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特許異議申立

2018-700133

メタクリル系樹脂組成物、光学フィルム、光学部品

審判番号
2018-700133
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-228208外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2018年02月16日
審決日
2018年05月28日
公報発行日
2018年07月27日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-Y (C08L) / P1651.121-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6181840号発明「メタクリル系樹脂組成物、光学フィルム、光学部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6181840号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 1.本件特許の設定登録までの経緯 本件特許第6181840号に係る出願(特願2016-228208号、以下「本願」という。)は、平成28年11月24日(優先権主張:平成28年6月15日、特願2016-119290号)に出願人旭化成株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成29年7月28日に特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、特許公報が平成29年8月16日に発行されたものである。 2.本件異議申立の趣旨 本件特許につき平成30年2月16日に特許異議申立人三上早織(以下「申立人」という。)により、「特許第6181840号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項 本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし請求項12が記載されている。 「【請求項1】 N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種である主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂と、紫外線吸収剤とを含み、 ガラス転移温度が120℃超160℃以下であり、 前記紫外線吸収剤の含有量がメタクリル系樹脂100質量部に対して0.1~5質量部であり、 メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下であることを特徴とする、 メタクリル系樹脂組成物。 【請求項2】 前記紫外線吸収剤の含有量がメタクリル系樹脂100質量部に対して0.1~3質量部である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。 【請求項3】 熱重量測定(TGA)により測定される、空気中、280℃で0.5時間加熱した際の重量減少割合が10%以下である、請求項1又は2記載のメタクリル系樹脂組成物。 【請求項4】 熱重量測定(TGA)により測定される、空気中、280℃で0.5時間加熱した際の重量減少割合が5%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。 【請求項5】 前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含み、 前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5~40質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。 【請求項6】 前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位を含み、 前記ラクトン環構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5~40質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。 【請求項7】 光弾性係数の絶対値が、3.0×10-12Pa-1以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物。 【請求項8】 光弾性係数の絶対値が、2.0×10-12Pa-1以下である、請求項7に記載のメタクリル系樹脂組成物。 【請求項9】 請求項1~8のいずれか1項に記載のメタクリル系樹脂組成物を含むことを特徴とする、光学フィルム。 【請求項10】 前記光学フィルムが位相差フィルムである、請求項9に記載の光学フィルム。 【請求項11】 請求項9又は10に記載の光学フィルムの表裏面の少なくとも一面に機能層が積層されていることを特徴とする、光学部品。 【請求項12】 前記機能層が、ハードコート層、防眩(ノングレア)層、反射防止層、光拡散層、帯電防止層、および紫外線遮蔽層からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項11に記載の光学部品。」 (以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明」という。) 第3 申立人が主張する取消理由 申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第19号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由1ないし4が存するとしているものと認められる。 取消理由1:本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、いずれも甲第1号証ないし甲第4号証のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、それらの特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2:本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、いずれも、甲第1号証ないし甲第4号証のいずれかに記載された発明に甲第5号証ないし甲第19号証に記載された事項を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由3:本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明に照らしてその解決課題が解決するか否か不明であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1ないし12の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、いずれも取り消されるべきものである。 