特許拒絶査定不服審判
2019-017045
油脂組成物
- 審判番号
- 2019-017045
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-102680外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年12月17日
- 審決日
- 2020年11月09日
- 公報発行日
- 2021年02月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】築野食品工業株式会社
- 【請求人代理人】岩谷 龍
- 分類
- P18 .113-Z (A23D) / P18 .121-Z (A23D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-102680「油脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開、特開2017- 86061〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成27年11月13日に出願した特願2015-223477号の一部を平成28年5月23日に新たな特許出願としたものであって、平成31年3月27日付けで拒絶理由が通知され、令和1年8月1日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月6日付けで拒絶査定され、同年12月17日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和2年2月4日に手続補正書(方式)が提出されたものである。
第2 本願発明
この出願の請求項1に係る発明は、令和1年12月17日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1に記載された事項により特定されるとおりの以下のとおりのものである。
「【請求項1】
米油を除く食用油脂及び米由来ステロールを含有する米風味付与用油脂組成物。」(以下「本願発明」という。)
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のものを含むと認める。
「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・・
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
(1)
・請求項 1-3、5-11
・引用文献等 1
・・・
<引用文献等一覧>
1.特開2011-120543号公報
・・・」
また、拒絶査定においては、以下のように記載されている。
「この出願については、平成31年 3月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-4によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
●理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)について
(1)
・請求項 1-3、5-10
・引用文献等 1
・備考
・・・
〈引用文献等一覧〉
1.特開2011-120543号公報
・・・」
本願発明は、上記拒絶理由の対象となった請求項1と対応するものである。
第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないし、また、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないと考える。
理由は、以下のとおりである。
記
刊行物1:特開2011-120543号公報
1 引用刊行物及びその記載事項
刊行物1
本願出願日前に頒布された刊行物である刊行物1には、次の記載がある。
ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠油以外の食用油脂に米糠由来不けん化物を添加してなる油脂組成物。
【請求項2】
米糠由来不けん化物の添加量が、前記食用油脂に対して0.01~5重量%である請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
前記食用油脂が30~100重量%のパーム系油脂類を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載した油脂組成物で揚げたフライ食品。
【請求項5】
フライ食品が米菓又はスナック菓子である請求項4に記載のフライ食品。
」
イ「【背景技術】
【0002】
