特許異議申立
2019-700073
ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子
- 審判番号
- 2019-700073
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-073338
- 登録番号
- 特許第6366628号(P6366628)
- 請求日
- 2019年02月01日
- 審決日
- 2019年11月25日
- 公報発行日
- 2020年02月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】HOYA株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】石田 祥子
- 審判長/審判官
- 審判長 服部 智
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.536-YAA(C03C) / P1651.537-YAA(C03C) / P1651.851-YAA(C03C) / P1651.853-YAA(C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6366628号発明「ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6366628号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6366628号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6366628号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成28年 3月31日(優先権主張 平成27年11月 6日)を出願日として特許出願され、平成30年 7月13日にその特許権の設定登録がされ、同年 8月 1日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、平成31年 2月 1日付けで特許異議申立人 石田 祥子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 4月24日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年 8月 5日付けで特許権者より意見書(以下、「意見書」という。)の提出並びに訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、これに対し、申立人に意見を求めたが、期間内に何らの応答もなされなかったものである。
第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「カチオン%表示にて、
B3+とSi4+との合計含有量が43~65%、
B3+含有量が20~55%、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量が25~50%、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量が3~12%、
Zr4+含有量が2~8%、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.70~1.42、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するW6+含有量のカチオン比{W6+/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が0.50以下、」
と記載されているのを、
「カチオン%表示にて、
B3+とSi4+との合計含有量が43~53%、
B3+含有量が20~55%、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量が31~50%、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量が3~9.0%、
であり、ただし、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.90~1.42、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70、
であり、
Zr4+含有量が2~8%、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するW6+含有量のカチオン比{W6+/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が0.50以下、」
と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「下記(B)式により算出される値Bが、-1.000~6.720の範囲である」
と記載されているのを、
「下記(B)式により算出される値Bが、-1.000~5.000の範囲である」
と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
本件訂正前の請求項2~6は、いずれも、直接的または間接的に訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~6は、一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~6〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
(ア)訂正事項1による訂正は、本件訂正前には「B3+とSi4+との合計含有量」の上限が「63%」であったものを「53%」と訂正し、本件訂正前には「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」の下限が「25」%であったものを「31」%と訂正し、本件訂正前には「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」の上限が「12%」であったものを「9.0%」と訂正し、本件訂正前には「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}」の下限が「0.70」であったものを「0.90」と訂正するものを含むものであり、これらは、それぞれ、「B3+とSi4+との合計含有量」、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」及び「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}」の数値範囲を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)また、訂正事項1による訂正は、
「カチオン%表示にて、
B3+とSi4+との合計含有量が43~53%、
