特許拒絶査定不服審判
2019-002974
レーザー加工装置及びレーザー加工方法
- 審判番号
- 2019-002974
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-049228外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年03月04日
- 審決日
- 2020年06月30日
- 公報発行日
- 2020年10月30日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (H01L) / P18 .575-Z (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015- 49228「レーザー加工装置及びレーザー加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月20日出願公開、特開2016-111315〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,平成27年3月12日(優先権主張平成26年11月27日)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 7月20日付け:拒絶理由通知書
平成30年 9月20日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年12月 3日付け:拒絶査定
平成31年 3月 4日 :審判請求書,手続補正書の提出
平成31年 4月25日 :上申書
第2 平成31年3月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年3月4日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「【請求項1】
ウェーハの内部に集光点を合わせてレーザー光を照射することにより,前記ウェーハの切断予定ラインに沿って前記ウェーハの内部に改質領域を形成するレーザー加工装置であって,
前記レーザー光を出力するレーザー光源と,
前記レーザー光源から出力された前記レーザー光を変調する空間光変調器と,
前記空間光変調器で変調された前記レーザー光を前記ウェーハの内部に集光する集光レンズと,
前記ウェーハを前記レーザー光に対して相対的に移動させる移動手段と,
前記ウェーハの内部においてレーザー光照射面からの深さが互いに異なり,かつ前記ウェーハの移動方向に互いに離れた複数の位置に前記レーザー光が前記集光レンズで同時に集光されるように前記空間光変調器を制御する制御部と,
前記空間光変調器とは別に構成され,前記ウェーハの内部において前記レーザー光の集光点を合わせる前記複数の位置で前記レーザー光の収差が所定の収差以下となるように補正する収差補正手段であって,前記複数の位置の前記深さに応じて前記補正する収差の補正量を変更できるように構成された収差補正手段と,
を備えるレーザー加工装置。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年9月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
ウェーハの内部に集光点を合わせてレーザー光を照射することにより,前記ウェーハの切断予定ラインに沿って前記ウェーハの内部に改質領域を形成するレーザー加工装置であって,
前記レーザー光を出力するレーザー光源と,
前記レーザー光源から出力された前記レーザー光を変調する空間光変調器と,
前記空間光変調器で変調された前記レーザー光を前記ウェーハの内部に集光する集光レンズと,
前記ウェーハを前記レーザー光に対して相対的に移動させる移動手段と,
前記ウェーハの内部においてレーザー光照射面からの深さが互いに異なり,かつ前記ウェーハの移動方向に互いに離れた複数の位置に前記レーザー光が前記集光レンズで同時に集光されるように前記空間光変調器を制御する制御部と,
前記空間光変調器とは別に構成され,前記ウェーハの内部において前記レーザー光の集光点を合わせる前記複数の位置で前記レーザー光の収差が所定の収差以下となるように補正する収差補正手段と,
を備えるレーザー加工装置。」
2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「収差補正手段」について,上記のとおり限定を付加するものであって,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2011-51011号公報(平成23年3月17日出願公開。以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【請求項1】
加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより,切断予定ラインに沿って前記加工対象物に改質領域を形成するレーザ加工方法であって,
前記レーザ光を空間光変調器で変調し,変調した前記レーザ光を前記加工対象物に集光させながら該レーザ光を前記加工対象物に対して移動させる工程を含み,
