特許異議申立
2018-700375
船舶
- 審判番号
- 2018-700375
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-228011
- 登録番号
- 特許第6226852号(P6226852)
- 請求日
- 2018年05月07日
- 審決日
- 2019年01月23日
- 公報発行日
- 2019年05月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱造船株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】伊藤 英輔
- 【権利者代理人】橋本 宏之
- 【権利者代理人】古都 智
- 【権利者代理人】鎌田 康一郎
- 【権利者代理人】長谷川 太一
- 【異議申立人】北村 宣正
- 【異議申立人代理人】荒木 佳幸
- 審判長/審判官
- 審判長 中川 真一
- 審判官 氏原 康宏
- 審判官 島田 信一
- 分類
- P1651.113-YAA(B63B) / P1651.121-YAA(B63B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6226852号発明「船舶」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6226852号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第6226852号の請求項1~6及び8に係る特許を維持する。
特許第6226852号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6226852号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成26年11月10日に出願され、平成29年10月20日にその特許権の設定登録がされ、同年11月8日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 5月 7日 :特許異議申立人北村宣正(以下「特許異議
申立人」という。)より請求項1~8に係る
特許に対する特許異議の申立て
同年 8月 2日付け:取消理由通知書
同年10月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年11月 2日付け:訂正請求があった旨の通知書(特許法第12
0条の5第5項)
同年12月 7日 :特許異議申立人による意見書の提出
第2.訂正の適否
1.訂正の内容
平成30年10月5日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下それぞれ「本件明細書」、「本件特許請求の範囲」といい、図面を含めて「本件明細書等」という。)を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件特許請求の範囲の請求項1に、
「左右一対の舷側を有する船体と、
前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、
前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、上方に向けて延びる筒状の囲壁と、
前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、
前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する浸水防止壁と、を備える船舶。」
と記載されているのを、
「左右一対の舷側を有する船体と、
前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、
前記船体内に設けられて、前記複数の室の上の乾舷甲板から上方に向けて延び、煙突に繋がる筒状の囲壁と、を備え、
前記囲壁は、前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、左舷側の前記舷側と右舷側の前記舷側とに隣接してそれぞれ設けられ、
前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、
前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する浸水防止壁と、をさらに備える船舶。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
本件特許請求の範囲の請求項2に、
「前記浸水防止壁は、その上端部に、前記浸水防止壁の延びる方向に交差して一の前記室
側と他の前記室側との少なくとも一方に延びる端板を備える請求項1に記載の船舶。」
と記載されているのを、
「左右一対の舷側を有する船体と、
前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、
前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、上方に向けて延びる筒状の囲壁と、
前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、