B3+含有量が20~55%、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量が31~50%、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量が3~9.0%、
であり、ただし、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.90~1.42、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70、
であり、」と訂正することを含み、これにより、請求項1に係る発明が、「B3+とSi4+との合計含有量が43~53%、」、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量が31~50%、Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量が3~9.0%」との発明特定事項と、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.90~1.42、Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70」との発明特定事項とを全て同時に満たすことを明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(ウ)そして、前記(ア)については、願書に添付した明細書の【0018】には、「B3+とSi4+との合計含有量」の上限を「53%」とすることが記載され、同【0020】には、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」の下限を「31%」とすることが記載され、同【0022】には、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」の上限を「9.0%」とすることが記載され、同【0028】には、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}」の下限を「0.90%」とすることが記載されており、前記(イ)については、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.90~1.42、Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70」との記載箇所を移動するものであって、訂正事項1の訂正は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(エ)したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定する特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
(ア)訂正事項2による訂正は、本件訂正前には、「(B)式により算出される値B」の上限が「6.720」であったものを、「5.000」と訂正して、「(B)式により算出される値B」の数値範囲を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)また、願書に添付した明細書の【0113】には、「(B)式により算出される値B」の上限を「5.000」とすることが記載されており、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは上記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
カチオン%表示にて、
B3+とSi4+との合計含有量が43~53%、
B3+含有量が20~55%、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量が31~50%、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量が3~9.0%、
であり、ただし、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.90~1.42、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70、
であり、
Zr4+含有量が2~8%、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するW6+含有量のカチオン比{W6+/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が0.50以下、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するZn2+含有量のカチオン比{Zn2+/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.17以下、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するLa3+含有量含有量のカチオン比{La3+/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.50~0.95、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するY3+含有量のカチオン比{Y3+/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.10~0.50、
La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するGd3+含有量のカチオン比{Gd3+/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.10以下、
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTa5+含有量のカチオン比{Ta5+/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が0.2以下、
であり、比重が5.20以下であり、アッベ数νdが39.5~41.5の範囲であり、かつ屈折率ndがアッベ数νdに対して下記(1)式:
nd≧2.0927-0.0058×νd ・・・ (1)
を満たし、かつ、
カチオン%表示のガラス組成において、下記(B)式により算出される値Bが、-1.000~5.000の範囲である酸化物ガラスであるガラス。
B=0.567×(Ti4+含有量+Nb5+含有量)-1.000×Gd3+含有量 ・・・ (B)
【請求項2】
カチオン%表示のガラス組成において、下記(A)式により算出される値Aが、8.5000~11.0000の範囲である請求項1に記載のガラス。
A=0.01×Si4+含有量
+0.01×B3+含有量
+0.05×La3+含有量
+0.07×Y3+含有量
+0.07×Yb3+含有量
+0.085×Zn2+含有量
+0.3×Zr4+含有量