前記工程では,前記加工対象物において前記レーザ光を移動させる方向に沿って離れた複数位置に前記レーザ光が集光されて前記改質領域が形成されるように,前記レーザ光を前記空間光変調器で変調することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記複数位置は,前記レーザ光の照射方向に沿う方向に互いに等しいことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記複数位置は,前記レーザ光の照射方向に沿う方向に互いに異なることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記複数位置は,前記加工対象物のレーザ光照射面側の位置ほど,前記レーザ光を移動させる方向における後方に位置することを特徴とする請求項3記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記工程では,前記反射型空間光変調器の液晶層に回折格子パターンを表示させることで,前記反射型空間光変調器に入射する前記レーザ光を分光することを特徴とする請求項1~4の何れか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記改質領域を起点として前記加工対象物を切断する工程を含むことを特徴とする請求項1~5の何れか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
請求項6記載のレーザ加工方法による切断を利用して半導体装置を製造することを特徴とする半導体装置の製造方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は,レーザ加工方法及び半導体装置の製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで,上述したようなレーザ加工方法においては,例えばランニングコストの低減等のため,レーザ加工におけるタクトタイムのさらなる短縮化が強く望まれている。
【0005】
そこで,本発明は,レーザ加工におけるタクトタイムの短縮化が可能なレーザ加工方法及び半導体装置の製造方法を提供することを課題とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために,本発明に係るレーザ加工方法は,加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより,切断予定ラインに沿って加工対象物に改質領域を形成するレーザ加工方法であって,レーザ光を空間光変調器で変調し,変調したレーザ光を加工対象物に集光させながら該レーザ光を加工対象物に対して移動させる工程を含み,工程では,加工対象物においてレーザ光を移動させる方向に沿って離れた複数位置にレーザ光が集光されて改質領域が形成されるように,レーザ光を空間光変調器で変調することを特徴とする。
【0007】
このレーザ加工方法によれば,加工対象物においてレーザ光を移動させる方向に沿って離れた複数位置に,レーザ光を集光させて改質領域を形成することができる。よって,通常のレーザ加工に比べ,タクトタイムの短縮化が可能となる。」
「【0009】
また,複数位置は,レーザ光の照射方向に沿う方向に互いに異なることが好ましい。これにより,例えば,1つの切断予定ラインについてレーザ光の照射方向に沿う方向に複数列の改質領域を形成する場合,この切断予定ラインに沿ってレーザ光を移動させる回数(いわゆる,折り返し回数)を低減させることが可能となる。」
「【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,レーザ加工におけるタクトタイムの短縮化が可能となる。」
「【図面の簡単な説明】
【0016】
・・・
【図8】第1実施形態に係るレーザ加工方法を実施するレーザ加工装置を示す概略構成図である。
・・・
【図10】レーザ光の多点集光を説明するための図である。」
「【0027】
まず,本発明の第1実施形態について説明する。図7は,本実施形態のレーザ加工方法の対象となる加工対象物を示す平面図である。図7に示すように,加工対象物1は,厚さ300μm,直径8インチのシリコンウェハ11と,複数の機能素子15を含んでシリコンウェハ11の表面11aに形成された機能素子層16とを備えている。
【0028】
機能素子15は,例えば,結晶成長により形成された半導体動作層,フォトダイオード等の受光素子,レーザダイオード等の発光素子,或いは回路として形成された回路素子等であり,シリコンウェハ11のオリエンテーションフラット6に平行な方向及び垂直な方向にマトリックス状に多数形成されている。このような加工対象物1は,隣り合う機能素子間を通るように格子状に設定された切断予定ライン5a,5bに沿って切断され,例えばチップサイズが1mm×1mmのチップとなる。
【0029】
図8は,本発明の第1実施形態に係るレーザ加工方法を実施するレーザ加工装置を示す概略構成図である。図8に示すように,レーザ加工装置300は,レーザ光源202,反射型空間光変調器203,4f光学系241及び集光光学系204を筐体231内に備えている。
【0030】
レーザ光源202は,レーザ光Lを出射するものであり,例えばファイバレーザが用いられている。ここでのレーザ光源202は,水平方向にレーザ光を出射するように,筐体231の天板236にねじ等で固定されている。
【0031】
