特許拒絶査定不服審判
2018-001030
光学用スチレン系樹脂組成物
- 審判番号
- 2018-001030
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-213108外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年01月25日
- 審決日
- 2018年07月18日
- 公報発行日
- 2018年10月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】東洋スチレン株式会社
- 【請求人代理人】SK特許業務法人
- 分類
- P18 .4 -WZ (C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法39条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第39条第2項、特許法第39条、特許法第44条第1項、特許法第162条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-213108「光学用スチレン系樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月30日出願公開、特開2017- 61697〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成24年12月19日に出願した特願2013-550305号(優先権主張 2011年12月20日(4件)、2012年2月17日、2012年7月13日(2件)、いずれも日本国)の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成28年10月31日に新たな特許出願としたものであって、同年11月28日に手続補正書及び上申書が提出され、平成29年6月23日付けで拒絶理由が通知され、同年8月25日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年10月27日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成30年1月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに特許請求の範囲の記載に係る手続補正書が提出され、特許法第162条所定の審査がされた結果、同年3月12日付けで同法第164条第3項所定の報告がされ、同年4月4日に上申書が提出され、当審において同年4月4日付けの拒絶理由が通知され、同年5月22日に意見書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成30年1月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
重量平均分子量が15万~70万のスチレン系樹脂と親水性添加剤を含有するスチレン系樹脂組成物であって、前記親水性添加剤は、エチレンオキサイドの平均付加モル数が12~150であるポリオキシエチレン型界面活性剤であるか、又は前記ポリオキシエチレン型界面活性剤と平均分子量200~10000のポリエチレングリコールの両方であり、HLB値が5~18であり、且つ前記スチレン系樹脂組成物100質量%中の含有量が0.4~2.0質量%であることを特徴とする光学用スチレン系樹脂組成物。」
第3 当審からの拒絶理由の概要
当審からの拒絶理由の概要は、要するに、本願発明は、同一出願人が同日出願した特願2016-213107号に係る発明と同一と認められ、かつ、下記の出願に係る発明は特許されており(特許第6248169号)、協議を行うことができないから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由(以下、理由1という。)を含むものである
第4 当審の判断
1 理由1(特許法第39条第2項について)
(1)同一出願人が本願と同日にしたとみなされる出願
特願2016-231107号(以下、「同日出願」という。)
(2)同日出願の特許請求の範囲に記載の事項
同日出願の特許公報である特許第6248169号公報の特許請求の範囲の請求項1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
重量平均分子量が15万~70万のスチレン系樹脂と親水性添加剤を含有するスチレン系樹脂組成物であって、前記親水性添加剤は、エチレンオキサイドの平均付加モル数が10~150であるポリオキシエチレン型界面活性剤であるか、又は前記ポリオキシエチレン型界面活性剤と平均分子量200~10000のポリエチレングリコールの両方であり、HLB値が5~20であり、且つ前記スチレン系樹脂組成物100質量%中の含有量が0.6~0.9質量%であることを特徴とする光学用スチレン系樹脂組成物。」
(以下、同日出願の請求項1に記載された事項により特定される発明を、「同日出願発明」という。)
(3)本願発明と同日出願発明との対比
本願発明と同日出願発明を対比すると、
