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特許拒絶査定不服審判

2018-010188

補強物品及びその製造方法

審判番号
2018-010188
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2015-525438外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2018年07月26日
審決日
2019年08月22日
公報発行日
2020年02月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .536-Z (C04B) / P18 .537-Z (C04B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2015-525438「補強物品及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 6日国際公開、WO2014/022081、平成27年10月29日国内公表、特表2015-530963〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)7月15日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年8月3日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成29年6月21日付けで拒絶理由が通知され、同年9月25日付けで特許請求の範囲の記載の手続補正がされると共に意見書が提出され、同年10月6日付けで拒絶理由が通知され、平成30年1月29日付けで意見書が提出されたが、同年3月20日付けで拒絶査定がなされ、同年7月26日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に、特許請求の範囲の記載の手続補正がされ、同年9月4日付けで審判請求理由を補充する手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2 本願発明の認定 本願の請求項1~8に記載された発明は、平成30年7月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載されたものであるところ、請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」ということがある。)は以下のとおりのものであると認められる。 「【請求項1】 基材の上にボンド層を設ける工程と、 水素を含む補強層をボンド層の上に設ける工程と、 補強層の上に保護層を設ける工程と を含む方法であって、前記補強層中の水素分子が、ボンド層で生成する熱成長酸化物と化学的に反応すること及び/又は前記補強層が水素結合の形成によってボンド層の表面を不動態化することにより、補強層が、ボンド層で生成する熱成長酸化物の形成を低減させる、方法。」 第3 原査定の理由の概要 本願発明に対する、平成30年3月20日付けの原査定の理由には、次のものが含まれている。 <理由1> 本願発明における「前記補強層中の水素分子が、ボンド層で生成する熱成長酸化物と化学的に反応すること及び/又は前記補強層が水素結合の形成によってボンド層の表面を不動態化することにより、補強層が、ボンド層で生成する熱成長酸化物の形成を低減させる」という機能を有する水素を含む補強層について、発明の詳細な説明には、具体的な物質や製造方法は記載されていないし、前記機能を有する水素を含む補強層は技術常識のものであるともいえないため、発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、前記機能を有する水素を含む補強層を作るには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要がある。 よって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 <理由2> 本願発明における「前記補強層中の水素分子が、ボンド層で生成する熱成長酸化物と化学的に反応すること及び/又は前記補強層が水素結合の形成によってボンド層の表面を不動態化することにより、補強層が、ボンド層で生成する熱成長酸化物の形成を低減させる」という機能を有する水素を含む補強層について、発明の詳細な説明には、具体的な物質や製造方法は記載されていないし、前記機能を有する水素を含む補強層は技術常識のものであるともいえない。 したがって、本願発明は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。 よって、本願は、特許請求の範囲の記載の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審の判断 上記第3に示した理由により、原査定を維持できるか否かについて、以下に検討する。 