取消理由4:本件特許に係る請求項1の記載が不備であり、本件発明が明確でないから、請求項1及びそれを引用する請求項2ないし12の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、いずれも取り消されるべきものである。 ・申立人提示の甲号証 甲第1号証:特開2016-71274号公報 甲第2号証:特開2014-185196号公報 甲第3号証:特開2009-52021号公報 甲第4号証:特表2015-535544号公報 甲第5号証:「熱分析装置(DSC,TMA)」なる同装置の利用マニュアルと思われる日本大学理工学部理工学研究所材料創造研究センターホームページ情報のプリントアウト(2018年1月31日プリントアウト) 甲第6号証:特開2014-98117号公報 甲第7号証:特開2015-108161号公報 甲第8号証:特開平7-276569号公報 甲第9号証:国際公開第2012/133749号 甲第10号証:特開平4-224928号公報 甲第11号証:特開2000-43210号公報 甲第12号証:特開2014-28956号公報 甲第13号証:特開2008-191426号公報 甲第14号証:TCI Research Chemicals 2016(No.43)、東京化成工業株式会社発行(2016年発行)、第642頁、第1476頁、第1516頁、第1695頁及び第1826頁 甲第15号証:「Chemistry Dashboard」のメチル-2-ヒドロキシメチルアクリレートの沸点等の情報が開示されている部分、米国環境保護庁ホームページ情報のプリントアウト(2018年2月9日プリントアウト) 甲第16号証:TCI Research Chemicals 2016(No.43)、東京化成工業株式会社発行(2016年発行)、第2494頁 甲第17号証:特開平9-324016号公報 甲第18号証:特開2015-102636号公報 甲第19号証:特開2015-141347号公報 (以下、それぞれ「甲1」ないし「甲19」と略していう。) 第4 当審の判断 当審は、 申立人が主張する上記取消理由1ないし4についてはいずれも理由がないから、本件の請求項1ないし12に係る発明についての特許はいずれも維持すべきもの、 と判断する。 以下、各取消理由につき、事案に鑑み、取消理由3、取消理由4、取消理由1及び2の順で詳述する。 I.取消理由3について 申立人が主張する取消理由3は、申立書の記載(第66頁第8行~第20行)からみて、本件発明の解決課題は「紫外線防止剤を高濃度で含有するメタクリル系樹脂組成物から調製された場合であっても、複屈折性等光学特性に優れ、過酷な使用環境下においても、表面に積層されたハードコート層、防眩層、反射防止層、帯電防止層などの各種機能層との良好な密着性を維持できる光学フィルムを調製可能なメタクリル系樹脂組成物、当該光学フィルム、及び当該光学フィルムを含む光学部品」(【0016】)の提供にあるところ、請求項1で規定されている紫外線吸収剤の使用量範囲「0.1~5質量部」が、甲号証などに記載されるとおり、一般的なものであって、「高濃度」と評価すべきものでないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に基づき、上記解決課題を解決できるものであるか認識できないものであり、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし12に記載された事項で特定される各発明について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないというものと認められる。 しかるに、本件特許明細書の発明の詳細な説明における実施例及び比較例の結果(【表1】参照)を対比すると、実施例1、3、5及び6の紫外線吸収剤を3質量%という濃度で使用した場合に、同濃度で紫外線吸収剤を含む比較例1及び2に比して、製造直後、高温時及び高温高湿時のいずれにおいても機能層との密着性に優れる点が看取でき、たとえ1.5質量部を下回る範囲又は3.0質量部を超える範囲の紫外線吸収剤の量であっても同様の効果を奏するであろうと理解するのが自然であるから、請求項1に記載された事項を具備するものであれば、少なくとも同程度の紫外線吸収剤の含有量であったとしても、機能層との密着性の点で改善されるであろうと当業者は認識することができるものと認められる(なお、メタクリル系樹脂組成物が複屈折性等光学特性に優れることは、本願出願時の当業者において自明であることは明らかである。)。 また、本件の請求項1に記載された紫外線吸収剤の含有量範囲のうち、1.5質量部を下回る範囲又は3.0質量部を超える範囲において、上記機能層との密着性の点で改善されないであろうと当業者は認識するような技術常識等が存するものとも認められない。 してみると、当業者において、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に照らし、請求項1に記載された事項で特定される本件発明が、本件発明の解決課題、すなわち「紫外線防止剤を高濃度で含有するメタクリル系樹脂組成物から調製された場合であっても、複屈折性等光学特性に優れ、過酷な使用環境下においても、表面に積層されたハードコート層、防眩層、反射防止層、帯電防止層などの各種機能層との良好な密着性を維持できる」ことを達成・解決できるであろうと認識することができるから、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし12に記載された事項で特定される各発明について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。 したがって、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし12の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものといえるから、申立人が主張する取消理由3は、理由がない。 II.取消理由4について 申立人が主張する取消理由4は、申立書の記載(第66頁第21行~第24行)からみて、本件の請求項1では、「ガラス転移温度」に係る規定があるところ、ガラス転移温度は、測定方法(測定点)により変動するものであり、測定方法に係る規定がない請求項1の記載では、発明の範囲が確定できないことにより、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし12の記載では、各項記載の発明が明確でないというものと認められる。 しかるに、本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0135】)には、当該「ガラス転移温度」の測定方法につき、「JIS-K7121」に準拠して測定すること及び測定されたDSC曲線からの具体的算出方法が記載されており、技術的に誤った方法であるものとも認めることができないから、請求項に記載された「ガラス転移温度」についても、当該記載に照らして、その測定方法により求めたものをいうのであろうと理解するのが自然である。 