審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2019-700297

多芯ケーブル用コア電線

審判番号
2019-700297
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-141686外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年04月17日
審決日
2019年10月24日
公報発行日
2019年12月27日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-Y (H01B) / P1651.121-Y (H01B) / P1651.536-Y (H01B) / P1651.537-Y (H01B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6406471号発明「多芯ケーブル用コア電線」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6406471号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 1 手続の経緯 特許第6406471号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成27年9月30日に出願した特願2018-9914号の一部を平成30年7月27日に新たな特許出願としたものであって、平成30年9月28日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成31年4月17日に特許異議申立人 家田亘久(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和1年6月5日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、令和1年8月9日に意見書を提出した。 2 本件発明 「【請求項1】 複数の素線を撚り合わせた導体と、この導体の外周を被覆する絶縁層とを備える多芯ケーブル用コア電線であって、 上記導体の横断面における上記複数の素線間の空隙領域の占有面積率が5%以上であり、 下記の条件で絶縁引抜力を測定したとき、絶縁引抜力が20N/30mm以上である、多芯ケーブルコア電線。 <条件> 絶縁層を軸方向に30mm残して除去し導体を露出し、内径が導体径より大きく絶縁層外径よりも小さい穴の開いた厚さ5mmの金属板の穴に導体を通し、金属板を固定して導体を200mm/分の速度で引き上げ、30mmの長さの絶縁層から30mmの長さの導体を引き抜く。 【請求項2】 上記導体の横断面における平均面積が1.0mm2以上3.0mm2以下である請求項1に記載の多芯ケーブル用コア電線。 【請求項3】 上記導体における複数の素線の平均径が40μm以上100μm以下、複数の素線が196本以上2450本以下である請求項1又は請求項2に記載の多芯ケーブル用コア電線。 【請求項4】 上記導体が、複数の素線を撚り合せた撚素線をさらに撚り合せたものである請求項1、請求項2又は請求項3に記載の多芯ケーブル用コア電線。 【請求項5】 上記絶縁層の平均厚みが、0.1mm以上5mm以下である請求項1から請求項4の何れか1項に記載の多芯ケーブル用コア電線。 【請求項6】 上記絶縁層が、樹脂成分100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の難燃剤を含有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多芯ケーブル用コア電線。」 3 取消理由の概要 当審において、請求項1及び6に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおり。 (1)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【発明が解決しようとする課題】欄で示した「低温での耐屈曲性に優れる多芯ケーブル用コア電線」であることを直接示す例示としては、【実施例】欄に【表1】のNo.3~5とした事例以外に、低温で優れた耐屈曲性を表したものは記載されていない。 請求項1には発明の詳細な説明で直接性能が確認できた導体、絶縁層に特定せず、一般的に導体であれば任意の導体、絶縁性を有するものであれば任意の絶縁層であっても、複数の素線間の空隙領域の占有面積率が5%以上であり、絶縁引抜力が20N/30mm以上であることのみを要件として記載されており、技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明で開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 請求項1を引用する請求項2ないし6についても同様のことがいえる。 