1. 理由1について (1) 本願の国際特許出願の明細書の翻訳文における発明の詳細な説明(以下、単に、「本願の発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある。 (a)「【技術分野】 【0001】 本明細書に開示される主題は、ガスタービンエンジン部品のような補強物品に関し、特に耐クリープ性を有する補強物品及びその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 ガスタービンエンジンは、ガスを加速させて燃焼室に送り、熱を加えてガスの体積を増大させる。膨張ガスは次いでタービンに送られ、膨張ガスで生じたエネルギーが抽出される。ガスタービンエンジン内の高温及び極端な作動条件に耐えるために、タービンブレードのようなガスタービンエンジン部品は、金属、セラミック又はセラミックマトリックス複合材料から作製される。 【0003】 耐環境コーティングは、ガスタービンエンジン部品の表面に施工されて、ガスタービンエンジンの高温での作動中にガスタービンエンジン部品に追加の保護を提供するとともに部品を遮熱する。耐環境コーティングは、ボンド層を用いて部品又は基材に施工される1以上の保護層である。保護層は、セラミック材料であり、複数の層を含むこともできる。ガスタービンエンジン内の高温ガス環境は、ボンド層の酸化及びボンド層と保護層の間の界面で熱成長酸化物層の形成を生じさせる。 【0004】 熱成長酸化物層は、例えば、遠心荷重又は耐環境コーティングの外側保護層との熱膨張の不一致などによる剪断応力の結果として、耐環境コーティング中にクリープを生じる。熱成長酸化物層のクリープは、耐環境コーティング及び/又は基材の外側保護層の割れ又は変形を引き起こし、及び/又は部品の全体的な寿命を低下させる。 【0005】 したがって、上述の課題の1以上を解決する、耐クリープ性、耐酸化性及び/又は耐熱性が向上した補強物品、及び/又はそれらの製造方法を提供することが望まれる。」 (b)「【発明の概要】 【0007】 本発明の一態様では、物品は、基材と、基材の上に設けられたボンド層と、ボンド層の上に設けられた補強層であって、水素を含む補強層と、補強層の上に設けられた保護層とを備えており、補強層は、ボンド層で生成する熱成長酸化物の形成を低減させる。 【0008】 本発明の別の態様では、方法は、基材の上にボンド層を設ける工程と、水素を含む補強層をボンド層の上に設ける工程と、補強層の上に保護層を設ける工程とを含み、補強層が、ボンド層で生成する熱成長酸化物の形成を低減させる。 …(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下同じ。)」 (c)「【図面の簡単な説明】 【0011】 【図1】物品の部分断面図である。 【図2】別の物品の部分断面図である。 …」 (d)「【発明を実施するための形態】 【0012】 以下の詳細な説明では、図面を参照しながら、本発明の実施形態について、効果及び特徴と併せて説明する。 【0013】 本明細書に記載した実施形態は、概して補強物品及びその製造方法に関する。補強層は、基材、ボンド層及び保護層と共に用いるために提供される。 【0014】 図1を参照すると、物品10は基材20を含む。ボンド層30は、基材20上に設けられる。補強層40は、ボンド層30上に設けられる。保護層50は、補強層40上に設けられる。 【0015】 基材20は、金属、セラミック又はセラミックマトリックス複合材料(CMC)である。一実施形態では、基材20は、ガスタービンエンジン部品である。…(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下同じ。) 【0016】 ボンド層30は、保護層50を基材20に接合するのを助ける。一実施形態では、ボンド層30はケイ素を含む。 【0017】 保護層50は、作動中に物品10が付される高温ガス、水蒸気及び/又は酸素等の環境条件の影響から基材を保護する。保護層50は、物品10の作動時に、高温ガス、水蒸気及び/又は酸素との接触から基材20を保護するのに適した材料である。一実施形態では、保護層50はセラミック材料を含む。別の実施形態では、保護層50はケイ素を含む。 【0018】 一実施形態では、保護層50は単層からなる。別の実施形態では、保護層50は、様々な材料の多層を含む。さらに別の実施形態では、保護層は、様々な材料の多層を含む耐環境コーティング(EBC)である。 【0019】 保護層50は、特に限定されないが、大気プラズマ溶射(APS)、化学気相堆積(CVD)、プラズマCVD(PECVD)、ディップコーティング、スピンコーティング、電気泳動堆積(EPD)を始めとする好適な方法を用いて補強層40の上に設けられる。 【0020】 物品10の高温作動中に、高温ガス、水蒸気及び/又は酸素に暴露されると、ボンド層30の酸化が生じる。