「重量平均分子量が15万~70万のスチレン系樹脂と親水性添加剤を含有するスチレン系樹脂組成物であって、前記親水性添加剤は、エチレンオキサイドの平均付加モル数が12~150であるポリオキシエチレン型界面活性剤であるか、又は前記ポリオキシエチレン型界面活性剤と平均分子量200~10000のポリエチレングリコールの両方であり、HLB値が5~18であり、且つ前記スチレン系樹脂組成物100質量%中の含有量が0.6~0.9質量%であることを特徴とする光学用スチレン系樹脂組成物。」
との点で一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点1>
ポリオキシエチレン型界面活性剤のエチレンオキサイドの平均付加モル数について、本願発明では、下限を「12」と特定するのに対し、同日出願発明では、下限を「10」と特定する点。
<相違点2>
親水性添加剤のHLB値について、本願発明では、上限を「18」と特定するのに対し、同日出願発明では、上限を「20」と特定する点。
<相違点3>
親水性添加剤のスチレン系樹脂組成物100質量%中の含有量について、本願発明では、下限を「0.4」質量%、上限を「2.0質量%」と特定するのに対し、同日出願発明では、下限を「0.6」質量%、上限を「0.9質量%」と特定する点。
(4)判断
ア 相違点1について検討する。
(ア)まず、本願発明と同日出願発明は、下限が「12」、かつ、上限が「150」の数値範囲において重複一致していて、同日出願発明が本願発明を包含する関係になっている。
(イ)次に、ポリオキシエチレン型界面活性剤のエチレンオキサイドの平均付加モル数について、本願明細書には以下のとおり記載されている。
「【0034】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルはアルコールにエチレンオキサイドを付加させて作られ、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルは脂肪酸にエチレンオキサイドを付加させるか脂肪酸とポリエチレングリコールを直接エステル化させて作られ、エチレンオキサイドの平均付加モル数は3~150である。白化現象の抑制効果を高めるには、平均付加モル数がこのような特定の範囲内であることが必須であることが実験的に見出されたからである。平均付加モル数は、好ましくは7~100であり、さらに好ましくは10~60であり、さらに好ましくは10~50であり、さらに好ましくは13~35である。」
また、同日出願の明細書の段落【0034】においても全く同じ記載がなされている。
以上の記載から、本願発明におけるポリオキシエチレン型界面活性剤のエチレンオキサイドの平均付加モル数と同日出願発明におけるポリオキシエチレン型界面活性剤のエチレンオキサイドの平均付加モル数とは、同一の技術的な意義を有するものである。
そうすると、ポリオキシエチレン型界面活性剤のエチレンオキサイドの平均付加モル数の下限を10とするか12とするかに、特段の技術的意義を見いだすことはできない。
(ウ)次に本願と同日出願の明細書に記載された実施例を比較検討する。
本願明細書には以下の事項が記載されている。
「【0055】
(実施例1-1~1-33、比較例1-1~1-9)
表2に示す含有量にて、スチレン系樹脂A-1~A-3と添加剤をスクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬してペレットを得た。表2で用いた添加剤を次に示す。
B-1:ポリオキシエチレンエチレンラウリルエーテル エチレンオキサイド平均付加モル数=25(花王株式会社製エマルゲン123P)
B-2:ポリオキシエチレンエチレンステアリルエーテル エチレンオキサイド平均付加モル数=12(花王株式会社製エマルゲン320P)
B-3:ポリオキシエチレンエチレンラウリルエーテル エチレンオキサイド平均付加モル数=9(花王株式会社製エマルゲン109P)
B-4:ポリオキシエチレンエチレンセチルエーテル エチレンオキサイド平均付加モル数=7(花王株式会社製エマルゲン210P)
B-5:ポリオキシエチレンエチレンラウリルエーテル エチレンオキサイド平均付加モル数=30(花王株式会社製エマルゲン130K)
B-6:ポリオキシエチレンエチレンラウリルエーテル エチレンオキサイド平均付加モル数=47(花王株式会社製エマルゲン150)
B-7:ポリオキシエチレンエチレンミリスチルエーテル エチレンオキサイド平均付加モル数=85(花王株式会社製エマルゲン4085)
B-8:ポリエチレングリコールモノラウレート エチレンオキサイド平均付加モル数=12(花王株式会社製エマノーン1112)
B-9:ポリオキシエチレンエチレンステアリルエーテル エチレンオキサイド平均付加モル数=6(花王株式会社製エマルゲン306P)
B-10:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(花王株式会社製エマノーンCH-40)
B-11:平均分子量が400のポリエチレングリコール(日油株式会社製PEG#400)
B-12:平均分子量が300のポリエチレングリコール(日油株式会社製PEG#300)
B-13:平均分子量が600のポリエチレングリコール(日油株式会社製PEG#600)
B-14:平均分子量が1000のポリエチレングリコール(日油株式会社製PEG#1000)
