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特許拒絶査定不服審判

2018-009026

電動送風機および電気掃除機

審判番号
2018-009026
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2015-034702外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2018年07月02日
審決日
2020年01月27日
公報発行日
2020年05月29日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (H02K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2015- 34702「電動送風機および電気掃除機」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 1日出願公開、特開2016-158402〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、平成27年2月25日の出願であって、平成29年11月28日付けで拒絶の理由が通知され、平成30年2月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年3月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成30年7月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、当審において令和元年7月18日付けで拒絶の理由が通知され、令和元年9月24日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の各請求項に係る発明は、令和元年9月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 回転自在に設けられた回転軸と、 前記回転軸の一端に設けられた遠心羽根車と、 前記回転軸に設けられる直径よりも軸方向長さの方が長い筒状のロータコアと、 前記遠心羽根車と、前記ロータコアの間に配置された少なくても一つの軸受けと、 前記ロータコアの外周に、前記ロータコアの一端側から他端側まで覆うように設けられ、深絞りで形成された1つのカバーを備え、 前記ロータコアは磁石で構成されるとともに、前記カバーはニッケルを12%以上含んでいるオーステナイト系ステンレスで構成されていることを特徴とするハンディ型の電気掃除機用の電動送風機。 第3 拒絶の理由 令和元年7月18日付けで当審が通知した拒絶の理由は次のとおりのものである。 本願の請求項1~7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2~6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1.特開平9-93844号公報 引用文献2.特開平3-89821号公報 引用文献3.特開平7-147746号公報 引用文献4.特開2014-90628号公報 引用文献5.藤田輝夫,ステンレス鋼の熱処理,日本,日刊工業新聞社,1974年 8月30日,3版,第187-190ページ 引用文献6.特許第3288166号公報 第4 引用文献の記載及び引用発明 1.引用文献1の記載及び引用発明 (1)引用文献1の記載 当審が通知した前記拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、引用文献1には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。以下、同様。)。 ア.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は同期電動機に関し、特に、ロータコアの筒状表面に複数の永久磁石を固定してなる同期電動機のロータに関する。」 イ.「【0003】 【発明が解決しようとする課題】複数の永久磁石を接着剤等の接着手段によってロータコアに固定するロータ構造では、複数の永久磁石に対して一様な接着力を生じるように接着手段を適用することが、作業の熟練を要し、作業時間を消費する課題を有する。