4 当審の判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について 上記のとおり通知した取消理由は、低温での耐屈曲性に優れることを直接本件特許明細書の発明の詳細な説明で確認できるよう開示されたものとしては、【実施例】の【表1】中のNo.3~5とした事例以外に見当たらないにも関わらず、特許請求の範囲に記載された多芯ケーブル用コア電線に係る特定事項が、No.3~5のみを特定するようになっていないことをもって、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきことを要旨としたものである。 そこで、本件特許発明が解決しようとする課題に掲げた低温での耐屈曲性について検討し、当該性能を達成しえる多芯ケーブル用コア電線に求められる事項について検討する。 まず、本件特許発明における耐屈曲性に関する本件特許明細書の記載を摘記する。 最初に、【0005】には「低温での屈曲時に破断が生じやすい。そのため、低温での耐屈曲性の改善が求められている。」との記載がなされ、【0011】には「また、屈曲性は、電線又はケーブルを繰り返し屈曲させても導体が断線しない性能を言う。」とした、屈曲性の定義が記載されている。 前述の記載の「破断」、および「断線」に関し、本件特許明細書に記載された耐屈曲性の程度を評価する試験として、【0084】に[屈曲試験]として図6に示したケーブルxを、右90°および左90°へ屈曲させることを繰り返した上での、多芯ケーブルが断線(通電できなくなった状態)に至るまでの回数を計測した旨の記載がある。 そうすると、本件特許に関係する「耐屈曲性」とは、多芯ケーブル用コア電線が屈曲することを当然の前提とした性能を念頭にしたものであって、かつ、断線により通電できなくなる状態、すなわち、多芯ケーブル用コア電線の「導体」の破断のしにくさを試験の評価項目に据えていることが理解できる。 そして、本件特許の「耐屈曲性」は多芯ケーブル用コア電線が屈曲することを当然の前提とする点と、従前の電線が元々屈曲可能なものであるという技術常識とを併せて考えると、多芯ケーブル用コア電線を構成する「導体」と「導体の外周を被覆する絶縁層」のいずれもが、ある特定の素材の選択によって初めて屈曲性を当該電線に発現させるに至らしめたわけではないことは明らかであるから、直接耐屈曲性の性能の程度を確認できる例示に用いられた「導体」の素材や、「導体の外周を被覆する絶縁層」の素材が、発明を特定する上で必ずしも必要とされるものではないといえる。 次に、耐屈曲性に対する発明の詳細な説明の開示と請求項1の記載との関係について検討する 上述のとおり、本件特許発明に関係する「耐屈曲性」は、多芯ケーブル用コア電線を構成する「導体」が「破断」し「断線」に至るまでの回数を測定することで、破断のしにくさ、つまり導体破断の耐久性を意味する。かかる導体部分の耐久性に関して、「導体」に対して求められる事項について、発明の詳細な説明では、【0010】に「[本発明の実施形態の説明] 本発明の一態様に係る多芯ケーブル用コア電線は、複数の素線を撚り合わせた導体と、この導体の外周を被覆する絶縁層とを備える多芯ケーブル用コア電線であって、上記導体の横断面における上記複数の素線間の空隙領域の占有面積率が5%以上20%以下である多芯ケーブル用コア電線である。」とした記載、【0011】に「当該多芯ケーブル用コア電線は、素線間の空隙の面積割合を5%以上とすることで、低温において比較的高い耐屈曲性を発揮する。このメカニズムとしては、素線間に適度な空隙が形成されることで、屈曲時にこの空隙で導体断面の変形を吸収し、素線に加わる曲げ応力を緩和できることと、この作用が温度の影響を受けにくく比較的低温でも維持されることとが考えられる。また、当該多芯ケーブル用コア電線は、素線間の空隙の面積割合を20%以下とすることで、絶縁層と導体との密着力を維持して加工性等の低下を抑制できる。」とした記載、【0014】に「上記導体が、複数の素線を撚り合せた撚素線をさらに撚り合せたものであるとよい。このように素線を撚り合せた撚素線をさらに撚り合せた導体(撚撚線)を用いることで、当該多芯ケーブル用コア電線の耐屈曲性の向上効果の発現を促進できる。」とした記載、【0023】に「<導体> 導体2は、複数の素線を一定のピッチで撚り合せて構成される。この素線としては、特に限定されないが、例えば銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線等が挙げられる。また、導体2は、複数の素線を撚り合せた撚素線を用い、複数の撚素線をさらに撚り合せた撚撚線であるとよい。撚り合せる撚素線は同じ本数の素線を撚ったものが好ましい。」とした記載、【0026】に「導体2の横断面における複数の素線間の空隙領域の占有面積率の下限としては、5%であり、6%がより好ましく、8%がさらに好ましい。一方、上記空隙領域の占有面積率の上限としては、20%であり、19%がより好ましく、18%がさらに好ましい。上記空隙領域の占有面積率が上記下限より小さいと、多芯ケーブルの屈曲時に素線に大きな曲げ応力が局所的に加わり易くなるため、耐屈曲性が低下するおそれがある。逆に、上記空隙領域の占有面積率が上記上限を超えると、絶縁層3の押出成形性が低下し、当該多芯ケーブル用コア電線1の真円度や絶縁層3と導体2との密着力が低下するおそれがある。その結果、端末で導体2を露出させた際に導体2が絶縁層3に対し動き易くなり、端末加工性が低下するおそれがある。また、当該多芯ケーブル用コア電線1が変形し易くなるおそれや、水が浸入し易くなるおそれもある。」とした記載がある。 