特許異議申立
2019-700460
中空型電子デバイス封止用シート、及び、中空型電子デバイスパッケージの製造方法
- 審判番号
- 2019-700460
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-090056外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年06月05日
- 審決日
- 2019年09月10日
- 公報発行日
- 2019年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
- 【異議申立人】栗原 喜子
- 分類
- P1651.121-Y (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6434181号発明「中空型電子デバイス封止用シート、及び、中空型電子デバイスパッケージの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6434181号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6434181号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成26年2月7日に出願した特願2014-22233号の一部を平成30年5月8日に新たな特許出願とした特願2018-90056号であって、平成30年11月16日に特許権の設定登録がなされ、同年12月5日にその特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和1年6月5日に特許異議申立人栗原喜子により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
特許第6434181号の請求項1ないし5の特許に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項1ないし5の特許に係る発明を、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)
「【請求項1】
熱可塑性樹脂を含み、
下記(a)~下記(d)の少なくとも1つを満たし、
厚さ250μmにした際の熱硬化後の透湿度が、温度85℃、湿度85%、168時間の条件下において、500g/m2・24時間以下であることを特徴とする中空型電子デバイス封止用シート。
(a)イオン交換水50ml中に、重さ5gの中空型電子デバイス封止用シートを浸漬し、121℃、2気圧下で20時間放置した後の前記イオン交換水中の塩化物イオン濃度が、質量基準で30ppm未満である、
(b)イオン交換水50ml中に、重さ5gの中空型電子デバイス封止用シートを浸漬し、121℃、2気圧下で20時間放置した後の前記イオン交換水中のナトリウムイオン濃度が、質量基準で10ppm未満である、
(c)イオン交換水50ml中に、重さ5gの中空型電子デバイス封止用シートを浸漬し、121℃、2気圧下で20時間放置した後の前記イオン交換水中のリン酸イオン濃度が、質量基準で30ppm未満である、
(d)イオン交換水50ml中に、重さ5gの中空型電子デバイス封止用シートを浸漬し、121℃、2気圧下で20時間放置した後の前記イオン交換水中の硫酸イオン濃度が、質量基準で5ppm未満である。
【請求項2】
無機質充填剤を中空型電子デバイス封止用シート全体に対して、70~90体積%含むことを特徴とする請求項1に記載の中空型電子デバイス封止用シート。
【請求項3】
イオン捕捉剤を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の中空型電子デバイス封止用シート。
【請求項4】
前記イオン捕捉剤は、ハイドロタルサイト系化合物であることを特徴とする請求項3に記載の中空型電子デバイス封止用シート。
【請求項5】
基板上に搭載された1又は複数の中空型電子デバイスを覆うように請求項1~4のいずれか1に記載の中空型電子デバイス封止用樹脂シートを前記中空型電子デバイス上に積層する積層工程、及び、
前記中空型電子デバイス封止用樹脂シートを硬化させて封止体を形成する封止体形成工程を含むことを特徴とする中空型電子デバイスパッケージの製造方法。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人栗原喜子(以下、「異議申立人」という。)は、以下の4点の理由を申し立て、請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
1.特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
本件特許発明1は、甲第1号証、甲第2号証ないし甲第7号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(以下、「理由1」という。)
2.特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
本件特許発明2は、甲第1号証、甲第2号証ないし甲第7号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(以下、「理由2」という。)