また、特に高トルク電動機や毎分数万回転に達する高速電動機にこのロータ構造を適用した場合、ロータ回転時に永久磁石に作用する磁気吸引力や遠心力等の半径方向外力が接着力を超えたときに接着界面に剥離を生じ、永久磁石が脱落、飛散する危惧がある。さらに、接着剤の経時変性で接着界面に剥離を生じる恐れもある。」 ウ.「【0009】 【発明の実施の形態】以下、添付図面を参照して、本発明をその実施形態に基づきさらに詳細に説明する。各図面において、同一又は類似の構成要素には、共通の参照符号を付す。図1~図4は、本発明の一実施形態による同期電動機のロータ10を示す。ロータ10は、軸12に例えば焼嵌めによって固定される略円筒状のロータコア14と、ロータコア14の筒状表面16に固定される複数(図示実施形態では4個)の永久磁石18とを備える。各永久磁石18は、いずれも略同一の瓦形状を有し、ロータコア14の筒状表面16に密接する内周面20と、内周面20に略平行に延びてステータ(図示せず)に対向する外周面22と、内周面20と外周面22とを連結する一対の側面24及び軸方向端面26とを備える。」 エ.「【0011】さらにロータ10は、複数の永久磁石18をロータコア14の筒状表面16上の所定位置に固定するための固定部材32を備える。好ましくは固定部材32は、アルミニウムやステンレス等の非磁性金属材料からなり、永久磁石18による磁界に影響を及ぼさないようになっている。また固定部材32は、全ての永久磁石18の外周面22に密接してそれら永久磁石18を囲繞する管状本体34と、管状本体34の軸方向一縁部から半径方向内方に一体的に延設される環状フランジ36とを備える。管状本体34は、ロータコア14に固定された永久磁石18の外周面22の径よりも僅かに小さい内径の円形断面を有し、その結果、管状固定部材32は、全永久磁石18の外周面22に締り嵌めの関係で装着される。 【0012】固定部材32は、遠心力等の半径方向外方への外力に抗して複数の永久磁石18をロータコア14の筒状表面16に固定的に保持するに充分な剛性を有し、かつそのような剛性を発揮するに必要な厚みを備える。また固定部材32の特に管状本体34の厚みは、ステータ(図示せず)との間に画成される空隙の寸法に鑑みて、ロータ径(ロータコア14に固定された永久磁石18の外周面22の径)が電動機の諸特性に影響を及ぼす程には縮小されないように設定される。さらに固定部材32の管状本体34は、図示のように永久磁石18の軸方向長さと略同一の軸方向長さを有することが、ロータ全体に一様な磁石固定力を発揮する観点で好ましい。 【0013】このような固定部材32は、例えば金属板から深絞り工程を経て形成することができる。この場合、1回の深絞り工程により底付きの管状本体34を形成し、さらにその底に穴あけ加工を施すことにより、管状本体34と環状フランジ36とを一体成形することができるので有利である。或いは、金属板にフランジを曲成し、さらに筒状に曲げた後、端縁同士を接合することにより、固定部材32を形成することもできる。」 オ.記載事項ウ.によると、同期電動機は、ロータ10のロータコア14に固定される軸12を備えており、ロータ10及び軸12の機能からみて、軸12が回転自在に設けられていることは明らかである。すると、同期電動機は、回転自在に設けられた軸12を備えているといえる。 カ.記載事項ウ.によると、軸12に略円筒状のロータコア14が固定され、ロータコア14の筒状表面16に複数の永久磁石18が固定されている。すると、同期電動機は、軸12に固定され、その筒状表面16に複数の永久磁石18を固定した略円筒状のロータコア14を備えているといえ、また、ロータコア14は複数の永久磁石18を固定しているといえる。 キ.記載事項エ.によると、固定部材32は、全ての永久磁石18の外周面22に密接してそれら永久磁石18を囲繞する管状本体34を備え、また、この管状本体34は、永久磁石18の軸方向長さと略同一の軸方向長さを有している。さらに、固定部材32は、深絞り工程を経て形成されている。すると、固定部材32は、全ての永久磁石18の外周面22に密接してそれら永久磁石18を囲繞する管状本体34が、永久磁石18の軸方向長さと略同一の軸方向長さを有し、深絞り工程を経て形成されているといえる。 ク.記載事項エ.によると、固定部材32は、ステンレス等の非磁性金属材料からなるといえる。 (2)引用発明 引用文献1の記載事項ア.~ク.