+0.5×Ta5+含有量
+0.8×Nb5+含有量
+0.9×W5+含有量
+0.95×Ti4+含有量 ・・・ (A)
【請求項3】
Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するZr4+含有量のカチオン比{Zr4+含有量/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が0.48~2.20の範囲である請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子。」
第4 異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証を提出し、以下の異議申立理由によって、本件訂正前の請求項1~6に係る発明の特許を取り消すべきものである旨を主張している。
甲第1号証:上原 進,「光学ガラスの高屈折率化」,光学 第42巻 第7号,2013年 7月10日,公益社団法人応用物理学会,p.345(15)-350(20)
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)「B3+とSi4+との合計含有量」について
訂正前の請求項1に係る発明においては、「B3+とSi4+との合計含有量」の上限が「65%」と特定されており、実施例の上限である「50.9%」との間には14%程度の差がある。
一方、実施例の「屈折率nd」は「1.8627~1.8819」の範囲であり、「B3+とSi4+との合計含有量」を上限付近まで増加させた場合、屈折率の下限値を下回る可能性が高く、また、本件特許発明の課題である「高屈折率」を実現できる蓋然性が高いとはいえない。
(2)「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」について
(ア)訂正前の請求項1に係る発明においては、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」の下限が「25%」と特定されており、実施例の下限である「36.5%」との間には12%程度の差がある。
一方、実施例の「屈折率nd」は「1.8627~1.8819」の範囲であり、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」を下限値の「25%」まで減少させた場合、屈折率の下限値を下回る可能性が高く、また、本件特許発明の課題である「高屈折率」を実現できる蓋然性が高いとはいえない。
(イ)また、訂正前の請求項1に係る発明においては、「アッベ数νd」が「39.5~41.5」の範囲であると特定されているが、実施例に開示されたアッベ数は39.71~41.13の範囲であり、訂正前の請求項1に係る発明のアッベ数の上限及び下限に近接している。
ここで、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」を下限値の「25%」まで減少させた場合、訂正前の請求項1に係る発明に特定された「アッベ数νd」の下限値を下回る可能性が高く、本件特許発明の課題である「低分散(高アッベ数)」を実現できる蓋然性が高いとはいえない。
(3)「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」について
訂正前の請求項1に係る発明においては、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」の上限が「12%」と特定されており、実施例の上限値である「7.2%」との間には5%程度の差がある。
ここで、 本件特許明細書の【0021】には、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+」は、「屈折率nd」を高める働きのある成分であることが記載されているが、「アッベ数νd」を下げる成分であることから、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」を上限付近まで増加させた場合、訂正前の請求項1に係る発明の「アッベ数νd」の下限値を下回る可能性が高く、本件特許発明の課題である「高屈折率低分散(高アッベ数)」を実現できる蓋然性が高いとはいえない。
(4)「(B)式」について
訂正前の請求項1に係る発明においては、「(B)式により算出される値Bが、-1.000~6.720の範囲である」と特定されるものであるが、実施例における「(B)式により算出される値B」の範囲は0.856~4.082であり、ここで「(B)式により算出される値B」が上限となる場合についてみると、(Ti4+含有量+Nb5+含有量)が訂正前の請求項1に係る発明で特定される上限値である12%となる場合、「(B)式」の上限値を満足するには、Gd3+含有量が0.084%でなければならない。
他方、Gd3+含有量を0%とした場合、「(B)式」の上限値を満足するには、(Ti4+含有量+Nb5+含有量)が約11.85%となり、いずれにしても、(Ti4+含有量+Nb5+含有量)が上限である12%付近まで増加した場合となるから、前記(3)で述べたように、本件特許発明の課題である「低分散(高アッベ数)」を実現できる蓋然性が高いとはいえない。
2 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件特許発明においては、本件特許明細書の【0009】において、「安定供給可能」を課題としているが、本件特許明細書において「安定供給」に関連する物性は「熱的安定性」以外にない。
しかし、訂正前の請求項1に係る発明においては、「熱的安定性」を具体的にした物性要件について何ら規定がなく、訂正前の請求項1に係る発明が、上記課題を解決できるものと当業者は認識できない。
したがって、訂正前の請求項1に係る発明及びこれを引用する訂正前の請求項2~6に係る発明は明確でない。
3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
前記1で指摘したとおり、訂正前の請求項1に係る発明は、実施例に記載された各成分の含有量から大きく外れる範囲を含んでおり、更に、訂正前の請求項1に係る発明の物性要件についても、実施例に記載される物性から大きく外れる範囲を含むため、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、訂正前の請求項1に係る発明を実施できるとはいえない。
第5 取消理由の概要
平成31年 4月24日付け取消理由通知による取消理由の概要は、以下のとおりである。
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)「B3+とSi4+との合計含有量」について
(ア)訂正前の請求項1に係る発明においては、「B3+とSi4+との合計含有量」が「43~65%」と特定されるものであるが、実施例における「B3+とSi4+との合計含有量」の最大値は、実施例No.2の「50.9%」であり、この最大値と訂正前の請求項1に係る発明における上限である「65%」との間には14.1%の差があるものである。
