特許異議申立
2019-700387
炭酸マグネシウム
- 審判番号
- 2019-700387
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-089923
- 登録番号
- 特許第6423481号(P6423481)
- 請求日
- 2019年05月14日
- 審決日
- 2019年11月12日
- 公報発行日
- 2020年02月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】神島化学工業株式会社
- 【権利者代理人】岩谷 龍
- 【権利者代理人】勝又 政徳
- 【異議申立人】アクシス国際特許業務法人
- 審判長/審判官
- 審判長 菊地 則義
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.537-YAA(C01F) / P1651.113-YAA(C01F) / P1651.121-YAA(C01F) / P1651.853-YAA(C01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6423481号発明「炭酸マグネシウム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6423481号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。
特許第6423481号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6423481号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願は、平成29年4月28日に出願され、平成30年10月26日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月14日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1~2に係る特許に対して、令和1年5月14日付けで特許異議申立人アクシス国際特許業務法人により、甲第1号証~甲第6号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、令和1年7月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和1年9月18日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、特許異議申立人から令和1年10月29日付けで意見書(以下、「申立人意見書」という。)並びに甲第7号証及び甲第8号証が提出されたものである。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2009-175671号公報
甲第2号証:特開2010-37146号公報
甲第3号証:荒川正文、粉体材料の基礎的性質の測定(III)、材料、昭和45年6月15日、第19巻、第201号、第612~619頁
甲第4号証:特公平4-53809号公報
甲第5号証:特開平2-208220号公報
甲第6号証:特開平4-228420号公報
甲第7号証:特許第2602444号公報
甲第8号証:特許第3910495号公報
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(なお、訂正箇所に下線を付した。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「カードハウス構造を有する凝集体」と記載されているのを、「カードハウス構造を含む凝集体」に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0015】に「なお、ゼータ電位の測定方法は特に限定されないが、例えば、後述の方法により測定できる。」と記載されているのを、「なお、ゼータ電位は、後述の方法により測定する。」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0019】に「なお、BET比表面積の測定方法は特に限定されないが、例えば、JIS8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じ、1点法で求めることができる。」と記載されているのを、「なお、BET比表面積は、JIS8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じ、1点法で求める。」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0022】に「なお、水銀圧入量の測定方法は特に限定されないが、例えば、後述の方法により測定できる。」と記載されているのを、「なお、水銀圧入量は、後述の方法により測定する。」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0026】に「なお、平均粒子径の測定方法は特に限定されないが、例えば、後述の方法により測定できる。」と記載されているのを、「なお、平均粒子径は、後述の方法により測定する。」に訂正する。