3.特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
本件特許発明3、4は、甲第1号証、甲第2号証ないし甲第9号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(以下、「理由3」という。
4.特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
本件特許発明5は、甲1第号証、甲第2号証ないし甲第9号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(以下、「理由4」という。)
第4 理由1及び2についての判断
1.各甲号証の記載
(1)甲第1号証について
異議申立人が証拠として提出した甲第1号証(特開2011-219726号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア.「【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填材を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、無機充填材の配合量が全エポキシ樹脂組成物中の70~90質量%であり、かつ平均粒子径が0.2~10μmである封止用エポキシ樹脂組成物を、半硬化状態のシート状樹脂層(A層)に成形したことを特徴とする封止用エポキシ樹脂組成物シート。
【請求項2】
エラストマー成分を含有した、前記封止用エポキシ樹脂組成物を、半硬化状態のシート状樹脂層(A層)に成形したことを特徴とする請求項1に記載の封止用エポキシ樹脂組成物シート。」
イ.「【0036】
本発明で用いられるエラストマー成分としては、ポリブタジエンゴム又はブタジエン系ランダム共重合ゴムを用いる。
【0037】
このブタジエン系ランダム共重合ゴムは特に制限されるものではないが、本発明においては、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム、ブタジエンアクリロニトリルメタクリル酸共重合ゴムを用いるのが好ましい。これは、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム、ブタジエンアクリロニトリルメタクリル酸共重合ゴムがエポキシ樹脂との相溶性が特によく、乾燥後のゴム相の分離状態が良好であることにより、高い強靱性を有する硬化物が得られるからである。」
ウ.「【0041】
さらに本発明の封止用エポキシ樹脂組成物シートに用いられるエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに他の添加剤を配合することができる。このような添加剤の具体例としては、例えば、顔料、難燃剤、離型剤、シリコーン可撓剤等を挙げることができる。」
エ.「【0069】
これら中空型デバイスに本発明の封止用エポキシ樹脂組成物シートを適用する方法としては、例えば、本発明の、シート状樹脂層(A層)単独で成型した封止用エポキシ樹脂組成物シートの場合には、基板上にマトリックス状に配列搭載した中空型デバイス上に、エポキシ樹脂組成物塗布面を下にして1枚または複数枚重ねて覆うように載せ、ラミネーターまたは真空プレスで0.1~1.0MPa、130℃で3分程度密着させる。この際、減圧、真空にして密着できればより好ましい。この状態でオーブンで170~180℃、1時間加熱し、エポキシ樹脂を硬化させて中空型デバイスを封止する。その後ダイシング装置を用いて中空型デバイスとして個片化する方法が挙げられる。」
オ.「【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<封止用エポキシ樹脂組成物シートの作製>
表1及び表2に示す各成分の所定量(質量%)をメチルエチルケトンに溶解、分散させ、樹脂ワニスを調製した。なお、表2に示す樹脂ワニスは、シート状樹脂層(A層)用とシート状樹脂層(B層)用のものをそれぞれ別々に調整した。
【0073】
表1に示す、実施例1~10及び比較例1~4の封止用エポキシ樹脂組成物シートは、調整した樹脂ワニスをポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に塗布して乾燥炉にて10分間加熱乾燥し、半硬化状態のシート状樹脂層(A層)単独で成形して封止用エポキシ樹脂組成物シートを作製した。」
カ.「【0076】
配合成分としては以下のものを用いた。
(1)樹脂
エポキシ樹脂1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂 大日本インキ化学社製 エピクロン840S
エポキシ樹脂2:フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂 日本化薬社製 NC3000
(2)硬化剤
硬化剤1:ジシアンジアミド 日本カーバイド社製
硬化剤2:ノボラック型フェノール樹脂 明和化成社製 DL-75
(3)硬化促進剤
2-エチル-4-メチルイミダゾール:四国化成社製 2E4MZ
(4)無機充填材
