特許異議申立
2018-700976
光学ガラス、熱間成形品およびその製造方法、ならびに光学素子およびその製造方法
- 審判番号
- 2018-700976
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-560805外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年12月03日
- 審決日
- 2019年08月19日
- 公報発行日
- 2019年11月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】HOYA株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】宮園 祐爾
- 分類
- P1651.537-YAA(C03C) / P1651.536-YAA(C03C) / P1651.851-YAA(C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6338537号発明「光学ガラス、熱間成形品およびその製造方法、ならびに光学素子およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6338537号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第6338537号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6338537号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)2月6日(優先権主張 平成25年2月6日 (JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年5月18日にその特許権の設定登録がされ、平成30年6月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、平成30年12月3日付けで特許異議申立人宮園祐爾による請求項1~9に係る特許に対する特許異議の申立てがされ、平成31年1月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成31年4月1日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「先の訂正請求」という。)がされ、その訂正の請求に対して特許異議申立人から令和1年5月9日付けで意見書の提出がされ、令和1年5月21日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である令和1年7月24日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、本件訂正請求により、先の訂正請求は取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における
「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量が35~70質量%の範囲であり、
B2O3とSiO2の合計含有量に対するZnOの含有量の質量比[ZnO/(B2O3+SiO2)]が0.11超であり」との記載を、
「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量が38.20~62.32質量%の範囲であり、
La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%であり、
Ta2O5、WO3、Nb2O5およびBi2O3の合計含有量が11.52質量%以下であり、
TiO2含有量が1.10質量%以下であり、
B2O3とSiO2の合計含有量に対するZnOの含有量の質量比[ZnO/(B2O3+SiO2)]が0.11超であり」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2における
「希土類酸化物 35~60質量%」との記載を、
「希土類酸化物 35.90~60質量%」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2における
「を含み、
B2O3とSiO2の合計含有量に対するZnOの含有量の質量比[ZnO/(B2O3+SiO2)]が0.11超であり」との記載を、
「を含み、
La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%であり、
B2O3とSiO2の合計含有量に対するZnOの含有量の質量比[ZnO/(B2O3+SiO2)]が0.11超であり」に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」を「35~70質量%」から「38.20~62.32質量」に減縮し、さらに、「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」の内訳として、新たに「La2O3とGd2O3との合計含有量」を「35.90~55.87質量%」と特定し、「Ta2O5、WO3、Nb2O5およびBi2O3の合計含有量」を「11.52質量%以下」と特定し、「TiO2含有量」を「1.10質量%以下」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、願書に添付した明細書の段落【0046】の【表1】には、実施例13の光学ガラスの希土類酸化物とTa2O5とWO3とTiO2とNb2O5とBi2O3の合計含有量(Ln2O3+Ta2O5+WO3+TiO2+Nb2O5+Bi2O3)が38.20質量%であり、実施例16の光学ガラスの当該合計含有量が62.32質量であること、実施例13の光学ガラスのLa2O3含有量が35.90質量%及びGd2O3含有量が0質量%(La2O3とGd2O3の合計含有量が35.90質量%)であり、実施例11の光学ガラスのLa2O3含有量が28.40質量%及びGd2O3含有量が27.47質量%(La2O3とGd2O3の合計含有量が55.87質量%)であること、実施例17の光学ガラスのTa2O5含有量が11.52質量%、WO3含有量が0質量%、Nb2O5含有量が0質量%及びBi2O3含有量が0質量%(Ta2O5、WO3、Nb2O5及びBi2O3の合計含有量が11.52質量%)であること、並びに、実施例8の光学ガラスのTiO2含有量が1.10質量%であることが記