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特許拒絶査定不服審判

2018-007850

凝乳特性が改善されたキモシン変異体

審判番号
2018-007850
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2015-513145外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2018年06月06日
審決日
2020年01月20日
公報発行日
2020年07月31日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-WZ (C12N) / P18 .121-WZ (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2015-513145「凝乳特性が改善されたキモシン変異体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月28日国際公開、WO2013/174840、平成27年 7月 6日国内公表、特表2015-518718〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成25年5月22日を国際出願日(パリ条約による優先権主張 平成24年5月25日 欧州特許庁)とする出願であって、平成30年1月26日付けで拒絶査定がなされ、同年6月6日に拒絶査定不服の審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、平成31年3月11日付けで当審より拒絶理由が通知され、令和1年9月12日に意見書が提出されたものである。 本願の請求項1~10に係る発明は、平成30年6月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~10に記載されたものであり、そのうち請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。 「【請求項5】 単離キモシンポリペプチド変異体であって: (a)キモシン活性を有する親ポリペプチド中の1又は2以上の位置に変異を有し、当該変異が、位置117のアミノ酸位置における、置換、欠失、又は挿入を含み;且つ (b)当該変異体が、配列番号2の成熟ポリペプチドを含有するラクダキモシンのC/P比と比較してより高いC/P比をもたらすキモシン活性を有し; そして、 (i)前記親ポリペプチドのアミノ酸位置が、配列番号1のポリペプチド(ウシキモシン)と親ポリペプチドとのアラインメントにより決定され、即ち、配列番号1のポリペプチドが、親ポリペプチド中の対応するアミノ酸配列を決定するのに使用され;及び (ii)当該親ポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸位置59~アミノ酸位置381に対応する、配列番号2の成熟ポリペプチド(ラクダキモシン)と90%以上の配列同一性を有し;及び (iii):当該単離変異ポリペプチドが、配列番号2の成熟ポリペプチド(ラクダキモシン)に対して100%未満の配列同一性を有する、当該単離キモシンポリペプチド変異体。」 第2 当審の拒絶理由 平成31年3月11日付けで通知した当審の拒絶理由は、(サポート要件)この出願は特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、及び、(進歩性)この出願の請求項1~10に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記1、2の文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 (引用例) 1.Biochemical and Biophysical Research Communications,2006年,Vol.342,p.647-654 2.国際公開第2010/110464号 (周知例) 3.特開2010-99082号公報 4.特開2011-182794号公報 5.特開2010-46034号公報 第3 サポート要件についての当審の判断 1.