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特許拒絶査定不服審判

2024-002178

インビボでの核酸発現のためのシステム及び方法

審判番号
2024-002178
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-007363外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2024年02月07日
審決日
2025年12月02日
公報発行日
2026年05月29日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .14 -Z (A61K) / P18 .537-Z (A61K) / P18 .121-Z (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項特許法29条2項特許法36条6項2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2022- 7363「インビボでの核酸発現のためのシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 4月12日出願公開、特開2022- 58697〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2016年(平成28年)9月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年9月18日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2018-534461号の一部を、2022年1月20日に新たな出願(特願2022-7363号)としたものであって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。 令和5年 2月 6日付け 拒絶理由通知書 令和5年10月 3日付け 拒絶査定 令和6年 2月 7日 審判請求書 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。 「対象において第1の治療用タンパク質及び/または生物学的に活性な核酸分子を発現させる方法であって、 a)第1の組成物を対象に投与し、 前記対象は、疾患または病態の少なくとも1つの症状を有するか、または少なくとも変化する生理学的形質を有し、 前記第1の組成物は第1の量のポリカチオン性構造体を含み、 前記第1の組成物は核酸分子を含んでいないか、実質的に含んでおらず、 b)前記第1の組成物を投与して約300分以内に前記対象に第2の組成物を投与し、 前記第2の組成物は、治療有効量の発現ベクターを含み、 前記発現ベクターはCpG非含有またはCpGが減少されており、 前記発現ベクターは、それぞれ、i)第1の治療用タンパク質及び/またはii)第1の生物学的に活性な核酸分子をコードする第1の核酸配列を含み、 前記第1の量のポリカチオン性構造体と前記治療有効量の発現ベクターとの比が5:1~25:1であり、 前記第1の組成物の投与及び前記第2の組成物の投与の結果として、前記第1の治療用タンパク質及び/または前記生物学的に活性な核酸分子は、前記疾患または病態に関して治療レベルで、または前記生理学的または疾患形質を変化させるのに十分な有効レベルで、対象において発現されることを含む、前記方法。」 第3 原査定の拒絶の理由 令和5年10月3日付けの拒絶査定における本願発明に対する拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。 1.(進歩性)本願発明は、引用文献3に記載された発明、及び引用文献3及び1に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3.(産業上の利用可能性)本願発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.Biochimica et Biophysica Acta, 1998, Vol.1372, pp.141-150 3.The Journal of gene medicine, 2004, Vol.6, pp.85-92 第4 当審の判断 1 特許法第29条第1項柱書き (1)「対象」について 本願発明は、「対象において第1の治療用タンパク質及び/または生物学的に活性な核酸分子を発現させる方法」に係る発明であるところ、この「対象」について、本願明細書をみると、次の記載がある。