一方、実施例No.2の「アッベ数νd」は「40.79」であり、訂正前の請求項1に係る発明における「アッベ数νd」の下限である「39.5」に対して、その差は1.29に過ぎない。
また、実施例No.2の「屈折率nd」は1.8627であり、訂正前の請求項1に係る発明において「アッベ数νd」が最大値である「41.5」となる場合の「2.0927-0.0058×νd」は、2.0925-0.0058×41.5=1.8518であり、これらの差は0.0109に過ぎない。
(イ)そして、実施例No.2において、「B3+とSi4+との合計含有量」を「50.9%」から「65%」に14.1%増加させた場合、これにともなって他の成分が減少すると、実施例No.2において「アッベ数νd」や「屈折率nd」が低下して、訂正前の請求項1に係る発明における
「アッベ数νdが39.5~41.5の範囲であり、かつ屈折率ndがアッベ数νdに対して下記(1)式:
nd≧2.0927-0.0058×νd ・・・ (1)
を満」たす、との発明特定事項を満足しないものとなる蓋然性が高いので、「B3+とSi4+との合計含有量」の上限が「65%」である訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、訂正前の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2~6に係る発明についても同様である。
(2)「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」について
(ア)訂正前の請求項1に係る発明においては、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」が「25~50%」と特定されるものであるが、実施例における「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」の最小値は、実施例No.2の「36.5%」であり、この最小値と訂正前の請求項1に係る発明における下限である「25%」との間には11.5%の差があるものである。
一方、実施例No.2の「屈折率nd」と、訂正前の請求項1に係る発明において「アッベ数νd」が最大値である「41.5」となる場合の「2.0927-0.0058×νd」の差が0.0109に過ぎないことは、前記(1)(ア)に記載のとおりである。
(イ)そして、実施例No.2において、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」を「36.5%」から「25%」に11.5%減少させた場合、これにともなって他の成分が増加することで、実施例No.2において「屈折率nd」が低下して、前記(1)(イ)の「(1)式」を満足しないものとなる蓋然性が高い。
(ウ)また、実施例No.48の「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」は「38.0%」であり、訂正前の請求項1に係る発明における下限である「25%」との間には13%の差があるものである。
一方、実施例No.48の「アッベ数νd」は「39.71」であり、訂正前の請求項1に係る発明における「アッベ数νd」の下限は「39.5」であり、これらの差は0.21に過ぎない。
(エ)そして、実施例No.48において、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」を「38.0%」から「25%」に13%減少させた場合、これにともなって他の成分が増加することで、実施例No.48において「アッベ数νd」が低下して、訂正前の請求項1に係る発明における「アッベ数νdが39.5~41.5の範囲」である、との発明特定事項を満足しないものとなる蓋然性が高い。
(オ)前記(イ)、(エ)によれば、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」の下限が「25%」である訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、訂正前の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2~6に係る発明についても同様である。
(3)「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」について
(ア)訂正前の請求項1に係る発明においては、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」が「3~12%」と特定されるものであるが、実施例における「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」の最大値は、実施例No.48の「7.2%」であり、この最大値と訂正前の請求項1に係る発明における上限である「12%」との間には4.8%の差があるものである。
一方、実施例No.48の「アッベ数νd」と訂正前の請求項1に係る発明における「アッベ数νd」の下限との差が0.21に過ぎないことは、前記(2)(ウ)に記載のとおりである。
(イ)そして、実施例No.48において、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」を「7.2%」から「12%」に4.8%増加させた場合、これにともなってLa3+、Y3+、Gd3+およびYb3+といった他の成分が減少することで、「アッベ数νd」が低下して、訂正前の請求項1に係る発明における「アッベ数νdが39.5~41.5の範囲」である、との発明特定事項を満足しないものとなる蓋然性が高い。
(ウ)前記(イ)によれば、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」の上限が「12%」である訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、訂正前の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2~6に係る発明についても同様である。
(4)「(B)式」について
(ア)訂正前の請求項1に係る発明においては、「(B)式により算出される値Bが、-1.000~6.720の範囲である」と特定されるものであるが、実施例における「(B)式により算出される値B」の最大値は、実施例No.48の「4.082」であり、この最大値と訂正前の請求項1に係る発明における上限である「6.720」との間には2.638の差があるものである。
一方、実施例No.48の「アッベ数νd」と訂正前の請求項1に係る発明における「アッベ数νd」の下限との差が0.21に過ぎないことは、前記(2)(ウ)に記載のとおりである。
(イ)ここで、実施例No.48は、「Ti4+含有量」が「0.0%」、「Nb5+含有量」が「7.2%」、「Gd3+含有量」が「0.0%」であって、「(Ti4+含有量+Nb5+含有量)」は「7.2%」であり、実施例No.48において、「(B)式により算出される値B」を「6.720」に増加するには、「(Ti4+含有量+Nb5+含有量)」を、少なくとも(6.720+0.0)/0.567=11.85%に増加する必要があるものである。