反射型空間光変調器203は,レーザ光源202から出射されたレーザ光Lを変調するものであり,例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial LightModulator)が用いられている。ここでの反射型空間光変調器203は,水平方向から入射するレーザ光Lを,水平方向に対し斜め上方に反射すると共に,加工対象物1においてレーザ光Lを移動させる方向D(以下,「移動方向D」という)に沿って離れた複数位置に集光するよう変調する。
【0032】
図9は,図8のレーザ加工装置の反射型空間光変調器の部分断面図である。図9に示すように,反射型空間光変調器203は,シリコン基板213,駆動回路層914,複数の画素電極214,誘電体多層膜ミラー等の反射膜215,配向膜999a,液晶層216,配向膜999b,透明導電膜217,及びガラス基板等の透明基板218を備え,これらがこの順に積層されている。
・・・
【0039】
これにより,変調パターンに入射し透過するレーザ光Lにあっては,その波面が調整され,該レーザ光Lを構成する各光線において進行方向に直交する所定方向の成分の位相にずれが生じる。その結果,図10に示すように,加工対象物1内の3次元方向の任意の複数位置に集光光学系204でレーザ光Lが多点集光されるように,レーザ光Lが変調されることになる。具体的には,レーザ光Lが集光光学系204で複屈折されて加工対象物1内の移動方向Dに離れた複数位置に集光されるように,レーザ光Lの強度,振幅,位相,偏光等が調整されることになる。」
「【0040】
図8に戻り,4f光学系241は,反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lの波面形状を調整するものである。この4f光学系241は,第1レンズ241a及び第2レンズ241bを有している。
【0041】
レンズ241a,241bは,反射型空間光変調器203と第1レンズ241aとの距離が第1レンズ241aの焦点距離f1となり,集光光学系204とレンズ241bとの距離がレンズ241bの焦点距離f2となり,第1レンズ241aと第2レンズ241bとの距離がf1+f2となり,且つ第1レンズ241aと第2レンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように,反射型空間光変調器203と集光光学系204との間に配置されている。この4f光学系241では,反射型空間光変調器203で変調されたレーザ光Lが空間伝播によって波面形状が変化し収差が増大するのを抑制することができる。
【0042】
集光光学系204は,4f光学系241によって変調されたレーザ光Lを加工対象物1の内部に集光するものである。この集光光学系204は,複数のレンズを含んで構成されており,圧電素子等を含んで構成された駆動ユニット232を介して筐体231の底板233に設置されている。」
「【0046】
さらにまた,レーザ加工装置300は,該レーザ加工装置300を制御するためのものとして,CPU,ROM,RAM等からなる制御部250を備えている。この制御部250は,レーザ光源202を制御し,レーザ光源202から出射されるレーザ光Lの出力やパルス幅等を調節する。また,制御部250は,改質領域7を形成する際,レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から所定距離に位置し且つレーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように,筐体231やステージ111の位置,及び駆動ユニット232の駆動を制御する。
【0047】
また,制御部250は,改質領域7を形成する際,反射型空間光変調器203における各電極部214に所定電圧を印加し,液晶層216に所定の変調パターンを表示させる。これにより,レーザ光Lを反射型空間光変調器203で所望に変調し,加工対象物1内の3次元方向の任意の複数位置にレーザ光Lを同時に集光させ,移動方向Dに沿って離れた複数位置に改質領域7を同時に複数形成する(詳しくは,後述)。」
「【0093】
次に,本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態の説明では,上記第1実施形態に対し異なる点について主に説明する。
【0094】
本実施形態は,加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なる位置にレーザ光Lが同時集光されて改質スポットS,Sが同時形成される点で,上記第1実施形態と異なっている。
【0095】
具体的には,図20(a)に示すように,レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させ,加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に,レーザ光Lを同時集光させて一対の改質スポットS31a,S31bを同時形成する。
・・・
【0101】
以上,本実施形態においても,上記効果と同様な効果,すなわち,タクトタイムを短縮化する効果が奏される。
【0102】
また,本実施形態では,上述したように,加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所にレーザ光Lを同時集光させることで,1つの切断予定ライン5について厚さ方向に2列の改質領域7を1スキャンで形成している。よって,1つの切断予定ライン5に沿ってレーザ光Lを移動させる回数(いわゆる,折り返し回数)を低減させることが可能となる。例えば,加工対象物1内に厚さ方向8列の改質領域7を形成する場合,4スキャンで足りることになる。」