(下線は当審合議体が付したものである。)。 「【0006】 いくつかの実施形態では、対象(例えばヒトまたは非ヒト哺乳動物)において第1の治療用タンパク質及び/または生物学的に活性な核酸分子を発現させる方法であって、a)第1の組成物を対象に投与(例えば、全身的に)することであって、第1の組成物は、第1の量のポリカチオン性構造体(例えば空のカチオン性リポソーム、空のカチオン性ミセルまたは空のカチオン性エマルジョン)を含み、第1の組成物は核酸分子を含まないか、実質的に含まず(例えば、核酸が組成物中に検出不能またはほとんど検出できない);そしてb)第2の組成物を対象に投与(例えば、全身的に、経脈管的に、等)する(例えば、第1の組成物を投与する約2...10...50...100...200...300...400分以内に開始する)ことであって、第2の組成物は、ある量の発現ベクター(例えば、リポソームまたは任意の他の任意のキャリアと会合していない非ウイルス発現ベクター)を含み、発現ベクターはCpG非含有またはCpGが減少されており、各発現ベクターは、i)第1、第2、第3、第4、第5及び/または第6の治療用または非治療用タンパク質(複数可)、及び/またはii)第1、第2、第3、第4、第5及び/または第6の生物学的に活性な核酸分子(複数可)をコードする核酸配列(複数可)を含む、方法が本明細書において提供される。」 「【0017】 いくつかの実施形態では、第1の核酸配列は、第1または第1及び第2の、または第1、第2及び第3の治療用タンパク質(複数可)をコードする。さらなる実施形態では、第1の核酸配列は、生物学的に活性な核酸分子(複数可)をコードする。他の実施形態では、対象はヒトである。」 これらの記載からみて、本願発明における「対象」には、ヒト、すなわち、人間も含まれることは明らかである。 (2)「第1の治療用タンパク質及び/または生物学的に活性な核酸分子を発現させる方法」について 本願発明に係る「第1の治療用タンパク質及び/または生物学的に活性な核酸分子を発現させる方法」は、その記載自体からみて、「第1の治療用タンパク質」「を発現させる方法」を含むものである。 そして、本願発明には、「前記対象は、疾患または病態の少なくとも1つの症状を有する」ことが特定され、さらに、「前記第1の組成物の投与及び前記第2の組成物の投与の結果として、前記第1の治療用タンパク質及び/または前記生物学的に活性な核酸分子は、前記疾患または病態に関して治療レベルで」「対象において発現されることを含む、前記方法」と特定されていることから、本願発明の「第1の治療用タンパク質」「を発現させる方法」は、「疾患または病態の少なくとも1つの症状を有する」「対象」において、「前記疾患または病態に関して治療レベルで」「治療用タンパク質」を「発現させる方法」であることが特定されており、これは治療方法を意味することに他ならない。 このことは、本願明細書には、「他の実施形態において、このような第1及び第2の組成物は、治療用タンパク質及び/または生物学的に活性な核酸分子が対象において発現されるように(例えば、疾患または病態が治療されるように、または生理学的もしくは疾患形質が変更されるように、少なくとも5日間または少なくとも50日間、治療的レベルで)、対象に連続的に(例えば、全身的に)投与される。」(【0002】)と記載されていることからも支持される。 したがって、本願発明は、人間を治療する方法を包含するものである。 (3)請求人の主張 請求人は、令和6年2月7日提出の審判請求書において、実質的な主張を何らしていない。 (4)小括 以上のとおり、本願発明は、人間を治療する方法を包含するものであるから、特許法第29条第1項柱書きに規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。 2 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について (1)特許法第36条第6項第2号の判断手法について 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、本願発明について、以下に検討する。 (2)判断 本願発明は、「前記第1の量のポリカチオン性構造体と前記治療有効量の発現ベクターとの比が5:1~25:1」であることを発明特定事項とするものである。 当該記載は、「前記第1の量のポリカチオン性構造体」の何の値(例えば、モル、体積、重量等)と「前記治療有効量の発現ベクター」の何の値(例えば、モル、体積、重量等)の比を特定しているのか、特許請求の範囲において特定されていない。 