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特許拒絶査定不服審判

2022-020015

皮下投与される抗IL-6受容体抗体

審判番号
2022-020015
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-199558
請求日
2022年12月09日
審決日
2024年10月02日
公報発行日
2025年03月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ジェネンテック, インコーポレイテッド
  • 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
  • 【請求人】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
  • 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
  • 【請求人】中外製薬株式会社
  • 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
審判長/審判官
  • 審判長 吉田 佳代子
  • 審判官 田村 直寛
  • 審判官 松波 由美子
分類
P18 .113-Z (A61K) / P18 .121-Z (A61K) / P18 .572-Z (A61K) / P18 .575-Z (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第44条第1項、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-199558「皮下投与される抗IL-6受容体抗体」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 4月 1日出願公開、特開2021- 50215〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 1.分割出願の経緯 本願は、2011年(平成23年)11月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年10月3日 米国、2010年11月8日 米国)を国際出願日とする特願2013-537900号を最先の出願とし、その一部を特許法第44条第1項の規定に基づく新たな特許出願(分割出願)として、以下のとおり分割出願を重ねた、いわゆる4世代の分割出願である。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。 最先の出願:特願2013-537900号(平成23年11月7日) 第1世代 :特願2015-12894号(平成27年1月27日) 第2世代 :特願2016-234970号(平成28年12月2日) 第3世代 :特願2019-28052号(平成31年2月20日) 本願 :特願2020-199558号(令和2年12月1日) 2.本願手続の経緯 本願の主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年12月18日 :翻訳文提出 令和2年12月18日 :手続補正書の提出 令和3年12月 3日付け :拒絶理由通知 令和4年 6月14日 :意見書、手続補正書の提出 令和4年 7月20日 :刊行物提出 令和4年 7月26日付け :令和4年6月14日の手続補正についての補正の却下の決定 令和4年 7月26日付け :拒絶査定 令和4年12月 9日 :審判請求書及び手続補正書の提出 令和5年 2月16日 :手続補正書(方式)の提出 令和5年 3月30日 :刊行物提出 令和5年 4月17日付け :前置報告 令和5年 8月10日 :上申書の提出 第2 令和4年12月9日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和4年12月9日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 令和4年6月14日付けの手続補正は、令和4年7月26日付けの補正の却下の決定により却下されていることから、令和4年12月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、令和2年12月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲における、 「【請求項1】 トシリズマブを含む、患者における関節リウマチを治療するための医薬であって、トシリズマブは毎週又は2週ごとに1用量あたり162mgの固定用量として皮下投与される、医薬。 【請求項2】 関節リウマチを治療する1または複数の追加の薬物をさらに含み、該追加の薬物は非生物学的DMARD、NSAID及びコルチコステロイドからなる群より選ばれる、請求項1に記載の医薬。 【請求項3】 抗IL-6R抗体を含む、関節リウマチ患者における構造的関節破壊の進行を抑制するための医薬であって、 該患者に固定用量162mgの抗IL-6R抗体が2週ごとに皮下投与され、第24週及び第48週に構造的関節破壊が抑制されていることが判明する、医薬。」 を、補正後の 「【請求項1】 トシリズマブを含む、患者における関節リウマチ(RA)を治療するための医薬であって、トシリズマブは毎週又は2週ごとに1用量あたり162mgの単回固定用量として皮下投与デバイスを用いて送達され、前記デバイス中のトシリズマブの濃度は、180mg/mLであり、前記デバイスは、0.9mLのトシリズマブ製剤を患者に送達するプレフィルドシリンジまたは自動注射器である、医薬。 【請求項2】 関節リウマチを治療する1または複数の追加の薬物と組み合わせて投与され、該追加の薬物は非生物学的DMARD、NSAID及びコルチコステロイドからなる群より選ばれる、請求項1に記載の医薬。 【請求項3】 抗IL-6R抗体を含む、関節リウマチ患者における構造的関節破壊の進行を抑制するための医薬であって、 該抗IL-6R抗体はトシリズマブであり、該患者に単回固定用量162mgのトシリズマブが2週ごとに皮下投与され、トシリズマブは、皮下投与デバイスを用いて送達され、前記デバイス中のトシリズマブの濃度は、180mg/mLであり、前記デバイスは、0.9mLのトシリズマブ製剤を患者に送達するプレフィルドシリンジまたは自動注射器であり、前記皮下投与により第24週又は第48週に構造的関節破壊が抑制されていることが判明する、医薬。」 (以下、「本件補正発明」という。下線は、補正箇所を示す。) に補正するものである。 2.補正の適否 (1)補正の目的 ア 請求項1に対する補正について 本件補正における請求項1に対する補正のうち、補正前の「関節リウマチ」を補正後の「関節リウマチ(RA)」とする補正事項(1-1)は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。 また、補正前の「162mgの固定用量」との記載を、補正後の「162mgの単回固定用量」とする補正事項(1-2)は、「固定用量」を「単回」で皮下投与されるものに限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 一方、補正前の「皮下投与される」を補正後の「皮下投与デバイスを用いて送達され、前記デバイス中のトシリズマブの濃度は、180mg/mLであり、前記デバイスは、0.9mLのトシリズマブ製剤を患者に送達するプレフィルドシリンジまたは自動注射器である」とする補正事項(1-3)は、補正前の特許請求の範囲には記載のない「皮下投与デバイス」に関する技術的事項を新たに追加して特定するものであるから、本件補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものに該当しない。したがって、当該補正事項(1-3)は特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また、当該補正事項は、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれにも該当しない。 イ 請求項2に対する補正 本件補正における請求項2に対する補正は、補正前の「追加の薬物をさらに含み」を補正後の「追加の薬物と組み合わせて投与され」に補正するものである。しかしながら、「追加の薬物と組み合わせ」るには、「請求項1に記載の医薬」に含まれて同時に皮下投与されるという、補正前の態様の他に、「請求項1に記載の医薬」とは別の医薬として、別の投与経路で投与される態様をも包含されるものであるから、当該補正は補正前の請求項2を拡張するものに該当する。 したがって、当該補正は特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また、当該補正事項は、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれにも該当しない。 ウ 請求項3に対する補正 本件補正における請求項3に対する補正のうち、「抗IL-6R抗体はトシリズマブであ」ることを特定する補正事項(3-1)は、「抗IL-6R抗体」の種類を限定するものであり、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、補正前の「固定用量162mg」を補正後の「単回固定用量162mg」とする補正事項(3-2)は、「固定用量」を「単回」で皮下投与されるものに限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 一方、補正前の「皮下投与され」を、補正後の「皮下投与デバイスを用いて送達され、前記デバイス中のトシリズマブの濃度は、180mg/mLであり、前記デバイスは、0.9mLのトシリズマブ製剤を患者に送達するプレフィルドシリンジまたは自動注射器であり」とする補正事項(3-3)は、補正前の特許請求の範囲には記載のない「皮下投与デバイス」に関する技術的事項を新たに追加して特定するものであるから、本件補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものに該当しない。 また、補正前の「第24週及び第48週に構造的関節破壊が抑制されていることが判明する」を、補正後の「第24週又は第48週に構造的関節破壊が抑制されていることが判明する」とする補正事項(3-4)は、補正前の請求項3における構造的関節破壊が「第24週及び第48週」に抑制されていることが判明する態様に加えて、「第24週」に抑制され、「第48週」には抑制されていないことが判明する態様、及び、「第24週」には抑制されず、「第48週」に抑制されていることが判明する態様が新たに追加されるものであるから、補正前の請求項3を拡張するものである。 したがって、前記補正事項(3-3)及び(3-4)は特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また、当該補正事項は、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれにも該当しない。 エ 小括 以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項各号に規定されたいずれにも該当しない目的でなされた補正事項を含むものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の規定に違反し、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 (2)独立特許要件 上述のとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項各号に規定するいずれの目的にも該当しない補正事項を含むものであるが、当該補正事項について、仮に特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものと判断した場合に、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下で検討する。 ア 本件補正発明 本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を再掲すると次のとおりであり、以下、これを「本件補正発明1」という。 「【請求項1】 トシリズマブを含む、患者における関節リウマチ(RA)を治療するための医薬であって、トシリズマブは毎週又は2週ごとに1用量あたり162mgの単回固定用量として皮下投与デバイスを用いて送達され、前記デバイス中のトシリズマブの濃度は、180mg/mLであり、前記デバイスは、0.9mLのトシリズマブ製剤を患者に送達するプレフィルドシリンジまたは自動注射器である、医薬。」 イ 引用文献等の記載 (ア) 引用文献1 原審の拒絶理由で引用され、本願優先日前に発行されたOhta S. et al.,Arthritis & Rheumatism,2010年10月,Vol.62,Abstr. 1115(引用文献1という。)