「【0123】
以上,本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
・・・
【0127】
また,上記実施形態では,反射型空間光変調器203としてLCOS-SLMを用いたが,MEMS(メムス)-SLM,又はDMD(デフォーマブルミラーデバイス)等を用いてもよい。
・・・
【0130】
また,上記実施形態では,4f光学系241を用いているが,波面形状の変化が問題ならない場合等には,4f光学系241を省いてもよい。
【0131】
また,複数位置に同時に集光されるそれぞれのレーザ光Lの収差が補正されるような変調パターンを反射型空間光変調器203にさらに与えることで,切断に一層適した改質領域7を形成することが可能となる。」
「
」
「
」
「
」
(イ)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された発明は,レーザ加工におけるタクトタイムの短縮化が可能なレーザ加工方法及び半導体装置の製造方法を提供することを課題とすること。
b 引用文献1には,第1実施形態のレーザ加工方法を実施するための次の装置が記載されていること。すなわち,
複数の機能素子15を含む機能素子層16が形成されたシリコンウェハ11を加工対象物1としたレーザ加工方法を実施する,レーザ光源202,反射型空間光変調器203,4f光学系241及び集光光学系204を筐体231内に備え,さらに,制御部250を備えたレーザ加工装置300であって,
前記反射型空間光変調器203は,レーザ光源202から出射されたレーザ光Lを変調するものであり,例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial LightModulator)を用いて,水平方向から入射するレーザ光Lを,水平方向に対し斜め上方に反射すると共に,加工対象物1においてレーザ光Lを移動させる方向D(以下,「移動方向D」という)に沿って離れた複数位置に集光するよう変調するものであり,
前記4f光学系241は,反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lの波面形状を調整するものであり,この4f光学系241は,第1レンズ241a及び第2レンズ241bを有しており,当該レンズ241a,241bを,反射型空間光変調器203と第1レンズ241aとの距離が第1レンズ241aの焦点距離f1となり,集光光学系204とレンズ241bとの距離がレンズ241bの焦点距離f2となり,第1レンズ241aと第2レンズ241bとの距離がf1+f2となり,且つ第1レンズ241aと第2レンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように,反射型空間光変調器203と集光光学系204との間に配置することで,この4f光学系241において,反射型空間光変調器203で変調されたレーザ光Lが空間伝播によって波面形状が変化し収差が増大するのを抑制するものであり,
前記集光光学系204は,4f光学系241によって変調されたレーザ光Lを加工対象物1の内部に集光するものであって,当該集光光学系204は,複数のレンズを含んで構成されており,圧電素子等を含んで構成された駆動ユニット232を介して筐体231の底板233に設置されているものであり,
前記制御部250は,レーザ光源202を制御し,レーザ光源202から出射されるレーザ光Lの出力やパルス幅等を調節し,また,改質領域7を形成する際,レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から所定距離に位置し且つレーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように,筐体231やステージ111の位置,及び駆動ユニット232の駆動を制御し,さらに,改質領域7を形成する際,反射型空間光変調器203における各電極部214に所定電圧を印加し,液晶層216に所定の変調パターンを表示させて,これにより,レーザ光Lを反射型空間光変調器203で所望に変調し,加工対象物1内の3次元方向の任意の複数位置にレーザ光Lを同時に集光させ,移動方向Dに沿って離れた複数位置に改質領域7を同時に複数形成するものである,
レーザ加工装置300。
c 第5実施形態は,上記第1実施形態に対し,加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なる位置にレーザ光Lが同時集光されて改質スポットS,Sが同時形成される点で,異なり,レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させ,加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に,レーザ光Lを同時集光させて一対の改質スポットS31a,S31bを同時形成するものであり,タクトタイムを短縮化する効果が奏されること。
d 複数位置に同時に集光されるそれぞれのレーザ光の収差が補正されるような変調パターンを反射型空間光変調器にさらに与えることで,切断に一層適した改質領域を形成することが可能となること。