また、本願明細書をみても、当該比について定義付ける記載はない。そして、同じ「比」であっても、比較に用いる物理量がモル量、体積、重量等のいずれであるかによって、当該「比」の値が変動することは本願出願時の技術常識であることを踏まえると、本願発明の「前記第1の量のポリカチオン性構造体と前記治療有効量の発現ベクターとの比」は、比較に用いる物理量によってその範囲が変動するものであるから、本願発明は第三者に不測の不利益を及ぼすほどに明確でない。 ウ 請求人の主張 請求人は、令和6年2月7日提出の審判請求書において、実質的な主張を何らしていない。 (3)小括 以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3 特許法第29条第2項(進歩性)について (1)前提 前記2で説示したとおり、本願発明は明確でないが、仮に、「前記第1の量のポリカチオン性構造体と前記治療有効量の発現ベクターとの比が5:1~25:1」という記載は、本願明細書の【0016】の「他の実施形態では、第1の量のポリカチオン性構造体(例えば、空のカチオン性脂質)対治療有効量の発現ベクターの比は、0.5:1~25:1であり、数nmolのポリカチオン性構造体(例えば、空のカチオン性脂質)対1μgの発現ベクター(例えば、0.5:1...1:1...4:1...8:1...12:1...17:1...21:1...または25:1)である。」との記載からみて、「前記第1の量のポリカチオン性構造体」の「nmol」単位の値と「治療有効量の発現ベクター」の「μg」単位の値の比を意味するものであると解して、以下に進歩性について検討する。 (2)引用文献3の記載事項及び引用文献3に記載された発明 ア 引用文献3の記載事項 原査定の拒絶理由で引用された、本願優先日前に発行された引用文献3(The Journal of gene medicine, 2004, Vol.6, pp.85-92)には、次の事項が記載されている。なお、引用文献3は英文のため、その記載事項は翻訳文で示す(下線は当審合議体が付したものである。以下同様。)。 ・摘記3a(標題) 「合成ベクターを用いたファブリー病マウスにおけるα-ガラクトシダーゼA欠損と糖脂質蓄積の減少の部分的修正」 ・摘記3b(アブストラクト) 「背景 ファブリー病は、リソソーム酵素α-ガラクトシダーゼAの欠損によって引き起こされるX連鎖劣性疾患であり、体のほとんどの組織にスフィンゴ糖脂質グロボトリアオシルセラミド(GL-3)が蓄積する。本研究の目的は、非ウイルスベクターの全身投与によって酵素欠損を是正し、本疾患のトランスジェニックノックアウトマウスモデルの様々な組織におけるGL-3レベルを低下させることができるかどうかを明らかにすることであった。 方法 カチオン性脂質をCpG欠損プラスミドDNAベクターと複合体化し、ファブリー病マウスに静脈内投与した。投与後、様々な時点で種々の組織におけるα-ガラクトシダーゼA及びGL-3レベルを測定した。 結果 複合体投与後最大3ヶ月間、ファブリー病マウスの種々の組織においてα-ガラクトシダーゼAの発現が検出されたが、GL-3レベルの減少は最小限であった。しかし、抗炎症薬デキサメタゾンの使用と反復投与により、α-ガラクトシダーゼAの発現が増加し、腎臓を除く全ての臓器においてGL-3が有意に減少した。さらに、若いファブリー病マウスに複合体を注射すると、心臓、肺、肝臓におけるGL-3の正常な蓄積が部分的に阻害された。 結論 カチオン性脂質-pDNA複合体の全身投与は、ファブリー病マウスモデルにおいて酵素欠損を部分的に是正し、糖脂質蓄積を減少させた。本結果は、非ウイルスベクターを用いた遺伝性疾患モデルにおいて長期的な有効性を示した数少ない例の一つである。しかし、これらのベクターがファブリー病やその他のリソソーム蓄積疾患の治療に有効なアプローチとなるためには、特に腎臓などの重要な臓器における発現の大幅な改善が必要である。」 ・摘記3c(85頁下から5行~86頁左欄26行) 「はじめに 非ウイルス性遺伝子治療ベクターは、心血管疾患やいくつかの癌に対する評価が行われているが、遺伝性疾患の治療におけるこれらのベクターの使用に関する報告ははるかに少ない。合成ベクターからの発現は低く一過性であるため、これまでのところ、遺伝子疾患を効果的に治療する能力は限られていた[1]。理論的には、合成ベクターは中和抗体反応を生じることを懸念することなく繰り返し投与できるため、遺伝子疾患の治療においてウイルスベクターよりも本質的に優れている。最近、長期間にわたって高い発現と持続的な遺伝子導入を可能にする改良プラスミドベクターを開発した[2]。