B-15:平均分子量が2000のポリエチレングリコール(日油株式会社製PEG#2000)
B-16:平均分子量が3100のポリエチレングリコール(日油株式会社製PEG#4000)
B-17:平均分子量が8800のポリエチレングリコール(日油株式会社製PEG#6000)
B-18:ポリオキシエチレンモノメチルエーテル(日油株式会社製ユニオックスM-550)
B-19:ポリオキシエチレントリイソステアリン酸(日油株式会社製ユニオックスGT-20IS)
B-20:ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル(花王株式会社製エマルゲン2025G)
B-21:ポリオキシエチレングリセリルエーテル(日油株式会社製ユニオックスG-750)
B-22:ポリオキシエチレンテトラオレイン酸(日油株式会社製ユニオックスST-30E)
B-23:ステアリルアルコール(花王株式会社製カルコール8098)
B-24:ステアリン酸モノグリセライド(花王株式会社製エキセルS-95)
B-25:平均分子量が60000のポリエチレングリコール(明成化学工業株式会社製アルコックスL-6)
B-26:平均分子量が500のポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製ポリグリセリン#500)
【0056】
得られたペレットを用いて、シリンダー温度230℃、金型温度50℃にて射出成形を行い、127×127×3mm厚みの板状成形品を成形した。
また、実施例1-33は、スチレン系樹脂A-1と添加剤B-1をスクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬し、添加剤B-1の濃度20質量%のペレットを一度得た後、このペレットとスチレン系樹脂A-1を1:24の比率となるように混合し、射出成形して得られた成形品である。
【0057】
<MFR>
スチレン系樹脂組成物のMFR(メルトマスフローレイト)は、200℃、49N荷重の条件で、JIS K 7210に基づき測定した。
【0058】
<初期の色相評価>
得られた板状成形品から115×85×3mm厚みの試験片を切り出し、端面をバフ研磨によって研磨し、端面に鏡面を有する板状成形品を得た。得られた板状成形品について、日本分光株式会社製の紫外線可視分光光度計V-670を用いて、大きさ20×1.6mm、広がり角度0°の入射光において、光路長115mmでの波長350nm~800nmの分光透過率を測定し、C光源における、視野2°でのYI値をJIS K7105に倣い算出した。得られた値が表2の「YI 115mm」である。また、表2に示す「透過率 115mm」とは、波長380nm~780nmの平均透過率を表す。
さらに、表2の「ヘーズ 4mm」は、上記工程で得られたペレットを用いて、シリンダー温度220℃、金型温度40℃にて射出成形を行い、55×50×4mm厚みの板状成形品を成形して得られた試験片を使用し、NDH5000(日本電色工業株式会社製)を用い、JIS K-7105に準拠し測定を行って得られた値であり、表2の「YI 4mm」は、この試験片を使用して、測色色差計NDJ4000(日本電色工業株式会社製)を用い、反射法にて測定を行って得られた値である。
【0059】
<白化抑制効果>
さらに、環境変化による白化現象を確認するため、端面に鏡面を有する板状成形品を60℃、90%相対湿度の環境に150時間暴露し、23℃、50%相対湿度の環境に試験片を取出し、成形品内部に発生する白化現象を観察し、白化抑制効果として下記の通り判定を行った。
◎:全く白化が発生しない
○:取出し1時間後にやや白化するが、24時間後には消失する
△:取出し1時間後に白化するが、24時間後にはほとんど消失する
×:取出し1時間後に著しく白化し、24時間経っても消失しない
【0060】
<ビカット軟化温度>
ビカット軟化温度については、JIS K-7206により、昇温速度50℃/hr、試験荷重50Nで求めた
【0061】
<総合評価>
以下の基準に従って、総合評価を行った。
S:白化抑制効果が◎であり且つビカット軟化温度が100℃以上
A:Sの条件を充足せず、白化抑制効果が◎であり且つビカット軟化温度が98℃以上、又は白化抑制効果が○であり且つビカット軟化温度が100℃以上
B:Aの条件を充足せず、白化抑制効果が◎であり且つビカット軟化温度が95℃以上、又は白化抑制効果が○であり且つビカット軟化温度が98℃以上、又は白化抑制効果が△であり且つビカット軟化温度が100℃以上
C:上記何れの条件も充足しないもの
【0062】
表2に各樹脂組成物の特性及び評価結果を示す。
【0063】
【表2】
【0064】
実施例の成形品は、白化抑制効果に優れ、透過率とYI値の悪化もなく透明性と色相にも優れていた。親水性添加剤を添加していないか又は添加量が少なすぎる比較例1-1、1-2、1-4では白化現状の抑制が不十分であった。親水性添加剤が過剰に添加された比較例1-3及び1-5では、耐熱性が過度に低下してしまった。また、比較例1-6及び1-7では、それぞれ、親水性添加剤であるステアリルアルコール、ステアリン酸モノグリセライドを添加して試験を行ったが、白化抑制効果が不十分であった。さらに、比較例1-8及び1-9では、分子量が大きいポリエチレングリコール、ポリグリセリンを添加して試験を行ったが、親水性添加剤がスチレン系樹脂と相溶せず、成形品が白濁した。