(ウ)上記(ア),(イ)から,引用文献1には,第5実施形態のレーザ加工方法を実施するためのレーザ加工装置300に係る発明である,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数の機能素子15を含む機能素子層16が形成されたシリコンウェハ11を加工対象物1としたレーザ加工方法を実施する,レーザ光源202,反射型空間光変調器203,4f光学系241及び集光光学系204を筐体231内に備え,さらに,制御部250を備えたレーザ加工装置300であって,
前記反射型空間光変調器203は,レーザ光源202から出射されたレーザ光Lを変調するものであり,例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial LightModulator)を用いて,水平方向から入射するレーザ光Lを,水平方向に対し斜め上方に反射すると共に,加工対象物1においてレーザ光Lを移動させる方向D(以下,「移動方向D」という)に沿って離れた複数位置に集光するよう変調するものであり,
前記4f光学系241は,反射型空間光変調器203によって変調されたレーザ光Lの波面形状を調整するものであり,この4f光学系241は,第1レンズ241a及び第2レンズ241bを有しており,当該レンズ241a,241bを,反射型空間光変調器203と第1レンズ241aとの距離が第1レンズ241aの焦点距離f1となり,集光光学系204とレンズ241bとの距離がレンズ241bの焦点距離f2となり,第1レンズ241aと第2レンズ241bとの距離がf1+f2となり,且つ第1レンズ241aと第2レンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように,反射型空間光変調器203と集光光学系204との間に配置することで,この4f光学系241において,反射型空間光変調器203で変調されたレーザ光Lが空間伝播によって波面形状が変化し収差が増大するのを抑制するものであり,
前記集光光学系204は,4f光学系241によって変調されたレーザ光Lを加工対象物1の内部に集光するものであって,当該集光光学系204は,複数のレンズを含んで構成されており,圧電素子等を含んで構成された駆動ユニット232を介して筐体231の底板233に設置されているものであり,
前記制御部250は,レーザ光源202を制御し,レーザ光源202から出射されるレーザ光Lの出力やパルス幅等を調節し,また,改質領域7を形成する際,レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3から所定距離に位置し且つレーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように,筐体231やステージ111の位置,及び駆動ユニット232の駆動を制御し,さらに,改質領域7を形成する際,反射型空間光変調器203における各電極部214に所定電圧を印加し,液晶層216に所定の変調パターンを表示させて,これにより,レーザ光Lを反射型空間光変調器203で所望に変調し,加工対象物1内の3次元方向の任意の複数位置にレーザ光Lを同時に集光させ,移動方向Dに沿って離れた複数位置に改質領域7を同時に複数形成するものである,
レーザ加工装置300において,
レーザ光Lを照射しつつ移動方向Dに沿って相対移動させ,加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に,レーザ光Lを同時集光させて一対の改質スポットS31a,S31bを同時形成する,
レーザ加工装置300。」
イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され,本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2014-19120号公報(平成26年2月3日出願公開。以下「引用文献2」という。)には,次の記載がある。
「【請求項1】
レーザ光を集光するレーザ集光手段を介してレーザ光を単結晶部材の被照射面から照射することで,前記単結晶部材内部に加工層を形成してなる内部加工層形成単結晶部材とする内部加工層形成単結晶部材の製造方法であって,
前記レーザ集光手段は,前記単結晶部材の内部に複数の集光点を形成する主集光系と,前記主集光系にレーザ光を入射させる副集光系と,からなり,
前記主集光系に,前記単結晶部材の収差補正機能を備えさせ,
前記副集光系に,複数のシリンドリカルレンズが一体または別体に並列に配置されてなるシリンドリカルレンズ配列体を設け,
前記単結晶部材として,レーザ光を照射する第1面と,前記第1面に平行な第2面と,を有する部材を用い,
前記レーザ集光手段と前記単結晶部材とを相対的に移動させつつ前記レーザ集光手段にパルス状のレーザ光を通過させて,前記単結晶部材内部に複数の集光点を形成しつつ前記加工層を形成することを特徴とする内部加工層形成単結晶部材の製造方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は,単結晶部材の被照射側の表面から単結晶部材内部にレーザ光を集光することで,単結晶部材内部に加工層を形成する内部加工層形成単結晶部材の製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで,このようにして基板を製造するにあたり,インゴット内部に加工層を形成する際の加工速度を上げることが,特に量産の観点で好ましい。
