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特許異議申立

2018-700084

蓄電デバイス用外装材

審判番号
2018-700084
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-157013
登録番号
特許第6172363号(P6172363)
請求日
2018年02月01日
審決日
2018年08月27日
公報発行日
2018年11月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】凸版印刷株式会社
  • 【権利者代理人】松沼 泰史
  • 【権利者代理人】鈴木 史朗
  • 【権利者代理人】清水 雄一郎
  • 【権利者代理人】大槻 真紀子
  • 【権利者代理人】志賀 正武
  • 【権利者代理人】高橋 詔男
  • 【権利者代理人】伏見 俊介
  • 【異議申立人】磯崎 紀雄
審判長/審判官
  • 審判長 池渕 立
  • 審判官 ▲辻▼ 弘輔
  • 審判官 長谷山 健
分類
P1651.121-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第44条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6172363号発明「蓄電デバイス用外装材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6172363号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について、訂正することを認める。 特許第6172363号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6172363号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2012年(平成24年)11月 7日(優先権主張 平成23年11月 7日(3件))を国際出願日とする特許出願である特願2013-543010号(以下、「本件特許の原出願」ということがある。)の一部を平成28年 8月 9日に新たな特許出願としたものであって、平成29年 7月14日に特許権の設定登録がされ、同年 8月 2日に特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許の請求項1~5に係る特許について、平成30年 2月 1日に特許異議申立人磯崎紀雄(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 4月26日付けで取消理由が通知され、これに対し特許権者から同年 6月25日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対し異議申立人から同年 8月14日に意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 平成30年 6月25日付けで提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1、2のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記基材層の前記第2の面に積層され、水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール及び水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪族系イソシアネート硬化剤により形成されたウレタン樹脂を含有する基材保護層と、」 とあるのを 「前記基材層の前記第2の面に積層され、水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層と、」 に訂正する。 請求項1を引用する請求項2~5についても同様に訂正する。 (2)訂正事項2 明細書の段落【0008】に 「前記基材層の前記第2の面に積層され、水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール及び水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪族系イソシアネート硬化剤により形成されたウレタン樹脂を含有する基材保護層と、」 とあるのを 「前記基材層の前記第2の面に積層され、水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層と、」 に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的 (ア)訂正事項1は、以下の訂正事項1-1と、訂正事項1-2とからなる。 ・訂正事項1-1 訂正前の「水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール及び水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1種」との記載を、訂正後の「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオール」との記載にする訂正。 ・訂正事項1-2 訂正前の「により形成されたウレタン樹脂を含有する基材保護層と、」との記載を、訂正後の「とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層と、」との記載にする訂正。 (イ)訂正事項1-1による訂正は、訂正前は、「水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール」と「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオール」という二つの選択肢があったものを、訂正後は、後者の選択肢のみに限定する訂正であるといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 (ウ)訂正事項1-2による訂正は、「基材保護層」に関し、訂正前は、「ウレタン樹脂」を「含有する」ものであって他の成分も含まれ得るものであったのに対し、訂正後は、「ウレタン樹脂」「で形成された」ものであって他の成分が含まれないことを限定する訂正であるといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 (エ)したがって、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無 (ア)願書に添付した明細書の段落【0013】に「基材保護層17は、・・・水酸基を有する基(官能基)を側鎖に有する・・・アクリルポリオール・・・と、脂肪族系イソシアネート硬化剤で形成される。」(当審注:「・・・」により記載の省略を示す。