特許異議申立
2018-700621
用水の処理方法
- 審判番号
- 2018-700621
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-220654
- 登録番号
- 特許第6278226号(P6278226)
- 請求日
- 2018年07月27日
- 審決日
- 2019年02月04日
- 公報発行日
- 2019年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三浦工業株式会社
- 【権利者代理人】市川 恒彦
- 【異議申立人】安川 勤
- 【異議申立人】高橋 勇
- 審判長/審判官
- 審判長 豊永 茂弘
- 審判官 橋本 憲一郎
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.121-Y (C02F) / P1651.536-Y (C02F) / P1651.537-Y (C02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6278226号発明「用水の処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6278226号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6278226号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成26年3月27日に出願した特願2014-67265号の一部を平成29年11月16日に新たな特許出願としたものであって、平成30年1月26日にその特許権の設定登録がされ、同年2月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その全請求項に係る特許について、同年7月27日付けの特許異議の申立てが安川勤(以下、「異議申立人(安川)」という。)より、また、同年8月10日付けの特許異議の申立てが高橋勇(以下、「異議申立人(高橋)」という。)よりされ、当審より同年10月23日付けの取消理由を通知したところ、同年12月22日付けの意見書が特許権者より提出されたものである。
第2 本件の発明について
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明6」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定される以下のものである。
「【請求項1】
カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体とスルホン化ピレン系化合物とを含み、かつ、pHが2以下に調整されている水処理剤を用水に対して添加する、用水の処理方法。
【請求項2】
前記水処理剤に含まれる前記スルホン化ピレン系化合物がピレンテトラスルホン酸およびピレンテトラスルホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1に記載の用水の処理方法。
【請求項3】
前記水処理剤がホスホン酸およびホスホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つのホスホン酸系化合物をさらに含む、請求項1または2に記載の用水の処理方法。
【請求項4】
前記水処理剤がアゾ-ル系化合物をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の用水の処理方法。
【請求項5】
前記アゾ-ル系化合物が1,2,3-ベンゾトリアゾールである、請求項4に記載の用水の処理方法。
【請求項6】
日光の照射環境下において前記水処理剤を前記用水に対して添加する、請求項1から5のいずれかに記載の用水の処理方法。」
第3 当審の取消理由について
1 当審の取消理由(特許法第36条第6項第1号)
当審の取消理由(概略)は、『実験例(試験用水処理剤(1))の1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム塩(スルホン化ピレン化合物)の残存率は76%程度であるのに対して、比較例の1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム塩(スルホン化ピレン化合物)の残存率は78.8%であることについて、実験例は、「カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とを含み、pHが2以下に調整され」るという発明特定事項を満たすにもかかわらず、スルホン化ピレン系化合物の劣化が、比較例よりも大きいものであるので、本件課題を解決するものであるとはいえない。したがって、本件請求項1ないし6の記載は、当業者が本件課題を解決することができない場合を含むものであるので、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものではない。』というものである。