【0010】
本発明は,上記課題に鑑み,単結晶部材の被照射面を損傷させることなく単結晶部材内部に効率良く加工層を形成することができる内部加工層形成単結晶部材の製造方法を提供することを課題とする。」
「【0023】
図5は,本一例で,集光レンズCから出射したレーザ光によって単結晶部材10に加工層21(図3参照)を形成することを説明する側面図である。図6は,集光レンズCを構成するシリンドリカルレンズ配列体80の斜視図である。集光レンズCは,アパーチャーマスク73を通過したレーザ光が入射する副集光系82と,副集光系82から出射したレーザ光が入射し,単結晶部材10に向けてレーザ光を照射する主集光系85と,からなる。副集光系82は,複数のシリンドリカルレンズ79が一体に並列に配置されてなるシリンドリカルレンズ配列体80と,シリンドリカルレンズ配列体80からの光を通過させるシリンドリカル凸レンズ83とを有している。この構成により,各シリンドリカルレンズ79に入射したレーザ光は,集光点を形成した後にシリンドリカル凸レンズ83に入射し,照射面が細長状の平行ビームとなって主集光系85に入射するようにされている。なお,各シリンドリカルレンズ79が別体となっていて並列に配列された構成であってもよい。
【0024】
主集光系85は,収差を補正する補正環88付きの対物レンズ86を備えており,収差補正が可能となっている。そして,副集光系82から入射した複数本のレーザ光(分岐レーザ光)を単結晶部材10に向けて照射する構成になっている。
【0025】
集光レンズCでは,主集光系85からのレーザ光を単結晶部材10に照射する際,凸レンズ機能により集光して単結晶部材内部で集光点を形成し,かつ,単結晶部材10の被照射面20t(図5では上面)に損傷を与えないように,被照射面20tにおける各レーザ光のエネルギー密度が調整されている。
【0026】
なお,図5では,副集光系82に入射した1本のレーザ光が副集光系82から5本のレーザ光に分岐して出射するように描いているが,レーザ光の分岐本数を特に限定するものではなく,レーザ光の出力,シリンドリカルレンズ79の形状などにより分岐本数を適宜変更することが可能である。」
「【0029】
(作用,効果)
以下,本一例で内部加工層形成単結晶部材10を製造することについて説明する。本一例では,単結晶部材10をXYステージ上に載置し,真空チャック,静電チャックなどでこの単結晶部材10を保持する。そして,XYステージで単結晶部材10をX方向やY方向に移動させることで,集光レンズCと単結晶部材10とを,単結晶部材10の被照射面20tに水平に,シリンドリカルレンズ79に沿って相対的に移動させながらレーザ光Bを照射することで,単結晶部材10の内部に集光したレーザ光Bによって加工層21を形成する。
【0030】
その際,副集光系82に入射したレーザ光Bが複数本の分岐レーザ光となって主集光系85に入射する。この結果,主集光系85の対物レンズ86から出射したレーザ光は,被照射面20tで分岐レーザ光となって入射して,単結晶部材10の内部で複数の集光点Dを形成する。
【0031】
また,本実施形態では,単結晶部材10の被照射面20tと被照射面20tに平行な光出射面20sとの中間位置である中間面20mよりも光出射面20s側に,各分岐レーザ光の集光点Dを形成する。集光点Dの基板深さ方向位置を調整するにあたり,シリコンの単結晶部材(単結晶基板)10の厚さや屈折率を考慮して集光レンズCの補正環88を適宜調整することが,簡素な構成で簡易に調整する観点で有効である。
【0032】
ここで,補正環88についてやや詳細に説明する。大気中で,収差なく集光する対物レンズで集光されるレーザ光Bでは,外周部の光ほど例えば平凸レンズで大きく曲げることで,シリコンのような屈折率の大きな素材で形成された単結晶部材10の内部に集光することが可能になる。すなわち,レーザ光Bは内周側から外周側に移るに従い,対物レンズ86に近い位置で集光するように,対物レンズ86を設定する。このような設定は,補正環付き対物レンズ86では,補正環88を,集光点Dの位置に形成される加工層21の深さより大きく設定することで達成することができる。なお,補正環88を用いないで,主集光系85および副集光系82の単結晶部材10からの距離を調整することによっても,集光点Dの基板深さ方向位置を調整することが可能である。」
「【0047】
また,主集光系85が補正環88を有しており,レーザ光Bの収差補正をすることができる。これにより,補正環88を適宜調整することで単結晶部材10内部に形成する集光点の位置,形状を調整することができ,簡素な構成で簡易に調整する観点で有効である。しかも,このように収差補正することで加工層21の厚みを抑えることができ,単結晶部材10から多数枚の単結晶基板が得られるので,製品率を向上させることができる。」
「
」
(イ)上記記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されていると認められる。
・集光点の基板深さ方向位置を調整するにあたり,シリコンの単結晶部材(単結晶基板)の厚さや屈折率を考慮して集光レンズの補正環を適宜調整することが,簡素な構成で簡易に調整する観点で有効であること。
・補正環によって,レーザ光の収差補正をすることができること。
・補正環を適宜調整することで単結晶部材内部に形成する集光点の位置,形状を調整することができ,簡素な構成で簡易に調整する観点で有効であること。