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2における「希土類酸化物」の合計含有量を「35~60質量%」から「35.90~60質量%」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0046】の【表1】には、実施例13の光学ガラスの希土類酸化物の合計含有量(ΣLn2O3)が35.90質量%であることが記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項2における「希土類酸化物」の合計含有量の内訳として、新たに「La2O3とGd2O3との合計含有量」を「35.90~55.87質量%」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0046】の【表1】には、上記(1)で検討したとおり、La2O3とGd2O3の合計含有量が35.90質量%(実施例13)及び55.87質量%(実施例11)であることが記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項3~9は、訂正前の請求項1を引用するものであり、また、訂正前の請求項2も引用するものであるから、訂正前の請求項1~9は、一群の請求項である。
したがって、訂正事項1~3の特許請求の範囲の訂正は、この一群の請求項1~9について請求されたものである。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~9に係る発明(以下、「本件発明1~9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。
「【請求項1】
P2O5、B2O3および希土類酸化物を必須成分として含み、
酸化物基準のガラス組成において、
P2O5含有量が0質量%超かつ0.79質量%未満の範囲であり、
B2O3含有量が20~40質量%の範囲であり、
ZnO含有量が2~25質量%の範囲であり、
希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量が38.20~62.32質量%の範囲であり、
La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%であり、
Ta2O5、WO3、Nb2O5およびBi2O3の合計含有量が11.52質量%以下であり、
TiO2含有量が1.10質量%以下であり、
B2O3とSiO2の合計含有量に対するZnOの含有量の質量比[ZnO/(B2O3+SiO2)]が0.11超であり、
屈折率ndが1.72~1.83の範囲であり、
アッベ数νdが45~55の範囲であり、かつ
ガラス転移温度Tgが640℃以下である光学ガラス。
【請求項2】
酸化物基準のガラス組成において、
P2O5 0質量%超かつ0.79質量%未満
B2O3 20~40質量%
希土類酸化物 35.90~60質量%
ZnO 2~25質量%
を含み、
La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%であり、
B2O3とSiO2の合計含有量に対するZnOの含有量の質量比[ZnO/(B2O3+SiO2)]が0.11超であり、
屈折率ndが1.72~1.83の範囲であり、
アッベ数νdが45~55の範囲であり、かつ
ガラス転移温度Tgが640℃以下である光学ガラス。
【請求項3】
アルカリ金属酸化物含有量が0~10質量%の範囲である請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
熱間成形に供されるガラスである請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる熱間成形品。
【請求項6】
精密プレス成形用プリフォームである請求項5に記載の熱間成形品。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の光学ガラスを熱間成形することにより成形品を得る工程を含む熱間成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の熱間成形品を精密プレス成形することにより光学素子を得る工程を含む光学素子の製造方法。」
2 取消理由の概要
平成31年1月24日付けの取消理由、及び、令和1年5月21日付けの取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する取消理由
ア 訂正前の請求項1に係る発明の組成要件のうち、「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」は、訂正前の請求項1に係る発明の「屈折率ndが1.72~1.83の範囲であり、アッベ数νdが45~55の範囲であり、かつ、ガラス転移温度Tgが640℃以下である」との物性要件に対して等価な成分の合計含有量を特定したものといえず、さらに、「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」から把握される「La2O3とGd2O3の合計含有量」の下限値や上限値、及び、「Ta2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物の合計含有量」の上限値が、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の実施例1~32に記載された各成分の含有量の数値範囲から大きく外れているため、本件特許明細書の記載や技術常識を考慮しても、訂正前の請求項1に係る発明の各成分の数値範囲において、訂正前の請求項1に係る発明の物性要件を満たす配合組成が存在することを当業者が認識できないから、訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
また、訂正前の請求項2に係る発明の組成要件のうち、「希土類酸化物 35~60質量%」は、訂正前の請求項2に係る発明の「屈折率ndが1.72~1.83の範囲であり、アッベ数νdが45~55の範囲であり、かつ、ガラス転移温度Tgが640℃以下である」との物性要件に対して等価な成分の合計含有量を特定したものといえず、「希土類酸化物 35~60質量%」から把握される「La2O3とGd2O3の合計含有量」の下限値や上限値が、本件特許明細書の実施例1~32に記載された各成分の含有量の数値範囲から大きく外れているため、本件特許明細書の記載や技術常識を考慮しても、訂正前の請求項2に係る発明の各成分の数値範囲において、訂正前の請求項2に係る発明の物性要件を満たす配合組成が存在することを当業者が認識できないから、訂正前の請求項2に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
