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特許異議申立

2017-701011

水分散型粘着剤組成物およびその製造方法

審判番号
2017-701011
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2013-137494外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年10月24日
審決日
2018年03月08日
公報発行日
2018年04月27日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1652.121-Y (C09J)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6121266号発明「水分散型粘着剤組成物およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6121266号の請求項1ないし3及び9に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 1.手続の経緯 特許第6121266号の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成25年6月28日に特許出願され、平成29年4月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年10月24日に特許異議申立人末吉直子(以下、単に「申立人」ということもある。)により、請求項1~3、9について特許異議の申立てがされ、当審において平成29年12月22日付けで取消理由を通知し、平成30年2月26日付けで意見書が提出されたものである。 2.本件発明(以下、項番号に対応して、「本件発明1」などという。) 「【請求項1】 水性溶媒、乳化剤およびポリマー粒子を含む水分散型粘着剤組成物であって、 前記ポリマー粒子は前記水性溶媒に分散しており、 前記ポリマー粒子は、コアおよびシェルの少なくとも一方にアクリル系ポリマーを含有するコアシェル構造の粒子を含み、 前記コアシェル構造の粒子は、前記コアを構成するポリマーPcoreのガラス転移温度Tcoreが前記シェルを構成するポリマーPshellのガラス転移温度Tshellよりも150℃以上高く、 前記ガラス転移温度Tshellは、-75℃以上であって、かつ-55℃より低く、 前記粘着剤組成物の乳化剤含有量は前記ポリマー粒子100質量部に対して3.5質量部未満であり、かつ 前記粘着剤組成物についてレーザ回折・散乱法により測定される平均粒子径が0.3μm未満である、水分散型粘着剤組成物。 【請求項2】 前記ガラス転移温度Tcoreが90℃以上である、請求項1に記載の水分散型粘着剤組成物。 【請求項3】 前記粘着剤組成物から形成される粘着剤のゲル分率が70質量%以上である、請求項1または2に記載の水分散型粘着剤組成物。 【請求項4】 前記ポリマーPcoreのSP値(SPcore)と前記ポリマーPshellのSP値(SPshell)との関係が、以下の式: -0.35 <(SPcore-SPshell)<-0.05; を満たす、請求項1から3のいずれか一項に記載の水分散型粘着剤組成物。 【請求項5】 請求項1から4のいずれか一項に記載の水分散型粘着剤組成物の製造方法であって: 第1モノマー原料を重合してなるシード粒子、乳化剤および水性溶媒を含む第1分散液を用意する第1ステップ;および 前記第1分散液に第2モノマー原料を加えて重合させることにより前記水性溶媒に前記ポリマー粒子が分散した第2分散液を得る第2ステップ; を包含し、 ここで、前記第1モノマー原料および前記第2モノマー原料の少なくとも一方はアクリル系モノマーを含み、 前記第2ステップでは、前記第2モノマー原料を、実質的に乳化剤を含まないモノマー混合物の形態で前記第1分散液に加え、 前記第2分散液の乳化剤含有量は前記ポリマー粒子100質量部に対して3.5質量部未満であり、 前記第2分散液についてレーザ回折・散乱法により測定される平均粒子径が0.3μm未満である、水分散型粘着剤組成物の製造方法。 【請求項6】 前記第2モノマー原料として、該第2モノマー原料の重合物のSP値(SP2)が前記シード粒子を構成するポリマーのSP値(SP1)よりも高いものを使用する、請求項5に記載の製造方法。 