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特許異議申立

2018-700635

透明スクリーンを形成するための塗料、塗料、および、透明スクリーン

審判番号
2018-700635
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-090626
登録番号
特許第6273392号(P6273392)
請求日
2018年07月31日
審決日
2019年04月11日
公報発行日
2019年07月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社アイテック
  • 【権利者代理人】鈴江 正二
  • 【権利者代理人】吉村 哲郎
  • 【異議申立人】猪瀬 則之
審判長/審判官
  • 審判長 川端 修
  • 審判官 木村 敏康
  • 審判官 日比野 隆治
分類
P1651.537-YAA(C09D) / P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項、特許法第29条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6273392号発明「透明スクリーンを形成するための塗料、塗料、および、透明スクリーン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6273392号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第6273392号の請求項1~2及び4に係る特許を維持する。 特許第6273392号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 理 由 第1 手続の経緯 特許第6273392号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成29年4月28日に特願2017-90626号として特許出願され、平成30年1月12日に特許権の設定登録がされ、平成30年1月31日にその特許掲載公報が発行され、その請求項1~4に係る発明の特許に対し、平成30年7月31日に猪瀬則之(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。 平成30年11月30日付け 取消理由通知 平成31年 1月31日   面接 同年 2月 2日差出 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 2月14日   上申書 同年 2月19日付け 訂正請求があった旨の通知 同年 3月25日   意見書(特許異議申立人) 第2 訂正の適否 1.訂正請求の趣旨及び内容 平成31年2月2日差出の訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第6273392号の明細書、及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~16のとおりである(なお、訂正に関連する箇所に下線を付した。)。 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1において 「ジルコニア粒子と、 溶剤と、 前記溶剤が気化すると透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む塗料であって、 黒鉛粒子をさらに含むことを特徴とする透明スクリーンを形成するための塗料。」 とあるのを、訂正後の請求項1において 「ジルコニア粒子と、 溶剤と、 前記溶剤が気化すると透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む塗料であって、 黒鉛粒子をさらに含み、 前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.50%以下であり、 前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下であることを特徴とする透明スクリーンを形成するための塗料。」に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項2において 「ジルコニア粒子と、 溶剤と、 前記溶剤が気化すると透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む塗料であって、 黒鉛粒子をさらに含み、 前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上1.00%以下であり、 前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下であることを特徴とする塗料。」 とあるのを、訂正後の請求項2において 「ジルコニア粒子と、 溶剤と、 前記溶剤が気化すると透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む塗料であって、 黒鉛粒子をさらに含み、 前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.375%以下であり、 前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%が0.625%以上2.5%以下であり、 前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上2.875%以下であることを特徴とする塗料。」に訂正する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 訂正前の請求項4において 「透明シートと、 前記透明シートの表面に形成され入射してくる光を散乱させる光散乱層とを備え、 前記光散乱層が、 ジルコニア粒子と、 透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む透明スクリーンであって、 前記光散乱層が黒鉛粒子をさらに含むことを特徴とする透明スクリーン。」 とあるのを、訂正後の請求項4において 「透明シートと、 前記透明シートの表面に形成され入射してくる光を散乱させる光散乱層とを備え、 前記光散乱層が、 ジルコニア粒子と、 透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む透明スクリーンであって、 前記光散乱層が黒鉛粒子をさらに含み、 前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.50%以下であり、 前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下であることを特徴とする透明スクリーン。」に訂正する。 (5)訂正事項5 訂正前の明細書の段落0010において 「上記課題を解決するために、本発明のある局面に従うと、透明スクリーンを形成するための塗料は、ジルコニア粒子と、溶剤と、被膜形成透明樹脂とを含む。被膜形成透明樹脂は、溶剤が気化すると透明な被膜を形成する。塗料は、黒鉛粒子をさらに含む。」 とあるのを、訂正後の明細書の段落0010において 「上記課題を解決するために、本発明のある局面に従うと、透明スクリーンを形成するための塗料は、ジルコニア粒子と、溶剤と、被膜形成透明樹脂とを含む。被膜形成透明樹脂は、溶剤が気化すると透明な被膜を形成する。塗料は、黒鉛粒子をさらに含む。また、質量和に対する上述した黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.50%以下である。質量和とはジルコニア粒子の質量と黒鉛粒子の質量と被膜形成透明樹脂の質量との和のことである。この場合、質量和に対する黒鉛粒子の質量%と質量和に対するジルコニア粒子の質量%との和が0.635%以上5.5%以下である。」に訂正する。 (6)訂正事項6 訂正前の明細書の段落0012において 「また、本発明のある局面に従うと、塗料は、ジルコニア粒子と、溶剤と、被膜形成透明樹脂とを含む。被膜形成透明樹脂は、溶剤が気化すると透明な被膜を形成する。塗料は、黒鉛粒子をさらに含む。質量和に対する上述した黒鉛粒子の質量%が0.01%以上1.00%以下である。質量和とはジルコニア粒子の質量と黒鉛粒子の質量と被膜形成透明樹脂の質量との和のことである。質量和に対する黒鉛粒子の質量%と質量和に対するジルコニア粒子の質量%との和が0.635%以上5.5%以下である。」 とあるのを、訂正後の明細書の段落0012において 「また、本発明のある局面に従うと、塗料は、ジルコニア粒子と、溶剤と、被膜形成透明樹脂とを含む。