以下同様である)との記載があることに照らすと、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことは明らかである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2による訂正は、訂正事項1による訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無 前記(1)イの検討と同じ理由で、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更 訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことは明らかである。 3 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~5について、請求項2~5はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であるといえる。 4 本件訂正が特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合することについて 訂正事項2による訂正は明細書の訂正であるところ、当該明細書の訂正に関連する請求項の全てである請求項1~5について訂正を行わなければならない。 そして、本件訂正は、請求項1~5について行われているので、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 5 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 前記第2の検討のとおり、本件訂正は認められるから、特許第6172363号の特許に係る請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明5」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、訂正箇所に下線を付した。 「【請求項1】 蓄電デバイス用外装材であって、 第1の面と第2の面とを有し、前記第1の面に順次積層された、少なくとも第1接着層、金属箔層、腐食防止処理層、第2接着層及びシーラント層を備えポリアミドフィルムからなる基材層と、 前記基材層の前記第2の面に積層され、水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層と、 を備えることを特徴とする蓄電デバイス用外装材。 【請求項2】 前記ポリオールが有する水酸基に対する前記脂肪族系イソシアネート硬化剤が有するイソシアネート基のモル比(NCO/OH)を0.5~50とすることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用外装材。 【請求項3】 前記基材保護層の厚さが、1~10μmとされることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電デバイス用外装材。 【請求項4】 前記基材保護層の外表面は、マット処理が施されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用外装材。 【請求項5】 前記基材保護層には、添加剤が配合されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用外装材。」 2 申立理由と取消理由について (1)申立理由について ア 特許異議申立書(以下単に「異議申立書」という。)において異議申立人が主張する申立理由の概要は、以下のとおりである。それぞれの申立理由を、便宜的に「申立理由1」~「申立理由4」という。 ・申立理由1 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである(異議申立書の第5頁下から第4行~第20頁第8行)。 ・申立理由2 本件訂正前の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである(異議申立書の第20頁第9行~第21頁第8行)。 ・申立理由3 本件訂正前の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである(異議申立書の第21頁第9行~第28頁第15行)。 ・申立理由4 本件訂正前の請求項1~5に係る特許は出願日の遡及が認められないところ、本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であるか、甲第5号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである(異議申立書の第28頁第16行~第29頁第11行)。 イ [証拠方法] 甲第1号証:特開2011-54563号公報 甲第2号証:特開2000-123799号公報 甲第3号証:岩田敬司編「ポリウレタン樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社(昭和62年9月25日発行)31頁、36頁、406~407頁、455頁及び奥付の写し 甲第4号証:本件特許の審査過程において、平成28年 8月26日付けで提出された上申書 甲第5号証:国際公開第2013/069698号(本件特許の原出願である特願2013-543010号に対応する国際特許出願であるPCT/JP2012/078874の国際公開) (以下、甲第1号証~甲第5号証をそれぞれ「甲1」~「甲5」という。) (2)取消理由について ア 取消理由通知書において通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。それぞれの取消理由を、便宜的に「取消理由1」、「取消理由2」という。 ・取消理由1 申立理由3で主張された内容の一部(異議申立書の第21頁第10行~第22頁第1行)を引用したものであって、本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、その発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 ・取消理由2 申立理由4で主張された内容(異議申立書の第28頁第16行~第29頁第11行)を引用したものであって、本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲5に記載された発明であるか、甲5に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 イ なお、申立理由1、2として主張された内容と、申立理由3として主張された内容のうち取消理由1として採用しなかった内容は、取消理由として採用しなかった(その理由については、次項3の(2)、(4)及び(5)を参照。)。 3 当審の判断 事案に鑑み、以下においては、まず、本件訂正後の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合することを述べる(後記(1)を参照。)。 次いで、取消理由1及び申立理由3では本件特許を取り消すことができないことを述べる(後記(2)を参照。)