口1aと、
上下動により排水口1aを開閉する遠隔操作用弁部材21と、
該弁部材を上下動させる作動部3と、
作動部3の動作を制御して、遠隔操作用弁部材21による排水口1aの開閉を操作する操作部4と、からなる、
槽体に設けられた排水口1aを遠隔操作的に開閉するための排水装置において、
作動部3の端部から少なくとも一部の部材を変形又は排水装置より取り外すことで、遠隔操作用弁部材21が排水口1aを閉口できなくなった際に、遠隔操作用弁部材21が、閉口時作動部3に干渉することなく排水口1aを閉口することが可能な手動用弁部材22となるように構成したことを特徴とする排水装置。
【請求項4】
上記排水装置において、遠隔操作用弁部材21及び作動部3に反発しあう極性に配置した磁石部を備え、該磁石部の磁石の反発を利用して遠隔操作用弁部材21を上下動させると共に、
作動部3から磁石部を取り外すことで、遠隔操作用弁部材21が、閉口時作動部3に干渉することなく排水口1aを閉口することが可能な手動用弁部材22となるように構成したことを特徴とする請求項3に記載の排水装置。
【請求項5】
上記排水装置において、作動部3を、電気駆動により作動するように構成したことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の排水装置。
【請求項6】
上記排水装置において、手動用弁部材22に、排水口1aからの着脱を容易にする取手体7を備えたことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載の排水装置。」
第4 特許異議申立理由の概要及び証拠
1.特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立理由を主張するとともに、証拠方法として、以下の「2」に示す各甲号証(以下、各甲号証を「甲1」等、各甲号証に係る発明を「甲1発明」等ということがある。)を提出している。
(1)本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明1」といい、同様に本件特許の請求項2ないし6に係る発明をそれぞれ「本件特許発明2」ないし「本件特許発明6」という。)は、甲1発明、甲2発明又は甲3発明と同一の発明である。
(2)本件特許発明1は、甲1発明、甲2発明又は甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明2、5及び6は、甲1発明、甲2発明又は甲3発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)本件特許発明1乃至6は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(5)本件特許発明1乃至6は不明確であり、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2.申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証:特開平11-61931号公報
甲第2号証:特開2002-61250号公報
甲第3号証:特開2012-36558号公報
甲第4号証:特開2013-117154号公報
甲第5号証:特開平7-317118号公報
甲第6号証:特開2003-247253号公報
甲第7号証:実願昭62-73869号(実開昭63-181380号)のマイクロフィルム
甲第8号証:実願昭60-37360号(実開昭61-155471号)のマイクロフィルム
第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要
令和1年10月3日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要は以下のとおりである。
本件特許の請求項1、2、5及び6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、5及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第6 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断
1.引用文献
(1)甲第2号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、つぎの事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
ア.「【請求項1】 槽の底の排水用開口に装着された排水筒と、該排水筒を開閉する排水栓と、該排水筒に付設され、上記排水栓の支持軸を摺動可能であるが回転不可能に支持するための筒孔を有する排水栓ガイド筒と、先端部が排水栓ガイド筒内に挿入され、上記支持軸を遠隔操作で摺動駆動するためのワイヤとを備えて成る手動開閉機能付き自動排水栓装置であって、
上記排水栓は、排水栓本体と上記支持軸とを有し、
上記排水栓本体は、栓と栓の中央部に突設された栓軸とを有し、
上記栓軸と上記支持軸は、互いに着脱自在かつ軸方向に長さ調整可能に結合され、上記排水栓本体と支持軸が一体的に組立てられているものであることを特徴とする手動開閉機能付き自動排水栓装置。」
イ.「【0014】浴室2内に浴槽3が設けられ、この浴槽3の底4に手動開閉機能付き排水栓装置1が配設される。この手動開閉機能付き排水栓装置1は、排水孔5を画成する略円筒形の排水筒6、排水筒6を連通するように装着する排水管7、排水筒6内にブラケット8で取り付けられた排水栓ガイド筒9、排水栓10、排水栓10の一部であり、ガイド筒9内を上下方向に摺動可能であるが回転不可能な支持軸11、排水栓ガイド筒9内を上下方向に摺動可能であり排水栓の支持軸11に当接して支持軸11を上方に駆動する駆動用のワイヤ12とを備えている。
(中略)
【0016】排水栓10は、図2(d)に示すように、栓本体13、スリーブ14及び支持軸11の三つの部品から構成されている。栓本体13は、円盤状の栓15と栓15の下面から下方に伸びる栓軸16とから成る。栓15の上面には摘み17が形成されており、この摘み17を把持してひらく方向、しまる方向に栓本体13を回転操作が可能である。栓軸16外面には雄ねじ18が形成されている。
【0017】スリーブ14は、栓軸16が挿通できるような径の孔を有し、その外径は支持軸11とほぼ同径でかつ支持軸11同様に六角形に形成されている。支持軸11には、内面に雌ねじ19が形成されたねじ孔20が形成されており、栓軸16の雄ねじ18が螺入できるように構成されている。又、支持軸11は、図2(c)にその断面を示すように、その外面は六角形(六角形以外の角でもよい。)をしており、これにより、排水栓ガイド筒9内で摺動可能であるが回転不可能に挿入される。排水栓10は、栓軸16をスリーブ14に挿通しさらに支持軸11のねじ孔20に螺入することにより図2(b)に示すように組立てられる。」
ウ.「【0021】ワイヤ12の先端部24は、排水栓ガイド筒9内に摺動可能に挿入されており、支持軸11の下端部25に当接し、排水栓10を上方に駆動することができ、又、ワイヤ12が下方に移動すると排水栓10を自重や浴槽内の水圧により下降可能とすることができる。図1において、ワイヤ12は、案内管26内を軸方向に摺動可能であり、案内管26とともに排水管7から取り出され、保護管27を通して駆動装置28に案内されている。
【0022】駆動装置28は、ステッピングモータ29を有し、ステッピングモータ29の回転駆動軸30が正逆回転することにより、昇降部材31が回転することなく軸方向(上下方向)にのみ直線的に移動するように、回転駆動軸30と昇降部材31がねじ結合されるように構成されている。昇降部材31の下端にはワイヤ12の基端部32が取り付けられている。」
エ.「【0025】(作用)以上の構成から成る本発明に係る手動開閉機能付き自動排水栓装置1の作用を以下説明する。浴槽3に水を張るために自動排水栓装置1の排水栓10を閉じるときには、操作部33のスイッチ35又は台所のリモコン37のリモートスイッチ38を操作すると、ステッピングモータ29乃至回転駆動軸30が正転する。
【0026】すると、回転駆動軸30に螺合された昇降部材31が上昇し、ある程度上昇すると、昇降部材31に付設されたマグネット39を近接スイッチ40で検知し、ステッピングモータ29の駆動は停止するとともに、次に操作される場合はステッピングモータ29が逆転するように回路が切り換えられる。
【0027】このように昇降部材31が上昇すると、ワイヤ12を図1中の←方向に引く。すると、排水栓10の支持軸11が排水栓ガイド筒9内を下降し、図3(a)に示すように、栓15の下面に形成された環状突縁23が排水栓ガイド筒9のフランジ部22の上面に当接して排水孔5を閉じる。