(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「複数の機能素子15を含む機能素子層16が形成されたシリコンウェハ11」,「集光点P」,「レーザ光L」,及び,「改質領域7」は,それぞれ,本件補正発明の「ウェーハ」,「集光点」,「レーザー光」,「改質領域」に相当する。
(イ)引用発明の「レーザ光源202」,「反射型空間光変調器203」,「集光光学系204」,「『レーザ光Lの集光点Pが切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように』『位置』が『制御』される『ステージ111』」は,それぞれ,本件補正発明の「レーザー光源」,「空間光変調器」,「集光レンズ」,及び,「ウェーハを前記レーザー光に対して相対的に移動させる移動手段」に相当する。
(ウ)引用発明の「『改質領域7を形成する際,反射型空間光変調器203における各電極部214に所定電圧を印加し,液晶層216に所定の変調パターンを表示させて,これにより,レーザ光Lを反射型空間光変調器203で所望に変調し,加工対象物1内の3次元方向の任意の複数位置にレーザ光Lを同時に集光させ』,『加工対象物1内において厚さ方向に互いに異なり且つ移動方向Dに沿って離れた2箇所に,レーザ光Lを同時集光させ』る『制御部250』」は,本件補正発明の「前記ウェーハの内部においてレーザー光照射面からの深さが互いに異なり,かつ前記ウェーハの移動方向に互いに離れた複数の位置に前記レーザー光が前記集光レンズで同時に集光されるように前記空間光変調器を制御する制御部」に相当する。
(エ)上記(ア)~(ウ)より,本件補正発明と引用発明とは,以下の相違点を除き「ウェーハの内部に集光点を合わせてレーザー光を照射することにより,前記ウェーハの切断予定ラインに沿って前記ウェーハの内部に改質領域を形成するレーザー加工装置」である点で共通するといえる。
イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「ウェーハの内部に集光点を合わせてレーザー光を照射することにより,前記ウェーハの切断予定ラインに沿って前記ウェーハの内部に改質領域を形成するレーザー加工装置であって,
前記レーザー光を出力するレーザー光源と,
前記レーザー光源から出力された前記レーザー光を変調する空間光変調器と,
前記空間光変調器で変調された前記レーザー光を前記ウェーハの内部に集光する集光レンズと,
前記ウェーハを前記レーザー光に対して相対的に移動させる移動手段と,
前記ウェーハの内部においてレーザー光照射面からの深さが互いに異なり,かつ前記ウェーハの移動方向に互いに離れた複数の位置に前記レーザー光が前記集光レンズで同時に集光されるように前記空間光変調器を制御する制御部と,
を備えるレーザー加工装置。」
【相違点】
本件補正発明は,「前記空間光変調器とは別に構成され,前記ウェーハの内部において前記レーザー光の集光点を合わせる前記複数の位置で前記レーザー光の収差が所定の収差以下となるように補正する収差補正手段であって,前記複数の位置の前記深さに応じて前記補正する収差の補正量を変更できるように構成された収差補正手段」を備えるのに対し,引用発明は,当該構成について特定されていない点。
(4)判断
以下,相違点について検討する。
ア 引用文献2には,上記(2)イ(イ)のとおり,集光点の基板深さ方向位置を調整するにあたり,シリコンの単結晶部材(単結晶基板)の厚さや屈折率を考慮して集光レンズの補正環を適宜調整することが,簡素な構成で簡易に調整する観点で有効であること。補正環によって,レーザ光の収差補正をすることができること。及び,補正環を適宜調整することで単結晶部材内部に形成する集光点の位置,形状を調整することができ,簡素な構成で簡易に調整する観点で有効であることという技術的事項が記載されている。
イ 一方,引用発明は,「第1レンズ241aと第2レンズ241bとが両側テレセントリック光学系となるように,反射型空間光変調器203と集光光学系204との間に配置することで,この4f光学系241において,反射型空間光変調器203で変調されたレーザ光Lが空間伝播によって波面形状が変化し収差が増大するのを抑制する」ことを含む発明であるから,引用発明において,レーザー光の収差の増大を低くすることが求められていることは明らかである。
しかも,引用文献1には,上記(2)ア(イ)のとおり,複数位置に同時に集光されるそれぞれのレーザ光の収差が補正されるような変調パターンを反射型空間光変調器にさらに与えることで,切断に一層適した改質領域を形成することが可能となるという技術的事項が記載されている。
ウ してみれば,上記イから,引用発明において,レーザ光Lの空間伝播による収差の増大の低減のみならず,複数位置に同時に集光されるそれぞれのレーザ光の収差を補正することによって,切断に一層適した改質領域を形成することは,当業者が容易に思い至ることといえる。