前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する浸水防止壁と、を備え、
前記浸水防止壁は、その上端部に、前記浸水防止壁の延びる方向に交差して一の前記室側と他の前記室側との少なくとも一方に延びる端板を備える船舶。」
に訂正する。
(3)訂正事項3
本件特許請求の範囲の請求項3に、
「複数の前記室が、主機を収容した主機室と、発電機を収容した発電機室である請求項1又は2に記載の船舶。」
と記載されているのを、
「複数の前記室が、主機を収容した主機室と、発電機を収容した発電機室である請求項1に記載の船舶。」
に訂正する。
(4)訂正事項4
本件特許請求の範囲の請求項4に、
「前記船体の上部に煙突が設けられ、
前記囲壁は、前記主機室および前記発電機室からの排気を前記煙突に導くケーシングである請求項3に記載の船舶。」
と記載されているのを、
「前記船体の上部に前記煙突が設けられ、
前記囲壁は、前記主機室および前記発電機室からの排気を前記煙突に導くケーシングである請求項3に記載の船舶。」
に訂正する。
(5)訂正事項5
本件特許請求の範囲の請求項5に、
「前記浸水防止壁は、乾舷甲板上に設けられ、前記乾舷甲板と前記乾舷甲板の上方1層目の甲板との間に設けられている請求項3又は4に記載の船舶。」
と記載されているのを、
「前記浸水防止壁は、前記乾舷甲板上に設けられ、前記乾舷甲板と前記乾舷甲板の上方1層目の甲板との間に設けられている請求項3又は4に記載の船舶。」
に訂正する。
(6)訂正事項6
本件特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(7)訂正事項7
本件特許請求の範囲の請求項8に、
「前記囲壁は、前記舷側に隣接する位置に設けられ、
前記囲壁の下方に位置する複数の前記室の間に、浸水防止室が設けられている請求項7に記載の船舶。」
と記載されているのを、
「左右一対の舷側を有する船体と、
前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、
前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、上方に向けて延びる筒状の囲壁と、
前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、
前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する浸水防止壁と、を備え、
前記囲壁は、前記舷側に隣接する位置に設けられ、
前記囲壁の下方に位置する複数の前記室の間に、浸水防止室が設けられている船舶。」
に訂正する。
(8)訂正事項8
本件明細書の段落【0007】に、
「左右一対の舷側を有する船体と、前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、上方に向けて延びる筒状の囲壁と、前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する浸水防止壁と、を備える。」
と記載されているのを、
「左右一対の舷側を有する船体と、前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、前記船体内に設けられて、前記複数の室の上の乾舷甲板から上方に向けて延び、煙突に繋がる筒状の囲壁と、を備え、前記囲壁は、前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、左舷側の前記舷側と右舷側の前記舷側とに隣接してそれぞれ設けられ、前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する浸水防止壁と、をさらに備える。」
に訂正する。
(9)訂正事項9
本件明細書の段落【0009】に、
「第一態様における前記浸水防止壁が、その上端部に、前記浸水防止壁の延びる方向に交差して一の前記室側と他の前記室側との少なくとも一方に延びる端板を備えるようにしてもよい。」
と記載されているのを、
「左右一対の舷側を有する船体と、前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、上方に向けて延びる筒状の囲壁と、前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する浸水防止壁と、を備え、前記浸水防止壁が、その上端部に、前記浸水防止壁の延びる方向に交差して一の前記室側と他の前記室側との少なくとも一方に延びる端板を備えるようにしてもよい。」
に訂正する。
(10)訂正事項10
本件明細書の段落【0010】に、
「第一又は第二態様において、」
と記載されているのを、
「第一態様において、」
に訂正する。
(11)訂正事項11
本件明細書の段落【0011】に、
「前記船体の上部に煙突が設けられ、前記囲壁が、前記主機室および前記発電機室からの排気を前記煙突に導くケーシングであるようにしてもよい。」
と記載されているのを、
「前記船体の上部に前記煙突が設けられ、前記囲壁が、前記主機室および前記発電機室からの排気を前記煙突に導くケーシングであるようにしてもよい。」
に訂正する。
(12)訂正事項12
本件明細書の段落【0012】に、
