特許異議申立
2019-700406
光学ガラス及び光学素子
- 審判番号
- 2019-700406
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-141066
- 登録番号
- 特許第6425690号(P6425690)
- 請求日
- 2019年05月21日
- 審決日
- 2019年07月30日
- 公報発行日
- 2019年09月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社オハラ
- 【権利者代理人】正林 真之
- 【権利者代理人】林 一好
- 【権利者代理人】新山 雄一
- 【異議申立人】星 正美
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 賢一
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.121-Y (C03C) / P1651.536-Y (C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6425690号発明「光学ガラス及び光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6425690号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6425690号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成22年10月28日に出願された特願2010-242299号の一部を平成28年7月19日に新たな特許出願としたものであって、平成30年11月2日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和1年5月21日付けで特許異議申立人星正美により特許異議の申立てがされたものである。
2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でP2O5成分を20.084%以上32.0%以下、Nb2O5成分を30.0%以上47.096%以下含有し、
TiO2成分 13.389~30.0%、
Bi2O3成分 0~8.331%及び
WO3成分 4.602~25.424%
を含有し、
Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、K及びCsからなる群より選択される1種類以上)の質量和が0.1%以上10.0%以下であり、
質量比(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)/Rn2Oが8.789以上であり、
質量比{100-P2O5-(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)}/P2O5が0.480以下であり、
液相温度が1200℃以下であり、
1.80以上の屈折率(nd)を有し、分光透過率が70%を示す波長(λ70)が480nm以下である光学ガラス。」
3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証(特開2010-222236号公報)、甲第2号証(星正美による実験成績証明書(1))、及び、甲第3号証(星正美による実験成績証明書(2))を提出し、以下の申立理由を主張している。
(1)申立理由1
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2
甲第3号証によれば、本件特許明細書の記載に不備があるため、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4 甲号証について
(1)甲第1号証の記載事項(なお、下線は当審が付した。)
ア 「【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、Sb2O3を少量しか含有せず或いは全く含まなくとも、所望の高透過率及び高分散(低いアッベ数)を有する光学ガラス及び光学素子を提供することにある。」
イ 「【0030】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩及び金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。」
ウ 「【0036】
Nb2O5成分は、ガラスの屈折率及び分散を高める成分である。特に、Nb2O5成分の含有率を10.0%以上にすることで、高屈折率を得ることができ、且つ所望の高分散を得ることができる。一方、Nb2O5成分の含有率を60.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高めることで耐失透性を高めることができる。・・・
【0037】
TiO2成分は、ガラスの屈折率及び分散を高め、且つガラスの化学的耐久性を高める成分である。・・・」
エ 「【0041】
Na2O成分は、ガラスの溶解温度を下げる成分であるとともに、ガラス形成時の耐失透性を高める成分であり、ガラス中の任意成分である。特に、Na2O成分の含有率を15.0%未満にすることで、高屈折率を得易くすることができ、且つガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNa2O成分の含有率は、好ましくは15.0%未満とし、より好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、Na2O成分は含有しなくとも所望の特性を備えた光学ガラスを得ることができるが、Na2O成分を含有することで、ガラスの液相温度が高められるため、ガラスの耐失透性をより高めることができる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNa2O成分の含有率は、好ましくは0.1%、より好ましくは2.0%を下限とし、さらに好ましくは4.0%より多く含有し、最も好ましくは4.2%を下限とする。Na2O成分は、原料として例えばNa2CO3、NaNO3、NaF、Na2SiF6等を用いてガラス内に含有できる。」
オ 「【0042】
K2O成分は、ガラスの溶解温度を下げる成分であるとともに、ガラス形成時の耐失透性を高める成分であり、ガラス中の任意成分である。特に、K2O成分の含有率を10.0%以下にすることで、高屈折率を得易くすることができ、且つガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するK2O成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは6.0%を上限とする。K2O成分は、原料として例えばK2CO3、KNO3、KF、KHF2、K2SiF6等を用いてガラス内に含有できる。」