【0028】次に、排水栓10を開き、浴槽3内の水を排水孔5から排水管7内に排水する場合には、操作部33のスイッチ35又は台所のリモコン37のリモートスイッチ38を操作すると、ステッピングモータ29乃至回転駆動軸30が逆転し、昇降部材31は下降して駆動ワイヤ12を→方向に駆動する。すると、ワイヤ12の先端部24が支持軸11を上方に駆動し、排水栓10を上方に移動させる。これにより、図3(b)に示すように、環状突縁23が排水栓ガイド筒9のフランジ部22から離れ、排水孔5を開く。」
オ.「【0032】図5は、手動開閉機能付き自動排水栓装置1が故障してしまい、浴槽3内に水を張ろうとしても排水栓10が開いたままで、自動的に排水栓10を閉じることができないような場合の手動操作を説明するための図である。図5(a)は、排水栓10が開いたまま、操作部33のスイッチ35又はリモートスイッチ38を操作しても排水栓10が下方に移動しない状態を示している。
【0033】このような故障の場合には、図4(b)と同様に、栓15の摘み17を反時計方向に回転して栓軸16を支持軸11に対して上方に移動させて、栓本体13を図5(b)に示すように、支持軸11からはずし、さらに、スリーブ14も取り外す。この状態で、取り外した栓本体13を、その栓軸16をスリーブ14に挿通することなく、直接、支持軸11の雌ねじ19に螺合して、栓本体13を支持軸11に螺着する。
【0034】すると、図5(c)に示すように、取り外したスリーブ14の長さの分だけ、栓本体13を支持軸11内に下方に螺着できるから、排水栓10の栓15を排水筒6のフランジ部22の上面に当接でき、その結果、排水栓10で排水孔5を閉じた状態となる。」
カ.図1はつぎのものである。
キ.図5はつぎのものである。
ク.上記「ウ.」で摘記した記載を踏まえると、上記「カ.」の図1からは、「操作部33が、浴槽3の上縁部に設置されている」ことが看て取れる。
ケ.上記「ア.ないしウ.」で摘記した記載を踏まえると、上記「カ.」の図1からは、浴槽3に「手動開閉機能付き排水栓装置1と駆動装置28とからなる装置」が設けられていることが看て取れる。
コ.以上を総合すると、甲第2号証にはつぎの発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「手動開閉機能付き排水栓装置と駆動装置とからなる装置であって、
浴槽の底に手動開閉機能付き排水栓装置が配設され、
手動開閉機能付き排水栓装置は、排水孔を画成する排水筒、排水筒内に取り付けられた排水栓ガイド筒、排水栓、ワイヤとを備えており、
排水栓は、栓本体、スリーブ及び支持軸から構成されており、
栓本体は、栓と栓の下面から下方に伸びる栓軸とから成り、
スリーブは、栓軸が挿通できるような径の孔を有し、
支持軸には、内面に雌ねじが形成されたねじ孔が形成されており、栓軸の雄ねじが螺入できるように構成されており、
排水栓は、栓軸をスリーブに挿通しさらに支持軸のねじ孔に螺入することにより組立てられ、
支持軸を遠隔操作で摺動駆動するためのワイヤの先端部は、排水栓ガイド筒内に摺動可能に挿入されており、支持軸の下端部に当接し、
駆動装置は、ステッピングモータを有し、ステッピングモータの回転駆動軸が正逆回転することにより、昇降部材が軸方向(上下方向)にのみ直線的に移動するように、回転駆動軸と昇降部材がねじ結合されるように構成されており、昇降部材の下端にはワイヤの基端部が取り付けられており、
浴槽に水を張るために自動排水栓装置の排水栓を閉じるときには、浴槽の上縁部に設置された操作部を操作すると、ステッピングモータ乃至回転駆動軸が正転し、すると、回転駆動軸に螺合された昇降部材が上昇し、昇降部材が上昇するとワイヤを引き、すると、排水栓の支持軸が排水栓ガイド筒内を下降し、栓の下面に形成された環状突縁が排水栓ガイド筒のフランジ部の上面に当接して排水孔を閉じ、
排水栓を開き、浴槽内の水を排水孔から排水管内に排水する場合には、操作部を操作すると、ステッピングモータ乃至回転駆動軸が逆転し、昇降部材は下降して駆動ワイヤを駆動し、すると、ワイヤの先端部が支持軸を上方に駆動し、排水栓を上方に移動させ、これにより、環状突縁が排水栓ガイド筒のフランジ部から離れ、排水孔を開き、
手動開閉機能付き自動排水栓装置が故障してしまい、排水栓が開いたままで、自動的に排水栓を閉じることができないような場合には、栓の摘みを反時計方向に回転して栓軸を支持軸に対して上方に移動させて、栓本体を、支持軸からはずし、さらに、スリーブも取り外し、この状態で、取り外した栓本体を、その栓軸をスリーブに挿通することなく、直接、支持軸の雌ねじに螺合して、栓本体を支持軸に螺着すると、取り外したスリーブの長さの分だけ、栓本体を支持軸内に下方に螺着できるから、排水栓の栓を排水筒のフランジ部の上面に当接でき、排水栓で排水孔を閉じた状態となる装置。」
(2)甲第4号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、つぎの事項が記載されている。
ア.「【0012】
排水栓5の第1実施例を、図2の閉栓状態と図3の開栓状態のそれぞれの縦断面図で説明する。
洗面器底部4aの排水口4bには、排水管7が固定ナット8を締め付けて垂下状に取り付けられており、この排水管7内には、上下動可能にロッド9が垂下状に配設され、ロッド9の上端には、下面にパッキン11を有する栓本体10が設けられている。
(中略)
【0013】
ロッド9の下端には、固定部材15を介して円柱形の第1磁石16が固定されている。この第1磁石16は、裏表でN極とS極が形成されており、例えば上側がS極16aとなっており、下側がN極16bとなっている。
この第1磁石16の下方側には、排水L管14の外側に駆動部ケース17が設けられており、この駆動部ケース17内には、軸18を中心として上下方向へ回動可能に磁石ホルダ19が配置されている。
磁石ホルダ19の図2における図示右端には第2磁石20が外れないように強固に固定されて保持されている。
(中略)
【0014】
なお、軸18は、図2における磁石ホルダ19の左端側上部部位に配置されたものであり、この軸18の下方側の磁石ホルダ19の左端に当接して、ピストン21が駆動部ケース17内にシール材22を介して水密状に設けられ、ピストン21は左右方向へ移動可能である。このピストン21にはワイヤー23が接続されており、ワイヤー23は前述した如く、その先端がカウンター3上の操作部24に接続されている。
【0015】
図2の閉栓状態では、第1磁石16のN極16bと第2磁石20のN極20bは遠く離れているが、第2磁石20のS極20aは第1磁石16のN極16bと比較的近い位置にあるため、第1磁石16のN極16bと第2磁石20のS極20a間で吸着力が作用し、ロッド9には下方へ向かう力が作用して、栓本体10のパッキン11が排水管7の上端内周に密着して、栓本体10が排水口4bを閉じた状態に保持されている。
【0016】
この閉栓状態から、使用者が操作部24を操作すると、ワイヤー23を介して図3に示すように、ピストン21が駆動部ケース17内で図示右方向へ移動し、ピストン21が磁石ホルダ19を右側へ押圧し、これにより軸18を中心として磁石ホルダ19は上方へ90°回転され、第2磁石20が第1磁石16の真下位置に配置される。
この状態では、第2磁石20のN極20bが上面側となり、上方の第1磁石16の下面側のN極16bと反発して反発力が生じ、これによりロッド9に上向きの作用力が働き、ロッド9が上昇して、栓本体10が排水管7の上端から上方へ移動し、排水口4bが開かれて、洗面器4内の水は、排水管7と排水L管14を通り、更にトラップ管6を通って排水されることとなる。」
イ.以上を総合すると、甲第4号証にはつぎの技術事項(以下「甲4技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「排水栓において、
排水管内には、上下動可能にロッドが垂下状に配設され、ロッドの上端には、下面にパッキンを有する栓本体が設けられており、ロッドの下端には、第1磁石が固定されており、
この第1磁石の下方側には、磁石ホルダが配置されており、磁石ホルダには第2磁石が保持されており、
閉栓状態では、第2磁石のS極は第1磁石のN極と比較的近い位置にあるため、吸着力が作用し、ロッドには下方へ向かう力が作用して、栓本体のパッキンが排水管の上端内周に密着して、栓本体が排水口を閉じた状態に保持されており、
この閉栓状態から、操作部を操作すると、磁石ホルダは回転され、第2磁石のN極が上方の第1磁石の下面側のN極と反発して反発力が生じ、ロッドが上昇して、栓本体が排水管の上端から上方へ移動し、排水口が開かれる点。」