以上の結果から、(1)親水性添加剤が特性の構成を有するものであり、(2)そのHLB値が特定の範囲内の値であり、且つ(3)その含有量が特定の範囲の量であるという3条件を充足することが、スチレン系樹脂組成物の耐熱性、透明性を維持しつつ白化現象を抑制するには必須であることが分かった。実施例1-20~1-21を参照すると、スチレン系樹脂が、スチレン系単量体と、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体である場合にも同様の結果が得られることが分かった。」
また、同日出願の明細書の段落【0055】ないし【0064】においても全く同じ記載がなされている。
そこで、本願発明の範囲内の表2の実施例を参照すると、
実施例1-2の白化抑制効果は◎であり、総合評価はSである。
実施例1-6、1-9、1-10、1-12の白化抑制効果は◎であり、総合評価は、Aである。
実施例1-14及び1-16の白化抑制効果は○であり、総合評価はAである。
実施例1-17ないし1-19の白化抑制効果は◎であり、総合評価はSである。
実施例1-20の白化抑制効果は◎であり、総合評価はSである。
実施例1-21の白化抑制効果は◎であり、総合評価はAである。
実施例1-33の白化抑制効果は◎であり、総合評価はSである。
一方、同日出願発明の範囲内の表2の実施例を参照すると、
実施例1-2の白化抑制効果は、◎であり、総合評価はSである。
実施例1-14及び1-16の白化抑制効果は○であり、総合評価はAである。
実施例1-17ないし1-19の白化抑制効果は◎であり、総合評価はSである。
実施例1-33の白化抑制効果は◎であり、総合評価はSである。
してみれば、両者の実施例を比較して白化抑制効果、総合評価を考慮しても、本願発明の効果が、同日出願発明の効果に比べて、定性的にも定量的にも顕著に異なるということはできない。
しかも、本願発明と同日出願発明の実施例1-2、1-14、1-16ないし1-19及び1-33(以下、「実施例1-2等」という。)は、共通の実施例であり、共通の技術思想のものであるから、相違点1は同一の技術思想に基づく発明についての請求項における単なる発明表現上の差異というほかなく、本願発明と同日出願発明とは技術思想として異なるものということはできない。
そうすると、相違点1は、実質上の相違点とはいえない。
イ 相違点2について検討する。
(ア)まず、本願発明と同日出願発明は、下限が「5」、かつ、上限が「18」の数値範囲において重複一致していて、同日出願発明が本願発明を包含する関係になっている。
(イ)次に、親水性添加剤のHLB値について、本願明細書には以下のとおり記載されている。
「【0027】
また、親水性添加剤のHLB値は、5~20である。白化現象の抑制効果を高めるには、このような特定のHLB値を有する親水性添加剤を用いることが必須であることが実験的に見出されたからである。HLB値は、好ましくは8~20であり、より好ましくは10~20であり、より好ましくは10~18である。HLB(Hydrophilic-lipophilic blance)値は、添加剤の親水性を表す値であり、HLB値が8~10では水中に安定に分散し、10を超えると透明感のある分散状態から透明に完全溶解する状態となる。ポリエーテル鎖を有する非イオン性界面活性剤では、HLB値=(親水基部分の分子量)/(添加剤の分子量)×20で計算され、親水基を含まないパラフィンのようなものはHLB値=0で、親水基のみのポリエチレングリコールではHLB値=20となり、非イオン性界面活性剤ではHLB値は0~20の間となる。」
また、同日出願の明細書の段落【0027】においても全く同じ記載がなされている。
以上の記載から、本願発明における親水性添加剤のHLB値と同日出願発明における親水性添加剤のHLB値は、同一の技術的な意義を有するものである。
そうすると、親水性添加剤のHLB値の上限を18とするか20とするかに、特段の技術的意義を見いだすことはできない。
(ウ)上記アの(ウ)と同様に、本願発明と同日出願発明の実施例を比較して白化抑制効果、総合評価を考慮しても、本願発明の効果が、同日出願発明の効果に比べて、定性的にも定量的にも顕著に異なるということはできない。
しかも、本願発明と同日出願発明の実施例1-2等は、共通の実施例であり、共通の技術思想のものであるから、相違点2は同一の技術思想に基づく発明についての請求項における単なる発明表現上の差異というほかなく、本願発明と同日出願発明とは技術思想として異なるものということはできない。
そうすると、相違点2は、実質上の相違点とはいえない。
ウ 相違点3について検討する。
(ア)まず、本願発明と同日出願発明は、下限が「0.6」かつ、上限が「0.9」の数値範囲において重複一致していて、本願発明が同日出願発明を包含する関係になっている。
(イ)次に、親水性添加剤のスチレン系樹脂組成物100質量%中の含有量について、本願明細書には以下のとおり記載されている。
「【0028】