なお、訂正事項1の特許請求の範囲に係る訂正は、一群の請求項〔1~2〕に対して請求されたものである。また、訂正事項2~5の明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1~2〕について請求されたものである。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「カードハウス構造を有する凝集体」との特定事項が、「カードハウス構造を含む凝集体」を意味することを明確にするためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された「カードハウス構造を有する凝集体」が、カードハウス構造のみからなる凝集体、及び、一部分がカードハウス構造である凝集体の双方の態様を含むことは、願書に添付された明細書の記載からして自明な事項といえることから、訂正事項1は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかである。
この点に関して、特許異議申立人は、願書に添付された明細書又は特許請求の範囲には、「カードハウス構造を含む凝集体」なる用語は存在せず、また、「カードハウス構造を含む凝集体」は、「カードハウス構造を有する凝集体」の上位概念の技術用語であって、願書に添付された明細書の段落【0023】に記載された「板状粒子の凝集体(カードハウス状、カードハウス構造、カードハウス構造を有する凝集体)」なる概念を超えた、例えば、甲第7号証及び甲第8号証に記載された球状、柱状、管状のものをも包含する概念である旨を主張している(申立人意見書第4頁第2~28行)。
しかしながら、「カードハウス構造を有する凝集体」なる用語も、「カードハウス構造を含む凝集体」なる用語も、願書に添付された明細書においては、同じ概念を示す用語といえるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
(2)訂正事項2~5について
訂正事項2~5は、請求項1に記載の「ゼータ電位」、「BET比表面積」、「水銀圧入量」及び「平均粒子径」のそれぞれの測定方法が明細書に記述されたものであることを明確にするためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~2に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
ゼータ電位が7.2~18.7mV、BET比表面積が30~59m2/g、水銀圧入量が1.9~3.0cc/g、平均粒子径が3.8~9.9μmであり、カードハウス構造を含む凝集体である炭酸マグネシウム。
【請求項2】
BET比表面積が35~59m2/gである請求項1記載の炭酸マグネシウム。」
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1~2に係る特許に対して、令和1年7月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
(1)取消理由1
請求項1の「ゼータ電位が7.2~18.7mV」との特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その測定方法が明らかでないため、どのような技術的意味において特定されたゼータ電位の値であるかが明らかでないから、本件請求項1~2に係る特許は、特許第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2
請求項1の「BET比表面積が30~59m2/g」との特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その測定方法が明らかでないため、どのような技術的意味において特定されたBET比表面積の値であるのかが明らかでないから、本件請求項1~2に係る特許は、特許第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)取消理由3
請求項1の「水銀圧入量が1.9~3.0cc/g」との特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その測定方法が明らかでないため、どのような技術的意味において特定された水銀圧入量の値であるのかが明らかでないから、本件請求項1~2に係る特許は、特許第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)取消理由4
請求項1の「平均粒子径が3.8~9.9μm」との特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その測定方法が明らかでないため、どのような技術的意味において特定された平均粒子径の値であるかが明らかでないから、本件請求項1~2に係る特許は、特許第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(5)取消理由5
請求項1の「カードハウス構造を有する凝集体」との特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、カードハウス構造のみからなる凝集体であることを特定しているのか、または、一部分がカードハウス構造である凝集体であることを特定しているのか明らかでないから、本件請求項1~2に係る特許は、特許第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由の検討
(1)当審の判断
ア 取消理由1について