してみると、請求項1において測定方法に係る規定がないとしても、請求項1に係る発明の範囲を確定することができるから、請求項1に記載された事項により、同項記載の発明が明確でないということはできないし、同項を引用する請求項2ないし12についても同様である。 したがって、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし12の記載では、発明が明確であるものというべきものであり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立人が主張する取消理由4は、理由がない。 III.取消理由1及び2について 1.各甲号証の記載事項及び記載された発明 上記取消理由1及び2は、いずれも本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲19に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1ないし甲4に係る引用発明の認定を行う。 (1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 ア.甲1の記載事項 甲1には、申立人が申立書第6頁第14行ないし第14頁末行(【表2】)で摘示するとおりの事項(【請求項1】ないし【請求項6】、【0007】、【0024】ないし【0029】、【0055】、【0056】、【0071】、【0088】ないし【0090】、【0093】、【0094】、【0099】、【0124】、【0140】、【0222】、【0223】、【0272】ないし【0281】、【0284】ないし【0298】及び【0305】ないし【0312】を参照。)が記載されている。 イ.甲1に記載された発明 甲1には、申立人が摘示した上記記載事項からみて、 「無水マレイン酸構造、N-置換マレイミド構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造およびラクトン環構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造を有する(メタ)アクリル重合体及び分子量600以上の紫外線吸収剤を含み、 ガラス転移温度(Tg)が120℃以上170℃以下であり、 紫外線吸収剤の配合量が0.05~10質量%である、 光学フィルム用(メタ)アクリル系樹脂組成物。」 に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 (2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明 ア.甲2の記載事項 甲2には、申立人が申立書第15頁第3行ないし第23頁表下第7行で摘示するとおりの事項(【請求項1】ないし【請求項11】、【0004】ないし【0007】、【0025】、【0028】、【0033】ないし【0035】、【0108】、【0109】、【0123】、【0132】、【0162】ないし【0169】、【0178】、【0220】、【0222】、【0223】、【0226】ないし【0241】及び【0245】を参照。)が記載されている。 イ.甲2に記載された発明 甲2には、申立人が摘示した上記記載事項からみて、 「主鎖にラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造からなる群より選択される環構造を有するアクリル系重合体と分子量が600以上である紫外線吸収剤とを含有するガラス転移温度が110℃以上であるアクリル樹脂組成物であって、 紫外線吸収剤のアクリル樹脂組成物中における含有量が0.1質量%以上、5質量%以下であるアクリル樹脂組成物。」 に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 (3)甲3の記載事項及び甲3に記載された発明 ア.甲3の記載事項 甲3には、申立人が申立書第23頁下から第17行ないし第31頁下から第3行で摘示するとおりの事項(【請求項1】ないし【請求項12】、【0008】ないし【0015】、【0021】ないし【0024】、【0042】ないし【0044】、【0075】、【0076】、【0080】、【0086】、【0087】、【0114】、【0115】、【0141】、【0171】ないし【0189】、【0202】【表1】、【0260】【表2】及び【0261】を参照。)が記載されている。 イ.甲3に記載された発明 甲3には、申立人が摘示した上記記載事項からみて、 「主鎖にラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を有する熱可塑性アクリル樹脂と、熱可塑性樹脂100部に対して0.1~5部である分子量が700以上の紫外線吸収剤とを含み、110℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物。」 に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 (4)甲4の記載事項及び甲4に記載された発明 ア.甲4の記載事項 甲4には、申立人が申立書第32頁第1行ないし第35頁最下行で摘示するとおりの事項(【請求項1】ないし【請求項16】、【0005】ないし【0008】、【0025】、【0038】ないし【0041】、【0047】ないし【0050】及び【0074】ないし【0082】を参照。)が記載されている。 イ.甲4に記載された発明 甲4には、申立人が摘示した上記記載事項からみて、 「アルキル(メタ)アクリレート系単位、スチレン系単位及び少なくとも一つのカルボニル基で置換された3員ないし6員の複素環単位を含む共重合体を含む粒子状の熱可塑性アクリル系樹脂及びトリアジン系紫外線吸収剤を上記熱可塑性アクリル系樹脂100重量部に対して0.1重量部ないし5重量部の範囲で含むガラス転移温度が125℃ないし200℃である樹脂組成物。」 に係る発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。 (5)他の甲号証の記載事項 ア.甲5の記載事項 甲5には、申立人が申立書第36頁上段(グラフ)で指摘したとおりの、PMMA(ポリメチルメタクリレート)のガラス転移温度並びにLDPE(低密度ポリエチレン)及びHDPE(高密度ポリエチレン)の融点につき、DSC曲線(チャート)から求める手法が図示されている(「図4」)。 イ.甲6の記載事項 甲6には、申立人が申立書第36頁下から第7行ないし第37頁第9行で指摘したとおりの、メタクリル酸エステル単量体単位(A)と、マレイミド系構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の、主鎖に環構造を有する構造単位(B)と、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なその他のビニル系単量体単位(C)とを含むメタクリル系樹脂(I)と、ゴム質重合体(II)とを含有するフィルムにおいて(【請求項1】)、メタクリル系樹脂(I)に含まれる残存モノマーは、耐熱性、流動性、成型時加工性、及び耐傷付性のバランスを考慮すると、本実施形態のフィルム中、0.1質量%~1.5質量%であることが好ましいこと(【0049】)及び残存モノマーの低減化の観点から、上記重合工程後に、重合温度よりも高い温度に昇温し、一定時間保持することが好ましいこと(【0058】)がそれぞれ記載されている。 