溶融及び酸化によって、ボンド層30は、粘稠ガラス層のような粘稠流体層(図示せず)を形成する。粘稠流体層は、熱成長酸化物(TGO)を含む。粘稠流体層は、作動中に物品10に加わる遠心荷重及び保護層50との熱膨張率の不一致に起因する剪断応力によって、移動又はスライドする。この現象は「クリープ」と呼ばれる。保護層50のクリープは、割れの発生及び/又は部品の全体寿命の低下をもたらす。 【0021】 補強層40は、保護層50の施工に用いたものと同じ方法で、ボンド層30と保護層50との界面に設けられる。一実施形態では、補強層40は、スピンコーティングで施工される。別の実施形態では、補強層40は、ボンド層30の表面と連続した連続層である。 【0022】 補強層40は、ボンド層30で生成する熱成長酸化物を低減、妨害又は阻害する。補強層40は水素を含む。 【0023】 一実施形態では、補強層40中の水素分子がボンド層30と水素結合を形成して、ボンド層30の表面を不動態化することによって、ボンド層30で生成する熱成長酸化物を低減又は阻害する。こうした水素結合の形成によって、酸素又は酸素イオンが接触したときにボンド層30の酸化に利用可能な潜在的反応部位が減る。 【0024】 別の実施形態では、補強層40中の水素分子とボンド層30との相互作用及び水素結合の形成によって、補強層40中にメッシュ状網目構造が形成される。この網目構造は、ボンド層30の酸化に対する機械的/化学的障壁として作用する。得られる網目構造は超疎水性であり、網目構造に形成された細孔内に空気及び高温ガスをトラップする。高温ガスのナノ多孔性輸送は、通路の直径よりも小さな平均自由行程を生じ、補強層40の表面自由エネルギーを低下させる。高温ガスとボンド層30との接触が低減又は抑制されて、ボンド層30で生成する熱成長酸化物の量が低減又は抑制される。補強層40は、ボンド層30と保護層50との接合又は接着を助ける。 【0025】 さらに別の実施形態では、補強層40中の水素分子の一部又は全てが、ボンド層30で生成する熱成長酸化物層に存在する酸素分子と反応する。補強層40中の水素分子は、ボンド層30の反応に対して競合反応を提供する。この競合反応は、ボンド層30の酸化による材料損失量を減少させる。また、この競合反応は、ボンド層30で生成する熱成長酸化物の形成を低減又は抑制する。 【0026】 図2を参照すると、さらに別の実施形態では、補強層40はボンド層30の酸化を反転させ、それによってクリープの効果を反転させる。補強層40中の水素分子は、ボンド層30の酸化により生じる熱成長酸化物層60の二酸化ケイ素(SiO2)と反応する。水素分子は、二酸化ケイ素の酸素原子を除去し、結合する。熱成長酸化物層60から酸素を除去することにより、熱成長酸化物層60の形成を逆転させ、クリープを低減又は抑制する。 … 【0028】 補強層40…の厚さは、約1nm~約100μmである。…補強層40…の厚さは均一又は実質的に均一である。 【0029】 補強層40…は、向上した耐酸化性、耐クリープ性及び/又は2400°F以上の耐熱性をもたらし、物品10の性能及び全体の寿命を向上させる。」 (e)「【符号の説明】 【0032】 10 物品 20 基材 30 ボンド層 40 補強層 50 保護層 60 熱成長酸化物層 …」 (f)「【図1】 【図2】 」 (2) 検討 ア. 本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(a)によれば、本願発明は、ガスタービンエンジン部品のような補強物品の製造方法に関するものとされており、ガスタービンエンジン部品のような補強物品は、ガスタービンエンジン内の高温及び極端な作動条件に耐えるために、ガスタービンエンジン部品の表面には、ガスタービンエンジンの高温での作動中のガスタービンエンジン部品の保護と遮熱とをする保護層がボンド層を介してコーティングされているが、ガスタービンエンジン内の高温ガス環境は、ボンド層の酸化及びボンド層と保護層の間の界面で熱成長酸化物層の形成を生じさせ、その熱成長酸化物層は、遠心荷重又は保護層との熱膨張の不一致などによる剪断応力の結果として、クリープを生じ、そのクリープは、保護層の割れ又は変形を引き起こし、及び/又は部品の全体的な寿命を低下させるとされている。 イ. そして、本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(b)によれば、基材の上にボンド層を設ける工程と、水素を含む補強層をボンド層の上に設ける工程と、補強層の上に保護層を設ける工程とを含み、補強層が、ボンド層で生成する熱成長酸化物の形成を低減させる方法というものが発明の概要とされており、そして、本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(c)~(f)には、図1に記載されている物品10について、金属、セラミック又はセラミックマトリックス複合材料である基材20の上に、ケイ素を含むボンド層30が設けられ、ボンド層30上に水素を含む補強層40が設けられ、補