無機充填材1:球状シリカ(平均粒子径3μm)
無機充填材2:球状シリカ(平均粒子径15μm)
無機充填材3:球状シリカ(平均粒子径0.1μm)
無機充填材4:破砕シリカ(平均粒子径3μm)
無機充填材5:球状アルミナ(平均粒子径3μm)
無機充填材6:球状シリカ(平均粒子径0.2μm)
無機充填材7:球状シリカ(平均粒子径10μm)
(5)エラストマー
ブタジエン系ランダム共重合ゴム:アクリロニトリルブタジエンゴム JSR社製 XERシリーズ(重量平均分子量:20000、300000、1000000)
(6)添加剤
カップリング剤:信越化学工業社製 KBM803
<中空型デバイスの封止>
表1に示す実施例1~10及び比較例1~4の封止用エポキシ樹脂組成物シートを、80mm角のセラミック基板上にマトリックス状に配列搭載したSAWフィルターチップ(チップ厚み200μm、バンプ高さ40μm)上に、エポキシ樹脂組成物塗布面と接して覆うように載せ、真空中で加熱温度120℃、加圧力3MPaで3分間真空プレスした。その後プレス成形品を1750℃のオーブンで90分間アフターキュアを行った。その後ダイシング装置を用いてパッケージを個片化した。」
キ.「【0079】
剥離が生じたものを×、生じなかったものを○とした。その結果を表1に示す。
(3)20~300μm厚シートの作製
表1に示す実施例1~10及び比較例1~4の封止用エポキシ樹脂組成物シートについて、キャリア材表面に樹脂ワニスを塗布する際に、塗工装置の塗布量を調製して20~300μm厚シートを作製した。」
ク.「【表1】
」
ここで、上記ク(表1)の実施例3には、封止用エポキシ樹脂組成物シートの配合成分としては、エポキシ樹脂にエポキシ樹脂1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂 大日本インキ化学社製 エピクロン840Sを用い、無機充填材に無機充填材1:球状シリカ(平均粒子径3μm)を用い、無機充填材の配合割合が88質量%であることが記載されている。
そうすると、上記アないしクによれば、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填材を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、無機充填材の配合量が全エポキシ樹脂組成物中の70~90質量%であり、かつ平均粒子径が0.2~10μmであり、エラストマー成分を含有した、封止用エポキシ樹脂組成物を、半硬化状態のシート状樹脂層(A層)に成形し、
封止用エポキシ樹脂組成物シートの配合成分としては、エポキシ樹脂にエポキシ樹脂1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂 大日本インキ化学社製 エピクロン840Sを用い、無機充填材に無機充填材1:球状シリカ(平均粒子径3μm)を用い、無機充填材の配合割合が88質量%である
封止用エポキシ樹脂組成物シート。」
(2)甲第2号証について
異議申立人が証拠として提出した甲第2号証(特開2004-39945号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ケ.「【請求項1】
一主面に機能部とこの機能部に電気的に接続された電極とを有する回路素子と、素子搭載面に電極を有する基板とを、上記主面と素子搭載面とを対向させて配置し、回路素子の電極と基板の電極とを複数のバンプにより電気的に接続するとともに、回路素子の周囲に封止樹脂を塗布し、回路素子と基板との間を中空封止した電子デバイスにおいて、
上記封止樹脂には、回路素子と基板との隙間の入口間隔よりも大きな粒径を有する第1フィラーが含まれており、
上記封止樹脂は、上記第1フィラーによって回路素子の機能部への樹脂の流れ込みが阻止された状態で硬化されていることを特徴とする電子デバイス。」
コ.「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように回路素子31をバンプ32を介して基板30に接合することで、回路素子31の主面と基板30との間には、バンプ32の高さに応じた隙間ができる。例えば、バンプ32がはんだバンプであれば約60μm、金バンプであれば約20μmの隙間ができる。外部から中空部34への湿気の浸入を防ぐには、回路素子31と基板30との隙間をできるだけ小さくし、樹脂厚みをできるだけ薄くするのが望ましい。
【0006】
図10は封止樹脂の厚みと湿気浸入量との関係を示す図である。図10に示すように、浸入する湿気の量は封止樹脂の厚みに比例しており、湿気の浸入を遮断するためには、樹脂の厚みが薄ければ薄いほど良いことがわかる。因に、湿気の浸入を実質的に防止しうる樹脂厚みとしては10μm以下が理想的である。
しかし、上記のようにバンプ32の高さによって隙間が規定されるため、樹脂33の中を通って湿気が浸入し、中空部34に湿気が溜まって回路素子31の機能部の腐食を引き起こす原因となっていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、回路素子と基板との間に中空部を残して封止するとともに、中空部への湿気の浸入を防止できる電子デバイスおよびその製造方法を提供することにある。」