及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「回転自在に設けられた軸12と、 前記軸12に固定され、その筒状表面16に複数の永久磁石18を固定した略円筒状のロータコア14と、 全ての前記永久磁石18の外周面22に密接してそれら前記永久磁石18を囲繞する管状本体34が、前記永久磁石18の軸方向長さと略同一の軸方向長さを有し、深絞り工程を経て形成されている固定部材32を備え、 前記ロータコア14は複数の前記永久磁石18を固定するとともに、前記固定部材32は、ステンレス等の非磁性金属材料からなる同期電動機。」 2.引用文献2の記載 当審が通知した前記拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、引用文献2には、図面とともに、次の記載がある。 (1)「産業上の利用分野 本発明は、真空掃除機や速風機等のブラシレスブロワーモータに用いられる回転子に関するものである。」(第1ページ左欄第12行~第15行) (2)「発明が解決しようとする課題 しかしながら、例えば20,000RPM以上という高速で回転するブラシレスブロワーモータにおいては、上記のような構成では、高速回転中、回転子鉄心2とマグネット4の接着のはがれが起こり、また、マグネット4自身が表面破壊を起こし飛散するという問題があった。 本発明は上記問題点を解決するもので、マグネットの破壊及び飛散を防止し、かつ外径の膨らみを極力押えた回転子を提供するものである。」(第1ページ右欄第5行~第14行) (3)「第1図において、1は電動機の軸、2は回転子鉄心であり、軸1に圧入されている。3は軸受、4はマグネットであり、両端面に切欠段部4aを有し、鉄心2の外周面に装着されている。5は端板であり、マグネット4との嵌合のための突出部5aを有して、上記マグネット4のスラスト方向両端面の軸1に圧入され、かつ突出部にマグネット4を接着し、マグネット4が遠心力により膨らむのを防止している。6は非磁性体よりなる薄い金属製のパイプであり、焼嵌めにより端板5の外周及びマグネット4の外周に固定され、マグネットの飛散を防止している。 第2図は上記回転子を備えたブラシレスブロワモータを示すものであり、7は回転子に対向する固定子、8は軸1に固定した遠心形ファン、9はファンケーシング、10はモータケーシングである。」(第2ページ左上欄第14行~右上欄第10行) 3.引用文献3の記載 当審が通知した前記拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、引用文献3には、図面とともに、次の記載がある。 (1)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、サーボモータなどのように高速回転あるいは正逆回転の頻度の激しい状態で使用される高速モータのロータとその製造方法に関する。」 (2)「【0002】 【従来の技術】従来、6000rpm以上の回転速度で回転するような高速モータのロータは、高速回転時にロータに設けたマグネットが遠心力により飛散したり破損しないようにする必要がある。そのため、例えば、図6に示すように、リング状の一体のマグネット1またはリング状のマグネットを円周方向に等分割したマグネット1をモータシャフト2の段付部21によって位置決めして、モータシャフト2の外周面に接着し、更にマグネット1の外周に接着剤を塗布した状態で非磁性材料からなる保護リング3を嵌合させ、マグネット1と保護リング3の間を接着で固定してある。また、マグネット1の外周に保護リング3をかぶせる代わりにガラスヤーンを巻付け、ガラスヤーンには樹脂を含浸させて硬化させ、ガラスヤーンの外径を加工しているものもある。」 (3)「【0006】 【実施例】以下、本発明を図に示す実施例について説明する。図1は本発明の実施例により形成したロータを示す側断面図、図2は保護リングの素材の側断面図、図3、図4は製造工程を示す側断面図である。図において、マグネット1をロータシャフト2に固定する場合、まずロータシャフト2にマグネット1の取付位置を決める段付部21を設ける。段付部21の高さHをマグネット1の厚さTとほぼ同じ高さになるように形成し、段付部21のマグネット1に接触する側の端面21aは、ロータシャフト2に垂直に形成し、段付部21のマグネット1に接触しない側には段付部21の外周から傾斜させた傾斜面21bを設けておく。