さらに、訂正前の請求項1又は2に係る発明を引用する請求項3~9に係る発明も同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。
よって、訂正前の請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
イ 先の訂正請求における請求項1に係る発明のうち、「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」の下限値及び上限値、並びに、「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」から把握される「TiO2含有量」の上限値が、本件特許明細書の実施例1~32に記載された含有量の数値範囲から大きく外れているため、本件特許明細書の記載や技術常識を考慮しても、先の訂正請求における請求項1に係る発明の各成分の数値範囲において、当該発明の物性要件を満たす配合組成が存在することを当業者が認識できないから、先の訂正請求における請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
また、先の訂正請求における請求項1に係る発明を引用する請求項3~9に係る発明も同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。
よって、先の訂正請求における請求項1、3~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する取消理由
先の訂正請求における請求項1に係る発明の「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量が35~70質量%の範囲」との発明特定事項は、その下限値(35質量%)において、希土類酸化物であるLa2O3とGd2O3の合計含有量は35質量%以下となるため、「La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%」との発明特定事項と矛盾する。
また、先の訂正請求における請求項2に係る発明の「希土類酸化物 35~60質量%」との発明特定事項は、その下限値(35質量%)において、希土類酸化物であるLa2O3とGd2O3の合計含有量は35質量%以下となるため、「La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%」との発明特定事項と矛盾する。
したがって、先の訂正請求における請求項1及び2に係る発明、並びに、これらを引用する請求項3~9に係る発明は明確でないから、当該請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由の検討
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する取消理由
ア 本件発明1について
(ア)「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物」における物性要件に対する等価な成分について
本件発明1では、「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」と共に、「La2O3とGd2O3との合計含有量」、「Ta2O5、WO3、Nb2O5およびBi2O3の合計含有量」及び「TiO2含有量」が特定されている。
また、これら含有量の差分として、La2O3とGd2O3以外の希土類酸化物の合計含有量も特定されているといえる。
そして、本件特許明細書には、「希土類酸化物は、ガラスの失透安定性を維持しつつ高屈折率低分散特性を付与する作用を有する成分である。」(段落【0015】)、及び、「希土類酸化物としては、上述の効果を良好に得る観点からは、Ln2O3(LnはY、La、Gd、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも一種の希土類元素)を導入することが好ましく、La2O3、Gd2O3の少なくとも一方を導入することがより好ましく、少なくともLa2O3を導入することが更に好ましい。」(段落【0016】)と記載され、また、本件特許明細書の段落【0005】に記載された特開2002-249337号公報(以下、「先行技術文献」という。)には、「La2O3は、ガラスの失透に対する安定性を低下させることなく、分散を高めず、屈折率を高くし、化学的耐久性を向上させる必須成分である」こと(段落【0020】)、「Gd2O3はLa2O3と同様、ガラスの失透に対する安定性や低分散特性を維持させつつ、ガラスの屈折率や化学耐久性を向上させる働きを有する」こと(段落【0021】)、及び、「Y2O3、Yb2O3は高屈折率・低分散の成分として使用され、少量導入する場合、ガラスの屈折率を高くし、化学的耐久性を向上させるが、La2O3やGd2O3に比べて、その効果が小さ」いこと(段落【0030】)が記載されていることから、希土類酸化物は、高屈折率低分散特性を付与する作用を有する成分であって、La2O3とGd2O3は相互に置換可能な成分といえるし、La2O3とGd2O3以外の希土類酸化物も相互に置換可能な成分といえる。
また、本件特許明細書には、「Ta2O5、WO3、TiO2、Nb2O5、Bi2O3は、いずれもガラスの安定性や屈折率を改善するために導入可能な成分である。」こと(段落【0024】)が記載されており、さらに、前記先行技術文献には、「TiO2、Ta2O5、Nb2O5、WO3はいずれもガラスの安定性や屈折率を改善するために使われる成分であるが、それぞれの導入量が8モル%を超えると、分散が大きくなり、失透に対する安定性も低下する」こと(段落【0031】)が記載され、また、Ta2O5、WO3、Nb2O5及びBi2O3は、希土類酸化物に比べて分散を大きくする成分であるとの技術常識を踏まえると、Ta2O5、WO3、Nb2O5及びBi2O3は、屈折率を改善し、高分散特性を付与する成分であって、相互に置換可能な成分といえる。
よって、本件発明1の「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量が38.20~62.32質量%の範囲であり、La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%であり、Ta2O5、WO3、Nb2O5およびBi2O3の合計含有量が11.52質量%以下であり、TiO2含有量が1.10質量%以下であり」との特定事項は、物性要件に対して等価な成分の合計含有量を特定したものといえる。