被膜形成透明樹脂は、溶剤が気化すると透明な被膜を形成する。塗料は、黒鉛粒子をさらに含む。質量和に対する上述した黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.375%以下である。質量和とはジルコニア粒子の質量と黒鉛粒子の質量と被膜形成透明樹脂の質量との和のことである。質量和に対する上述したジルコニア粒子の質量%が0.625%以上2.5%以下である。質量和に対する黒鉛粒子の質量%と質量和に対するジルコニア粒子の質量%との和が0.635%以上2.875%以下である。」に訂正する。 (7)訂正事項7 訂正前の明細書の段落0014の記載を削除する。 (8)訂正事項8 訂正前の明細書の段落0016において 「本発明の他の局面に従うと、透明スクリーンは、透明シートと、光散乱層とを備える。光散乱層が、ジルコニア粒子と、被膜形成透明樹脂とを含む。被膜形成透明樹脂は、透明な被膜を形成する。光散乱層が黒鉛粒子をさらに含む。」 とあるのを、訂正後の明細書の段落0016において 「本発明の他の局面に従うと、透明スクリーンは、透明シートと、光散乱層とを備える。光散乱層が、ジルコニア粒子と、被膜形成透明樹脂とを含む。被膜形成透明樹脂は、透明な被膜を形成する。光散乱層が黒鉛粒子をさらに含む。ジルコニア粒子の質量と黒鉛粒子の質量と被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.50%以下である。質量和に対する黒鉛粒子の質量%と質量和に対するジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下である。」に訂正する。 (9)訂正事項9 訂正前の段落0068に「実施例9」とあるのを「比較例12」に訂正する。 (10)訂正事項10 訂正前の段落0076に「実施例11」とあるのを「比較例13」に訂正する。 (11)訂正事項11 訂正前の段落0084に「実施例13」とあるのを「比較例14」に訂正する。 (12)訂正事項12 訂正前の段落0100に「実施例17」とあるのを「比較例15」に訂正する。 (13)訂正事項13 訂正前の段落0104に「実施例18」とあるのを「比較例16」に訂正する。 (14)訂正事項14 訂正前の段落0108に「実施例19」とあるのを「比較例17」に訂正する。 (15)訂正事項15 訂正前の段落0112に「実施例20」とあるのを「比較例18」に訂正する。 (16)訂正事項16 訂正前の段落0116に「実施例20」とあるのを「比較例19」に訂正する。 2.訂正事項1~16の適否 (1)訂正事項1 ア.訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「含むことを特徴とする」との記載部分を「含み、前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.50%以下であり、前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下であることを特徴とする」との記載に改めることにより、その「黒鉛粒子の質量%」及び「黒鉛粒子の質量%とジルコニア粒子の質量%との和」を特定の質量%の範囲内にあるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮をしようとするものである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ.拡張又は変更の存否 訂正事項1は、上記「ア.」に示したように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 ウ.新規事項の有無 独立形式で記載された訂正前の請求項2には「透明スクリーンを形成するための塗料」をも包含する上位概念としての「塗料」について「含み、前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上1.00%以下であり、前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下であることを特徴とする」との記載がある。 また、本件特許明細書の段落0013には「質量和に対する黒鉛粒子の質量%が0.01%以上1.00%以下であり、かつ、質量和に対する黒鉛粒子の質量%と質量和に対するジルコニア粒子の質量%との和が0.635%以上5.5%以下である場合、そうでない場合に比べ、被膜形成透明樹脂が透明な被膜を形成した際にその被膜の透明の程度の低下を抑えつつその被膜に形成される映像の輝度を高くできる。」との記載がある。 そして、訂正前の請求項2及び段落0013の記載に記載された上位概念としての「塗料」の下限又は上限の質量%を、用途限定された下位概念としての「透明スクリーンを形成するための塗料」に適用できないとすべき事情は見当たらない。 してみると、質量和に対する黒鉛粒子の「0.01%以上」という下限の質量%、並びに質量和に対する黒鉛粒子とジルコニア粒子の和の「0.635%以上5.5%以下」という下限及び上限の質量%を、訂正後の請求項1の「透明スクリーンを形成するための塗料」の下限及び上限の質量%の設定値とすることは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。 また、本件特許明細書の段落0072には「実施例10…質量和に対する黒鉛粒子の質量%が0.50質量%となる」との記載があるから、訂正前の請求項2及び明細書の段落0013の質量和に対する黒鉛粒子の「1.00%以下」という上限の質量%を、当該実施例10の具体例を根拠に「0.50%以下」とすることは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 ア.訂正の目的 訂正事項2は、訂正前の請求項2の「質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上1.00%以下」との記載にある「1.00%以下」という上限値を「0.375%以下」に減縮し、 訂正前の請求項2の「質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下」との記載にある「5.5%以下」という上限値の値を「2.875%以下」に減縮するとともに、 訂正前の請求項2の「以下であり、前記質量和」との記載部分を「以下であり、前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%が0.625%以上2.5%以下であり、前記質量和」との記載に改めることにより、その「ジルコニア粒子の質量%」を特定の質量%の範囲内にあるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮をしようとするものである。 したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ.拡張又は変更の存否 訂正事項2は、上記「ア.」に示したように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 ウ.新規事項の有無 訂正前の本件特許明細書の段落0014には「質量和に対するジルコニア粒子の質量%が0.625%以上2.5%以下であることが望ましい。この場合、質量和に対する黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.375%以下であることが望ましい」との記載がある。 そして、この場合の「前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和」は、その下限について0.625+0.01=0.635%となり、その上限について2.5+0.375=2.875%と計算される。 してみると、訂正前の請求項2に「前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%が、0.625%以上2.5%以下であり」という事項を導入するとともに、 訂正前の請求項2の「質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上1.00%以下であり」との記載における「1.00%以下」という上限の質量%を「0.375%以下」とし、 訂正前の請求項2の「和が、0.635%以上5.5%以下」との記載における「5.5%以下」という上限の質量%を「2.875%以下」とすることは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。 したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮をしようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 また、訂正事項3は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 そして、訂正事項3は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものではないとはいえず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (4)訂正事項4 ア.訂正の目的 訂正事項4は、訂正前の請求項4の「含むことを特徴とする」との記載部分を「含み、前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.50%以下であり、前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下であることを特徴とする」との記載に改めることにより、その「黒鉛粒子の質量%」及び「黒鉛粒子の質量%とジルコニア粒子の質量%との和」を特定の質量%の範囲内にあるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮をしようとするものである。 したがって、訂正事項4は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ.拡張又は変更の存否 訂正事項4は、上記「ア.」に示したように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 ウ.新規事項の有無 独立形式で記載された訂正前の請求項2には「塗料」について「含み、前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上1.00%以下であり、前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下であることを特徴とする」との記載がある。 また、本件特許明細書の段落0013には「質量和に対する黒鉛粒子の質量%が0.01%以上1.00%以下であり、かつ、質量和に対する黒鉛粒子の質量%と質量和に対するジルコニア粒子の質量%との和が0.635%以上5.5%以下である場合、そうでない場合に比べ、被膜形成透明樹脂が透明な被膜を形成した際にその被膜の透明の程度の低下を抑えつつその被膜に形成される映像の輝度を高くできる。」との記載がある。 そして、同段落0029には「本発明にかかる透明スクリーンの製造方法は特に限定されない。その一例は、上述されたように、透明シートの表面へ本発明にかかる塗料を塗布することである。」との記載がある。 してみると、質量和に対する黒鉛粒子の「0.01%以上」という下限の質量%、並びに質量和に対する黒鉛粒子とジルコニア粒子の和の「0.635%以上5.5%以下」という下限及び上限の質量%を、訂正後の請求項4の「透明スクリーン」の下限及び上限の質量%の設定値とすることは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。 また、本件特許明細書の段落0072には「実施例10…質量和に対する黒鉛粒子の質量%が0.50質量%となる」との記載があるから、訂正前の請求項2及び明細書の段落0013の質量和に対する黒鉛粒子の「1.00%以下」という上限の質量%を、当該実施例10の具体例を根拠に「0.50%以下」とすることは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。 したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (5)訂正事項5~8 ア.訂正の目的 訂正事項5~8の各々は、訂正事項1~4により訂正前の請求項1~4の発明特定事項が限定されたことに伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るために対応する記載を訂正するものであるから、訂正事項5~8は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。 イ.拡張又は変更の存否 訂正事項5~8は、上記「ア.」に示したように「明瞭でない記載の釈明」を目的として明細書の記載を訂正するものであって、この明細書の訂正により「特許請求の範囲」に拡張又は変更が生じるとはいえないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 ウ.新規事項の有無 訂正事項5~8の各々は、訂正事項1~4に伴って「明瞭でない記載の釈明」を目的として明細書の記載を訂正するものであるから、上記(1)~(4)の「ウ.」に示したのと同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (6)訂正事項9~16 ア.訂正の目的 訂正事項9~16は、本件特許明細書中の実施例のうち訂正事項1~4により実施例に該当しなくなったものを比較例に改め、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであるから、訂正事項9~16は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。 イ.拡張又は変更の存否 訂正事項9~16は、本件特許明細書中の実施例に該当しなくなったものを比較例に改めるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 ウ.新規事項の有無 訂正事項6~16は、本件特許明細書中の実施例に該当しなくなったものを比較例に改めるものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 3.訂正の適否のまとめ 以上総括するに、訂正事項1~16による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 第3 本件発明 上記「第2」のとおり本件訂正は容認し得るものであるから、本件訂正により訂正された請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明4」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ジルコニア粒子と、 溶剤と、 前記溶剤が気化すると透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む塗料であって、 黒鉛粒子をさらに含み、 前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.50%以下であり、 前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下であることを特徴とする透明スクリーンを形成するための塗料。 【請求項2】 ジルコニア粒子と、 溶剤と、 前記溶剤が気化すると透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む塗料であって、 黒鉛粒子をさらに含み、 前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.375%以下であり、 前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%が0.625%以上2.5%以下であり、 前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上2.875%以下であることを特徴とする塗料。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 透明シートと、 前記透明シートの表面に形成され入射してくる光を散乱させる光散乱層とを備え、 前記光散乱層が、 ジルコニア粒子と、 透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む透明スクリーンであって、 前記光散乱層が黒鉛粒子をさらに含み、 前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.50%以下であり、 前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下であることを特徴とする透明スクリーン。」 第4 当審の判断 1.取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 訂正前の請求項1~4に係る発明の特許に対して平成30年11月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。 