また、非磁性材料からなる保護リング3の内径はマグネット1の外径より僅かに大きくしてあり、図2(a)に示すような薄板リングから図2(b)に示すように一方の端面側を絞り加工して、一方の開口部31の内径を他方の開口部32および段付部21の外径より小さくするとともに、傾斜部33を形成する。傾斜部33の内側は段付部21の傾斜面21bに密着するように形成しておく。次に、ロータシャフト2の外周またはマグネット1の内周に接着剤を塗布し、マグネット1を段付部21に密着させてロータシャフト2の外周に嵌合し、マグネット1をロータシャフト2に接着する。なお、マグネット1は一体ものでも、円周方向に分割したものでも同様にロータシャフト2の外周に接着できることは明らかである。この状態で、図3に示すように、保護リング3を開口部32からロータシャフト2の段付部21と共にマグネット1の外周を覆うようにかぶせる。次に、マグネット1の外径より保護リング3の厚さtの2倍程度大きい内径を有するダイス4を用意し、保護リング3の中にマグネット1を固定したロータシャフト2を挿入した状態でプレス機械等により、矢印方向にダイス4の中に押し込む。その結果、図4および図5に示すように、保護リング3の外周を絞り加工(しごき)して保護リング3を塑性変形させ、図1に示すように、保護リング3をマグネット1の外周に密着させる。」 4.引用文献4の記載 当審が通知した前記拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、引用文献4には、図面とともに、次の記載がある。 (1)「【0001】 本発明の実施形態は、表面磁石貼付型回転電機の回転子およびその製造方法に関する。」 (2)「【0005】 永久磁石貼付型の回転電機では、回転子は回転子主部の外周面に永久磁石を貼付して製造される。しかし、高速回転時の遠心力、接着剤の劣化等によって吸着力を保証できない場合には、永久磁石の一部が離脱してしまう虞もある。」 (3)「【0013】 回転子5は、固定子4の内周側に隙間を介して配置された多数の鋼板を備える回転子鉄心(回転子主部に相当)8と、この回転子鉄心8の外周面に併設されその裏面が貼付された永久磁石(平板永久磁石に相当)9と、この回転子鉄心8の中心孔に挿入固定された回転軸10とを主に備える。」 (4)「【0019】 さて、図3は回転子5の基本構成となる回転子本体19の構成を示す。回転軸10は、回転子鉄心8の軸孔8a(図4参照)に対し回転軸10が圧入、嵌合、又は挿入され回転子鉄心8に固定されている。なお、回転軸10は軸方向に沿って軸中心部を中空に形成しても良い。図3に示すように、回転子本体19は回転子ブロック20を複数ブロック分、回転軸10の軸方向に積層した構造を基本構成としているが、実際には回転子5はこれらの回転子ブロック20の各々に押え板21を装着した構造を備える。」 (5)「【0027】 図5に1ブロック分の回転子ブロック20と押え板21とを分解斜視図で示す。押え板21は例えばステンレス鋼などを用いた非磁性材料で成形され永久磁石9の離脱を防止するための係止具となる。 【0028】 図5に示すように、押え板21は、中央に回転軸10を挿通するための内孔21gを備える。この内孔21gは円板中央に形成される。押え板21は、概ね円環状に成形されその外周に絞り成形を施すことによってフランジが設けられる。押え板21は、その外周縁に位置して永久磁石9の片側面側を押える側面押え部21aと、円環の径方向外縁部に設けられ永久磁石9の表面を押える表面押え部21bとを備える。 【0029】 側面押え部21aは、円環状平坦面の外周縁に位置して平坦面に成形される部分であり、表面押え部21bはこの側面押え部21aの外周縁に連設される部分となっている。この表面押え部21bは前記円環状平坦面の外縁が絞り成形されることで構成される。」 (6)「【0076】 (第6実施形態) 図19及び図20は第6実施形態を示しており、特徴点は押え板の比透磁率μrにある。押え板21は絞り加工により成型されるが、この押え板21はその材料としてステンレス鋼(例えばSUS304(μr=1.1~1.15)、SUS316(μr=1.0~1.03)等)が用いられる。 【0077】 図19は押え板の絞り成形前の円環板30を示し、図20は絞り成形加工後の押え板21を示す。 円環板30を絞り加工すると比透磁率μrが高くなる。発明者らは、アステック株式会社製ポータブル型低透磁率計(μメータ)を用いて比透磁率μrを測定した。