(3)甲第5号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、つぎの事項が記載されている。
ア.「【0021】排水栓16の中心部下面にはロッド36が固設されている。ロッド36は下向きに延び出しており、その下端に第一マグネット38が固設されている。この例では第一マグネット38は、下面側がN極にまた上面側がS極に着磁されている(但しその逆であっても良い)。」
イ.「【0026】前記第一マグネット38の下側、厳密には排水栓16が閉状態となったときの第一マグネット38の下側において、第二マグネット58が水平方向に移動可能に配されている。この例では第二マグネット58は、上面側即ち第一マグネット38に対面する側の面が第一マグネット38とは同極のN極(又はS極)に、また下面側がS極(又はN極)に着磁されている。」
ウ.「【0033】次に本例の装置の作用を説明する。本例の開閉装置においては、伝達部材60におけるインナーケーブル62の押出しによって第二マグネット58が排水管26の丁度真中位置、即ち第一マグネット38の直下に到ったとき、それらの反発力によって排水栓16が上方に押し上げられる。即ち排水栓16が開動作させられる。
【0034】一方第二マグネット58が水平方向に移動させられ、退避位置に到ると、排水栓16が自重により若しくは図示しないスプリングの下向きの付勢力によって閉動作する。」
エ.以上を総合すると、甲第5号証にはつぎの技術事項(以下「甲5技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「排水栓において、
排水栓の中心部下面にはロッドが固設されており、ロッドの下端に第一マグネットが固設されており、
第一マグネットの下側において、第二マグネットが水平方向に移動可能に配されており、
伝達部材におけるインナーケーブルの押出しによって第二マグネットが排水管の丁度真中位置、即ち第一マグネットの直下に到ったとき、それらの反発力によって排水栓が上方に押し上げられ、開動作させられ、
一方第二マグネットが水平方向に移動させられ、退避位置に到ると、排水栓が閉動作する点。」
2.取消理由についての判断
(1)請求項1
ア.対比
本件訂正特許発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「排水孔」は、「浴槽の底に」「配設され」る「手動開閉機能付き排水栓装置」が備えるものであるから、本件訂正特許発明1の「槽体に開口した排水口1a」に相当する。
(イ)甲2発明の「排水栓」は、「昇降部材が上昇するとワイヤを引き、すると、排水栓の支持軸が排水栓ガイド筒内を下降し、栓の下面に形成された環状突縁が排水栓ガイド筒のフランジ部の上面に当接して排水孔を閉じ」、「昇降部材は下降して駆動ワイヤを駆動し、すると、ワイヤの先端部が支持軸を上方に駆動し、排水栓を上方に移動させ、これにより、環状突縁が排水栓ガイド筒のフランジ部から離れ、排水孔を開」くから、下降して排水孔を閉じ、上方に移動して排水孔を開くものである。
そして、甲2発明の「ワイヤ」は「支持軸を遠隔操作で摺動駆動するための」ものであるから、「栓本体、スリーブ及び支持軸から構成され」る甲2発明の「排水栓」は「遠隔操作」されるといえる。
そうすると、甲2発明の当該「排水栓」は、本件訂正特許発明1の「上下動により排水口1aを開閉する遠隔操作用弁部材21」に相当する。
(ウ)甲2発明の「駆動装置」は、「ステッピングモータを有し、ステッピングモータの回転駆動軸が正逆回転することにより、昇降部材が軸方向(上下方向)にのみ直線的に移動するように、回転駆動軸と昇降部材がねじ結合されるように構成されており、昇降部材の下端にはワイヤの基端部が取り付けられて」いるから、「回転駆動軸」を有する「ステッピングモータ」及び「昇降部材」を備えるものである。
また、甲2発明においては、「浴槽の上縁に設置された操作部を操作すると、ステッピングモータ乃至回転駆動軸が正転し、すると、回転駆動軸に螺合された昇降部材が上昇し、昇降部材が上昇するとワイヤを引き、すると、排水栓の支持軸が排水栓ガイド筒内を下降し、栓の下面に形成された環状突縁が排水栓ガイド筒のフランジ部の上面に当接して排水孔を閉じ」、「操作部を操作すると、ステッピングモータ乃至回転駆動軸が逆転し、昇降部材は下降して駆動ワイヤを駆動し、すると、ワイヤの先端部が支持軸を上方に駆動し、排水栓を上方に移動させ、これにより、環状突縁が排水栓ガイド筒のフランジ部から離れ、排水孔を開」くから、甲2発明においては、操作部を操作すると、「転駆動軸」を有する「ステッピングモータ」及び「昇降部材」を備える「駆動装置」と「ワイヤ」とが協働して、排水栓を下降及び上方に移動して排水孔を開閉するといえる。
そうすると、甲2発明の「駆動装置」及び「ワイヤ」は、本件訂正特許発明1の「該遠隔操作用弁部材21を上下動させる作動部3」に相当する。
(エ)甲2発明においては、「支持軸を遠隔操作で摺動駆動するためのワイヤの先端部は、排水栓ガイド筒内に摺動可能に挿入されており、支持軸の下端部に当接」するから、「排水栓」の一部を成す部材である「支持軸の下端部」と、本件訂正特許発明1の「作動部3」に相当する「駆動装置」及び「ワイヤ」の一部である「ワイヤの先端部」が当接するものであって、甲2発明のこの点は、本件訂正特許発明1の「(遠隔操作用弁部材21の)端部を含む一部の部材が作動部3に干渉し」に相当する。
(オ)甲2発明の「操作部」は、「操作部を操作すると、ステッピングモータ乃至回転駆動軸が正転し、すると、回転駆動軸に螺合された昇降部材が上昇し、昇降部材が上昇するとワイヤを引き、すると、排水栓の支持軸が排水栓ガイド筒内を下降し、栓の下面に形成された環状突縁が排水栓ガイド筒のフランジ部の上面に当接して排水孔を閉じ」、「操作部を操作すると、ステッピングモータ乃至回転駆動軸が逆転し、昇降部材は下降して駆動ワイヤを駆動し、すると、ワイヤの先端部が支持軸を上方に駆動し、排水栓を上方に移動させ、これにより、環状突縁が排水栓ガイド筒のフランジ部から離れ、排水孔を開」くものであるから、上記「(ア)ないし(ウ)」の対比を踏まえると、本件訂正特許発明1の「作動部3の動作を制御して、遠隔操作用弁部材21による排水口1aの開閉を操作する操作部4」に相当する。
(カ)上記「(ア)ないし(エ)」の対比を踏まえると、甲2発明の「手動開閉機能付き排水栓装置と駆動装置とからなる装置」は、本件訂正特許発明1の「槽体に設けられた排水口1aを遠隔操作的に開閉するための排水装置」に相当する。
(キ)甲2発明の「手動開閉機能付き自動排水栓装置が故障してしまい、排水栓が開いたままで、自動的に排水栓を閉じることができないような場合」は、本件訂正特許発明1の「遠隔操作用弁部材21が排水口1aを閉口できなくなった際」に相当する。
甲2発明において「栓の摘みを反時計方向に回転して栓軸を支持軸に対して上方に移動させて、栓本体を、支持軸からはずし、さらに、スリーブも取り外し、この状態で、取り外した栓本体を、その栓軸をスリーブに挿通することなく、直接、支持軸の雌ねじに螺合して、栓本体を支持軸に螺着すると、排水栓の栓を排水筒のフランジ部の上面に当接でき」ることは、本件訂正特許発明1において「閉口時作動部3に干渉しない構造であって、操作部4の操作を介さずに排水口1aを閉口する」ことに相当し、甲2発明の「排水栓の栓を排水筒のフランジ部の上面に当接でき」る状態である「栓の摘みを反時計方向に回転して栓軸を支持軸に対して上方に移動させて、栓本体を、支持軸からはずし、さらに、スリーブも取り外し、この状態で、取り外した栓本体を、その栓軸をスリーブに挿通することなく、直接、支持軸の雌ねじに螺合して、栓本体を支持軸に螺着」した「排水栓」は、本件訂正特許発明1の「手動用弁部材22」に相当する。
(ク)上記「(キ)」の対比を踏まえると、甲2発明の「栓の摘みを反時計方向に回転して栓軸を支持軸に対して上方に移動させて、栓本体を、支持軸からはずし、さらに、スリーブも取り外し、この状態で、取り外した栓本体を、その栓軸をスリーブに挿通することなく、直接、支持軸の雌ねじに螺合して、栓本体を支持軸に螺着する」ことと、本件訂正特許発明1の「作動部3に干渉する端部を含む一部の部材を遠隔操作用弁部材21より取り外すことで、手動用弁部材22とする」こととは、「作動部に干渉する一部の部材を遠隔操作用弁部材より取り外すことで、手動用弁部材とする」点で共通する。
(ケ)そうすると、本件訂正特許発明1と甲2発明とは、
「槽体に開口した排水口と、
端部を含む一部の部材が作動部に干渉し、上下動により排水口を開閉する遠隔操作用弁部材と、
該遠隔操作用弁部材を上下動させる作動部と、
作動部の動作を制御して、遠隔操作用弁部材による排水口の開閉を操作する操作部と、からなる、
槽体に設けられた排水口を遠隔操作的に開閉するための排水装置において、