これにより、特定のタンパク質を長期にわたって、そしておそらくは治療効果のあるレベルで産生することが可能となる。本研究では、リソソーム蓄積症(LSD)であるファブリー病のマウスモデルにおいて、これらのベクターの有効性を評価した。 ファブリー病は、リソソーム酵素α-ガラクトシダーゼAの欠損によって引き起こされるX連鎖劣性遺伝疾患である[3]。この酵素は、様々な糖脂質、特にグロボトリアオシルセラミド(GL-3)の末端のα-ガラクトシル残基を切断する。罹患患者は、主に心臓、腎臓、皮膚、脳の血管内皮にGL-3を蓄積する。時間の経過とともに、このGL-3の進行性沈着は、血管疾患、腎不全、心不全、そして早期死亡につながる。α-ガラクトシダーゼA遺伝子を標的として破壊することで、ノックアウトマウスモデルが作製されている[4,5]。これらのマウスは臨床的には正常に見えるが、ファブリー病患者に見られる病態と同様に、加齢とともに様々な臓器のリソソーム内にGL-3が蓄積する。したがって、このマウスモデルを用いて、潜在的な治療法を前臨床的に評価することが可能である。」 ・摘記3d(87頁左欄下から12行~88頁左欄9行) 「結果 複合体の全身送達は、α-ガラクトシダーゼAの持続的な発現をもたらす 以前、免疫刺激性CpGモチーフを大幅に除去したpDNAベクターは、毒性が低下し、全身送達後に持続的な導入遺伝子発現をもたらすことが示された[2]。本研究では、改変サイトメガロウイルス前初期エンハンサー及びプロモーターを用いて、コドン最適化されたヒトα-ガラクトシダーゼAcDNAを含む、高度にCpGを除去されたpDNAベクター、pGZB-sHAGAを構築した。 このpGZB-sHAGAとカチオン性脂質GL-62を用いて、全身送達用に最適化された処方で複合体を調製した。この複合体を、α-ガラクトシダーゼA活性を完全に欠損したトランスジェニックノックアウトマウスであるファブリー病マウスに注射した。これらの研究では、ファブリー病マウスは一時的に免疫抑制状態に置かれた。これは、pDNAベクターから発現したα-ガラクトシダーゼAに対する抗体の形成を阻害するために必要であった。 高齢(12ヶ月齢以上)のファブリー病マウスにGL-62:pGZB-sHAGAを注射すると、典型的には、血清中のサイトカインの一過性上昇とリンパ球及び血小板の減少を含む急性炎症反応が観察された。この反応は以前に報告されたもの[2]と同様であり、注射はその他の点では良好な忍容性を示した。注射後1日目には、α-ガラクトシダーゼAの発現レベルは肺で最も高くなった(図1)。肝臓、心臓、血漿では、はるかに低いながらも測定可能なα-ガラクトシダーゼAレベルが検出されたが、脾臓や腎臓では検出されなかった。肺におけるpGZB-sHAGAの発現は、1日目の3ngから63日目には肺組織100mgあたり72ngへと、時間の経過とともに著しく増加した。この発現プロファイルは、いくつかの臓器で観察された初期の発現低下と回復(図1)を含め、他のトランスジーンを含むpGZBベースのベクターを使用した以前の結果[2]と一致している。この一時的な低下と時間の経過に伴う発現の増加の根拠は現在のところ不明である。 63日目のα-ガラクトシダーゼAのレベルは、正常なマウスの肺で見られる範囲内に収まり(図1の網掛け部分)、肝臓、心臓、血漿における発現も時間の経過と共に増加したものの、これらの臓器での発現は正常レベルをはるかに下回った。これらの結果は、複合体を1回静脈内注射することで、いくつかの組織で低く持続的な発現が得られ、肺では生理学的な量のα-ガラクトシダーゼAが得られることを示している。」 イ 引用文献3に記載された発明 引用文献3には、「α-ガラクトシダーゼA活性を完全に欠損したファブリー病モデルマウス」に、「コドン最適化されたヒトα-ガラクトシダーゼAcDNAをコードする、高度にCpG除去されたpDNAベクター」と「カチオン性脂質GL-62」の「複合体」を投与した結果、「α-ガラクトシダーゼAの発現」が確認され、「酵素欠損を部分的に是正し、糖脂質蓄積を減少させた」ことが記載されている(摘記3b、d)。 そして、引用文献3において、コドン最適化されたヒトα-ガラクトシダーゼAcDNAをコードする、高度にCpG除去されたpDNAベクターとカチオン性脂質GL-62の複合体をマウスに注射していることから、当該複合体は、適切な賦形剤等とともに「組成物」として投与したことは自明である。 そうすると、引用文献3には、次の発明が記載されていると認められる。 