従来、米菓、スナック、惣菜等の油で揚げた食品に米の風味を付与するためには、米糠油もしくは、米糠油を混合した油脂組成物を使用している。しかしながら、米糠油は、製造量が限られ、価格も高価であり、さらに、油の保存安定性に難があった。そこで、米糠油様の風味豊かでコクのある調理品や加工食品等の食品を得ることができ、尚且つ、保存安定性に優れた食用油脂が望まれている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、米糠油は保存安定性に問題があり、一方で、米糠油を用いずに充分な米風味を得られる油脂組成物は、未だ見出されていない。従って、本発明は、このような問題点に鑑み、米風味を有し、保存安定性に優れた油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、米糠由来の不けん化物を食用油脂に添加することで、米風味が得られることを見出した。さらに、米糠油に比べて、本発明の油脂組成物の保存安定性が非常に良いだけでなく、更には、揚げた際の米菓等の外観も優れていることを見出した。」
ウ「【0012】
本発明は、米糠油以外の食用油脂に米糠由来の不けん化物を添加してなる油脂組成物で揚げたフライ食品である。
【0013】
前記フライ食品は、米菓又はスナック菓子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、米糠油を使用せずに米風味を有し、保存安定性に優れた油脂組成物が提供できる。また、風味豊かでコクのある食品も提供できる。」
エ「【0016】
本発明の米糠油以外の食用油脂とは、米糠油以外の動植物油脂であり、通常、食用油脂として使用されるものであれば特に制限なく使用することができるが、例えば、パーム系油脂類、大豆油、ハイオレイック大豆油、菜種油、ハイオレイック菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、オリーブ油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、ごま油、しそ油、えごま油、亜麻仁油、ぶどう油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、かぼちゃ油、くるみ油、椿油、茶油、ボラージ油、小麦胚芽油、パーム核油、やし油等の植物油脂、牛脂、豚脂、魚油、乳脂等の動物油脂、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)等の合成脂、及びこれらの硬化油、分別油あるいはエステル交換油から選ばれる1種類あるいは2種類以上の油脂を組み合わせてもよい。
【0017】
また、上記の油脂のなかでは、パーム系油脂類を30重量%以上含む食用油脂がよく、より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは100重量%である。パーム系油脂類の含有量が高いと油脂の安定性が良く、特に保存した米菓やスナックで良好な風味を維持することができる。」
オ「【0020】
本発明の米糠由来不けん化物は、米糠油を精製する際に得られるガム質や脱臭スカムから得ることができる。一般的に、米糠由来不けん化物には、γ-オリザノール、トコフェロール、トコトリエノール、植物ステロール等が含まれている。これらはそのまま用いることもできるが、風味に悪い影響を及ぼす脂肪酸等の不純物を除去するための精製を施したものを用いることが望ましい。また、米糠由来不けん化物中のステロールは単体のほかに脂肪酸エステル体としても存在しており、どちらでも用いることができるが、油脂に溶解しやすい脂肪酸エステル体を多く含んでいることが望ましい。さらに、米糠由来不けん化物は粉末状、粒状、ペースト状のもの等の形態を問わずに使用できるが、油脂に溶解しやすいペースト状のものを用いることが望ましい。製造方法は特に問わないが、一般的には、脱臭スカムをアルカリ脱酸後に油溶性溶剤で抽出する方法により製造される。また、特開2005-255746号公報のように、脱臭スカムを必要最小限のアルカリによって脱酸して油溶性溶剤で抽出した後に脱色・脱臭処理して製造したものを使用してもよい。
【0021】
一般的に米糠には、β-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロール等のステロール類と、シクロアルテノール、24-メチレンシクロアルタノール等のトリテルペンアルコール類が含まれているが、本発明において使用される米糠由来不けん化物では、ステロールの成分を限定するものではない。」
カ「【0031】
使用した米糠由来不けん化物の分析値を表1に示した。各成分の定量分析方法について、以下の方法を採用した。また、実施例において特に記載がない場合には、ロットBを使用した。
・・・
【0037】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
表2の結果より、パームオレインに米糠由来不けん化物を0.01~5重量%添加することで米菓の風味が付与され、特に0.5重量%(実施例4)以上の添加量で米菓の風味(揚げた直後と60℃で12日間保存後)がよくなるとともに、加熱時の油の劣化臭が抑えられて米糠油特有の甘い香りが発生し、さらには米菓の外観もよくなった。
・・・
【0041】
〔試験例2〕[米糠不けん化物のロット差の影響]
パームオレインに、1重量%の米糠由来不けん化物を添加して試験例1と同様に米菓を揚げ、評価を行った。結果を表3に示した。
【0042】
【表3】
・・・
【0043】
〔試験例3〕[他のパーム系油脂類の効果の影響]