は、「トシリズマブ皮下投与の薬物動態学的及びバイオマーカー反応による最適投与量予測-関節リウマチ患者を対象とした安全性、薬物動態学的及び臨床効果を評価する第I/II相試験」と題する学術文献であって、以下の記載がある(英文のため当審による日本語訳で記載する。下線は当審合議体が付した。また、「・・・」は摘記の省略を示す。以下、他の引用文献についても同様である。)。 「背景:インターロイキン-6(IL-6)は、関節リウマチなどの免疫炎症性疾患において病的な役割を果たしている。トシリズマブはヒト化モノクローナル抗体であり、可溶性及び膜性IL-6レセプターと結合することによりIL-6のシグナル伝達を阻害する。トシリズマブによるIL-6阻害療法はRA(合議体註:RAは関節リウマチの略語である)、JIA(合議体註:JIAは若年性特発性関節炎の略語である)、キャッスルマン病に有効であることが示されている。これまでのデータは1時間注入によるトシリズマブから得られている。使い易さに関連して、今回、関節リウマチ患者を対象に、トシリズマブの新規な皮下注製剤を用いた安全性、薬物動態、バイオマーカー反応性、臨床効果について検討した。 目的:トシリズマブ皮下注製剤の安全性、薬物動態及び有効性を評価する。 方法:本試験はオープンラベル、多施設共同、用量漸増、単回投与(Step1)と反復投与(3回投与:Step2)の併用試験であり、3つの治療群のうち2つの治療群については6ヵ月間の延長投与(Step3)を行い、最後の治療群については6ヵ月間の反復投与試験を行い、その後3回の反復投与を行う。コホート1、2、3にはそれぞれ8例、12例、12例が登録された。コホート1ではトシリズマブ81mgQ2W投与、コホート2では162mgQ2W投与、コホート3では162mgQW投与が行われた。総治療期間はコホート1と2で33週間、コホート3で27週間である。 結果:処置に関連した重篤な副作用は認められず、重篤な注射部位反応も認められなかった。初回投与後のCmax及びAUCは、81mg投与群で4.9μg/mL及び444μg/hr/mL、162mg投与群で10.9μg/mL及び2300μg/hr/mLであった。 CRPは、3つの用量群とも、単回投与後1週間以内に低下した。しかし、81mgQ2W投与群では2週目、3週目、5週目、7週目、9週目からCRPは注射直前にベースラインに戻った。第9週以降、投与量を81mg QWに変更したところ、平均CRPは緩やかに減少した。162mgQ2W投与群では、CRPは第3週終了時にベースラインに戻った。反復投与(Step2,3)により、平均CRPはULNを徐々に下回り、本試験の期間中維持された。162mgQW投与群では、CRPは第1週終了時にULNを下回り、その後もULNを維持した。 162mgQ2W群では12例中8例(66%)の血清トシリズマブレベルが2週目の1μg/mL以上を維持し、これらの患者ではCRPは完全に正常化した。CRPの正常化は、IL-6Rと結合可能なトシリズマブ濃度がIL-6シグナルを抑制するのに十分であることを示していた。 9週目のACR20/50/70反応は81mgQ2Wで12.5%、0%、0%、162mgQ2Wで75.0%、16.7%、16.7%、25週目のACR20/50/70反応は81mgQ2Wで37.5%、37.5%、37.5%、162mgQ2Wで83.3%、83.3%、58.3%、162mgQWで91.7%、83.3%、66.7%であった。本試験終了時のCDAIは、81mg/QWで11.21(ベースライン時18.19)、162mg/Q2Wで3.76(ベースライン時25.55)、162mg/QWで2.03(ベースライン時27.13)であった。 結論:トシリズマブ皮下注射は、162mg QWまで忍容性が良好であり、162mg Q2W及びQWのいずれにおいても良好な臨床効果を示した。」 (イ) 引用文献7 原審の拒絶理由で引用され、本願優先日前に発行された国際公開第2009/084659号(以下「引用文献7」という。)には、以下の記載がある。 (摘記7A) (請求の範囲) 「[1]. アルギニン及びメチオニンを含有することを特徴とする、安定な抗体含有溶液製剤。 [6]. 抗体の濃度が120mg/ml以上である、請求項1~3のいずれかに記載の溶液製剤。 [7]. 抗体が抗インターロイキン-6レセプター抗体である、請求項1~6のいずれかに記載の溶液製剤。 [17]. 皮下投与される、請求項1~13のいずれかに記載の溶液製剤。」 (摘記7B) [0002]段落 「近年、種々の抗体製剤が開発され実用に供されているが、多くの抗体製剤は静脈注射用製剤として用いられている。一方、医療現場のニーズにより、抗体含有製剤を自己注射可能な皮下注射用製剤として開発する要望が高くなっている。」 (摘記7C) [0003]段落 「皮下注射用の抗体含有製剤を設計するにあたっては、1回あたりの抗体投与量が大量となる一方で(100~200mg-程度)、皮下注射では一般的に注射液量の制限があることから、投与液中の抗体の高濃度化が必要となる。そこで、凍乾前より少ない容量の水を用いて凍結乾燥製剤を再溶解することにより高濃度溶液製剤を調製する、いわゆる凍乾濃縮技術を利用した高濃度製剤が使用されることが多い。しかし、再溶解の手間が要らない使い勝手のよい溶液製剤への需要も大きい。また、凍結乾燥製剤の製造において、糖などの凍結保護剤の添加により製剤の粘度が増大することは、皮下注射用の製剤としては好ましくないが、溶液製剤であれば、この問題を回避することができると思われる。」 (摘記7D) [0007]段落 「本発明の目的は、長期保存時の二量体生成や脱アミド化が抑制された、安定な、皮下投与に適した高濃度抗体含有製剤を提供することである。」 (摘記7E) [0013]段落 「本発明において、抗体含有溶液製剤とは、活性成分として抗体を含み、ヒト等の動物に投与できるように調製された溶液製剤を言い、好ましくは製造過程に凍結乾燥工程を含まないで製造された溶液製剤を言う。」 (摘記7F) [0014]段落 「本発明の抗体含有溶液製剤は、高濃度の抗体を含有する溶液製剤であり、抗体濃度が50mg/mL以上であるものが好ましく、さらには100mg/mL以上であるものが好ましく、120mg/mL以上であるものがさらに好ましく、150mg/mLがさらに好ましい。特に、今まで120mg/mL以上、好ましくは150mg/mL以上の抗体含有溶液製剤が実用化された例はなく、本発明の処方により初めてこのような高濃度の抗体含有溶液製剤の実用化が可能となった。」 (摘記7G) [0029]段落 「再構成ヒト化抗体としては、ヒト化抗インターロイキン6(IL-6)レセプター抗体(hPM-1あるいはMRA)(国際特許出願公開番号WO92-19759を参照)、・・・などが本発明で使用する好ましい抗体である。