サ.「【0020】
図4は、フィラーと湿気浸入量との関係を示すグラフである。
この図は、フィラーの粒径を変えて、湿気の浸入量を測定したものである。フィラーなしの場合には0.15μg/h、小径フィラーを含む場合には0.09μg/hであるのに対し、大径フィラーを含む樹脂では0.045μg/hであり、湿気の浸入量が減少したことがわかる。さらに、大小2種類のフィラーを含む樹脂では0.02μg/hとなり、湿気遮断効果が最も優れていることがわかる。
なお、ここで使用した樹脂材料および各フィラーの粒径は図3と同様である。」
シ.「【図4】
」
(3)甲第3号証について
異議申立人が証拠として提出した甲第3号証(特開2001-220496号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ス.「【0003】しかしながら、金属やセラミックは本質的に非透湿であるのに対して、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂は、水分拡散係数を有しており、加湿条件に曝されると、吸湿し透湿していく。それ故、腕時計、電卓などの精密機械や半導体パッケージなどの電子部品、特には固体映像素子(以下、CCDと略す)中空パッケージ、水晶発振子中空パッケージなどの気密性や防水性が要求される用途に熱硬化性樹脂を使用した場合、樹脂の透湿性が問題になることが多い。例えば、直接水に接触しなくても高温多湿の環境に長時間曝された場合、樹脂製のCCDパッケージは、徐々に吸湿し、更に気密性を保持した空間に飽和水蒸気圧から求められた飽和水蒸気量を超えた水分が存在すると、水分の凝集により結露が発生し、その装置は使用不能になってしまう。
【0004】従って、中空パッケージ用として使用するエポキシ樹脂、硬化剤、無機質充填剤を主成分とするエポキシ樹脂組成物においては、従来より透湿性の改善が課題となっており、このためエポキシ樹脂組成物中に無機質吸湿剤を添加し、硬化物中に透湿してくる水分を吸着させることにより、中空内部への透湿を防止する技術が提案されている。」
(4)甲第4号証について
異議申立人が証拠として提出した甲第4号証(特開2006-19714号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
セ.「【請求項1】
配線基板上に、前記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を、前記複数の配列された機能素子を覆うように前記配線基板上に配置されたゲル状硬化性樹脂シートを加熱硬化させて、前記配線基板と前記機能素子との間を中空に保ちつつ、一括樹脂封止する電子部品の製造方法であって、少なくとも、以下の工程(a)、(b)、(c)及び(d)を有することを特徴とする電子部品の製造方法:
(a)配線基板上に前記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように、前記配線基板上にゲル状硬化性樹脂シートを配置する工程、
(b)前記複数の配列された機能素子がその内部に含まれている前記ゲル状硬化性樹脂シートと前記配線基板とで囲まれた閉空間領域を、真空にする工程、
(c)前記閉空間領域を真空に維持しつつ、熱ロールで前記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度未満に加熱し流動させながら封止樹脂表面を平坦に成形する工程、及び、
(d)前記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度に加熱して硬化させる工程。」
ソ.「【0037】
上記ゲル状硬化性樹脂シートは、低ガラス転移温度、低線膨張率であることが、硬化物を低応力化(低ソリ化)することができるので好ましく、さらに、原料を高純度化したものであることが、不純物イオンが少なく、弾性表面波チップ表面の汚染を防ぐことができるので好ましく、さらに、ゲル状硬化性樹脂シートの弾性率(25℃)が103~109Pa、さらには104~108Paで、硬化時の溶融粘度が10~105Pa・s、さらには103~104Pa・sであることが、熱ロールすることにより、封止樹脂層形成前のデバイスに弾性表面波電極面と配線パターンが形成された面とがバンプの高さのぶん隔てられた部分が中空構造を保つように封止樹脂層を形成するうえで好ましい。また、軟化温度は、50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上である。」
タ.「【0041】
また、本発明においては、上記1枚又は複数枚のゲル状硬化性樹脂シートに加えて、上記ゲル状硬化性樹脂シート以外の追加の他の樹脂シートを、必要に応じて、積層することができる。上記他の樹脂シートは、例えば、低透湿性の熱可塑性樹脂系シート(例えば、ポリエステル系、ポリオレフィン系シート)、無機フィラーを配合して透湿性・流動性を抑えた硬化性樹脂シート(例えば、エポキシ樹脂系硬化性シート)、ポリイミド系樹脂シート等のように、所望の特別の機能を持つものを適用することができる。上記追加の他の樹脂シートは、熱ロールで硬化性樹脂を流動させるときに支障が生じないために、硬化性樹脂シートの下に積層することが好ましいが、必ずしもこれに限定されることはない。」