ウ.甲7の記載事項 甲7には、申立人が申立書第37頁第12行ないし第13行で指摘したとおりの、アクリル系樹脂において、分子量が500以下のアクリル系樹脂は、成形時にシルバーストリークスと呼ばれる発泡様の外観不良を発生させやすくなるため、可能な限り、少ない方がよいこと(【0025】)が記載されている。 エ.甲8の記載事項 甲8には、申立人が申立書第37頁第16行ないし第17行で摘示したとおりの事項を含む、賦型シートに使用されるフィルム基材としては、耐熱性があり、寸法安定性のよいものが好ましく、特に、熱プレス時の100~150℃、圧力5~100Kg/cm2の加熱加圧条件下で、オリゴマー、単量体、可塑剤、安定剤等の流動性成分が浸出乃至は溶出する樹脂からなるフィルムであって、例えば、ポリエステル樹脂が代表的であるが、配合によっては、ポリメタアクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル等のアクリル樹脂等のフィルム又はシートが使用できることが記載されている(【0010】)。 オ.甲9の記載事項 甲9には、申立人が申立書第37頁第20行ないし第22行で摘示するとおりの事項を含む、フォトクロミックレンズにおいて生じる曇りの原因について、ハードコート層の表面に微細な凹凸が存在することにより乱反射が生じていることが原因であり、特にフォトクロミック層中のマトリックスへの溶解度の低い成分がフォトクロミック層からハードコート層へ溶出(移動)し、ハードコート層の形成を阻害するか、または最終的にハードコート層表面で析出物となることが原因と推察されたこと([0007])が記載されている。 カ.甲10の記載事項 甲10には、申立人が申立書第37頁下から第3行ないし第38頁第1行で摘示するとおりの、ポリオレフィン系樹脂組成物から製造したフィルムにおいて、ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる低分子量ポリオレフィンや機能付与剤は高分子量ポリオレフィンマトリックス中から表面にブリード(滲出)する傾向があり、微量の場合は高分子量ポリオレフィン同士の界面に存在しても溶融した高分子量ポリオレフィン同士の熱融着を妨害しないが、多量となると高分子量ポリオレフィン同士の熱融着を阻害することが記載されている(【0005】)。 キ.甲11の記載事項 甲11には、申立人が申立書第38頁第4行ないし第8行で摘示した事項を含む、基材シート上に、紫外線吸収剤を含むオレフィン系樹脂からなる表面シートが形成された化粧シートにおいて、化粧シート中に添加される紫外線吸収剤は、経時的に、表面に析出または晶出(ブリードまたはブルーミング)を起こす場合があり、特に、加熱工程を含む加工が施されると、この現象は促進される(【0005】)ところ、紫外線吸収剤がブリードすると、外観上、化粧シートの意匠性が損なわれるだけでなく、紫外線吸収剤が失われることにより耐候性が低下し、その添加により期待される効果が、得られなくなると共に、表面シートと基材シート、表面シートと絵柄インキ層との層間にブリードした紫外線吸収剤が離型剤として作用するため、層間の剥離が生じる場合があること(【0006】)が記載されている。 ク.甲12の記載事項 甲12には、申立人が申立書第38頁第13行ないし第41頁上段(【表3】)で摘示したとおりの事項を含む、メタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)と、N-置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)と、N-置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)とを含有し、光弾性係数(C)の絶対値が、3.0×10-12Pa-1以下であり、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上であるアクリル系熱可塑性樹脂において(【請求項1】及び【請求項8】)、アクリル系熱可塑性樹脂中に残存する(共重合体の繰り返し単位を構成する)単量体の合計は、アクリル系熱可塑性樹脂(共重合体)100質量%に対して0.5質量%以下であり、残存単量体の合計が、0.5質量%を超えると、成形加工時に熱時着色したり、成形品の耐熱性及び耐候性が低下したり、透明性が低下するなど実用に適さない成形体が得られるという問題があること(【0069】及び【0073】)及び前処理による単量体分離後の重合反応液を脱揮工程に供すると、得られるアクリル系熱可塑性樹脂100質量%中に残存する単量体の合計を0.5質量%以下に抑えることができることができ、この除去処理が不充分であると、得られたアクリル系熱可塑性樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがあること(【0088】及び【0093】)が記載されている。 ケ.甲13の記載事項 甲13には、申立人が申立書第41頁表下第3行ないし第42頁上段(表1)で摘示したとおりの、正の位相差を与えるラクトン環構造単位と負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位とを有するアクリル系共重合体を主成分として含有することを特徴とする偏光子保護フィルムにおいて(【請求項1】)、偏光子保護フィルムは、その光弾性係数の絶対値が好ましくは20×10-12m2/N以下であり、光弾性係数の絶対値が20×10-12m2/Nを超えると、得られた偏光板を液晶表示装置に組み込んだ場合に色ムラが生じたり、周辺部のコントラストが低下したりすることがあること(【0033】)が記載されている。 コ.甲14の記載事項 甲14には、申立人が申立書第42頁中段(表)で指摘するとおり、メタクリル酸メチル、スチレン、α-メチルスチレン、N-フェニルマレイミド及びN-シクロヘキシルマレイミドの5種の単量体の沸点につき記載されている。(ただし、N-フェニルマレイミド又はN-シクロヘキシルマレイミドの沸点については、それぞれ27mmHg又は17mmHgの減圧下のものであり、他は常圧下のものが記載されている。) サ.甲15の記載事項 甲15には、申立人が申立書第42頁下から第6行ないし第4行で指摘するとおり、2-ヒドロキシメチルアクリル酸メチル[methyl 2-(hydroxymethyl)acrylate]の沸点が常圧下で最高192℃であることが記載されている。 シ.甲16の記載事項 甲16には、申立人が申立書第42頁下から第2行ないし第43頁上段(「図表」)で指摘したとおり、Science of Petroleum,Vol.II.p.1281(1938年)を引用して出典としてなる、減圧下の沸点と減圧度から常圧下の沸点を求めることができる「沸点換算図表」が記載されている。 