「第一又は第二態様において、前記浸水防止壁が、乾舷甲板上に設けられ、」
と記載されているのを、
「第三又は第四態様において、前記浸水防止壁が、前記乾舷甲板上に設けられ、」
に訂正する。
(13)訂正事項13
本件明細書の段落【0014】に、
「第一から第六態様の何れか一つの態様において、前記囲壁が、前記船体内で、前記舷側に沿った位置、左右一対の前記舷側の中央部、および、前記舷側に沿った位置と前記中央部との中間部のいずれかに設けられているようにしてもよい。
このように構成することで、囲壁を船体内のいかなる位置に設けても、囲壁内の浸水防止壁によって、一の室と他の室の双方が浸水することを抑制できる。」
と記載されているのを、
「左右一対の舷側を有する船体と、前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、上方に向けて延びる筒状の囲壁と、前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する浸水防止壁と、を備え、前記囲壁が前記舷側に沿った位置に設けられ、前記囲壁の下方に位置する複数の前記室の間に、浸水防止室が設けられているようにしてもよい。」
に訂正する。
(14)訂正事項14
本件明細書の段落【0015】に、
「この発明の第八態様によれば、船舶は、第七態様において、前記囲壁が前記舷側に沿った位置に設けられ、前記囲壁の下方に位置する複数の前記室の間に、浸水防止室が設けられているようにしてもよい。
このように構成することで、複数の室の間に浸水防止室が設けられている場合においても、囲壁内の浸水防止壁によって、一の室と他の室の双方が浸水することを抑制できる。」
と記載されているのを、
「 このように構成することで、複数の室の間に浸水防止室が設けられている場合においても、囲壁内の浸水防止壁によって、一の室と他の室の双方が浸水することを抑制できる。」
に訂正する。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1~8〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1~8〕について請求されたものである。
2.訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「囲壁」に関し、本件明細書の段落【0028】の記載に基づいて「前記船体内に設けられて、前記複数の室の上の乾舷甲板から上方に向けて延び、煙突に繋がる筒状の囲壁と、を備え」との限定、及び「前記囲壁は、」「左舷側の前記舷側と右舷側の前記舷側とに隣接してそれぞれ設けられ」との限定を加えるとともに、「浸水防止壁」に関して、「さらに」備えるとの限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ.訂正事項2は、訂正前において、請求項2が請求項1を引用する記載であったところ、訂正後に、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改める訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないことを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ.訂正事項3は、請求項3が訂正前に「請求項1又は2に記載の船舶。」であったところ、訂正後に「請求項1に記載の船舶。」と訂正するものであって、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ.訂正事項4は、訂正事項1により請求項1に「煙突」が構成要素として加わった関係上、請求項1を間接的に引用する請求項4の「煙突」を「前記煙突」と訂正して整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ.訂正事項5は、訂正事項1により請求項1に「乾舷甲板」が構成要素として加わった関係上、請求項1を間接的に引用する請求項5の「乾舷甲板」を「前記乾舷甲板」と訂正して整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ.訂正事項6は、訂正前の請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
キ.訂正事項7は、訂正前において、請求項8が、請求項1から6を引用する請求項7をさらに引用する記載であったところ、訂正後に、訂正前の請求項1を引用する請求項7に記載されていた「前記囲壁は、前記船体内で、前記舷側に沿った位置、左右一対の前記舷側の中央部、および、前記舷側に沿った位置と前記中央部との中間部のいずれかに設けられている」との事項のうち「前記囲壁は、前記船体内で、前記舷側に沿った位置」「に設けられている」との事項を選択して減縮した上で、当該請求項7を引用する請求項8の請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改める訂正であるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないことを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ク.訂正事項8~14は、上記訂正事項1~7の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~8〕についての訂正を認める。