遠隔操作用弁部材が排水口を閉口できなくなった際に、
閉口時作動部に干渉しない構造であって、操作部の操作を介さずに排水口を閉口する手動用弁部材を備え、
作動部に干渉する一部の部材を遠隔操作用弁部材より取り外すことで、
手動用弁部材とする排水装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
手動用弁部材について、本件訂正特許発明1では作動部に干渉する「端部を含む」一部の部材を遠隔操作用弁部材より取り外すことで手動用弁部材とするのに対して、甲2発明では手動用弁部材とするために取り外す部材(「スリーブ」)が遠隔操作用弁部材の端部を含まない点。
イ.検討
上記相違点1について検討する。
(ア)甲2発明は、「スリーブは、栓軸が挿通できるような径の孔を有し、支持軸には、内面に雌ねじが形成されたねじ孔が形成されており、栓軸の雄ねじが螺入できるように構成されており、排水栓は、栓軸をスリーブに挿通しさらに支持軸のねじ孔に螺入することにより組立てられ」るものであるところ、「スリーブ」は「栓軸が挿通できるような径の孔を有」するもので雌ねじは形成されておらず、「栓軸をスリーブに挿通しさらに支持軸のねじ孔に螺入すること」、換言すれば、スリーブを挿通した状態で栓軸を支持軸のねじ孔に螺入することによって、「栓本体、スリーブ及び支持軸から構成され」る「排水栓」が組立てられるものと認められる(上記「1.(1)キ.」の【図5】も参照。)。
してみると、「スリーブ」の位置を「端部を含む」位置にした場合には、「排水栓」は「栓軸をスリーブに挿通しさらに支持軸のねじ孔に螺入することにより組立て」られるものではなくなるから、甲2発明において「スリーブ」を「端部を含む」位置に設けるようにすることが、当業者が適宜なし得る設計的事項であると言うことはできない。
(イ)また、例えば、甲4技術事項及び甲5技術事項に示されるように、排水栓の上昇を、排水栓の下端に設けた磁石と、移動又は押出しによって移動する部材に設けた磁石との反発により行うことは、本件特許の出願前に周知の技術(以下「周知技術」という。)であると認められる。
そして、甲2発明と上記周知技術とは、ともに排水栓の技術分野に属し、排水栓の開閉を操作するという作用・機能が共通するから、甲2発明に上記周知技術を適用することは当業者が容易になしえたことである。
しかしながら、甲4技術事項及び甲5技術事項は、磁石を排水栓の下端に設けるものではあるものの、当該磁石を排水栓から取り外すことについては何ら開示するものではない。
そして、例えば、甲4技術事項に「閉栓状態では、第2磁石のS極は第1磁石のN極と比較的近い位置にあるため、吸着力が作用し」とあるように、磁石相互の吸着力や反発力はその距離が近い場合に生じることが技術常識であるから、甲2発明に上記周知技術を適用する際には、甲2発明と同様に「スリーブ」を取り外すことにより「取り外したスリーブの長さの分だけ、栓本体を支持軸内に下方に螺着できる」ようにして、磁石相互が遠くに位置するようにすれば足りるのであって、磁石を排水栓から取り外すようにする技術的必然性もない。
そうすると、甲2発明に上記周知技術を適用したとしても、上記相違点1に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項に到ることは、当業者が容易になし得たことではない。
ウ.小括
以上のとおりであるから、本件訂正特許発明1は、甲2発明から、又は、甲2発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)請求項2、5及び6
本件訂正特許発明2、5及び6は、本件訂正特許発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに減縮したものであるから、上記「(1)」で検討したとおり、本件訂正特許発明1が、甲2発明から、又は、甲2発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正特許発明2、5及び6も、甲2発明から、又は、甲2発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての判断
上記「第4」の特許異議申立理由のうち、取消理由通知で採用し上記「第6」で判断した以外の理由について判断する。
1.新規性及び進歩性
(1)引用文献
ア.甲第1号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、つぎの事項が記載されている。
(ア)「【0005】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。まず第1の実施の形態について図1及び図2に基づいて説明する。浴槽、洗面槽等の水槽(W)底部に開設した排水口に着脱自在に装着される排水栓(1)において、その栓蓋(2)の下面中央部に筒状の突起部材(2a)を突設し、その内周面に筒状の該突起部材(2a)の孔径より小径なる弾性部材(2b)を配設している。前記栓蓋(2)を支持する丸棒状の支持軸(3)が栓蓋(2)の下面から垂設しており、この支持軸(3)と栓蓋(2)を連結させるために前記弾性部材(2a)を嵌入させる嵌入溝を周設している。前記支持軸(3)には外周面の略中央部にリング状の掛止部材(6)が周設されており、この掛止部材(6)より上方に毛髪、コンタクトレンズ等を捕捉する目皿(4)を2個支持軸(3)に周設している。この2個の目皿(4)は支持軸(3)の上端から掛止部材(6)までの間において摺動自在に取り付けられている。」
(イ)「【0012】本発明は以上のような構造でこれを使用する時は、まず第1の実施の形態においては、目皿(4)を排水栓(1)より取り外す際は、上方に栓蓋(2)を引き上げると、栓蓋(2)の下面中央部に突設した筒状の突起部材(2a)に内設した弾性部材(2b)は柔軟な材質であるため、栓蓋(2)は支持軸(3)に周設した嵌入溝から抜脱して後、支持軸(3)を乗越え遂には栓蓋(2)は支持軸(3)から脱着される。この後目皿(4)は支持軸(3)の周面を上方へ摺動して脱着される。」
(ウ)「【図面の簡単な説明】
(中略)
【図17】 水槽への排水栓の装着状態を示す断面図である。」
(エ)図17はつぎのものである。
(オ)通常の作図方法及び技術常識を踏まえると、上記「(エ)」の図17において、実線及び点線の両方で示された部材は、実線で示された位置と点線で示された位置との間を移動するものと認められる。
そうすると、図17からは「図中で左上に位置する部材(以下「部材A」という。)が上方に移動すると、支持軸3の下端側に位置する部材(以下「部材B」という。)が上方に揺動して支持軸3の下端に当接し、栓蓋2が上方に移動して開口する」点を看取することができる。
そして、上記「(ア)」の記載を参酌すると、図17において、符号2ないし4が付された部分は「排水栓1」であると認められるところ、部材Aや部材B等からなる部分は排水栓1の栓蓋2を移動させるのであるから、排水栓1とともに排水のための装置を構成するということができる(以下、排水栓1及び部材Aや部材B等からなる部分で構成される当該装置を「排水装置」という。)。
以上を総合すると、甲第1号証にはつぎの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「浴槽、洗面槽等の水槽底部に開設した排水口に着脱自在に装着される排水栓において、
栓蓋を有し、
前記栓蓋を支持する支持軸が栓蓋の下面から垂設しており、
目皿を2個支持軸に周設しており、
部材Aが上方に移動すると、支持軸の下端側に位置する部材Bが上方に揺動して支持軸下端に当接し、栓蓋が上方に移動して開口し、
目皿を排水栓より取り外す際は、上方に栓蓋を引き上げると、栓蓋は支持軸から脱着され、この後目皿は支持軸の周面を上方へ摺動して脱着される
排水装置。」
イ.甲第3号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、つぎの事項が記載されている。
(ア)「【0030】
以下に、一実施形態について図面を参照して説明する。図1に示すように、排水栓装置1は、槽体としての洗面器100に取り付けられており、操作部2と、伝達部材3と、排水口装置4とを備えている。
【0031】
操作部2は、洗面器100の側壁部101の上端から外側に向かって延びるフランジ部102に取り付けられており、図2に示すように、ガイド部21と、可動部材22とを備えている。」
(イ)「【0040】
また、伝達部材3(第3伝達棒33)の一端面外周には、第3伝達棒33の中心軸方向に沿って延びる支持突起39が設けられており、前記可動部材22を回転させることで、第1伝達棒31、第2伝達棒32、第3伝達棒33の順に回転が伝達されていき、第3伝達棒33の中心軸を回転軸として支持突起39が回転する。このとき、第3伝達棒33の中心軸が鉛直方向と交差する方向に延びているため、支持突起39が回転することで、支持突起39は洗面器100に対して上下動することとなる。」
