特許拒絶査定不服審判
2025-005946
車両用フロアスペーサ、車両用フロアスペーサの製造方法及び車両用フロアスペーサ用表皮材
- 審判番号
- 2025-005946
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-075453
- 請求日
- 2025年04月17日
- 審決日
- 2026年04月24日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社イノアックコーポレーション
- 審判長/審判官
- 審判長 田村 耕作
- 審判官 藤崎 詔夫
- 審判官 倉橋 紀夫
- 分類
- P18 .113-Z (B60N) / P18 .121-Z (B60N) / P18 .55 -Z (B60N) / P18 .575-Z (B60N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項、特許法第29条、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-75453号「車両用フロアスペーサ、車両用フロアスペーサの製造方法及び車両用フロアスペーサ用表皮材」拒絶査定不服審判事件〔令和4年11月10日出願公開、特開2022-169823号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年4月28日の出願であって、その手続の経緯は、概略以下のとおりである。
令和6年 4月18日付け:拒絶理由通知書
令和6年 6月21日提出:意見書、手続補正書
令和6年 8月21日付け:拒絶理由通知書<最後>
令和6年12月19日提出:意見書、手続補正書
令和7年 1月27日付け:補正の却下の決定、拒絶査定
令和7年 4月17日提出:審判請求書、手続補正書
第2 令和7年4月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年4月17日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項3の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「表皮層と、前記表皮層の裏面に積層された熱可塑性樹脂層と、前記熱可塑性樹脂層の裏面に積層された裏面層の3層のみからなる車両用フロアスペーサ用表皮材であって、
前記熱可塑性樹脂層がフィラーを含み、
前記裏面層は、目付20~80g/m2の不織布であり、
以下の(A)~(E)のうち、少なくとも1つを満足することを特徴とする車両用フロアスペーサ用表皮材。
(A)前記表皮層が不織布であること
(B)前記表皮層がポリエステル又はポリオレフィン製であること
(C)前記表皮層の目付が50~350g/m2であること
(D)前記発泡性合成樹脂の密度が40~95kg/m3であること
(E)前記熱可塑性樹脂層の単位面積当たりの重量が500~5500g/m2であること」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和6年6月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項3の記載は次のとおりである。
「表皮層と、前記表皮層の裏面に積層された熱可塑性樹脂層と、前記熱可塑性樹脂層の裏面に積層された裏面層の3層のみからなる車両用フロアスペーサ用表皮材であって、
前記裏面層は、目付20~80g/m2の不織布であり、
以下の(A)~(E)のうち、少なくとも1つを満足することを特徴とする車両用フロアスペーサ用表皮材。
(A)前記表皮層が不織布であること
(B)前記表皮層がポリエステル又はポリオレフィン製であること
(C)前記表皮層の目付が50~350g/m2であること
(D)前記熱可塑性樹脂層がフィラーを含むこと
(E)前記熱可塑性樹脂層の単位面積当たりの重量が500~5500g/m2であること」
2 補正の適否
2-1 新規事項について
本件補正は、「表皮層と、前記表皮層の裏面に積層された熱可塑性樹脂層と、前記熱可塑性樹脂層の裏面に積層された裏面層の3層のみからなる車両用フロアスペーサ用表皮材」という発泡性合成樹脂を備えていない車両用フロアスペーサ用表皮材が「発泡性合成樹脂の密度が40~95kg/m3であること」を満足することを含むものに補正したのであって、本件出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないことは明らかである。
したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
なお、本件補正で付加された「(D)前記発泡性合成樹脂の密度が40~95kg/m3であること」は、発泡性合成樹脂を備えていない車両用フロアスペーサ用表皮材が明らかに満足し得ない事項であり、また、他の(A)~(C)、(E)のうち、少なくとも1つを満足すればよいことから、実質的に補正されていないに等しいといえ、仮に本件補正が新規事項でないとして、以下他の補正要件について検討する。
2-2 独立特許要件について