第3.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~6及び8に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6及び8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
左右一対の舷側を有する船体と、
前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、
前記船体内に設けられて、前記複数の室の上の乾舷甲板から上方に向けて延び、煙突に繋がる筒状の囲壁と、を備え、
前記囲壁は、前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、左舷側の前記舷側と右舷側の前記舷側とに隣接してそれぞれ設けられ、
前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、
前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する浸水防止壁と、をさらに備える船舶。
【請求項2】
左右一対の舷側を有する船体と、
前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、
前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、上方に向けて延びる筒状の囲壁と、
前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、
前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する浸水防止壁と、を備え、
前記浸水防止壁は、その上端部に、前記浸水防止壁の延びる方向に交差して一の前記室側と他の前記室側との少なくとも一方に延びる端板を備える船舶。
【請求項3】
複数の前記室が、主機を収容した主機室と、発電機を収容した発電機室である請求項1に記載の船舶。
【請求項4】
前記船体の上部に前記煙突が設けられ、
前記囲壁は、前記主機室および前記発電機室からの排気を前記煙突に導くケーシングである請求項3に記載の船舶。
【請求項5】
前記浸水防止壁は、前記乾舷甲板上に設けられ、前記乾舷甲板と前記乾舷甲板の上方1層目の甲板との間に設けられている請求項3又は4に記載の船舶。
【請求項6】
前記囲壁は、複数の前記室の内部に吸気または排気を行う通風ダクトである請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項8】
左右一対の舷側を有する船体と、
前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、
前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、上方に向けて延びる筒状の囲壁と、
前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、
前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する浸水防止壁と、を備え、
前記囲壁は、前記舷側に隣接する位置に設けられ、
前記囲壁の下方に位置する複数の前記室の間に、浸水防止室が設けられている船舶。」
第4.取消理由の概要
1.本件発明1、3~7に係る特許に対して平成30年8月2日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
[取消理由1]
本件特許の下記の請求項1、3~5及び7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、当該発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
[取消理由2]
本件特許の下記の請求項1、3~7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、当該発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
記
刊行物1:岡田幸和、「艦艇工学入門 -理論と実際-(世界の艦船・別冊)」、株式会社海人社 平成9年11月15日発行、付録図面「護衛艦“まきぐも”の一般配置図(新造時)」
刊行物2:片山徹ほか2名、「巨大客船の損傷時浸水中間段階における挙動に関する実験的研究」、関西造船協会論文集 第243号、社団法人日本船舶海洋工学会 平成17年3月発行、23-30頁
なお、刊行物1及び2は、特許異議申立人が証拠として提出した甲第1及び2号証である。
第5.当審の判断
1.各刊行物の記載事項等
(1)刊行物1
刊行物1には、次の事項が記載されている。
(1a)護衛艦“まきぐも”の一般配置図として、以下の図が示されている。
なお、原図には図番がないが、便宜のために図番を付与している。
