特許異議申立
2025-700050
3次元培養された幹細胞から細胞外小胞体を製造する方法
- 審判番号
- 2025-700050
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-565884
- 登録番号
- 7513305
- 請求日
- 2025年01月08日
- 審決日
- 2025年05月20日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】コングク ユニバーシティ インダストリアル コーオペレーション コーポレーション
- 【権利者代理人】デロイトトーマツ弁理士法人
- 【異議申立人】磯崎 紀雄
- 審判長/審判官
- 審判長 中村 浩
- 審判官 荒木 英則
- 審判官 小暮 道明
- 分類
- P1651.121-Y (C12N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7513305号発明「3次元培養された幹細胞から細胞外小胞体を製造する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7513305号の請求項1~13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯及び証拠方法
1.手続の経緯
特許第7513305号(請求項の数13。以下、「本件特許」という。)は、令和3年4月28日(優先権主張 2020年4月28日 (KR)韓国)に国際出願(特願2022-565884号)され、令和6年7月1日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和6年7月9日である。)。
その後、本件特許の請求項1~13に係る特許に対して、令和7年1月8日に特許異議申立人である磯崎 紀雄(以下、単に「申立人」という。)から特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)が提出され、特許異議の申立てがなされた。
2.証拠方法
申立人は申立書とともに、証拠方法として、以下に挙げる甲第1号証~甲第9号証を提出した。
甲第1号証:特表2018-508486号公報
甲第2号証:韓国公開特許10-2019-0080723号公報及び抄訳文
甲第3号証:KIM, M.ら,TISSUE ENG REGEN MED,2018年,15巻4号,427-436ページ及び抄訳文
甲第4号証:平野 雄,鎌倉女子大学学術研究所報,2019年,第19巻,21-29ページ
甲第5号証:崔 ケン(山偏に見)鎭ら,ORGAN BIOLOGY,2019年,26巻2号,85-94ページ
甲第6号証:イディリス アリムジャンら,AGC RESEARCH REPORT,2019年,69号,https://www.agc.com/innovation/library/detailhtml/1200065_4283.html
甲第7号証:国際公開第2018/194161号
甲第8号証:特許第6183814号公報
甲第9号証:COSENZA,S.ら,SCIENTIFIC REPORTS,2017年11月,7巻16214号,1-12ページ及び抄訳文
第2 本件発明
請求項1~13に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1~13に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。
【請求項1】
次のステップを含む、幹細胞由来の細胞外小胞体(extracellular vesicle)の製造方法であって、前記幹細胞は間葉幹細胞である、該製造方法:
(a)対象体から分離された幹細胞を培養して細胞凝集体(cell aggregate)を形成するステップ、及び
(b)前記細胞凝集体を、TGF-β(Transforming growth factor beta)であるTGF-β3を含む培養液で3次元培養するステップ。
【請求項2】
前記ステップ(a)は、多重ウェル(multi-well)培養容器で幹細胞を浮遊培養(suspension culture)することによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多重ウェル(multi-well)培養容器は、ウェル当たり300~500μmの大きさを有するマイクロウェルプレートであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記浮遊培養は、前記多重ウェル(multi-well)培養容器内にウェル当たり300~500個の細胞を分注することによって行われることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(b)は、前記細胞凝集体を浮遊状態で回転振盪培養(orbital shaking culture)することによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記回転振盪培養は、50~70rpmの回転速度で行われることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、前記ステップ(b)で収得した培養液から複数回の遠心分離を介して細胞外小胞体を分離するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞外小胞体は、30~150nmの平均直径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法により幹細胞由来の細胞外小胞体を得て、該細胞外小胞体を有効成分として含む炎症もしくは自己免疫疾患の予防又は治療用組成物を得る、該組成物の製造方法。
