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特許異議申立

2018-701046

光学ガラスおよびその利用

審判番号
2018-701046
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-117063外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2018年12月25日
審決日
2019年09月02日
公報発行日
2019年12月27日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.537-YAA(C03C) / P1651.851-YAA(C03C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6382256号発明「光学ガラスおよびその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6382256号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。 特許第6382256号の請求項1~11に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6382256号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)3月15日(優先権主張 平成24年3月26日 (JP)日本国)を国際出願日とする特願2014-507712号の一部を平成28年6月13日に新たな特許出願としたものであって、平成30年8月10日にその特許権の設定登録がされ、平成30年8月29日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、平成30年12月25日に特許異議申立人宮園祐爾により特許異議の申立てがされ、平成31年4月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和1年6月21日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたものであり、本件訂正請求に対して、特許異議申立人から令和1年7月26日付けで意見書の提出がされたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1における「Si4+およびB3+の合計含有量が20~50カチオン%の範囲であり」との記載を、「Si4+およびB3+の合計含有量が30~45カチオン%の範囲であり」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1における「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量が25~50カチオン%の範囲であり」との記載を、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量が30~40カチオン%の範囲であり」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1における「Ti4+含有量が1~16カチオン%の範囲であり」との記載を、「Ti4+含有量が1~13カチオン%の範囲であり」に訂正する。 2 訂正要件の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、「Si4+およびB3+の合計含有量」を「20~50カチオン%の範囲」から「30~45カチオン%の範囲」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0024】には、「Si4+およびB3+の合計含有量は10~60%とする。詳しくは、10.0~60.0%とすることができる。Si4+およびB3+の合計含有量の好ましい上限は50%、詳しくは50.0%、より好ましい上限は45%、詳しくは45.0%、さらに好ましい上限は43%、詳しくは43.0%、一層好ましい上限は42%、詳しくは42.0%、より一層好ましい上限は41%、詳しくは41.0%であり、Si4+およびB3+の合計含有量の好ましい下限は15%、詳しくは15.0%、より好ましい下限は20%、詳しくは20.0%、さらに好ましい下限は25%、詳しくは25.0%、一層好ましい下限は30%、詳しくは30.0%、より一層好ましい下限は35%、詳しくは35.0%である。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」を「25~50カチオン%の範囲」から「30~40カチオン%の範囲」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0026】には、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量は25~70%とする。詳しくは、25.0~70.0%とすることができる。La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量の好ましい上限は60%、詳しくは60.0%、より好ましい上限は55%、詳しくは55.0%、さらに好ましい上限は50%、詳しくは50.0%、一層好ましい上限は45%、詳しくは45.0%、より一層好ましい上限は40%、詳しくは40.0%、なお一層好ましい上限は38%、詳しくは38.0%であり、La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量の好ましい下限は28%、詳しくは28.0%、より好ましい下限は30%、詳しくは30.0%、一層好ましい下限は31%、詳しくは31.0%、より一層好ましい下限は32%、詳しくは32.0%、なお一層好ましい下限は33%、詳しくは33.0%、特に好ましい下限は34%、詳しくは34.0%である。」と記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、「Ti4+含有量」を「1~16カチオン%の範囲」から「1~13カチオン%の範囲」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0047】には、「Ti4+の含有量の好ましい上限は18%、詳しくは18.0%、より好ましい上限は17%、詳しくは17.0%、さらに好ましい上限は16%、詳しくは16.0%、一層好ましい上限は15%、詳しくは15.0%、より一層好ましい上限は14%、詳しくは14.0%、さらに一層好ましい上限は13%、詳しくは13.0%、なお一層好ましい上限は12%、詳しくは12.0%である。」