(ウ)そして、実施例No.48において、「(B)式により算出される値B」を「6.720」に増加させるべく、「(Ti4+含有量+Nb5+含有量)」を「7.2%」から「11.85%」に4.65%増加させた場合、これにともなってLa3+、Y3+、Gd3+およびYb3+といった他の成分が減少することで、「アッベ数νd」が低下して、訂正前の請求項1に係る発明における「アッベ数νdが39.5~41.5の範囲」である、との発明特定事項を満足しないものとなる蓋然性が高い。
(エ)前記(ウ)によれば、「(B)式により算出される値B」の上限が「6.720」である訂正前の請求項1に係る発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、訂正前の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2~6に係る発明についても同様である。
2 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(1)「B3+とSi4+との合計含有量」について
(ア)訂正前の請求項1に係る発明においては、「B3+とSi4+との合計含有量が43~65%」と特定される一方、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.70~1.42」と特定されるものである。
(イ)そして、「B3+とSi4+との合計含有量」が65%の場合、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.70~1.42」より、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」は、45.77~92.86%となり、「B3+とSi4+との合計含有量」と「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」とで100%を超えてしまうから、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項には矛盾があるので、訂正前の請求項1に係る発明は不明確である。
このことは、訂正前の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2~6に係る発明についても同様である。
(2)「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」について
(ア)訂正前の請求項1に係る発明においては、前記(1)(ア)に加えて、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量が25~50%」と特定されるものである。
(イ)そして、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」が25%の場合、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.70~1.42」より、「B3+とSi4+との合計含有量」は17.5~35.5%となり、「B3+とSi4+との合計含有量が43~65%」との発明特定事項と矛盾するものとなるので、訂正前の請求項1に係る発明は不明確である。
このことは、訂正前の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2~6に係る発明についても同様である。
(3)「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」について
(ア)訂正前の請求項1に係る発明においては、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量が3~12%」と特定される一方、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70」と特定されるものである。
(イ)そして、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」が3%の場合、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70」より、「B3+とSi4+との合計含有量」は17.4~23.1%となり、「B3+とSi4+との合計含有量が43~65%」との発明特定事項と矛盾するものとなる。
また、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」が12%の場合、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70」より、「B3+とSi4+との合計含有量」は69.6~92.4%となり、「B3+とSi4+との合計含有量が43~65%」との発明特定事項と矛盾するものとなるので、訂正前の請求項1に係る発明は不明確である。
このことは、訂正前の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2~6に係る発明についても同様である。
3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(ア)発明の詳細な説明及び甲第1号証に記載される技術常識によれば、訂正前の請求項1に係る発明の組成要件が、物性要件を満たすことができないものも包含することは、前記1(1)~(4)に記載のとおりである。
(イ)そうすると、本件特許明細書は、訂正前の請求項1に係る発明で特定されるガラスの組成の各成分含有量の上限値や下限値において、アッベ数νdが39.5~41.5であり、かつ「(1)式」の関係を満たすように、当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施できる程度に記載されたものとはいえない。
このことは、訂正前の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2~6に係る発明についても同様である。
第6 取消理由についての判断
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
組成要件と物性要件により特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、組成要件により特定されるガラスが発明の詳細な説明に記載されていることに加えて、組成要件で特定されるガラスが高い蓋然性をもって物性要件を満たし得るものであることを、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識から当業者が認識できることを要する。
そこで、以下、組成要件で特定されるガラスが高い蓋然性をもって物性要件を満たし得るか否かについて検討する。