図a-1、図a-2、図a-3は、図aの艦内側、O1甲板、第1甲板の各図の要部をそれぞれ拡大したものであり、図b-1、図b-2は、図bの第2甲板、第3甲板の各図の要部をそれぞれ拡大したものである。
また、各図から以下の事項が看取できる。
(1b)特に図a及び図bより、船体は、左右一対の舷側を有していること。
(1c)特に、図a-1及び図b-2より、船体の内部に互い隣接するように隔壁(W.T.)によって区画された第1機械室及び第2機械室を有すること。
(1d)特に図bの一番上の図は「第2甲板」の位置での断面図であるところ、図a-1を併せみると、第1機械室及び第2機械室の上に第2甲板を有すること。
(1e)特に図a-1より、第2甲板上には、壁内に第1機械室開口、第2機械室開口及び第1消音器室を有する筒状の壁を備えること。また、前記筒状の壁は、船体内に設けられて、第1機械室及び第2機械室の上の第2甲板から上方に向けて延び、煙突に繋がること、及び、前記筒状の壁は、隔壁(W.T.)上及び前記隔壁(W.T.)によって区画される前記第1機械室と第2機械室上に跨がるように配置されること。
(1f)特に図a-3及び図b-1を併せみると、前記筒状の壁は、左舷側の舷側と右舷側の舷側との間である幅方向の中央に設けられること。
(1g)特に図b-1から、第2甲板上における前記筒状の壁の左舷側には、食堂、食器洗浄室及び乾燥室等が配置され、前記筒状の壁の右舷側には、消磁動力室及び工作室等が配置されていること。
(1h)特に図a-1及び図b-1より、筒状の壁の下端部には、第1機械室と第2機械室のそれぞれと前記筒状の壁内とを連通する第1機械開口及び第2機械開口が形成されていること。
(1i)特に図a-1及び図b-1より、筒状の壁内には、前記筒状の壁内で第1機械室の第1機械室開口と第2機械室の第2機械室開口とを隔てるように、前記筒状の壁内の下端部から上方に向かって延在する壁状の部材が設けられていること。
上記(1a)~(1i)に基づいて、本件発明1の発明特定事項に倣って整理すると、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明A」という。)。
<刊行物1発明A>
「左右一対の舷側を有する船体と、
前記船体の内部に互い隣接するように隔壁(W.T.)によって区画された第1機械室及び第2機械室と、
前記第1機械室及び前記第2機械室の上に第2甲板を有し、前記第2甲板上には、壁内に第1機械室開口、第2機械室開口及び第1消音器室を有する筒状の壁であって、前記船体内に設けられて、前記第1機械室及び前記第2機械室の上の前記第2甲板から上方に向けて延び、煙突に繋がる前記筒状の壁と、を備え、
前記筒状の壁は、前記隔壁(W.T.)上及び前記隔壁(W.T.)によって区画される前記第1機械室と前記第2機械室上に跨がるように配置され、前記左舷側の舷側と前記右舷側の舷側との間である幅方向の中央に設けられ、前記第2甲板上における前記筒状の壁の左舷側には、食堂、食器洗浄室及び乾燥室等が配置され、前記筒状の壁の右舷側には、消磁動力室及び工作室等が配置され、
前記筒状の壁の下端部に形成され、前記第1機械室と前記第2機械室のそれぞれと前記筒状の壁内とを連通する前記第1機械室開口及び前記第2機械室開口と、
前記筒状の壁内に設けられ、前記筒状の壁内で前記第1機械室の前記第1機械室開口と前記第2機械室の前記第2機械室開口とを隔てるように、前記筒状の壁内の下端部から上方に向かって延在する壁状の部材と、をさらに備える護衛艦“まきぐも”。」
また、上記(1a)~(1i)に基づいて、本件発明2の発明特定事項に倣って整理すると、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明B」という。)。
<刊行物1発明B>
「左右一対の舷側を有する船体と、
前記船体の内部に互い隣接するように隔壁(W.T.)によって区画された第1機械室及び第2機械室と、
前記壁(W.T.)上及び前記隔壁(W.T.)によって区画される前記第1機械室及び前記第2機械室上に跨がるように配置され、第1機械室開口、第2機械室開口及び第1消音器室を内部に有し、上方に向けて延びる筒状の壁と、
前記筒状の壁の下端部に形成され、前記第1機械室と前記第2機械室のそれぞれと前記筒状の壁内とを連通する前記第1機械室開口及び前記第2機械室開口と、
前記筒状の壁内に設けられ、前記筒状の壁内で前記第1機械室の前記第1機械室開口と前記第2機械室の前記第2機械室開口とを隔てるように、前記筒状の壁内の下端部から上方に向かって延在する壁状の部材と、を備える護衛艦“まきぐも”。」
さらに、上記(1a)~(1i)に基づいて、本件発明8の発明特定事項に倣って整理すると、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明C」という。)。
<刊行物1発明C>
「左右一対の舷側を有する船体と、
前記船体の内部に互い隣接するように隔壁(W.T.)によって区画された第1機械室及び第2機械室と、
隔壁(W.T.)上及び隔壁(W.T.)によって区画される前記第1機械室及び前記第2機械室上に跨がるように配置され、第1機械室開口、第2機械室開口及び第1消音器室を内部に有し、上方に向けて延びる筒状の壁と、
前記筒状の壁の下端部に形成され、第1機械室と第2機械室のそれぞれと前記筒状の壁内とを連通する第1機械室開口及び第2機械室開口と、