これらの記載からは、「導体」に対して、特定の材質のものを用いるべきとの事項は見られず、耐久性をもたせる事項として、導体は複数の素線を撚り合わせたものであること、耐屈曲性の低下を避けるためには横断面における複数の素線間の空隙領域の占有面積率の下限を5%とすることが理解できる。 そうすると、本件特許の特許請求の範囲の記載と、前記発明の詳細な説明に記載の耐屈曲性に関する事項とを比べると、多芯ケーブル用コア電線の導体に求められる事項になんら過不足はないというべきである。 以上のことから、取消理由に挙げた請求項の記載が、特定の確認された実施例の条件を不当に拡張ないし一般化であるとの指摘は妥当なものではなく、当該取消理由は成り立たない。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記3に係る理由以外に、以下の理由を挙げその特許を取り消すべきと主張している。 理由1 請求項1ないし6に係る発明は、甲第1号証(特開2014-220043号公報)に記載の発明と同一であるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 理由2 請求項1ないし6に係る発明は、甲第1号証(特開2014-220043号公報)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 理由3 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、絶縁引抜力の試験方法に関して試験温度の記載が無いため実施できない不備があり、また、実施例には特定の導体と特定の樹脂の組み合わせのみが記載されているため、特定の導体、特定の樹脂以外での結果が達成できるよう実施をすることができない不備があるため、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 理由4 請求項1の記載は「多芯ケーブル用コア電線」を実質的に「複数の素線間の空隙領域の占有面積率」と「絶縁引抜力」のみで特定しているが、両者の技術的関連が理解できないので、請求項1を引用する請求項2ないし6も含め特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 また、請求項1の記載は、「絶縁引抜力」を「20N/30mm以上」とし、「<条件> 絶縁層を軸方向に30mm残して除去し導体を露出し、内径が導体径より大きく絶縁層外径よりも小さい穴の開いた厚さ5mmの金属板の穴に導体を通し、金属板を固定して導体を200mm/分の速度で引き上げ、30mmの長さの絶縁層から30mmの長さの導体を引き抜く。」なる構成を含んでいるが、当該構成が特許発明において果たす働きや役割が、特許明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても理解できないので、請求項1を引用する請求項2ないし6も含め特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 これら理由1~4について、取消理由通知において採用しなかった理由を順に述べる。 (理由1について) 甲第1号証には複数の素線を撚り合わせた導体と、この導体の外周を被覆する絶縁層とを備える多芯ケーブル用コア電線に関する発明が記載されるとともに、外径0.08mmの素線を52本撚り合わせた撚線7本を外径2.0mm、断面積1.8mm2となるよう撚り合わせた撚撚線の周囲に、厚さ0.4mmで外径2.8mmとなるように難燃性架橋ポリエチレン製の絶縁層を形成した第1コア材であって、かかるコア材2本を用いてEPB用電気絶縁ケーブルを作成した旨が記載されている。 そして、本件特許の請求項1に係る発明と上述の甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は「複数の素線を撚り合わせた導体と、この導体の外周を被覆する絶縁層とを備える多芯ケーブル用コア電線」で一致し、下記の点で相違する。 (相違点1) 本件特許の請求項1に係る発明は「上記導体の横断面における上記複数の素線間の空隙領域の占有面積率が5%以上」であるのに対して、甲第1号証に記載の撚撚線はかかる特定がない点。 (相違点2) 本件特許の請求項1に係る発明は「下記の条件で絶縁引抜力を測定したとき、絶縁引抜力が20N/30mm以上」とし、当該条件を「<条件> 絶縁層を軸方向に30mm残して除去し導体を露出し、内径が導体径より大きく絶縁層外径よりも小さい穴の開いた厚さ5mmの金属板の穴に導体を通し、金属板を固定して導体を200mm/分の速度で引き上げ、30mmの長さの絶縁層から30mmの長さの導体を引き抜く。」とするのに対して、甲第1号証に記載の第1コア材はかかる特定がない点。 特許異議申立人は、上記相違点1及び2を相違点であると認識した上で、相違点1に係る構成は、複数の素線を撚った撚線が通常備える性質であり、甲第1号証に記載された発明と本件特許の請求項1に係る発明とを実質的に異ならしめるものではなく、周知慣用技術であると主張し、相違点2に係る構成は、素線と絶縁層との相互の特性が関係すると思われるものの、本件特許の請求項1にこれらの特性はなんら規定されておらず、本件特許明細書にもどのようにしてなした特性であるかが記載されていないことから見て、特別な工程を経ずに達成可能な通常の性質であるから、甲第1号証に記載の発明も相違点2に係る構成を満足する蓋然性が高いとしたうえで、本件特許の請求項1に係る発明と甲第1号証に記載の発明とを実質的に異ならしめるものではないと主張している。 