本件補正は、本件補正前の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「熱可塑性樹脂層」について、選択的に満足すればよかった「前記熱可塑性樹脂層がフィラーを含むこと」を必須の事項し、さらに車両用フロアスペーサ用表皮材が(A)~(C)、(E)のうち、少なくとも1つを満足するという限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項3に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平1-207477号公報(平成元年8月21日公開。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した(以下同様。)。
a「1.発明の名称
自動車用フロアカーペットのバッキング樹脂組成物」(1頁左下欄2行~4行)
b「〔産業上の利用分野〕
本発明は、自動車のフロアパネルに敷設されるカーペットのバッキング樹脂組成物に関する。」(1頁左下欄15行~17行)
c「〔従来の技術〕
一般に、自動車室内に敷設するカーペットはポリエステル繊維等の熱可塑性合成繊維よりなるスパン糸にて得た基布に、ナイロン等の熱可塑性合成繊維よりなるスパン糸でループを形成したカーペット材に、自動車走行時の振動或いはエンジン音等の騒音に対する遮音効果を高めるために低密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂よりなるバッキング材が裏打ちされている。
従来、自動車用カーペットのバッキング方法は、低密度ポリエチレンをTダイにより押し出してカーペット裏面に貼り合わせロールにより圧着する方法があった。この場合、低密度ポリエチレンの目付け量は普通200~650g/m2の範囲である。そして、遮音性を改良する目的からバッキング量を増やすことが行われたが、目付け量を増やすと剛性が高くなり過ぎ、組み付け作業に困難を来した。また、低密度ポリエチレンに充填材を混入することも行われたが、混入が困難なためコストが嵩んだ。そこで、上記欠点を改良し、従来の低密度ポリエチレンの変わりにエチレン酢酸ビニル共重合体が使用された。この樹脂は通常充填材として炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク等を混入して使用される。この材料は特にバッキング目付け量を1kg/m2以上とした場合には良好な剛性と遮音性が得られる。しかし、1kg/m2未満のバッキング目付けの場合には、耐熱性が不足し、適度な剛性が得られないと言う欠点を合わせ持っていた。このため、近年では低コストで適度な剛性が得られる樹脂として、エチレン酢酸ビニル共重合体に充填材として炭酸カルシウムが混入された樹脂とポリエチレンとのブレンド樹脂が使用されるようになってきた。
〔発明が解決しようとする問題点〕
上記従来の熱可塑性樹脂の組成では、成形されたフロアカーペット裏面にウレタン注入発泡するとフロアのサイド部或いはトンネル部等の立ち上がり部、即ち屈曲部分のカーペット表面にウレタン原料が染み出し見栄えを損なっていた。前記立ち上がり部は一般部に比べて絞りが深いため、裏打ち層に微小な穴が成形時に明き染み出すと考えられる。この問題点を解決するために、従来は裏打ち層裏面に二次基布として不織布を積層してカーペット表面へのウレタンの染み出しを防止したりまた、裏打ち材に充填されている炭酸カルシウム等の充填材を除いたり或いは、裏打ち層の熱可塑性樹脂の目付け量を増やす方法が考えられたが価格が上昇する、重くなる或いは裏打ち層が厚くなるためクッション性が悪くなる等の欠点が発生した。」(1頁左下欄18行~2頁右上欄7行)
d「〔実 施 例〕
本発明の実施例を以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。フロアカーペットにはナイロンカットのタフテッドカーペット材(パイル目付け量500g/m2)の裏面に下記の3種類の配合の熱可塑性樹脂からなる裏打ち樹脂(いずれも目付け量400g/m2)が裏打ちされたものが使用され、その裏面に二次基布としてポリエチレンテレフタレート不織布(目付け量50g/m2)が積層されている。
裏打ち樹脂の配合
1.ポリエチレン100%
2.ポリエチレン80%
+エチレン酢酸ビニル共重合体10%
+炭酸カルシウム10%(充填材)
3.ポリエチレン80%
+エチレン酢酸ビニル共重合体20%(除充填材)
裏打ち樹脂が上記の配合からなるカーペットを成形し、その裏面全面にウレタン注入発泡し、下記の評価項目により評価した。
評価項目
1.曲げ剛性
長さ200mm、幅25mmの試験片を縦及び横方向からそれぞれ3枚づつ取った。これを一端が45°の傾斜を持つ表面が滑らかな水平台の上に試験片のバッキング層を下にして置き、次に斜面の方向に約5mm/secの速度で滑らせ、試験片の一端が斜面と接した時の他端の移動距離を読む。
評価基準:移動距離140mm~160mmの範囲内が好ましいとする。
2.染み出し性
バッキング済みのカーペット裏面全面にウレタン注入発泡成形し、カーペット表面にウレタンが染み出す程度によって評価する。
評価基準:○・・・染み出さない、△・・・手直しにより良品となる程度の染み出し、×・・・手直し不可能な程多量な染み出し。
3.総合評価
○・・・ウレタンがカーペット表面に染み出さず且つ、曲げ剛性試験による試験片の移動距離が140mm~160mmの範囲内にあるもの。×・・・上記以外のもの。
第1表にこの評価結果を示す。
[図:0001437054000001.jpg]
注)第1表の裏打ち樹脂を及び二次基布の略号は次の通りである。
PE・・・・ポリエチレン
EVA・・・エチレン酢酸ビニル共重合体
CaCO3・炭酸カルシウム
VAC・・・EVA中の酢酸ビニルの含有量