カ 「【0043】
本発明の光学ガラスでは、Rn2O成分(式中、RnはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上)の含有率の質量和が、15.0%未満であることが好ましい。これにより、Rn2O成分による屈折率及び分散の低下が抑えられるため、高屈折率及び高分散を得易くすることができる。・・・
【0044】
また、本発明の光学ガラスは、Rn2O成分の含有量に対するNa2O成分の含有量の質量比が0.40以上であることが好ましい。これにより、光学ガラスの耐失透性が高められるため、所望の光学特性を有する光学ガラスをより安定的に作製できる。・・・」
キ 「【0056】
Bi2O3成分は、ガラスの屈折率及び分散を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。・・・」
ク 「【0061】
WO3成分は、ガラスの屈折率を上げ、ガラスの分散を高める成分であり、ガラス中の任意成分である。・・・」
ケ 「【実施例】
【0075】
本発明の実施例(No.1~No.31)及び比較例(No.1~No.2)の組成(質量%)、並びに、これらのガラスのSb2O3成分の濃度(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、並びに、分光透過率が70%及び5%を示す波長(λ70、λ5)の結果を表1~表5に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
・・・
【0080】
【表2】
」
(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)イ及びケの記載事項を実施例No.15のガラスに注目して整理すると、甲第1号証には、
「酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で、P2O5成分が25.4%、Nb2O5成分が42.5%、TiO2成分が16.9%、B2O3成分が0.0%、BaO成分が1.6%、Na2O成分が4.4%、K2O成分が3.6%、WO3成分が5.6%であり、
酸化物基準の質量に対する外割り質量%でSb2O3成分が0.250%であり、
屈折率(nd)が1.959、アッベ数(νd)が17.5、及び、分光透過率が70%を示す波長(λ70)が460nmである光学ガラス。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
5 申立理由の検討
(1)申立理由1(特許法第29条第2項)について
ア 本件特許発明と甲1発明を対比する。
甲1発明のガラス組成は、Sb2O3成分を含めたガラス全質量に対する含有率に換算すると、P2O5成分が25.34%、Nb2O5成分が42.39%、TiO2成分が16.86%、B2O3成分が0.0%、BaO成分が1.60%、Na2O成分が4.39%、K2O成分が3.59%、WO3成分が5.59%、Sb2O3成分が0.249%となるし、Bi2O3成分は含有してないし、また、Li2O成分とCs2O成分は含有していないため、Li2O成分とNa2O成分とK2O成分とCs2O成分の合計含有率は7.98%となることから、本件特許発明のP2O5成分、Nb2O5成分、TiO2成分、Bi2O3成分、WO3成分、Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、K及びCsからなる群より選択される1種類以上)のそれぞれの含有率を満たしている。
また、甲1発明のガラス組成のP2O5成分が25.4%、Nb2O5成分が42.5%、TiO2成分が16.9%、及び、WO3成分が5.6%であり、Bi2O3成分が含有していないことは、その質量比{100-P2O5-(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)}/P2O5を算出すると0.3879になるから、本件特許発明の「質量比{100-P2O5-(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)}/P2O5が0.480以下」を満たしているといえる。
さらに、甲1発明の「屈折率(nd)が1.959」及び「分光透過率が70%を示す波長(λ70)が460nm」であることは、本件特許発明の「1.80以上の屈折率(nd)を有し、分光透過率が70%を示す波長(λ70)が480nm以下である」ことに相当する。
よって、本件特許発明は、甲1発明と、
「酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でP2O5成分を20.084%以上32.0%以下、Nb2O5成分を30.0%以上47.096%以下含有し、
TiO2成分 13.389~30.0%、
Bi2O3成分 0~8.331%及び
WO3成分 4.602~25.424%
を含有し、
Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、K及びCsからなる群より選択される1種類以上)の質量和が0.1%以上10.0%以下であり、
質量比{100-P2O5-(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)}/P2O5が0.480以下であり、
1.80以上の屈折率(nd)を有し、分光透過率が70%を示す波長(λ70)が480nm以下である光学ガラス」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件特許発明では、「質量比(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)/Rn2Oが8.789以上」であるのに対して、甲1発明では、ガラス組成におけるNb2O5成分が42.5%、TiO2成分が16.9%、WO3成分が5.6%、及び、Rn2O成分が8.0%であって、これらの数値から算出された質量比(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)/Rn2Oは「8.125」となる点。
(相違点2)
本件特許発明は、「液相温度が1200℃以下」であることが特定されているのに対して、甲1発明は、液相温度が明らかでない点。