願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0015】は「なお、ゼータ電位は、後述の方法により測定する。」に訂正され、ゼータ電位の測定方法が、段落【0057】に「ゼータ電位:ビーカーに入れた炭酸マグネシウム10gに純水を加えて200mLにメスアップし、撹拌棒を用いて液が均一となるように20回程度かき混ぜ、その後、ビーカーの内容物を25℃に保ちながら撹拌し、スラリー溶液を調製した。スラリー濃度:0.05g/cm3測定方法:コロイド振動電流法測定装置:DT-1200(Dispersion Technology社製)3回測定し、平均値を算出し、ゼータ電位の値とした。」と記載された測定方法であることが明らかになった。
そして、本件発明1の「ゼータ電位が7.2~18.7mV」との特定事項は、発明の詳細な説明のこれら記載を参酌すれば、上記測定方法によって特定されるゼータ電位の値であることは明らかである。
したがって、取消理由1に理由はない。
イ 取消理由2について
本件特許明細書の段落【0019】は「なお、BET比表面積は、JIS8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じ、1点法で求める。」に訂正され、BET比表面積の測定方法が、JIS8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じた1点法で測定されることが明らかになった。
そして、本件発明1の「BET比表面積が30~59m2/g」との特定事項は、発明の詳細な説明のこれら記載を参酌すれば、上記測定方法によって特定されるBET比表面積の値であることは明らかである。
したがって、取消理由2に理由はない。
ウ 取消理由3について
本件特許明細書の段落【0022】は「なお、水銀圧入量は、後述の方法により測定する。」に訂正され、水銀圧入量の測定方法が、段落【0059】に「水銀圧入量:測定装置には、Quantachrome社製 PoreMaster-60を用いた。
炭酸マグネシウム0.1gをはかりとり、0.5mLセルステムに充填した。
低圧のチャンバーにて測定後、取り出して高圧のチャンバーで測定した。これらの測定結果から、測定装置に付属されたソフトウェアによって算出された値を、水銀圧入量の値とした。
測定範囲 φ1069~0.0036μm
水銀接触角 140度
水銀表面張力 480dynes/cm
水銀密度 13.5g/cc
温度 20℃
(高圧測定条件)
Penetrometer Constant 1520 [mV/cc]
Auto-Oil Fill Time 5 [sec]
Run Mode Fixed Speed
Motor Speed 4
(低圧測定条件)
Penetrometer Constant 1760 [mV/cc]
Evacuation Rate 1
Fine Evac. Until 500.0000 [mm Hg]
Coarse Evac. Until 5.0000 [min.]」と記載された測定方法であることが明らかになった。
そして、本件発明1の「水銀圧入量が1.9~3.0cc/g」との特定事項は、発明の詳細な説明のこれら記載を参酌すれば、上記測定方法によって特定される水銀圧入量の値であることは明らかである。
したがって、取消理由3に理由はない。
エ 取消理由4について
本件特許明細書の段落【0026】は「なお、平均粒子径は、後述の方法により測定する。」に訂正され、平均粒子径の測定方法が、段落【0060】に「平均粒子径:試料粉末0.05gをエタノール50mLに添加し、超音波で3分間分散処理した後に、レーザー回折法(装置:Microtrac HRA、日機装株式会社製)により測定した。」と記載された測定方法であることが明らかになった。
そして、本件発明1の「平均粒子径が3.8~9.9μm」との特定事項は、発明の詳細な説明のこれら記載を参酌すれば、上記測定方法によって特定される平均粒子径の値であることは明らかである。
したがって、取消理由4に理由はない。
オ 取消理由5について
本件発明1の「カードハウス構造を含む凝集体」との特定事項は、カードハウス構造のみからなる凝集体、及び、一部分がカードハウス構造である凝集体の双方の態様を包含することが明らかであるから、取消理由5に理由はない。
(2)特許異議申立人の意見について
ア 「ゼータ電位が7.2~18.7mV」との特定事項について
特許異議申立人は、本件特許明細書の段落【0057】に記載された測定方法は、段落【0055】に「本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく」と記載されている実施例の測定方法であり、一例として挙げられたものであるから、段落【0015】に記載された「後述の方法」が何を示しているのか依然として不明であるし、また、ゼータ電位はpHが変わると大きく変化することから、請求項1に係る炭酸マグネシウムが、いかなるゼータ電位を有するものであるか把握できないから、本件発明1及び2は明確でない旨を主張している(申立人意見書第2頁第9~27行、特許異議申立書第9頁第5~18行)。
この点について検討するに、段落【0055】の上記記載は、「炭酸マグネシウム」の具体例に関する説明であって、実施例の測定方法が一例であることを示すものでないから、上記(1)アで検討したとおり、段落【0015】に記載された「後述の方法」が、段落【0057】に記載された測定方法であることは明らかである。
そして、段落【0057】に記載された測定方法では、測定試料となるスラリーを調製するに際して純水を加えることのみが記載されていることからして、測定試料のpHを任意に変更できるものといえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
イ 「平均粒子径が3.8~9.9μm」との特定事項について