PET・・・ポリエチレンテレフタレート
上記第1表の結果から裏打ち樹脂にはPE80重量%+EVA20重景%の配合の樹脂即ち試料NO2の配合の樹脂からCaCO3の充填材を除いた試料NO3の構成のものが染み出し性及び剛性に優れていることが判明した。」(2頁左下欄15行~3頁左下欄12行)
(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は、フロアカーペットに関するものである((ア)d)。
b フロアカーペットは、ナイロンカットのタフテッドカーペット材(パイル目付け量500g/m2)の裏面に、ポリエチレン80%+エチレン酢酸ビニル共重合体10%+炭酸カルシウム10%(充填材)の配合の熱可塑性樹脂からなる裏打ち樹脂(目付け量400g/m2)が裏打ちされ、その裏面に二次基布としてポリエチレンテレフタレート不織布(目付け量50g/m2)が積層されている((ア)d)。
c フロアカーペットは、その裏面全面にウレタン注入発泡される((ア)d)。
(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ナイロンカットのタフテッドカーペット材(パイル目付け量500g/m2)の裏面に、ポリエチレン80%+エチレン酢酸ビニル共重合体10%+炭酸カルシウム10%(充填材)の配合の熱可塑性樹脂からなる裏打ち樹脂(目付け量400g/m2)が裏打ちされ、その裏面に二次基布としてポリエチレンテレフタレート不織布(目付け量50g/m2)が積層されているフロアカーペットであって、
その裏面全面にウレタン注入発泡されるフロアカーペット。」
(エ)また、上記(ア)から、引用文献1には、次の事項(以下、「引用文献1記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「ポリエステル繊維等の熱可塑性合成繊維よりなるスパン糸にて得た基布に、ナイロン等の熱可塑性合成繊維よりなるスパン糸でループを形成したカーペット材に、自動車走行時の振動或いはエンジン音等の騒音に対する遮音効果を高めるために低密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂よりなるバッキング材が裏打ちされている自動車室内に敷設するカーペット。」
イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった実願平1-90795号(実開平3-32530号)のマイクロフィルム(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
a「この自動車用カーペット材は、一次基布にポリプロピレン、ナイロン、ポリエステルなどの繊維をタフトしたタフトカーペット原反またはポリプロピレン、ナイロン、ポリエステルなどの繊維のウェブをニードルで3次元に結合して形成したニードルパンチカーペット原反をカーペット地として用い、このカーペット地の裏側に2種の熱可塑性樹脂を積層した2層構造を含んだバッキング材が形成されて製造される。」(明細書4頁10行~18行)
(イ)上記記載から、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「一次基布にポリプロピレン、ナイロン、ポリエステルなどの繊維をタフトしたタフトカーペット原反をカーペット地として用い、このカーペット地の裏側に熱可塑性樹脂を含んだバッキング材が形成されて製造される自動車用カーペット材。」
ウ 引用文献3
(ア)同じく原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2000-52836号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、裁断屑再生材を使用した自動車用カーペット裏打ち材組成物並びに自動車用カーペット及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、流動性、加工性、機械的強度に優れ、かつ耐熱性、耐寒性、接着性が良好である、裁断屑再生材を使用した自動車用カーペット裏打ち材組成物並びに自動車用カーペット及びその製造方法に関する。」
b「【0013】4.カーペット及びその製造方法
本発明のカーペットは、タフテッドカーペット、ニードルカーペット等のカーペット基材の裏面に上記の本発明の裏打ち材組成物を裏打ちしたのち、裏打ちしたカーペット基材を通常の工程で加工することにより製造される。」
(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)後者の「ナイロンカットのタフテッドカーペット材(パイル目付け量500g/m2)」は、引用発明のフロアカーペットの表皮に当たるものであるから、前者の「表皮層」に相当する。
(イ)後者の「炭酸カルシウム10%(充填材)」は、前者の「フィラー」に相当し、したがって、後者の「ナイロンカットのタフテッドカーペット材(パイル目付け量500g/m2)の裏面に」「裏打ちされ」る「ポリエチレン80%+エチレン酢酸ビニル共重合体10%+炭酸カルシウム10%(充填材)の配合の熱可塑性樹脂からなる裏打ち樹脂(目付け量400g/m2)」は、前者の「前記表皮層の裏面に積層された熱可塑性樹脂層」であって「フィラーを含」む「前記熱可塑性樹脂層」に相当する。