本発明で使用するヒト化抗体として特に好ましいのは、ヒト化抗IL-6レセプター抗体である。」 (摘記7H) [0042]段落 「本発明の別の態様として、本発明の製剤は好ましくは以下の成分: A)抗IL-6レセプター抗体 B)アルギニンおよび/またはメチオニン、および任意の追加成分としてさらに別のアミノ酸(例えばトリプトファン) C)緩衝剤、及び D)界面活性剤 から実質的に構成される。」 (摘記7I) [0053]段落 「本発明の抗体含有溶液製剤は通常非経口投与経路で、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与されるが、経口投与も可能である。皮下注射用としては、1回あたりの抗体投与量が大量となる一方で(100~200mg-程度)、注射液量の制限があるため、本発明の製剤は皮下注射用として特に適している。」 (摘記7J)[0061]-[0064]段落 「[実施例] 抗体試料 抗IL-6レセプターヒト化抗体は国際特許出願公開番号WO92/19759号公報の実施例10に記載されたヒトエロンゲーションファクターIαプロモーターを利用し、特開平8-99902号公報の参考例2に記載された方法に準じて作成したヒト化抗体である。なお、実施例の表中ではMRAと記載することもある。 実施例1 アルギニンとメチオニンとの組合せによる安定化効果 抗IL-6レセプターヒト化抗体を含む溶液製剤について、アルギニンとメチオニンの組合せが製剤の安定化に及ぼす影響を評価した。 【0063】 本検討では、アルギニンとメチオニンの組合せ効果を評価するために、試料No.A1~A9の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の通りである。 [表1-1] [図:0001419589000001.jpg] 」 (ウ) 引用文献8 原審の拒絶理由で引用され、本願優先日前に発行されたARTHRITIS & RHEUMATISM, 2006年, Vol.54, No.9, pp.2817-2829, DOI 10.1002/art.22033(以下「引用文献8」という。)は、「メトトレキサートが無効であったヨーロッパの関節リウマチ患者を対象とした、インターロイキン-6受容体拮抗薬トシリズマブの二重盲検ランダム化比較臨床試験」と題する学術論文であって、以下の記載がある。 (摘記8A) 第2817頁左欄第1段落 「目的.関節リウマチ(RA)治療において、ヒト化抗インターロイキン-6(IL-6)受容体抗体であるトシリズマブ(旧名MRA)の単独及びメトトレキサート(MTX)との併用による反復点滴の安全性と有効性を確立すること。」 (エ) 参考文献11 当審において新たに周知技術を示す参考文献として引用する、本願優先日前に発行された特表2009-542334号公報(以下「参考文献11」という。)には、以下の記載がある。 (摘記11A) 【特許請求の範囲】【請求項1】 「【請求項1】物質を使用者に皮下注射するための自動注射装置であり、 開口した第1の端部と第2の端部とを有する収容部、 収容部に移動可能に配置された注射器であって、物質を保持するための円筒部と、流体が通るように円筒部と連通されて、物質を注射器から射出するための中空針と、円筒部を密閉し、物質を選択的に加圧して、中空針を通して物質を押し出すための栓とを含む注射器、 針が第1の端部から突出するように、収容部の第1の端部方向に注射器をまず移動させ、続いて栓を加圧するための注射器作動部であって、栓を選択的に加圧するための加圧器と、圧縮可能な膨張した中央部と、注射器作動部の第2の端部と圧縮可能な膨張した中央部との間のフランジとを含む注射器作動部、及び 収容部の第1の開口端部方向に注射器作動部を付勢するための第1の付勢機構であって、注射器作動部のフランジと収容部の第2の端部との間に配置された第1の付勢機構を含む、自動注射装置。」 (摘記11B) 【0002】-【0006】段落 「【背景技術】 【0002】 最も一般的な医薬品投与経路の一つは、静脈内、皮下、筋肉内注射などの注射である。医薬品を含む注射器が注射に用いられ、注射は、訓練された医療従事者によって典型的には実施される。患者が自己注射に備えて注射器の使用の訓練を受ける場合もある。さらに、ある種の医薬品は、患者の使用のために充填済み注射器として処方され、患者が注射器を充填する必要がない。しかし、一部の患者は、特に針恐怖症の患者の場合、自己注射を嫌がることがある。 【0003】 自動注射装置は、医薬品を送達する注射器の代替品を提供する。例えば、自動注射装置は、例えば食事性アレルギーによって引き起こされる、重度のアレルギー反応の作用を中和するエピネフリンの投与など、緊急状態下の医薬品送達に使用される。心臓発作中の抗不整脈薬及び選択的血栓溶解剤の投与に用いられる自動注射装置も記述されている(例えば、米国特許第3,910,260号、同4,004,577号、同4,689,042号、同4,755,169号及び同4,795,433号参照)。種々のタイプの自動注射装置が、例えば、米国特許第3,941,130号、同4,261,358号、同5,085,642号、同5,092,843号、同5,102,393号、同5,267,963号、同6,149,626号、同6,270,479号及び同6,371,939号にも記載されている。 【0004】 一般に、以前の自動注射装置は、操作時に、注射器の針を前進させ、注射器作動前に保護収容部から突出させて、針を通して1回分の液体を射出する。注射器内の充填液を加圧する前に針が露出するように患者の皮膚に注射器を近づけると、実際に注射する前に液体が針からしたたり落ちるのを防止するのに役立つ。 【0005】 かかる以前の自動注射装置は、幾つかの欠点を有する。例えば、以前の装置は、患者が自分に注射するのに必要である針が露出しており、大部分の患者、特に「針恐怖症」である患者に懸念や不安を生ずる。以前の装置は、さらに、患者にとって使用が困難であり、混入なしに維持することが困難であり、及び/又は正確な投与量の医薬品を投与することが困難である。また、リウマチ様関節炎などの慢性自己免疫疾患の患者、並びに高齢者及び身体障害者は、既存の注射装置を用いて生物学的療法を自己管理するのに必要である器用さを欠くことがある。したがって、患者が安全に使用することができ、生物学的療法投薬計画を支持する患者を育成する自己治療送達装置が必要とされる。 【0006】 TNFα阻害剤は、リウマチ様関節炎、乾せん性関節炎、クローン病などの自己免疫異常の治療に有効である。