特許異議申立人は、本件特許明細書の段落【0060】の測定方法には、測定試料を調製する際の超音波の出力に関する記載がないし、平均粒子径を算出するための粒子径(代表径)の定義の記載がないから、本件発明1及び2は明確でない旨を主張している(申立人意見書第3頁第6~32行、特許異議申立書第11頁第13~28行)。
この点について検討するに、段落【0060】には、測定試料の調製について、「試料粉末0.05gをエタノール50mLに添加し、超音波で3分間分散処理した」と記載され、超音波の出力に関する記載はないものの、通常使用される超音波出力範囲において、平均粒径の値に有意な差が生じるとまでは認められない。
また、粒子径(代表径)は、測定原理に対応して定義されているように、粒子径の測定方法と密接に関係しており、測定方法が決まれば代表径が定まるといえるところ、段落【0060】には、「レーザー回折法(装置:Microtrac HRA、日機装株式会社製)により測定した。」ことが記載されている。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ 「水銀圧入量が1.9~3.0cc/g」との特定事項について
特許異議申立人は、本件発明1の「水銀圧入量」が何を調べるものであり、そのためにどのように解析するのか不明であるから、「水銀圧入量が1.9~3.0cc/g」の意味内容を当業者が理解できず、本件発明1及び2は明確でない旨を主張している(特許異議申立書第10頁第21~34行)。
この点について検討するに、本件発明1の「水銀圧入量」は、上記(1)ウで検討したとおり、本件特許明細書の段落【0059】に記載された測定方法によって特定される値であるため、「カードハウス構造を含む凝集体である炭酸マグネシウム」の直径が1069~0.0036μmの細孔容積を示していることは明らかであるし、「Quantachrome社製PoreMaster-60」によって解析された数値であることも明らかである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
エ 「カードハウス構造を含む凝集体」との特定事項について
特許異議申立人は、本件発明1の「カードハウス構造を含む凝集体」は、板状粒子がどのように凝集したものか、どのくらいの割合で含有するものか、どのような観察手段で確認したのか全く不明であるため、その意味内容を当業者が理解できないから、本件発明1及び2は明確でない旨を主張している(申立人意見書第4頁第29行~第5頁第10行、特許異議申立書第12頁第23行~第13頁第4行、)。
この点について検討するに、本件特許明細書の段落【0023】の「特に、炭酸マグネシウム粒子は、板状粒子であってもよく、より好ましくは板状粒子の凝集体(カードハウス状、カードハウス構造、カードハウス構造を有する凝集体)であってもよい。」との記載や、技術常識(例えば、国際公開第2014/171192号の図17、あるいは、特開2016-135731号公報の段落【0019】及び図3を参照)を踏まえれば、「カードハウス構造」が、板状粒子がランダムに凝集した構造であると認められるし、また、このような構造を含む凝集体を電子顕微鏡で観察することも自明な事項にすぎない。
さらに、本件発明1の「カードハウス構造を含む凝集体」は、上記(1)オで検討したとおり、カードハウス構造の含有割合に関係なく、カードハウス構造のみからなる凝集体、及び、一部分がカードハウス構造である凝集体の双方の態様を包含することが明らかである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
オ 発明特定事項が不足している点について
特許異議申立人は、「新規な炭酸マグネシウムを提供する」(段落【0005】)との課題に対して、「ゼータ電位」、「BET比表面積」、「水銀圧入量」及び「平均粒子径」がどのように関わっているのか分からないため、本件発明1には、「ゼータ電位」、「BET比表面積」、「水銀圧入量」及び「平均粒子径」の課題に係る役割に関する特定事項が不足している旨を主張している(申立人意見書第2頁第28行~第3頁第5行)。
この点について検討するに、本件発明1の課題は、本件特許明細書の段落【0002】~【0008】の記載からして、炭酸マグネシウムをフィラーとして用いる場合に、炭酸マグネシウムの種類によっては、透明性を損なったり、外観(見栄え)を損ねたり、着色性に悪影響を与えるということといえる。
そして、発明の詳細な説明の実施例には、ゼータ電位が7.2~18.7mV、BET比表面積が30~59m2/g、水銀圧入量が1.9~3.0cc/g、平均粒子径が3.8~9.9μmであって、カードハウス構造を有する(含む)凝集体である炭酸マグネシウムが、上記課題を解決できることが記載されているから、本件発明1は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであって、発明特定事項が不足しているとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
4 取消理由通知において採用しなかった申立理由の検討
(1)特許法第29条第1項第3号及び第2項に関する申立理由
特許異議申立人は、訂正前の請求項1~2に係る発明は、甲第4号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、あるいは、甲第4号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである旨を主張している(特許異議申立書第13頁第13行~第16頁第18行、申立人意見書第5頁第20行~第6頁第13行)。
(2)甲号証に記載された発明