【請求項7】 前記第1モノマー原料の質量M1に対する前記第2モノマー原料の質量M2の比(M2/M1)が60/40より大きい、請求項5または6に記載の製造方法。 【請求項8】 前記第1分散液を用意することは、前記第1モノマー原料と前記乳化剤と水性溶媒との混合物をエマルション化してなるモノマーエマルションをエマルション重合に付して前記シード粒子を形成することを含む、請求項5から7のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項9】 請求項1から4のいずれか一項に記載の水分散型粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える、粘着シート。」 3.取消理由の概要 当審において、請求項1~3及び9に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)引用例1(特開昭58-103504号公報(甲第1号証。以下、甲各号証は、番号に対応して、「甲1」などという。))、引用例2(Peter A. Lovell, Mohamed S. El-Aasser,Emu1sion Po1ymerization and Emulsion Polymers, JOHN WILEY AND SONS, 1997、627頁(甲2))、引用例3(特開2009-203351号公報(甲3))、引用例4(特開2008-266415号公報(甲4))、引用例5(特開2005-248059号公報(甲5))、引用例6(日本工業規格「粒子径解析-レーザー回折法- 第1部:測定原理(JIS Z 8825-1:2001(ISO 13320-1:1999))」、平成13年 4月20日制定、財団法人日本規格協会、平成13年6月30日(甲6))、及び、引用例7(特開2012-236980号公報(甲7))により、請求項1~3及び9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 4.引用例の記載 (1)引用例1 引用例1には、「乳化重合方法および生成物」(発明の名称)について、次の記載がある(表の書式は、厳密には原文と一致していないものもある。) 1a.「1)高Tg樹脂性重合体の内側相またはコア相、および前記コア相と共に不可欠の構成要素である重合体の外側相またはシエル相を有する乳化した粒子から成る水性の、安定な重合体ラテツクスを製造するための乳化重合方法において、該方法が、1種またはそれ以上の高Tg樹脂を形成するモノオレフイン性単量体のエマルジヨン形態の重合体であるコア相粒子の分散体を50~85℃の温度で、少なくとも60%アクリレート単量体から成る、付加重合しうる、シエル相を形成する単量体組成物と、有効量の重合触媒および安定剤としての乳化剤の存在下で接触させて、40~60%の固体含量を有するラテツクスを生成させることから成り、前記単量体組成物とコア相粒子との重量比が約3:1~10:1であり、2~8のpHが該方法の初めから終わりまで維持されることを特徴とする上記方法。」(1頁左下欄5行~右下欄1行(特許請求の範囲)) 1b.「16)前項1)~15)の内のいずれか1項記載の方法によつて作られるラテツクス。」(2頁左下欄5~6行(特許請求の範囲)) 1c.「17)前項16)記載のラテツクスまたはそれで被覆されたベースから成る接着物品。」(2頁左下欄7~8行(特許請求の範囲)) 1d.「重合体モジュラス特性の増大は、しばしばその本質的な粘着および接着特性を犠牲にして、時には補助的な粘着付与剤の使用をリセシテイト(recessitate)している。しかしながら、そのような材料の使用によつて、ラテツクス不安定化、本質的なモジユラス特性の減少またはエージング特性の変化が引き起こされ、例えば紫外線(UV)安定性は大きく自己破壊される。一般に、モジユラスを高める単量体、例えば1種またはそれ以上のメチルメタクリレート、スチレン、アクリロニトリル、およびメチルアクリレートはラテツクスを形成する単量体系に包含され、例えば共重合できるアクリレートから成り、かつこのようにしてアクリレート重合体連鎖に導入されてゆく。そのような目的のために使用されるメチルメタクリレートまたは他のTg樹脂を形成する単量体の量は、ラテツクス生成物の非粘着化を避けるか又は最小にするために通常かつ必然的に非常に少ない。 したがつて、本発明の目的は、上述の欠点を除くか又は少なくとも実質的に減少させて、良好な安定性、接着性およびモジユラス特性を有する生成物を与える、ラテツクス製造のための乳化重合方法を提供することにある。」(2頁右下欄5行~3頁左上欄8行) 1e.