ス.甲17の記載事項 甲17には、申立人が申立書第43頁下から第3行ないし第44頁第15行で摘示したとおりの、N-置換マレイミド(a)およびメタクリル酸エステル(b)を含む単量体成分を用いて重合する耐熱性メタクリル系樹脂の製造方法であって、単量体成分の供給終了時に反応系中に存在する未反応の単量体成分中におけるN-置換マレイミド(a)の割合が、単量体成分の全供給量中におけるN-置換マレイミド(a)の割合よりも少なくなるように制御することを特徴とする耐熱性メタクリル系樹脂の製造方法が記載され(【請求項1】)、耐熱性を改善させた耐熱性メタクリル系樹脂の製造方法として、N-置換マレイミドとメタクリル酸エステルとを含む単量体混合物を重合させる方法が用いられているが、単量体混合物を一括して仕込んで重合を行うと、かなりの量のN-置換マレイミドが未反応のまま残存するため、耐熱性メタクリル系樹脂に白濁や黄変等の着色が生じるという問題を生じているところ(【0004】)、上記製造方法により、得られる耐熱性メタクリル系樹脂中におけるN-置換マレイミド(a)の残存量を低減できるから、残存N-置換マレイミド(a)による耐熱性メタクリル系樹脂の着色を抑制することができること(【0045】)が記載されている。 セ.甲18の記載事項 甲18には、申立人が申立書第44頁第18行ないし第24行で指摘したとおりの、偏光子やハードコート層との密着性に優れた偏光子保護フィルムが記載され(【0008】)、多層構造のポリエステルフィルムの場合、少なくとも3層構造のものが好ましく、紫外線吸収剤は、その中間層に配合することが好適であり、中間層に紫外線吸収剤を配合することにより、当該化合物がフィルム表面へブリードアウトしてくるのを防ぐことができ、その結果、フィルムの接着性等の特性を維持することができること(【0048】)が記載されている。 ソ.甲19の記載事項 甲19には、申立人が申立書第44頁最下行ないし第45頁第14行で指摘したとおりの事項を含む、偏光子保護フィルムにおいて、偏光子保護フィルムとして用いるフィルムに紫外線吸収剤を配合する場合、フィルムを3層以上の多層構造とし、フィルムの最外層以外の層(即ち、中間層)に紫外線吸収剤を添加することが好ましく(【0039】)、偏光子保護フィルムBを構成する樹脂としては、セルロースアシレート、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリオレフィン、脂環族ポリオレフィン(COP)、アクリルが好ましく、セルロースアシレートがより好適である(【0070】)と共に、偏光子保護フィルムBの光学特性を達成する手法として、リタデーション低減剤を添加することが好ましく、リタデーション低減剤としては、リン酸エステル類、トリフェニルホスフィンオキサイド類、トリフェニルメタン類、-CONR-基を有する化合物、-SO2NR-基を有する化合物、カルボン酸エステル化合物、多価アルコールエステル化合物、単糖のエステル化合物、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(オリゴマー)等が好適であって、リタデーション低減剤の添加量の上限は好ましくは50質量部(対樹脂100質量部)であり、上記を越えるとブリードアウト等が起こり、径時的に特性が変化することがあって、その結果、偏光子との接着性が低下することがあること(【0076】ないし【0078】)並びにセルロースアシレートは一般には正の波長分散性を示すから、700nmでのリタデーションと400nmでのリタデーションの差は波長分散調整剤を添加することにより調整でき、当該波長分散調整剤には、紫外線吸収剤を用いることができ、室温(25℃)で液状のものが好ましく、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等であり、ベンゾトリアゾール系が好適であって、その添加量の上限は、好ましくは30質量部(対樹脂100質量部)であり、それを越えるとブリードアウト等が起こり、径時的に特性が変化することがあって、その結果、偏光子との接着性が低下することがあること(【0079】ないし【0081】)が記載されている。 2.本件請求項1に係る発明についての対比・検討 以下、本件発明と甲1発明ないし甲4発明とをそれぞれ対比して検討を行う。 (1)甲1発明に基づく検討 ア.対比 本件発明と甲1発明とを対比すると、本件発明と甲1発明とは、下記の点で相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。 相違点1:「メタクリル系樹脂組成物」につき、本件発明では「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下である」のに対して、甲1発明では、メタノール可溶分の量(比)に係る特定がない点 イ.相違点についての検討 上記相違点1につき検討するにあたり、前提として、上記「メタノール可溶分」につきその定義等を確認し、それに基づき、相違点につき検討を行う。 (ア)「メタノール可溶分」について 上記「メタノール可溶分」につき本件特許明細書の記載に基づき検討すると、「メタノール可溶分及びメタノール不溶分は、メタクリル系樹脂組成物をクロロホルム溶液とした後に溶液を大過剰量のメタノール中に滴下することによって再沈殿を行い、濾液及び濾物を分別し、その後に各々を乾燥させることによって得られたものをい」うと定義付けられており(【0112】)、具体的な測定方法としては、「実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物5gをクロロホルム100mLに溶解させた後、溶液を滴下漏斗に入れ、撹拌子を用いて撹拌している1Lのメタノール中に約1時間かけて滴下して、再沈殿を行った。全量滴下後、1時間静置した後に、メンブランフィルター(アドバンテック東洋株式会社製 T05A090C)をフィルターとして用いて、吸引濾過を行った。・・濾液はロータリーエバポレーターを、バス温度を40℃として、真空度を初期設定の390Torrから徐々に下げて最終的に30Torrとして、用いて溶媒を除去した後、ナス形フラスコに残存している可溶分を回収し、メタノール可溶分とした。 メタノール不溶分の質量及びメタノール可溶分の質量の各々を秤量し、メタノール可溶分の量の、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量の合計量(100質量%)に対する割合(質量%)(メタノール可溶分率)を算出した」(【0136】)との方法が記載されている。 そして、上記具体的な測定方法においては、濾液として得られた「メタノール可溶分」の溶液につき、40℃なる温度で最終的には30Torrなる減圧下で溶媒を除去しているから、当該条件下で除去される溶液中の揮発性成分は全て除去されているものと解するのが自然であり、「メタノール可溶分」には、溶媒、揮発性単量体(例えば、沸点(常圧)130℃以下のもの)などは除く難揮発性の成分のみが含まれるものと認められる。 