と記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 (4)一群の請求項について 訂正前の請求項2~11は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1~11は、一群の請求項である。 したがって、訂正事項1~3の特許請求の範囲の訂正は、この一群の請求項1~11について請求されたものである。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~11に係る発明(以下「本件発明1~11」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。 「【請求項1】 Si4+およびB3+の合計含有量が30~45カチオン%の範囲であり、 La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量が30~40カチオン%の範囲であり、 La3+含有量が20~35%カチオン%の範囲であり、 Yb3+含有量が0~4カチオン%の範囲であり、 Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量が10~20カチオン%の範囲であり、 Ti4+含有量が1~13カチオン%の範囲であり、 Nb5+含有量が0.5カチオン%以上であり、 W6+含有量が0~5カチオン%の範囲であり、 Bi3+含有量が0~4カチオン%の範囲であり、 Li+含有量が0~5.0カチオン%の範囲であり、 Ge含有量が、酸化物基準のガラス組成におけるGeO2量として5.0質量%未満であり、 Pbを含まず、 B3+含有量に対するSi4+含有量のカチオン比(Si4+/B3+)が0.05以上0.70以下であり、 Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が1.90~4.00の範囲であり、 Nb5+を必須成分として含み、かつNb5+含有量に対するTi4+含有量のカチオン比(Ti4+/Nb5+)が2.00以下である酸化物ガラスであり、 Si4+およびB3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量のカチオン比[(La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Si4++B3+)]が0.83以上であるか、または、Si4+およびB3+の合計含有量に対するTi4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量のカチオン比[(Ti4++Nb5++W6++Bi3+)/(Si4++B3+)]が0.31以上であり、 下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たし: (1)La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量に対するY3+の含有量のカチオン比(Y3+/(La3++Gd3++Y3++Yb3+))が0.100以下である; (2)La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量に対するY3+含有量のカチオン比(Y3+/(La3++Gd3++Y3++Yb3+))が0.150以下であり、かつZn2+含有量が0.1カチオン%以上である; かつ、 屈折率ndが1.920超かつ2.000以下の範囲であり、アッベ数νdが32.0~34.0の範囲であり、屈伏点が645℃超であり、 下記式: ΔPg,F=Pg,F+(0.0018×νd)-0.6483 [式中、Pg,Fは、g線、F線、c線における各屈折率ng、nF、nCを用いて、(ng-nF)/(nF-nC)で表される部分分散比を表し、νdはアッベ数を表す。] により求められる部分分散比Pg,Fのノーマルラインからの偏差ΔPg,Fが0.0005以下である光学ガラス。 【請求項2】 Yb含有量が、酸化物基準のガラス組成におけるYb2O3量として2質量%未満である請求項1に記載の光学ガラス。 【請求項3】 Ti4+、Nb5+、W6+、Bi3+およびTa5+の合計含有量が13~30カチオン%の範囲である請求項1または2に記載の光学ガラス。 【請求項4】 Si4+含有量が1.0~30カチオン%の範囲であり、B3+含有量が5カチオン%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。 【請求項5】 Zr4+含有量が1~15カチオン%の範囲である請求項1~4のいずれか1項に記載の光学ガラス。 【請求項6】 Zn2+含有量が0~15カチオン%の範囲である請求項1~5のいずれか1項に記載の光学ガラス。 【請求項7】 ガラス転移温度が630℃超である請求項1~6のいずれか1項に記載の光学ガラス。 【請求項8】 Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量が0.5~35カチオン%の範囲である請求項1~7のいずれか1項に記載の光学ガラス。 【請求項9】 請求項1~8のいずれか1項に記載の光学ガラスからなるプレス成形用ガラスゴブ。 【請求項10】 請求項1~8のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子ブランク。 