2 当審の判断
本件発明が解決しようとする課題(以下、「本件課題」という。)は、「本発明は、カルボン酸やカルボン酸塩を単量体単位として有する水溶性重合体とスルホン化ピレン系化合物とを含む水処理剤について、日光の照射環境下でのスルホン化ピレン系化合物の劣化を抑制しようとするものである。」(【発明が解決しようとする課題】【0008】)との記載からして、「カルボン酸やカルボン酸塩を単量体単位として有する水溶性重合体とスルホン化ピレン系化合物とを含む水処理剤について、日光の照射環境下でのスルホン化ピレン系化合物の劣化」にあるということができる。
ここで、発明の詳細な説明の【0032】ないし【0038】からして、実験例の水処理剤と、比較例の水処理剤とは、その成分内容が異なっているので、実験例におけるpHと残存率の関係と、比較例におけるpHと残存率の関係のそれぞれは、独立して検討されるべきものであり、両者の残存率(数値)を単純に比較することはできない、というべきである。
また、実験例におけるpHと残存率の関係は、【図1】からして、pHが低くなると残存率は高くなるということができ、さらに、同一の水処理剤を使用する比較例と実施例1、2におけるpHと残存率との関係は、pHが比較例(pH2.6)→実施例2(pH2.0)→実施例1(pH0.7)の順に低くなるにつれ、残存率は比較例(78.8%)→実施例2(85.7%)→実施例1(87.4%)の順に高くなっており、pHが低くなると残存率は高くなるということができる。
つまり、発明の詳細な説明は、本件課題の「カルボン酸やカルボン酸塩を単量体単位として有する水溶性重合体とスルホン化ピレン系化合物とを含む水処理剤について、日光の照射環境下でのスルホン化ピレン系化合物の劣化」について、pHを低くすることで本件課題が解決し得ることを定性的に示すものであり、また、比較例(pH2.6)→実施例2(pH2.0)の残存率の向上ペースに比べて、実施例2(pH2.0)→実施例1(pH0.7)の残存率の向上ペースが小さくなっていることからみて、pH2以下において、残存率がほぼ上限レベルになることを示すものである、ということができる。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明において、「pHが2以下に調整され」ることで、本件課題が解決され得るものであるとして記載されているということができるので、実験例におけるスルホン化ピレン系化合物の劣化が比較例よりも大きいとしても、本件請求項1ないし6の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである、ということができる。
したがって、当審の取消理由に理由はない。
第4 異議申立人(安川)の申立理由について
1 申立理由について
特許異議申立人(安川)が特許異議申立書において主張する申立理由の概略は、以下のとおりである。
(1)特許法第29条第2項(以下、「申立理由A」という。)
本件発明1ないし6は、甲第1号証記載の発明及び甲第2ないし14号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
甲第1号証:特開2012-41606号公報
甲第2号証:特開平6-289008号公報
甲第3号証:特開平6-343949号公報
甲第4号証:特表2003-532049号公報
甲第5号証:特開2013-72741号公報
甲第6号証:特表2003-513979号公報
甲第7号証:特開平6-57460号公報
甲第8号証:特表2005-515891号公報
甲第9号証:特開平9-94598号公報
甲第10号証:特開平7-109587号公報
甲第11号証:製品カタログ(ハイクリーンTR/MR)、東西化学産業株式会社
甲第12号証:製品安全データシート(ハイクリーンMR-110)、東西工業株式会社、2004年11月1日
甲第13号証:加藤雅敏、「3D TRASAR-淡水冷却水システムの包括管理」、石油学会第36回装置研究討論会、平成17年12月、pp.50-53
甲第14号証:特表2007-545402号公報
なお、甲第15号証は、本件の特許公報である。
(2)特許法第36条第6項第1号、第2号及び同条第4項第1号(以下、「申立理由B」という。)
本件請求項1における「pHが2以下に調整されている」との記載は、少なくともpHを2.1、2.2、2.3、2.4又は2.5とすることも含まれる意味となり得るところ、実施例にはpHを0.7、2.0又は2.6とした例しか記載されていない。また、実験例はpHを1.3とした場合でも蛍光強度の残存率85%以上を確保していないから、請求項と実施例との記載は対応していない。以上のことから、本件請求項1における「pHが2以下に調整されている」は明確な根拠がないものであるから、本件請求項1ないし6に係る発明はサポート要件違反であり、本件請求項1ないし6に係る発明は不明確であり、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常知識を有する者が本件請求項1ないし6の実施をできる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