(1)「B3+とSi4+との合計含有量」について
(ア)本件発明1においては、「B3+とSi4+との合計含有量」が「43~53%」と特定されるものであるが、実施例における「B3+とSi4+との合計含有量」の最大値は、実施例No.2の「50.9%」であり、この最大値と本件発明1における上限である「53%」との間には2.1%の差があるものである。
(イ)ここで、本件特許明細書の【0017】には、B3+及びSi4+は、ガラスのネットワーク形成成分であり、熱的安定性を向上させる働きを有することが記載され、【0023】には、Zr4+が熱的安定性を改善する働きを有することが記載され、【0033】によれば、Zn2+は、本件発明1の「カチオン比{Zn2+/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.17以下」との発明特定事項の範囲内で増減可能なものであり、更に、【0027】、【0029】によれば、本件発明1の「カチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.90~1.42」、「カチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70」との発明特定事項の範囲内で、これらの成分を増減できるものであり、また、【0056】によれば、B3+とSi4+は置き換え可能な成分である。
これらのことからみれば、Zr4+とZn2+の一部をB3+に置き換え、B3+の一部をNb5+とY3+に置き換え、Si4+の一部をB3+に置き換えることで、「B3+とSi4+との合計含有量」を本件発明1における上限である「53%」としても、高い蓋然性を持って本件発明1の物性要件を満たし得ることを認識できるものである。
(ウ)更に、意見書に添付された乙第1号証である2019年 8月 5日付けの実験成績証明書には、以下の記載がある。
(a)「1.実験内容
(1)ガラス組成
本件(特許第6366628号)明細書の表63に記載されているガラスNo.2またはNo.48のガラス組成を出発組成とし、下記表1に示すガラス組成(実2A、実48A、実48B)を得た。表1に、組成改変の内容を,表2に、ガラスNo.2、No.48と、それぞれ対応する改変組成を示す。」(1頁12行~17行)
(b)「
」(2頁)
(c)「
」(3頁)
(d)「(2)ガラス試料の作製
表2に記載の成分に対応する各種酸化物、硼酸、炭酸カルシウムを使用し、改変例のガラスが得られるように、原料を秤量し、十分混合してから白金製坩堝に入れた。このとき酸化物換算で合計150g分の原料をそれぞれ使用した。その後、坩堝をガラス溶解炉内へ入れ、1400℃で2時間かけてガラスを溶融、清澄、均一化し、溶融ガラスを坩堝から予熱した金型に流し込んで成形した。次いで、成形したガラスを金型から取り出して710℃に設定されたアニール炉内に入れ、徐冷降温速度-30℃/時にて徐冷して上記改変例の光学ガラスを得た。
このようにして得た光学ガラスを研削・研磨加工して、測定用のガラス試料を作製した。測定用のガラス試料の写真を図1に示す。」(3頁1行~最終行)
(e)「2.実験結果
各改変例の組成を有する光学ガラスの屈折率nd、アッベ数νd、(1)式に関するパラメータX(X=-0.0058×νd×2.0927)、および(B)式で算出される値Bを,表3に示す。」(4頁4行~6行)(当審注:「X=-0.0058×νd×2.0927」は「X=2.0927-0.0058×νd」の誤記と認める。)
(f)「
」(5頁)
(エ)前記(ウ)(b)(【表2A】)によれば、ガラス試料「実2A」における「B3+とSi4+との合計含有量」は、42.5%+10.5%=53.0%であるから、本件発明1における「B3+とSi4+との合計含有量」の最大値である「53%」と合致し、かつ、ガラス試料「実2A」は、本件発明1の、「B3+とSi4+との合計含有量」以外の組成要件に係る発明特定事項も全て満たす。
更に、前記(ウ)(f)(【表3】)によれば、ガラス試料「実2A」の「アッベ数νd」は41.04であることから、本件発明1の「アッベ数νdが39.5~41.5の範囲であ」る、との発明特定事項を満たし、更に「屈折率nd」が1.85481であり、パラメータXが1.85467であることから、本件発明1の
「屈折率ndがアッベ数νdに対して下記(1)式:
nd≧2.0927-0.0058×νd ・・・ (1)
を満た」す、との発明特定事項を満たす。
また、本件特許明細書の【0154】【表63】によれば、実施例No.2の比重が4.77であることと、前記(ウ)(b)(【表1】)のガラス試料「実2A」の組成の改変内容からみて、ガラス試料「実2A」が、本件発明1の、「比重が5.20以下であ」る、との発明特定事項を満たす蓋然性が高い。
(オ)前記(イ)、(エ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「B3+とSi4+との合計含有量」を本件発明1の最大値である「53%」としても、高い蓋然性を持って本件発明1の物性要件を満たし得ることを認識できるから、「B3+とSi4+との合計含有量」に関して、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。
(2)「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」について
(ア)本件発明1においては、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」が「31~50%」と特定されるものであるが、実施例における「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」の最小値は、実施例No.2の「36.5%」であり、この最小値と本件発明1における下限である「31%」との間には5.5%の差があるものである。
(イ)ここで、本件特許明細書の【0033】、【0047】によれば、本件発明1の「カチオン比{Zn2+/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.17以下」、「カチオン比{Ta5+/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が0.2以下」との発明特定事項の範囲内で、これらの成分を増減できるものであり、更に【0082】によれば、Ca2+は、ガラスの熔融性改善のために含有可能な成分である。
これらのことからみれば、B3+の一部をZn2+に置き換え、La3+とY3+とZn2+の一部をCa2+と置き換え、Nb5+の一部をTa5+に置き換えることで、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」を本件発明1における下限である「31%」としても、高い蓋然性を持って本件発明1の物性要件を満たし得ることを認識できるものである。