また、上記方法の試料である「メタクリル系樹脂組成物」は、元々、重合溶液を「予め170℃に加熱された管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置に供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた」上で、「伝熱面積が0.2m2である薄膜蒸発機に供給し、」「装置内温度:280℃、供給量:30L/hr、回転数:400rpm、真空度:30Torrで」「脱揮を行った」ものである(【0147】等参照)から、溶媒、揮発性単量体はもとより、沸点(常圧)400℃程度まで(甲16参照。)の難揮発性単量体等の成分でさえ、ある程度除去されているものと解するのが自然である。 してみると、上記「メタノール可溶分」は、本件発明に係るメタクリル系樹脂組成物におけるメタノールに可溶な成分のうち、特に実質的に不揮発性の成分と上記「脱揮」により除去できなかった沸点(常圧)130℃超の難揮発性の成分の一部との総和量をいうものと理解すべきものであり、揮発可能な低分子量化合物、特に沸点(常圧)130℃以下の低分子量化合物の全量については、除外されるものと理解することができる。 なお、申立人は、申立書第47頁第7行ないし第49頁第2行において、本件発明における「メタノール可溶分」につき、本件特許明細書の記載に基づき検討し、「このように、メタノール可溶分には、樹脂中に含まれるメタノール可溶分(決定注:「メタノールに可溶な成分」を意味するものと認められる。)が実質的に全て含まれていると言える。」と結論づけている。 しかしながら、上記で検討したとおり、本件発明における「メタノール可溶分」には、脱揮などで除去されるメタノールに可溶な成分(未反応単量体等)が含まれるものではなく、また、逆に脱揮の後に組成物に添加される紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤などのメタノールに可溶な成分は含まれるのであるから、上記申立人の検討結果に係る主張は当を得ないものであり、前提として採用することはできない。 よって、以下の検討においては、本件発明における「メタノール可溶分」は、重合及びその後の閉環反応等により製造したメタクリル系樹脂の脱揮によっては除去することはできない不揮発性の成分及び難揮発性のメタノールに可溶な成分並びに脱揮の後に組成物に添加される紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤などのメタノールに可溶な成分との合計量であるとの理解・定義を踏まえて検討を行う。 (イ)検討 上記相違点1につき検討すると、甲1には、甲1発明に係るものと認められる実験例(実施例及び比較例)において、重合溶液をベントタイプ二軸押出機に導入し、水又は紫外線吸収剤溶液などの添加を行いつつ溶融混練した後、「脱揮し」、ペレット化する樹脂組成物の製造方法は開示されている(例えば【0275】~【0276】参照)ものの、当該「脱揮」の条件については具体的に開示されていないから、甲1発明に係るメタクリル系樹脂組成物(ペレット)中に本件発明でいう「メタノール可溶分」がどの程度含有されているかにつき、当業者が認識できるような記載又は示唆はない。 なお、申立人は、申立書第49頁第5行ないし第50頁第17行において、甲1に実施例として記載された樹脂の具体的な製造方法に基づき、「メタノール可溶分」は極めて少ないものであり、甲1の実施例等で得られた樹脂組成物が構成要件D(「構成要件E」の誤記と認められる。)を充足することが明らかである旨主張している。 しかしながら、上記申立人の主張は、上記(ア)で示した「メタノール可溶分」の申立人独自の定義に基づくものであり、当審の理解・定義とは異なるものを前提とするものであるから、当を得ないものであり、採用することができない。 また、「異議申立人は、このことを確認すべく、甲1の実施例で得られた樹脂組成物中のメタノール可溶分の割合を、本件明細書の【0136】に記載の方法にて測定したところ、確かに5質量%以下(例えば、実施例7では3.8質量%)であった。」と追試により確認した旨主張するところ、具体的な挙証がなく、当該追試の条件の適否等につき確認することができないから、当該主張も直ちに採用することはできない。 してみると、甲1発明に係る樹脂組成物の「メタノール可溶分」の含有率につき、甲1の記載に基づいて、同程度となる蓋然性が存するものとは認められないから、上記相違点1に係る事項は、実質的な相違点であって、本件発明が、甲1発明であるということはできない。 また、上記甲2、甲3、甲6ないし甲12及び甲17ないし甲19にもそれぞれ開示されているとおり、メタクリル系樹脂などを含む熱可塑性樹脂組成物又は当該組成物からなるフィルム等の成形体において、未反応単量体、低分子量重合体(オリゴマー)又は紫外線吸収剤等の低分子量添加剤などの低分子量化合物成分が組成物又は成形体中に存在する場合に、 (a)当該低分子量化合物成分が、組成物又は成形体からブリードアウトし、表面外観や耐熱性・耐候性などの物性が悪化すること(甲2、甲3、甲6、甲7、甲9、甲11、甲12、甲17及び甲19)、 (b)当該低分子量化合物成分が、組成物又は成形体からブリードアウトし、組成物又は成形体の表面又は他の材料層との界面に出現することにより、機能層(ハードコート層等)などの他の材料層との接着性又は成形体同士の熱融着性などの物性が悪化すること(甲10、甲11、甲18及び甲19) は、それぞれ、本願出願(優先日)時の当業者において、少なくとも公知の技術であるものとは認められる。 しかしながら、甲1には、甲1発明において使用される「分子量600以上の紫外線吸収剤」につき、「前記紫外線吸収剤は、分子量が600以上であることが好ましく、・・当該分子量が600未満の場合、紫外線吸収剤を添加したアクリル樹脂組成物を成形する際に発泡が生じたり、紫外線吸収剤がブリードアウトしたりすることがある。また、成形時に加えられる熱により紫外線吸収剤が蒸散して、得られた樹脂成形品の紫外線吸収能が低下したり、蒸散した紫外線吸収剤により成形装置を汚染したりするなどの問題が生じることがある。」(【0093】~【0094】)と記載されるとおり、「分子量600以上の紫外線吸収剤」を使用することにより、ブリードアウトを防止できる傾向があることが開示されているのであるから、甲1発明において、上記他の甲号証に記載された当業者に公知の技術を組み合わせるべき動機が存するものとは認められない。 また、本件発明における「メタノール可溶分」は、上記(ア)で示したとおり、重合及びその後の閉環反応等により製造したメタクリル系樹脂の脱揮によっては除去することはできない不揮発性の成分及び難揮発性のメタノールに可溶な成分並びに脱揮の後に組成物に添加される紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤などのメタノールに可溶な成分との合計量であるのに対して、甲1には、上記「重合及びその後の閉環反応等により製造したメタクリル系樹脂の脱揮によっては除去することはできない不揮発性の成分及び難揮発性のメタノールに可溶な成分」の含有量に係る記載又は示唆はないから、甲1発明において、本件発明における「メタノール可溶分」の量を「メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下」と規定することは、当業者が適宜なし得ることということはできない。 