(ウ)「【0043】
次に、排水口装置4について説明する。前記排水口装置4は、洗面器100の排水口104等に設けられており、通水部材41と、支持軸42と、ヘアキャッチャー43と、排水口部材44と、栓蓋45とを備えている。
【0044】
通水部材41は、環状(本実施形態では、筒状)をなす外周壁41Aを備えており、当該外周壁41Aが配管111の内周面に沿うようにして配管111内に配置されている。また、通水部材41は、その外周壁41Aの下端面が支持突起39に載置状態とされることで、配管111内にて支持されており、支持突起39の上下動に伴って洗面器100に対して上下動するように構成されている。加えて、通水部材41は、その外周壁41Aから排水路の中心に向かって延びる複数のアーム部46を備えており、前記支持軸42の下端部がアーム部46に固定されている。
【0045】
支持軸42は、鉛直方向に延びる棒状をなし、当該支持軸42の一端(上端)側に位置し、前記栓蓋45の背面中央を支持する一端側支持軸42Aと、支持軸42の他端(下端)側に位置し、他端部が前記通水部材41のアーム部46に固定された他端側支持軸42Bとを備えている。前記一端側支持軸42A及び他端側支持軸42Bは、直列的に配置されるとともに、それぞれが分離可能に構成されている。そして、両支持軸42A,42Bを分離することで、ヘアキャッチャー43を排水口104から取外すことなく、栓蓋45を排水口104から取外すことができるようになっている。また、通水部材41の上下動により、支持軸42ひいては栓蓋45が上下動し、排水口104の開閉が行われるようになっている。
【0046】
前記ヘアキャッチャー43は、髪の毛等を捕集するものであって、前記排水口104のうち鉛直方向にほぼ沿って延びる筒状の垂下部105に対して、その外周縁が接触した状態で配置されている。また、ヘアキャッチャー43は、その中央に鉛直方向に延びる筒状部43Aを備えており、当該筒状部43Aに対して前記一端側挿通部42Aと他端側挿通部42Bの一端部とが挿通されている。栓蓋45を支持する一端側支持軸42Aを、外周縁が排水口104の垂下部105に接触するヘアキャッチャー43により支持することで、支持軸42の中心軸と排水口104の中心軸とがほぼ一致するようになっている。」
(エ)「【0058】
さらに、他端側支持部42Bの突部42Cが筒状部43Aの爪部43Dに係止可能とされているため、ヘアキャッチャー43を排水口104から取外すことで、通水部材41も取外すことができる。その結果、配管111に対する通水部材41の着脱をより容易に行うことができ、通水部材41から先の配管111等の清掃をより一層容易に行うことができる。加えて、爪部43Dに対して突部が42C着脱自在であるため、筒状部43A(ヘアキャッチャー43)から他端側支持軸42Bひいては通水部材41を取外すことができ、ヘアキャッチャー43や通水部材41をそれぞれ単独で清掃することが可能となる。」
(オ)図5はつぎのものである。
(カ)上記「(ウ)」の記載を踏まえると、上記「(オ)」の図5からは、「通水部材41が支持軸42の他端(下端)側に位置する」点を看取することができる。
以上を総合すると、甲第3号証にはつぎの発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「槽体としての洗面器に取り付けられており、操作部と、伝達部材と、排水口装置とを備えており、
操作部は、ガイド部と、可動部材とを備えており、
伝達部材の一端面外周には、支持突起が設けられており、前記可動部材を回転させることで、支持突起が回転し、支持突起が回転することで、支持突起は洗面器に対して上下動し、
前記排水口装置は、洗面器の排水口等に設けられており、支持軸の他端(下端)側に位置する通水部材と、支持軸と、ヘアキャッチャーと、排水口部材と、栓蓋とを備えており、
支持軸は、一端側支持軸と、他端部が前記通水部材に固定された他端側支持軸とを備えており、前記一端側支持軸及び他端側支持軸は、それぞれが分離可能に構成されており、
通水部材は、支持突起の上下動に伴って洗面器に対して上下動するように構成されており、
通水部材の上下動により、支持軸ひいては栓蓋が上下動し、排水口の開閉が行われるようになっており、
栓蓋を支持する一端側支持軸を、外周縁が排水口の垂下部に接触するヘアキャッチャーにより支持することで、支持軸の中心軸と排水口の中心軸とがほぼ一致するようになっており、
ヘアキャッチャーを排水口から取外すことで、通水部材も取外すことができ、その結果、配管に対する通水部材の着脱をより容易に行うことができ、通水部材から先の配管等の清掃をより一層容易に行うことができる
排水栓装置。」
ウ.甲第6号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、つぎの事項が記載されている。
(ア)「【0006】排水栓装置3は、図2に断面拡大図で示すような構造となっており、浴槽の底部2aに設置される栓部4は、浴槽の排水口11を上下動して開閉する栓体12と、その下方に設けられたスラストロック機構13を有し、このスラストロック機構13は、動力伝達部のレリース14が1回押されて栓体12が上方へ移動して開くと、ロックして開状態を保持するものであり、もう一度、動力伝達部5が押されるとロックが解除されて、栓体12が自重で下がり、排水口11を閉止するように構成されている。」
(イ)「【0013】図2の状態は、手動用の操作ボタン21が操作されておらず、また電動駆動部6も駆動されておらず、栓部4が閉じられた状態である。この状態から、台所リモコン9または浴室リモコン10が操作されると、モーター6aが回転して、動力変換部6bを介して出力軸6cが下方側へ移動し、図6に示すように、電動昇降部材35が下動し、電動昇降部材35の左端の二股片部35cが従動部材23の鍔部23b上に載っているため、従動部材23も下方側へ移動されることとなり、これにより、従動部材23に固定されている連結軸18が下方へ押されて、レリース14の芯が下方へ押され、栓12は上方へ移動して排水口11が開かれることとなる。この開いた状態で、スラストロック機構13が作用して栓12を開状態に保持することとなり、モーター6aはその後に自動的に電動昇降部材35を上昇させ、元の位置で停止されて図7の状態となるが、スラストロック機構13の作用により栓12は開いたままの状態に保持される。また、従動部材23には操作ボタン21の手動操作軸22も連結されているため、手動の操作ボタン21は下がった状態のままとなり、操作ボタン21を目視すれば、栓12が開状態であることを容易に知ることができるものとなる。
【0014】なお、再度、電動駆動部6が作動されて、再度、電動昇降部材35が下動して、従動部材23を下方に押すと、スラストロック機構13が解除され、この状態では、栓12の自重により、栓12はゆっくりと排水口11を蓋して閉状態となる。このように電動駆動部6を電気的に駆動して、栓12の開閉を行うことができるとともに、図7に示すように、手動で操作ボタン21を押すことによっても、栓12を開閉操作することができるものである。図7のように、操作ボタン21が押されると、手動操作軸22が下動して、これに伴い従動部材23が下がり、さらに連結軸18が下がって、レリース14を介して栓12が開状態となるのであり、スラストロック機構13により開状態が保持されることとなる。また、再度、操作ボタン21を押すと、スラストロック機構13が解除され、栓12が自重で下がり、閉状態となる。」
以上を総合すると、甲第6号証にはつぎの技術事項(以下「甲6技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「排水栓装置において、
浴槽の排水口を上下動して開閉する栓体を有し、
電動駆動部を電気的に駆動して、栓の開閉を行うことができる点。」
エ.甲第7号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には、つぎの事項が記載されている。
(ア)「2 実用新案登録請求の範囲
1. 洗面器,浴槽等の排水口を開閉する排水栓であつて、内側に排水路を形成した軸支部と、該軸支部に上下動自在に取付けられると共にテーパー部領域を形成したスピンドルと、上面側に摘みを有し且つ下面側に前記スピンドル先端が取付けられた栓体と、前記軸支部に配置されると共に、栓体が開状態の時にのみ前記スピンドルのテーパー部に嵌着する弾性拘持具とで構成したことを特徴とする排水栓。」(明細書第1ページ第4~14行)