本願発明 本願発明は、上記第1に記載したとおりのものであり、本願発明には、「キモシンポリペプチド変異体」の変異前のポリペプチド、すなわち、「親ポリペプチド」は『ラクダキモシン(それと90%以上の配列同一性を有する類似体も含む。以下、同様。)』であり(本願発明の(ii))、「キモシンポリペプチド変異体」は「親ポリペプチド」中の1又は2以上の位置に変異を有し、当該突然変異が位置117のアミノ酸位置における置換、欠失又は挿入を含み(本願発明の(a))、「親ポリペプチド」である『ラクダキモシン』と比較してより高いC/P比をもたらすものであること(本願発明の(b))が特定されていると認められる。 したがって、本願発明は、 『ラクダキモシン』を「親ポリペプチド」とする、単離された「キモシンポリペプチド変異体」であって、 ・「親ポリペプチド」の117のアミノ酸位置に置換、欠失又は挿入を含み、 ・「親ポリペプチド」より高いC/P比を有する、 「キモシンポリペプチド変異体」に関するものと認められる。 2.本願明細書の記載 本願明細書には、C/P比、「キモシンポリペプチド変異体」として作成された具体例について、以下の記載がある。 (1)「【0082】 本分野で知られているように、キモシン活性は、いわゆるC/P比によって判断することができる。なおC/P比は、比凝固活性(C)をタンパク質分解活性(P)で割ることによって求まる。 【0083】 本分野で知られているように、より大きなC/P比は、一般に、例えばチーズ製造中のタンパク質の損失が非特異的なタンパク質分解により少なくなること(即ちチーズの収率が向上すること)と、成熟中のチーズにおける苦い味の発達が減ることを意味する。」 (2)「【実施例2】 【0167】 キモシン変異体の設計 【0168】 さまざまな戦略を利用してキモシン変異体を設計した。 【0169】 ラクダキモシンに言及するときには、本明細書に記載した配列番号2のポリペプチドを含むラクダキモシンを参照する。 【0170】 配列番号2のラクダキモシンは、ラクダキモシン変異体を作るのに用いるキモシン活性を有する本明細書に関連する親ポリペプチドと見なすことができる。 【0171】 ウシキモシンに言及するときには、本明細書に記載した配列番号1のポリペプチドを含むウシキモシンを参照する。 【0172】 配列番号1のウシキモシンは、ラクダキモシン変異体を作るのに用いるキモシン活性を有する本明細書に関連する親ポリペプチドと見なすことができる。 【0173】 ウシキモシンBとの配列同一性が25%以上である公知のアスパラギン酸プロテアーゼ配列の大きな集合のアラインメントに基づいてラクダキモシンの変異体を設計した。 【0174】 変異は一般に超可変領域に導入されたが、保存された領域は変化しなかった。各変異体コンストラクトに多数の変異を導入し、単一の変異のそれぞれが多数の変異体コンストラクトの中に確実に存在するようにした(結果の考察に関しては以下の実施例6参照)。」 (3)「【実施例6】 【0193】 ラクダキモシン変異体の評価 【0194】 実施例4に従い、すべての変異体についてpH 6.5での比凝固活性(IMCU/全タンパク質(mg))を求めた。以下の戦略を利用して変異体をランク付けした。比活性が最も低い変異体には1点を与え、2番目に低いものには2点を与え、というようにする。 【0195】 同じランキング戦略をC/P比にも適用した。比凝固活性(IMCU/mg)をタンパク質分解活性で割ることにより、すべての変異体についてpH 6.5でのC/P比を求めた。 【0196】 両方のランキング戦略を利用して各変異体の合計点を求め、その合計点に基づいて最終ランキングを作成した。 【0197】 基準として、ラクダ野生型遺伝子とウシ野生型遺伝子を含めた。 【0198】 【表2】 “×”は変化がないこと、即ち突然変異がないことを示す。 【0199】 すべての変異体が多数の突然変異を含んでいたため、ランク付けした変異体のデータを統計的方法と3D構造分析を利用してより詳しく調べ、プラスの効果又はマイナスの効果を持つ個々のアミノ酸の変化を明らかにした。この調査では、以下の実施例7で議論するウシ変異体も評価した/含めた。 【0200】 以下の突然変異が同定された。 【0201】 【表3】 “+”は、プラスのアミノ酸置換を意味する。即ち“++”は“+”よりもプラスが大きい。 “-”は、マイナスのアミノ酸置換を意味する。