特許拒絶査定不服審判
2019-003172
口腔用組成物
- 審判番号
- 2019-003172
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-193699外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年03月06日
- 審決日
- 2019年12月16日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .575-Z (A61K) / P18 .113-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-193699「口腔用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年9月24日出願公開、特開2015-166334〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月24日(優先権主張 平成26年2月13日)を出願日とする特許出願であって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 5月31日付け :拒絶理由通知
平成30年 8月 6日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年11月29日付け :拒絶査定
平成31年 3月 6日 :審判請求書及び手続補正書の提出
平成31年 4月24日 :手続補正書(方式)の提出
令和 1年 5月24日付け :前置報告
第2 平成31年3月6日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年3月6日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)補正後
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(なお、下線部は本件補正による変更箇所である。)。
「【請求項1】
アズキ、ダイズ、またはインゲンマメに由来する7Sグロブリンを含有するバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物。
【請求項2】
前記7Sグロブリンの分子量が、50kDa、70kDa、又は75kDaである請求項1に記載のバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物。」
(2)補正前
本件補正前の、平成30年8月6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
7Sグロブリンを含有するバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物。
【請求項2】
前記7Sグロブリンの分子量が、50kDa、70kDa、又は75kDaである請求項1に記載のバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物。
【請求項3】
前記7Sグロブリンが、アズキ、ダイズ、またはインゲンマメの抽出物である請求項1または2に記載のバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物。」
2 本件補正の適否
本件補正のうち、請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「7Sグロブリン」を、本件補正後の請求項1において、「アズキ、ダイズ、またはインゲンマメに由来する7Sグロブリン」と具体的に限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(1)の【請求項1】に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項等
ア 原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された特開2012-67018号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(摘記1a)
「【請求項1】
CSPによりコントロールされるStreptococcus mutansのクオラムセンシングを制御する物質を配合することを特徴とするバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物。
【請求項2】
クオラムセンシングを制御する物質が、豆類の抽出物であることを特徴とする請求項1に記載のバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物。
【請求項3】
豆類抽出物が小豆、ササゲ、白花豆、紫花豆、黒インゲン豆、キントキマメから選ばれる少なくとも1種類以上の豆類の抽出物であることを特徴とする請求項1または2に記載のバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物。
・・・」(【特許請求の範囲】)
(摘記1b)
「【0010】
本発明者らは鋭意研究を進めた結果、クオラムセンシングを制御する組成物による虫歯バイオフィルム形成の阻害が可能であることを見出し、もって本発明を完成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の口腔用組成物により、う蝕原因菌のバイオフィルム形成が阻害される。これらの口腔用組成物は、飲食品、医薬品, 歯磨剤などに添加して、安全に虫歯の予防治療のために使用することができる。」(【0010】~【0011】)
(摘記1c)
「【0015】
すなわち、本発明は、豆類抽出物を含む口腔用組成物によりクオラムセンシングに関連する虫歯バイオフィルム形成を阻害することを特徴とする。」(【0015】)
(摘記1d)
「【0021】
抽出条件としては、高温、室温、低温のいずれかの温度で抽出することが可能であるが、50~90℃で1~5時間程度抽出するのが好ましい。得られた抽出物は、濾過し、抽出溶媒を留去した後、減圧下において濃縮または凍結乾燥してもよい。また、これらの抽出物を有機溶剤、カラムクロマトグラフィ等により分画精製したものも使用することができる。」(【0021】)
(摘記1e)
「【0024】