「α-ガラクトシダーゼA活性を完全に欠損したファブリー病モデルマウスにおいて、α-ガラクトシダーゼAを発現させる方法であって、 コドン最適化されたヒトα-ガラクトシダーゼAcDNAをコードする、高度にCpG除去されたプラスミドDNAベクターとカチオン性脂質GL-62の複合体を含む組成物をファブリー病モデルマウスに投与し、 当該投与の結果として、ファブリー病マウスモデルにおいて酵素欠損を部分的に是正し、糖脂質蓄積を減少させるものである、方法。」(以下「引用発明3」という。) (3)引用文献1の記載事項 原査定の拒絶理由で引用された、本願優先日前に発行された引用文献1(Biochimica et Biophysica Acta, 1998, Vol.1372, pp.141-150)には、次の事項が記載されている。なお、引用文献1は英文のため、その記載事項は翻訳文で示す。 ・摘記1a(標題) 「遊離リポソームは静脈内投与により生体内でDNA/脂質複合体のトランスフェクション活性を高める」 ・摘記1b(アブストラクト) 「カチオン性脂質ベースキャリアのトランスフェクション効率を制御する因子は、依然として多くが不明である。以前の報告[F.Linら、Gene Ther., 4 (1997) 517-523]では、DOTMA(N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド)とTween80からなる脂質製剤を用いた場合、肺へのトランスフェクション効率がDOTMAとDNAの比率に正比例することを示した。 本研究では、カチオン性脂質とDNAの比率に依存した高いトランスフェクション活性のメカニズムを調べた。具体的には、静脈内投与によるin vivoでのDNA/脂質複合体のトランスフェクション効率に影響を与える遊離カチオン性リポソームの役割を検討した。 得られたデータは、カチオン性脂質とDNAの比率が高いほど肺におけるDNA/脂質複合体のトランスフェクション活性が高くなるのは、DNA/脂質混合物中に存在する遊離リポソームの機能によることを示している。遊離リポソームはDNAの保持時間を延ばし、複数の臓器での導入遺伝子の分解を抑制することで、DNA/脂質複合体のトランスフェクション活性を高める。 DOTMAリポソームに加えて、DOTAP(1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパンクロリド)及びDC-Chol(3β-[N-(N′、N′-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール)で構成されるリポソームも、DNA/DOTMA複合体によってトランスフェクションされた動物の遺伝子発現レベルを高める。 これらの結果は、DNA/脂質複合体に遊離リポソームを含めることが、in vivoで最適なトランスフェクション活性を達成する上で重要である可能性を示唆している。」 ・摘記1c(141頁左欄下から5行~右欄3行、142頁左欄14行~34行) 「1.はじめに カチオン性脂質をベースとしたデリバリーシステムは、遺伝子治療への応用が研究されてきた[1-5]。これらのシステムにおける主要な関心事は、遺伝子送達効率と、その送達効率を決定する基礎メカニズムである。前者はしばしば脂質キャリアの有用性を制限し、後者は将来の開発の可能性を決定づける。」 「DNAの製剤化に使用されるカチオン性脂質の量が増えるにつれて、肺、脾臓、心臓、肝臓、腎臓での遺伝子発現レベルが上昇することが実証された[18]。遺伝子発現の最大レベルをもたらすカチオン性脂質とDNAの比率は、36:1(カチオン性脂質:DNA=nmol:μg)以上であった。このような高い比率におけるカチオン性脂質とDNAの化学量論の理論計算は、DNA/脂質混合物中に遊離脂質粒子が存在する可能性を示唆している。また、高いカチオン性脂質とDNAの比率で観察される高いトランスフェクション効率は、遊離脂質粒子に起因することも示唆されている。本研究は、この仮説を検証するために設計された。遊離カチオン性リポソームが生体内における遺伝子発現レベルの決定に重要な役割を果たしていることを示す直接的な証拠を提供する。これらの結果は、脂質ベースの生体内トランスフェクションに関与するメカニズムの理解に役立ち、脂質ベースの送達システムの遺伝子導入効率をさらに向上させる新たな戦略の開発にも役立つ。」 ・摘記1d(143頁右欄22行~144頁左欄13行) 「2.6.サザンブロット分析 PBS又はDOTMAリポソーム(750nmol/マウス、100μl)を予め投与した動物に、DOTMA/Tween80(6:2、重量比)と複合体を形成したプラスミドDNA25μgを、カチオン性脂質とDNAの比が6:1(nmol:μg)となるように投与した。