「(D)で安定化した系はスマクナ(SMACNA)およびトランスフアーテープの製造に使用するのに特に適しているのが分つた。」(12頁左上欄10~12行) 1f.「例9~18 コア粒子は次の組成物を重合することにより得られる。 (a) 部 スチレン                15 H2O                 65.15 Aerosol 501          0.15 TBHP-90               0.027 Fe(NH4)2(SO4)2・6H2O  0.000204 SFS                  0.02 重合温度は60~65℃に維持され、pHはNH4OHで4~4.5に調整される。 シエル相組成物は次のように調製される。 (b) 部 2-EHA               80) EA                  16) MA                  1.9) AA                  2.0) IBMA                0.1)単量体プレ H2O                36.125)-エマルジ Aerosol 501         1.125)ヨン TBHP-90             0.182) Fe(NH4)2(SO4)2・6H2O     0.00136) SFS                 0.12   )還元体溶液 H2O                  15     ) シエル相の重合は(a)に単量体、安定剤、および触媒(酸化体)を水性エマルジヨンの形で添加すること(還元体は別に添加される。)により行われる。反応集合体成分の温度は65℃~70℃に維持される。」(12頁右上欄2行~左下欄末行) 1g.「 」(13頁上欄) 1h.「 」(14頁上欄) 1i.「エアロゾル(Aerosol)501を用いて作られた重合体はスマクナ(SMACNA)明細事項に合格することが分つた。…。例11(シエル相中の界面活性剤1.125部)は、たとえ被覆物の厚さがわずか0.7ミルであることが分つても、すべてのせん断および接着スマクナ明細事項に合格することが見い出された。」(14頁左下欄1~10行) 1j.「すべての重合体系は実験誤差の範囲内で本質的に同一のゲル膨潤指数を有することが分つた(ゲル65~75%、およびトルエン中で24時間の接触時間で測定したとき膨潤指数30~45)。さらに、種々のラテツクスの粒子寸法(DW)は本質的に等しく、3000~3500Åであることが分つた。」(18頁右下欄1~7行) (2)引用例2 引用例2には、次の記載がある(原文は省略。訳は、甲2に添付されたもの。)。 2a.「Tgと共重合体組成の間の関係を記述するためにいくつかの数式が提案されてきた。おそらくもっともよく知られたものは、フォックス式[28]である: 1/Tg=w1/Tg1+w2/Tg2+… ここで、w1、w2、などは成分モノマーの重量分率であり、Tg1、Tg2は対応するホモポリマーのTgである。」(627頁11~16行) (3)引用例3 引用例3には、「粘着シート」(発明の名称)について、次の記載がある。 3a.「本発明の粘着シートにおける(A)成分であるエマルジョン組成物中の共重合体からなるエマルジョン粒子の平均粒子径は、100~500nm程度、好ましくは100~300nmである。平均粒子径が上記範囲内であると乳化重合安定性、得られるエマルジョンの保存安定性、機械安定性、さらには乾燥後の粘着剤皮膜の物性バランス、すなわち基材への密着性、被着体への濡れ性、耐水性、凝集力、透明性のバランスに優れた粘着剤が得られる。 平均粒子径が100nm以上であると、安定なエマルジョン粒子が得られ、乳化剤の使用量が多くなるのを防止することができる。平均粒子径が500nm以下であると、基材に対する密着性や得られる粘着剤層の透明性、耐水性が確保される。エマルジョン粒子の平均粒子径は重合時に添加する乳化剤の種類や濃度、重合開始剤濃度等でコントロールすることができる。 ここで、エマルジョン粒子の平均粒子径とは、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置により測定して得られる体積基準のメジアン径の数値に基づくものである。」(【0021】) 3b 「本発明の粘着シートにおける粘着剤層のゲル分率は、特に限定されないが、好ましくは30~90%である。ゲル分率が30%を下回ると粘着剤の凝集力、耐水性が損なわれ、90%を超えると基材への密着性、被着体への濡れ性が損なわれる。