【請求項10】
前記自己免疫疾患又は炎症性疾患は、リウマチ性関節炎、反応性関節炎、1型糖尿病、2型糖尿病、全身性紅斑性狼瘡、多発性硬化症、特発性線維性肺胞炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、限局性強皮症、全身性強皮症、大腸炎、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome)、レイノー現象(Raynaud’s phenomenon)、ベーチェット病(Bechet’s disease)、川崎病(Kawasaki’s disease)、原発性胆汁性硬化症(primary biliary sclerosis)、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis)、潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)、移植片対宿主病(Graft-versus-host disease、GVHD)またはクローン病(Crohn’s disease)であることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記幹細胞由来の細胞外小胞体は、ペルオキシレドキシン-4(Peroxiredoxin-4)、チオレドキシン還元酵素1(Thioredoxin reductase 1)及びプロスタグランジンG/Hシンターゼ2(prostaglandin G/H synthase 2)で構成された群から選択される1つ以上のタンパク質を高発現するものである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞外小胞体は、HSP90-β(heat shock protein 90-β)、ネプリリシン(Neprilysin)、T-複合体タンパク質1(TCP1)サブユニット-α、フィラミンA(Filamin-A)、40Sリボソームタンパク質S3、ミオシン-9、トランスアルドラーゼ、ファシン(Fascin)、チオレドキシン還元酵素1、及びRUVBL2(RuvB-like 2)で構成された群から選択される1つ以上のタンパク質をさらに高発現することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞外小胞体は、コロニン-1A(Coronin-1A)、プロリル4-ヒドロキシラーゼサブユニットα-2(Prolyl 4-hydroxylase subunit α-2)及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(purine nucleoside phosphorylase)で構成された群から選択される1つ以上のタンパク質に対して陽性であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
以下、本件発明を、項番に従い、「本件発明1」~「本件発明13」という。
第3 特許異議申立ての理由の概要
申立人が申立書に記載した特許異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。)は、概略、以下のとおりである。
本件発明1~13は、甲第1~9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 申立理由に係る当審の判断
1.甲第1号証に記載された事項
甲第1号証に記載された事項は以下のとおりである。なお、下線は当審で付した。
(1) 特許請求の範囲
「【請求項1】
軟骨細胞に分化されている幹細胞由来のエキソソームを有効成分として含む軟骨細胞への分化誘導または軟骨組織再生用組成物。
【請求項9】
請求項1ないし請求項4のいずれかの項に記載の組成物を含む軟骨疾患治療用薬剤学的組成物。」
(2) 段落0013、図1
「【0013】
本発明で使用される用語、「軟骨細胞に分化されている幹細胞」とは、図1のように軟骨細胞に分化中の幹細胞を意味する。これから、軟骨細胞の遺伝情報、タンパク質、成長因子を含有しているエキソソームを分離することができる。」
「【図1】
[図:0001423530000001.jpg]
」
(3) 段落0017
「【0017】
前記エキソソームは、当業界に知られているエキソソーム分離方法を用いて製造することができ、例えば、