(5)甲第5号証について
異議申立人が証拠として提出した甲第5号証(特開2003-313399号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
チ.「【0002】
【従来の技術】従来から、トランジスタ,IC,LSI等の半導体素子は、エポキシ樹脂組成物を用いて封止され電子部品化されている。その電子部品は、難燃性の規格であるUL-94V-0に適合することが必要不可欠であるため、これまでは、臭素化エポキシ樹脂や酸化アンチモン化合物を添加することにより難燃性を付与する方法が採られてきた。ところが、上記ハロゲン系難燃剤は焼却時に有毒なダイオキシンを生成するという問題があり、また上記酸化アンチモン化合物にも粉体毒性があるため、近年の環境対策から、上記ハロゲン系難燃剤や酸化アンチモン化合物に対する規制が厳しくなり、これら難燃剤を使用せずに難燃性を付与した封止用エポキシ樹脂組成物が要求されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このような要求に対して、これまで種々の代替難燃剤が検討されてきた。例えば、赤燐系難燃剤を半導体封止用エポキシ樹脂組成物に適用することに関しては、すでに各種の提案がなされている。しかしながら、赤燐から溶出するリン酸イオンによる耐湿性の低下問題がある。また、リン酸イオンの溶出を妨げるため、赤燐の表面を水酸化アルミニウムやフェノール樹脂で被覆しても、耐湿性の低下が完全に免れることは困難であるし、イオン捕捉剤を用いたとしても充分な効果を得ることはまた困難である。さらに、耐水性に劣るリン系難燃剤は富栄養化等の海洋汚染やリサイクル性の問題が予想されやはり使用には不適当である。
【0004】本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、従来のハロゲン系難燃剤、アンチモン化合物はもちろん赤燐系難燃剤を使用せずに高い難燃性を備えるとともに、耐湿信頼性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いて得られる信頼性の高い半導体装置の提供を目的とする。」
ツ.「【0007】すなわち、本発明者らは、従来の難燃剤に代わる難燃剤を用いての難燃性付与とともに、耐湿信頼性においても優れた封止材料となり得るエポキシ樹脂組成物を得ることを目的に一連の研究を重ねた。その結果、上記メラミン塩化合物〔(E)成分〕を用いることにより、従来と同等の優れた難燃性が付与され、しかもイオン性不純物等に起因した耐湿信頼性の低下を抑制することが可能となることを見出し本発明に到達した。」
テ.「【0033】なお、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、上記A~E成分および上記特定の金属水酸化物以外に、顔料、離型剤、表面処理剤、可撓性付与剤、イオントラップ剤等を必要に応じて適宜添加することができる。」
ト.「【0038】そして、上記イオントラップ剤としては、ハイドロタルサイト類等があげられる。」
(6)甲第6号証について
異議申立人が証拠として提出した甲第6号証(特開2009-57393号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ナ.「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填材、(D)硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂組成物において、硬化促進剤を平均粒子径4.0~10.0μm、比表面積280~700m2/g、吸油量70~350ml/100gの多孔質無機微粒子に含浸させた潜在性硬化促進剤を使用することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。」
ニ.「【0010】
また、上記エポキシ樹脂を半導体封止用に用いる場合、加水分解性塩素が1000ppm以下、特に500ppm以下、ナトリウム及びカリウムはそれぞれ10ppm以下とすることが好適である。加水分解性塩素が1000ppmを超えたり、ナトリウム及びカリウムが10ppmを超える樹脂で半導体装置を封止し、長時間高温高湿下に該半導体装置を放置すると、耐湿性が劣化する場合がある。」
ヌ.「【0030】
本発明の組成物には、必要に応じて、該組成物の硬化物に可撓性や強靭性を付与させたり、接着性を付与するため、シリコーン変性共重合体や各種有機合成ゴム、スチレン-ブタジエン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-エチレン-ブテン-スチレン共重合体などの熱可塑性樹脂、シリコーンゲルやシリコーンゴムなどの微粉末を添加することができる。また、二液タイプのシリコーンゴムやシリコーンゲルで無機質充填剤の表面を処理してもよい。なお、上述したシリコーン変性共重合体やスチレン-ブタジエン-メタクリル酸メチル共重合体はエポキシ樹脂の低応力化に効果を発揮する。
【0031】