本発明は従来より食用とされているものの抽出物を使用しているため、口腔内や体内に摂取してもその安全性については問題ない。また、チューインガム等の食品や歯磨剤等に含有させて手軽に摂取することが可能であり、遺伝子の発現調製のような複雑な手順を必要としないため、日常的に継続してバイオフィルムのコントロールをすることが可能となる。」(【0024】)
(摘記1f)
「【0026】
[実施例1]
1. 抽出物調製
植物サンプルとしてササゲ、小豆(大納言)、小豆(襟裳小豆)、紫花豆、白花豆、クロインゲンマメ、キントキマメの7種を用いた。
各植物サンプルは市販品を購入し、20gを粉砕機で細かく粉砕後、水200mlで70℃・2時間抽出した。得られた抽出液は、3000rpm・10分間遠心分離し、上清を濾過後、凍結乾燥したものを各植物熱水抽出物として試験に供した。」(【0026】)
(摘記1g)
「【0028】
2-2. バイオフィルム定量
CPS誘導群とCSP非誘導群のそれぞれについて、培養後の上清を取り除き、PBSで2回各ウェルの洗浄を行った。洗浄後、各ウェルに0.25%サフラニン溶液を添加し15分間静置後余剰サフラニン溶液を取り除き、PBSで2回各ウェルの洗浄を行った。洗浄後各ウェルにエタノールを添加し、30分間震蕩することで染色させたサフラニンを溶出させ、マイクロプレートリーダーを用いて492nmの吸光度を測定し、バイオフィルム形成量を定量した。
その結果を図1及び図2に示す。
図1は、植物抽出物を加えて培養を行った群(sample群)とコントロール群(control群)におけるバイオフィルム形成量を、CSP誘導群とCSP非誘導群のそれぞれについて示している。また、図2は、control群のバイオフィルム形成量を100としたときのsample群のバイオフィルム形成量の割合を、CSP誘導群とCSP非誘導群のそれぞれについて示している。
図1より、control群ではCSP誘導群においてCSP非誘導群よりもバイオフィルム形成量が増加していた。この増加分が、CSPをオートインデューサーとするクオラムセンシングによるバイオフィルムの増加分だと考えられた。
また、sample群では、CSP誘導群(黒棒)のバイオフィルム形成量はcontrol群よりも少なくなっていたが、CSP非誘導群(白棒)のバイオフィルム形成量はcontrol群から変化していなかった。このことは図2からも明らかであり、CSP誘導群(黒棒)ではsample群のバイオフィルム形成量はcontrol群よりも少なかった(100%未満)が、CSP非誘導群(白棒)ではsample群のバイオフィルム形成量はcontrol群と変わらなかった(約100%)。このことから、sample群に添加した植物抽出物によってCSPをオートインデューサーとするS. mutansのクオラムセンシングが制御され、バイオフィルムの形成量が増加しなかったと考えられた。
また、図1において、CSP誘導群に大納言小豆、襟裳小豆、紫花豆、キントキマメの熱水抽出物を加えて培養を行った場合(sample群のCSP+)、CSPも植物抽出物も加えない群(control群のCSP-)よりもバイオフィルム形成量が減少していた。」(【0028】)
イ 上記アの記載によれば、引用文献1には、ササゲ、小豆(大納言)、小豆(襟裳小豆)、紫花豆、白花豆、クロインゲンマメ、キントキマメの抽出物を含有するStreptococcus mutansのバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物が開示されている (摘記1a,1c)。そして、ササゲ、小豆(大納言)、小豆(襟裳小豆)、紫花豆、白花豆、クロインゲンマメ、キントキマメのそれぞれの抽出物を用いて、バイオフィルム形成抑制の効果があることが示されているから (摘記1f,1g)、引用文献1には、小豆(大納言)、小豆(襟裳小豆)又はクロインゲンマメの抽出物を用いて、バイオフィルム形成抑制の効果があること、が開示されているといえる。また、当該抽出物として、小豆(大納言)、小豆(襟裳小豆)又はクロインゲンマメを粉砕し、水で70℃・2時間抽出して得られた抽出液を、3000rpm・10分間遠心分離し、上清を濾過後、凍結乾燥して各植物熱水抽出物が調製される旨が記載されている (摘記1f)。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「小豆(大納言)、小豆(襟裳小豆)又はクロインゲンマメを粉砕し、水で70℃・2時間抽出し、得られた抽出液を3000rpm・10分間遠心分離し、上清を濾過後、凍結乾燥した各植物熱水抽出物を含有する、Streptococcus mutansのバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物。」
(3)本件補正発明と引用発明との対比・判断
最初に、本件補正発明において、「アズキ、ダイズ、またはインゲンマメに由来する7Sグロブリン」における「由来する」という事項の意味について検討する。
本願明細書には、「由来」という記載は全く存在しない。そこで、「由来」の一般的な意味を検討すると、「由来」とは、「物事の由よって来る所。ことの起り。来歴。由緒。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]を意味するから、本件補正発明においては、「7Sグロブリン」が「アズキ、ダイズ、またはインゲンマメ」に含まれていたものであることを意味すると認められる。
次に、本件補正発明における「7Sグロブリンを含有する」「口腔用組成物」という事項の意味について検討する。
「含有」とは、一般的に、「含みもつこと。成分として含んでいること。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]を意味するから、列挙されていない付加的な要素が含まれることを排除しない記載であり、本件補正発明における「7Sグロブリンを含有する口腔用組成物」には、「7Sグロブリンを含み、7Sグロブリン以外の成分を含む、口腔用組成物」が包含されているものと認められる。
続いて、引用文献1に記載の各植物熱水抽出物に7Sグロブリンが含まれているか否かについて検討する。
引用文献1には、各植物抽出物の調製方法として、「各植物サンプルは市販品を購入し、20gを粉砕機で細かく粉砕後、水200mlで70℃・2時間抽出した。得られた抽出液は、3000rpm・10分間遠心分離し、上清を濾過後、凍結乾燥したものを各植物熱水抽出物として試験に供した」(【0026】)と記載されている。