強層40上に保護層50が設けられるガスタービンエンジン部品であり、保護層50は、作動中に物品10が付される高温ガス、水蒸気及び/又は酸素等の環境条件の影響から基材を保護する層であって、セラミック材料を含み、大気プラズマ溶射(APS)、化学気相堆積(CVD)、プラズマCVD(PECVD)、ディップコーティング、スピンコーティング、電気泳動堆積(EPD)を始めとする好適な方法を用いて補強層40の上に設けられ、また、補強層40は、保護層50の施工と同じ方法で、ケイ素を含むボンド層30と保護層50との界面に設けられた、水素を含む層であり、ボンド層30で生成する熱成長酸化物を低減、妨害又は阻害するものであり、その厚さは1nm~100μmで実質的に均一であり、向上した耐酸化性、耐クリープ性及び/又は2400°F以上の耐熱性をもたらし、物品10の性能及び全体の寿命を向上させるということが記載されている。 ウ. 上記イ.に示した物品10におけるボンド層30について、本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(d)の【0020】には、上記ア.に示した事項に関連して、物品10の高温作動中に高温ガス、水蒸気及び/又は酸素に暴露されると、ボンド層30の酸化が生じ、熱成長酸化物を含む、粘稠流体層(図示せず)を形成し、その粘稠流体層は、作動中に物品10に加わる遠心荷重及び保護層50との熱膨張率の不一致に起因する剪断応力によって、保護層50中にクリープを生じ、そのクリープは、割れの発生及び/又は部品の全体寿命の低下をもたらすという事項が記載されている。 エ. また、上記イ.に示した物品10における補強層40について、本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(d)の【0023】によれば、補強層40中の水素分子がボンド層30と水素結合を形成して、ボンド層30の表面を不動態化することによって、ボンド層30が酸素又は酸素イオンが接触したときにその層の酸化に利用可能な潜在的反応部位が減るため、上記ウ.に示した熱成長酸化物の生成を低減又は阻害するとされている。 オ. また、上記イ.に示した物品10における補強層40について、本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(d)の【0024】によれば、補強層40中の水素分子とボンド層30との相互作用及び水素結合の形成によって、補強層40中に超疎水性のメッシュ状網目構造が形成され、この網目構造に形成された細孔内に空気及び高温ガスをトラップするため、この網目構造はボンド層30の酸化に対する機械的/化学的障壁として作用し、高温ガスとボンド層30との接触が低減又は抑制されて、上記ウ.に示したようなボンド層30で生成する熱成長酸化物の量が低減又は抑制するとされている。 カ. また、上記イ.に示した物品10における補強層40について、本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(d)の【0025】によれば、補強層40中の水素分子の一部又は全てを、ボンド層30で生成する熱成長酸化物層に存在する酸素分子と反応させるが、この反応は、ボンド層30の酸化反応に対する競合反応であるため、上記ウ.に示したようなボンド層30で生成する熱成長酸化物の形成を低減又は抑制するとされている。 キ. また、上記イ.に示した物品10における補強層40について、本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(d)の【0026】によれば、別の実施形態である図2では、補強層40中の水素分子を、ボンド層30の酸化によって生じた熱成長酸化物層60の二酸化ケイ素(SiO2)と反応させて、二酸化ケイ素の酸素原子を除去して、結合し、熱成長酸化物層60の形成を解消して、クリープの低減又は抑制をするとされている。 ク. 上記ア.~ウ.の検討からすると、本願発明は、基材20の上に、ケイ素を含むボンド層30が設けられ、ボンド層30上に水素を含む補強層40が設けられ、補強層40上に保護層50が設けられるガスタービンエンジン部品のような補強物品10の製造方法に関し、基材20の上にボンド層30を設ける工程と、水素を含む補強層40をボンド層30の上に設ける工程と、補強層40の上に保護層50を設ける工程とを含むものであり、その物品10の高温作動中に高温ガス、水蒸気及び/又は酸素に暴露されると、ボンド層30の酸化が生じ、熱成長酸化物を含む粘稠流体層が形成され、その粘稠流体層によって、保護層50中にクリープを生じ、そのクリープは、保護層の割れ又は変形を引き起こし、及び/又は部品の全体的な寿命を低下させるのであるが、水素を含む補強層40を、保護層50の施工と同じ方法で、ケイ素を含むボンド層30と保護層50との界面に厚さ1nm~100μmで実質的に均一に設けると、当該補強層40はボンド層30で生成する熱成長酸化物を低減、妨害又は阻害することから、向上した耐酸化性、耐クリープ性及び/又は2400°F以上の耐熱性をもたらし、物品10の性能及び全体の寿命を向上させるというものであると認められる。 