ヨウ素価の異なるパームオレインとパームオレイン以外のパーム系油脂類に、1重量%の米糠由来不けん化物を添加して試験例1と同様に米菓を揚げ、評価を行った。結果を表4に示した。
【0044】
【表4】
・・・
【0045】
表4の結果より、米糠由来不けん化物をヨウ素価の異なるパームオレインとパームオレイン以外のパーム系油脂類に添加して米菓を揚げた際に、その全ての油脂組成物で、パームオレインと同様に、加熱時の油の劣化臭が抑えられて米糠油特有の甘い香りが発生し、また、揚げた米菓の風味(揚げた直後と60℃12日間保存後)も好ましくなり、さらには米菓の外観もよくなった。
・・・
【0046】
〔試験例4〕[調合油の効果の影響]
パームオレインに他の油種(大豆油、菜種油およびコーン油)を表5で示したように配合した油脂組成物に1重量%の米糠由来不けん化物を添加して試験例1と同様に米菓を揚げ、評価を行った。結果を表5に示した。
【0047】
【表5】
・・・
【0048】
表5の結果より、パームオレインに他の油種を20~70重量%配合したものに米糠由来不けん化物を添加して米菓を揚げた際に、パームオレインと同様に、加熱時の油の劣化臭が抑えられて米糠油特有の甘い香りが発生し、また、揚げた米菓の風味(揚げた直後と60℃12日間保存後)も非常に好ましくなり、さらには米菓の外観もよくなった。
【0049】
〔試験例5〕[スナック・惣菜での添加効果の確認]
パームオレイン、菜種油およびコーン油にそれぞれ米糠由来不けん化物を1重量%添加して、試験例1と同様に米菓を揚げた。また、スナックとして成型ポテトチップス、および、惣菜としてフライドポテトを以下のように揚げて風味を確認した。
・・・
【0051】
表6の結果より、米糠由来不けん化物をパームオレイン等の油に添加して、米菓・スナック・惣菜を揚げる際に加熱時の油の劣化臭が抑えられて米糠油特有の甘い香りが発生し、また、揚げた食品の風味も非常に好ましくなった。」(【実施例】)
2 刊行物1記載の発明
刊行物1には、前記1の摘記アのとおり、請求項1において、「米糠油以外の食用油脂に米糠由来不けん化物を添加してなる油脂組成物」が記載され、摘記オには、「米糠由来不けん化物」の説明として、「【0020】
本発明の米糠由来不けん化物は、米糠油を精製する際に得られるガム質や脱臭スカムから得ることができる。一般的に、米糠由来不けん化物には、γ-オリザノール、トコフェロール、トコトリエノール、植物ステロール等が含まれている。これらはそのまま用いることもできるが、風味に悪い影響を及ぼす脂肪酸等の不純物を除去するための精製を施したものを用いることが望ましい。また、米糠由来不けん化物中のステロールは単体のほかに脂肪酸エステル体としても存在しており、どちらでも用いることができるが、油脂に溶解しやすい脂肪酸エステル体を多く含んでいることが望ましい。さらに、米糠由来不けん化物は粉末状、粒状、ペースト状のもの等の形態を問わずに使用できるが、油脂に溶解しやすいペースト状のものを用いることが望ましい。製造方法は特に問わないが、一般的には、脱臭スカムをアルカリ脱酸後に油溶性溶剤で抽出する方法により製造される。・・・脱臭スカムを必要最小限のアルカリによって脱酸して油溶性溶剤で抽出した後に脱色・脱臭処理して製造したものを使用してもよい。
【0021】
一般的に米糠には、β-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロール等のステロール類と、シクロアルテノール、24-メチレンシクロアルタノール等のトリテルペンアルコール類が含まれているが、本発明において使用される米糠由来不けん化物では、ステロールの成分を限定するものではない。」(下線は当審にて追加。以下同様。)と記載され、摘記カに記載されるように、請求項1及び【0020】【0021】に係る発明が、「油脂組成物」の製造例や具体例を伴って記載されている。
したがって、刊行物1には、以下の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。
「米糠油以外の食用油脂に、米糠由来不けん化物であって、米糠油を精製する際に得られるガム質や脱臭スカムから得ることができ、γ-オリザノール、トコフェロール、トコトリエノール、植物ステロール等が含まれ、これらをそのまま用い、該米糠由来不けん化物中のステロールが単体のほかに脂肪酸エステル体としても存在しているもの、を添加してなる油脂組成物」
3 対比判断
(1)本願発明と刊行物1発明との対比
ア 刊行物1発明の「米糠油」は、本願明細書【0002】の「近年(直近5年)の米糠の発生量は横ばいであり、米糠中の油分は約20%であり、米油の原料としてそのうちの約50%が利用されている。しかし、米油は、米菓子等の製造の際に用いることで、他の油を用いるよりも好ましい風味を持つことから近年需要が増大し、生産が需要に追いつかないほどになってきている。そこで米油が有する機能(好ましい風味等)を備える米油代替油脂が望まれている。」との記載から、本願発明の「米油」に相当する。
したがって、刊行物1発明の「米糠油以外の食用油脂」は、本願発明の「米油を除く食用油脂」に相当し、刊行物1の上記摘記エと本願明細書【0013】の「〔米油を除く食用油脂〕