さらに、本件発明に係る効果につき本件特許明細書の実施例(比較例)の記載に基づき検討すると、本件発明における「メタノール可溶分」の量が5質量%以下である実施例の場合が、5質量%超である比較例の場合に比して、いずれもハードコート層に対する密着性評価である性能評価1ないし3のいずれにおいても、良好な密着性が得られていることが看取できるから、本件発明は、上記「メタノール可溶分」に係る点により、特段の効果を奏しているものと認められる。 してみると、本件発明は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明に他の甲号証に記載された技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 ウ.小括 以上のとおりであるから、本件発明は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明に基づいて、又は、甲1に記載された発明に他の甲号証に記載された技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 よって、申立人が主張する甲1に基づく取消理由1及び2については、いずれも理由がない。 (2)甲2発明に基づく検討 ア.対比 本件発明と甲2発明とを対比すると、本件発明と甲2発明とは、下記の点で相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。 相違点1’:「メタクリル系樹脂組成物」につき、本件発明では「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下である」のに対して、甲2発明では、メタノール可溶分の量(比)に係る特定がない点 イ.相違点についての検討 上記相違点1’につき検討すると、相違点1’は、上記(1)ア.で示した相違点1と同一の事項であるところ、甲2には、甲2発明に係るものと認められる実験例(実施例及び比較例)において、重合溶液をベントタイプ二軸押出機に導入し、特定の圧力等の条件下において「脱揮」を行いながら、酸化防止剤の有機溶剤溶液などの添加を行いつつ溶融混練した後、ペレット化する樹脂組成物の製造方法は開示されている(例えば【0231】~【0235】参照)ものの、脱揮により除去されるであろう有機溶剤などを含む溶液を添加しながら「脱揮」を行っているから、甲2発明に係るメタクリル系樹脂組成物(ペレット)中に本件発明でいう「メタノール可溶分」がどの程度含有されているかにつき、当業者が認識できるようなものではないのであって、甲2の上記記載に基づき、甲2発明に係るメタクリル系樹脂組成物(ペレット)中に本件発明でいう「メタノール可溶分」がどの程度含有されているかにつき、当業者が認識できるような記載又は示唆はない。 してみると、上記相違点1’についても、上記(1)イ.(イ)で説示した理由と同一の理由により、実質的な相違点であり、甲2発明においても、相違点1’に係る事項につき、当業者が適宜なし得ることということはできない。 したがって、本件発明が、甲2発明であるということはできず、また、本件発明は、甲2発明に基づいて、又は、甲2発明に他の甲号証に記載された技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 ウ.小括 以上のとおりであるから、本件発明は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明であるということはできず、また、甲2に記載された発明に基づいて、又は、甲2に記載された発明に他の甲号証に記載された技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 よって、申立人が主張する甲2に基づく取消理由1及び2については、いずれも理由がない。 (3)甲3発明に基づく検討 ア.対比 本件発明と甲3発明とを対比すると、本件発明と甲3発明とは、下記の点で相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。 相違点1’’:「メタクリル系樹脂組成物」につき、本件発明では「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下である」のに対して、甲3発明では、メタノール可溶分の量(比)に係る特定がない点 イ.相違点についての検討 上記相違点1’’につき検討すると、相違点1’’は、上記(1)ア.で示した相違点1と同一の事項であるところ、甲3には、甲3発明に係るものと認められる実験例(実施例及び比較例)において、重合溶液をベントタイプ二軸押出機に導入し、特定の圧力等の条件下において「脱揮」を行いながら、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの有機溶剤溶液などの添加を行いつつ溶融混練した後、ペレット化する樹脂組成物の製造方法は開示されている(例えば【0173】~【0175】参照)ものの、脱揮により除去されるであろう有機溶剤などを含む溶液を添加しながら「脱揮」を行っているから、甲3発明に係るメタクリル系樹脂組成物(ペレット)中に本件発明でいう「メタノール可溶分」がどの程度含有されているかにつき、当業者が認識できるようなものではないのであって、甲3の上記記載に基づき、甲3発明に係るメタクリル系樹脂組成物(ペレット)中に本件発明でいう「メタノール可溶分」がどの程度含有されているかにつき、当業者が認識できるような記載又は示唆はない。 してみると、上記相違点1’’についても、上記(1)イ.(イ)で説示した理由と同一の理由により、実質的な相違点であり、甲3発明においても、相違点1’’に係る事項につき、当業者が適宜なし得ることということはできない。 したがって、本件発明が、甲3発明であるということはできず、また、本件発明は、甲3発明に基づいて、又は、甲3発明に他の甲号証に記載された技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 ウ.小括 以上のとおりであるから、本件発明は、甲3発明、すなわち甲3に記載された発明であるということはできず、また、甲3に記載された発明に基づいて、又は、甲3に記載された発明に他の甲号証に記載された技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 よって、申立人が主張する甲3に基づく取消理由1及び2については、いずれも理由がない。 (4)甲4発明に基づく検討 ア.対比 本件発明と甲4発明とを対比すると、本件発明と甲4発明とは、下記の点で相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。 相違点1’’’:「メタクリル系樹脂組成物」につき、本件発明では「メタノール可溶分の量が、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下である」のに対して、甲4発明では、メタノール可溶分の量(比)に係る特定がない点 イ.