。 次いで、本件発明1~5は出願日の遡及が認められるから、取消理由2(すなわち申立理由4)では本件特許を取り消すことができないことを述べる(後記(3)を参照。)。 次いで、申立理由1、2では、本件特許を取り消すことができないことを述べる(後記(4)及び(5)を参照。)。 (1)本件訂正後の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合することについて ア 特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるので、以下、この観点から検討する。 イ 本件特許の願書に添付された明細書(以下、単に「本件明細書」という)には、以下の記載がある(下線は当審による。以下同様である。)。 「【0003】 外装材としてラミネートフィルムを用いる蓄電デバイスは、ラミネートフィルムを冷間成型により深絞りして凹部を形成し、前記凹部内にデバイス用内容物を収容して、周縁部をヒートシールにより熱封緘することで製造される。前記蓄電デバイスは、前記凹部を深くするほど内容物の収納量が増加し、エネルギー密度が高くなる。そのため、外装材の基材層には、凹部を深くしてもクラックやピンホールが生じ難い、優れた成型性を有するポリアミドフィルムが好適に使用される(例えば、特許文献1、2)。しかし、ポリアミドフィルムは、充分な電解液耐性を有していない。そのため、蓄電デバイスが複数個積層されて使用される場合等、一つの蓄電デバイスに破損が生じて電解液が漏れ出すと、他の蓄電デバイスの外装材に付着した電解液によって基材層が溶解し、内側の金属箔層を腐食させるおそれがある。また、耐傷性も充分ではなく、取り扱い時に基材層の表面に傷が付き、意匠性、耐久性等が低下することがある。 【0004】 一方、特許文献1には、外装材の成型性をさらに向上させる目的で、基材層の外表面上にマットニス層を形成することが示されている。前記マットニス層は、セルロース系、塩化ビニル-酢酸ビニル系、変性ポリオレフィン系、ゴム系、アクリル系、ウレタン系等のオレフィン系、又はアルキッド系合成樹脂と、シリカ系、カオリン系等のマット剤により形成されている。しかし、前記マットニス層を設けても、基材層の電解液による劣化を充分に抑制すること、及び充分な耐傷性を付与することは困難である。 【0005】 また、特許文献2には、基材層の電解液耐性及び耐傷性を向上させた外装材として、以下の構造が示されている。 (1)外側から順に、基材層/金属箔層/熱接着性樹脂層が積層され、前記基材層が、外側から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと二軸延伸ポリアミドフィルムが積層された積層フィルムからなる外装材(特許文献2)。 しかし、前記外装材(1)では、電解液耐性及び耐傷性は向上するが、成型性が低下する。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】特開2011-54563号公報 【特許文献2】特許第4559547号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、優れた電解液耐性、耐傷性及び成型性を兼ね備えた蓄電デバイス用外装材の提供を目的とする。」 「【0012】 [第一実施形態] 以下、本発明の第一実施形態の蓄電デバイス用外装材の一例を示して詳細に説明する。 ・・・ 【0013】 (基材保護層17) 基材保護層17は、基材層11の外側の面(第2の面)に積層される層であり、水酸基を有する基(官能基)を側鎖に有するポリエステルポリオール及びアクリルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1種(以下、これらをまとめて「ポリオール」ということがある。)と、脂肪族系イソシアネート硬化剤で形成される。基材保護層17により、基材層11が電解液によって劣化することが抑制される。・・・ 【0018】 ポリオールとしては、電解液耐性により優れることから、アクリルポリオール(a2)が好ましい。 ポリオールは、求められる機能や性能に応じて使用でき、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とを使用することで、ポリウレタン樹脂により形成される基材保護層17が得られる。 ・・・ 【0053】 本発明の第一実施形態の外装材における基材保護層は、前述した従来の外装材におけるマットニス層と異なり、特定のポリオールと硬化剤とで形成されたウレタン樹脂により形成されており、これにより優れた電解液耐性が得られると考えられる。・・・ポリオールとして、主鎖の末端のみに水酸基があるポリエーテルポリオールではなく、少なくとも末端以外に水酸基が配置されているポリエステルポリオール(a1)、アクリルポリオール(a2)を使用することで、架橋点が増え、電解液耐性が向上していると考えられる。特にアクリルポリオール(a2)は、主鎖に対して無秩序に水酸基を有する基が側鎖として配置されるため、架橋点が増え、電解液耐性が向上すると考えられる。」 「【0055】 [第二実施形態] 以下に、本発明の第二実施形態について説明する。 本発明の第二実施形態は、本発明の第一実施形態の基材保護層17が、水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール及びアクリルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1種(以下、これらをまとめて「ポリオール」ということがある。)と、脂肪族系イソシアネート硬化剤で形成される、ガラス転移温度Tgが0~60℃であるウレタン樹脂(以下、「ウレタン樹脂(A)」という。)を含有する層であることを特徴とする。 【0056】 以下、本発明の第二実施形態の蓄電デバイス用外装材の一例を示して詳細に説明する。・・・ 【0057】 (基材保護層17) 本発明の第二実施形態においては、基材保護層17は、基材層11の外側の面に積層される層であり、水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール及びアクリルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1種(以下、これらをまとめて「ポリオール」ということがある。)と、脂肪族系イソシアネート硬化剤で形成される、ガラス転移温度Tgが0~60℃であるウレタン樹脂(以下、「ウレタン樹脂(A)」という。)を含有する層である。 基材保護層17により、基材層11が電解液によって劣化することが抑制され、優れた耐傷性が付与される。 ・・・ 【0093】 以上説明した本発明の第二実施形態の外装材は、基材層の外側の面に基材保護層が積層されていることで、優れた電解液耐性を有している。そのため、外装材の基材層側の表面に電解液が付着しても、基材層、及び金属箔層の基材層側が変質することを抑制できる。