例えば、絞り加工前のSUS304のブランク材(円環板30)はμr=1.1~1.15程度であり、これを絞り加工した後には、当該加工面に近接したストレート面でμr=1.5~1.7、絞り加工のR面でμr=2.0~2.5と得られた。 【0078】 この点でSUS316を用いて絞り加工すると、前記と同様の部分でμr=1.0~1.03と得られた。押え板21の比透磁率μrが高くなれば非磁性特性とは言えず、永久磁石9の特性を生かしきれず回転子5の特性が劣るものとなる。 【0079】 図21は、これらのSUS304、SUS316等のステンレス鋼を用いて押え板21を構成し、この押え板21を回転子ブロック20に設置してトルクを測定した結果を示す。この図21において、縦軸は、押え板21を設けずに回転子5を構成した場合を100[%]としたときのトルク影響率[%]を示し、横軸は比透磁率を示す。 【0080】 図21中、特性Aaは最大トルク特性[%]を示し、特性Abはダイナミックブレーキトルク特性[%]を示す。この図21を参酌すれば、最大トルク特性、ダイナミックブレーキトルク特性共に、押え板21を設けることでトルクへの影響率が大きくなり、特に比透磁率μrが大きくなればなるほどトルク影響率が大きくなることがわかる。 【0081】 トルク影響率を小さくするには、押え板21の比透磁率μrを抑制することが望ましい。発明者らによれば、SUS316を絞り加工して押え板21を形成することで例えば比透磁率μrを1.15以下に抑制できることが確認されているため、SUS316を用いることが望ましい。特に押え板21の比透磁率μrを1.15以下又は未満にすることで最大トルクやダイナミックブレーキトルクの変動率を1%以内に抑制できるようになり、回転子5の特性を良好にできる。」 5.引用文献5の記載 当審が通知した前記拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、引用文献5には、次の記載がある。 (1)「4.24 磁性と熱処理 オーステナイト鋼は、いわゆる非磁性である。しかし、SUS-27程度の準安定オーステナイト鋼は、しばしば磁性が生ずるとか、磁性が残っているという問題を生ずる。完全オーステナイトは、導磁率1.003前後といわれる。 SUS-27程度で、磁性が出る1つの原因は、○1(当審注:「○1(○の中にアラビア数字の1)」は、「○1」と表記する。以下、「○2(○の中にアラビア数字の2)」についても、同様に表記する。)組成のバランスの関係によるαの残存と、○2加工によるオーステナイトからマルテンサイトへの変態である。 4.24.1 オーステナイトからマルテンサイトへの変態 オーステナイトがマルテンサイトへの変態を起こせば、マルテンサイトは強磁性であるから当然磁性を生ずる。通常は、焼入れでマルテンサイトが生ずるのであるが、オーステナイトが不安定な場合は、加工によっても生ずる。オーステナイトの安定度は組成によってきまる。Ni,N2,C,Mnなどのオーステナイト生成元素が多いほど安定である。」(第187ページ第1行~第11行) (2)「表4.62からNiの高い310がきわめて安定なことがわかる。」(第189ページ第13行~第14行) (3)「通常304を機械加工すると、0.05mm表面層がマルテンサイト化するといわれる。研磨を150番のベルトで行ったときは0.012mmの変化層がある。 304のμ1.008のものを40%冷間圧延して、μ1.129となった。このものは500℃以下の加熱では回復しない。10~20%冷間加工のものは700℃加熱で回復する。30~40%加工のものは、1000℃加熱で、μはもとにもどった。 上記のように加工後非磁性を回復するためには、熱処理をすればよいが、この温度は高いほどよく、また時間も長いほどよい。」(第190ページ第1行~第11行) 6.引用文献6の記載 当審が通知した前記拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、引用文献6には、図面とともに、次の記載がある。 (1)「【0026】 【実施例1】SUS304丸棒(クロム18%,ニッケル8%)を用いてマイクロシャフトを作製した。また、同様にして、SUS316丸棒(クロム18%,ニッケル12%,モリブデン2%,芯部硬度Hv=310)からなるマイクロシャフトと、SUS310丸棒(クロム25%,ニッケル20%,芯部硬度Hv=370)からなるマイクロシャフトを作製した。・・・。」 