即ち“--”は“-”よりもマイナスが大きい。 この表の右欄の説明は、個々の突然変異がウシキモシンの3D構造のどこに位置するかに関係している。ウシキモシンの3D構造は公開されている。一例として、図2に、アミノ酸位置296と294がウシキモシンのどこに存在しているかを示す。 【0202】 結論: 【0203】 上記の結果から、ラクダキモシンに存在する以下の突然変異がプラスであること(即ちラクダ野生型キモシンと比べてC/P比が改善されていること)がわかった。 D117N H134Q L280I D156V V241I D325M L311I G309W G309D V279M 」 3.判断 上記2.(2)(3)より、本願明細書の実施例では、「親ポリペプチド」である『ラクダキモシン』の3~5つの位置にそれぞれ特定のアミノ酸置換を有する複数のラクダキモシン変異体、すなわち、【表2】に列挙されるラクダキモシン変異体が作成され、それらについての評価が行われたことが認められる。そして、この評価は、[pH6.5での比凝固活性]のランクと[pH6.5でのC/P比]のランクとを用いる“ランキング戦略”なるものを利用した『合計点』で行われたことが認められ、【表2】にはこの『合計点』が高い順に各変異体が記載されていると認められる。 ここで、上記2.(1)の記載からみて、[pH6.5での比凝固活性]のランクが高ければ、必ず[pH6.5でのC/P比]のランクが高いとはいえないところ、実施例の結果は『合計点』でしか表されておらず、実施例で作成されたそれぞれの変異体が「親ポリペプチド」より高いC/P比を有するか、すなわち、本願発明の「(b)当該変異体が、配列番号2の成熟ポリペプチドを含有するラクダキモシンのC/P比と比較してより高いC/P比をもたらすキモシン活性を有」するものであるかどうかは判然とせず、本願発明に該当する変異体が実施例において作成されたとは直ちに認めることができない。 念のため、「親ポリペプチド」の117のアミノ酸位置に置換、欠失又は挿入を含む変異体について検討すると、【表2】には、「親ポリペプチド」の117のアミノ酸位置にD117N置換を含み、かつ「親ポリペプチド」であるラクダキモシンよりも『合計点』が高い変異体として、「G04-1(Y79S D117N I131L)」変異体が記載されていると認められる。仮に、この変異体が「親ポリペプチド」より高いC/P比の要件も満たすとすれば、実施例には本願発明に特定される要件を満足するものとして、唯一「G04-1(Y79S D117N I131L)」変異体が開示されているということはできる。 しかし、【表2】には「置換」を有する変異体しか記載されておらず、位置117のアミノ酸位置に「欠失」や「挿入」を有する変異体については何ら記載されてない。また、上記「G04-1(Y79S D117N I131L)」変異体は位置117のアミノ酸位置にNという特定の「置換」含む変異体であって、しかも「D117N」以外にも2つの特定のアミノ酸置換を有するものである。 ポリペプチドのアミノ酸配列へのアミノ酸置換は、該ポリペプチドの立体構造に影響を与えること、酵素の活性は該酵素の立体構造に影響を受けることが技術常識であること、【表2】には「D117N」置換を含むにもかかわらず『合計点』が「親ポリペプチド」よりも劣る変異体が複数(H07-2 E05-2 B12-1 F06-2)が記載されていることを考慮すると、位置117のアミノ酸位置に「欠失」や「挿入」を有する変異体や、位置117のアミノ酸位置にN以外のアミノ酸置換を含む変異体、また、「D117N」置換のみを有する変異体などが「G04-1(Y79S D117N I131L)」変異体と同様のC/P比を示すとはいえず、「親ポリペプチド」の117のアミノ酸位置に置換、欠失又は挿入を含む変異体の全体が「親ポリペプチド」より高いC/P比であるとは認められない。 つまり、仮に「G04-1(Y79S D117N I131L)」変異体の例が本願発明に該当するとしても、この一例のみの開示から本願発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。 