なお、粘着剤層のゲル分率とは粘着剤層の溶剤不溶解分の割合のことであり、90℃で1分間乾燥した粘着剤層を、テトラヒドロフランに23℃で72時間浸漬し乾燥したときの、浸漬前の粘着剤層質量に対する浸漬後の残存粘着剤層質量の割合(%)として求められる。」(【0032】) 3c.「 」(【0050】【表1】) (4)引用例4 引用例4には、「再剥離性粘着シート」(発明の名称)について、次の記載がある。 4a.「本発明の粘着シートにおける水分散型粘着剤組成物中のエマルジョン粒子の平均粒子径は、100~350nm、好ましくは120~330nmである。 平均粒子径が上記範囲内であると、得られる粘着剤の物性バランス、すなわち粘着物性や再剥離性、更に耐水性等のバランスに優れた粘着剤が得られる。 平均粒子径が100nm未満であると、安定なエマルジョン粒子が得られにく、界面活性剤剤の使用量も多くなるため好ましくない。 平均粒子径が350nmを越えると、基材シートに対する密着性や得られる粘着剤層の耐水性が低下するため好ましくない。 ここで、エマルジョン粒子の平均粒子径とは、後述の動的光散乱法により測定して得られる値に基づくものである。」(【0014】) 4b.「架橋剤の添加量は、必ずしも限定されるものではないが、粘着剤から形成される乾燥被膜のゲル分率が70~90質量%、好ましくは72~88質量%となるように調整して添加する。 ゲル分率を70質量%以上とすることにより、再剥離性を保持するために必要な凝集力が高められるだけでなく、支持体である基材シートとの密着性も向上する。 また、ゲル分率を90質量%以下とすることにより、粘着剤層のフレキシブル性や粘着力が向上すると共に被着体汚染が生じがたくなる。 ゲル分率とは、粘着剤の乾燥被膜のトルエンに対する不溶解分の比率を意味し、後述する測定方法及び式により求めることができる。」(【0018】) 4c.「 」(【0030】【表1】) (5)引用例5 引用例5には、「アクリル系共重合体エマルジョン及びエマルジョン型アクリル系粘着剤」(発明の名称)について、次の記載がある。 5a.「さらに本発明のアクリル系共重合体エマルジョンの分散粒子径は、平均粒径0.08~0.15μmであることが重要である。平均粒子径が0.08μmより小さいと生産安定性に乏しく、0.15μmより大きいと基材への密着性が悪くなる。粒子径をコントロールする方法として、細かい粒子径を目的とする場合、乳化剤量を多くする方法、乳化剤を予め反応フラスコに仕込む方法、作成したプレエマルジョンを予め反応フラスコに仕込む方法等が挙げられる。」(【0014】) (6)引用例6 引用例6には、次の記載がある。 6a.「この規格は,1999年に第1版として発行されたISO 13320-1…を翻訳し,技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。 …。 レーザー回折法は,全方向に光が散乱するときの強度パターンの変化が,粒子径に依存する現象に基づいている。現在の装置は,粒子を全て球形と仮定している。図1に単一粒子の散乱パターンを示している。すなわち,散乱光強度の強弱が交互に現れる角度は,小さい粒子の方が大きい粒子より,大きい…。 一定の条件のもとで,多数の粒子からなる粒子集合体の散乱パターンは,個々の粒子の散乱パターンの合計と一致する。測定された散乱パターンに最も一致する散乱パターンを,粒子径区間ごとに,散乱光パターンを光学モデルで求め,その後に逆演算することによって,体積基準粒子径分布が計算される…。」(序文、1頁1~20行) (7)引用例7 引用例7には、「水分散型粘着組成物及び粘着シート」(発明の名称)について、次の記載がある。 7a.「本発明の粘着シートにおいて、本発明の粘着剤層の溶剤不溶分(溶剤不溶成分の割合、「ゲル分率」と称する場合もある)は、特に限定されないが、20重量%以上が好ましく、より好ましくは25重量%以上、さらにより好ましくは30重量%以上である。なお、上記溶剤不溶分の上限値は、特に限定されないが、例えば、90重量%である。溶剤不溶分が20重量%未満であると、粘着剤層において、十分な粘着特性が得られない揚合や、低分子量成分が多く含まれることとなる結果、粘着剤層の凝集力が不足し、被着体への汚染を生じる場合がある。さらに、長期間粘着特性を維持できない場合がある。」(【0071】) 7b.「 」(【0107】【表1】) 4.