(イ)「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」の上限値及び下限値について
本件発明1では、「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量が38.20~62.32質量%の範囲であり」と特定されている。
そして、本件発明1の「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」の上限値(62.32質量%)の光学ガラスは、希土類酸化物とTa2O5とWO3とTiO2とNb2O5とBi2O3の合計含有量が62.32質量%である実施例16の光学ガラスであって、その屈折率ndは1.82177、アッベ数νdは45.02、ガラス転移温度Tgは624℃であるから、本件発明1の「屈折率ndが1.72~1.83の範囲であり、アッベ数νdが45~55の範囲であり、かつ、ガラス転移温度Tgが640℃以下である」との物性要件を満たしつつ、「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」が上限値(62.32質量%)であるガラス組成が得られることは、当業者であれば認識できるものである。
また、本件発明1の「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」の下限値(38.20質量%)の光学ガラスは、希土類酸化物とTa2O5とWO3とTiO2とNb2O5とBi2O3の合計含有量が38.20質量%である実施例13の光学ガラスであって、その屈折率ndは1.72043、アッベ数νdは51.52、ガラス転移温度Tgは614℃であるから、本件発明1の物性要件を満たしつつ、「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」が下限値(38.20質量%)であるガラス組成が得られることは、当業者であれば認識できるものである。
(ウ)「La2O3とGd2O3の合計含有量」の上限値及び下限値について
本件発明1では、「La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%であり」と特定されている。
そして、本件発明1の「La2O3とGd2O3との合計含有量」の上限値(55.87質量%)の光学ガラスは、La2O3含有量が28.40質量%、Gd2O3含有量が27.47質量%(La2O3及びGd2O3の合計含有量が55.87質量%)である実施例11の光学ガラスであって、その屈折率ndは1.76887、アッベ数νdは49.96、ガラス転移温度Tgは628℃であるから、本件発明1の物性要件を満たしつつ、「La2O3とGd2O3との合計含有量」が上限値(55.87質量%)であるガラス組成が得られることは、当業者であれば認識できるものである。
また、本件発明1の「La2O3とGd2O3との合計含有量」の下限値(35.90質量%)の光学ガラスは、La2O3含有量が35.90質量%、Gd2O3含有量が0質量%(La2O3及びGd2O3の合計含有量が35.90質量%)である実施例13の光学ガラスであって、屈折率ndが1.72043、アッベ数νdが51.52、ガラス転移温度Tgが614℃であるから、本件発明1の物性要件を満たしつつ、「La2O3とGd2O3との合計含有量」が下限値(35.90質量%)であるガラス組成が得られることは、当業者であれば認識できるものである。
(エ)本件発明1の「Ta2O5、WO3、Nb2O5およびBi2O3の合計含有量」の上限値について
本件発明1では、「Ta2O5、WO3、Nb2O5およびBi2O3の合計含有量が11.52質量%以下であり」と特定されている。
そして、本件発明1の「Ta2O5、WO3、Nb2O5およびBi2O3の合計含有量」の上限値(11.52質量%)の光学ガラスは、Ta2O5含有量が11.52質量%、WO3含有量が0質量%、Nb2O5含有量が0質量%、Bi2O3含有量が0質量%(Ta2O5、WO3、Nb2O5及びBi2O3の合計含有量が11.52質量%)である実施例17の光学ガラスであって、その屈折率ndは1.78860、アッベ数νdは45.57、ガラス転移温度Tgは627℃であるから、本件発明1の物性要件を満たしつつ、「Ta2O5、WO3、Nb2O5およびBi2O3の合計含有量」が上限値(11.52質量%)であるガラス組成が得られることは、当業者であれば認識できるものである。
(オ)本件発明1の「TiO2含有量」の上限値について
本件発明1では、「TiO2含有量が1.10質量%以下であり」と特定されている。
そして、本件発明1の「TiO2含有量」の上限値(1.10質量%)の光学ガラスは、TiO2含有量が1.10質量%である実施例8の光学ガラスであって、その屈折率ndは1.77551、アッベ数νdは48.23、ガラス転移温度Tgは608℃であるから、本件発明1の物性要件を満たしつつ、「TiO2含有量」が上限値(1.10質量%)であるガラス組成が得られることは、当業者であれば認識できるものである。
イ 本件発明2について
(ア)「希土類酸化物」における物性要件に対する等価な成分について
本件発明2では、「希土類酸化物」の合計含有量が特定されると共に、「La2O3とGd2O3との合計含有量」が特定されている。また、これら含有量の差分から、La2O3とGd2O3以外の希土類酸化物の合計含有量も特定されているといえる。
そして、上記ア(ア)で検討したとおり、本件発明2の「希土類酸化物 35.90~60質量%」「を含み、La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%であり」との特定事項は、物性要件に対して等価な成分の合計含有量を特定したものといえる。
(イ)「La2O3とGd2O3の合計含有量」の上限値及び下限値について
本件発明2では、「La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%であり」と特定されている。
そして、本件発明2の「屈折率ndが1.72~1.83の範囲であり、アッベ数νdが45~55の範囲であり、かつ、ガラス転移温度Tgが640℃以下である」との物性要件を満たしつつ、本件発明2の「La2O3とGd2O3との合計含有量」が上限値(55.87質量%)及び下限値(35.90質量%)であるガラス組成が得られることは、上記ア(ウ)での検討と同様に、実施例11及び13の記載から当業者であれば認識できるものである。