本発明の組成物には、必要に応じて、該組成物の硬化物に可撓性や強靭性を付与させたり、接着性を付与するため、シリコーン変性共重合体や各種有機合成ゴム、スチレン-ブタジエン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-エチレン-ブテン-スチレン共重合体などの熱可塑性樹脂、シリコーンゲルやシリコーンゴムなどの微粉末を添加することができる。また、二液タイプのシリコーンゴムやシリコーンゲルで無機質充填剤の表面を処理してもよい。なお、上述したシリコーン変性共重合体やスチレン-ブタジエン-メタクリル酸メチル共重合体はエポキシ樹脂の低応力化に効果を発揮する。
【0032】
上述した低応力化剤としてのシリコーン変性共重合体及び/又は熱可塑性樹脂の使用量は、通常エポキシ樹脂組成物全体の0.2~10重量%、特に0.5~5重量%とすることが好ましい。0.2重量%より低い配合量では、十分な耐熱衝撃性を付与することができない場合があり、一方10重量%を超える配合量では、機械的強度が低下する場合がある。」
(7)甲第7号証について
異議申立人が証拠として提出した甲第7号証(大野康晴、IXE新技術~新しい無機陰イオン交換体~、東亞合成グループ研究年報、2006年、第9号、p25-27)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ネ.「1 はじめに
無機イオン交換体『IXE(イグゼ)』は、優れたイオン交換特性と耐熱性を兼ね備えた材料である。その特長を活かして主にIC封止材などの電子材料にイオンキャッチャー剤として使用され、耐湿信頼性向上に寄与している。」(第25頁左欄第1-5行)
ノ.「2.1 代表的な無機陰イオン交換体
無機イオン交換体の多くは含水金属酸化物やその複合酸化物である。表面電荷が負に帯電している場合は陽イオン交換性を示し、ゼオライト、リン酸ジルコニウム、粘土鉱物などが知られている。」(第25頁左欄19-22行)
ハ.「4.3 各種陰イオンに対する選択性
表3に新規陰イオン交換体の各種陰イオンに対する分配係数Kdを示した。分配係数は値が大きいほどそのイオンに対する選択性が高いことを示す。電子材料の信頼性を向上させるには、確実に遊離イオンをキャッチすることが重要であり、そのためイオン選択性が高いことが好ましいと考えられている。
新規イットリウム系化合物はイオン選択性が高い結果が得られた。酸溶液および混合液では既存のIXEに近いレベルの選択性を示した。一般的な封止樹脂は弱酸性を示すので、信頼性向上に有効と考える。
また、アルミニウム系化合物についても硫酸イオンやリン酸イオンに対する分配係数が高い結果が得られた。
4.4 新規陰イオン交換体添加エポキシ樹脂の抽出試験
封止材に使用されているエポキシ樹脂は微量のClを含有し、徐々にCl-イオンとして遊離してくるため、これがアルミ配線腐食の主な原因となる。そのため封止材中の遊離Cl-イオンを効率よく捕捉することが重要である。
図2に新規無機陰イオン交換を添加した封止材用樹脂のPCT後のCl-イオン濃度の分析結果を示す。
新規イットリウム系化合物および新規アルミニウム系化合物無機陰イオン交換体の添加により、エポキシ樹脂中からのCl-イオンの溶出が抑えられており、IC封止材に使用した場合、電子材料の信頼性の向上が期待できる。」(第27頁左欄第1-23行)
ヒ.第27頁上方の「表3」には、陰イオン交換体の各種陰イオン「Cl-」、「Br-」、「NO3-」、「SO42-」、「PO43-」に対する選択性の高さを示す分配係数Kdが記載されている。
(8)甲第8号証について
異議申立人が証拠として提出した甲第8号証(特開2011-148959号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
フ.「【0038】
また、本発明の樹脂組成物中には、以上の各成分の他、本発明の効果を阻害しない範囲で、この種の組成物に一般に配合される、カップリング剤、合成ワックス、天然ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸の金属塩等の離型剤、カーボンブラック、コバルトブルーなどの着色剤、シリコーンオイル、シリコーンゴムなどの改質剤、ハイドロタルサイト類、イオン捕捉剤などを配合することができる。」
(9)甲第9号証について
異議申立人が証拠として提出した甲第9号証(特開2011-195841号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ヘ.「【0166】
(イオン交換体)
本発明の硬化性樹脂組成物には、陰イオン交換体を必要に応じて配合することができる。特に硬化性樹脂組成物を封止用成形材料として用いる場合には、封止される素子を備える電子部品装置の耐湿性及び高温放置特性を向上させる観点から、陰イオン交換体を配合することが好ましい。本発明において用いられる陰イオン交換体としては特に制限はなく、従来公知のものを用いることができるが、例えば、ハイドロタルサイト類や、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ビスマスから選ばれる元素の含水酸化物が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、下記一般式(XIX)で示されるハイドロタルサイトが好ましい。」