(イ)「栓体8の上面側には、摘み9が設けられており、開栓、閉栓はこの摘み9を把持し又は押圧して手動により行なわれる。」(明細書第4ページ第8~10行)
以上を総合すると、甲第7号証にはつぎの技術事項(以下「甲7技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「洗面器,浴槽等の排水口を開閉する排水栓であつて、軸支部と、スピンドルと、栓体と、弾性拘持具とで構成した排水栓において、
栓体の上面側には、摘みが設けられており、開栓、閉栓はこの摘みを把持し又は押圧して手動により行なわれる点。」
オ.甲第8号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には、つぎの事項が記載されている。
(ア)「2 実用新案登録請求の範囲
(1) 排水開口を有する雌栓体を排水口に着脱自在に取付け、流体を通し個体を捕捉し得るろ過体を、排水開口を覆いかつ排水管内に位置するように前記雌栓体の背部に取付け、前記排水開口を閉塞し得る雄栓体を前記雌栓体に着脱自在に取付けてなることを特徴とする排水栓。」(明細書第1ページ第4~10行)
(イ)「雌栓体1の排水開口6は、排水方向に狭まるテーパが付され、このような形状の排水開口6につまみ8を有する雄栓体3が着脱自在に取付けられる。」(明細書第4ページ第5~8行)
以上を総合すると、甲第8号証にはつぎの技術事項(以下「甲8技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「排水栓において、
排水開口を有する雌栓体を排水口に着脱自在に取付け、
排水開口につまみを有する雄栓体が着脱自在に取付けられる点。」
(2)甲1発明に基づく新規性及び進歩性
ア.請求項1
(ア)対比
本件訂正特許発明1と甲1発明とを対比する。
a.甲1発明の「浴槽、洗面槽等の水槽底部に開設した排水口」は、本件訂正特許発明1の「槽体に開口した排水口1a」に相当する。
b.甲1発明の「排水栓」は「排水口に着脱自在に装着される」ものであって「栓蓋を有し」ており、当該「栓蓋」は「部材Aが上方に移動すると、支持軸の下端側に位置する部材Bが上方に揺動して支持軸下端に当接し、栓蓋が上方に移動して開口」するから、甲1発明の「排水栓」は、本件訂正特許発明1の「上下動により排水口1aを開閉する遠隔操作用弁部材21」に相当する。
c.甲1発明の「栓蓋」は「部材Aが上方に移動すると、支持軸の下端側に位置する部材Bが上方に揺動して支持軸下端に当接し、栓蓋が上方に移動して開口」するから、甲1発明の「部材B」は、本件訂正特許発明1の「該遠隔操作用弁部材21を上下動させる作動部3」に相当し、同様に、「部材A」は「作動部3の動作を制御して、遠隔操作用弁部材21による排水口1aの開閉を操作する操作部4」に相当する。
d.上記「b.及びc.」を踏まえると、甲1発明の「支持軸の下端側に位置する部材Bが上方に揺動して支持軸下端に当接」することは、本件訂正特許発明1の「(遠隔操作用弁部材21の)端部を含む一部の部材が作動部3に干渉し」に相当する。
e.そうすると、本件訂正特許発明1と甲1発明とは、
「槽体に開口した排水口と、
端部を含む一部の部材が作動部に干渉し、上下動により排水口を開閉する遠隔操作用弁部材と、
該遠隔操作用弁部材を上下動させる作動部と、
作動部の動作を制御して、遠隔操作用弁部材による排水口の開閉を操作する操作部と、からなる、
槽体に設けられた排水口を遠隔操作的に開閉するための排水装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点A]
本件訂正特許発明1は「遠隔操作用弁部材が排水口を閉口できなくなった際に、閉口時作動部に干渉しない構造であって、操作部の操作を介さずに排水口を閉口する手動用弁部材を備え、作動部に干渉する端部を含む一部の部材を遠隔操作用弁部材より取り外すことで、手動用弁部材とする」のに対して、甲1発明は遠隔操作用弁部材が排水口を閉口できなくなった際の排水口の閉口について明らかでない点。
(イ)検討
上記相違点Aについて検討する。
a.甲1発明は「目皿を排水栓より取り外す際は、上方に栓蓋を引き上げると、栓蓋は支持軸から脱着され、この後目皿は支持軸の周面を上方へ摺動して脱着される」ものであるから、「栓蓋」を「支持軸」及び「目皿」から取り外すことができるものと認められる。
b.また、甲1発明においては、「部材Aが上方に移動すると、支持軸の下端側に位置する部材Bが上方に揺動して支持軸下端に当接し、栓蓋が上方に移動して開口」するのだから、「支持軸」及び「目皿」を取り外した「栓蓋」のみの状態であれば、「栓蓋」は上方に移動せず開口もしないことは明らかである。
c.しかしながら、甲第1号証には、遠隔操作用弁部材が排水口を閉口できなくなった際に、手動用弁部材を用いることについては何ら記載されていない。
d.また、甲1発明の「支持軸」は「栓蓋を支持する」という機能を有していることから、甲1発明において「支持軸」を欠いた「栓蓋」のみを排水口に装着することが想定されているということもできない。
e.そうすると、上記相違点Aは実質的な相違点であるから、本件訂正特許発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。
また、本件訂正特許発明1は上記相違点Aに係る発明特定事項を備えることによって、「遠隔操作式の排水装置において、排水装置に故障が生じ、排水口が開口状態のまま動作しなくなったとしても、弁部材に直接的な作業を行う方法では、確実に排水口の開閉を行うことができる」(本件特許明細書段落【0005】)という顕著な効果を奏するものであるから、上記相違点Aに係る本件訂正特許発明1の発明特定事項が設計的事項であるということはできない。
そうすると、本件訂正特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ.請求項2、5及び6
(ア)本件訂正特許発明2、5及び6は、本件訂正特許発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに減縮したものである。
(イ)そして、本件訂正特許発明1については、上記「ア.」で検討したとおりであり、また、上記相違点Aに係る本件訂正特許発明1の発明特定事項は、甲4技術事項ないし甲8技術事項にも開示も示唆もされていない(甲4技術事項及び甲5技術事項については、上記「第6 4.(1)イ.(イ)」における検討も参照。)。
(ウ)そうすると、本件訂正特許発明2、5及び6は、甲1発明及び甲4技術事項ないし甲8技術事項に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.小括
以上のとおり、本件訂正特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
また、本件訂正特許発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件訂正特許発明2、5及び6は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)甲2発明に基づく新規性及び進歩性
ア.請求項1
(ア)上記「第6 4.(1)ア.」のとおり、本件訂正特許発明1と甲2発明とは、相違点1において相違しており、相違点1は実質的な相違点であると認められる。
(イ)そうすると、本件訂正特許発明1は甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.請求項2、5及び6
(ア)本件訂正特許発明2、5及び6は、本件訂正特許発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに減縮したものである。
(イ)本件訂正特許発明1については、上記「ア.」で検討したとおりである。
また、上記相違点1に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項は、甲4技術事項ないし甲8技術事項にも開示も示唆もされていない(甲4技術事項及び甲5技術事項については、上記「第6 4.(1)イ.(イ)」における検討も参照。)。
(ウ)そうすると、本件訂正特許発明2、5及び6は、甲2発明及び甲4技術事項ないし甲8技術事項に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.小括
以上のとおり、本件訂正特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。