1)幹細胞を増殖する段階;
2)前記増殖された幹細胞を軟骨細胞に分化させる段階;および
3)軟骨細胞に分化されている幹細胞からエキソソームを分離および精製する段階;を含む方法を用いることができる。」
(4) 段落0020~0021
「【0020】
前記軟骨細胞に分化されている幹細胞は、軟骨細胞に分化可能な成体幹細胞であってもよい。
【0021】
前記軟骨細胞に分化可能な成体幹細胞は、骨髄幹細胞、臍帯血幹細胞または脂肪由来幹細胞であってよく、例えば、脂肪由来幹細胞であってもよい。」
(5) 段落0025
「【0025】
本発明による軟骨細胞に分化される期間中に分離された幹細胞由来のエキソソームは細胞から分泌される生体膜小胞体である。また、細胞膜と類似の脂質構造を持っているので、体内に注入されたとき周りの細胞への吸収率に優れ、効能物質の迅速な伝達に軟骨組織の効果的な再生誘導が可能である。」
(6) 段落0028
「【0028】
前記軟骨細胞への分化誘導用培地組成物は、幹細胞を軟骨細胞に分化させるためにデキサメタゾン(dexamethasone)、……、およびTGF-β1(Transforming Growth Factorβ1)などの分化誘導物質をさらに含むことができるが、これに限定されない。」
(7) 段落0036~0037
「【0036】
本発明のさらなる具体例は、前記軟骨細胞への分化誘導または軟骨組織再生用組成物を含む軟骨疾患治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0037】
本明細書で使用される用語、「軟骨疾患」は、軟骨組織の損傷に由来する軟骨疾患であってもよく、具体的には骨関節炎、変形性関節症、軟骨形成異常症、退行性関節炎、リウマチ性関節炎、骨軟化症、繊維性骨炎および無形成骨疾患から構成される群から選択されたものであってもよいが、これらに限定されない。」
(8) 段落0054
「【0054】
本発明の具体例による軟骨細胞への分化誘導または軟骨再生用組成物は、軟骨細胞に分化する幹細胞由来のエキソソームを有効因子として含んでいる。幹細胞の分化過程で分泌されるエキソソームは、幹細胞の細胞増殖、再生に関連する遺伝子、タンパク質だけでなく軟骨細胞の分化に関連する成長因子を含有しており、損傷した軟骨組織の再生誘導に優れている。また、既存の細胞治療剤の副作用を最小限に抑えながら、細胞由来の伝達体として安定的かつ迅速に効能物質を細胞内に伝達することができる。したがって、軟骨疾患の予防および治療のための注射剤組成物による簡単な施術で患者の苦痛を軽減するだけでなく、施術後に継続的かつ効果的な軟骨疾患の治療が可能である。」
(9) 段落0055
「【0055】
……
【図2】 軟骨細胞に分化されている幹細胞からエキソソームが分離される時期のもので、軟骨細胞に分化されている幹細胞の形態変化の観察、およびアルシアンブルー染色(alcian blue staining)による軟骨特異的基質の合成を確認した図である。
……」
(10) 段落0057~0058(実施例1)、図2
「【0057】
<実施例1>軟骨細胞に分化されている幹細胞からエキソソームの分離
軟骨細胞に分化されている幹細胞からエキソソームを分離するために、ヒト脂肪由来幹細胞を一般培養培地[10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM(Dulbecco Modified Eagle Medium high glucose)]で80~90%程度増殖させた後、分化培地[5%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、……、10ng/mL TGF-β1(Transforming Growth Factor β1)を含有するDMEM(Dulbecco Modified Eagle Medium high glucose)]に交換し、合計5週間培養することにより、軟骨細胞への分化を誘導した。
【0058】
分化培地に交換した後、エキソソームを分離する前に、幹細胞を無血清培地でありながらフェノールレッド(phenol red)がないDMEM培地に交換して24時間維持した後、細胞培養上清を回収した。回収した細胞培養上清を300xgで10分間遠心分離して細胞を除去し、2,000xgで30分間遠心分離して細胞の分泌物を除去した。その後、分子量3,000のフィルターが装着された遠心分離チューブ(molecular weight cut off=3000、amicon tube)を用いて、5,000xgで60分間遠心分離をして濃縮した。濃縮後、得られた上清は、エキソソーム分離試薬(exosome isolation reagent)と1:0.5の割合で混合し、4℃で1日保管した。その後、10,000xgで60分間遠心分離を介してエキソソームの沈殿物を得た後、0.22μmフィルター(exosome spin column)を介して濾過し、リン酸緩衝食塩水(phosphate-buffered saline、PBS)で洗浄した。洗浄したエキソソーム沈殿物は、10,000xgで60分間遠心分離した後、PBSに再懸濁した。上清を回収した後、再び分化培地を添加して、幹細胞の軟骨細胞分化を誘導し、このような過程を5週まで繰り返した。分化培地交換2週後から、軟骨細胞に分化時に観察される細胞間凝縮現象が現れ始めて5週後には、コロニーが生成されることを確認した(図2)。したがって、細胞の形状の変化が確実に現れる分化誘導後2週後から5週までの期間中に回収した上清からエキソソームを分離した。」