ここで、補強層40について、上記エ.~キ.の検討からすると、次の(ア)~(エ)の作用によって、ボンド層30で生成する熱成長酸化物の量が低減又は抑制するとされているが、これらの作用は、いずれも、補強層40中の水素分子によるものであると認められる。 (ア) 補強層40中の水素分子がボンド層30と水素結合を形成してボンド層30の表面を不動態化する。 (イ) 補強層40中の水素分子とボンド層30との相互作用及び水素結合の形成で補強層40中に超疎水性のメッシュ状網目構造が形成され、この網目構造に形成された細孔内に空気及び高温ガスをトラップする。 (ウ) 補強層40中の水素分子の一部又は全てを、ボンド層30で生成する熱成長酸化物層に存在する酸素分子と反応させる。 (エ) 補強層40中の水素分子を、ボンド層30の酸化によって生じた熱成長酸化物層60の二酸化ケイ素(SiO2)と反応させる。 ケ. ここで、本願の発明の詳細な説明では、上記ク.に示したとおり、水素を含む補強層40を、保護層50の施工と同じ方法で、ケイ素を含むボンド層30と保護層50との界面に厚さ1nm~100μmで実質的に均一に設けるとされているが、水素を含む補強層40の形成にあたって、具体的にどのような物質を用い、どのようにしたら、保護層50の施工と同じ方法で、所望の補強層40を形成できるのかが、上記(1)の(a)~(f)に示した、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載からでは把握することができず、また、その補強層40中の水素分子の上記ク.の(ア)~(エ)の作用は、具体的にどのような物質を用い、どのようにしたら実現し得るのかが、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載からでは把握することができない。 そして、本願発明は上記第2に示したとおりであり、「水素を含む補強層をボンド層の上に設ける工程」「を含む方法であって、前記補強層中の水素分子が、ボンド層で生成する熱成長酸化物と化学的に反応すること及び/又は前記補強層が水素結合の形成によってボンド層の表面を不動態化することにより、補強層が、ボンド層で生成する熱成長酸化物の形成を低減させる、方法」であるが、本願発明における「補強層中の水素分子が、ボンド層で生成する熱成長酸化物と化学的に反応すること及び/又は前記補強層が水素結合の形成によってボンド層の表面を不動態化することにより、補強層が、ボンド層で生成する熱成長酸化物の形成を低減させる」という発明特定事項は、上記ケ.(ア)~(エ)の作用に該当する。 そのため、本願発明において、具体的にどのような物質を用い、どのようにしたら補強層を実現し得るのかが、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載からでは把握することができない。 コ. 次に、本願発明において、本願の出願時の技術常識に照らし、具体的にどのような物質を用い、どのようにしたら補強層を実現し得るのかを把握することができるかについて、以下に、検討してみる。 (ア) 本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(d)の【0014】~【0021】によれば、ガスタービンエンジン部品のような補強物品10について、基材20上にボンド層30が設けられ、ボンド層30上に補強層40が設けられ、保護層50は、補強層40上に設けられるとされているが、本願の出願時の技術常識(特開2002-339052号公報の【0002】~【0006】、特開2007-262447号公報の【0002】~【0004】)に照らすと、当該物品10は1500℃を超える使用環境にあって耐久性保持のため、保護層50は耐熱セラミックスで形成され、ボンド層30は、1500℃を超える高温での耐食性・耐酸化性に優れ、保護層50と基材20との密着性を向上させる、合金で形成されていることから、ボンド層30と保護層50との界面に補強層40が設けられる本願発明において、当該補強層40は、ボンド層30のように、1500℃を超える高温での耐食性・耐酸化性に優れ、ボンド層30と保護層50との密着性を向上させる、物質で形成する必要があると認められる。 (イ) また、本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(d)の【0020】によれば、ガスタービンエンジン部品のような補強物品10のボンド層30で生成する熱成長酸化物は、当該物品10の高温作動中に高温ガス、水蒸気及び/又は酸素に暴露されるボンド層30の酸化によって生じるとされているが、本願の出願時の技術常識(特開2002-339052号公報の【0002】~【0009】、特開2007-262447号公報の【0002】~【0005】)に照らすと、ボンド層30で生成する熱成長酸化物は、ボンド層30が保護層50を透過する酸素等に長期に高温被爆されることによって生成するとされているから、本願発明においても、ボンド層30で生成する熱成長酸化物は、ボンド層30が保護層50、補強層40を透過する酸素等に長期に高温被爆されることによって生成するところ、その熱成長酸化物の量を、本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(d)の【0021】~【0026】によれば、水素を含む補強層40中の水素分子の上記ク.