本発明の第二実施形態の外装材における基材保護層は、前述した従来の外装材におけるマットニス層と異なり、特定のポリオールと硬化剤で形成されたウレタン樹脂(A)により形成されており、これにより優れた電解液耐性が得られると考えられる。・・・ポリオールとして、主鎖の末端のみに水酸基があるポリエーテルポリオールではなく、少なくとも末端以外に水酸基が配置されているポリエステルポリオール(a1)、アクリルポリオール(a2)を使用することで、架橋点が増え、電解液耐性が向上していると考えられる。特にアクリルポリオール(a2)は、主鎖に対して無秩序に水酸基を有する基が側鎖として配置されるため、架橋点が増え、電解液耐性が向上すると考えられる。 また、本発明の第二実施形態の外装材は、優れた電解液耐性が得られることに加え、基材保護層を形成するウレタン樹脂(A)のガラス転移温度Tgが0~60℃であることで、優れた耐傷性も得られる。」 「【0095】 [第三実施形態] 以下に、本発明の第三実施形態について説明する。 本発明の第三実施形態の蓄電デバイス用外装材は、基材層の第1の面に、順次積層された、少なくとも第1接着層、金属箔層、腐食防止処理層、第2接着層及びシーラント層を備え、前記基材層の第2の面に、厚さ6~40μmのポリアミドフィルム、ポリエステルフィルムが順次積層された積層フィルムを備え、前記積層フィルムの外表面に凹凸(凹凸部)が形成されている。 ・・・ 【0133】 以上説明した本発明の第三実施形態の外装材は、基材層が、ポリアミドフィルムの外側にポリエステルフィルムを有する積層フィルムからなることで、優れた電解液耐性及び耐傷性が得られる。さらに、基材層は成型性に優れたポリアミドフィルムを有し、かつ外側のポリエステルフィルムの外表面に凹凸が形成されていることで、冷間成型の際に金型と外装材とが過度に密着することを抑制できることから、優れた成型性も得られる。」 「【0136】 ・・・ 実施例1においては、本発明の第一実施形態に示す材料を用いた。 ・・・ 【0142】 [基材保護層17] 塗布液G-1:DIC社製のアクリディック(アクリルポリオール(a2))と、脂肪族系イソシアネート硬化剤である1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートを、モル比(NCO/OH)が3.0となるようにトルエンに溶解した塗布液。 塗布液G-2:三井化学社製のアクトコール(ポリエーテルポリオール)と、脂肪族系イソシアネート硬化剤の1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートとを、モル比(NCO/OH)が3.0となるようにトルエンに溶解した塗布液。 塗布液G-3:DIC社製のアクリディック(アクリルポリオール(a2))と、芳香族系イソシアネート硬化剤のトリレンジイソシアネートとを、モル比(NCO/OH)が3.0となるようにトルエンに溶解した塗布液。 塗布液G-4:三井化学社製のアクトコール(ポリエーテルポリオール)と、芳香族系イソシアネート硬化剤のトリレンジイソシアネートとを、モル比(NCO/OH)が3.0となるようにトルエンに溶解した塗布液。 ・・・ 【0146】 【表1】 【0147】 表1に示すように、アクリルポリオール(a2)と脂肪族系イソシアネート硬化剤とにより基材保護層を形成した実施例1(当審注:表1の「実験例1」は「実施例1」の誤記と認められる。)の外装材は、ポリエーテルポリオールと芳香族系イソシアネート硬化剤との少なくとも一方を使用して基材保護層を形成した比較例1~3の外装材に比べて、優れた電解液耐性を有していた。」 「【0148】 以下、実施例2及び実施例3においては、本発明の第二実施形態に示す材料を用いた。 ・・・ 【0154】 [基材保護層17] 塗布液G-11:DIC社製のアクリディック(アクリルポリオール(a2))と、脂肪族系イソシアネート硬化剤である1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートを、モル比(NCO/OH)が20となるようにトルエンに溶解した塗布液。 塗布液G-12:DIC社製のアクリディック(アクリルポリオール(a2))と、脂肪族系イソシアネート硬化剤である1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートを、モル比(NCO/OH)が2となるようにトルエンに溶解した塗布液。 塗布液G-13:三井化学社製のアクトコール(ポリエーテルポリオール)と、脂肪族系イソシアネート硬化剤の1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートを、モル比(NCO/OH)が8となるようにトルエンに溶解した塗布液。 塗布液G-14:DIC社製のアクリディック(アクリルポリオール(a2))と、芳香族系イソシアネート硬化剤のトリレンジイソシアネートを、モル比(NCO/OH)が10となるようにトルエンに溶解した塗布液。 塗布液G-15:DIC社製のアクリディック(アクリルポリオール(a2))と、脂肪族系イソシアネート硬化剤である1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートを、モル比(NCO/OH)が1となるようにトルエンに溶解した塗布液。 各塗布液中のポリオールと硬化剤の比率は、形成される樹脂のガラス転移温度Tgが所望の温度となるように調整した。樹脂のガラス転移温度Tgは、動的粘弾性測定(DMS)により、1Hzでの損失正接(tanθ)のピーク温度(昇温速度5℃/分)として測定した。 ・・・ 【0159】 【表2】 【0160】 表2に示すように、アクリルポリオール(a2)と脂肪族系イソシアネート硬化剤で形成したガラス転移温度Tgが0~60℃のウレタン樹脂の基材保護層を有する実施例2、3の外装材は、優れた電解液耐性と耐傷性を兼ね備えていた。 ・・・」 「【0161】 以下、実施例4及び実施例5においては、本発明の第三実施形態に示す材料を用いた。 ・・・ 【0172】 【表3】 【0173】 表3に示すように、厚さ6~40μmの二軸延伸Nyフィルムの外側に、二軸延伸PETが積層され、かつ外表面に凹凸が形成された実施例4、5の外装材は、優れた電解液耐性、耐擦傷性及び成型性を兼ね備えていた。・・・」 ウ 上記イに摘記した本件明細書の各記載に関し、以下のことがいえる。 (ア)本件明細書において、「【発明が解決しようとする課題】」という見出しが付された段落【0007】には、「本発明は、優れた電解液耐性、耐傷性及び成型性を兼ね備えた蓄電デバイス用外装材の提供を目的とする。」と記載されている。 (イ)本件明細書の全体を参照すると、「第一実施形態」(段落【0012】~【0054】)、「第二実施形態」(段落【0055】~【0094】)、「第三実施形態」(段落【0095】~【0134】)の、三つの実施形態が記載されており、「実施例1」が第一実施形態に対応し、「実施例2」と「実施例3」が第二実施形態に対応し、「実施例4」と「実施例5」が第三実施形態に対応するものとなっている。 (ウ)「第一実施形態の外装材における基材保護層」は、「特定のポリオールと硬化剤とで形成されたウレタン樹脂により形成され」たものであって、これにより「優れた電解液耐性が得られる」とされており(段落【0053】)、水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオール(アクリルポリオール(a2))と脂肪族系イソシアネート硬化剤とにより基材保護層を形成した「実施例1」の外装材は、そのことを実験的に裏付けるものとなっている(段落【0136】~【0147】)。 (エ)「第二実施形態の外装材における基材保護層」は、「特定のポリオールと硬化剤で形成されたウレタン樹脂(A)により形成され」たものであって、これにより「優れた電解液耐性が得られる」とされ、また、「優れた電解液耐性が得られることに加え、基材保護層を形成するウレタン樹脂(A)のガラス転移温度Tgが0~60℃であることで、優れた耐傷性も得られる」とされており(段落【0093】)、水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオール(アクリルポリオール(a2))と脂肪族系イソシアネート硬化剤とにより、ガラス転移温度Tgが0~60℃の範囲内にあるウレタン樹脂からなる基材保護層を形成した「実施例2」及び「実施例3」は、そのことを実験的に裏付けるものとなっている(段落【0148】~【0160】)。 (オ)「第三実施形態の蓄電デバイス用外装材」は、「基材層が、ポリアミドフィルムの外側にポリエステルフィルムを有する積層フィルムからなることで、優れた電解液耐性及び耐傷性が得られる」とされ、また、「外側のポリエステルフィルムの外表面に凹凸が形成されていることで、冷間成型の際に金型と外装材とが過度に密着することを抑制できることから、優れた成型性も得られる」とされており(段落【0133】)、「実施例4」及び「実施例5」は、そのことを実験的に裏付けるものとなっている(段落【0161】~【0173】)。 エ 上記イ及びウを踏まえ、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合するか否かを判断するため、本件発明と、本件明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比し、本件発明が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲内のものであるか否かについて検討する。 (ア)上記ウ(ア)によれば、本件明細書において明示的に記載されている課題は、「電解液耐性」と「耐傷性」と「成型性」の三つの特性を兼ね備えた蓄電デバイス用の外装材を提供することである。 (イ)ところが、上記ウ(イ)~(オ)によれば、本件明細書に記載された各実施形態は、それぞれ異なる効果を奏するものであって、上記(ア)に示した課題を解決しているのは第三実施形態の外装材のみであるとともに、第一実施形態の外装材は「耐傷性」と「成型性」を備えるか否かが不明である点で、また、第二実施形態の外装材は「成型性」を備えるか否かが不明である点で、上記(ア)に示した課題を解決しているとはいえない。 (ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、本件明細書において明示的に記載されている課題と、各実施形態に関する記載とが整合しないから、本件明細書の記載事項の全てに接した当業者は、本件明細書に記載の全ての実施形態が上記(ア)に示した三つの特性を兼ね備えるという課題を解決しようとするものではなく、実質的には、実施形態ごとに解決しようとする課題が異なるものになっていることを認識するものというべきである。 (エ)そこで、各実施形態ごとの解決しようとする課題と、その解決手段について検討する。 (オ)上記ウ(ウ)によれば、第一実施形態の外装材は、「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」を備えることで、優れた電解液耐性が得られるものである。 したがって、第一実施形態の外装材は、解決しようとする課題が「電解液耐性を備えた蓄電デバイス用の外装材を提供する」という事項であって、当該課題を「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」を備えるという手段によって解決しているものと認められる。 (カ)上記ウ(エ)によれば、第二実施形態の外装材は、「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」を備えるとともに「ウレタン樹脂のガラス転移温度Tgが0~60℃である」ものとすることで、優れた電解液耐性と優れた耐傷性が得られるものである。 したがって、第二実施形態の外装材は、解決しようとする課題が「電解液耐性及び耐傷性を兼ね備えた蓄電デバイス用の外装材を提供する」という事項であって、当該課題を「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」を備えるとともに「ウレタン樹脂のガラス転移温度Tgが0~60℃である」ものとするという手段によって解決しているものと認められる。 (キ)上記ウ(オ)によれば、第三実施形態の外装材は、「基材層が、ポリアミドフィルムの外側にポリエステルフィルムを有する積層フィルムからなる」とともに「外側のポリエステルフィルムの外表面に凹凸が形成されている」ことで、優れた電解液耐性及び耐傷性が得られ、優れた成型性も得られるものである。 したがって、第三実施形態の外装材は、解決しようとする課題が「電解液耐性、耐傷性及び成型性を兼ね備えた蓄電デバイス用の外装材を提供する」という事項であって、当該課題を「基材層が、ポリアミドフィルムの外側にポリエステルフィルムを有する積層フィルムからなる」とともに「外側のポリエステルフィルムの外表面に凹凸が形成されている」ものとするという手段によって解決しているものと認められる。 (ク)以上のことを踏まえて、本件特許の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合するか否かを判断する。 まず、本件発明と、本件明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比して、本件発明が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるか否かについて検討する。 本件発明は、前記第3の1に示したとおりのものであって、「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」を備える「蓄電デバイス用外装材」であるところ、上記ウ(ウ)に照らせば、本件発明の「蓄電デバイス用外装材」は、第一実施形態の外装材として、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 (ケ)次に、本件発明が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲内のものであるか否かについて検討する。 