「【図2】
[図:0001423530000002.jpg]
」
2.甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、1.(1)~(10)で摘記したとおりの記載があり、特に、エキソソームの具体的な製造例については、1.(3)や実施例(1.(10))に記載されている。
そして、これらの記載にみられる「軟骨細胞に分化されている幹細胞」とは「軟骨細胞に分化中の幹細胞」を意味しているから(1.(2))、甲第1号証には、次のとおりの発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。
「エキソソームの製造方法であって、
(a)ヒト脂肪由来幹細胞を培養して増殖する段階;
(b)前記増殖されたヒト脂肪由来幹細胞をTGF-β1を含む培地で培養することにより、軟骨細胞への分化を誘導する段階;
(c)軟骨細胞に分化中の幹細胞とエキソソームを分離する段階
を含む方法。」
3.本件発明1について
(1) 対比
引用発明1の「ヒト脂肪由来幹細胞」について、甲第1号証では後に軟骨形成への分化時に観察される細胞間凝縮現象がみられる細胞がであることが記載されており(1.(10))、「ヒト脂肪由来幹細胞」は軟骨へも分化可能な幹細胞といえるところ、脂肪と軟骨はいずれも中胚葉系組織であって、他の組織にも分化可能であることを踏まえると、「ヒト脂肪由来幹細胞」は本件発明1の「間葉幹細胞」に相当するものと理解できる。また、引用発明1の「エキソソーム」は本願明細書で細胞外小胞体の一種として記載されているから(段落0012~0013)、本件発明1の「細胞外小胞体」に相当する。さらに、引用発明1の「TGF-β1」はTGF-βの一種であるから、本件発明1の「TGF-β」に相当する。そして、引用発明1のステップ(c)が本件発明1には対応するステップが明記されていないものの、細胞外小胞体を細胞と分離するステップが本件発明1の細胞外小胞体の製造方法に含まれるものであることは明らかである。
そうすると、本件発明1と引用発明1とは、
「次のステップを含む、細胞外小胞体の製造方法:
(a)対象体から分離された間葉幹細胞を培養するステップ、及び
(b)培養により得られた細胞を、TGF-βを含む培養液で培養するステップ。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1) 本件発明1ではステップ(a)において培養により「細胞凝集体」を形成するのに対し、引用発明1では「ヒト脂肪由来幹細胞」培養後の細胞の形態が特定されていない点。
(相違点2) 本件発明1では、ステップ(b)として、ステップ(a)で形成された「細胞凝集体」を、TGF-β3を含む培養液で3次元培養するのに対し、引用発明1では「増殖されたヒト脂肪由来幹細胞」をTGF-β1を含む培養液で培養し、「軟骨細胞に分化中の幹細胞」とする点。
(相違点3) 本件発明1では製造方法により得られる細胞外小胞体が「間葉幹細胞」に由来するのに対し、引用発明1では細胞外小胞体の由来が明記されていない点。
(2) 相違点1~3について
ア 甲第1号証の記載に基づく検討
甲第1号証をみると、引用発明1の「軟骨細胞に分化中の幹細胞」について、増殖された「ヒト脂肪由来幹細胞」をTGF-β1を含有する分化培地に交換し、合計5週間培養することにより、軟骨細胞への分化を誘導したこと、また、分化誘導後エキソソームを分離する前に、DMEM培地に交換して24時間維持した後、細胞培養上清を回収し、エキソソームを得ていることが記載されている(1.(10))。また、「軟骨細胞に分化中の幹細胞」からエキソソームを分離する時期については、図2に、軟骨形成開始、すなわち、分化培地での培養開始を0日目として、14日目以降35日目までの期間であることが記載されている。分化培地の培養期間からみて、引用発明1でエキソソームを産生している細胞である「軟骨細胞に分化中の幹細胞」とは、間葉幹細胞が本来有する、他の中胚葉系組織にも分化可能であるという複能性を喪失した状態のものと認められるから、引用発明1におけるエキソソームの由来は、間葉幹細胞である「ヒト脂肪由来幹細胞」とは別異のものである。そして、甲第1号証には、エキソソームとして、ヒト脂肪由来幹細胞等の間葉幹細胞がそれより分化していない段階で産生したものを用いることについては、記載も示唆もない。
また、甲第1号証には、「ヒト脂肪由来幹細胞」や「軟骨細胞に分化中の幹細胞」の培養を3次元、2次元のいずれの態様で培養したのかは明示されていないものの、上清を回収した後の細胞を用い、再び分化培地を添加して、幹細胞の軟骨細胞分化を誘導した時の細胞の状態を示す図2をみれば、細胞は平面培養であることが理解できる。そして、他に、3次元培養したと判断できる記載はなく、3次元培養することを示唆する記載もない。