の(ア)~(エ)の作用によって、低減又は抑制するとされている。 そのため、水素を含む補強層40は、ボンド層30が保護層50、補強層40を透過する酸素等に長期に高温被爆されることによって生成するボンド層30の熱成長酸化物に対応して、その補強層40中の水素分子が、上記ク.の(ア)~(エ)の作用をすることができるように、長期に存在し続ける必要があると認められる。 (ウ) また、本願発明は、「基材の上にボンド層を設ける工程と、水素を含む補強層をボンド層の上に設ける工程と、補強層の上に保護層を設ける工程とを含む方法であ」るとの発明特定事項を備えるものであるが、本願の発明の詳細な説明の上記(1)の(d)の【0021】、【0028】によれば、補強層40は、保護層50の施工に用いたものと同じ方法で、ケイ素を含むボンド層30と保護層50との界面に厚さ1nm~100μmで実質的に均一に設けるとされている。 (エ) 上記(ア)~(ウ)の検討を踏まえると、「水素を含む補強層」は、1500℃を超える高温での耐食性・耐酸化性に優れ、ボンド層30と保護層50との密着性を向上させる、物質であって、しかも、ボンド層30が保護層50、補強層40を透過する酸素等に長期に高温被爆されることによって生成するボンド層30の熱成長酸化物に対応して、その補強層40中の水素分子が、上記ク.の(ア)~(エ)の作用をすることができるように、長期に存在し続ける物質を用いて、保護層50の施工に用いたものと同じ方法である、大気プラズマ溶射(APS)、化学気相堆積(CVD)、プラズマCVD(PECVD)、ディップコーティング、スピンコーティング、電気泳動堆積(EPD)を始めとする施工で、ケイ素を含むボンド層30と保護層50との界面に厚さ1nm~100μmで実質的に均一に設けるということは、一応、理解できる。 (オ) ここで、水素を含む物質としては、本願の出願時の技術常識(特開2007-512213号公報の【0001】、【0029】~【0036】、特開2009-242232号公報の【0001】~【0002】)に照らすと、加熱時に水素を放出する水素吸蔵組成物が知られている。 しかしながら、水素吸蔵組成物は、通常、300℃以下の加熱で水素を放出し、また、空気又は湿気に暴露されると水素吸蔵能を失うという性質を有する(特開2007-512213号公報の【0029】~【0036】、特開2009-242232号公報の【0001】~【0002】)ことから、1500℃を超える高温での耐食性・耐酸化性に優れ、ボンド層30と保護層50との密着性を向上させる、物質には当たらないし、また、ボンド層30が保護層50、補強層40を透過する酸素等に長期に高温被爆されることによって長期の高温被爆によって生成するボンド層30の熱成長酸化物に対応して、その補強層40中の水素分子が、上記ク.の(ア)~(エ)の作用をすることができるように、長期に存在し続ける物質にも当たらない。すなわち、水素吸蔵組成物を「水素を含む補強層」に用いた場合、本願の出願時の技術常識に照らすと、通常、300℃以下の加熱で水素を放出することから、1500℃を超える高温に晒されるだけで水素を放出して、水素を含まない層に変質するし、また、ボンド層30が保護層50、補強層40を透過する酸素等に被爆される環境下では、当然に、補強層40も透過する酸素等に被爆されるから、その補強層40は水素吸蔵能を失って変質することが明らかであるし、また、そのように高温で変質する水素吸蔵組成物を高温での密着性向上のために用いた例は見当たらないし、また、ボンド層30が保護層50、補強層40を透過する酸素等に長期に高温被爆される環境下では、その補強層40中の水素分子は、補強層40、保護層50を透過して、消失してしまうから、長期の高温被爆によって生成するボンド層30の熱成長酸化物に対応して、その補強層40中の水素分子が長期に存在し続けることもあり得ないことである。 加熱時に水素を放出する水素吸蔵組成物は、所詮、1500℃を超える高温の酸素等に長期に被爆される環境下で水素分子を保持するという使用が想定された物質ではないから、本願の出願時の技術常識に照らし、本願発明における「水素を含む補強層」に用いることができるかという試行錯誤の対象物質には該当し得ないともいえる。 (カ) また、加熱時に水素を放出する水素吸蔵組成物以外の、水素を含む物質としては、本願の出願時の技術常識(特開2007-513039号公報の【0009】~【0013】)に照らすと、固体金属水酸化物、カーボンナノチューブ、ゼオライト等が知られている。 