本発明において、米油を除く食用油脂は、パーム油、パームオレイン、パーム核油、サフラワー油、ヒマワリ油、ヤシ油、ピーナッツ油、ブドウ油、ゴマ油、魚油、アマニ油、えごま(シソ)油、ナタネ油、大豆油、コーン油、綿実油、オリーブ油、アーモンド油、モンゴンゴ油、ペカン油、松の実油、クルミ油、ツバキ油、茶油、牛脂、ラード、鶏油、馬油、キャノーラ油、芥子油、胡桃油、扁桃油、落花生油、椿油等が挙げられ、特にパーム油、パームオレイン、パーム核油が、高い保存安定性を得られる点で好ましい。」との上記用語の対応する記載同士の内容も整合している。
イ また、刊行物1発明の「米糠由来不けん化物であって、米糠油を精製する際に得られるガム質や脱臭スカムから得ることができ、γ-オリザノール、トコフェロール、トコトリエノール、植物ステロール等が含まれ、これらをそのまま用い、該米糠由来不けん化物中のステロールが単体のほかに脂肪酸エステル体としても存在しているもの」は、γ-オリザノール、トコフェロール、トコトリエノール、植物ステロール等が含まれ、これらをそのまま用い、該米糠由来不けん化物中のステロール、つまり米由来ステロールが少なくとも単体として、油脂組成物中に存在しているといえる。
ウ したがって、刊行物1発明の「米糠油以外の食用油脂に、米糠由来不けん化物であって、米糠油を精製する際に得られるガム質や脱臭スカムから得ることができ、γ-オリザノール、トコフェロール、トコトリエノール、植物ステロール等が含まれ、これらをそのまま用い、該米糠由来不けん化物中のステロールが単体のほかに脂肪酸エステル体としても存在しているもの、を添加してなる」「油脂組成物」は、本願発明の「米油を除く食用油脂」及び「米由来ステロール」を「含有する」「油脂組成物」に該当している。
エ 以上のとおり、本願発明の「米油を除く食用油脂及び米由来ステロールを含有する米風味付与用油脂組成物」と刊行物1発明の「米糠油以外の食用油脂に、米糠由来不けん化物であって、米糠油を精製する際に得られるガム質や脱臭スカムから得ることができ、γ-オリザノール、トコフェロール、トコトリエノール、植物ステロール等が含まれ、これらをそのまま用い、該米糠由来不けん化物中のステロールが単体のほかに脂肪酸エステル体としても存在しているもの、を添加してなる油脂組成物」との対比において、両者は、「米油を除く食用油脂及び米由来ステロールを含有する油脂組成物」である点において一致し、以下の点で一応相違する。
相違点:本願発明においては「米風味付与用」と特定されているのに対して、刊行物1発明においては、そのような特定が明記されていない点
(2)相違点の判断
ア 新規性について
(ア)上記相違点について検討する。
刊行物1には、摘記イに
「【背景技術】
【0002】
従来、米菓、スナック、惣菜等の油で揚げた食品に米の風味を付与するためには、米糠油もしくは、米糠油を混合した油脂組成物を使用している。しかしながら、米糠油は、製造量が限られ、価格も高価であり、さらに、油の保存安定性に難があった。そこで、米糠油様の風味豊かでコクのある調理品や加工食品等の食品を得ることができ、尚且つ、保存安定性に優れた食用油脂が望まれている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、米糠油は保存安定性に問題があり、一方で、米糠油を用いずに充分な米風味を得られる油脂組成物は、未だ見出されていない。従って、本発明は、このような問題点に鑑み、米風味を有し、保存安定性に優れた油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、米糠由来の不けん化物を食用油脂に添加することで、米風味が得られることを見出した。さらに、米糠油に比べて、本発明の油脂組成物の保存安定性が非常に良いだけでなく、更には、揚げた際の米菓等の外観も優れていることを見出した。」と記載されるように、刊行物1発明が、少なくとも米糠油を用いずに充分な米風味を得られる油脂組成物を得るためのものであることは明記されており、摘記ウ【0014】効果の記載や摘記カの[試験例1]~[試験例5]の米菓の風味が好ましくなった旨の記載からも、刊行物1発明は、米風味を得られる油脂組成物を得るためのものであることを前提とするものであるといえる。
(イ)そして、本願発明における「米風味付与用」について、本願明細書における「【0002】
近年(直近5年)の米糠の発生量は横ばいであり、・・・しかし、米油は、米菓子等の製造の際に用いることで、他の油を用いるよりも好ましい風味を持つことから近年需要が増大し、生産が需要に追いつかないほどになってきている。そこで米油が有する機能(好ましい風味等)を備える米油代替油脂が望まれている。」との記載や、「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、米風味(コク味、香ばしさ、後味のよさ、うまみ等)を備える油脂組成物を提供することを目的とする。」との記載や「【発明の効果】
【0010】