親水性添加剤は、スチレン系樹脂組成物100質量%中の含有量が0.4~2.0質量%となるように添加する。スチレン系樹脂組成物の耐熱性を維持しつつ白化現象の抑制効果を高めるには、このような含有量になるように添加することが必須であることが実験的に見出されたからである。スチレン系樹脂組成物100質量%中の親水性添加剤の含有量は、好ましくは、0.7~1.6質量%又は0.6~1.4質量%であり、さらに好ましくは0.6~0.9質量%である。」
また、同日出願の明細書の段落【0028】においても全く同じ記載がなされている。
以上の記載から、本願発明における親水性添加剤のスチレン系樹脂組成物100質量%中の含有量と同日出願発明における親水性添加剤のスチレン系樹脂組成物100質量%中の含有量は、同一の技術的な意義を有するものである。
そうすると、親水性添加剤のスチレン系樹脂組成物100質量%中の含有量の下限を0.4とするか0.6とするかに、特段の技術的意義を見いだすことはできないし、親水性添加剤のスチレン系樹脂組成物100質量%中の含有量の上限を2.0とするか、0.9とするかについても、特段の技術的意義を見いだすことはできない
(ウ)上記アの(ウ)と同様に、本願発明と同日出願発明の実施例を比較して白化抑制効果、総合評価を考慮しても、本願発明の効果が、同日出願発明の効果に比べて、定性的にも定量的にも顕著に異なるということはできない。
しかも、本願発明と同日出願発明の実施例1-2等は、共通の実施例であり、共通の技術思想のものであるから、相違点3は同一の技術思想に基づく発明についての請求項における単なる発明表現上の差異というしかなく、本願発明と同日出願発明とは技術思想として異なるものということはできない。
そうすると、相違点3は、実質上の相違点とはいえない。
エ なお、付言するに、特許法第39条の趣旨は、重複特許(ダブルパテント)の排除であるところ、本願発明と同日出願発明とは、ポリオキシエチレン型界面活性剤のエチレンオキサイドの平均付加モル数、親水性添加剤のHLB値、親水性添加剤のスチレン系樹脂組成物100質量%中の含有量の数値範囲において、大部分で重複するものであり、かつ、両発明は技術思想としても相違するところがなく、上記相違点に係る数値範囲の差異により、別個の又は選択的な技術思想が生じるものでもないから、これを同一発明としないことは、上記趣旨を没却することになると解するのが相当である。
よって、特許法第39条の趣旨からも、本願発明と同日出願発明は、同一であるというべきである。
2 小括
したがって、本願発明は同日出願発明と同一である。
そして、同日出願は、本願の原出願である特願2013-550305号の明細書に記載された発明について分割出願としたものであるから、本願と同日出願の出願日は同一である。
また、同日出願に係る発明は特許されており、協議を行うことができない。
以上のことから、本願発明は、同日出願発明と同一であるから、特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができない。
第5 請求人の主張の検討
請求人は、平成30年5月22日提出の意見書において
「構成a~bについては、本願請求項1が出願1の請求項1の下位概念であり、構成cについては、出願1の請求項1が本願請求項1の下位概念です。このため、発明全体でみると、出願1の請求項1と本願請求項1のどちらも上位概念とはなりません。
」と主張している(以下、「主張1」という。)。
しかし、数値範囲を構成要件とする発明について、単に請求項に記載された数値範囲の大小をもって、上位概念、下位概念の関係にあると解することは適切ではなく、発明の詳細な説明、特に具体的な開示との関係でその重複について検討すべきである。
そして、本願発明と同日出願発明との関係を精査するに、両発明の構成aないしcの各数値範囲についての相違は、共通の実施例に基づく発明についての単なる請求項における発明表現上の差異というほかなく、このような両発明をもって上位概念、下位概念の関係にあるということはできない。
したがって、請求人の上記主張1は採用できない。
さらに、請求人は、
「また、大部分の改良発明は、先願と一致点が存在していますが、上記の認定方法によれば、改良発明が成立するケースがほとんどなくなってしまいます。」と主張している(以下、「主張2」という。)。
しかしながら、請求人は、本願発明が、同日出願発明と比べ、如何なる点において「改良」された発明であるのか、本願明細書の具体的な開示に基づいて説明していない。
さらに、本願発明が、同日出願発明とは異なる課題を解決したものということはできず、本願発明と同日出願発明の実施例を比較しても、本願発明の効果が、同日出願発明の効果に比べて、定性的にも定量的にも顕著に異なるということもできないし、本願発明と同日出願発明は、共通の実施例を有するものであって、共通の技術思想のものであるから、本願発明が同日出願発明との比較において「改良」されたということができない。
したがって、請求人の上記主張2は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件拒絶理由は妥当なものであり、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は、この理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2018-001030