抗体、抗体融合タンパク質などの生物学的薬剤を含めたかかる阻害剤は、典型的には注射によって送達される。例えば、TNFα阻害剤アダリムマブ(HUMIRA(登録商標)、Abbott Laboratories、Lake County、Illinois)は、患者による自己投与用の充填済み注射器として市販されており、したがって自動注射装置及び方法の改善された重要な使用候補である。」 (摘記11C) 【0016】段落 「【0016】 一実施形態においては、自動注射装置は、注射器の円筒部に充填された1回分の物質(例えば、TNF阻害剤)を更に含む。」 (摘記11D) 【0183】段落 「【0183】 本明細書では「用量」という用語は、好ましくは本発明の自動注射装置を用いて、使用者に投与されるTNFα阻害剤などの物質の量を指す。一実施形態においては、用量は、TNFα阻害剤アダリムマブの、例えば、20mg、40mg、80mg及び160mgを含めた有効量を含む。」 (摘記11E) 【0253】段落 「【0253】 一実施形態においては、本発明のキット又は製品は、HUMIRA(登録商標)が皮下投与用にアダリムマブの防腐剤無添加無菌溶液として供給されることを示す情報を、例えばラベル上に、含み得る。ラベルは、製剤が、単回使用の1mL充填済みガラス注射器として、又は単回使用充填済みペン(HUMIRA(登録商標)ペン)として、供給されることを更に記載することができる。本発明のラベルは、単回使用1mL充填済みガラス注射器がペン内に封入されていることを表示することができる。・・・。」 (摘記11F) 【0379】段落 「【0379】 本発明の自動注射装置(例えば、自動注射器ペン)を用いて使用者に投与することができる生物学的薬剤の他の例としては、・・・インターロイキン6(IL-6)受容体に対するActemra(トシリズマブ)ヒト化MAb・・・が挙げられるが、これらだけに限定されない。」 (オ) 参考文献12 当審において新たに周知技術を示す参考文献として引用する、本願優先日前に発行されたBr J Clin Pharmacol, May 2010、 Vol. 69、 No.6、 pp.645-655(以下「参考文献12」という。)は「健常男性を対象としたCAT-354の皮下および静脈内投与後の薬物動態に関する非盲検単回投与バイオアベイラビリティ試験」と題する学術論文であって、以下の記載がある。 (摘記12A)第645頁右欄第1段落 「目的 抗IL-13ヒトモノクローナルIgG4抗体であるCAT-354の皮下(s.c.)及び静脈内(i.v.)投与後のバイオアベイラビリティ及び薬物動態を評価すること。」 (摘記12B)第646頁左欄第4段落~右欄第1段落 「・・・しかし、現在までのすべてのヒト試験では、CAT-354を30分間かけて点滴静注した。CAT-354は、軽度から中等度の喘息患者を対象とした別の第1相試験において、良好な生物学的利用能、試験された用量範囲にわたる直線的な薬物動態、及びi.v.投与後の許容可能な安全性プロファイルと忍容性を示した[16]。より簡便なs.c.投与の注射プロトコールは、患者に使いやすさの利点を提供する可能性がある。 健康な男性を対象としたこの単回投与試験の主な目的は、CAT-354 を 2 種類の s.c. 投与量(150 mg 及び 300 mg)で s.c. 及び i.v. 経路から単回投与した場合のバイオアベイラビリティを、150 mg の i.v. 単回投与後のバイオアベイラビリティと比較評価することであった。追加の目的は、CAT-354 の薬物動態の他の測定値を比較すること、及びこれらの被験者におけるCAT-354 の単回 i.v. 及び s.c. 投与の忍容性、安全性及び免疫原性プロファイルを評価することであった。」 (摘記12C)第646頁右欄第7段落~第647頁左欄第2段落 「被験者の適格性が確認され、14日間のスクリーニング段階を終了した後、2回目の来院時に被験者を3つの投与群のいずれかに無作為に割り付けた:150mgのCAT-354をi.v.投与(30分間の点滴を1回)、150mgのCAT-354をs.c.投与(大腿部に注射を1回)、または300mgのCAT-354をs.c.投与(片方の大腿部の前面に150mgの注射を1回行い、直後に反対側の大腿部の前面に150mgの2回目の注射を行う)。・・・ CAT-354は、酢酸緩衝液(pH5.5)中、公称濃度150mg ml-1で製剤化された。2mlの透明ガラスバイアルに無菌の不透明溶液として入っており、各バイアルは公称容量1mlであった。」 (摘記12D)第653頁左欄第3段落 「CAT-354で示された免疫原性の欠如とともに、この試験で認められた注射部位反応や注入反応がなかったことが特筆される。繰り返しになるが、モノクローナル抗体を皮下投与する場合、注射部位反応はできるだけ少ないことが理想である。」 (カ) 参考文献13 当審において新たに周知技術を示す参考文献として引用する、本願優先日前に発行されたGASTROENTEROLOGY, 2005, Vol.129, No.3, pp.807-818(以下「参考文献13」という。)は、「クローン病治療薬セルトリズマブペゴル(CDP870)の無作為化プラセボ対照試験」と題する学術論文であって、以下の記載がある。 (摘記13A)第807頁左欄1~4行 「背景と目的:クローン病におけるセルトリズマブペゴル(抗腫瘍壊死因子のポリエチレングリコール化Fab’フラグメント、CDP870)の有効性と安全性を評価する。」 (摘記13B)第807頁右欄第3段落~第808頁左欄第1段落 「セルトリズマブ・ペゴル(CDP870)は、ヒト化抗ヒトTNFモノクローナル抗体のFab’フラグメントをポリエチレングリコール化した皮下投与用薬剤である。本剤の皮下投与は、静脈内投与と比較して、コスト及び利便性に優れている。セルトリズマブは、マウスモノクローナル抗体HTNF40由来の短い超可変相補性決定領域を、実質的にヒトのIg Fab’ 断片(IgGγ1κ)に移植することにより構築された。・・・関節リウマチ患者を対象とした第II相試験において、セルトリズマブは臨床的に有効であり、忍容性も良好であることが示されている21,22。我々は、中等度から重度のクローン病患者を対象とした第II相無作為化二重盲検プラセボ対照用量反応試験において、セルトリズマブの皮下投与の有効性と安全性を評価した。」 (摘記13C)第807頁右欄第2段落 「・・・セルトリズマブ100mg、200mg、400mgまたはプラセボを皮下投与した。セルトリズマブは、公称濃度200mg/mLの無色~淡黄色の溶液として、50mmol/L酢酸ナトリウム緩衝液及び125mmol/L塩化ナトリウム溶液で供給された。