【請求項11】 請求項1~8のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1~11に係る特許に対して、平成31年4月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する取消理由 訂正前の請求項1に係る発明の各カチオン成分の含有量のうち、「Si4+およびB3+の合計含有量」の上限値及び下限値、並びに、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」の上限値及び下限値は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の実施例1に記載された各カチオン成分の含有量の数値範囲から大きく外れているため、本件特許明細書の記載や技術常識を考慮しても、訂正前の請求項1に係る発明の各カチオン成分の数値範囲において、訂正前の請求項1に係る発明の「屈折率ndが1.920超かつ2.000以下の範囲であり、アッベ数νdが32.0~34.0の範囲であり、屈伏点が645℃超であり、 下記式: ΔPg,F=Pg,F+(0.0018×νd)-0.6483 [式中、Pg,Fは、g線、F線、c線における各屈折率ng、nF、nCを用いて、(ng-nF)/(nF-nC)で表される部分分散比を表し、νdはアッベ数を表す。] により求められる部分分散比Pg,Fのノーマルラインからの偏差ΔPg,Fが0.0005以下である」との物性要件を満たすガラス組成が存在することを当業者が認識できないから、訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 また、訂正前の請求項1に係る発明を引用する請求項2~11に係る発明も同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 よって、訂正前の請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する取消理由 訂正前の請求項1に係る発明では、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量が10~20カチオン%の範囲であり」、「Ti4+含有量が1~16カチオン%の範囲であり」、「Nb5+含有量が0.5カチオン%以上であり」、「Nb5+含有量に対するTi4+含有量のカチオン比(Ti4+/Nb5+)が2.00以下である」ことが特定されている。 ここで、「Ti4+含有量が1~16カチオン%の範囲であり」との発明特定事項は、Ti4+含有量が16カチオン%である場合に、カチオン比(Ti4+/Nb5+)が2.00以下であることから、Nb5+含有量は8カチオン%(=16カチオン%/2.00)以上であって、Ti4+、Nb5+、W6+及びBi3+の合計含有量は24カチオン%(=16カチオン%+8カチオン%)以上となり、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量が10~20カチオン%の範囲」を満たさなくなるから、他の発明特定事項と矛盾する。 よって、訂正前の請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2~11に係る発明は明確でないから、訂正前の請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3 取消理由の検討 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する取消理由 ア 「Si4+およびB3+の合計含有量」の上限値及び下限値について (ア)本件発明1の組成要件のSi4+及びB3+の合計含有量が下限値(30カチオン%)である場合に、本件発明1の物性要件を満たす酸化物ガラスが得られるかを検討すると、当該下限値に最も近い実施例1における酸化物ガラスは、当該合計含有量が36.97カチオン%の酸化物ガラス(No.6)であって、その物性は、屈折率ndが1.950、アッベ数νdが32.6、偏差ΔPg,Fが-0.0003、屈伏点が759℃であるから、酸化物ガラス(No.6)のSi4+及びB3+の合計含有量を30カチオン%にした場合に、他のカチオン成分を調整して、本件発明1の物性要件を満たすガラス組成が得られるかを検討する。 本件特許明細書には、La3+、Gd3+、Y3+及びYb3+はΔPg,Fを低下させる成分であり、Ti4+、Nb5+、W6+及びBi3+はΔPg,Fを増加させる成分であり、これら合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が1.90未満ではΔPg,Fが増加すること(段落【0026】及び【0027】)が記載され、さらに、Ti4+よりのNb5+のほうがΔPg,Fを増加させる作用が小さいため、ΔPg,Fを低下させる上から、カチオン比(Ti4+/Nb5+)が2.00以下とすることが好ましいこと(段落【0034】)が記載されているから、本件発明1の物性要件のΔPg,Fを満足させるためには、カチオン比((La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))を1.90以上とし、カチオン比(Ti4+/Nb5+)を2.00以下とすることが必要であるといえる。 また、本件特許明細書には、Si4+及びB3+は、ガラスネットワーク形成成分であり、ガラス安定性の維持に効果的な成分であること(段落【0024】)、La3+、Gd3+、Y3+及びYb3+は、高屈折率低分散化成分であること(段落【0026】)、Ti4+、Nb5+、W6+及びBi3+は、高屈折率高分散化成分であること(段落【0027】)、及び、Zn2+は、溶融性や清澄性を改善する成分であること(段落【0053】)が記載され、そして、これらカチオン成分を置換したときの屈折率及びアッベ数の変化量は、例えば、参考文献(山根正之他編、カラス工学ハンドブック、初版第4刷、株式会社朝倉書店、2007年3月30日、第527頁)に、 「 」 と図示されているように、当該成分の酸化物が5質量%置換したときの屈折率及びアッベ数の変化量は技術常識といえる。 そうしてみると、酸化物ガラス(No.6)のガラス組成のSi4+及びB3+の合計含有量を36.97カチオン%から30カチオン%に調整するにあたって、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、カチオン比((La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が1.90以上、及び、カチオン比(Ti4+/Nb5+)が2.00以下との関係を満たしつつ、Si4+及びB3+の一部を、La3+、Gd3+、Y3+、Ti4+、Nb5+、及び、Zn2+に適宜置き換えることよって、本件発明1の物性要件である屈折率nd、アッベ数νd及びΔPg,Fを満たし、Si4+及びB3+の合計含有量が下限値(30カチオン%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、さらに、酸化物ガラス(No.6)の屈伏点(759℃)は、本件発明1の屈伏点を十分な余裕をもって満たしていることから、Si4+及びB3+の合計含有量を下限値(30カチオン%)に調整した酸化物ガラスが、本件発明1の物性要件である屈伏点を満足していることも当業者であれば認識できる。 (イ)次に、本件発明1の組成要件のSi4+及びB3+の合計含有量が上限値(45カチオン%)である場合に、本件発明1の物性要件を満たす酸化物ガラスが得られるかを検討すると、当該上限値に最も近い実施例1における酸化物ガラスは、当該合計含有量が43.14カチオン%の酸化物ガラス(No.18)であって、その物性は、屈折率ndが1.94496、アッベ数νdが32.44、偏差ΔPg,Fが0.0003、屈伏点が732℃であるから、酸化物ガラス(No.18)のSi4+及びB3+の合計含有量を45カチオン%にした場合に、他のカチオン成分を調整して、本件発明1の物性要件を満たすガラス組成となるかを検討する。 上記(ア)で検討したように、本件特許明細書の記載や上記技術常識を踏まえれば、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、酸化物ガラス(No.18)のガラス組成を、カチオン比((La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が1.90以上、及び、カチオン比(Ti4+/Nb5+)が2.00以下との関係を満たしつつ、La3+、Gd3+、Y3+、Ti4+及びNb5+の一部を、Si4+及びB3+に適宜置き換えることよって、本件発明1の物性要件である屈折率nd、アッベ数νd及びΔPg,Fを満たし、Si4+及びB3+の合計含有量が上限値(45カチオン%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、さらに、酸化物ガラス(No.18)の屈伏点(732℃)は、本件発明1の屈伏点を十分な余裕をもって満たしていることから、Si4+及びB3+の合計含有量を上限値(45カチオン%)に調整した酸化物ガラスが、本件発明1の物性要件である屈伏点を満足していることも当業者であれば認識できる。 イ 「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」の上限値及び下限値について (ア)本件発明1の組成要件のLa3+、Gd3+、Y3+及びYb3+の合計含有量が下限値(30カチオン%)である場合に、本件発明1の物性要件を満たす酸化物ガラスが得られるかを検討すると、当該下限値に最も近い実施例1における酸化物ガラスは、当該合計含有量が33.92カチオン%の酸化物ガラス(No.13)であって、その物性は、屈折率ndが1.954、アッベ数νdが33.0、偏差ΔPg,Fが-0.0020、屈伏点が752℃であるから、酸化物ガラス(No.13)のLa3+、Gd3+、Y3+及びYb3+の合計含有量を30カチオン%にした場合に、他のカチオン成分を調整して、本件発明1の物性要件を満たすガラス組成となるかを検討する。 上記ア(ア)で検討したように、本件特許明細書の記載や上記技術常識を踏まえれば、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、酸化物ガラス(No.13)のガラス組成を、カチオン比((La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が1.90以上、及び、カチオン比(Ti4+/Nb5+)が2.00以下との関係を満たしつつ、La3+、Gd3+及びY3+の一部を、Si4+及びB3+に適宜置き換えることよって、本件発明1の物性要件である屈折率nd、アッベ数νd及びΔPg,Fを満たし、La3+、Gd3+、Y3+及びYb3+の合計含有量が下限値(30カチオン%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、さらに、酸化物ガラス(No.13)の屈伏点(752℃)は、本件発明1の屈伏点を十分な余裕をもって満たしていることから、La3+、Gd3+、Y3+及びYb3+の合計含有量を下限値(30カチオン%)に調整した酸化物ガラスが、本件発明1の物性要件である屈伏点を満足していることも当業者であれば認識できる。 (イ)本件発明1の組成要件のLa3+、Gd3+、Y3+及びYb3+の合計含有量が上限値(40カチオン%)である場合に、本件発明1の物性要件を満たす酸化物ガラスが得られるかを検討すると、当該上限値に最も近い実施例1における酸化物ガラスは、当該合計含有量が37.45カチオン%の酸化物ガラス(No.7)であって、その物性は、屈折率ndが1.948、アッベ数νdが33.2、偏差ΔPg,Fが-0.0005、屈伏点が757℃であるから、酸化物ガラス(No.7)のLa3+、Gd3+、Y3+及びYb3+の合計含有量を40カチオン%にした場合に、他のカチオン成分を調整して、本件発明1の物性要件を満たすガラス組成となるかを検討する。 上記ア(ア)で検討したように、本件特許明細書の記載や上記技術常識を踏まえれば、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、酸化物ガラス(No.7)のガラス組成を、カチオン比((La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が1.90以上、及び、カチオン比(Ti4+/Nb5+)が2.00以下との関係を満たしつつ、Si4+及びB3+の一部を、La3+、Gd3+及びY3+に適宜置き換えることよって、本件発明1の物性要件である屈折率nd、アッベ数νd及びΔPg,Fを満たし、La3+、Gd3+、Y3+及びYb3+の合計含有量が上限値(40カチオン%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できるし、さらに、酸化物ガラス(No.7)の屈伏点(757℃)は、本件発明1の屈伏点を十分な余裕をもって満たしていることから、La3+、Gd3+、Y3+及びYb3+の合計含有量を上限値(40カチオン%)に調整した酸化物ガラスが、本件発明1の物性要件である屈伏点を満足していることも当業者であれば認識できる。 