なお、【表3】にはランク付けした変異体のデータを統計的方法と3D構造分析を利用して解析したとされるアミノ酸置換の「プラス効果又はマイナス効果」なるものについて示されており、「D117N」が「++」という「プラス効果」であることが記載されているが、本願明細書には「プラス効果又はマイナス効果」なるものと「親ポリペプチド」より高いC/P比であることとの関係について具体的に記載されているとはいえないから、【表3】の記載から、「親ポリペプチド」の117のアミノ酸位置に置換、欠失又は挿入変異体であれば、「親ポリペプチド」より高いC/P比となるとはいえない。 したがって、本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 よって、この出願は特許請求の範囲の請求項5の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 4.審判請求人の主張について 審判請求人は、令和1年9月12日の意見書において、次の点を主張している。 「本願発明においてC/P比にプラスの最も顕著な影響をもたらす突然変異として同定されたD117Nと同じ位置に別種の変異を導入して類似の高いC/P比を有する変異体を取得出来る蓋然性は、アミノ酸配列上の任意の位置に変異を導入した場合よりも遥かに高く、当該位置に様々な種類の変異を起こした変異体を樹立し(工程(a))、それらの中から所望の機能を有する(即ち「配列番号2の成熟ポリペプチドを含有するラクダキモシンのC/P比と比較してより高いC/P比をもたらすキモシン活性を有する」)ものを選択する(工程(b))ことは、当該技術分野において通常行われる作業の範疇であって、当業者に対し過度の試行錯誤を強いるものではありません。」 上記主張について検討する。 上記3.で述べたとおり、位置D117における突然変異がC/P比にプラスの影響なるものをもたらすことと、「親ポリペプチド」より高いC/P比であることとの関係について、本願明細書の記載から合理的に理解することはできない。位置D117に様々な種類の変異を起こした変異体を作成したとしても、それらの中には「親ポリペプチド」より高いC/P比を有さないものが数多く含まれることが推認されるから、「親ポリペプチド」より高いC/P比を有するものを選択することには当業者に対し過度の試行錯誤を強いるといえる。 したがって、審判請求人の主張は採用できない。 第4 進歩性についての当審の判断 1.引用例の記載事項 (1)引用例1 引用例1(Biochemical and Biophysical Research Communications,2006年,Vol.342,p.647-454)には以下の記載がある。なお、英文であるから翻訳文を記載する。また、下線は当審が付したものである。 (1-ア)「要約 チーズ製造のための酵素によるミルク凝固は、アスパラギン酸プロテアーゼによるκ-カゼイン中の切断可能な結合の開裂を含む。ウシキモシンは、強い凝固活性と低い一般的なタンパク質分解活性とを併せ持つ好ましい酵素である。本研究では、Aspergillus nigerで発現させた組換えラクダキモシンの発現と酵素的性質について報告する。ラクダキモシンは、ウシキモシンとは異なる特徴を有することが示された。ラクダキモシンは、牛乳に対して70%高い凝固活性を示し、非特異的プロテアーゼ活性についてはウシキモシンの20%しか有さない。これは、一般的なタンパク質分解活性に対する凝固活性の7倍高い比率をもたらす。この酵素は、ウシキモシンよりも熱安定性が高い。動態分析は、ウシキモシンに必要とされる基質の50%未満で半飽和が達成され、そして代謝回転速度がより低いことを示した。生のラクダミルクをウシキモシンで凝固させることはできないが、ラクダキモシンでは高い凝固活性が見られた。」(要約) (1-イ)「図1 」 (650頁) (1-ウ)「タンパク質の特徴 新たに調整した活性ラクダキモシンのN末端残基は、翻訳開始から数えてGly(59)と識別された(図1A)。」(649頁右欄4段落) (2)引用例2 引用例2(国際公開第2010/110464号)には以下の記載がある。なお、英文であるから引用例2のパテントファミリーである特表2012-521188号公報の記載を翻訳文として記載する。また、下線は当審が付したものである。 「【0001】 本発明は、微生物由来の凝乳活性が向上したプロテアーゼに関する。同プロテアーゼは、チーズ製造に好適に用いられる。 【背景技術】 【0002】 古くからチーズ製造に用いる凝乳酵素として、仔ウシレンネットが使用されている。