〔理由1〕本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の甲第1号証の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 よって、本件特許の請求項1~4に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。 〔理由2〕本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の甲第1号証及び甲第4号証の刊行物に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件特許の請求項1~4に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。 (2)引用した甲号証及びその記載事項 取消理由通知において引用した甲号証の一覧及びその記載事項は、以下のとおりである。 甲第1号証:国際公開第2016/068087号 甲第2号証:富士通研究所のホームページ(http://www.fujitsu.com/jp/group/labs/resources/tech/techguide/list/graphene/p02.html) 甲第3号証:株式会社日東分析センターのホームページ(https://www.natc.co.jp/result/?id=1467007546-516911&pca=2&ca=7) 甲第4号証:特開2016-78455号公報 甲第1号証の刊行物には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1及び3~4 「[請求項1]第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し、透明樹脂および光散乱材料を含む光散乱層を有する透過型透明スクリーンであって、前記光散乱層が、光吸収材料をさらに含み、ヘーズが、3~30%であり、全光線透過率が、15~95%であり、拡散反射率が、0.1~2.4%である、透過型透明スクリーン。… [請求項3]前記光吸収材料の割合が、前記光散乱層の100質量%のうち0.01~5質量%である、請求項1または2に記載の透過型透明スクリーン。 [請求項4]前記透過型透明スクリーンが、1または2の透明基材の層と前記光散乱層とを有する積層構造を有し、前記第1の面および第2の面の少なくとも一方が前記透明基材の表面である、請求項1~3のいずれか一項に記載の透過型透明スクリーン。」 摘記1b:段落0031~0032及び0034~0037 「[0031](光散乱層)光散乱層34は、透明樹脂32、光散乱材料33および光吸収材料を含む。 [0032]透明樹脂32としては、光硬化性樹脂(光硬化性アクリル樹脂、光硬化性エポキシ樹脂等)の硬化物、熱硬化性樹脂(熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂等)の硬化物、熱可塑性樹脂(ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、トリアセチルセルロース、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート等。そのほか、ポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン、アイオノマー樹脂、エチレン・酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、ETFE、熱可塑性シリコーン等が挙げられる。)が好ましい。… [0034]光散乱材料33としては、酸化チタン(屈折率:2.5~2.7)、酸化ジルコニウム(屈折率:2.4)、酸化アルミニウム(屈折率:1.76)、酸化亜鉛(屈折率:2.0)、硫酸バリウム(屈折率:1.64)、硫化亜鉛(屈折率:2.2)等の高屈折率材料の微粒子;ポーラスシリカ(屈折率:1.3以下)、中空シリカ(屈折率:1.3以下)等の低屈折率材料の微粒子;透明樹脂32との相溶性の低い屈折率が異なる樹脂材料;結晶化した1μm以下の樹脂材料等が挙げられる。光散乱材料は、バインダーとなる樹脂材料と屈折率が異なっていることで光を散乱させる機能を持っている材料である。多くの樹脂材料の屈折率は、1.45~1.65の屈折率を持つため、それらの樹脂材料から0.15以上屈折率が異なることが好ましく、より好ましくは、0.25以上、さらに好ましくは、0.5以上異なることが好ましい。よって、光散乱材料の屈折率は、1.6以上であると良く、1.7以上であると好ましく、1.95以上で有るとより好ましい。また、光散乱材料は、屈折率が1.5以下であると良く、1.4以下で有ると好ましく、光散乱材料の一部に屈折率が1.1~1.0とみなせるような1nm以上の空隙を含んでいるとさらに好ましい。光散乱材料33としては、高屈折率である点から、酸化チタン、酸化ジルコニウムが特に好ましい。 [0035]光散乱材料33の割合は、光散乱層34の100質量%のうち、0.01~5質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましい。光散乱層34の全光線透過率を高く調整するには、光散乱材料33の割合は、光散乱層34の100質量%のうち、0.01~0.1質量%が好ましい。同じ一次粒子径の場合光散乱材料の量が多い方がヘーズが高くなる傾向があるが、この範囲であるとヘーズが好ましい範囲に調整しやすい。 [0036]光吸収材料としては、無機の着色材料としてカーボン系の素材(カーボンブラック、ナノダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等)、チタンブラック、黒色シリカ、および主として銀を含む微粒子材料(例えば銀の窒化物、硫化物および酸化物)等が挙げられる。…光吸収材料は、基板の面内方向に光散乱材料によって散乱され伝搬する光を吸収することで、プロジェクタ等で光を照射していない領域から光が放出されることを防ぐ役割を果たしている。そのことにより画像のコントラストが上がる。また、その作用により、通常上方に配置されている照明からの光が入射しても、多重散乱により透明スクリーン部材から放出される光を抑制することができ、透明性を向上させる役割を果たしている。また、平均1次粒子径が小さいと、同じ素材かつ同じ体積濃度である場合、全光線透過率が低くなりやすい。…光吸収材料の割合は、光散乱層34の100質量%のうち、0.01~5質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましい。また、光学濃度としては、0.05~1の間となる様に透明樹脂の膜厚も併せて調整すると好ましい。透過型透明スクリーンのヘーズを低く、全光線透過率を高く調整するには、光吸収材料の割合は、光散乱層34の100質量%のうち、0.01~0.5質量%が好ましい。 [0037]光吸収材材料の粒子径は、できるだけ小さいことが好ましい。具体的には、光吸収材料が微粒子である場合、微粒子の平均1次粒子径は、1~200nmが好ましく、1~100nmがより好ましく、1~60nmがさらに好ましい。また、光吸収材料の平均1次粒子径は、光散乱材料の平均1次粒子径以下であることが好ましい。光吸収材料の平均1次粒子径と光散乱材料の平均1次粒子径との比(光吸収材料の平均1次粒子径/光散乱材料の平均1次粒子径)は、0.001~1が好ましい。光吸収材料の平均1次粒子径/光散乱材料の平均1次粒子径が前記範囲内であれば、前方散乱方向に光を効率よく取り出すことができ、透明感を維持したまま、スクリーンゲインを上げることができる。  ヘーズ、全光線透過率および透明感のバランスが得られやすい観点から、光吸収材料としては、カーボン系の素材およびチタンブラックが好ましく、カーボンブラックおよびチタンブラックがより好ましい。」 摘記1c:段落0039 「[0039](光散乱シートの製造方法)…光散乱シート30はまた、下記の手順にて製造できる。溶剤、熱融着性樹脂、光散乱材料33および光吸収材料を含む溶液を調整する。第1の透明フィルム31の表面に溶液を塗布し、乾燥させ、その後第2の透明フィルム35を重ね、その後熱融着性樹脂を加熱軟化し冷却することによって、光散乱シート30を得る。」 摘記1d:段落0041~0042及び0049 「[0041](透過型透明スクリーンの光学特性)…スクリーン1のヘーズは、光散乱材料33の濃度を調整したり、…光吸収材料の種類を調整したりすることにより、前記範囲にすることができる光散乱材料33の濃度を低く…すると、ヘーズは小さくなりやすい。 [0042]…スクリーン1の全光線透過率は、主に、光吸収材料の濃度を調整したり、…光吸収材料の種類を調整したりすることにより、前記範囲にすることができる。… [0049]<作用機序> 以上説明したスクリーン1にあっては、光散乱層34が光吸収材料を含むため、光吸収材料によって不要な散乱光が吸収され、スクリーン1全体が白濁して見える現象が抑えられる。