PBS(初回投与)及び遊離プラスミドDNA25 μg(2回目投与)を投与した動物を対照群とした。DNA投与30分後に動物を屠殺し、肺、脾臓、心臓、肝臓(肝臓全体の約1/5)、腎臓などの臓器を採取し、直ちにドライアイスで凍結した。2mlの溶解緩衝液(10mM Tris-HCl、0.1M EDTA、0.5% SDS、20 μg/ml RNase A、pH8.0)を各凍結組織に加え、組織を20秒間ホモジナイズし、37℃で1時間インキュベートした。プロテイナーゼKを最終濃度150μg/mlで加え、組織ホモジネートをさらに5時間60℃でインキュベートした。フェノール、フェノール:クロロホルム(1:1)、クロロホルムで抽出した後、DNAを0.1倍容量の3M酢酸ナトリウムと2倍容量のエタノールで沈殿させ、70%エタノールで洗浄し、TE緩衝液に再懸濁した。各サンプルから10マイクログラムのDNAを10単位のHindIIIで1時間、37℃で消化し、1.0%アガロースゲルで電気泳動した。DNAバンドをGeneScreen Plusメンブレン(DuPont NEN)に一晩転写し、メンブレンをプレハイブリダイゼーションバッファー(50%脱イオンホルムアミド、250mMリン酸ナトリウム、250mM NaCl、1mM EDTA、100μg/ml超音波処理サケ精子DNA、7% SDS)に42℃で2時間浸漬した。ハイブリダイゼーションのために、メンブレンをpCMV-Lucプラスミドのルシフェラーゼ遺伝子全体を認識する標識プローブと共に42℃で24時間インキュベートした。ハイブリダイズしたバンドは、オートラジオグラフィーによりX線フィルム上で可視化した。」 ・摘記1e(144頁左欄14行~右欄24行) 「3.結果 3.1.リポソームを介したトランスフェクションにおける遊離リポソームの影響 遊離リポソームがDNA/脂質複合体のトランスフェクション活性に及ぼす影響を試験するため、以前に使用したDOTMA/Tween80(6:2、重量比)配合とpCMV-Lucプラスミドを用いて、より低いカチオン性脂質/DNA比でDNA/脂質複合体を調製した。DNA/脂質複合体投与の1分前に、異なる量の遊離DOTMAリポソームをマウスに静脈内投与した。複合体の調製には、カチオン脂質とDNAの比率が6:1(nmol:μg)に選択された。これは、計算上の電荷比が2:1(+/-)となり、in vitroでのトランスフェクションに最適となるためである[6-12]。DNA/脂質複合体を投与してから8時間後、動物を屠殺し、肺、脾臓、心臓、肝臓、腎臓を含む様々な臓器で遺伝子発現のレベルを調べた。図1は、脾臓を除き、調べたすべての臓器で、事前に注射した遊離DOTMAリポソームの量が増加するにつれてルシフェラーゼ活性のレベルが上昇したことを示している。たとえば、450nmolの遊離DOTMAリポソームを事前に注射した動物のルシフェラーゼ活性のレベルは、コントロール動物の約100倍であった。450nmolを超える投与量では遺伝子発現レベルがそれ以上増加しなかったことから、実験条件下では450nmolで飽和状態になることが示唆された。」 ・摘記1f(144頁左欄図1) 「 [図:0001434564000001.jpg] 図1. 事前注射した遊離リポソームの遺伝子発現レベルに対する用量依存的影響。25μg pCMV-LucプラスミドDNAを含むDNA/脂質複合体は、異なる量のDOTMAリポソームを動物に投与した1分後に注射された。DNA/脂質複合体の注射8時間後に、各組織におけるルシフェラーゼ活性を測定した。結果は3~6匹のマウスから得られた値の平均±SEMを示す。(□)肺、(ジグザグの斜線で塗りつぶされた四角)脾臓、(白い斜点で塗りつぶされた実線)心臓、(灰色)肝臓、(■)腎臓。」 (当審注:図中、横軸の訳は「事前注射したDOTMAリポソーム(ナノモル)」、縦軸の訳は「ルシフェラーゼ活性(RLU/mg)」である。) (4)対比 本願発明と引用発明3を対比する。 ・本願明細書の【0006】には、「対象(例えばヒトまたは非ヒト哺乳動物)」と記載されていることを踏まえると、引用発明3の「α-ガラクトシダーゼA活性を完全に欠損したファブリー病モデルマウス」は、本願発明の「疾患または病態の少なくとも1つの症状を有するか、または少なくとも変化する生理学的形質を有」する「対象」に相当し、引用発明3の「α-ガラクトシダーゼA」は、本願発明の「第1の治療用タンパク質」に相当する。 そうすると、引用発明3の「α-ガラクトシダーゼA活性を完全に欠損したファブリー病モデルマウスにおいて、α-ガラクトシダーゼAを発現させる方法」は、本願発明の「対象において第1の治療用タンパク質及び/または生物学的に活性な核酸分子を発現させる方法」であって、「前記対象は、疾患または病態の少なくとも1つの症状を有するか、または少なくとも変化する生理学的形質を有」する方法に相当する。 ・引用発明3の「ヒトα-ガラクトシダーゼAcDNA」及び「高度にCpG除去されたプラスミドDNAベクター」は、本願発明の「第1の治療用タンパク質」「をコードする第1の核酸配列」及び「CpG非含有またはCpGが減少されて」いる「発現ベクター」に相当する。 また、引用発明3の「プラスミドDNAベクターとカチオン性脂質GL-62の複合体を含む組成物」は、「α-ガラクトシダーゼA活性を完全に欠損したファブリー病モデルマウス」への「投与の結果として、ファブリー病マウスモデルにおいて酵素欠損を部分的に是正し、糖脂質蓄積を減少させる」ものであるから、引用発明3における上記組成物は、「治療有効量」の「プラスミドDNAベクター」を含むものといえる。 そして、引用発明3において、「投与の結果として、ファブリー病マウスモデルにおいて酵素欠損を部分的に是正し、糖脂質蓄積を減少させるものである」ことは、本願発明の「投与の結果として、前記第1の治療用タンパク質」は、「前記疾患または病態に関して治療レベルで」「対象において発現される」ことに相当する。 以上の検討を踏まえると、本願発明と引用発明3は、 「対象において第1の治療用タンパク質及び/または生物学的に活性な核酸分子を発現させる方法であって、 前記対象は、疾患または病態の少なくとも1つの症状を有するか、または少なくとも変化する生理学的形質を有し、 前記対象に第2の組成物を投与し、 前記第2の組成物は、治療有効量の発現ベクターを含み、 前記発現ベクターはCpG非含有またはCpGが減少されており、 前記発現ベクターは、それぞれ、i)第1の治療用タンパク質及び/またはii)第1の生物学的に活性な核酸分子をコードする第1の核酸配列を含み、 前記第2の組成物の投与の結果として、前記第1の治療用タンパク質及び/または前記生物学的に活性な核酸分子は、前記疾患または病態に関して治療レベルで、または前記生理学的または疾患形質を変化させるのに十分な有効レベルで、対象において発現されることを含む、前記方法。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> 本願発明は、第2の組成物を投与する前に、「a)第1の組成物を対象に投与」するものであって、「前記第1の組成物は第1の量のポリカチオン性構造体を含み、 前記第1の組成物は核酸分子を含んでいないか、実質的に含んでおらず」、 「b)前記第1の組成物を投与して約300分以内に」第2の組成物を投与し、 「前記第1の量のポリカチオン性構造体と前記治療有効量の発現ベクターとの比が5:1~25:1」であり、「前記第1の組成物の投与及び前記第2の組成物の投与の結果として、前記第1の治療用タンパク質及び/または前記生物学的に活性な核酸分子は、前記疾患または病態に関して治療レベルで、または前記生理学的または疾患形質を変化させるのに十分な有効レベルで、対象において発現される」ことが特定されているのに対し、引用発明3はそのような特定がない点 (5)判断 ア 相違点について 上記相違点について検討する。 引用文献3の「はじめに」の項には、遺伝性疾患の治療において、非ウイルス性遺伝子治療ベクターは発現が低く一過性であるため、遺伝子疾患を効果的に治療する能力は限られていた旨が記載されているように(摘記3c)、遺伝子治療において、治療用タンパク質の発現量を高めることは周知の課題であったところ、引用文献3には、引用発明3の「コドン最適化されたヒトα-ガラクトシダーゼAcDNAをコードする、高度にCpG除去されたpDNAベクターとカチオン性脂質GL-62の複合体」がファブリー病やその他のリソソーム蓄積疾患の治療に有効なアプローチとなるためには、重要な臓器における発現の大幅な改善が必要であることが記載されているから(摘記3bの「結論」の項)、引用発明3において、「α-ガラクトシダーゼA」である「治療用タンパク質」の発現量をさらに高めることを当業者は強く動機付けられるものである。 そして、引用文献1には、遺伝子治療への応用を見据えた脂質ベースの送達システムの遺伝子導入効率をさらに向上させる新たな戦略の開発のための研究において(摘記1c)、ルシフェラーゼをコードする発現ベクターであるpCMV-Lucプラスミドを含むDNA及びカチオン性脂質の複合体の投与1分前に遊離DOTMAリポソームを投与するとルシフェラーゼの発現が増加したことが記載されている(摘記1a、1b、1e、1f)。 ここで、本願明細書の【0042】には、「特定の実施形態では、エマルジョンは、例えば、DOTAP、DPTAP、DOTMA、またはDDABなどのカチオン性脂質を含む。」