また、本件訂正特許発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件訂正特許発明2、5及び6は、甲2発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)甲3発明に基づく新規性及び進歩性
ア.請求項1
(ア)対比
本件訂正特許発明1と甲3発明とを対比する。
a.甲3発明の「洗面器」は「槽体としての洗面器」であるから、甲3発明の「洗面器の排水口」は、本件訂正特許発明1の「槽体に開口した排水口1a」に相当する。
b.甲3発明の「排水口装置」は、「洗面器の排水口等に設けられており、支持軸の他端(下端)側に位置する通水部材と、支持軸と、ヘアキャッチャーと、排水口部材と、栓蓋とを備えており」、「通水部材は、支持突起の上下動に伴って洗面器に対して上下動するように構成されており、通水部材の上下動により、支持軸ひいては栓蓋が上下動し、排水口の開閉が行われるようになって」いるから、本件訂正特許発明1の「端部を含む一部の部材が作動部3に干渉し、上下動により排水口1aを開閉する遠隔操作用弁部材2」に相当する。
c.甲3発明においては、「伝達部材の一端面外周には、支持突起が設けられており、前記可動部材を回転させることで、支持突起が回転し、支持突起が回転することで、支持突起は洗面器に対して上下動し」、「通水部材は、支持突起の上下動に伴って洗面器に対して上下動するように構成されて」いるから、甲3発明の当該「支持突起」が設けられた「伝達部材」は、本件訂正特許発明1の「該遠隔操作用弁部材21を上下動させる作動部3」に相当する。
d.甲3発明の「可動部材」は、「前記可動部材を回転させることで、支持突起が回転し、支持突起が回転することで、支持突起は洗面器に対して上下動」するものであるから、本件訂正特許発明1の「作動部3の動作を制御して、遠隔操作用弁部材21による排水口1aの開閉を操作する操作部4」に相当する。
e.甲3発明の「排水栓装置」は、本件訂正特許発明1の「排水装置」に相当する。
f.そうすると、本件訂正特許発明1と甲3発明とは、
「槽体に開口した排水口と、
端部を含む一部の部材が作動部に干渉し、上下動により排水口を開閉する遠隔操作用弁部材と、
該遠隔操作用弁部材を上下動させる作動部と、
作動部の動作を制御して、遠隔操作用弁部材による排水口の開閉を操作する操作部と、からなる、
槽体に設けられた排水口を遠隔操作的に開閉するための排水装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点ア]
本件訂正特許発明1は「遠隔操作用弁部材が排水口を閉口できなくなった際に、閉口時作動部に干渉しない構造であって、操作部の操作を介さずに排水口を閉口する手動用弁部材を備え、作動部に干渉する端部を含む一部の部材を遠隔操作用弁部材より取り外すことで、手動用弁部材とする」のに対して、甲3発明は遠隔操作用弁部材が排水口を閉口できなくなった際の排水口の閉口について明らかでない点。
(イ)検討
上記相違点アについて検討する。
a.甲3発明は「支持軸は、一端側支持軸と、他端部が前記通水部材に固定された他端側支持軸とを備えており、前記一端側支持軸及び他端側支持軸は、それぞれが分離可能に構成されており」、「ヘアキャッチャーを排水口から取外すことで、通水部材も取外すことができ、その結果、配管に対する通水部材の着脱をより容易に行うことができ」るものであって、「他端側支持軸」が「通水部材に固定され」ているから、「一端側支持軸」と「他端側支持軸」及び「通水部材」とが分離可能であって、「ヘアキャッチャーを排水口から取外す」ことにより「他端側支持軸」及び「通水部材」が取外されるものであると認められる。
b.また、甲3発明においては、「通水部材は、支持突起の上下動に伴って洗面器に対して上下動するように構成されており、通水部材の上下動により、支持軸ひいては栓蓋が上下動し、排水口の開閉が行われるようになって」いるのだから、「他端側支持軸」及び「通水部材」を取り外した状態において、「栓蓋」は上方に移動せず「排水口」は開口もしないことは明らかである。
c.しかしながら、甲第3号証には、遠隔操作用弁部材が排水口を閉口できなくなった際に、手動用弁部材を用いることについては何ら記載されていない。
d.また、甲3発明においては「栓蓋を支持する一端側支持軸を、外周縁が排水口の垂下部に接触するヘアキャッチャーにより支持することで、支持軸の中心軸と排水口の中心軸とがほぼ一致するようになって」いるのだから、甲3発明の「ヘアキャッチャー」は「栓蓋」及び「一端側支持軸」を装着した際に「一端側支持軸」を支持し、「支持軸の中心軸と排水口の中心軸とがほぼ一致するように」するという機能を有するものであって、甲3発明において「ヘアキャッチャー」を取り外し、それに伴って「他端側支持軸」及び「通水部材」を取り外した状態で、「栓蓋」及び「一端側支持軸」を排水口に装着することが想定されているということもできない。
e.そうすると、上記相違点アは実質的な相違点であるから、本件訂正特許発明1は甲第3号証に記載された発明ではない。
また、本件訂正特許発明1は上記相違点アに係る発明特定事項を備えることによって、「遠隔操作式の排水装置において、排水装置に故障が生じ、排水口が開口状態のまま動作しなくなったとしても、弁部材に直接的な作業を行う方法では、確実に排水口の開閉を行うことができる」(本件特許明細書段落【0005】)という顕著な効果を奏するものであるから、上記相違点アに係る本件訂正特許発明1の発明特定事項が設計的事項であるということはできない。
そうすると、本件訂正特許発明1は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ.請求項2、5及び6
(ア)本件訂正特許発明2、5及び6は、本件訂正特許発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに減縮したものである。
(イ)本件訂正特許発明1については、上記「ア.」で検討したとおりである。
また、上記相違点アに係る本件訂正特許発明1の発明特定事項は、甲4技術事項ないし甲8技術事項にも開示も示唆もされていない(甲4技術事項及び甲5技術事項については、上記「第6 4.(1)イ.(イ)」における検討も参照。)。
(ウ)そうすると、本件訂正特許発明2、5及び6は、甲3発明及び甲4技術事項ないし甲8技術事項に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.小括
以上のとおり、本件訂正特許発明1は、甲第3号証に記載された発明ではない。
また、本件訂正特許発明1は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件訂正特許発明2、5及び6は、甲3発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4.実施可能要件、サポート要件及び明確性要件
(1)申立人の主張の概要
申立人は申立書において、実施可能要件、サポート要件及び明確性要件について概ね以下のように主張している。
ア.実施可能要件
本件特許発明1の「G1(当審注:「G1」は、申立人が本件特許発明1を分説して付した符号である。):遠隔操作用弁部材21の端部から一部の部材を取り外すことで、手動用弁部材22とする」という構成要件に関し、「遠隔操作用弁部材21」の端部としては、「下端部」のみならず、「上端部」や「側端部」などが考えられる。
しかし、本件の発明の詳細な説明や図面に記載されているのは、「遠隔操作用弁部材21」の「下端部」から一部の部材(第一磁石部2C)を取外すことのみである。そのため、当業者が、明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、“遠隔操作用弁部材21の「上端部」又は「側端部」から一部の部材を取り外すことで、手動用弁部材22とする”という発明を実施しようとしても、どのように実施するかを理解することができない。
同様に、本件特許発明3の構成要件F2(当審注:「F2」は、申立人が本件特許発明3を分説して付した符号である。)における「作動部3の端部から少なくとも一部の部材を変形又は排水装置より取り外すことで」という事項に関しても、「作動部3」の端部としては、「側端部」のみならず、「上端部」や「下端部」などが考えられるが、本件の発明の詳細な説明や図面に記載されているのは、「作動部3」の「側端部」から一部の部材を取外すことのみである。そのため、当業者が、明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、“作動部3の「上端部」又は「下端部」から一部の部材を取り外すことで、手動用弁部材22とする”という発明を実施しようとしても、どのように実施するかを理解することができない。