一方、本願明細書には、アズキ7Sグロブリンの調製方法又はその工程の一部として、「粉砕機にて細かく粉砕した乾燥アズキ1gに対して蒸留水100mlを加え、70℃で2時間抽出を行い、遠心および吸引濾過により上清を回収した。回収した上清を凍結乾燥により乾燥させ、アズキ熱水抽出物を調製した。」(【0029】)という方法、及び、「特許文献4を参考に、アズキから7Sグロブリンを分画した。・・・または、粉砕機にて細かく粉砕したアズキに対して10倍量の蒸留水を加え、70℃にて1時間攪拌した。遠心および吸引濾過にて上清を回収した後、・・・凍結乾燥にて回収した。」(【0035】)という方法が記載されており、いずれもアズキ抽出物を調製する工程を含んでいる。
引用文献1に記載の上記調製方法における抽出条件である「抽出溶媒が水」「70℃」「2時間」は、本願明細書に記載の上記調製方法における抽出条件である、「抽出溶媒が水」「70℃」「2時間」又は「抽出溶媒が水」「70℃」「1時間」に対応するものであって、両者は同一であるか、引用文献1に記載の条件の方が時間が長い点が異なるのみである。また、「Phytochemistry,1992年,Vol.31 No.3,pp.731-735」(拒絶査定において付記された文献Bである。)に、成熟大豆を50~60℃の水に浸すと、成熟大豆から大量の塩基性7Sグロブリンが水中に放出される旨が記載されていること(Abstract1~2行、INTRODUCTION1~6行を参照。)、さらに、7Sグロブリンが水に可溶性であることが技術常識であること(例えば、本願明細書【0011】において先行技術文献の【特許文献4】として記載されている特開2007-110901号公報の【0009】、【0014】等を参照。)を考慮すると、引用文献1に記載の上記調製方法で得られた上清は、7Sグロブリンが含まれているものと推認される。
そうすると、引用発明における「各植物熱水抽出物」には、「7Sグロブリン」が含まれていると認められる。
また、引用発明の「小豆(大納言)、小豆(襟裳小豆)又はクロインゲンマメ」は、本件補正発明の「アズキ、ダイズ、またはインゲンマメ」に包含されるものである。
してみると、引用発明の「小豆(大納言)、小豆(襟裳小豆)又はクロインゲンマメを粉砕し、水で70℃・2時間抽出し、得られた抽出液を3000rpm・10分間遠心分離し、上清を濾過後、凍結乾燥した各植物熱水抽出物を含有する」「口腔用組成物」は、本件補正発明の「アズキ、ダイズ、またはインゲンマメに由来する7Sグロブリンを含有する」「口腔用組成物」に相当する。
また、引用発明の「Streptococcus mutansのバイオフィルム形成抑制のため」は、本件補正発明の「バイオフィルム形成抑制のため」に包含されるものである。
してみれば、本件補正発明の発明特定事項と、引用発明の発明特定事項との間に差異はない。
したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明である。
(4)審判請求人の主張について
審判請求人は、「審査官殿は、補正前の本願請求項1を引用する請求項3は、“アズキ、ダイズ、またはインゲンマメの抽出物を含有するバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物”に係る発明となる、と指摘されているが、本願発明は、アズキ、ダイズ、またはインゲンマメに由来する7Sグロブリンを実際に確認している点に留意すべきである。」(審判請求書3頁14~17行)、「以上の点から、本願発明は、単に“アズキ、ダイズ、またはインゲンマメの抽出物を含有するバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物”に係る発明ではなく、「アズキ、ダイズ、またはインゲンマメに由来する7Sグロブリンを含有するバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物」に係る発明である。」(審判請求書3頁35~38行)と主張している。
しかしながら、審判請求人は、「アズキ、ダイズ、またはインゲンマメに由来する7Sグロブリン」における「由来する」がどのような意味を有するかについて何ら説明をしていないし、明細書中の根拠も示しておらず、分画ないし精製した7Sグロブリンを用いることであるとの主張もしていない。また、審判請求人は、引用文献1に記載の抽出物に7Sグロブリンが含まれないことも、何ら主張も立証もしていない。
そして、引用発明1における口腔用組成物が、アズキ、ダイズ、またはインゲンマメに由来する7Sグロブリンを含有することは、上記(3)において説示したとおりである。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。
3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、本件補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年3月6日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成30年8月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載した次のとおりのものである。
「7Sグロブリンを含有するバイオフィルム形成抑制のための口腔用組成物。」
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし3に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。
3 引用文献の記載事項等
原査定の拒絶理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、前記第2[理由]2(2)で認定したとおりである。
4 対比・判断
前記第2[理由]2で認定したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するから、本件補正前の請求項1に係る発明である本願発明は、本件補正発明を包含するものである。
そうすると、本願発明と比較して、「7Sグロブリン」が「アズキ、ダイズ、またはインゲンマメに由来する」ものに限定された本件補正発明が、前記第2[理由]に説示したとおり、引用発明との間に発明特定事項に差異がないのであるから、それを包含する本願発明も、引用発明との間に、発明特定事項の差異はない。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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