具体的には、スクリーン1のヘーズが3~30%となり、全光線透過率が15~95%となり、拡散反射率が0.1~2.4%となる。」 甲第2号証のホームページには、次の記載がある。 摘記2a:「初めて聞く言葉だけど、どういう意味なの?」の欄 「炭素(=カーボン)原子が網目のように六角形に結びついてシート状になっているものをグラフェン(graphene)といいます。例えば、鉛筆の芯の黒鉛は、グラフェンシート1枚1枚のシートが重なり合っています。graphene(グラフェン)という名前はgraphite(グラファイト)の語尾を多くの芳香族炭化水素(ほうこうぞくたんかすいそ)の名前に使われている語尾eneに変えたものです。… 」 摘記2b:「グラフェンのすごいところは?」の欄 「グラフェンの厚さは1ナノ(ナノは10億分の1)メートル程度と極めて薄く、軽くてしなやか、そして透明です。ダイヤモンド並みの強度を持ちながら柔軟に折り曲げることができ、電気の伝導率は銀より高く、熱の伝導率は銅の10倍くらいです。化学耐性や耐熱性の高さからシリコンや貴金属の代替品として注目されています。同じカーボンからできている「カーボンナノチューブ」と特徴がよく似ています。そのため、製品のどこに使うかによって、使いやすい状態のもの(チューブorシート)を選びます。たとえばグラフェンは、薄いシート状を活かしたトランジスタ(チャネル材料)やセンサーなどへの応用に適しています。」 甲第3号証のホームページには、次の記載がある。 摘記3a:「分析事例:グラフェンのAFM観察」の欄 「試料はシリコン基板上にテープ剥離法により転写したグラフェンです。…この数値はグラフェン1層の理論値(0.335nm)に近いことがわかりました。」 甲第4号証の刊行物には、次の記載がある。 摘記4a:段落0001及び0012 「【0001】本発明は、ポリエステルフィルムの少なくとも片側に樹脂層を有する積層フィルムに関する。さらには積層フィルムの樹脂層中に積層膜を設けた積層シートに関する。… 【0012】そこで、本発明では上記の欠点を解消し、易滑性、耐摩耗性、透明性、高屈折率ハードコート層を積層した際の干渉斑の抑制(視認性)、高屈折率ハードコート層との接着性に優れた積層フィルムを提供する。」 摘記4b:段落0047 「【0047】 [粒子(A)および粒子(B)の含有量] 本発明の積層フィルムにおいて、樹脂層における粒子(A)の含有量が樹脂層の質量に対して30質量%以上60質量%以下、粒子(B)の含有量が3質量%以上20質量%以下であることが好ましい。」 摘記4c:段落0201、0211~0212、0221及び0245 「【0201】… <実施例1> はじめに、樹脂組成物1を次の通り調製した。… 【0211】 ・樹脂組成物1: 水系溶媒に、上記の粒子(AC)と粒子(B)とアクリル樹脂(C)、下記オキサゾリン系化合物(D1’)、メラミン系化合物(D2’)この順に添加し、樹脂組成物1’とした。 【0212】 ・オキサゾリン系化合物(D1’): メチルメタクリレート:50質量部 エチルアクリレート:25質量部 スチレン:5質量部 ・メラミン系化合物(D2’):“ニカラック”(登録商標)MW12LF((株)三和ケミカル製) 2-イソプロペニル-2-オキサゾリン:20質量部 上記組成で共重合したオキサゾリン基含有樹脂組成物を、プロピレングリコールモノメチルエーテルと水との混合溶媒(20/80(質量比))に希釈した塗料。… 【0221】 <実施例14~17> 粒子(B)としてグラファイト粒子を用いて、粒子(B)の数平均粒子径および樹脂層厚みを表中に記載の通りとした以外は実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。… 【0245】【表1】 」 摘記4d:段落0252 「【0252】本発明は、透明性、高屈折率ハードコート層を積層した際の干渉斑抑制、高屈折率ハードコート層との密着性、高温高湿下における接着性(湿熱接着性)に加えて易滑性および耐摩耗性に優れた積層フィルムに関するものであり、ディスプレイ用途の光学用易接着フィルムへ利用可能である。さらには積層フィルムの樹脂層中に積層膜を設けた積層シート状態での搬送性に優れる積層シートに関するものであり、ディスプレイ用途やバリア用途の積層体へ利用可能である。」 (3)甲第1号証に記載された発明 摘記1aの「[請求項1]第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し、透明樹脂および光散乱材料を含む光散乱層を有する透過型透明スクリーンであって、前記光散乱層が、光吸収材料をさらに含み、ヘーズが、3~30%であり、全光線透過率が、15~95%であり、拡散反射率が、0.1~2.4%である、透過型透明スクリーン。…[請求項4]前記透過型透明スクリーンが、1…の透明基材の層と前記光散乱層とを有する積層構造を有し、前記第1の面…が前記透明基材の表面である、請求項1…に記載の透過型透明スクリーン。」との記載、 摘記1bの「(光散乱層)光散乱層34は、透明樹脂32、光散乱材料33および光吸収材料を含む。…光散乱材料33としては、酸化チタン(屈折率:2.5~2.7)、酸化ジルコニウム(屈折率:2.4)、酸化アルミニウム(屈折率:1.76)、酸化亜鉛(屈折率:2.0)、硫酸バリウム(屈折率:1.64)、硫化亜鉛(屈折率:2.2)等の高屈折率材料の微粒子;ポーラスシリカ(屈折率:1.3以下)、中空シリカ(屈折率:1.3以下)等の低屈折率材料の微粒子;透明樹脂32との相溶性の低い屈折率が異なる樹脂材料;結晶化した1μm以下の樹脂材料等が挙げられる。…光散乱材料33の割合は、光散乱層34の100質量%のうち、0.01~5質量%が好ましく、…この範囲であるとヘーズが好ましい範囲に調整しやすい。…光吸収材料としては、無機の着色材料としてカーボン系の素材(カーボンブラック、ナノダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等)、チタンブラック、黒色シリカ、および主として銀を含む微粒子材料(例えば銀の窒化物、硫化物および酸化物)等が挙げられる。…光吸収材料の割合は、光散乱層34の100質量%のうち、0.01~5質量%が好ましく、…透過型透明スクリーンのヘーズを低く、全光線透過率を高く調整するには、…0.01~0.5質量%が好ましい。」との記載、及び 摘記1cの「(光散乱シートの製造方法)…溶剤、熱融着性樹脂、光散乱材料33および光吸収材料を含む溶液を調整する。第1の透明フィルム31の表面に溶液を塗布し、乾燥させ、…光散乱シート30を得る。」との記載からみて、甲第1号証には、次の〔甲1発明1〕及び〔甲1発明2〕が記載されているといえる。 〔甲1発明1〕 『透明基材の層の表面に透明樹脂、光散乱材料および光吸収材料を含む光散乱層を形成するように積層した透過型透明スクリーンであって、前記光散乱層はヘーズが、3~30%であり、全光線透過率が、15~95%であり、拡散反射率が、0.1~2.4%であり、光吸収材料としては、カーボン系の素材(カーボンブラック、ナノダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等)、チタンブラック、黒色シリカ、及び主として銀を含む微粒子材料(例えば銀の窒化物、硫化物及び酸化物)等を用い、光散乱材料としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫化亜鉛等の高屈折率材料の微粒子;ポーラスシリカ、中空シリカ等の低屈折率材料の微粒子;透明樹脂との相溶性の低い屈折率が異なる樹脂材料;結晶化した1μm以下の樹脂材料等を用い、光吸収材料の割合は、光散乱層の100質量%に対して0.01~5質量%であり、光散乱材料の割合は、光散乱層の100質量%に対して0.01~5質量%である、透過型透明スクリーン。』 〔甲1発明2〕 『溶剤、透明樹脂、光散乱材料および光吸収材料を含む溶液であって、光吸収材料としては、カーボン系の素材(カーボンブラック、ナノダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等)、チタンブラック、黒色シリカ、及び主として銀を含む微粒子材料(例えば銀の窒化物、硫化物及び酸化物)等を用い、光散乱材料としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫化亜鉛等の高屈折率材料の微粒子;ポーラスシリカ、中空シリカ等の低屈折率材料の微粒子;透明樹脂との相溶性の低い屈折率が異なる樹脂材料;結晶化した1μm以下の樹脂材料等を用い、光吸収材料の割合は、乾燥後の光散乱層全体(透明樹脂、光散乱材料及び光吸収材料)に対して0.01~5質量%であり、光散乱材料の割合は、乾燥後の光散乱層全体に対して0.01~5質量%である、透過型透明スクリーンの透明フィルムの表面に塗布し、乾燥させるための溶液。』 (4)本件発明1と甲1発明2との対比・判断 ア.対比 本件発明1と甲1発明2とを対比する。 甲1発明2の「光散乱材料としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫化亜鉛等の高屈折率材料の微粒子;ポーラスシリカ、中空シリカ等の低屈折率材料の微粒子;透明樹脂との相溶性の低い屈折率が異なる樹脂材料;結晶化した1μm以下の樹脂材料等を用い」は、その「酸化ジルコニウム」等の「高屈折率材料の微粒子」を用いるとの記載からみて、本件発明1の「ジルコニア粒子…を含む」に相当する。 甲1発明2の「溶剤」及び「透明樹脂」の各々は、本件発明1の「溶剤」及び「前記溶剤が気化すると透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂」の各々に相当する。 甲1発明2の「を含む溶液」及び「透過型透明スクリーンの透明フィルムの表面に塗布し、乾燥させるための溶液」の各々は、本件発明1の「を含む塗料」及び「透明スクリーンを形成するための塗料」の各々に相当する。 甲1発明2の「光吸収材料としては、カーボン系の素材(カーボンブラック、ナノダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等)、チタンブラック、黒色シリカ、及び主として銀を含む微粒子材料(例えば銀の窒化物、硫化物及び酸化物)等を用い」と、本件発明1の「黒鉛粒子をさらに含み」とは、両者とも「カーボン系の素材」をさらに含むという点で共通する。 甲1発明2の「光吸収材料の割合は、乾燥後の光散乱層全体(透明樹脂、光散乱材料及び光吸収材料)に対して0.01~5質量%であり」と、本件発明1の「前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上0.50%以下であり」とは、両者とも「前記ジルコニア粒子の質量と前記カーボン系の素材の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記カーボン系の素材の質量%が0.01%以上0.50%以下であり」という点で共通する。 甲1発明2の「光吸収材料の割合は、乾燥後の光散乱層全体(透明樹脂、光散乱材料及び光吸収材料)に対して0.01~5質量%であり、光散乱材料の割合は、乾燥後の光散乱層全体に対して0.01~5質量%である」と、本件発明1の「前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下である」とは、前者の割合が「光吸収材料と光散乱材料の合計の割合は、乾燥後の光散乱層全体(透明樹脂、光散乱材料及び光吸収材料)に対して0.02~10質量%である」となることから、両者とも「前記質量和に対する前記カーボン系の素材の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下である」という点で共通する。 してみると、本件発明1と甲1発明2は『ジルコニア粒子と、溶剤と、前記溶剤が気化すると透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む塗料であって、カーボン系の素材をさらに含み、前記ジルコニア粒子の質量と前記カーボン系の素材の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記カーボン系の素材の質量%が0.01%以上0.50%以下であり、前記質量和に対する前記カーボン系の素材の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下である透明スクリーンを形成するための塗料。』という点において一致し、次の〔相違点α〕~〔相違点γ〕において相違する。 〔相違点α〕カーボン系の素材が、本件発明1は「黒鉛粒子」であるのに対して、甲1発明2は「カーボン系の素材(カーボンブラック、ナノダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等)」の「光吸収材料」である点。 〔相違点β〕ジルコニア粒子の質量とカーボン系の素材の質量と被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対するカーボン系の素材の質量%について、本件発明1では「0.01%以上0.50%以下」であるのに対し、甲1発明2では、乾燥後の光散乱層全体(透明樹脂、光散乱材料及び光吸収材料)に対する光吸収材料の割合は「0.01~5質量%」である点。 〔相違点γ〕前記質量和に対するカーボン系の素材の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和について、本件発明1では「0.635%以上5.5%以下」であるのに対し、甲1発明2では、乾燥後の光散乱層全体(透明樹脂、光散乱材料及び光吸収材料)に対する光吸収材料と光散乱材料の合計の割合は「0.02~10質量%」である点。 イ.判断 (ア)新規性について 上記のとおり、本件発明1と甲1発明2は、上記〔相違点α〕において相違しており、この相違点が実質的な差異ではないといえる事情も見当たらないので、本件発明1は、甲第1号証の刊行物に記載された発明であるとはいえず、上記〔相違点β〕及び〔相違点γ〕について検討するまでもなく、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。 この点に関して、特許異議申立書の第25頁では「甲1発明1の光散乱層は粒子状の光吸収材料を含んでおり、カーボン系の素材としてカーボンブラック、ナノダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等が具体的に列記されている。このうち、グラフェンに関しては、例えば、甲第2号証…に示されているとおり、黒鉛(グラファイト)は、グラフェンシート1枚1枚のシートがファンデルワールス力で重なり合って形成されたものである。然るところ、例えば、甲第3号証…に示されているように、グラフェン1層の厚さは0.335nmであるから、甲第1号証の段落〔0037〕に記載されているように粒子径1~200nmの粒子にすれば、グラフェンが1層単独で存在するということは考えられず、必ず最も安定な形状であるファンデルワールス力積層構造を形成し、多層構造のグラフェン(すなわち、グラファイト)を形成するものと考えられる。 以上のことから、カーボン系の素材としグラフェンを選択した場合の光吸収材料の微粒子は、実質的には黒鉛(グラファイト)粒子であると考える他なく、本件発明4の「黒鉛粒子」と一致することになる。」との主張がなされている。 しかしながら、甲第1号証の段落0085の「(例2)…カーボンブラックの平均1次粒子径:30nm」との記載、同段落0093の「(例22)光吸収材料として平均1次粒子径が75nmのチタンブラック」との記載、及び同段落0037(摘記1b)の「光吸収材料としては、カーボン系の素材およびチタンブラックが好ましく、カーボンブラックおよびチタンブラックがより好ましい。」との記載を参酌しても、甲第1号証には「グラフェン」を「粒子径1~200nmの粒子」や「多層構造のグラフェン」の形態で用いることの記載がなく、「グラフェン」と「黒鉛」とが光吸収材料として等価のものとは直ちにはいえないことから、甲1発明2の「カーボン系の素材」として「黒鉛」が想定されているとはいえない。また、炭素が、芳香族炭化水素となり、グラフェンとなり、重なりあうと、鉛筆の芯(黒鉛)になるということが、必然的に起きると認めるに足る証拠もない。 したがって、上記主張は採用できない。 (イ)進歩性について まず、上記〔相違点α〕について検討する。 甲第1号証の段落0037(摘記1b)の「ヘーズ、全光線透過率および透明感のバランスが得られやすい観点から、光吸収材料としては、カーボン系の素材およびチタンブラックが好ましく、カーボンブラックおよびチタンブラックがより好ましい。」との記載にあるように、甲第1号証には「カーボン系の素材」として「カーボンブラック」や「チタンブラック」がより好ましいと記載され、上述したように、それらと「黒鉛」とは、光吸収材料として等価なものとは直ちにはいえないことから、甲第1号証の「カーボン系の素材」として「黒鉛粒子」を採用する動機付けがあるとはいえない。 また、甲第4号証に記載された発明は「易滑性、耐摩耗性、透明性、高屈折率ハードコート層を積層した際の干渉斑の抑制(視認性)、高屈折率ハードコート層との接着性に優れた積層フィルムを提供する」(段落0012(摘記4a))観点から、「本発明の積層フィルムにおいて、樹脂層における粒子(A)の含有量が樹脂層の質量に対して30質量%以上60質量%以下、粒子(B)の含有量が3質量%以上20質量%以下」(段落0047(摘記4b))とした発明であって、同段落0221(摘記4c)の「粒子(B)としてグラファイト粒子を用いて…積層フィルムを得た」との記載にあるように、その「粒子(B)」として「グラファイト粒子」を用いた発明が記載されている。 