仔ウシレンネットの凝乳活性の大部分は酸性プロテアーゼであるキモシンが占めており、乳中のカゼインに対する位置特異性が高いこと、すなわち、非特異的なプロテアーゼ活性(κ-カゼインのアミノ酸配列における105位のアミノ酸であるフェニルアラニンと10 6位のアミノ酸であるメチオニン間以外のペプチド結合を消化する活性)が低いという特徴を有している。この非特異的プロテアーゼ活性は、チーズ製造時の収量低下や熟成中の苦味ペプチド産生に影響するとされ、キモシンが優れた凝乳酵素である理由とされている。 【0003】 しかし、仔ウシの屠畜数の減少、チーズ需要の増加に伴い、仔ウシレンネットの安定した供給が困難となり、現在ではリゾムコール・ミーハイ(Rhizomucor miehei)及びリゾムコール・プシルス(Rhizomucor pusillus)の生産する微生物由来の凝乳酵素や仔ウシキモシンの遺伝子をカビや酵母に導入し生産させた遺伝子組換えキモシンが凝乳酵素として多用されるようになっている。 【0004】 上記微生物由来の凝乳酵素は、仔ウシキモシンや組換えキモシンに比べて非特異的なプロテアーゼ活性が高く、凝乳酵素の性質として重要なC/P比(タンパク質分解活性に対する凝乳活性の比)が低い点が問題とされているが、このような欠点を解決するために、リゾムコール・プシルスでは、遺伝子工学的手法により部位特異的変異を施した凝乳酵素の変異遺伝子を酵母で発現させて評価されている。その変異体では、凝乳酵素のアミノ酸配列における19位のアミノ酸をグルタミン酸からアラニンに置換させることによってC/P比が野生型よりも向上した(非特許文献1)。」 2.引用発明 上記1.(1)より、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「引用例1の図1に示されるアミノ酸配列を有するラクダキモシン。」 3.対比 本願発明と引用発明を対比する。 本願発明には、「単離キモシンポリペプチド変異体」の「親ポリペプチド」に関して、「(ii)当該親ポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸位置59~アミノ酸位置381に対応する、配列番号2の成熟ポリペプチド(ラクダキモシン)と90%以上の配列同一性を有し」と特定されており、すなわち、親ポリペプチドが配列番号2のアミノ酸位置59~アミノ酸位置381に対応する成熟ラクダキモシンと90%以上の配列同一性を有することが特定されていると認められる。 これに対して、引用例1の図1に示されるラクダキモシンの381アミノ酸残基からなるアミノ酸配列は、本願発明の配列番号2(シグナル配列と成熟ポリペプチド配列とを含むラクダキモシンのアミノ酸配列)と一致し、引用例1に示される活性ラクダキモシン(上記(1-ウ)、N末端が図1Aの59番目のGly)は、本願発明の成熟ポリペプチド(ラクダキモシン)のアミノ酸配列である、「配列番号2のアミノ酸位置59~アミノ酸位置381」の配列と一致するから、引用発明のラクダキモシンは、上記(ii)に特定される要件を満足すると認められる。 そうすると、引用発明の「ラクダキモシン」は、本願発明の「単離キモシンポリペプチド変異体」の「親ポリペプチド」である「成熟ポリペプチドを含有するラクダキモシン」に相当すると認められる。 したがって、両者は、 「配列番号2のアミノ酸位置59~アミノ酸位置381に対応する、配列番号2の成熟ポリペプチド(ラクダキモシン)と90%以上の配列同一性を有する、ラクダキモシン」に関する発明である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。 (相違点1) 本願発明は「単離キモシンポリペプチド変異体」、すなわち、単離されたラクダキモシンの変異体であるのに対して、引用発明はそのようなものではない点。 (相違点2) ラクダキモシン変異体の有する変異に関して、本願発明には「(a)キモシン活性を有する親ポリペプチド中の1又は2以上の位置に変異を有し、当該変異が、位置117のアミノ酸位置における、置換、欠失、又は挿入を含み;且つ (b)当該変異体が、配列番号2の成熟ポリペプチドを含有するラクダキモシンのC/P比と比較してより高いC/P比をもたらすキモシン活性を有し」、「(i)前記親ポリペプチドのアミノ酸位置が、配列番号1のポリペプチド(ウシキモシン)と親ポリペプチドとのアラインメントにより決定され、即ち、配列番号1のポリペプチドが、親ポリペプチド中の対応するアミノ酸配列を決定するのに使用され」、「(iii):当該単離変異ポリペプチドが、配列番号2の成熟ポリペプチド(ラクダキモシン)に対して100%未満の配列同一性を有する」と特定されている点。 