本発明により、米風味(コク味、香ばしさ、後味のよさ、うまみ等)、加熱安定性、劣化抑制機能及び長期保存安定性を備える油脂組成物を提供することができる。・・・本発明の油脂組成物を使用して製造された米菓等のフライ食品も低コストで製造することができる。」との記載を考慮したとしても、「米風味付与用」との特定に係る上記相違点は、実質的な相違点とはいえない。
イ 進歩性について
(ア)仮に、上記相違点が実質的な相違点であったとしても、上記摘記イの記載や、摘記カの実施例において、米菓の風味が付与され、米菓の風味(揚げた直後と60℃で12日間保存後)がよくなるとともに、加熱時の油の劣化臭が抑えられて米糠油特有の甘い香りが発生したことが示されているのであるから、これらの記載に基づき、刊行物1発明において、油脂組成物を「米風味付与用」と特定することは、当業者が容易になし得る技術的事項である。
(イ)本願発明の作用効果について
本願明細書には、本願発明の効果として、【0010】に米風味、加熱安定性、劣化抑制機能、長期保存安定性等が挙げられているが、刊行物1発明においても、刊行物1の摘記カに示されるとおり、加熱時のにおいや、米菓の風味が保存後も含めて良好であることが、本願発明と同様、油脂組成物の添加の有無で比較した上で示されているのであるから、本願発明の効果を当業者の予測を超えた格別顕著なものとはいえない。
4 審判請求人の主張の検討
(1)審判請求書における主張の検討
ア 審判請求書における主張
審判請求人は、審判請求書の前記手続補正書(方式)2頁18行~3頁14行において、本願発明の「米由来ステロール」は、「単体」のステロールのみを指し、脂肪酸エステル体は含まない概念であることが明らかであるのに対し、引用文献1(刊行物1)に記載された発明は、単体のほかに脂肪酸エステルの混合物である点で、構成が全く異なり別発明であること、本願発明は、引用文献1に記載された発明に対して新規性または進歩性がないものではなく、審査官が本願発明に記載されていない「ステロールの脂肪酸エステル体」を認定した点は特許要件に無関係な指摘であることについて主張している。
イ 主張の検討
(ア)本願発明の「米由来ステロール」に関して、本願明細書【0015】には、「【0015】
〔米由来ステロール〕
本発明において、米由来ステロールは、米を原料として得られるステロールであれば特に限定されないが、例えば、カンペステロール、β-シトステロール、スチグマステロール、シクロアルテノール、24-メチレンシクロアルタノール、シクロブラノール、シクロサドール等が挙げられる。本発明における米由来ステロールは、例えば、特開2014-47311号公報を参照することにより得られる。すなわち、本発明における米由来ステロールは、例えば、米油の精製過程で生じるソープストック、脱臭スカム由来であってもよい。ソープストックはアルカリフーツまたはアルカリ油滓とも称される。脱臭スカムは脱臭留出物とも称される。いずれも、米油の精製過程で副産物として得られるものであり、米由来ステロールを豊富に含む。米由来ステロールは、これを含むソープストック、脱臭スカム等をそのまま用いてもよく、ソープストック、脱臭スカム等を精製、カラムクロマトグラフィー分離(オープンカラムクロマトグラフィー、フラッシュカラムクロマトグラフィー、HPLC(High performance liquid chromatography)等)等して得られたものを用いてもよい。
米由来ステロールは米由来ステロールエステルのけん化物を包含する。」との記載がある。
そして、少なくとも油脂組成物の原料として使用するにあたり、米由来ステロールが、米油の精製過程で生じるソープストック、脱臭スカム由来であってもよく、ソープストックはアルカリフーツまたはアルカリ油滓とも称され、脱臭スカムは脱臭留出物とも称され、いずれも、米油の精製過程で副産物として得られるものであり、米由来ステロールを豊富に含み、米由来ステロールを含むソープストック、脱臭スカム等をそのまま用いてもよいと説明しているのであるから、本願発明の「米由来ステロール」は、「含有する」との特定事項と関係して、「単体」のステロールだけではなく、米由来ステロールが含有成分として、油脂組成物に含まれている態様を包含しているといえる。
(イ)また、本願明細書の実施例における、「【0039】
〔製造例:試料の調製〕
・・・
実施例:パームオレイン1000gに、米油脱臭工程より得られる脱臭流出物(スカム油)10gを加え、80℃に加温し、酸価の中和等量の2倍のNaOH水溶液を加え、3000rpm、5分間遠心分離し脱酸油を得た。
次いで、米油のアルカリ脱酸工程より得られたアルカリ油滓(脱酸油の4分の1量)を脱臭流出物(スカム油)で中和したものを、前記脱酸油に加えて攪拌し、3000rpm、5分間遠心分離した。得られた油層を2回湯洗いした。湯洗いは、10質量%の温水(80℃)を加えて撹拌し、3000rpm、5分間遠心分離をして行った。
この油層に白土を5質量%添加し、減圧下で90℃、20分間撹拌した後、吸引ろ過で白土を完全に取り除き脱色油を得た(脱色工程)。
この脱色油を減圧下で240℃、2時間加熱して臭気成分を除去し(脱臭工程)、920gの油を得た。」との記載や、刊行物1の「【0020】