したがって、甲第1号証には相違点1~3のいずれについても当業者が容易になし得たと判断できる記載はなく、引用発明1と甲第1号証の記載に基づいて、当業者が容易に本件発明1とすることができたと解することはできない。
イ 甲第2~9号証の記載も踏まえた検討
申立人は甲第1号証に加えて甲第2~9号証を提出しているので、甲第2~9号証の記載についても検討する。
甲第2号証、甲第3号証には間葉幹細胞から3次元培養してスフェロイド、すなわち、細胞凝集体を形成しエキソソームを生産することが記載されているが、細胞凝集体をTGF-β3を含む培養液で3次元培養することは記載されておらず、示唆もない。
甲第4号証には間葉幹細胞を3次元培養してスフェロイド、すなわち、細胞凝集体を形成することが記載されているが、間葉幹細胞由来の細胞外小胞体を製造することや細胞凝集体をTGF-β3を含む培養液で3次元培養することは記載されておらず、示唆もない。
甲第5号証、甲第6号証にはiPS細胞を3次元培養することが記載されているが、iPS細胞は内胚葉や外胚葉にあたる組織への分化も可能であり、本件発明1で使用される間葉幹細胞とは異なるものであるから、甲第5号証、甲第6号証は、間葉幹細胞に関するものではないばかりか、細胞凝集体をTGF-β3を含む培養液で培養することや細胞外小胞体を製造することすら記載されておらず、示唆もない。
甲第7号証には間葉系幹細胞を振盪培養して細胞塊を得ること、細胞塊を分化誘導培地で分化誘導することが記載されているが、細胞外小胞体を製造することは記載されておらず、示唆もない。また、TGF-β3については、幹細胞を軟骨細胞へと分化誘導するため使用されたとの記載はあるが(段落0044、0065)、細胞外小胞体の製造において使用することについての記載や示唆は存在しない。
甲第8号証には間葉系幹細胞、および該細胞に由来する細胞外マトリクスから構成される移植可能な人工組織について記載されているが、細胞外小胞体を製造することは記載されておらず、示唆もない。また、間葉幹細胞に対するTGF-β3の使用については、幹細胞を軟骨細胞へと分化誘導するためであることが記載されるが(段落0112)、細胞外小胞体の製造において使用することについての記載や示唆は存在しない。
甲第9号証にはTGF-β3を用いて間葉幹細胞を培養し、エキソソームを得たことが記載されるものの(特に、要旨、2頁11~22行)、「EV産生のために、BM-MSCを2×104個/cm2の密度で増殖培地に播種し、24時間培養した。EVの軟骨保護機能を特異的に評価するため、増殖培地にTGF-β3(10ng/mL)を添加し、24時間培養した。」(2ページ16~18行。なお、「EV」及び「BM-MSC」は、それぞれ細胞外小胞体及び骨髄由来間葉幹細胞の略称。)と記載され、培養条件が単位面積あたりの細胞密度で示されていて、一貫して2次元培養で培養を実施していることが理解できるものであるから、甲第9号証は、間葉幹細胞の細胞凝集体を3次元培養することを記載や示唆するものではない。また、上記記載では、TGF-β3の添加目的について「EVの軟骨保護機能を特異的に評価するため」と明記されていることから、細胞外小胞体の製造を目的として細胞凝集体の培養液にTGF-β3を含むようにすることが直ちに読み取れるものでもない。
そうすると、アにおける検討も加味すれば、甲第1~9号証のいずれにも、細胞外小胞体の製造方法において、「(b)前記細胞凝集体を、・・・TGF-β3を含む培養液で3次元培養するステップ」を設けることが記載も示唆もない。
したがって、引用発明1に甲第1~9号証に記載された事項を組み合わせることを検討しても、相違点1及び2について容易になし得たということはできず、さらに相違点3を含む本件発明1は、なおさら、甲第1号証から甲第9号証の記載を踏まえても、当業者が引用発明1から容易に発明することができたということはできない。
(3) 小括
よって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものではないから、申立理由は理由がない。
4. 本件発明2~13について
上記2.及び3.で検討したように、本件発明1は、当業者が容易に発明することができたとはいえないところ、本件発明2~13ではいずれも請求項1を引用しており、本件発明1の発明特定事項を更に限定するものである。
そうすると、1.~3.で検討した内容はいずれも本件発明2~13においても同様に当てはまるものといえ、当業者といえども、本件発明2~13は、引用発明1と甲第1号証から甲第9号証の記載に基づいて、容易に発明することができたということはできない。
よって、本件発明2~13に係る特許についても、特許法第29条第2項に違反するものではないから、申立理由は理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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