第5 対比 以下、本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「軸12」は、本願発明の「回転軸」に相当する。 引用発明の「ロータコア14」は、略円筒状であり、軸12に固定され、複数の永久磁石18を固定するものであるから、引用発明の「複数の永久磁石18」及び「ロータコア14」を合わせたものが、本願発明の「ロータコア」に相当する。すると、引用発明の「前記軸12に固定され、その筒状表面16に複数の永久磁石18を固定した略円筒状のロータコア14」と、本願発明の「前記回転軸に設けられる直径よりも軸方向長さの方が長い筒状のロータコア」とは、「前記回転軸に設けられる筒状のロータコア」である点で共通する。また、引用発明の「前記ロータコア14は複数の前記永久磁石18を固定する」という事項と、本願発明の「前記ロータコアは磁石で構成される」という事項とは、「前記ロータコアは磁石を含む」点で共通する。 引用発明の「固定部材32」は、ロータコア14の筒状表面16に固定された複数の永久磁石18の外周面22に密接して、それらの永久磁石18を囲繞する管状本体34を有するから、複数の永久磁石18及びロータコア14の外周に設けられているといえ、本願発明の「カバー」に相当する。また、引用発明の「固定部材32」の管状本体34は、永久磁石18の軸方向長さと略同一の軸方向長さを有し、また、引用文献1の図1及び図4の図示内容を考慮すると、この永久磁石18の軸方向長さと、ロータコア14の軸方向長さは略同一であるといえるから、引用発明の「固定部材32」は、複数の永久磁石18及びロータコア14の一端部から他端部までを覆うように設けられているといえる。すると、引用発明の「全ての前記永久磁石18の外周面22に密接してそれら前記永久磁石18を囲繞する管状本体34が、前記永久磁石18の軸方向長さと略同一の軸方向長さを有し、深絞り工程を経て形成されている固定部材32」は、本願発明の「前記ロータコアの外周に、前記ロータコアの一端側から他端側まで覆うように設けられ、深絞りで形成された1つのカバー」に相当する。 引用発明の「前記固定部材32は、ステンレス等の非磁性金属材料からなる」という事項と、本願発明の「前記カバーはニッケルを12%以上含んでいるオーステナイト系ステンレスで構成されている」という事項とは、「前記カバーはステンレスで構成されている」点で共通する。 引用発明の「同期電動機」と、本願発明の「ハンディ型の電気掃除機用の電動送風機」とは、「電動機器」である点で共通する。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「回転自在に設けられた回転軸と、 前記回転軸に設けられる筒状のロータコアと、 前記ロータコアの外周に、前記ロータコアの一端側から他端側まで覆うように設けられ、深絞りで形成された1つのカバーを備え、 前記ロータコアは磁石を含むとともに、前記カバーはステンレスで構成されている電動機器。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 本願発明は、「前記回転軸の一端に設けられた遠心羽根車と」、「前記遠心羽根車と、前記ロータコアの間に配置された少なくても一つの軸受け」とを備えた「ハンディ型の電気掃除機用の電動送風機」であり、ロータコアは「直径よりも軸方向長さの方が長い」のに対し、引用発明は、同期電動機の用途が特定されておらず、その結果、遠心羽根車や、この遠心羽根車とロータコアの間の軸受けを備えておらず、また、ロータコアの直径と軸方向長さの関係も明確でない点。 [相違点2] ロータコアについて、本願発明は、「磁石で構成される」のに対し、引用発明は、複数の永久磁石18が固定されているものの、ロータコア14自体が磁石で構成されているとはいえない点。 [相違点3] カバーについて、本願発明は、「ニッケルを12%以上含んでいるオーステナイト系ステンレス」で構成されているのに対し、引用発明は、ステンレスからなるものの、このような材料で構成されているか不明である点。 第6 判断 (1)相違点について 以下、前記相違点について判断する。 [相違点1]について 前記第4 2.(1)、(2)及び(3)並びに引用文献2の第1図及び第2図の図示内容によると、引用文献2には、鉄心2の外周面に装着されたマグネット4の飛散を防止するために非磁性体よりなる金属製のパイプ6をマグネット4の外周に固定した回転子を備える電動機を、電動機の軸1に固定した遠心形ファン8と、遠心形ファン8と鉄心2との間に配置された軸受3とを備えた真空掃除機のブラシレスブロワーモータとすることが記載されている。