2.対比・判断
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「封止用エポキシ樹脂組成物シート」は、「エポキシ樹脂を硬化させて中空型デバイスを封止」するものであるから、本件特許発明の「中空型電子デバイス封止用シート」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「中空型電子デバイス封止用シート」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
配合成分について、本件特許発明1は「熱可塑性樹脂」を含むのに対し、甲1発明にはその旨の特定はされていない。
<相違点2>
イオン性不純物の染み出し量について、本件特許発明1は「下記(a)~下記(d)の少なくとも1つを満たし、
(a)イオン交換水50ml中に、重さ5gの中空型電子デバイス封止用シートを浸漬し、121℃、2気圧下で20時間放置した後の前記イオン交換水中の塩化物イオン濃度が、質量基準で30ppm未満である、
(b)イオン交換水50ml中に、重さ5gの中空型電子デバイス封止用シートを浸漬し、121℃、2気圧下で20時間放置した後の前記イオン交換水中のナトリウムイオン濃度が、質量基準で10ppm未満である、
(c)イオン交換水50ml中に、重さ5gの中空型電子デバイス封止用シートを浸漬し、121℃、2気圧下で20時間放置した後の前記イオン交換水中のリン酸イオン濃度が、質量基準で30ppm未満である、
(d)イオン交換水50ml中に、重さ5gの中空型電子デバイス封止用シートを浸漬し、121℃、2気圧下で20時間放置した後の前記イオン交換水中の硫酸イオン濃度が、質量基準で5ppm未満である。」のに対し、甲1発明にはその旨の特定はされていない。
<相違点3>
透湿度について、本件特許発明1は「厚さ250μmにした際の熱硬化後の透湿度が、温度85℃、湿度85%、168時間の条件下において、500g/m2・24時間以下である」のに対し、甲1発明にはその旨の特定はされていない。
まず、相違点3について検討する。
この点について、異議申立人は、甲1-1発明の封止用エポキシ樹脂組成物シートは、無機充填材としてのシリカを88質量%含むものであり、本件特許明細書【0039】に記載されたシリカの含有量と同一の範囲を含むものであるから、厚さ250μmにした際の熱硬化後の透湿度が、温度85℃、湿度85%、168時間の条件下において、500g/m2・24時間以下である蓋然性が高く、実質的な相違点ではない旨を主張している。
しかしながら、甲1発明の封止用エポキシ樹脂組成物シートに含まれる無機充填材は「球状シリカ(平均粒子径3μm)」であり、本件特許明細書の【0073】に記載された「溶融球状シリカ、平均粒子径20μm」とは粒子の大きさや形状が同じとはいえず、異議申立人が主張している「蓋然性が高い」というだけでは、相違点3に係る構成が甲1発明に存在するかどうかは立証できていない。
そして、本件特許発明1は、本件特許明細書【0010】に記載があるように、中空型電子デバイス封止用シートのイオン性不純物の染み出し量を低減させておくことに加えて、透湿度を低くしておくことにより、中空型電子デバイスパッケージの製品信頼性を向上させるものである。
異議申立人が主張するように、甲第2号証ないし甲第4号証の記載事項から、中空型電子デバイス封止用シートに関して、外部から中空部への湿気の浸入を防ぐことが周知の課題であったとしても、本件特許発明1は、中空型電子デバイス封止用シートに上記相違点2に係る(a)~(d)の少なくとも1つを満たす構成を採用した際に、加えて相違点3の透湿度となるように構成するものであり、甲第2号証ないし甲第7号証にはそのような技術思想はなく、この点からも相違点3に係る構成を満たすものとはいえない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、相違点3は、甲第1号証ないし甲第7号証に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3.まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、相違点1及び2を判断するまでもなく、甲第1号証ないし甲第7号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証ないし甲第7号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、理由1及び2を採用することはできない。
第5 理由3及び4についての判断
本件特許発明3-5は、本件特許発明1を直接または間接的に引用し、さらに発明特定事項を限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、上記相違点3は、甲1発明ないし甲9発明に記載された事項ではなく、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、理由3及び4を採用することはできない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-700460