、及び「特定の実施形態において、ポリカチオン性構造体は、空のカチオン性リポソーム、ミセル、またはエマルジョンを含む。」と記載されていることからみて、引用文献1の「遊離DOTMAリポソーム」は、「ポリカチオン性構造体」である。そして、引用文献1の「遊離DOTMAリポソーム」は、核酸分子を含まないものであるから、本願発明の「第1の組成物」であって、「前記第1の組成物は第1の量のポリカチオン性構造体を含み、 前記第1の組成物は核酸分子を含んでいないか、実質的に含んで」いないものに相当するものである。 さらに、引用文献1の摘記1fの図1には、異なる量の「遊離DOTMAリポソーム」を投与した1分後に、「25μg」の「pCMV-Lucプラスミドを含むDNA」を含むカチオン性脂質の複合体を投与したときに、横軸の「DNA」が左から順に「150ナノモル」、「450ナノモル」及び「750ナノモル」の場合に、肺でのルシフェラーゼの発現量が多いことが読み取れる。そして、それらの「前記第1の量のポリカチオン性構造体(nmol)と前記治療有効量の発現ベクター(μg)との比」は、それぞれ、「150:25」、「450:25」及び「750:25」、すなわち、「6:1」、「18:1」及び「30:1」である。 そうすると、引用発明3において、ヒトα-ガラクトシダーゼAの発現をさらに増加させるために、遺伝子治療への応用を見据えた脂質ベースの送達システムの遺伝子導入効率をさらに向上させることを目的とした引用文献1に記載された技術を適用して、「コドン最適化されたヒトα-ガラクトシダーゼAcDNAをコードする、高度にCpG除去されたpDNAベクターとカチオン性脂質GL-62の複合体」の投与1分前に、ポリカチオン性構造体を含み、核酸分子を含まない「遊離DOTMAリポソーム」を投与するようにし、その比を「18:1」、「30:1」及び「6:1」の近辺の範囲である「5:1~25:1」と設定して、相違点に係る構成に至ることは、当業者が容易に想到し得ることである。 イ 効果について 本願明細書の実施例9には、「DOTAP SUV脂質対プラスミドDNA(ナノモル脂質:mgDNA)比が26:1未満のものを連続注射したマウスのhG-CSFタンパク質及びALTレベルは、毒性を防止しながら顕著に高いhG-CSFタンパク質レベルを産生した」と記載されている(【0113】)。しかしながら、引用文献1には、ルシフェラーゼをコードする発現ベクターであるpCMV-Lucプラスミドを含むDNA及びカチオン性脂質の複合体の投与1分前に、カチオン性構造体を含み、核酸分子を含まない遊離DOTMAリポソームを投与するとルシフェラーゼの発現が増加したことが記載されているのであるから、引用発明3において、引用文献1に記載された事項を適用して、本願発明の構成としたものが、hG-CSFタンパク質を高いレベルで産生するという効果を奏することは、当業者が十分に予測し得たことである。 そして、実施例9の結果を示す図24をみても、例えば、本願発明において特定する「5:1~25:1」の比の範囲内となる「900/40」(比は22.5)(図24の左から2番目)であっても、タンパク質の発現量が低いものも存在する。 そうすると、前記2で説示したとおり、本願発明における「前記第1の量のポリカチオン性構造体と前記治療有効量の発現ベクターとの比が5:1~25:1」の範囲が明確ではないことを措くとしても、本願発明において特定する「5:1~25:1」の範囲に臨界的意義も見いだせないから、本願発明が、引用発明3及び引用文献1の記載から当業者が予測困難な格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 ウ 請求人の主張について 請求人は、令和6年2月7日提出の審判請求書において、実質的な主張を何らしていない。 (6)小括 以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献3に記載された発明、引用文献3及び1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから特許を受けることができず、また、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから特許を受けることができず、さらに、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-002178

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