希釈及びプラセボ注射には生理食塩水が使用された。各患者は、側腹壁または大腿外上部の別々の注射部位に2回の皮下注射(各1mL)を受けた。」 (摘記13D)第814頁左欄第2段落~右欄第1段落 「注射部位AEを経験した患者数(%)は、プラセボ、100mg、200mg、400mgセルトリズマブ投与群でそれぞれ2(2.7%)、5(6.8%)、4(5.6%)、2(2.7%)であった。注射部位反応はすべて軽度または中等度に分類され、試験中止に至ったものはなかった。・・・セルトリズマブ及びプラセボの皮下投与は全般的に忍容性が高く、大半の患者(78.1%)が試験薬の3回の注射をすべて受けた。」 (キ) 参考文献14 当審において新たに周知技術を示す参考文献として引用する、本願優先日前に発行された「ゾレアR皮下注用150mg」(合議体註:原文ではRは、○の中にR)の添付文書(以下「参考文献14」という。)には、以下の記載がある。 なお、参考文献14に発行日の記載はないものの、医薬品は添付文書が添付された状態で販売されるものであり、下記(摘記14A)の記載から、少なくとも本願優先日前の2009年3月には当該文献は発行されていたものと認める。 (摘記14A)(1頁右上) 「 [図:0001419589000002.jpg] 」 (摘記14B)第3頁右欄第6段落 「14.2.4 1回につき1.2mL(150mg)を超えて投与する場合には、1箇所あたり1.2mLを超えないように部位を分けて投与すること。」 (摘記14C)第5頁右欄第3段落~左欄第1段落 「17.1.6 国際共同第III相試験 既存治療で効果不十分な12歳以上の特発性の慢性蕁麻疹 患者(ヒスタミンH1受容体拮抗薬で効果不十分な患者) を対象としたプラセボ対照二重盲検比較試験において、 218例(日本人105例)に本剤をヒスタミンH1受容体拮抗 薬に上乗せ投与した。 プラセボ又は本剤150mg注)又は300mgを4週間隔で3回皮下 投与した。12週後の週間そう痒スコア※のベースラインか らの変化量、週間膨疹スコア※※のベースラインからの変 化量及びUAS7※※※が0(以下、UAS7=0)となった患者の 割合を次表に示す。[7.7、15.1.6参照] (注)本剤の承認された用法及び用量は1回300mgである。)」 ウ 引用文献1に記載された発明 上記イ(ア)の摘記事項によれば、引用文献1には、「インターロイキン-6(IL-6)は、関節リウマチなどの免疫炎症性疾患において病的な役割を果たしている」ことから、「ヒト化モノクローナル抗体であり、可溶性および膜性IL-6レセプターと結合することによりIL-6のシグナル伝達を阻害する」「トシリズマブによるIL-6阻害療法」は「RA」、すなわち関節リウマチ「に有効である」こと、及び「関節リウマチ患者を対象に、トシリズマブ皮下注製剤の安全性、薬物動態、バイオマーカー反応性、臨床効果について検討」すべく、「162mgQ2W投与」又は「162mgQW投与」を行ったところ、「重篤な副作用は認められず、注射部位反応も認められなかった」うえ、「トシリズマブ皮下注射は、162mg QWまで忍容性が良好であり、162mg Q2W及びQWのいずれにおいても良好な臨床効果を示した」ことが、具体的な実験データの裏付けをもって記載されている。ここで、「Q2W」及び「QW」は「2週ごと」及び「毎週」と同義である(本願明細書【0184】を参照)。また、本件補正発明1における「固定用量」について、本願明細書を参照すると、「患者の体重又は体表面積(BSA)に関わらず投与される、すなわちmg/kgやmg/m2用量で投与されない抗IL-6抗体などの薬物の用量を指す。」(【0071】)と説明されているところ、引用文献1には「コホート2では162mgQ2W投与、コホート3では162mgQW投与が行われた」と記載され、すべての対象に対して「162mg」という単一用量のトシリズマブを投与していることから、引用文献1に記載される「トシリズマブ」は「162mg」の「固定用量」で投与されたものといえる。 そうすると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」いう。)が記載されているものと認める。 「トシリズマブを含む、患者における関節リウマチを治療するための皮下注射製剤であって、トシリズマブは毎週又は2週ごとに1用量あたり162mgの固定用量で皮下投与される、皮下注射製剤。」 エ 本件補正発明1と引用発明1との対比 引用発明1の「皮下注射製剤」が本件補正発明1の「医薬」に包含されるものであることは明らかである。 また、「皮下注射」に、「シリンジ」又は「注射器」といった「皮下投与デバイス」が用いられることは技術常識であるから、引用発明1における「皮下投与される」は、本件補正発明1における「皮下投与デバイスによって送達され、」「前記デバイスは、」「シリンジまたは注射器である」に相当する。 そうすると、両者は、 「トシリズマブを含む、患者における関節リウマチ(RA)を治療するための医薬であって、トシリズマブは毎週又は2週ごとに1用量あたり162mgの固定用量として皮下投与デバイスを用いて送達され、前記デバイスは、シリンジまたは注射器である、医薬。」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 固定用量について、本件補正発明1は、「単回」で、「濃度180mg/mL、0.9mL」のトシリズマブ製剤を投与することが特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定がされていない点。 <相違点2> 皮下投与デバイスについて、本件補正発明1は、「プレフィルドシリンジまたは自動注射器」であることが特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定がされていない点。 オ 判断 (ア) 相違点1について 引用文献1には、トシリズマブについて、「使い易さに関連して」「162mg」の固定用量で「新規な皮下注製剤」(前記(2)イ(ア)の背景欄)にすることが記載されていることから、引用発明1は、使い易いトシリズマブの皮下投与製剤を提供することを課題として有するものと認められる。 