そして,上記アのとおり,集光点の基板深さ方向位置を調整するにあたり,シリコンの単結晶部材(単結晶基板)の厚さや屈折率を考慮して集光レンズの補正環を適宜調整することが,簡素な構成で簡易に調整する観点で有効であること。補正環によって,レーザ光の収差補正をすることができること。及び,補正環を適宜調整することで単結晶部材内部に形成する集光点の位置,形状を調整することができ,簡素な構成で簡易に調整する観点で有効であることが知られているのであるから,引用発明において,切断に一層適した改質領域の形成を,簡素な構成で簡易に行うために,引用発明の集光レンズとして,補正環,すなわち,空間光変調器とは別に構成され,ウェーハの内部においてレーザー光の集光点を合わせる複数の位置で前記レーザー光の収差が所定の収差以下となるように補正する収差補正手段であって,前記複数の位置の前記深さに応じて前記補正する収差の補正量を変更できるように構成された収差補正手段を備えた集光レンズとすることは,以下の周知文献からも明らかな補正環を備えた集光手段の周知の用法に照らして,当業者が容易になし得たことである。
周知文献:特開2014-205168号公報
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の経験によれば,特許文献1に記載のレーザー加工装置において,被加工物の内部に改質域を生成するためには,被加工物の厚み方向の所定位置に精密にレーザー光線を集光させることが重要である。しかし,大気中を通過して被加工物内を透過するレーザー光線には,被加工物の上面から厚み方向の所定位置までの距離,すなわちレーザー光線の透過深さに応じて収差が生成される。この場合,レーザー光線の透過深さに応じて収差が変わるため,様々な厚みの被加工物に対して適切な深さにレーザー光線を精密に集光させることが困難であった。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり,被加工物の厚みに応じて,容易に且つ精密にレーザー光線を被加工物の所定位置に集光させることができるレーザー加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザー加工装置は,被加工物を保持する保持手段と,該保持手段に保持された被加工物に対して透過性を有する波長のレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と,該レーザー光線を被加工物に発振する発振器と,該レーザー光線を被加工物の内部に集光させる集光手段と,被加工物のレーザー光線照射領域の表面変位を測定する測定手段と,該集光手段を支持し且つ該測定手段の測定結果に基づき該集光手段を被加工物に対して垂直方向に移動させる集光点位置調整手段と,を備えるレーザー加工装置であって,該集光手段は,外周面に複数の凹凸部を備えた補正環と,該補正環を回すことでレンズが内部でスライドし厚みに合わせた収差補正が行われる対物レンズとを備え,該補正環を回転させる補正環回転手段を備えており,該補正環回転手段は,該凹凸部に係合して該補正環を把持する少なくとも2個の係合把持部と,該係合把持部を該凹凸部と係合する作用位置と該凹凸部から離反した非作用位置とに移動させる移動部と,該係合把持部が作用位置に位置付けられた状態で該係合把持部を所定角度移動させて該補正環を所定角度回転させる回転駆動部と,被加工物の厚みに応じて適切な収差となる該補正環の回転角度情報を記憶する記憶部と,を備えており,被加工物の厚みが変更された際には,該係合把持部は該作用位置に位置付けられ,該記憶部により記憶された該回転角度情報により被加工物の厚みに応じた適切な回転角度に該補正環が回転され,該レーザー光線照射手段により被加工物にレーザー光線を照射する際には,該係合把持部は該非作用位置に位置付けられた状態で集光点位置を調整しながら加工を行うこと,を特徴とする。
【0007】
この構成によれば,係合把持部が補正環の凹凸部に係合して,補正環が被加工物の厚みに応じた回転角度に自動的に調整される。これにより,被加工物が厚みの異なる別の被加工物に変更された場合にも,被加工物の厚みに応じて適切な収差補正が行われる。また,レーザー光線が照射される場合には,被加工物のレーザー光線照射領域の表面変位にレーザー光線の集光点位置が追従される。これにより,被加工物の表面変位に合わせて適切な深さに改質域を形成できる。このとき,係合把持部が補正環の凹凸部から離反した状態でレーザー光線が照射されるため,係合把持部によって被加工物の表面変位に対する集光手段の追従動作が阻害されることがない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,被加工物の厚みが変更される場合でも,被加工物の厚みに応じた回転角度に補正環を自動的に回転させることで,容易に且つ精密にレーザー光線を被加工物の所定位置に集光させることができる。」
そして,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年3月4日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年9月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1ないし12に係る発明は,本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特開2011-51011号公報
引用文献2:特開2014-19120号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,「前記複数の位置の前記深さに応じて前記補正する収差の補正量を変更できるように構成された」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-002974