ア 甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、
「1 微細な一粒子が凝集して形成された凝集粒子の形状が、長径をa、短径をbとしたときに、b/a≧0.7の球状もしくは回転楕円体であり、前記凝集粒子の粒径が5~60μmで、嵩密度が0.4~0.7g/ml、比表面積が10~40m2/gである球状の塩基性炭酸マグネシウム。」(特許請求の範囲)
と記載されていることから、これら記載を本件特許の請求項1の記載に則して整理すると、甲第4号証には、
「比表面積が10~40m2/g、粒径が5~60μmであり、微細な一粒子が凝集して形成された球状の凝集粒子である塩基性炭酸マグネシウム。」
の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
イ 甲第5号証に記載された発明
甲第5号証には、
「(1)吸油量が2.5cc/g以上であり、且つ比表面積が10~40m2/gであることを特徴とする塩基性炭酸マグネシウム。」(特許請求の範囲)、及び、
「本発明の塩基性炭酸マグネシウムは、リン片状の一次粒子が凝集した凝集粒子の状態で存在する。凝集粒子の平均粒子径は一般に1~20μmの範囲である。」(第2頁左下欄第12~15行)
と記載されていることから、これら記載を本件特許の請求項1の記載に則して整理すると、甲第5号証には、
「比表面積が10~40m2/g、平均粒子径が1~20μmであり、リン片状の一次粒子が凝集した凝集粒子である塩基性炭酸マグネシウム。」
の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
ウ 甲第6号証に記載された発明
甲第6号証には、
「(【請求項1】 一般式
nMgCO3・Mg(OH)2・mH2O(但し、m及びnはそれぞれ3~5の数である)で示され、平均粒子径が1~50μm及び比表面積が10~70m2/gの板状結晶の集合体よりなる多孔質粒子で、該粒子の細孔径分布のうち半径100Å以下の細孔が占める容積が0.02cc/g以上で且つ半径75,000Å以下の細孔が占める容積が0.80cc/g以上であることを特徴とする塩基性炭酸マグネシウム。」
と記載されていることから、これら記載を本件特許の請求項1の記載に則して整理すると、甲第6号証には、
「比表面積が10~70m2/g、平均粒子径が1~50μmであり、板状結晶の集合体よりなる多孔質粒子である塩基性炭酸マグネシウム。」
の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。
(3)当審の判断
ア 甲4発明との対比と判断
本件発明1と甲4発明を対比すると、本件発明1では、「ゼータ電位が7.2~18.7mV」であることが特定されているのに対して、甲4発明では、その点が明らかでない点で少なくとも相違している。
上記相違点について検討するに、甲第1号証及び甲第2号証には、微粒子のゼータ電位の測定方法に関して記載され、甲第3号証には、粉体粒度の測定方法に関して記載され、また、甲第4号証~甲第8号証には、塩基性炭酸マグネシウムに関して記載されているところ、これら記載を参酌しても、甲4発明の塩基性炭酸マグネシウムのゼータ電位が「7.2~18.7mV」であるとはいえないから、その他の点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明であるといえない。
また、甲第1号証~甲第8号証には、塩基性炭酸マグネシウムのゼータ電位を調整することは記載も示唆もされていないため、これら甲号証の記載を参酌しても、甲4発明の塩基性炭酸マグネシウムのゼータ電位を「7.2~18.7mV」とすることは、当業者が容易に想到できるものといえない。
よって、その他の点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
また、本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、少なくとも上記相違点が存在するから、本件発明2も、甲第4号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 甲5発明又は甲6発明との対比と判断
本件発明と甲5発明又は甲6発明を対比しても、本件発明1では、「ゼータ電位が7.2~18.7mV」であることが特定されているのに対して、甲5発明及び甲第6発明では、その点が明らかでない点で少なくとも相違している。
そして、上記アでの検討と同様に、甲第1号証~甲第8号証の記載を参酌しても、本件発明1及び2は、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、本件発明1の「ゼータ電位が7.2~18.7mV」との特定事項が明確でないことを根拠にして、甲4発明~甲6発明とゼータ電位が異なるということはできない旨を主張している(特許異議申立書第15頁第4~14行、申立人意見書第5頁第21~30行)。
しかしながら、上記3で検討したとおり、本件発明1~2は明確であるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおり、本件発明1~2は、甲第4号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明であるとも、甲第4号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、特許異議申立人の主張する申立理由に理由はない。
5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700387