前記筒状の壁内に設けられ、前記筒状の壁内で第1機械室の第1機械室開口と第2機械室の第2機械室開口とを隔てるように、前記筒状の壁内の下端部から上方に向かって延在する壁状の部材と、を備え、
前記筒状の壁は、前記左舷側の舷側と前記右舷側の舷側との間である幅方向の中央に設けられる護衛艦“まきぐも”。」
(2)刊行物2
刊行物2の特に24頁左欄8~11行、28頁右欄1~22行及びFig.12を参照すると、刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物2発明」という。)。
<刊行物2発明>
「BHD(バルクヘッドデッキ)上に水密な横隔壁を設置する、
船体中央の平行部分だけの2次元模型。」
2.対比・判断
2-1.取消理由1
(1)本件発明1について
ア.対比
(ア)本件発明1と刊行物1発明Aとを対比すると、
後者の「船体」は前者の「船体」に相当し、以下同様に、「隔壁(W.T.)」は「隔壁」に、「第1機械室」及び「第2機械室」は「複数の室」に、「第1機械室」又は「第2機械室」の一方が「一の前記室」に、他方が「他の前記室」に、「第2甲板」は最下層の全通甲板であるから「乾舷甲板」に、「煙突」は「煙突」に、「筒状の壁」は「筒状の囲壁」及び「囲壁」に、「筒状の壁内」は「囲壁内」に、「第1機械室開口」及び「第2機械室開口」は「連通部」に、「第1機械室開口」又は「第2機械室開口」は「一の前記室の前記連通部」又は「他の前記室の前記連通部」に、「護衛艦“まきぐも”」は「船舶」に、それぞれ相当するといえる。
(イ)後者の「壁状の部材」と前者の「浸水防止壁」とは、「壁状の部材」の限度で共通するといえる。
以上によれば、本件発明1と刊行物1発明Aとは、
<一致点>
「左右一対の舷側を有する船体と、
前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、
前記船体内に設けられて、前記複数の室の上の乾舷甲板から上方に向けて延び、煙突に繋がる筒状の囲壁と、を備え、
前記囲壁は、前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、
前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、
前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する壁状の部材と、をさらに備える船舶。」
で一致し、以下の点で相違するといえる。
<相違点1>
「囲壁」に関し、
本件発明1は、「左舷側の前記舷側と右舷側の前記舷側とに隣接してそれぞれ設けられ」ているのに対し、
刊行物1発明Aは、「左舷側の舷側と前記右舷側の舷側との間である幅方向の中央に設けられ」ている点。
<相違点2>
「壁状の部材」に関し、
本件発明1では「浸水防止壁」であるのに対して、
刊行物1発明Aは、そのように特定されていない点。
イ.判断
本件発明1と刊行物1発明Aとを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点1で相違することが明らかであるから、本件発明1は、刊行物1発明Aであるとはいえない。
(2)本件発明3~5について
本件発明3~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものである。そして、前記(1)イ.で述べたとおり、本件発明1は、刊行物1発明Aであるとはいえないことから、本件発明3~5も、本件発明1と同様に刊行物1発明Aでないことは明らかである。
2-2.取消理由2
(1)本件発明1について
前記2-1.(1)ア.で述べたとおり、本件発明1と刊行物1発明Aとは、上記相違点1及び相違点2で相違し、その余の点で一致する。
ここで、上記相違点1について検討すると、
刊行物1発明Aの「左舷側の舷側と前記右舷側の舷側との間である幅方向の中央に設けられ」ている「筒状の壁」は、「前記第1機械室及び前記第2機械室の上の前記第2甲板から上方に向けて延び、煙突に繋がる」ものであから、第1機械室及び第2機械室から発生した煙を煙突まで導く通路として機能していることは明らかであるが、刊行物1発明Aの「筒状の壁」を「幅方向の中央に設けられ」る構成から、左舷側の舷側と右舷側の舷側とに隣接してそれぞれ設けられる構成に変更する動機付けは存在しない。また、刊行物2発明は、引用発明1の「壁状の部材」が「浸水防止壁」の機能を有することが明らかであることをいうための証拠であり、「筒状の壁」と「左舷側の舷側と前記右舷側の舷側」の配置関係に関する記載はない。
上記相違点1に関し、特許異議申立人は、平成30年12月7日に提出した意見書において、参考資料1(Thomas Lamb,Editor "Ship Design and Construction" The Society of Naval Architects and Marine Engineers ,2004,Volume II 表紙、35-24頁、35-25頁、38-8頁、38-9頁、38-11頁、38-12頁、Figure45.11)に示されるように、RO-RO船等において、煙突に繋がる囲壁が左舷側の舷側と右舷側の舷側とに隣接してそれぞれ設けられる構成は従来周知技術である旨、述べている。