本発明の米糠由来不けん化物は、米糠油を精製する際に得られるガム質や脱臭スカムから得ることができる。一般的に、米糠由来不けん化物には、γ-オリザノール、トコフェロール、トコトリエノール、植物ステロール等が含まれている。これらはそのまま用いることもできるが、風味に悪い影響を及ぼす脂肪酸等の不純物を除去するための精製を施したものを用いることが望ましい。また、米糠由来不けん化物中のステロールは単体のほかに脂肪酸エステル体としても存在しており、どちらでも用いることができるが、油脂に溶解しやすい脂肪酸エステル体を多く含んでいることが望ましい。さらに、米糠由来不けん化物は粉末状、粒状、ペースト状のもの等の形態を問わずに使用できるが、油脂に溶解しやすいペースト状のものを用いることが望ましい。製造方法は特に問わないが、一般的には、脱臭スカムをアルカリ脱酸後に油溶性溶剤で抽出する方法により製造される。また、特開2005-255746号公報のように、脱臭スカムを必要最小限のアルカリによって脱酸して油溶性溶剤で抽出した後に脱色・脱臭処理して製造したものを使用してもよい。」との両製造方法の記載からみて、本願発明においても、刊行物1発明においても、米由来(米糠由来)のステロール単体に脂肪酸エステル体等が混合されたものが、少なくとも態様として共通しているといえる。
(ウ)以上のことからみて、本願発明の「米由来ステロールを含有する」「油脂組成物」との特定事項から、「米糠由来不けん化物中のステロールが単体のほかに脂肪酸エステル体としても存在しているもの、を添加してなる油脂組成物」という態様が除外されているとはいえない。
したがって、両者の構成が全く異なる旨、及び本願発明に「ステロールの脂肪酸エステル体」が含有される場合を認定した点は特許要件に無関係な指摘である旨の上記審判請求人の主張は、本願明細書及び特許請求の範囲の特定事項の記載に基づかない主張であり採用することはできない。
(2)令和1年8月1日付け意見書における主張の検討
ア 意見書における主張
審判請求人は、意見書2頁6~24行において、引用文献1(刊行物1)の【0030】【表2】からステロールの脂肪酸エステルをパームオレインに添加することで米風味が得られているのみで、単体のステロールを用いた場合にまで米風味が得られることは記載されていないし、当業者が容易に想到できず、【0054】の記載からは単体のステロールを用いることに阻害要因があることについて主張している。
イ 主張の検討
(ア)審判請求人は、刊行物1の米糠由来不けん化物がステロールの脂肪酸エステルのみであって、単体のステロールを用いた場合にまで米風味が得られることは記載されていない旨主張しているが、刊行物1発明は、刊行物1の「【0020】
本発明の米糠由来不けん化物は、米糠油を精製する際に得られるガム質や脱臭スカムから得ることができる。一般的に、米糠由来不けん化物には、γ-オリザノール、トコフェロール、トコトリエノール、植物ステロール等が含まれている。これらはそのまま用いることもできるが、風味に悪い影響を及ぼす脂肪酸等の不純物を除去するための精製を施したものを用いることが望ましい。また、米糠由来不けん化物中のステロールは単体のほかに脂肪酸エステル体としても存在しており、どちらでも用いることができるが、油脂に溶解しやすい脂肪酸エステル体を多く含んでいることが望ましい。」との記載を認定の根拠とするもので、米糠由来不けん化物がステロールの脂肪酸エステルのみであることを前提とする上記請求人の主張は、前提において失当である(なお、本願発明は、単体の米由来ステロールの添加のみに限定されているわけではないし、本願明細書においても、米由来ステロールの単体のみの添加の実施例による米風味が得られることの記載があるわけでもない。)。
また、刊行物1においては、【表1】にカンペステロール、β-シトステロール、スチグマステロールの含有が示されていることから、米糠由来不けん化物中のステロールは単体として用いても良いことは、当業者であれば理解できるといえる。
そして、【0054】で使用されたステロールは、フィトステロール(刊行物1【0030】参照)であって、米糠由来不けん化物中のステロールではなく、その記載自体が、阻害要因となるものでもない。
したがって、上記審判請求人の主張は、本願明細書及び特許請求の範囲の特定事項の記載に基づかない主張であり採用することはできない。
(3)小括
よって、上記審判請求人の主張は採用できない。
5 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるか、または刊行物1に記載された発明及び刊行物1に記載された技術的事項に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項又は第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 むすび
請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるか、または刊行物1に記載された発明及び刊行物1に記載された技術的事項に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第1項又は第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-017045