しかしながら、これら水素を含む物質についても、1500℃を超える高温の酸素等に長期に被爆される環境下で水素分子を保持するという使用が想定されたものではないから、本願の出願時の技術常識に照らし、本願発明における「水素を含む補強層」に用いることができるかという試行錯誤の対象物質には該当し得ないと認められる。 また、これら以外に水素を含む物質があったとしても、1500℃を超える高温の酸素等に長期に被爆される環境下で水素分子を保持するという使用が想定された物質は知られていない。 サ. したがって、本願発明における、「補強層中の水素分子が、ボンド層で生成する熱成長酸化物と化学的に反応すること及び/又は前記補強層が水素結合の形成によってボンド層の表面を不動態化することにより、補強層が、ボンド層で生成する熱成長酸化物の形成を低減させる」という発明特定事項を、具体的にどのような物質を用い、どのようにしたら実現し得るのかについては、本願の発明の詳細な説明の記載から把握することはできないし、本願の出願時の技術常識に照らしても把握することができないことから、当業者に期待しうる通常の試行錯誤によって実施することは困難である。 したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることが程度に明確かつ十分に記載されたものではない。 よって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとした、理由1は妥当なものである。 2. 理由2について 上記1.(1)の(a)によれば、本願発明は、耐クリープ性、耐酸化性及び/又は耐熱性が向上したガスタービンエンジン部品のような補強物品の製造方法を提供することを課題としており、その課題を上記第2に示した発明特定事項を備えることによって、解決しようとするものであると認められるが、上記1.(2)での検討と同様にして、上記第2に示した本願発明の発明特定事項のうち、「補強層中の水素分子が、ボンド層で生成する熱成長酸化物と化学的に反応すること及び/又は前記補強層が水素結合の形成によってボンド層の表面を不動態化することにより、補強層が、ボンド層で生成する熱成長酸化物の形成を低減させる」ことを、具体的にどのような物質を用いて、どのようにしたら実現し得るのかについては、本願の発明の詳細な説明の記載から把握することはできないし、本願の出願時の技術常識に基づいても把握することができない。 したがって、本願の出願時の技術常識に照らしても、本願発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 よって、本願は、特許請求の範囲の記載の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとした、理由2も妥当なものである。 3. 補足 (1) 請求人の主張 請求人は、上記第3に示した、原審の拒絶査定の理由1~3に対し、平成30年9月4日付けの手続補正書(方式)において、本願明細書及び図面には、基材、ボンド層及び保護層が具体的に記載されており、そして、本願明細書の段落0023~0026に記載のとおり、これら明確に記載された基材、ボンド層及び保護層において、ボンド層の上に水素を含む補強層を設け、補強層中の水素分子で、ボンド層で生成する熱成長酸化物と化学的に反応すること及び/又は前記補強層が水素結合の形成によってボンド層の表面を不動態化する技術的思想は、上記明細書によってサポートされており、当業者であれば、上記明細書の記載から本願発明を明確に理解でき、当然、本願発明の方法を実施することができるので、本願発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすし、また、本願特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号等に規定する要件を満たす旨主張している。 (2) 当審の見解 しかしながら、本願明細書の【0023】~【0026】には、本願発明の、「補強層中の水素分子が、ボンド層で生成する熱成長酸化物と化学的に反応すること及び/又は前記補強層が水素結合の形成によってボンド層の表面を不動態化することにより、補強層が、ボンド層で生成する熱成長酸化物の形成を低減させる」という発明特定事項に該当する作用機序が記載されているにすぎず、理由1、2について述べたとおり、具体的にどのような物質により当該作用機序が実現し得るのかについては、本願の発明の詳細な説明の記載から把握することはできないし、本願の出願時の技術常識に照らしても把握することができない。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないし、特許請求の範囲の記載の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2018-010188

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