しかしながら、RO-RO船の囲壁の配置を開示する上記周知技術を、船舶の種類が異なる護衛艦である引用発明1に適用する合理的理由はないし、仮に適用しようとすると、刊行物1発明Aは「前記第2甲板上における前記筒状の壁の左舷側には、食堂、食器洗浄室及び乾燥室等が配置され、前記筒状の壁の右舷側には、消磁動力室及び工作室等が配置され」ている構成であるから、「筒状の壁」を左舷側の舷側と右舷側の舷側とに隣接してそれぞれ設けようとすると、第2甲板上に配置されたこれらの各部屋の配置を変更しなくてはならず、大幅な配置の変更を余儀なくされるものであるから、「筒状の壁」を左舷側の舷側と右舷側の舷側とに隣接してそれぞれ設ける構成に変更することには阻害要因があるといえる。
以上のとおり、少なくとも、上記相違点1に係る本件発明1の構成は容易想到とはいえないものであるから、その余の相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1発明A及び刊行物2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明3~5について
本件発明3~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものである。
よって、上記(1)で述べた理由と同様の理由により、本件発明3~5は、刊行物1発明A及び刊行物2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明6について
請求項6は、請求項1又は2を引用するものであるから、それぞれ分けて検討する。
(3-1)本件発明1の構成を含む本件発明6について
本件発明1の構成を含む本件発明6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものである。
よって、上記(1)で述べた理由と同様の理由により、本件発明1の構成を含む本件発明6は、刊行物1発明A及び刊行物2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3-2)本件発明2の構成を含む本件発明6について
ア.対比
(ア)本件発明2の構成を含む本件発明6と刊行物1発明Bとを対比すると、後者の「船体」は前者の「船体」に相当し、以下同様に、「隔壁(W.T.)」は「隔壁」に、「第1機械室」及び「第2機械室」は「複数の室」に、「第1機械室」又は「第2機械室」の一方が「一の前記室」に、他方が「他の前記室」に、「筒状の壁」は「筒状の囲壁」及び「囲壁」に、「筒状の壁内」は「囲壁内」に、「第1機械室開口」及び「第2機械室開口」は「連通部」に、「第1機械室開口」又は「第2機械室開口」は「一の前記室の前記連通部」又は「他の前記室の前記連通部」に、「護衛艦“まきぐも”」は「船舶」に、それぞれ相当するといえる。
(イ)後者の「壁状の部材」と前者の「浸水防止壁」とは、「壁状の部材」の限度で共通するといえる。
以上によれば、本件発明2の構成を含む本件発明6と刊行物1発明Bとは、
<一致点A>
「左右一対の舷側を有する船体と、前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、上方に向けて延びる筒状の囲壁と、前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する壁状の部材と、を備える船舶。」
で一致し、以下の点で相違するといえる。
<相違点A>
「壁状の部材」に関し、
本件発明2の構成を含む本件発明6は、「浸水防止壁」であり、「その上端部に、前記浸水防止壁の延びる方向に交差して一の前記室側と他の前記室側との少なくとも一方に延びる端板を備える」のに対し、
刊行物1発明Bは、「浸水防止壁」とは特定されておらず、かかる「端板」が特定されていない点。
<相違点B>
「囲壁」に関し、
本件発明2の構成を含む本件発明6は、「複数の前記室の内部に吸気または排気を行う通風ダクトである」のに対し、
刊行物1発明Bは、そのように特定されていない点。
イ.判断
相違点Aについて検討する。
刊行物1発明Bの「壁状の部材」は、図a-1と図b-1を参照すると、W.T.の記号とともに船体の上下方向と幅方向に延びる実線の一部として記載されている。W.T.は、水密隔壁の略語であるから(一般配置図の中央左側にある略語の説明参照。)、引用発明の「壁状の部材」は水密隔壁の一部であると考えられる。さらに、刊行物2発明の「水密な横隔壁」は、刊行物2の記載を参酌すると、BHD(バルクヘッドデッキ)上の浸水の広がりを抑制するための有効な手段であることが記載されているから、当該「水密な横隔壁」と類似する構成を有する刊行物1発明Bの「壁状の部材」も、「第1機械室」又は「第2機械室」のいずれかが浸水し、水嵩が第2甲板より上になった場合に、「第1機械室」又は「第2機械室」のいずれか一方側から他方側への水の浸入を防止する「浸水防止壁」といえるものである。
しかしながら、「浸水防止壁」に「その上端部に、前記浸水防止壁の延びる方向に交差して一の前記室側と他の前記室側との少なくとも一方に延びる端板を備える」構成は、刊行物1及び2に開示されておらず、また、従来周知慣用の構成であるともいえないので、本件発明2の構成を含む本件発明6は、少なくとも、上記相違点Aに係る本件発明2の構成を含む本件発明6の構成は容易想到とはいえないものであるから、その余の相違点Bを検討するまでもなく、本件発明2の構成を含む本件発明6は刊行物1発明B及び刊行物2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3.取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人が主張する取消理由の概要