すなわち、本願発明では、親ポリペプチドがキモシン活性を有すること、親ポリペプチドにおいて変異を導入するアミノ酸位置を決定するための手段、変異を導入するアミノ酸位置が位置117を含む1又は2以上の位置であり、変異は置換、欠失、又は挿入であること、変異体は親ポリペプチドであるラクダキモシンに対して100%未満の配列同一性を有し、親ポリペプチドであるラクダキモシンのC/P比よりも高いC/P比のキモシン活性を有することが特定されていると認められる。 4.判断 上記相異点について検討する。 (相違点1)について 引用例1、2の記載から、チーズ製造に使用される酵素であるキモシンは、より凝乳性に優れたキモシン活性を有するものを求めることが課題であると認められる。そして、引用例1には「ウシキモシンは、強い凝固活性と低い一般的なタンパク質分解活性とを併せ持つ好ましい酵素である。」、「ラクダキモシンは、牛乳に対して70%高い凝固活性を示し、非特異的プロテアーゼ活性についてはウシキモシンの20%しか有さない。これは、一般的なタンパク質分解活性に対する凝固活性の7倍高い比率をもたらす。」と記載されており、凝乳性に優れたキモシン活性とは“一般的なタンパク質分解活性に対する凝固活性の比”が高いことであることが理解される。また、引用例2の「凝乳酵素の性質として重要なC/P比(タンパク質分解活性に対する凝乳活性の比)が低い点が問題とされているが、このような欠点を解決するために、リゾムコール・プシルスでは、遺伝子工学的手法により部位特異的変異を施した凝乳酵素の変異遺伝子を酵母で発現させて評価されている。」の記載から、上記“一般的なタンパク質分解活性に対する凝固活性の比”とはC/P比(比凝固活性(C)をタンパク質分解活性(P)で割ること、本願明細書の段落【0043】)であり、凝乳酵素であるキモシンはC/P比が高いことが重要であることが理解される。 ここで、キモシンのような酵素ポリペプチドのアミノ酸配列に1~数個のアミノ酸置換変異を導入した変異体を作成し、スクリーニングを行って酵素活性が向上した変異体を得ることは、引用例2、文献3~5(それぞれ特許請求の範囲等)に記載されるように本願優先日当時の周知技術であるから、引用発明のラクダキモシン(親ポリペプチド)の任意のアミノ酸残基に1~数個のアミノ酸置換変異を導入した変異体を作成し、スクリーニングを行ってC/P比が高い変異体を選択することは当業者が容易になし得ることであり、そのようなラクダキモシン変異体を単離することも当業者が適宜なし得ることである。 (相違点2)について まず、引用発明のラクダキモシンがキモシン活性を有していることは引用例1の記載(1-ア)から明らかである。また、本願発明の(i)のようなアミノ酸位置を決定するための手段の特定は、親ポリペプチドや変異体という物を実質的に限定するものとはいえない。 そして、引用発明のラクダキモシンの任意のアミノ酸残基に1~数個のアミノ酸置換変異を導入する場合、変異が導入されるアミノ酸残基には117位のD(Asp)残基も含まれるから、作成された変異体はアミノ酸位置117に変異を有するものも含み、かつ、該変異体は1~数個の変異を含むから、親ポリペプチドに対して100%未満の配列同一性となるといえる。そして、本願明細書の【表2】の記載からみて、アミノ酸置換変異が導入された種々の変異体の中には、親ポリペプチドと比較してC/P比が向上した変異体だけでなく、C/P比があまり変化しない変異体、C/P比が低下した変異体が存在することが推認されるが、上記したとおり、スクリーニングを行って親ポリペプチドよりもC/P比が向上した変異体を選択することは当業者が容易になし得ることであり、そのようにして選択された変異体の中にアミノ酸位置117に変異が導入されたものも含まれている蓋然性が高いといえる。 そうすると、相違点2も当業者が容易になし得ることである。 そして、本願発明において、引用例1、2の記載から予測できない効果が奏されたとは認められない。 したがって、本願発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.