イ まず、相違点1について検討すると、甲第1号証には、ガラス成分の質量比(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)/Rn2Oを調整することは記載も示唆もされていないため、甲1発明において、質量比(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)/Rn2Oを調整する動機付けがない。
また、甲第2号証の実験成績証明書(1)は、甲1発明の液相温度を示すものであり、質量比(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)/Rn2Oの調整を示唆するものでない。
よって、甲1発明において、Nb2O5成分、TiO2成分、Bi2O3成分、WO3成分又はRn2O成分の含有率を調整して、質量比(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)/Rn2Oを「8.789以上」とすることは、当業者が容易になし得ることといえない。
ウ 上記相違点1に関して、特許異議申立人は、
(ア)甲第1号証には、上記4(1)ア及びウによれば、高透過率、高分散、表面凹凸曇りの低減を目的とすることや、Nb2O5成分は高屈折、高分散成分であることが記載され、高屈折、高分散性を「ターゲットとされる物性」と考えれば、Nb2O5成分を増量する方向性が示されていること、
(イ)甲第1号証には、上記4(1)ウによれば、Nb2O5成分の増量が耐失透性の低下を招くことが記載されていること、及び、
(ウ)甲第1号証には、上記4(1)エ及びカによれば、質量和(Li2O+Na2O+K2O)を少なくすることで屈折率及び分散の低下が抑えられ、質量比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)が0.4以上であれば、耐失透性が高められ、さらに、Na2O成分の最も好ましい下限値が4.2%であることが記載されていることから、屈折率及び分散の低下が抑え、耐失透性の低下を抑制する観点からK2O成分を減量する方向性が示されていること、
を根拠にして、甲1発明のNb2O5成分を42.5%から43.1%に増量し、K2O成分を3.6%から3.0%に減量する組成調整をすることで、質量比(Nb2O5+TiO2+Bi2O3+WO3)/Rn2Oを8.865(=(43.1%+16.9%+0%+5.6%)/7.4%)とすることは、当業者が容易に想到できる旨を主張している(特許異議申立書第10~13頁の「相違点に係る動機付け」参照)。
しかしながら、甲第1号証には、上記4(1)オによれば、K2O成分はガラス形成時の耐失透性を高める成分であることが記載されており、耐失透性の低下を抑制する観点からはK2O成分を増量させるべきであるから、特許異議申立人が主張する「耐失透性の低下を抑制する観点からK2O成分を減量する方向性」は、甲第1号証に示唆されているといえない。
また、甲第1号証には、上記4(1)ウ、キ及びクによれば、Nb2O5成分、TiO2成分、Bi2O3成分及びWO3成分は、ガラスの屈折率及び分散を高める成分であることが記載されており、ガラス成分を増減する場合は、同じ機能を有する成分で置換することが技術常識であるし、また、上記のとおり、Nb2O5成分の増量による耐失透性の低下を抑制する観点からは、K2O成分も増量させる必要があることから、Nb2O5成分の増量分をK2O成分の減量により組成調整することを容易に想到したとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。
エ 以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をできたものといえない。
よって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
(2)申立理由2(特許法第36条第4項第1号)について
ア 特許異議申立人は、本件特許明細書の実施例には、
「【0086】
本発明の実施例(No.1~No.5)の光学ガラス及び比較例(No.1)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表1に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1000~1300℃の温度範囲で2~10時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1250℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0087】
ここで、実施例(No.1~No.5)及び比較例(No.1)のガラスの屈折率(nd)及びアッベ数(νd)については、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。なお、本測定に用いたガラスとして、アニール条件は徐冷降下速度を-25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。」
と記載されているものの、「ガラス組成の熔融難易度」の説明が一切なく、本件特許発明の光学ガラスを得るための必要な条件が明らかでないし、また、当該記載の範囲で、失透を回避し、可能な限り着色を低減されるために合理的な条件設定を行い、本件特許明細書の実施例5の再現(甲第3号証の再現実験)を試みたが、透過率(λ70)が480nm以下のガラスが得られなかったことから、本件特許明細書の記載は実施可能要件を満足するものでない旨を主張している(特許異議申立書第14~15頁の「(4.4)実施可能要件違反」参照)。
イ そこで検討するに、本件特許明細書における「ガラス組成の熔融難易度」が、各成分の原料の熔融温度の高低差によるガラス化する際の熔融条件設定の困難性を示していることは明らかであるから、本件特許明細書の段落【0086】~【0087】の記載に基づき、実施例の光学ガラスを製造するための具体的な条件を導くことは、適切な原料を選択することにより、当業者が通常行う試行錯誤の範囲で実施できるものであるといえる。
これに対して、甲第3号証の再現実験は、どの様な原料を選択したのか明らかでなく、本件特許明細書の段落【0086】~【0087】に記載された温度条件のうちの1つの条件では、本件特許発明のガラスが得られないことを示したに過ぎず、当業者の過度な試行錯誤が必要であることを示すものでもない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでない。
6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700406