ウ 小括
以上で検討したとおり、本件発明1及び2の組成要件は、当該発明の物性要件に対して等価な成分の合計含有量で特定されており、また、本件発明1及び2の各成分の数値範囲において、当該発明の物性要件を満たすガラス組成が存在することを当業者が認識できるから、本件発明1及び2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
また、本件発明1又は2を引用する本件発明3~9についても同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
よって、特許法第36条第6項第1号に関する取消理由は理由がない。
(2)特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する取消理由
本件発明1の「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量が38.20~62.32質量%の範囲」との発明特定事項は、その下限値(38.20質量%)において、希土類酸化物であるLa2O3とGd2O3の合計含有量は最大38.20質量%となるため、「La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%」との発明特定事項と矛盾しない。
また、本件発明2の「希土類酸化物 35.90~60質量%」との発明特定事項は、その下限値(35.90質量%)において、希土類酸化物であるLa2O3とGd2O3の合計含有量は最大35.90質量%となるため、「La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%」との発明特定事項と矛盾しない。
したがって、本件発明1及び2、並びに、これらを引用する本件発明3~9は明確である。
よって、特許法第36条第6項第2号に関する取消理由は理由がない。
4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の検討
(1)特許法第36条第6項第2号に関する申立理由
特許異議申立人は、訂正前の請求項1に係る発明の「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」から把握される各成分の含有量、及び、訂正前の請求項2に係る発明の「希土類酸化物」の合計含有量から把握される各成分の含有量は、実施例1~32に記載されたガラス組成から大きく乖離している組成範囲を含むため、訂正前の請求項1及び2に係る発明の範囲に含むか否かを当業者が理解できず、訂正前の請求項1及び2に係る発明は明確でないから、請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであることを主張している。
そこで検討するに、本件発明1は、
「P2O5、B2O3および希土類酸化物を必須成分として含み、
酸化物基準のガラス組成において、
P2O5含有量が0質量%超かつ0.79質量%未満の範囲であり、
B2O3含有量が20~40質量%の範囲であり、
ZnO含有量が2~25質量%の範囲であり、
希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量が38.20~62.32質量%の範囲であり、
La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%であり、
Ta2O5、WO3、Nb2O5およびBi2O3の合計含有量が11.52質量%以下であり、
TiO2含有量が1.10質量%以下であり、
B2O3とSiO2の合計含有量に対するZnOの含有量の質量比[ZnO/(B2O3+SiO2)]が0.11超であり」との組成範囲が明確に数値限定されているし、また、
「屈折率ndが1.72~1.83の範囲であり、
アッベ数νdが45~55の範囲であり、かつ
ガラス転移温度Tgが640℃以下である」との物性範囲も明確に数値限定されているから、本件特許明細書の実施例の記載に関係なく、任意の光学ガラスが本件発明1に含まれるか否かを当業者が理解できるものである。
また、本件発明2も、
「酸化物基準のガラス組成において、
P2O5 0質量%超かつ0.79質量%未満
B2O3 20~40質量%
希土類酸化物 35.90~60質量%
ZnO 2~25質量%
を含み、
La2O3とGd2O3との合計含有量が35.90~55.87質量%であり、
B2O3とSiO2の合計含有量に対するZnOの含有量の質量比[ZnO/(B2O3+SiO2)]が0.11超であり」との組成範囲が明確に数値限定されているし、また、
「屈折率ndが1.72~1.83の範囲であり、
アッベ数νdが45~55の範囲であり、かつ
ガラス転移温度Tgが640℃以下である」との物性範囲も明確に数値限定されているから、本件特許明細書の実施例の記載に関係なく、任意の光学ガラスが本件発明2に含まれるか否かを当業者が理解できるものである。
よって、本件発明1及び2並びにこれらを引用する本件発明3~9は明確であるから、特許異議申立人の主張する申立理由は理由がない。
(2)特許法第36条第4項第1号に関する申立理由
特許異議申立人は、訂正前の請求項1に係る発明の「希土類酸化物とTa2O5、WO3、TiO2、Nb2O5およびBi2O3からなる群から選ばれる酸化物との合計含有量」から把握される各成分の含有量、及び、訂正前の請求項2に係る発明の「希土類酸化物」の合計含有量から把握される各成分の含有量は、実施例1~32に記載されたガラス組成から大きく乖離している組成範囲を含むため、発明の詳細な説明に記載から訂正前の請求項1~9に係る発明を実施するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を必要とすることから、請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであることを主張している。
そこで検討するに、本件発明1及び2の組成要件は、上記3(1)で検討したとおり、本件特許明細書の実施例の記載に基づき、当業者が通常行う試行錯誤の範囲で、当該発明の物性要件を満たす具体的なガラス組成を決定できる範囲のものとなっているから、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~9を実施できるといえる。
よって、特許異議申立人の主張する申立理由は理由がない。
5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700976