審判請求人の主張について 審判請求人は意見書において、次の点を主張している。 「本願発明の顕著な貢献は、ラクダキモシンの改善されたバリアントを作製するために非常に有用な位置として位置117を同定したことであり、実施例において例示したD117N置換以外の位置117の関連する他の変異が、同様に改善されたバリアント(即ちより高いC/P比を有する)をもたらす蓋然性も十分に高いものです。斯かる位置117における変異は、引用文献1~5において何ら開示も示唆もされておらず、従って、これらの文献に基づいて、当業者は、本願ラクダキモシン変異体において特定されている位置117の変異がラクダキモシンの機能改善変異体(即ちより高い改善されたC/P比を有する)を作製するのに有用であることを容易に想到することは出来ません。」 上記第3の2.で検討したとおり、本願明細書の【表2】には、D117N置換を含む変異体として、親ポリペプチドよりも『合計点』において優れるもの(G04-1)だけでなく、劣るもの(H07-2、E05-2、B12-1、E06-2)も示されている。一方で、【表2】にはD117Nを含まず、他のアミノ酸位置に置換を含む変異体であって、『合計点』において親ポリペプチドより優れるものが多数示されている。 そうすると、本願明細書の記載をみても、D117Nを含む変異体でありさえすればより高いC/P比をもたらすキモシン活性を有する変異体であるとはいえない。すなわち、本願明細書に「ラクダキモシンの改善されたバリアントを作製するために非常に有用な位置として位置117を同定したこと」、「本願ラクダキモシン変異体において特定されている位置117の変異がラクダキモシンの機能改善変異体(即ちより高い改善されたC/P比を有する)を作製するのに有用であること」などが示されているとはいえない。 また、「G04-1」変異体はD117Nだけでなく、Y79S、I321Lのアミノ酸置換も含んでいる。ポリペプチドのアミノ酸配列へのアミノ酸置換は、該ポリペプチドの立体構造に影響を与えること、酵素の活性は該酵素の立体構造に影響を受けることが技術常識であるから、D117N以外のアミノ酸置換を含む「G04-1」変異体の持つ向上したキモシン活性が「D117N」の置換のみに起因するとは認められない。 むしろ、「D117N」置換を含んでいても『合計点』において劣る変異体(H07-2、E05-2、B12-1、E06-2)が存在することを考慮すると、キモシン活性の向上が「D117N」置換に起因することには疑義がある。なお、【表3】には「D117N」置換が「++」というプラスの効果を与えるアミノ酸置換であることが示され、段落【0202】~【0203】には「D117N」を含むいくつかの置換が「ラクダキモシンに存在する以下の突然変異がプラスであること(即ちラクダ野生型キモシンと比べてC/P比が改善されていること)がわかった。」と記載されているが、各変異体のデータの具体的な解析方法などは明らかにされておらず、「プラスの効果」なるものを与えるとする根拠が本願明細書の記載から十分に明らかであるとはいえない。 さらに、仮に「G04-1」変異体が示す向上したキモシン活性が「D117N」置換によるものであったとしても、上記技術常識を考慮すると、「D117」のアミノ酸残基に対して欠失、挿入の変異を導入した場合に、「D117N」置換と同様の活性を与える変異体となるとは認められない。また、「D117」におけるNとは大きく分子構造が異なるアミノ酸による置換が「D117N」置換と同様の活性を与える変異体となるとも認められない。 したがって、「実施例において例示したD117N置換以外の位置117の関連する他の変異が、同様に改善されたバリアント(即ちより高いC/P比を有する)をもたらす蓋然性も十分に高い」などとはいえず、審判請求人の主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおり、この出願は特許請求の範囲の請求項5の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願の請求項5に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2018-007850

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