2 当審の判断
(1)申立理由Aについて
甲第1号証には、以下の記載がある。
(甲1-1)「【請求項2】
(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸と硝酸の酸混合物を加えてpHを0.0から2.5に調整し、かつ、亜鉛とアルカリ金属の合計量に対する硫酸と硝酸の合計量の当量比が0.7以上~1.0未満である腐食及びスケール防止用液体組成物を添加することを特徴とする水系における鉄系金属と銅系金属の腐食及びスケールを防止する方法。」
(甲1-2)「【0035】
本発明で使用されるマレイン酸系重合体は、ホモマレイン酸重合体およびマレイン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。」
上記(甲1-1)ないし(甲1-2)より、甲第1号証には、
「(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体[ホモマレイン酸重合体およびマレイン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体]、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸と硝酸の酸混合物を加えてpHを0.0から2.5に調整し、かつ、亜鉛とアルカリ金属の合計量に対する硫酸と硝酸の合計量の当量比が0.7以上~1.0未満である腐食及びスケール防止用液体組成物を添加する、水系における鉄系金属と銅系金属の腐食及びスケールを防止する方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
ここで、甲1発明において、「マレイン酸系重合体[ホモマレイン酸重合体およびマレイン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体]」を必須として含む「水性混合物」は、本件発明1の「カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体」に一応相当し、
甲1発明の「pHを0.0から2.5に調整」は、本件発明1の「pHが2以下に調整」に一応相当し、
甲1発明の「腐食及びスケール防止用液体組成物」は、本件発明1の「水処理剤」に相当し、
甲1発明の「水系における鉄系金属と銅系金属の腐食及びスケールを防止する方法」は、本件発明1の「用水の処理方法」に相当するから、
本件発明1と甲1発明とは、「カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体を含み、pHが2以下に調整されている水処理剤を用水に対して添加する、用水の処理方法。」という点で一応一致するものの、少なくとも以下の点で相違している。
<相違点>
本件発明1の水処理剤は、「スルホン化ピレン系化合物」を含むのに対して、甲1発明は、当該化合物を含まない点。
上記相違点について検討する。
甲第2号証には、蛍光種(トレーサ)として1,3,6,8ーピレンテトラスルホン酸等のスルホン化ピレン誘導体の水溶性塩を使用することが記載され、甲第3号証には、不活性トレーサとして1,3,6,8ーピレンテトラスルホン酸(スルホン化ピレン系化合物)を使用することが記載され、甲第4号証には、不活性蛍光トレーサとして1,3,6,8ーピレンテトラスルホン酸を使用することが記載され、甲第5号証には、蛍光トレーサとして1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸を使用することが記載され、甲第6号証には、不活性トレーサとして1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸テトラナトリウム塩を使用することが記載され、甲第14号証には、不活性蛍光トレーサとして1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム塩を使用することが記載されているが、いずれの文献にも、蛍光種(トレーサ)を添加する処理剤のpHを2以下とすることについて記載も示唆もない。なお、その余の甲号証には、上記相違点に関する記載はない。
そうすると、甲1発明においてpHが2以下に調整されている場合に、甲第2、3、4、5、6又は14号証記載の蛍光種(トレーサ)を使用したものが、本件発明1の「本発明の水処理剤は、カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とを含むものでありながら、pHが2以下に調整されているため、日光の照射環境においてもスルホン化ピレン系化合物が劣化しにくい。」(【発明の効果】【0013】)との効果を奏することは、いずれの文献からも当業者が予測し得たことではない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2ないし14号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