相違点についての検討 上記相違点1’’’につき検討すると、相違点1’’’は、上記(1)ア.で示した相違点1と同一の事項であるところ、甲4には、甲4発明に係るものと認められる実験例(実施例及び比較例)において、懸濁重合により製造された粒子状の樹脂組成物を水で洗浄して乾燥させた後、当該粒子状の樹脂組成物に紫外線吸収剤を添加し固体ミキサーで混合し、さらに押出機に導入し、加圧下で溶融混練した後、ペレット化する樹脂組成物の製造方法は開示されている(例えば【0074】~【0079】参照)ものの、特段の「脱揮」を行っているものではないから、甲4発明に係るメタクリル系樹脂組成物(ペレット)中に本件発明でいう「メタノール可溶分」がどの程度含有されているかにつき、当業者が認識できるようなものではないのであって、甲4の上記記載に基づき、甲4発明に係るメタクリル系樹脂組成物(ペレット)中に本件発明でいう「メタノール可溶分」がどの程度含有されているかにつき、当業者が認識できるような記載又は示唆はない。 してみると、上記相違点1’’’についても、上記(1)イ.(イ)で説示した理由と同一の理由により、実質的な相違点であり、甲4発明においても、相違点1’’’に係る事項につき、当業者が適宜なし得ることということはできない。 したがって、本件発明が、甲4発明であるということはできず、また、本件発明は、甲4発明に基づいて、又は、甲4発明に他の甲号証に記載された技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 ウ.小括 以上のとおりであるから、本件発明は、甲4発明、すなわち甲4に記載された発明であるということはできず、また、甲4に記載された発明に基づいて、又は、甲4に記載された発明に他の甲号証に記載された技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 よって、申立人が主張する甲4に基づく取消理由1及び2については、いずれも理由がない。 (5)請求項1に係る発明についての検討のまとめ 以上のとおり、本件発明、すなわち、本件の請求項1に係る発明につき、申立人が主張する取消理由1及び2は、いずれも理由がない。 3.他の請求項に係る発明について 本件特許の請求項2ないし12に係る発明は、いずれも請求項1に係る本件発明を引用しているものであるところ、上記2.でそれぞれ説示したとおりの理由により、本件発明は、甲1ないし甲4に記載された発明であるということはできず、また、甲1ないし甲4に記載された発明又は甲1ないし甲4に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできないから、本件特許の請求項2ないし12に係る発明についても、甲1ないし甲4に記載された発明であるということはできず、また、甲1ないし甲4に記載された発明又は甲1ないし甲4に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 4.取消理由1及び2に係るまとめ 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、いずれも、甲1ないし甲4に記載された発明であるということはできず、また、甲1ないし甲4に記載された発明又は甲1ないし甲4に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 よって、本件の請求項1ないし12に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、取消理由1及び2は、いずれも理由がない。 IV.当審の判断のまとめ 以上のとおりであるから、申立人が主張する取消理由1ないし4はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし12に係る発明についての特許は、取り消すことができない。 第5 むすび 以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし12に係る発明についての特許は、取り消すことができない。 ほかに、本件の請求項1ないし12に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-700133

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同じ当事者の審決300件(三上 早織、旭化成株式会社)
  • 2018-700483異議申立 / 2018-08-21 / 維持メタクリル系樹脂組成物、光学フィルム、光学部品
    同じ当事者: 三上 早織、旭化成株式会社
  • 2024-700591異議申立 / 2026-03-26 / 請求成立(取消)エポキシ樹脂組成物
    同じ当事者: 旭化成株式会社
  • 2025-701068異議申立 / 2026-02-19 / 維持エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂接着剤、及びエポキシ樹脂硬化物
    同じ当事者: 旭化成株式会社
  • 2025-700158異議申立 / 2025-12-25 / 請求成立(取消)複合成型体及びその製造方法、並びに繊維組成物
    同じ当事者: 旭化成株式会社
  • 2025-700778異議申立 / 2025-12-23 / 維持組換え微生物及びC6化合物の製造方法
    同じ当事者: 旭化成株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)1,513件(113・C08L、121・C08L、537・C08L)
  • 2025-700661異議申立 / 2026-04-30 / 訂正認容ポリプロピレンコーティング組成物
    共通の審決分類: 113・C08L、121・C08L、537・C08L
  • 2025-700469異議申立 / 2026-04-27 / 訂正認容樹脂組成物及び電子部品装置
    共通の審決分類: 113・C08L、121・C08L、537・C08L
  • 2025-700320異議申立 / 2026-03-31 / 訂正認容澱粉含有樹脂組成物、ペレット、フレーク、樹脂成形物、澱粉含有樹脂組成物の製造方法…
    共通の審決分類: 113・C08L、121・C08L、537・C08L
  • 2024-700791異議申立 / 2026-03-26 / 訂正認容導電性組成物および生体センサ
    共通の審決分類: 113・C08L、121・C08L、537・C08L
  • 2024-701168異議申立 / 2026-03-13 / 訂正認容封止用樹脂組成物、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法
    共通の審決分類: 113・C08L、121・C08L、537・C08L

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