(ウ)更に、前記(1)(ウ)(c)(【表2B】)によれば、ガラス試料「実48A」における「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」は、23.6%+7.4%=31.0%であるから、本件発明1における「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」の最小値である「31%」と合致し、かつ、ガラス試料「実48A」は、本件発明1の、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」以外の組成要件に係る発明特定事項も全て満たす。
そして、前記(1)(ウ)(f)(【表3】)によれば、ガラス試料「実48A」の「アッベ数νd」は41.19であることから、本件発明1の「アッベ数νdが39.5~41.5の範囲であ」る、との発明特定事項を満たし、更に「屈折率nd」が1.86124であり、パラメータXが1.85960であることから、本件発明1の
「屈折率ndがアッベ数νdに対して下記(1)式:
nd≧2.0927-0.0058×νd ・・・ (1)
を満た」す、との発明特定事項を満たす。
また、本件特許明細書の【0154】【表63】によれば、実施例No.48の比重が4.91であることと、前記(1)(ウ)(b)(【表1】)のガラス試料「実48A」の組成の改変内容からみて、ガラス試料「実48A」が、本件発明1の、「比重が5.20以下であ」る、との発明特定事項を満たす蓋然性が高い。
(エ)前記(イ)、(ウ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」を本件発明1の最小値である「31%」としても、高い蓋然性を持って本件発明1の物性要件を満たし得ることを認識できるから、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」に関して、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。
(3)「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」及び「(B)式」について
(ア)本件発明1においては、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」が「3~9.0%」と特定されるものであるが、実施例における「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」の最大値は、実施例No.48の「7.2%」であり、この最大値と本件発明1における上限である「9.0%」との間には1.8%の差があり、また、本件発明1においては、「(B)式により算出される値B」が、「-1.000~5.000の範囲である」と特定されるものであるが、実施例における「値B」の最大値は、実施例No.48の「4.082」であり、この最大値と本件発明1における上限である「5.000」との間には0.918の差があるものである。
(イ)ここで、本件特許明細書の【0017】には、B3+は、ガラスのネットワーク形成成分であり、熱的安定性を向上させる働きを有することが記載され、【0023】には、Zr4+が熱的安定性を改善する働きを有することが記載され、【0033】によれば、Zn2+は、本件発明1の「カチオン比{Zn2+/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.17以下」との発明特定事項の範囲内で増減可能なものであり、【0027】、【0029】によれば、本件発明1の「カチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.90~1.42」、「カチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70」との発明特定事項の範囲内で、これらの成分を増減できるものである。
これらのことからみれば、Zr4+とZn2+とY3+の一部をB3+に置き換え、B3+の一部をTi4+と置き換え、Y3+の一部をLa3+に置き換えることで、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」を本件発明1における上限である「9.0%」とし、「値B」を本件発明1における上限である「5.000」としても、高い蓋然性を持って本件発明1の物性要件を満たし得ることを認識できるものである。
(ウ)更に、前記(1)(ウ)(c)(【表2B】)によれば、ガラス試料「実48B」における「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」は、7.2%+1.8%=9.0%であるから、本件発明1における「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」の最大値である「9.0%」と合致する。
また、ガラス試料「実48B」における「値B」は、5.103であるから、本件発明1における「値B」の最大値である「5.000%」よりも大きく、かつ、ガラス試料「実48B」は、本件発明1の、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」及び「値B」以外の組成要件に係る発明特定事項も全て満たす。
そして、前記(1)(ウ)(f)(【表3】)によれば、ガラス試料「実48B」の「アッベ数νd」は39.50であることから、本件発明1の「アッベ数νdが39.5~41.5の範囲であ」る、との発明特定事項を満たし、更に「屈折率nd」が1.86616であり、パラメータXが1.86360であることから、本件発明1の
「屈折率ndがアッベ数νdに対して下記(1)式:
nd≧2.0927-0.0058×νd ・・・ (1)
を満た」す、との発明特定事項を満たす。
また、本件特許明細書の【0154】【表63】によれば、実施例No.48の比重が4.91であることと、前記(1)(ウ)(b)(【表1】)のガラス試料「実48B」の組成の改変内容からみて、ガラス試料「実48B」が、本件発明1の、「比重が5.20以下であ」る、との発明特定事項を満たす蓋然性が高い。
(エ)前記(イ)、(ウ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」を本件発明1の最大値である「9.0%」とし、また、「値B」を本件発明1の最大値である「5.000」としても、高い蓋然性を持って本件発明1の物性要件を満たし得ることを認識できるから、「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」及び「値B」に関して、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。
(4)小括
以上のとおりであるので、本件発明1は、組成要件で特定されるガラスが高い蓋然性をもって物性要件を満たし得るものといえるから、発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2~6についても同様であるから、前記第5の1(1)~(4)の取消理由は理由がない。