[申立理由1]特許法第29条第1項第3号について
ア.本件発明6は、刊行物1に記載された発明である。
イ.本件発明1及び5は、刊行物2に記載された発明である。
[申立理由2]特許法第29条第2項について
本件発明2及び8は、刊行物1及び2に記載された発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)当審の判断
[申立理由1]について
ア.本件発明6は、前記2.2-2.(3)で述べた理由と同様の理由により、刊行物1に記載された発明(刊行物1発明A及び刊行物1発明B)であるとはいえない。
イ.刊行物2には、前記1.(2)で述べたように「BHD(バルクヘッドデッキ)上に水密な横隔壁を設置する船体中央の平行部分だけの2次元模型。」(刊行物2発明)が記載されているが、少なくとも本件発明1で特定されている「前記複数の室の上の乾舷甲板から上方に向けて延び、煙突に繋がる筒状の囲壁」の存在及びその配置が明らかでないから、本件発明1、及び本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものである本件発明5は、刊行物2発明であるとはいえない。
[申立理由2]について
ア.本件発明2について
本件発明2は、本件発明2の構成を含む本件発明6において、請求項6に記載されている構成を省くものであって、本件発明2と刊行物1発明Bと対比すると、前記2.2-2.(3)(3-2)ア.で述べたことと同様に、一致点Aで一致し、相違点Aで相違している。そして、上記相違点Aは、上記2.2-2.(3)(3-2)イ.で述べた理由と同様の理由により、本件発明2は、刊行物1発明B、刊行物2発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ.本件発明8について
(ア)対比
本件発明8と刊行物1発明Cと対比すると、
後者の「船体」は前者の「船体」に相当し、以下同様に、「隔壁(W.T.)」は「隔壁」に、「第1機械室」及び「第2機械室」は「複数の室」に、「第1機械室」又は「第2機械室」の一方が「一の前記室」に、他方が「他の前記室」に、「筒状の壁」は「筒状の囲壁」及び「囲壁」に、「筒状の壁内」は「囲壁内」に、「第1機械室開口」及び「第2機械室開口」は「連通部」に、「第1機械室開口」又は「第2機械室開口」は「一の前記室の前記連通部」又は「他の前記室の前記連通部」に、「護衛艦“まきぐも”」は「船舶」に、それぞれ相当するといえる。
(イ)後者の「壁状の部材」と前者の「浸水防止壁」とは、「壁状の部材」の限度で共通するといえる。
以上によれば、本件発明8と刊行物1発明Cとは、
<一致点α>
「左右一対の舷側を有する船体と、前記船体の内部に互い隣接するように隔壁によって区画された複数の室と、前記隔壁上及び前記隔壁によって区画される複数の前記室上に跨がるように配置され、上方に向けて延びる筒状の囲壁と、前記囲壁の下端部に形成され、複数の前記室のそれぞれと前記囲壁内とを連通する連通部と、前記囲壁内に設けられ、前記囲壁内で一の前記室の前記連通部と他の前記室の前記連通部とを隔てるように、前記囲壁内の下端部から上方に向かって延在する壁状の部材と、を備える船舶。」
で一致し、以下の点で相違するといえる。
<相違点α>
「壁状の部材」に関し、
本件発明8は、「浸水防止壁」であるのに対して、
刊行物1発明Cは、そのように特定されていない点。
<相違点β>
本件発明8は、「前記囲壁は、前記舷側に隣接する位置に設けられ、前記囲壁の下方に位置する複数の前記室の間に、浸水防止室が設けられている」のに対し、
刊行物1発明Cは、「前記筒状の壁は、前記左舷側の舷側と前記右舷側の舷側との間である幅方向の中央に設けられ」ており、かかる浸水防止室は特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点βについて検討する。
前記2.2-2.(1)で述べたように、刊行物1発明Cの「筒状の壁」を「幅方向の中央に設けられ」る構成から、舷側に隣接する位置に設けられる構成に変更する動機付けは存在しない。また、上記相違点βに係る「浸水防止室」を設けることは、刊行物1及び2に開示されておらず、また、従来周知の構成であるともいえないので、本件発明8は、刊行物1発明C、刊行物2発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~6及び8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~6及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項7に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議申立てについて、請求項7に係る申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-700375