(ウ)後者の「その裏面に」「積層されている」「二次基布としてポリエチレンテレフタレート不織布(目付け量50g/m2)」は、前者の「前記熱可塑性樹脂層の裏面に積層された裏面層」であって「目付20~80g/m2の不織布であ」る「前記裏面層」に相当する。
(エ)以上の(ア)~(ウ)を踏まえると、後者の「ナイロンカットのタフテッドカーペット材(パイル目付け量500g/m2)の裏面に、ポリエチレン80%+エチレン酢酸ビニル共重合体10%+炭酸カルシウム10%(充填材)の配合の熱可塑性樹脂からなる裏打ち樹脂(目付け量400g/m2)が裏打ちされ、その裏面に二次基布としてポリエチレンテレフタレート不織布(目付け量50g/m2)が積層されている」態様は、前者の「表皮層と、前記表皮層の裏面に積層された熱可塑性樹脂層と、前記熱可塑性樹脂層の裏面に積層された裏面層の3層のみからなる」態様に相当する。
(オ)後者の「フロアカーペット」は、その裏面全面にウレタン注入発泡されるから、注入発泡されるウレタンの表皮材であるといえ、前者の「車両用フロアスペーサ用表皮材」と「フロア用表皮材」という限りにおいて一致する。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「表皮層と、前記表皮層の裏面に積層された熱可塑性樹脂層と、前記熱可塑性樹脂層の裏面に積層された裏面層の3層のみからなるフロア用表皮材であって、
前記熱可塑性樹脂層がフィラーを含み、
前記裏面層は、目付20~80g/m2の不織布であるフロア用表皮材。」
【相違点1】
フロア用表皮材に関し、本件補正発明は、「車両用フロアスペーサ用表皮材」であるのに対し、引用発明は、そのようなものであるのか不明な点。
【相違点2】
本件補正発明は、「以下の(A)~(E)のうち、少なくとも1つを満足する」ものであって、「(A)前記表皮層が不織布であること(B)前記表皮層がポリエステル又はポリオレフィン製であること(C)前記表皮層の目付が50~350g/m2であること(D)前記発泡性合成樹脂の密度が40~95kg/m3であること(E)前記熱可塑性樹脂層の単位面積当たりの重量が500~5500g/m2であること」であるのに対し、引用発明は、そのような条件を満足するか不明な点。
(4)判断
ア 相違点1に係る判断
上記(2)ア(ア)aに記載した引用文献1の発明の名称の記載、同bに記載した産業上の利用分野の記載及び同dに記載した実施例の記載によると、引用文献1において、引用発明は自動車用フロアカーペットの比較例として開示されていることが理解できる。それである以上、引用発明のフロアカーペットも自動車用フロアカーペットであると解するのは妥当である。
また、上記(2)ア(ア)cに記載した引用文献1の従来の技術によると、自動車室内に敷設するカーペットはポリエステル繊維等の熱可塑性合成繊維よりなるスパン糸にて得た基布に、ナイロン等の熱可塑性合成繊維よりなるスパン糸でループを形成したカーペット材に、エチレン酢酸ビニル共重合体に充填材として炭酸カルシウムが混入された樹脂とポリエチレンとのブレンド樹脂よりなるバッキング材が裏打ちされていることが従来の技術であると理解できる。そして、引用発明もナイロンカットのタフテッドカーペット材の裏面にポリエチレンとエチレン酢酸ビニル共重合体と炭酸カルシウムとを配合した熱可塑性樹脂からなる裏打ち樹脂が裏打ちされたフロアカーペットであることから、引用発明は、従来の技術である自動車室内に敷設するカーペットを具体化した例であると解することができる。
その上で、上記(2)ア(ア)cに記載した引用文献1の発明が解決しようとする問題点をみると、引用発明のフロアカーペットの裏面全面に注入発泡されるウレタンは、自動車のフロアパネルであるといえ、以上より、引用発明のフロアカーペットは、自動車のフロアパネルの表皮材であると解することは妥当であり、相違点1は実質的な相違点ではない。
なお、仮に、相違点1が実質的な相違点であるとしても、引用文献1の上記した記載事項より、引用発明を相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
イ 相違点2に係る判断
引用発明の「ナイロンカットのタフテッドカーペット材」とは、いわゆるパイル糸がナイロンであるといえ、基布の材料が明らかでないといえる。
一方で、上記(2)ア(エ)に記載したとおり、引用文献1には、以下の引用文献1記載事項が記載されている。
「ポリエステル繊維等の熱可塑性合成繊維よりなるスパン糸にて得た基布に、ナイロン等の熱可塑性合成繊維よりなるスパン糸でループを形成したカーペット材に、自動車走行時の振動或いはエンジン音等の騒音に対する遮音効果を高めるために低密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂よりなるバッキング材が裏打ちされている自動車室内に敷設するカーペット。」
また、上記(2)イ(イ)に記載したとおり、引用文献2には、以下の引用文献2記載事項が記載されている。
「一次基布にポリプロピレン、ナイロン、ポリエステルなどの繊維をタフトしたタフトカーペット原反をカーペット地として用い、このカーペット地の裏側に熱可塑性樹脂を含んだバッキング材が形成されて製造される自動車用カーペット材。」
そして、引用文献1記載事項及び引用文献2記載事項を参酌して、引用発明のナイロンカットのタフテッドカーペット材の基布をポリエステル製とすること、パイル糸としてナイロンに換えてポリエステルを用いることは、それぞれ当業者が必要に応じて適宜行う公知材料の中からの最適材料の選択であり、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