ウ 特許異議申立人の意見について (ア)特許異議申立人は、本件発明1の「Si4+およびB3+の合計含有量」が下限値(30カチオン%)である場合には、当該下限値に最も近い実施例1のNo.6の酸化物ガラスよりもガラス安定性が低下するため、当業者が安定的に目的の光学ガラスを作製できず、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明と当業者が認識できない旨を主張している(令和1年7月26日付け意見書の(3-3-1)参照)。 しかしながら、本件発明1の課題は、本件特許明細書の段落【0003】及び【0004】の記載からみて、高屈折率低分散でありながら、偏差ΔPg,F(異常分散性)の小さな光学ガラスでは、高次の色収差を補正するために十分でなかったということであって、ガラス安定性は課題でないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (イ)特許異議申立人は、酸化物ガラスのLa3+、Gd3+、Y3+及びYb3+を減少させる場合には、高屈折率を維持する観点から、Ti4+、Nb5+、Zr4+、Ta5+へ置換させるところ、本件発明1の「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」の下限値(30カチオン%)に最も近い実施例1のNo.13の酸化物ガラスにおいて、最もアッベ数の変動が小さいLa3+からZr4+へ置換を行った場合であっても、アッベ数が32.0~34.0の範囲を満たすことは不可能であるから、本件発明1の「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が下限値(30カチオン%)である場合に、本件発明1の物性要件を満たすガラス組成が存在することは、当業者であっても認識できない旨を主張している(令和1年7月26日付け意見書の(3-3-2)参照)。 しかしながら、本件発明1の組成要件で特定される酸化物ガラスが物性要件を満たすことを検討するにあたっては、組成要件で特定されているカチオン成分で調整すべきことから、特許異議申立人の主張するような、組成要件に含まれないZr4+への置換は行わないし、また、上記イ(ア)で検討したとおり、酸化物ガラス(No.13)のLa3+、Gd3+、Y3+及びYb3+の合計含有量を30カチオン%にした場合に、本件発明1の組成要件で特定されている他のカチオン成分を調整することで、本件発明1の物性要件を満たすガラス組成が得られることは当業者が認識できる。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 エ 小括 以上で検討したとおり、本件発明1の各カチオン成分の数値範囲において、本件発明1の物性要件を満たすガラス組成が存在することを当業者が認識できるから、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 また、本件発明1を引用する本件発明2~11についても同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 よって、特許法第36条第6項第1号に関する取消理由に理由はない。 (2)特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する取消理由 本件発明1では、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量が10~20カチオン%の範囲であり」、「Ti4+含有量が1~13カチオン%の範囲であり」、「Nb5+含有量が0.5カチオン%以上であり」、「Bi3+含有量が0~4カチオン%の範囲であり」、「Nb5+含有量に対するTi4+含有量のカチオン比(Ti4+/Nb5+)が2.00以下である」ことが特定されている。 そして、「Ti4+含有量が1~13カチオン%の範囲」との特定事項が上限値(13カチオン%)である場合に、カチオン比(Ti4+/Nb5+)が2.00以下であることから、Nb5+含有量の下限値は6.5カチオン%(=13カチオン%/2.00)となるものの、W6+含有量の下限値(0カチオン%)及びBi3+含有量の下限値(0カチオン%)を用いたTi4+、Nb5+、W6+及びBi3+の合計含有量は19.5カチオン%となり、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量が10~20カチオン%の範囲」との発明特定事項を満足する。 そうしてみると、本件発明1の「Ti4+含有量が1~13カチオン%の範囲」との特定事項は他の発明特定事項と矛盾しないから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2~11は明確である。 よって、特許法第36条第6項第2項に関する取消理由に理由はない。 4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の検討 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する申立理由 特許異議申立人は、訂正前の請求項1に係る発明の組成要件のうち、「B3+含有量に対するSi4+含有量のカチオン比(Si4+/B3+)」の上下限値、特に下限値は、本件特許明細書の実施例1に記載されたカチオン比(Si4+/B3+)の数値範囲から大きく外れており、ガラスを形成できることを本件特許明細書の記載からは理解できないため、訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない旨を主張している(特許異議申立書の(4-2-1)の「Si4+/B3+の値について」参照)。 しかしながら、本件特許明細書には、Si4+、B3+は、ともにガラスネットワーク形成成分であり、ガラス安定性の維持に効果的な成分であること(段落【0024】)が記載されているし、また、カチオン比(Si4+/B3+)が0である高屈折率低分散の光学ガラスも存在する(例えば、特開2005-97102号公報の実施例14~24、特開2011-225384号公報の実施例1のNo.42~44等を参照)ことから、本件発明1のカチオン比(Si4+/B3+)が下限値(0.05)のガラス組成であっても、ガラスが形成できると当業者が認識できる。 よって、特許異議申立人の主張する申立理由に理由はない。 5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-701046

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