そして、本件発明2ないし6は、本件発明1と同じく、「スルホン化ピレン系化合物」を含む水処理剤を用いる方法であるから、甲1発明及び甲第2ないし14号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
よって、申立理由Aに理由はない。
(2)申立理由Bについて
発明の詳細な説明の実施例2(pH2.0)に対する比較例のpHは2.6であり、あくまでも、実施例2のpHは2.0であることからして、本件請求項1の「pHが2以下に調整されている」との記載における「pHが2以下」は、「pHが2.0以下」であると解釈するのが適当であるから、当該記載は明確であって、異議申立人(安川)の「少なくともpHを2.1、2.2、2.3、2.4又は2.5とすることも含まれる意味となり得る」との指摘は当を得ないものである。
また、上記「第3」の「2」で示したように、「実験例の水処理剤と、比較例の水処理剤とは、その成分内容が異なっているので、実験例におけるpHと残存率の関係と、比較例におけるpHと残存率の関係のそれぞれは、独立して検討されるべきものであり、両者の残存率(数値)を単純に比較することはできない、というべきである」ことから、異議申立人(安川)の「実験例はpHを1.3とした場合でも蛍光強度の残存率85%以上を確保していないから、請求項と実施例との記載は対応していない」との指摘は当を得ないものである。
そうすると、異議申立人(安川)の「本件請求項1ないし6に係る発明はサポート要件違反であり、本件請求項1ないし6に係る発明は不明確であり、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常知識を有する者が本件請求項1ないし6の実施をできる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない」との主張を採用することはできない。
したがって、申立理由Bに理由はない。
(3)小括
上記(1)及び(2)より、異議申立人(安川)の申立理由により、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
第5 異議申立人(高橋)の申立理由について
1 申立理由について
特許異議申立人(高橋)が特許異議申立書において主張する申立理由の概略は、以下のとおりである。
(1)特許法第29条第2項(以下、「申立理由C」という。)
本件発明1ないし6は、甲第1ないし6号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。(当審注:甲各号証の表記について、異議申立人(安川)の甲各号証との混同を避けるため、甲第○’号証と表記することにする。)
甲第1’号証:特開平7-308516号公報
甲第2’号証:特表2007-535402号公報
甲第3’号証:特表2013-531705号公報
甲第4’号証:特開2008-56644号公報
甲第5’号証:特開2014-36912号公報
甲第6’号証:特開平8-5283号公報
2 当審の判断
(1)甲各号証記載の発明
ア 甲第1’号証記載の発明
甲第1’号証には、以下の記載がある(「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(甲1’-1)「【請求項1】 水系の水の中の高分子電解質の濃度の監視及び/又は調節方法であって、次の過程を含んでなる方法:
・水のサンプルを採取し、
・前記サンプルに蛍光色薬剤を既知又は標準の量で添加し、
・前記蛍光色薬剤について選択した励起波長の光エネルギーを前記サンプルに導き、前記光エネルギーは前記蛍光色薬剤による吸収に利用され、
・前記蛍光色薬剤について選択した発光波長の付近で、発光した光の強度を測定し、
・前記発光強度を標準曲線と比較し、前記標準曲線は、前記高分子電解質の濃度と、前記高分子電解質の存在下での前記蛍光色薬剤の蛍光発光強度のプロットであり、そして
・比較によって前記水サンプル中の高分子電解質の濃度を求める。」
(甲1’-2)「【請求項13】 不活性トレーサーを、前記高分子電解質に対して既知の割合で前記水系に添加し、前記添加箇所から離れた箇所でかつ添加時点から後の時点で、前記水系の中の不活性トレーサーに有効な分析法で前記不活性トレーサーの前記水系の中での濃度を測定し、前記高分子電解質の濃度を不活性トレーサーの測定濃度から算出する請求項1に記載の方法。」
(甲1’-3)「【0043】本発明の方法に使用するに好ましい不活性蛍光トレーサーのもう1つの群は、ピレンの各種スルホン化誘導体、例えば1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸、そのスルホン化ピレン誘導体の各種水溶性塩である。不活性トレーサーは、・・・殆どの場合、配合された高分子電解質生成物に添加した又は本発明の方法のために主たる及び/又は唯一の目的で水系に比例的に添加した化合物である。」