したがって、引用文献1記載事項及び引用文献2記載事項を参酌して引用発明を本件補正発明の(B)を満足するものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、フロアカーペットのカーペット材として、タフテッドカーペット材の他にニードルカーペットを用いることは、上記引用文献2及び引用文献3に見られるように、周知技術である。
そして、引用発明のナイロンカットのタフテッドカーペット材に換えて不織布であるニードルカーペットを用いることは、当業者が必要に応じて適宜行う均等物による置換であり、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
したがって、周知技術を参酌して引用発明を本件補正発明の(A)を満足するものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。
ウ 効果について
相違点1及び2を勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献1記載事項、引用文献2記載事項及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
エ 審判請求書における審判請求人の主張について
上記審判請求書の、特に(3-5)において、審判請求人は、
「特許法第29条第2項は、特許出願前に当業者が引用発明に基づいて容易に想到できた発明は、特許を受けることができない旨を規定しています。この規定は、文言上、本願を知らない当業者を当然の前提にしています。
さて、特許文献に比較対象として記載されている比較例は、特許文献が開示する技術よりも劣る技術であり、当該特許文献の課題を解決しえないものです。そうである以上、当業者であれば、当該特許文献の実施例を出発点としてさらなる改良を動機づけられることはあるとしても、比較例を出発点としてさらなる改良を動機づけられることはありません。著しく非合理だからです。
したがって、本願を知った上での事後分析をするのであればともかく、本願を知らない当業者が、引用文献1の比較対象である引用発明を出発点としてさらなる改良を動機づけられることはありません。よって、当然に、当業者といえども、相違点に想到して、本願発明の構成に至ることは容易ではありません。」
と主張している。
特許法第29条は、以下のように規定している。
「第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。」
すなわち、例え比較例であっても、上記(2)ア(ウ)で認定した引用発明は、頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明である。また、引用文献1に引用発明よりも優れた点がある他の例が開示されていたとしても、そのことが上記ア及びイで示した判断の阻害要因とはなり得ない。
したがって、上記ア~ウで判断したとおり、本件補正発明は、引用発明、引用文献1記載事項、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上より、審判請求人の主張は、当を得たものではなく、採用できない。
オ まとめ
本件補正発明は、引用発明、引用文献1記載事項、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上により、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に適合しないので、又は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和7年4月17日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和6年6月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項3に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、また、この出願の請求項3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開平1-207477号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2-2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記熱可塑性樹脂層がフィラーを含むこと」に係る事項を必須とせずに、「以下の(A)~(E)のうち、少なくとも1つを満足すること」の内の(D)としたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、上記第2の[理由]2の2-2(3)イの相違点1で相違し、その余の点で一致する。
そして、相違点1については、上記第2の[理由]2の2-2(4)アで判断したとおり、実質的な相違点ではなく、仮に実質的な相違点であるとしても当業者が適宜なし得たことである。
したがって、本願発明は、引用発明である。
又は、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3項又は同条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-005946