これに対し、引用文献7には、「近年、種々の抗体製剤が開発され実用に供されているが、多くの抗体製剤は静脈注射用製剤として用いられている」「一方」で、「医療現場のニーズにより、抗体含有製剤を自己注射可能な皮下注射用製剤として開発する要望が高くなっている」(前記(摘記7B))ことを背景とし、「皮下注射用の抗体含有製剤を設計するにあたっては、1回あたりの抗体投与量が大量となる一方で(100~200mg程度)、皮下注射では一般的に注射液量の制限があることから、投与液中の抗体の高濃度化が必要となる」(前記(摘記7C))との課題認識のもと、「使い勝手のよい」「安定な、皮下投与に適した高濃度抗体含有製剤を提供する」(前記(摘記7C)、(摘記7D))ために、「アルギニン及びメチオニンを含有することを特徴とする、安定な抗体含有溶液製剤」(前記(摘記7A))が記載され、当該抗体含有溶液製剤が、「抗体の濃度が120mg/ml以上」で、「抗体が抗インターロイキン-6レセプター抗体」であってよく、当該「製剤は皮下注射用として特に適している」ものであることが記載されている(前記(摘記7A)、(摘記7F)~(摘記7I))。そして、実施例において、「抗IL-6レセプターヒト化抗体」である「MRA」を180ml/mLの濃度で含む溶液製剤が具体的な成分組成とともに開示されている(前記(摘記7J))。ここで、引用文献8の記載(前記(摘記8A))から、「MRA」がトシリズマブの旧名称であることを踏まえると、引用文献7の実施例では、トシリズマブを180mg/mLの高濃度で含む皮下注射用の抗体含有溶液製剤が具体的に記載されているといえる。 他方、本願優先日当時の周知技術を示す参考文献12~14には、それぞれ、150mg/mlの抗IL-13ヒトモノクローナルIgG4抗体を含む溶液を1mlの投与量で皮下投与した場合に免疫原性や注射部位反応がなかったこと(前記(摘記12A)~(摘記12D))、200mg/mlのヒト化抗ヒトTNFモノクローナル抗体のFab’フラグメントをポリエチレングリコール化した皮下投与用薬剤を1mlの投与量で皮下投与した場合に忍容性が高かったこと(前記(摘記13A)~(摘記13D))、及び、ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体のオマリズマブを1.2ml中150mgの濃度、すなわち125mg/mlの濃度で皮下投与するための製剤が販売されていたこと(前記(摘記14A)~(摘記14C))が記載されていることを踏まえると、本願優先日当時、高濃度の抗体等を含むタンパク質製剤であっても安全に皮下投与できることは周知の技術的事項であったと認められる。 このように、高濃度のタンパク質製剤であっても安全に皮下投与できることを知る当業者であれば、引用文献7の実施例に具体的に記載されたトシリズマブを180mg/mlの高濃度で含む皮下注射用の抗体含有製剤が、安全に皮下投与し得るものであると認識するのが自然である。 そうすると、引用発明1において、自己投与可能で使い易い皮下注射製剤を提供するという共通する課題を解決すべく、引用文献7に具体的に記載されたトシリズマブを180mg/mLの濃度で含む抗体含有溶液製剤を使用することは、当業者であればごく自然に為し得たことである。 ここで、トシリズマブを180mg/mLの濃度で含む抗体含有溶液製剤を使用して、固定用量の162mgを含有する注射剤を調製した場合、162mg÷180mg/ml=0.9mlにより、注射剤の用量は、本件補正発明1において特定する「0.9ml」となり、「単回」で皮下投与可能な容量となることも、前記周知技術(参考文献12~14)から自明である。 したがって、引用発明1において、引用文献7の記載及び前記周知技術(参考文献12~14)に基づき、相違点1に係る本件補正発明1の構成を有するものとすることは、当業者が容易になし得たものといえる。 (イ) 相違点2について 引用文献11には背景技術として「最も一般的な医薬品投与経路の一つは、静脈内、皮下、筋肉内注射などの注射である」ところ「ある種の医薬品は、患者の使用のために充填済み注射器として処方され」ていたこと、「自動注射装置は、医薬品を送達する注射器の代替品」であって、「種々のタイプの自動注射装置」が文献に記載されていること、リウマチ様関節炎などの治療のため「TNFα阻害剤アダリムマブ」を含む、「患者による自己投与用の充填済み注射器」がすでに「市販されて」いることが記載されている(前記(摘記11B))。そして、「リウマチ様関節炎などの慢性自己免疫疾患の患者、並びに高齢者及び身体障害者は、既存の注射装置を用いて生物学的療法を自己管理するのに必要である器用さを欠くことがある」ため、「患者が安全に使用することができ、生物学的療法投薬計画を支持する患者を育成する自己治療送達装置が必要とされる」との課題認識のもと(前記(摘記11B))、「TNFα阻害剤アダリムマブ」(前記(摘記11D))や「インターロイキン6(IL-6)受容体に対するActemra(トシリズマブ)ヒト化MAb」(前記(摘記11F))などを含む薬剤を「充填した」注射器(前記(摘記11C))を含む「皮下注射するための自動注射装置」(前記(摘記11A))、すなわち自動注射器が記載されていることから、本願優先日当時、皮下注射を含む注射製剤を投与するために「充填済み注射器」及び「自動注射器」を用いることは、慢性自己免疫疾患の注射剤の分野において、周知の技術的事項であったと認められる。 そうすると、引用発明1において、トシリズマブを皮下投与するための皮下投与デバイスとして、引用文献11に記載されているような周知の充填済み注射器又は自動注射器を採用することは格別の創意工夫を要するものとはいえない。 (ウ) 効果について 本願明細書では、実施例1において180mg/mLのトシリズマブ(TCZ)を含む製剤が記載され(本願明細書【0156】)、実施例3において当該製剤をプレフィルドシリンジ又は自動注射器を使用し(【0183】)、活動性関節リウマチ患者に対して162mgを2週ごと(Q2W)で投与したところ、sIL-6R結合トシリズマブ複合体の増加(図1)、CRP正常化(図2)、及び疾患活動性スコアDAS28-ECRの減少(図3)が認められ、忍容性が良好であった旨(【0185】)が記載されている。 しかしながら、トシリズマブを毎週(QW)又は2週ごと(Q2W)に162mgで皮下投与することで忍容性が良好で、かつ良好な臨床効果が得られることは引用文献1に記載されているところ(前記(2)イ(ア))、皮下投与では注射液量に制限があり(前記(摘記7B))、皮下投与製剤の投与量が一般的に1ml~1.2ml程度である(参考文献12~14)ことを踏まえると、引用発明1のトシリズマブは、静脈注射製剤よりも高濃度で皮下投与されたものと推認される。そして、前記(イ)で説示したとおり、高濃度の皮下投与製剤であっても、忍容性に問題なく投与できることは本願優先日当時における周知の技術的事項(参考文献12~14)であるから、濃度180mg/mLのトシリズマブを0.9mL、毎週(QW)又は2週ごと(Q2W)に単回皮下投与した場合にも臨床効果及び忍容性が良好であることは、引用文献1及び周知技術から当業者が予測し得ることといえる。 (エ) 審判請求人の主張について a. 審判請求人は、令和5年2月16日付け手続補正書(方式)において、以下の点を指摘し、本件補正発明1が進歩性を有する旨を主張している。 (a)引用文献7、9には「180mg/mlの濃度のトシリズマブ製剤0.9mLを単回固定用量としてプレフィルドシリンジまたは自動注射器を用いて関節リウマチ(RA)患者に送達した場合の、免疫原性等の課題については記載も示唆もない。」 (b)本願優先日当時、「皮下投与される抗体製剤の上限濃度は、IgGの溶解度が比較的低いため(<100mg/mL)、「約100mg/mL」と考えられ」、「本願請求項にかかる医薬のような高濃度のタンパク質医薬品の製剤の開発は、非常に困難であると理解されていた。」 (c)「高濃度のタンパク質製剤・・・に想到し得たとしても、トシリズマブを含む医薬の開発には、吸収及びバイオアベイラビリティの予測不確実性、免疫原性反応、組織損傷及び中和抗薬物抗体の形成等が大きな懸念事項であ」り、「粘度、凝集及び免疫原性の問題が存在するために、当業者はトシリズマブ162mgの固定用量の全量を単回注射で投与することは想定していなかった」。 (d)「サマラ博士とシルバーマン博士の宣誓書に詳述されているように、先行技術と基本的なPK原則」によって、「RA患者を効果的に治療するため」に、「必要である」と「示唆されていた」「8mg/kg静脈内投与レジメン」よりも、「トシリズマブの投与量がはるかに少ない」、「毎週又は2週ごとに1用量あたり162mgの単回固定用量での皮下投与により効果的な治療を達成できることを見いだした」「本発明者らの所見は予想外である。」 (e)「トシリズマブは、他のヒト化抗体と同様に、一部の患者で「抗トシリズマブ抗体」を誘導し、ときに「投与中止に至る過敏症反応」を引き起こすことが報告されてい」たにもかかわらず、「本願請求項にかかる、毎週又は2週ごとに1用量あたり162mgの単回固定用量での皮下投与による、投与中止に至る過敏症反応は観察されなかった」ことは、「先行技術からの予測可能ではない、および/または先行技術に比して優れた効果を有するものであ」る。 b. 上記主張について検討する。 (a)主張(a)~(c)について 前記(2)オ(ア)で説示したとおり、引用文献7及び周知技術(参考文献12~14)に記載されるように、本願優先日当時、既に100mg/mlを超える高濃度のタンパク質医薬品製剤が開発され、忍容性に問題なく皮下投与できることも知られていたのであるから、当業者であれば、引用文献7の実施例に具体的に記載された180mg/mlの高濃度のトシリズマブ皮下注射用の抗体含有製剤が、安全に皮下投与し得るものであると認識するものといえる。 したがって、引用文献7の記載及び周知技術に基づき、トシリズマブ162mgの固定用量の全量を単回注射で投与することを、当業者は想到し得たものといえる。 (b)主張(d)及び(e)について そもそも、引用文献1にトシリズマブの162mgQW、Q2Wの皮下投与で、良好な臨床効果を示したことが記載されていることから(前記(2)イ(ア))、8mg/kg静脈内投与レジメンよりも、トシリズマブの投与量がはるかに少ない量で効果的な治療を達成できることは、本件補正発明1において初めて見いだされた所見ではない。また、本件補正発明1において確認された忍容性についても、上記(ウ)で説示したとおり、引用文献1の記載及び本願優先日当時の周知技術からも予測し得るものである。 (c)以上のとおりであるから、請求人の主張はいずれも採用することができない。 (3)小括 よって、本件補正発明1は、引用発明1、引用文献1及び7の記載事項並びに本願優先日前の周知技術より当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.本件補正についてのむすび 以上、検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に規定するいずれの目的にも該当しない補正事項を含むものであるし、仮に当該補正事項について特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものと判断した場合であっても、同法17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するので、同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明 令和4年12月9日付けの手続補正は上記のとおり却下された。そして、令和4年6月14日付けの手続補正も令和4年7月26日付けの補正の却下の決定により却下されているので、本願の請求項1に係る発明は、令和2年12月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。 「【請求項1】 トシリズマブを含む、患者における関節リウマチを治療するための医薬であって、トシリズマブは毎週又は2週ごとに1用量あたり162mgの固定用量として皮下投与される、医薬。」 (以下「本願発明1」という。) 第4 原査定の拒絶の理由 令和4年7月26日付けの拒絶査定における拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。 引用文献1: Ohta S. et al.,Arthritis & Rheumatism、2010年10月、Vol.62、Abstr. 1115 第5 当審の判断 1.引用文献の記載事項 引用文献1に記載された事項及び引用発明については、前記第2の2.(2)イ、ウにて説示したとおりであるところ、引用発明1を再掲すると以下のとおりである。 引用発明1: 「トシリズマブを含む、患者における関節リウマチを治療するための皮下注射製剤であって、トシリズマブは毎週又は2週ごとに1用量あたり162mgの固定用量で皮下投与される、皮下注射製剤。」 2.本願発明1と引用発明1との対比・判断 引用発明1の「皮下注射製剤」が本願発明1の「医薬」に包含されるものであることは明らかであるから、本願発明1と引用発明1との間に相違点はなく、本願発明1は引用文献1に記載された発明である。 第6 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明ついて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-020015

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