(甲1’-4)「【0065】上記のように、活性な水処理剤として使用する高分子電解質にはスケール抑制剤、腐食防止剤、分散剤、界面活性剤、消泡剤、凝集剤等がある(これらの分類に限定されるものではない)。これらの高分子電解質水処理剤は、限定されるものではないが、合成の水溶性ポリマーであることができる。次に記載する高分子電解質水処理剤は代表的なものであり、限定されるものではない。
【0066】スケール防止プログラムは通常は多成分抑制剤、例えば高分子電解質を高分子の結晶改質剤/分散剤と一緒に使用するが、1成分だけの活性成分配合物や全ポリマープログラムも周知である。高分子のスケール抑制剤成分は、最も一般にはマレイン酸ポリマーとその塩、(メタ)アクリル酸ポリマーとその塩、スルホン化ポリマー、例えばスルホン化スチレン又はスルホン化N-アルキル置換(メタ)アクリルアミドモノマー単位とその塩を含むポリマー、及び複数のアニオン系モノマー単位を含むポリマーである。」
(甲1’-5)「【0099】
・・・適切なマスキング剤を2つ挙げると、水酸化ナトリウム水溶液でpH7に中和したエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)とホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)である。カルシウム及び/又はマグネシウムが存在してマスキング剤が存在しない場合、染料薬剤とアニオン系ポリマーとの蛍光色応答は障害される・・・」
(甲1’-6)「【0100】例3
・・・最初にアニオン系ポリマーを添加し、1mlの体積中の活性当量を表に示した(表2~3の欄2)。次いでキレート剤(pH7)を、表に示した1mlの体積中の活性濃度で添加した。・・・」
(甲1’-7)「【0103】例4
・・・次にキレート剤(水酸化ナトリウムでpH7に中和)を1ml体積中に10000ppmの活性当量の濃度で添加した。・・・」
(甲1’-8)「【0105】例5
・・・図3に示すように、pHが約5のとき蛍光強度の増加は約45%であり、ここで図3は、ブランク(染料のみ)、ポリマーA(ポリメタクリル酸)、ポリメタクリル酸ではないポリマーB、ポリマーCの存在中の蛍光薬剤ににいての発光強度と波長(発光スペクトル)のプロットである。・・・」
上記(甲1’-1)ないし(甲1’-8)より、甲第1’号証には、
「高分子のスケール抑制剤成分(マレイン酸ポリマーとその塩、(メタ)アクリル酸ポリマーとその塩)と、不活性蛍光トレーサー(ピレンの各種スルホン化誘導体、例えば1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸、そのスルホン化ピレン誘導体の各種水溶性塩)とを含む水処理剤を水系に添加する、水系の水の中の高分子電解質の濃度の監視及び/又は調節方法。」(以下、「甲1’発明」という。)が記載されているものと認める。
イ 甲第2’号証記載の発明
甲第2’号証には、以下の記載がある。
(甲2’-1)「【請求項1】
冷却水装置の1ドラム式制御方法であって、次の工程を含むことを特徴とする1ドラム式制御方法:
(1)冷却水装置の水中における蛍光ポリマーの消費率を決定する工程であって、ファウリング指数計算式、スケール指数計算式、又はタワースケール指数計算式を用いて、学習期間において、不連続の間隔で該消費率を算出し、次の工程を含む工程
a)冷却水装置を用意する工程;
b)水処理薬品を用意する工程であって、
(i)該水処理薬品は、少なくとも1種の蛍光ポリマー、少なくとも1種の不活性蛍光トレーサー、及び任意でその他の水処理剤を含む水処理薬品であり、
・・・
(iii)該水処理薬品には、該不活性蛍光トレーサーが、該水処理薬品のその他全ての成分に対して、公知の割合で存在し、
・・・
c)該水処理薬品を該冷却水装置の水の中へ添加する工程・・・」
(甲2’-2)「【0050】
一般的な炭酸カルシウム用のスケール制御薬品は、・・・ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸、無水マレイン酸/アクリル酸エチル/アクリル酸ビニルターポリマー、及び、アルキルエポキシカルボン酸塩(略して「AEC」)等の有機ポリマー;・・・からなる群より選択される。・・・
【0051】
特許請求の範囲に記載の本発明の第一の態様の水処理薬品、又は、特許請求の範囲に記載の本発明の第二の態様の腐食防止薬品のいずれかと共に、特許請求の範囲に記載の本発明に好適に用いられる不活性蛍光トレーサーとしては、以下のものが挙げられる:1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸,四ナトリウム塩(CAS登録番号59572-10-0);・・・スルホン酸化スチルベン-トリアゾール蛍光増白剤及びその塩。」
上記(甲2’-1)及び(甲2’-2)より、甲第2号証には、
「ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸、無水マレイン酸/アクリル酸エチル/アクリル酸ビニルターポリマー、及び、アルキルエポキシカルボン酸塩等の有機ポリマーと、不活性蛍光トレーサー(例えば、1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸,四ナトリウム塩)を含む水処理薬品を冷却水装置の水に添加する、冷却水装置の制御方法。」(以下、「甲2’発明」という。)が記載されているものと認める。
ウ 甲第3’号証記載の発明
甲第3’号証には、以下の記載がある。
(甲3’-1)「【請求項1】
AA-AMPSコポリマーとPMAとを含む組成物。」
(甲3’-2)「【請求項4】
有効量の蛍光体を更に含み、任意選択的に該蛍光体が少なくともPTSAを含有する、請求項1に記載の組成物。」
(甲3’-3)「【請求項10】
膜システムを通過する供給流からスケールが生成及び堆積するのを抑制する方法であって、
c.該供給流のpHを約7.0と約10の間の範囲内に随意に制御する工程、
d.該膜システムがROシステム、NFシステム、EDシステム、EDIシステム又はそれらの組合せである場合に、該供給流の温度を約5℃~約40℃の間の範囲内に随意に制御する工程、
e.該膜システムがMDシステムである場合に、該供給流の温度を約40℃と約80℃の間の範囲内に随意に制御する工程、及び
f.請求項1に記載の組成物の有効量を該供給流に添加する工程、
を含む、スケールの生成及び堆積抑制方法。」
(甲3’-4)「【0011】
AA:アクリル酸。
AMPS:2-アクリルアミド,2-メチルプロピルスルホン酸。
・・・
PMA:ポリマレイン酸。
PTSA:ピレンテトラスルホン酸及び/又はその誘導体。
・・・」
(甲3’-5)「【0049】
本発明の方法では、供給流/水系に適用される組成物を監視及び/又は制御するためにトレーサーを利用することができる。トレーサー及び/又は標識化学種、すなわちAA-AMPSの標識化学種に関する方法論を、この機能を実現するために利用することができる。」
上記(甲3’-1)ないし(甲3’-5)より、甲第3’号証には、
「AA(アクリル酸)-AMPS(2-アクリルアミド,2-メチルプロピルスルホン酸コポリマー)とPMA(ポリマレイン酸)と、少なくともPTSA(ピレンテトラスルホン酸及び/又はその誘導体)を含有する蛍光体を含む組成物を膜システムを通過する供給流に添加する、供給流/水系に適用される組成物を監視及び/又は制御する方法。」(以下、「甲3’発明」という。)が記載されているものと認める。
エ 甲第4’号証記載の発明
甲第4’号証には、以下の記載がある。
(甲4’-1)「【請求項2】
・・・pHが1.5以下に調整されていることを特徴とする水処理剤。
【化2】・・・」
(甲4’-2)「【請求項6】
さらに、カルボン酸系ポリマーを含有してなる、請求項1~5のいずれかに記載の水処理剤。」
(甲4’-3)「【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌力と安定性に優れた水処理剤に関する。」
(甲4’-4)「【0013】
また、本発明に係る水処理剤においては、水処理剤自体のCODが60(gO/L)以下であることが好ましい。また、ニトロアルコール類以外の有機溶媒の総量が1%以下であることが好ましい。pHが1.5以下に調整されていることにより、有機溶媒の総量が1%以下に低減しても、内容成分、とくに殺菌力発揮成分の安定化が可能になり、有機溶媒量が少ないことにより、たとえ殺菌力失活後にあっても、微生物を増殖させる栄養源を少なく抑えることが可能になる。有機溶媒量を少量に抑えることにより、排水規制値に抵触するおそれが少なくなり、発泡促進現象も抑えられる。」
(甲4’-5)「【0039】
本発明に係る水処理剤は、水処理分野全般に適用可能であり、とくに冷却水系に用いて好適なものである。」
上記(甲4’-1)ないし(甲4’-5)より、甲第4’号証には、
「カルボン酸系ポリマーを含み、有機溶媒の総量が1%以下に低減しても、内容成分、とくに殺菌力発揮成分の安定化が可能になり、有機溶媒量が少ないことにより、たとえ殺菌力失活後にあっても、微生物を増殖させる栄養源を少なく抑えることが可能になるように、pHが1.5以下に調整されている水処理剤を冷却水系に添加する、水処理方法。」(以下、「甲4’発明」という。)が記載されているものと認める。
オ 甲第5’号証記載の発明
甲第5’号証には、以下の記載がある。
(甲5’-1)「【請求項1】
分子量が200~800のポリエチレングリコール及び/又は分子量が200~800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルを添加することを特徴とする、水系におけるシリカ系スケールの防止方法。
・・・
【請求項3】
分子量が200~800のポリエチレングリコール及び/又は分子量が200~800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルを含有する水系におけるシリカ系スケール防止剤。