ここで、引用文献2に記載された真空掃除機がどのような形態の掃除機であるかは、明確ではないが、遠心形ファンと軸受とを備えたブロアーモータが用いられる電気掃除機として、ハンディ型のものは、例えば、特開2014-219007号公報の段落【0019】、【0034】、図6及び図12に記載されているように、本願の出願前から周知の事項であり、さらに、ハンディ型の電気掃除機用のブロアーモータにおいて、ロータコアの軸方向長さを直径よりも長くすることも、例えば、特開2014-219007号公報の図6、図13及び図14に図示されているように、本願の出願前から周知の事項である。 そして、引用発明と、引用文献2に記載された事項とは、ロータに永久磁石を備えた電動機に関するものであり、技術分野が共通する上、ロータが高速回転する際に生じる遠心力等により磁石が飛散しないようにするという課題を備える点でも共通している。 すると、ロータが高速回転する際に生じる遠心力等により磁石が飛散しないようにするという課題を解決する引用発明の同期電動機について、引用文献2に記載された真空掃除機のブロワーモータにも同様の課題が存在するのであるから、その用途を真空掃除機用のブロワーモータとし、遠心形ファンと軸受とを備えることは当業者が容易に想到し得たものであり、その際、前記周知の事項にならい、真空掃除機をハンディ型とすることに格別の困難性はない。 また、引用発明の「複数の永久磁石18を固定した略円筒状のロータコア14」の軸方向長さ及び直径は、引用発明の同期電動機の用途に応じ、要求される重量、設置スペース等を勘案の上、当業者が最適化し得るものであって、ハンディ型の真空掃除機において、これらの軸方向長さを直径よりも長くすることも、前記周知の事項を勘案すると、格別のものとはいえない。 この点に関し、請求人は、令和元年9月24日付け意見書において、「直径よりも軸方向長さの方が長い筒状のロータコアとしていることにより、ハンディ型電気掃除機へ搭載した状態で、直径よりも軸方向長さの方が短いロータコアを用いたものよりも、重心が手元に近く取り回し易くなるハンディ型の電気掃除機用の電動送風機を提供することができるという効果を奏します。」(前記意見書第5ページ第29行~第33行)と主張しているが、「直径よりも軸方向長さの方が長い」ロータコアについて、本願の明細書には、特許請求の範囲と同様の記載がされた段落【0007】を除き、何ら記載されておらず、図6において示唆されているのみであるから、本願の明細書等の記載をみても、「直径よりも軸方向長さの方が長い」ロータコアを用いることによる作用、機能を何ら把握することができず、「重心が手元に近く取り回し易くなるハンディ型の電気掃除機用の電動送風機を提供することができる」という効果との関係も何ら把握することができない。 また、本願発明は「ハンディ型の電気掃除機用の電動送風機」の発明であって、「ハンディ型の電気掃除機」の発明ではないところ、「ハンディ型の電気掃除機」がどのような構成を備えるのかや、「ハンディ型の電気掃除機」を操作する把持部分がどの位置にあるのかや、電動送風機のロータコアが「ハンディ型の電気掃除機」のどの位置に配置されるのかなどが特定されておらず、その結果、「直径よりも軸方向長さの方が長い」ロータコアが「ハンディ型の電気掃除機」の重心位置にどのような影響を与え、「ハンディ型の電気掃除機」の重心位置と「ハンディ型の電気掃除機」を操作する把持部分とがどのような位置関係になるのかも特定されないから、「直径よりも軸方向長さの方が長い」ロータコアを用いることにより、必ずしも「重心が手元に近く取り回し易くなるハンディ型の電気掃除機用の電動送風機を提供することができる」という効果を奏するとはいえない。 さらに、本願発明は、ロータコアの寸法について、「直径よりも軸方向長さの方が長い」と特定しているのみであるから、本願の図6に図示されたロータコア209の軸方向長さと直径との比率以外の比率を備えたロータコアが含まれることになり、軸方向長さが直径に比べてわずかに長いものから、直径に比べて数十倍以上の長さのものまで、種々の比率のものが含まれることになるが、本願の明細書等の記載をみても、この種々の比率のいずれのロータコアであっても、「重心が手元に近く取り回し易くなるハンディ型の電気掃除機用の電動送風機を提供することができる」という効果を奏するとは把握できない。 