したがって、本件における発明の詳細な説明は、本件特許発明1,3について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは言えず、実施可能要件を満たしていない。また、本件特許発明1又は3を引用する本件特許発明2,4~6についても実施可能要件を満たしていない。
イ.サポート要件
さらに、本件特許発明1における構成要素G1の「端部」が「上端部」や「側端部」を含み、本件特許発明3における構成要件F2の「端部」が「上端部」や「下端部」を含むとすれば、本件特許発明1,3は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるから、サポート要件を満たしていない。また、本件特許発明1又は3を引用する本件特許発明2,4~6についてもサポート要件を満たしていない。
ウ.明確性要件
加えて、本件特許発明1における構成要素G1の「端部」が「下端部」であり、本件特許発明3における構成要件F2の「端部」が「側端部」であるとした場合であっても、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、本件特許発明1では「遠隔操作用弁部材21」におけるどの範囲までが「下端部」に当たるのか把握することができず、本件特許発明3では「作動部3」におけるどの範囲までが「側端部」に当たるのかを把握することができない。そのため、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、本件特許発明1,3における「端部」の意味内容を当業者が理解できないから、本件特許発明1,3は不明確である。また、本件特許発明1又は3を引用する本件特許発明2,4~6についても不明確である。
(2)当審の判断
ア.本件訂正について
上記「(1)」の申立人の主張に関する特許請求の範囲の記載のうち、請求項1の「遠隔操作用弁部材21の端部から一部の部材を取り外すことで、手動用弁部材22とする」との事項は、本件訂正によって「作動部3に干渉する端部を含む一部の部材を遠隔操作用弁部材21より取り外すことで、手動用弁部材22とする」と訂正されているので、以下では、本件訂正後の特許請求の範囲の記載に基づいて検討する。
イ.実施可能要件
(ア)請求項1
本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面からは、「第一磁石部2c」が「遠隔操作用弁部材21」の端部を含む一部であることを看取できるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面に、「遠隔操作用弁部材21」の端部を含む一部を取外すことが記載されているといえる。
そうすると、本件訂正特許発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が当該記載に基づいて本件訂正特許発明1、並びに、請求項1を引用する本件訂正特許発明2、5及び6の実施をすることができることは明らかである。
(イ)請求項3
本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には、申立人も自認するように、「遠隔操作用弁部材21」の「下端部」から一部の部材を取外すこと、及び、「作動部3」の「側端部」から一部の部材を取外すことが記載されているといえる。
そうすると、当業者が当該記載に基づいて本件訂正特許発明3、及び、請求項3を引用する本件訂正特許発明4ないし6の実施をすることができることは明らかである。
(ウ)小括
上記「(ア)及び(イ)」のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正特許発明1ないし6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
ウ.サポート要件
(ア)請求項1
本件訂正によって、訂正前の請求項1の「遠隔操作用弁部材21の端部から一部の部材を取り外すことで、手動用弁部材22とする」との事項は、「作動部3に干渉する端部を含む一部の部材を遠隔操作用弁部材21より取り外すことで、手動用弁部材22とする」と訂正され、「端部」が「作動部3に干渉する」部分であることが特定された。
そして、本件特許明細書の【発明が解決しようとする課題】の項の段落【0005】には「しかしながら、遠隔操作式の排水装置に故障が生じた場合において、作動部が排水口を開口する位置で停止していれば、使用者が遠隔操作用弁部材を直接手でつかみ、必要に応じて排水口から遠隔操作用弁部材を取り出すことで排水口からの排水を行うことはできるものの、排水口に遠隔操作用弁部材を嵌めても、遠隔操作用弁部材は作動部に干渉されて弁体部が排水口上端位置まで降下できないため、排水口を閉口することはできず、水を槽体内部に溜めることができなくなる。」と記載されているから、当業者であれば、本件訂正特許発明1は、遠隔操作用弁部材のうちの「作動部に干渉する」部分を取り外すという手段を発明特定事項として備えることにより、「遠隔操作式の排水装置に故障が生じた場合において」、「遠隔操作用弁部材は作動部に干渉されて弁体部が排水口上端位置まで降下できないため、排水口を閉口することはできず、水を槽体内部に溜めることができなくなる」という課題を解決し得るものであることを認識することができるといえる。
また、この点は、請求項1を引用する請求項2、5及び6についても同様である。
(イ)請求項3
請求項3においては、「作動部3の端部から」「変形又は排水装置より取り外す」「少なくとも一部の部材」は、「変形又は排水装置より取り外すことで、遠隔操作用弁部材21が排水口1aを閉口できなくなった際に、遠隔操作用弁部材21が、閉口時作動部3に干渉することなく排水口1aを閉口することが可能な」部分であることが特定されている。
そうすると、上記「(ア)」で摘記した本件特許明細書の【発明が解決しようとする課題】の項の記載に照らせば、当業者であれば、本件訂正特許発明3は「作動部3の端部から少なくとも一部の部材を変形又は排水装置より取り外す」との手段を発明特定事項として備えることにより、「遠隔操作式の排水装置に故障が生じた場合において」、「遠隔操作用弁部材は作動部に干渉されて弁体部が排水口上端位置まで降下できないため、排水口を閉口することはできず、水を槽体内部に溜めることができなくなる」という課題を解決し得るものであることを認識することができるといえる。
また、この点は、請求項3を引用する請求項4ないし6についても同様である。
(ウ)小括
上記「(ア)及び(イ)」のとおりであるから、本件訂正特許発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載したものである。
エ.明確性要件
(ア)請求項1
本件訂正後の請求項1の「端部を含む一部の部材」は「遠隔操作用弁部材21」の少なくとも最も端の部分を含む部材であると解されるのであって、「遠隔操作用弁部材21」の最も端からどの範囲までを含んでいてもよいものであるから、当業者は「遠隔操作用弁部材21」のうちのどの範囲までが「端部」であるかを把握せずとも、「端部を含む一部の部材」が「遠隔操作用弁部材21」のうちのどの部分であるかを明確に理解できるものと認められる。
そうすると、申立人の「「遠隔操作用弁部材21」におけるどの範囲までが「下端部」に当たるのか把握することができ」ないから、「「端部」の意味内容を当業者が理解できない」とする主張は、前提において失当である。
また、この点は、請求項1を引用する請求項2、5及び6についても同様である。
(イ)請求項3
請求項3の「作動部3の端部」は「作動部3」の最も端を含む部分であると解されるのであって、「作動部3」の最も端からどの範囲までを含んでいてもよいものであるから、当業者は、「作動部3」のうちのどの範囲までが「端部」であるかを把握せずとも、「作動部3の端部」が「作動部3」のうちのどの部分であるかを明確に理解できるものと認められる。
そうすると、申立人の「「作動部3」におけるどの範囲までが「側端部」に当たるのかを把握することができない」から、「「端部」の意味内容を当業者が理解できない」とする主張は、前提において失当である。
また、この点は、請求項3を引用する請求項4ないし6についても同様である。
(ウ)小括
上記「(ア)及び(イ)」のとおりであるから、本件訂正特許発明1ないし6は、明確である。
第8 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本件訂正特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正特許発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700547