しかしながら、甲第1号証の段落0049(摘記1d)の「光散乱層34が光吸収材料を含むため、光吸収材料によって不要な散乱光が吸収され、スクリーン1全体が白濁して見える現象が抑えられる。」との記載にあるように、甲1発明2は「スクリーン全体が白濁して見える現象」を抑えるために「光吸収材料」を用いるものであるところ、甲第4号証に記載の「グラファイト粒子」は、そのような目的で用いるものではないから、甲第1号証の「カーボン系の素材」として甲第4号証の「グラファイト粒子」を用いることに、動機付けがあるとはいえない。 そして、本件特許明細書の段落0017~0018の「光散乱層がジルコニア粒子と黒鉛粒子とを含むことにより、その光散乱層を備える透明スクリーンの全光線透過率とヘイズとの設定の自由度を向上させ得る。…本発明によれば、高い透過視認性を有しており、像を鮮明に映し出すことができ、かつ、スクリーンに映し出される画像の色をその像の光源の色に近づける。」との記載にあるように、本件発明1は「ジルコニア粒子と黒鉛粒子とを含むこと」により、高い透過視認性を有し(透明スクリーンの良好な透明感)、像を鮮明に映し出すことができ(透明スクリーンの映像の濁った感じの抑制)、かつ、スクリーンに映し出される画像の色をその像の光源の色に近づけることができる(透明スクリーンの映像の良好な色バランス)という効果を奏するに至ったものといえる(必要ならば平成31年2月14日付けの上申書に添付された乙第1号証の「実験報告書」の実験結果を参照されたい。)。 このため、上記〔相違点α〕についての本件発明1に係る発明特定事項及び本件発明1によって奏される効果を想到することが当業者にとって容易であるとはいえない。 したがって、上記〔相違点β〕及び〔相違点γ〕について検討するまでもなく、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 この点に関して、特許異議申立人の平成31年3月25日付けの意見書の第5頁では「甲第4号証において重要な点は、実施例14ないし17(段落【0221】)において、粒子(B)としてのグラファイト粒子と粒子(A)としての酸化ジルコニウム粒子との組み合わせによって所望の光学特性が得られるということであって、その配合量の点ではない。すなわち、そもそも甲第1号証において、グラファイト(グラフェン)粒子、酸化ジルコニウム粒子はそれぞれ光吸収材料、光散乱材料の一例としてそれぞれ既に開示されているのであり、甲第4号証においてそれらの組み合わせにより所望の光学特性が得られることが読み取れれば、その配合割合等は、甲第1号証の記載に基づいて適宜設計すればよいというだけの話である。」との主張がなされている。 しかしながら、上記「(ア)新規性について」の項に示したように、甲第1号証に「黒鉛粒子」を用いた発明が記載されているとは認められず、甲第4号証の「所望の光学特性」の内容は、本件特許明細書の段落0002に記載された「透過視認性を損なわずに、透明パーティション等に商品情報や広告等を鮮明に投射表示できる」という特性とは異なるものであるから、甲第1号証及び甲第4号証の記載によっては、本件発明1の構成及び効果を想到することが当業者にとって容易であるとはいえない。 さらに、同意見書の第11~12頁では「仮に乙第1号証の実験データを参酌したとしても、このような不適切な実験結果に基づいて、本件訂正発明の効果を主張し得ないことは明らかである。しかしながら、この実験データから何らかの得られたとしても、それはあくまでジルコニアが粒径が400nm、黒鉛の粒子径が5μmという極限られた態様に関するものに過ぎず、甲第5、6号証のとおり、粒子径が異なればその光特性は大きく異なるのであるから、その作用効果を粒子径の限定が全く存在しない本件訂正発明にまで一般化・抽象化することは出来ない」との主張がなされている。 しかしながら、乙第1号証の実験結果は、本件特許明細書の段落0018に記載された本件発明の効果をうかがわせるものであって、本件発明の効果を主張し得ないとする具体的な根拠は見当たらない。また、甲第5及び6号証は「カーボンブラック」に関するものであるから、本件発明1の「黒鉛粒子」に関する技術と直接関係するものではなく、ジルコニア粒子と黒鉛粒子の大きさを特定しなければ本件発明1の効果が全く得られなくなるといえる具体的な根拠も見当たらない。 したがって、上記意見書の主張は採用できない。 (5)本件発明2と甲1発明2との対比・判断 本件発明2と甲1発明2とを対比すると、上記(4)ア.に示したのと同様な理由により、本件発明2と甲1発明2は 『ジルコニア粒子と、溶剤と、前記溶剤が気化すると透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む塗料であって、カーボン系の素材をさらに含み、前記ジルコニア粒子の質量と前記カーボン系の素材の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記カーボン系の素材の質量%が0.01%以上0.375%以下であり、前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%が、0.625%以上2.5%以下であり、前記質量和に対する前記カーボン系の素材の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上2.875%以下であることを特徴とする塗料。』という点において一致し、次の〔相違点δ〕~〔相違点η〕において相違する。 〔相違点δ〕カーボン系の素材が、本件発明2は「黒鉛粒子」であるのに対して、甲1発明2は「カーボン系の素材(カーボンブラック、ナノダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等)」の「光吸収材料」である点。 〔相違点ε〕ジルコニア粒子の質量とカーボン系の素材の質量と被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対するカーボン系の素材の質量%について、本件発明2では「0.01%以上0.375%以下」であるのに対し、甲1発明2では、乾燥後の光散乱層全体(透明樹脂、光散乱材料及び光吸収材料)に対する光吸収材料の割合は「0.01~5質量%」である点。 〔相違点ζ〕前記質量和に対するジルコニア粒子の質量%が、本件発明2では「0.625%以上2.5%以下」であるのに対して、甲1発明2では、乾燥後の光散乱層全体(透明樹脂、光散乱材料及び光吸収材料)に対する光散乱材料の割合は「0.01~5質量%」である点。 〔相違点η〕前記質量和に対するカーボン系の素材の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和について、本件発明2では「0.635%以上2.875%以下」であるのに対し、甲1発明2では、乾燥後の光散乱層全体(透明樹脂、光散乱材料及び光吸収材料)に対する光吸収材料と光散乱材料の合計の割合は「0.02~10質量%」である点。 上記〔相違点δ〕について、上記(4)イ.に示したのと同様な理由により、本件発明2と甲1発明2は、上記〔相違点δ〕において相違しており、これらの相違点が実質的な差異ではないといえる事情も見当たらないので、上記〔相違点ε〕~〔相違点η〕について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証の刊行物に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。 また、上記〔相違点δ〕についての構成及び効果を想到することが当業者にとって容易であるとはいえないから、上記〔相違点ε〕~〔相違点η〕について検討するまでもなく、本件発明2が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 (6)本件発明4と甲1発明1との対比・判断 本件発明4と甲1発明1とを対比すると、上記(4)ア.に示したのと同様な理由により、本件発明2と甲1発明2は 『透明シートと、前記透明シートの表面に形成され入射してくる光を散乱させる光散乱層とを備え、前記光散乱層が、ジルコニア粒子と、透明な被膜を形成する被膜形成透明樹脂とを含む透明スクリーンであって、前記光散乱層がカーボン系の素材をさらに含み、前記ジルコニア粒子の質量と前記カーボン系の素材の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記カーボン系の素材の質量%が0.01%以上0.50%以下であり、前記質量和に対する前記カーボン系の素材の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下であることを特徴とする透明スクリーン。』