そこで、上記相違点1及び2を検討する。 事案に鑑み、相違点2から検討する。 相違点2に係る特定事項は、その記載どおり導体が絶縁層で被覆された多芯ケーブル用コア電線に対して、導体の一部を露出させつつ露出部分を一定速(200mm/分)で引き上げるとき、30mm分の導体を引き抜く力が20N/30mm以上であるとしたものである。 また、係る導体を引き抜く力である「絶縁引抜力」に関して、「絶縁引抜力が20N/30mm以上」と定めたことに関係して、本件特許明細書の【0086】には、次の 「表1に示すように、空隙領域の占有面積率を5%以上としたNo.3~5は、低温における断線までの屈曲回数が多く低温での耐屈曲性に優れると共に、絶縁引抜力が20N/30mm以上であり端末加工性等にも優れる。一方、空隙領域の占有面積率が5%未満のNo.1、2は低温での耐屈曲性が不十分である。また、空隙領域の占有面積率が20%超のNo.6、7は、絶縁引抜力が20N/30mm未満であり、実用性に欠ける。」 とした記載がなされている。当該記載から「絶縁引抜力」の下限値を特定したのは、多芯ケーブルの端末加工性等を含めた実用性を担保することと理解できる。 他方で甲第1号証には導体を被覆絶縁層から引き剥がすに要する力、即ち、本件特許の請求項1に係る発明の「絶縁引抜力」を直接言及した記載は一切なされていない。そして、本件特許の請求項1に係る多芯ケーブル用コア電線は、特許明細書の発明の詳細な説明に一実施例として用いる材料を特定した記載はなされているものの、製造に関する諸条件のうち、係る「絶縁引抜力」の値を確保するために必要な条件が何かを特定した記載はない。そして、甲第1号証に記載の発明の電線に関し、係る「絶縁引抜力」を推し量るに足る理由、すなわち、材料や製造条件の同一性を特許異議申立人はなんら具体的に挙げていない。更にいえば、通常上市されるおおよその電線が通常備える性質であることが仮に事実であるならば、実際に数種のケーブルを試験し、どのケーブルでも相違点2に係る発明の特定事項を満足する試験結果を提示してたやすく立証できるはずであるところ、特許異議申立人はそのような立証を当初申立時から一切行っていない。加えて、係る「絶縁引抜力」なる評価指数は、当業者に周知された評価指数でもない。 そうすると、相違点2に係る相違は、特許異議申立人が主張する、特別な工程を経ずに達成可能な通常の性質である、とまではいうことができない。 以上のことから上記相違点2は実質的な相違であると認められ、相違点1を検討するまでもなく、本件特許の請求項1に係る発明に対する上記理由1は成り立たない。 本件特許の請求項2ないし6に係る発明は、本件特許の請求項1を引用し、かつ、相違点2に係る発明特定事項を同様に有する関係にあるため、上述の理由にて同様に、上記理由1は成り立たない。 (理由2について) 上記「(理由1について)」で示したとおり、本件特許の請求項1に係る発明と上述の甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は上記相違点1及び2で相違する。 そして、特に相違点2に係る相違を検討したところ、多芯ケーブル用コア電線の絶縁引抜力の数値に関する発明特定事項を甲第1号証に記載の発明はなんら有しておらず、通常の製造条件で製造した電線と当該絶縁引抜力の数値との関係を示す記載も見当たらない。加えて、特許異議申立人が提出した他の証拠である甲第2号証にも、相違点2に係る相違に関係する記載はなく、また、係る「絶縁引抜力」なる評価指数は、当業者に周知された評価指数でもない。 そうすると、相違点2に係る相違は、特許異議申立人が主張する、特別な工程を経ずに達成可能な通常の性質である、とまではいうことができない。 以上のことから上記相違点2は実質的な相違であると認められ、また当該相違点2にかかる事項は周知慣用な事項ともいえないため、相違点1を検討するまでもなく、本件特許の請求項1に係る発明に対する上記理由2は成り立たない。 本件特許の請求項2ないし6に係る発明は、本件特許の請求項1を引用し、かつ、相違点2に係る発明特定事項を同様に有する関係にあるため、上述の理由にて同様に、上記理由2は成り立たない。 (理由3について) 特許異議申立人は、絶縁引抜力を測定する条件に、試験温度に関する記載が無いため本件発明が実施できないと主張するが、一般的に常温で試験を行う場合には特段の温度指定を伴わないことが見受けられることや、本件特許発明の多芯ケーブル用コア電線が用いられる環境について、本件特許明細書の【0002】には車両のABSが挙げられていることを考えると、常温を含む通常の戸外温度と考えられ、当該絶縁引抜力の値を試験する上で重大な不備があるとは認められない。 また、特許異議申立人は、実施例に特定の導体と特定の樹脂の組み合わせのみが記載されていて、これ以外の結果がないことをもって、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないとしているが、発明の詳細な説明に求める実施可能要件とは、導体と樹脂とのすべての考えられる組み合わせを記載しなければならないわけではなく、少なくとも一通りの例を記載すれば足るものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 以上のとおりであるから、当該理由3は成り立たない。 (理由4について) 特許異議申立人は、請求項1の記載は「多芯ケーブル用コア電線」を実質的に「複数の素線間の空隙領域の占有面積率」と「絶縁引抜力」のみで特定しているが、両者の技術的関連が理解できないので、請求項1を引用する請求項2ないし6も含め特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと主張するが、上記占有面積率および絶縁引抜力は各々何を意味するかは請求項1に記載されている。また、ある特定事項同士に技術的関連があるか否かは通常求められるところではなく、明細書の記載を参酌しても、【0026】に記載されているとおり、占有面積率の下限値は耐屈曲性が低下しない下限を意味し、絶縁引抜力の下限値は【0086】に記載されているとおり、端末加工性および実用性の確保であることが理解できる。 よって、「複数の素線間の空隙領域の占有面積率」と「絶縁引抜力」とは、前者が耐屈曲性、後者が端末加工性および実用性に関係する事項であって、互いに別種の性質を特定する関係にあり、また、請求項1の記載で、何らかの技術的な矛盾も発生しないから、特許異議申立人の主張は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることができない。 また、特許異議申立人は、請求項1の記載は、「絶縁引抜力」を「20N/30mm以上」とし、「<条件> 絶縁層を軸方向に30mm残して除去し導体を露出し、内径が導体径より大きく絶縁層外径よりも小さい穴の開いた厚さ5mmの金属板の穴に導体を通し、金属板を固定して導体を200mm/分の速度で引き上げ、30mmの長さの絶縁層から30mmの長さの導体を引き抜く。」なる構成を含んでいるが、当該構成が特許発明において果たす働きや役割が、特許明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても理解できない旨主張するが、特許明細書の【0086】に記載されているとおり、端末加工性および実用性の確保であることが理解できると認められるので、当該主張によって本件特許の請求項1の記載が請求項1を引用する請求項2ないし6も含め特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 以上のとおりであるから、当該理由4は成り立たない。 5 むすび したがって、請求項1ないし6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2019-700297

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決204件(住友電気工業株式会社、家田 亘久)
  • 2019-700367異議申立 / 2019-11-14 / 訂正認容多芯ケーブル
    同じ当事者: 住友電気工業株式会社、家田 亘久
  • 2025-700684異議申立 / 2026-09-11 / 異議終了
    同じ当事者: 家田 亘久
  • 2026-700397異議申立 / 2026-07-16 / 維持非水電解質電池用リード線、絶縁膜及び非水電解質電池
    同じ当事者: 住友電気工業株式会社
  • 2026-700412異議申立 / 2026-06-29 / 維持非水電解質電池用リード線、絶縁膜及び非水電解質電池
    同じ当事者: 住友電気工業株式会社
  • 2024-700432異議申立 / 2026-03-30 / 訂正認容樹脂組成物、ペレット、電力ケーブル、および電力ケーブルの製造方法
    同じ当事者: 住友電気工業株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)568件(113・H01B、121・H01B、536・H01B ほか)
  • 2023-700696異議申立 / 2025-02-19 / 訂正認容導電性粒子、導電性粒子の製造方法、導電材料及び接続構造体
    共通の審決分類: 113・H01B、121・H01B、536・H01B、537・H01B
  • 2024-700325異議申立 / 2024-10-31 / 訂正認容絶縁電線
    共通の審決分類: 113・H01B、121・H01B、536・H01B、537・H01B
  • 2022-700326異議申立 / 2023-02-01 / 訂正認容硫化物固体電解質及びその製造方法
    共通の審決分類: 113・H01B、121・H01B、536・H01B、537・H01B
  • 2022-700177異議申立 / 2023-01-18 / 訂正認容導電粒子、導電材料およびそれを用いた接続構造体
    共通の審決分類: 113・H01B、121・H01B、536・H01B、537・H01B
  • 2021-700379異議申立 / 2022-07-29 / 訂正認容導電性粒子、導電性粒子の製造方法、導電材料及び接続構造体
    共通の審決分類: 113・H01B、121・H01B、536・H01B、537・H01B

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存