上記(オ)によれば、第一実施形態の外装材は、解決しようとする課題が「電解液耐性を備えた蓄電デバイス用の外装材を提供する」という事項であって、当該課題を「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」を備えるという手段によって解決しているものと認められる。 したがって、「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」を備える本件発明の「蓄電デバイス用外装材」は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、「電解液耐性を備えた蓄電デバイス用の外装材を提供する」という課題を解決できると当業者が認識できる範囲内のものである。 (コ)上記(ク)及び(ケ)の検討によれば、本件発明の「蓄電デバイス用外装材」が、第二実施形態及び第三実施形態として本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるか否かについての検討を行うまでもなく、本件発明の「蓄電デバイス用外装材」は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、「電解液耐性を備えた蓄電デバイス用の外装材を提供する」という課題を解決できると当業者が認識できる範囲内のものであるといえる。 オ よって、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。 (2)取消理由1及び申立理由3では本件特許を取り消すことができないことについて ア 取消理由1について (ア)取消理由1は、具体的には、以下の取消理由1-1と、取消理由1-2とからなるものである。 ・取消理由1-1 本件訂正前の請求項1~5に係る発明における「基材保護層」が「水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール」を使用して形成されたものである場合に関し、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。 ・取消理由1-2 本件訂正前の請求項1~5に係る発明における「基材保護層」は、所定のポリオールと脂肪族系イソシアネート硬化剤により形成されたウレタン樹脂を「含有する」と特定されるものであることにより、「基材保護層」が電解液耐性を発揮しない場合を含むから、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。 (イ)これに対し、本件訂正によって、本件発明1~5の「基材保護層」は、「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」と規定されることとなった。 (ウ)この本件訂正は、「基材保護層」が「水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール」を使用して形成された場合を排除するものであるから、取消理由1-1の前提となる事項が存在しないこととなった。 (エ)また、本件訂正後の「基材保護層」である「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」は、前記(1)ウ(ウ)によれば、電解液耐性を発揮するものであると認められるから、取消理由1-2は該当しないこととなった。 (オ)よって、取消理由1は、理由がない。 イ 申立理由3について (ア)申立理由3のうち取消理由1として採用しなかった部分は、具体的には、本件発明が解決しようとする課題は「優れた電解液耐性、耐傷性及び成型性を兼ね備えた」ものとすることであって、本件訂正前の特許請求の範囲に記載された発明は、耐傷性が劣っている点で当該課題を解決しない比較例6を含むものであるから、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない、というものである。 (イ)しかしながら、前記(1)エで検討したとおり、本件明細書の記載事項の全てに接した当業者であれば、本件発明が解決しようとする課題には、「電解液耐性を備えた蓄電デバイス用の外装材を提供する」というものがあると認識すると認められるから、異議申立人による申立理由3の主張は、本件発明が解決しようとする課題を正しく捉えたものではない。 (ウ)そして、本件発明においても比較例6を包含しているものの、前記(1)エで検討したとおり、本件発明は「電解液耐性を備えた蓄電デバイス用の外装材を提供する」という課題を解決できるものであるから、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。 (エ)よって、申立理由3は、理由がない。 (3)本件発明1~5は出願日の遡及が認められることにより、取消理由2(申立理由4)では本件特許を取り消すことができないことについて ア 本件訂正により、本件発明1~5の「基材保護層」は、「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」と規定され、「ウレタン樹脂」以外の他の成分を含まないこととなった。 イ この本件訂正の結果、本件発明1~5は、本件特許の原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内のものとなり、特許法第44条第2項に規定する原出願の出願日への遡及が認められることになるから、本件特許の出願日は、実際の出願日である平成28年 8月 9日ではなく、本件特許の原出願の国際出願日である平成24年11月 7日である。 ウ したがって、甲5は、本件特許の出願日前に公知になったものではないから、取消理由2は、理由がない。 (4)申立理由1では本件特許を取り消すことができないことについて ア 甲1には、以下の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、前記正極及び負極間に充填される電解質と、を含む電気化学セル本体を収納し、 周縁部をヒートシールすることにより前記電気化学セル本体を密封する電気化学セル用包装材であって、 少なくとも、基材層、接着剤層、金属箔層、熱接着性樹脂層がこの順に積層された構造を有する多層フィルムであり、 前記基材層、前記接着剤層、前記金属箔層のいずれかの層に識別標識が含まれることを特徴とする電気化学セル用包装材。 【請求項2】 前記識別標識が、前記接着剤層に含有された顔料により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル用包装材。 【請求項3】 前記識別標識が、前記基材層を構成する延伸ナイロンフィルムに含有した顔料により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル用包装材。 【請求項4】 前記識別標識が、前記金属箔層を構成する金属箔表面に施された凹凸により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル用包装材。 【請求項5】 前記顔料がパール顔料であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電気化学セル用包装材。 