【請求項4】
前記シリカ系スケール抑制剤に、さらにスルホン酸基含有ポリマーを含有する請求項3記載の水系におけるシリカ系スケール防止剤。」
(甲5’-2)「【0029】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体を重合したポリマーであるが、好ましくはモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体とモノエチレン性不飽和カルボン酸単量体の共重合体、あるいはモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体とモノエチレン性不飽和カルボン酸単量体と他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。」
(甲5’-3)「【0031】
モノエチレン性不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの1種以上が用いられる。」
(甲5’-4)「【0048】
本発明のスケール防止剤の第二の形態は、分子量が200~800のポリエチレングリコール及び/又は分子量が200~800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルと水溶性亜鉛化合物に加えて、スルホン酸基含有ポリマーを含有する。その調製方法は、通常、撹拌下に、水に水溶性亜鉛化合物を溶解し、次いで、該ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルとスルホン酸基含有ポリマーを加え、更に適当な酸(例えば硫酸)で処理剤のpHを2以下とした均一溶液を得る。」
上記(甲5’-1)ないし(甲5’-4)より、甲第5’号証には、
「モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体とモノエチレン性不飽和カルボン酸単量体の共重合体、あるいはモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体とモノエチレン性不飽和カルボン酸単量体と他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体であり、モノエチレン性不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの1種以上が用いられるスルホン酸基含有ポリマーを含み、pHを2以下とした均一溶液のスケール防止剤を水系に添加する、水系におけるシリカ系スケールの防止方法。」(以下、「甲5’発明」という。)が記載されているものと認める。
(2)対比・判断
甲1’発明は、「スルホン化ピレン系化合物」を使用する水処理剤を用水に添加するものであるが、上記(甲1’-5)ないし(甲1’-8)で示したように、実施例では、pHを5又は7にするものであって、「pHが2以下に調整され」るものではなく、甲2’及び3’発明は、「スルホン化ピレン系化合物」を使用する水処理剤を用水に添加するものであるが、pHが不明のものであり、甲4’発明は、pHを1.5以下にする水処理剤を用水に添加するものであるが、「スルホン化ピレン系化合物」を使用するものではなく、甲5’発明は、pHを2にする水処理剤を用水に添加するものであるが、「スルホン化ピレン系化合物」を使用するものではない。また、甲第6号証は、冷却水を循環して供給する冷却塔に関する発明が記載されたものであるが、冷却水に添加する薬剤を特定する記載はない。そのため、甲1’ないし5’発明及び甲第6’号証に記載された事項の組み合わせにより、本件発明1の「本発明の水処理剤は、カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とを含むものでありながら、pHが2以下に調整されているため、日光の照射環境においてもスルホン化ピレン系化合物が劣化しにくい。」(【発明の効果】【0013】)との効果を、当業者が予測し得たものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1’ないし5’発明、及び、甲第6’号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
そして、本件発明2ないし6は、本件発明1と同じく、「スルホン化ピレン系化合物」かつ「pHが2以下に調整され」るとの発明特定事項を有するものであるので、甲1’ないし5’発明、及び、甲第6’号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
よって、申立理由Cに理由はない。
上記より、異議申立人(高橋)の申立理由により、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1ないし6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700621