2 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(1)「B3+とSi4+との合計含有量」について
(ア)本件発明1においては、「B3+とSi4+との合計含有量が43~53%」と特定される一方、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.90~1.42」と特定されるものである。
(イ)そして、「B3+とSi4+との合計含有量」が53%の場合、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.90~1.42」より、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」は、37.32~58.89%となり、「B3+とSi4+との合計含有量」と「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」とで100%を必ずしも超えるものではないから、本件発明1の発明特定事項に矛盾はない。
(2)「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」及び「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」について
本件発明1は、「B3+とSi4+との合計含有量が43~53%、」、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量が31~50%、Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量が3~9.0%」との発明特定事項と、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Y3++Gd3++Yb3+)}が0.90~1.42、Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Nb5++Ti4++Ta5++W6+)}が5.80~7.70」との発明特定事項とを全て同時に満たすものであって、その場合、本件発明1の「B3+とSi4+との合計含有量」と、「La3+、Y3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量」及び「Nb5+、Ti4+、Ta5+およびW6+の合計含有量」とは、意見書の9頁及び10頁に図示される水色ドットの台形部分により特定されるから、本件発明1の発明特定事項に矛盾はない。
(3)小括
以上のとおりであるので、本件発明1は明確である。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2~6についても同様であるから、前記第5の2(1)~(3)の取消理由は理由がない。
3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(ア)本件発明1は、組成要件で特定されるガラスが高い蓋然性をもって物性要件を満たし得るものといえることは、前記1(4)に記載のとおりである。
(イ)そうすると、本件特許明細書は、本件発明1で特定されるガラスの組成の各成分含有量の上限値や下限値において、アッベ数νdが39.5~41.5であり、かつ「(1)式」の関係を満たすように、当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施できる程度に記載されたものというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~6についても同様であるから、前記第5の3の取消理由は理由がない。
第7 異議申立理由についての判断
前記第4の1(1)~(4)及び同3の異議申立理由は、前記第5の1(1)~(4)及び同3の取消理由と同旨であって、前記第6の1(1)~(4)及び3で検討したのと同様の理由により理由がないので、前記第4の2の異議申立理由について検討する。
1 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
(1)本件特許明細書の記載事項
(ア)本件特許明細書には以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。)。
「【0007】
これに対し、特許文献1~20に記載されているガラスの中で、アッベ数νdが39.5~41.5の範囲にあり、nd≧2.0927-0.0058×νdの関係を満たす高屈折率低分散ガラスは、Gd、Taのいずれかの成分を含んでいる。しかるに、Gd、Taとも、希少価値の高い元素であるものの各種産業分野での需要が近年増加しているため、市場における需要に対して供給が不足している。そのため高屈折率低分散ガラスの安定供給の観点からは、高屈折率低分散ガラスにおいて、GdやTaの含有量を低減することが望ましい。
【0008】
ところで、撮像光学系やプロジェクタなどの投射光学系を構成する光学素子は軽量化することが望ましい。・・・
しかし本発明者は、特許文献1~20に記載されているガラスの中で、アッベ数νdが39.5~41.5の範囲にあり、nd≧2.0927-0.0058×νdの関係を満たす高屈折率低分散ガラスを用いて作製される光学素子は重くなる傾向があると考えている。これは、特許文献1~20に記載されている高屈折率低分散化のための組成調整では、ガラスの比重が増大する傾向があるからである。
【0009】
本発明の一態様は、アッベ数νdが39.5~41.5であり、nd≧2.0927-0.0058×νdの関係を満たし、安定供給が可能であり、かつ光学素子の軽量化に寄与し得るガラスを提供することを目的とする。」
(イ)前記(ア)によれば、本件発明は、アッベ数νdが39.5~41.5であり、nd≧2.0927-0.0058×νdの関係を満たす高屈折率低分散ガラスの安定供給の観点からは、市場における需要に対して供給が不足しているGdやTaの含有量を低減することが望ましい、との課題を解決するものであって、ここでいう「安定供給」とは、光学ガラスの「熱的安定性」をいうものではなく、GdやTaの含有量を低減して、原材料を「安定供給」することをいうことは明らかである。
(ウ)そして、本件特許明細書の【0154】【表63】によれば、本件発明の実施例1~50においては、Gd3+が0.0~3.0%、Ta5+が0.0~1.0%含有されるのに対して、比較例1~4においては、Gd3+が8.6~18.3%、Ta5+が2.9%含有されるものであり、本件特許明細書の前記記載に接した当業者は、本件発明1により、アッベ数νdが39.5~41.5であり、nd≧2.0927-0.0058×νdの関係を満たす高屈折率低分散ガラスにおけるGdやTaの含有量が低減され、原材料の「安定供給」が図られることで、前記(イ)の課題を解決できることを理解できるものである。
してみれば、本件発明1は明確であるから、前記第4の2の異議申立理由は理由がない。
第8 むすび
以上のとおり、異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-700073