【請求項6】 前記顔料が蛍光顔料であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電気化学セル用包装材。 【請求項7】 前記基材層の上面にマットニス層が形成されていることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の電気化学セル用包装材。 【請求項8】 前記基材層が、表面をマット処理された延伸ナイロンフィルムにより構成されていることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の電気化学セル用包装材。 【請求項9】 前記金属箔層と前記熱接着性樹脂層との間に酸変性ポリオレフィン層を介在させたことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の電気化学セル用包装材。」 「【0002】 近年、特許文献1に示すように、例えば、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、燃料電池等や、または、液体、固体セラミック、有機物等の誘電体を含む液体コンデンサ、固体コンデンサ、二重層コンデンサ等の電気化学セルは、多層フィルムで構成される電気化学セル用包装材が外装体として用いられている。」 「【0036】 また、基材層11は延伸ナイロンフィルムで構成されている。なお、電池化学セル用包装材10の基材層表面の金型表面への滑り性を向上させるために、基材層11をマット処理された延伸ナイロンフィルムを用いたり、基材層を延伸ナイロンフィルムで構成し基材層の上面にマットニス層を形成することができる。これにより、電気化学セル用包装材10を冷間プレス成形等によって成形する成形工程において成形不良を減らすことができる。 【0037】 具体的には、マットニス層は、例えばセルローズ系、ポリアミド系、塩酢ビ系、変性ポリオレフィン系、ゴム系、アクリル系、ウレタン系などのオレフィン系、あるいはアルキッド系合成樹脂に、シリカ系、カオリン系などの無機材料系のマット剤を適量添加したマットニスを用いることができる。或いは前記オレフィン系、あるいはアルキッド系合成樹脂に、シリカ系、カオリン系などの無機材料系のマット剤とワックスとを適量添加したマットニスを用いることができる。なお、前記マットニス層を形成する方法は、特に限定されることはなく、例えば、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、フレキソ印刷方式、シルクスクリーン印刷方式、ロールコーティング方式、リバースコーティング方式などを適宜使用することができる。」 「【符号の説明】 【0073】 10、110、210       電気化学セル用包装材 11、111           基材層 12、112           金属箔層 12a、112a         化成処理層 13,113           接着剤層 14、114           酸変性ポリオレフィン層 15、115           熱接着性樹脂層 16、116           樹脂コーティング層 17、117           接着剤層 119           印刷層 120           外装体 120a          トレイ 120b          シート 121           リチウムイオン電池 122           リチウムイオン電池本体」 「【図1】 」 甲1に記載の「マットニス層」は、甲1の図1の基材層11の上側に配置されるものであり、その材料の一つとして、ウレタン系の合成樹脂が挙げられている。 本件発明1の記載に倣い、甲1に記載の「基材層11」の一方の面を「第1の面」とし、他方の面を「第2の面」と表現すると、甲1には、以下の[甲1発明]が記載されているといえる。 [甲1発明] 「正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、前記正極及び負極間に充填される電解質と、を含む電気化学セル本体を収納する、電気化学セル用包装材であって、 少なくとも、延伸ナイロンフィルムである基材層、接着剤層、金属箔層、熱接着性樹脂層がこの順に積層された構造を有する多層フィルムであり、 前記基材層の第1の面に前記接着剤層、前記金属箔層、前記熱接着性樹脂層が積層され、 前記基材層の第2の面に積層される、ウレタン系の合成樹脂にマット剤を添加してなるマットニス層を備える、 電気化学セル用包装材」 イ 甲2には、以下の記載がある。 「【請求項1】 アルミニウム箔の片面の最も外側に、その表面側に塩素またはフッ素含有リチウム塩を含む電解液に対して耐久性のあるコーティング層を有する延伸フィルムをラミネートすると共に、ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン-アクリレート共重合体またはアイオノマー樹脂のフィルムをアルミニウム箔の他の面の最も外側にラミネートした、包材総厚が150ミクロン以下である電池ケース用包材。 【請求項2】 塩素またはフッ素含有リチウム塩を含む電解液に対して耐久性のあるコーティング材として、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、セルロースエステル、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂から選ばれた少なくとも1種のコーティング層を有する延伸フィルムである請求項1に記載の電池ケース用包材。」 「【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、張り出し成形、深絞り成形などの冷間加工性が優れてシャープな形状の成形が可能であり、強度的にも優れており、電解液などが付着してもにも白化せず、侵されることのない電池ケース用包材及びそれを使用した小型であり、体積エネルギー密度が高い畜電池のための電池ケースの開発を目的とする。」 ウ 甲3には、以下の記載がある。 「 」(第31頁) 「 」(第36頁) 「 」(第406頁) 「 」(第407頁) エ 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「電気化学セル用包装材」は「正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、前記正極及び負極間に充填される電解質と、を含む電気化学セル本体」を収容するものであって、この「電気化学セル」は正極と負極と電解質とを含むものであるから、実質的には電池すなわち蓄電デバイスであると認められる。したがって、甲1発明の「電気化学セル用包装材」は、本件発明1の「蓄電デバイス用外装材」に相当する。 (イ)また、甲1発明の「基材層」は、本件発明1の「基材層」に相当する。そして、甲1発明の「基材層」の「第1の面」、「基材層」の「第2の面」は、それぞれ、本件発明1の「基材層」の「第1の面」、「基材層」の「第2の面」に相当する。 (ウ)また、甲1発明の「前記基材層の第2の面に積層される、ウレタン系の合成樹脂にマット剤を添加してなるマットニス層」と、本件発明1の「前記基材層の前記第2の面に積層され、水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」は、「前記基材層の第2の面に積層され」る「層」である点で共通する。 (エ)そうすると、上記両発明は、少なくとも以下の点で相違する。 (相違点1) 「前記基材層の第2の面に積層され」る層が、本件発明1では、「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと、脂肪族系イソシアネート硬化剤とからなるウレタン樹脂で形成される基材保護層」であるのに対し、甲1発明では、「ウレタン系の合成樹脂にマット剤を添加してなるマットニス層」である点 オ 相違点1について検討する。 (ア)技術常識によれば、ウレタン樹脂はポリオールとイソシアネート硬化剤とを反応させることにより得られるものであるところ、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」である甲3には、「2.4 PUの設計技術」なる見出しの下に、例えば ・ポリウレタンの生成に用いるイソシアネートとして、芳香族系、脂肪族系又は脂環系のものが存在すること ・ポリウレタン生成時のベースポリオールとなる高MWのポリオールは、大きく分けるとポリエーテルポリオールとポリエステルポリオールであり、この他にもアクリルポリオール、フェノールレジンポリオール、エポキシポリオール、ブタジエンポリオール等があること という事項が記載されている(第31頁及び第36頁)。 (イ)さらに、甲3には、ポリエステルポリオールは樹脂構造及び合成技術上、分子末端には確実に水酸基があり、また水酸基価の高さに応じて分子鎖の中間にも水酸基が存在するので、NCO基との反応で、確実に各分子が網目構造に組み込まれ欠陥の少ない網目が形成されることが記載されており、このような点からポリエステルポリオールはアクリルポリオールより小さい分子量で使用できることも記載されている(第406頁~407頁)。 (ウ)甲3には上記(ア)及び(イ)のように、「アクリルポリオール」や「水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール」についての一般的な記載はあるものの、本件発明1に特定される「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオール」自体についての記載や、本件発明1や甲1発明である「蓄電用デバイス外装材」という特定の用途に用いられるウレタン樹脂の設計指針についての記載はなく、本件発明1で規定される「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオール」と「脂肪族系イソシアネート硬化剤」との組み合わせによってウレタン樹脂を製造することについても記載はない。 (エ)また、甲1、甲2の記載事項の全てを考慮したとしても、「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオール」と「脂肪族系イソシアネート硬化剤」という具体的な組み合わせによってウレタン樹脂を形成することについては記載されておらず、そのような組み合わせによってウレタン樹脂を形成することが技術常識であるといえる根拠も見当たらない。 (オ)したがって、甲1発明の、「前記基材層の第2の面に積層され」る層である「ウレタン系の合成樹脂からなるマットニス層」を、「水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオール」と「脂肪族系イソシアネート硬化剤」との組み合わせによって形成されるウレタン樹脂とすることは、甲1~甲3の記載事項を総合し、技術常識を考慮したとしても、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。 カ 上記オの検討によれば、本件発明1と甲1発明との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 本件発明2~5は本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明2~5についても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 キ よって、申立理由1は、理由がない。 (5)申立理由2では本件特許を取り消すことができないことについて ア 異議申立書において、異議申立人は、実施例で使用されている基材保護層は、全て水酸基を有する基を側鎖に有するアクリルポリオールと脂肪族系イソシアネート硬化剤により形成された基材保護層であって、水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオールと脂肪族系イソシアネート硬化剤により形成されたウレタン樹脂を含有する基材保護層については、実施例が一切記載されておらず、そのようなポリエステルポリオールを使用した場合においては、どのような条件で製造してどのような特性のものが得られたときに、本件発明の課題を解決することができるのか確認することができない、として、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないことを主張している。 イ しかしながら、物の発明について、明細書の発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するか否かは、当業者が、明細書の発明の詳細な説明と出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるか否かによって判断されるべきものであって、物の発明が本件発明の課題を解決できるか否かとは直接関係するものではない。 ウ したがって、「水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール」を用いて形成された基材保護層が本件発明の課題を解決できることを確認することができなかったとしても、そのことは、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するか否かとは直接関係しないから、申立理由2は、理由がない。 エ なお、本件訂正は、本件発明1~5の「基材保護層」が、「水酸基を有する基を側鎖に有するポリエステルポリオール」を使用して形成された場合を排除するものであり、この本件訂正の結果、申立理由2の前提となる事項が存在しないことになったから、この点からみても、申立理由2は、理由がない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び異議申立書に記載した申立理由によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-700084

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