という点において一致し、次の〔相違点θ〕~〔相違点κ〕において相違する。 〔相違点θ〕カーボン系の素材が、本件発明4は「黒鉛粒子」であるのに対して、甲1発明1は「カーボン系の素材(カーボンブラック、ナノダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等)」の「光吸収材料」である点。 〔相違点ι〕ジルコニア粒子の質量とカーボン系の素材の質量と被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対するカーボン系の素材の質量%について、本件発明4では「0.01%以上0.50%以下」であるのに対し、甲1発明1では、光散乱層100質量%に対する光吸収材料の割合は「0.01~5質量%」である点。 〔相違点κ〕前記質量和に対するカーボン系の素材の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和について、本件発明4では「0.635%以上5.5%以下」であるのに対し、甲1発明1では、光散乱層100質量%に対する光吸収材料と光散乱材料の合計の割合は「0.02~10質量%」である点。 上記〔相違点θ〕について、上記(4)イ.に示したのと同様な理由により、本件発明4と甲1発明1は、上記〔相違点θ〕において相違しており、これらの相違点が実質的な差異ではないといえる事情も見当たらないので、上記〔相違点ι〕及び〔相違点κ〕について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1号証の刊行物に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。 また、上記〔相違点θ〕についての構成及び効果を想到することが当業者にとって容易であるとはいえないから、上記〔相違点ι〕及び〔相違点κ〕について検討するまでもなく、本件発明4が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 (7)取消理由通知に記載した取消理由についてのまとめ 以上のとおりであるから、取消理由通知において示した理由1及び2には理由がなく、本件発明1、本件発明2及び本件発明4に係る特許が、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるとはいえないから、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものであるとすることはできない。 2.取消理由通知で採用しなかった特許異議申立ての理由について (1)取消理由通知において採用した理由と採用しなかった理由について 特許異議申立人の主張する「申立理由2-1,2(甲第1号証(WO2016/068087)を主引用例とする新規性・進歩性違反)」については、取消理由通知の〔理由1〕及び〔理由2〕として採用している。 そこで、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人の主張する「申立理由1(サポート要件違反)」について以下に検討する。 (2)本件発明1、2及び4の解決しようとする課題 本件発明1、2及び4の解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落0008の記載を含む発明の詳細な説明の記載からみて「透明スクリーンの全光線透過率とヘイズとの設定の自由度を向上させ得る透明スクリーンを形成するための塗料および透明スクリーンの提供」にあるものと認められる。 (3)各成分の配合量について 特許異議申立人は、特許異議申立書の第13~14頁において「高い透過視認性を有し、像を鮮明に映し出すことができ、かつ、スクリーンに映し出される画像の色をその像の光源の色に近づけるという技術的課題を解決するためには、…構成要件2Fの「前記ジルコニア粒子の質量と前記黒鉛粒子の質量と前記被膜形成透明樹脂の質量との和である質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%が0.01%以上1.00%以下であり」という構成、及び構成要件2Gの「前記質量和に対する前記黒鉛粒子の質量%と前記質量和に対する前記ジルコニア粒子の質量%との和が、0.635%以上5.5%以下である」という構成を備えることが必須なのであるから、そのような規定の存在しない本件発明1、4の範囲にまで、本件明細書に記載された作用効果を、一般化ないし抽象化できるとは認められない。」との主張をしている。 この点について検討するに、訂正後の本件発明1及び4は、上記構成要件2F及び2Gに対応する事項を発明特定事項として具備するものであるから、当該「各成分の配合量」について主張されているサポート要件違反の理由は成り立たない。 したがって、本件発明1及び4に係る特許が、特許法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるとはいえないから、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものであるとすることはできない。 (4)各成分の平均粒子径について 特許異議申立人は、特許異議申立書の第14~16頁において「本件明細書の実験により結論付けられた本件発明の課題を解決するための質量条件(構成要件2F、2Gないし構成要件3H、3F)は、あくまでもジルコニア粒子の平均粒径400ナノメートル、黒鉛粒子の平均粒径5マイクロメートルに調整した場合にのみその技術的意味を有するものであって、平均粒子径に関する規定が全く存在しない本件発明の構成にまで一般化・抽象化しうるものでないことは明らかである。」との主張をしている。 この点について検討するに、本件特許明細書の段落0023には「ジルコニア粒子の大きさおよび形状は特に限定されない。」と記載され、同段落0024には「黒鉛粒子の大きさおよび形状も特に限定されない。」と記載され、ジルコニア粒子と黒鉛粒子の平均粒子径は発明特定事項(特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項)として特許請求の範囲に記載されていない。 そして、訂正後の本件特許明細書の段落0033~0163には、実施例及び比較例での実験結果が示され、同段落0164の「実施例にかかる透明スクリーンの効果の説明」には「光散乱層に対してジルコニア粒子に加えて黒鉛粒子を含ませることで、光散乱層に対してジルコニア粒子のみ含ませる場合に比べ、全光線透過率の設定が容易になる」ことが記載されている。 また、ジルコニア粒子や黒鉛粒子の粒径によって透明スクリーンの透過率やヘイズの設定ができなくなるとする技術常識は見当たらない。 してみると、上記「透明スクリーンの全光線透過率とヘイズとの設定の自由度を向上させ得る透明スクリーンを形成するための塗料および透明スクリーンの提供」という課題は、ジルコニア粒子と黒鉛粒子を併用することによって専ら解決できると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から認識できるものであり、各成分の平均粒子径の範囲をも特定しなければ課題解決の達成が全くできなくなるとまでは認識できない。 また、特許異議申立人は、甲第1号証の段落0035及び0037の記載を根拠に「光吸収材料と光散乱材料の平均1次粒子径の比率も、その光学特性に大きな影響を与えることが読み取れる。」との主張をしているが、甲第1号証においても「粒子径」は単に好ましい範囲として説明されているにすぎないので、甲第1号証の記載を参酌しても、各成分の粒子径の比率が透過率やヘイズといった光学特性の設定に多大な影響を与えるとまでは認識できず、本件発明1、2及び4がサポート要件に違反するとは認められない。 したがって、本件発明1、2及び4に係る特許が、特許法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるとはいえないから、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものであるとすることはできない。 第5 まとめ 以上総括するに、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては本件発明1、2及び4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に、本件発明1、2及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、訂正前の請求項3は削除されているので、請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-700635

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