したがって、請求人の主張は採用できない。 よって、引用発明に、引用文献2に記載された事項及び前記周知の事項を適用し、本願発明の相違点1に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものである。 [相違点2]について 前記第4 3.(1)、(2)及び(3)並びに引用文献3の図1の図示内容によると、引用文献3には、ロータシャフト2に接着されたリング状の一体のマグネット1の飛散を防止すべく、非磁性材料からなる保護リング3をマグネット1の外周に密着させた高速モータのロータが記載されている。 そして、引用発明と、引用文献3に記載された事項とは、ロータに永久磁石を備えた電動機に関するものであり、技術分野が共通する。また、引用発明の複数の永久磁石18が固定されたロータコア14と、引用文献3に記載された事項のリング状の一体のマグネット1とは、ともに電動機の回転軸に固定されるものであり、かつ、回転軸を回転させるための永久磁石による磁束を生じさせるものであり、作用、機能が共通しており、両者はその長所、短所を勘案の上、当業者が選択し得るものといえる。 ここで、引用文献3に記載された事項のリング状の一体のマグネット1を用いた場合、ロータに用いる部品点数が減ることや、ロータの製造が簡略化できることは当業者にとって明らかな事項であるから、この長所に着目し、引用発明の複数の永久磁石18が固定されたロータコア14を、引用文献3に記載された事項に基づき、リング状の一体のマグネットとし、本願発明の相違点2に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものである。 [相違点3]について 前記第4 4.(6)によると、引用文献4には、押え板21を絞り加工により成型する際、非磁性特性とするために、SUS304ではなく、SUS316を用いる点が記載されている。ここで、引用文献5の第188ページに記載された表4.62や、引用文献6の段落【0026】(前記第4 6.(1)参照)によると、SUS304は、ニッケルの割合が12%未満であり、SUS316は、ニッケルの割合が12%以上であるといえる。 また、前記第4 5.(1)、(2)及び(3)並びに引用文献5の前記表4.62によると、引用文献5には、非磁性のオーステナイトが加工によって、磁性のマルテンサイトへ変態しないように、オーステナイトを安定なものとすべく、Ni,N2,C,Mnなどのオーステナイト生成元素を多くする点が記載されている。また、ニッケルの割合が20.7%のSUS310を用いると安定したオーステナイトとなることや、ニッケルの割合が10.7%のSUS304を用いると機械加工後に非磁性を回復するための熱処理が必要になることが記載されている。 ここで、引用文献4に記載された事項及び引用文献5に記載された事項を勘案すると、オーステナイトを機械加工することにより、オーステナイトが磁性化することは、本願の出願前から周知の課題ということができる。 そして、引用発明のステンレス等の非磁性金属材料からなる固定部材32は、深絞り工程を経て形成されるものであるから、非磁性のステンレスとして一般的なオーステナイト系のステンレスを用いた場合、前記周知の課題が内在するといえ、当該内在する周知の課題を解決すべく、固定部材32の材料として、引用文献4に記載された事項に基づき、SUS316を採用し、又は引用文献5に記載された事項に基づき、SUS310を採用し、本願発明の相違点3に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものである。 (2)本願発明の作用効果について 本願発明の作用効果については、引用発明、引用文献2~引用文献6に記載された事項及び前記周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。 第7 むすび したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2~引用文献6に記載された事項及び前記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2018-009026

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