引用発明の認定 引用例1に記載された「例11」の重合体ラテックス(1f、1g)は、特許請求の範囲1)に記載された乳化重合方法(la)によって作られるラテックス(1b)の一例であって、接着性を有し(1d、1h、1i)、TBHP-90は、重合触媒、Aerosol 501は、安定剤としての乳化剤であることは明らかであるから、引用例1には、「例11」として、 「スチレン 15部、H2O 65.15部、Aerosol 501 0.15部、TBHP-90 0.027部、Fe(NH4)2(SO4)2・6H2O  0.000204部、SFS 0.02部の組成物を重合することによって得られるエマルジョン形態の重合体であるコア相粒子の分散体を65~75℃の温度で、2-EHA 80部、EA 16部、MA 1.9部、AA 2.0部、IBMA 0.1部から成る、付加重合し得る、シェル相を形成する単量体組成物と、重合触媒 TBHP-90及び安定剤としての乳化剤Aerosol 501(1.125部)の存在下で接触させて、46.5%の固体含量を有するラテックスを生成させることから成り、前記単量体組成物とコア相粒子との重量比が(100:15=)6.7:1であり、4~4.5のpHが該方法の初めから終わりまで維持される乳化重合方法によって作られる高Tg樹脂性重合体の内側相またはコア相、および前記コア相と共に不可欠の構成要素である重合体の外側相またはシェル相を有する乳化した粒子から成る水性の、安定な、接着性を有する重合体ラテックス。」(以下、「引用発明」という。)の発明が記載されていると認められる(なお、「部」は、7頁右上欄14行に「すべての部は重量部を意味する。」と記載されているように、「重量部」である。)。 5.本件発明と引用発明との対比・判断 (1)本件発明1について 本件発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「H2O」及び「安定剤としての乳化剤Aerosol 501」は、本件発明1の「水性溶媒」及び「乳化剤」にそれぞれ相当する。 そして、引用発明の「高Tg樹脂性重合体の内側相またはコア相、および前記コア相と共に不可欠の構成要素である重合体の外側相またはシェル相を有する乳化した粒子から成る水性の、安定な、接着性を有する重合体ラテックス」のシェル相は、「2-EHA 80部、EA 16部、MA 1.9部、AA 2.0部、IBMA 0.1部」の単量体組成物を付加重合させたものであるから、該シェル相は、アクリル系ポリマーを含有するということができる。 そうすると、引用発明の該「重合体ラテックス」は、本件発明1の「水性溶媒、乳化剤およびポリマー粒子を含む水分散型粘着剤組成物であって(A)、前記ポリマー粒子は前記水性溶媒に分散しており(B)、前記ポリマー粒子は、コアおよびシェルの少なくとも一方にアクリル系ポリマーを含有するコアシェル構造の粒子を含(C)」むものに相当する。 また、本件の発明の詳細な説明を参照すると、本件発明1でいうガラス転移温度は「各モノマーの単独重合体(ホモポリマー)のガラス転移温度(Tg)および該モノマーの質量分率に基づいてフォックス(Fox)の式から算出される値をいう」(【0024】。なお、ホモポリマーのTgは【0025】に記載されている。)ところ、引用発明のコア相及びシェル相における当該値は、それぞれ、100℃(スチレン)、約-60℃(100/{80部/(2-EHAのTg)+16部/(EAのTg)+1.9部(MAのTg)+2.0部(AAのTg)+0.1部/(IBMAのTg)}=100×{80/(-70)+16/(-22)+1.9/(8)+2.0/(106)+0.1/(180)})であり、また、前者と後者のその差は160℃であるから、引用発明は本件発明1のように「前記コアシェル構造の粒子は、前記コアを構成するポリマーPcoreのガラス転移温度Tcoreが前記シェルを構成するポリマーPshellのガラス転移温度Tshellよりも150℃以上高く(D)、前記ガラス転移温度Tshellは、-75℃以上であって、かつ-55℃より低(E)」いといえる。 なお、フォックス(Fox)の式とは、例えば、引用例2(2a)にもあるとおり、 「1/Tg=w1/Tg1+w2/Tg2+… (w1、w2、…は成分モノマーの重量分率、Tg1、Tg2、…は対応するホモポリマーのTg(K)である。)」というものである。 そして、引用発明において、「Aerosol 501」の用いられた総量は1.275部(0.15部+1.125部)であり、重合に用いられたスチレン、2-EHA、EA、MA、AA、IBMAの総量は、115部(15部+80部+16部+1.9部+2.0部+0.1部)であるから、上記「Aerosol 501」の用いられた総量の「1.275部」は、本件発明1における「粘着剤組成物の乳化剤含有量」に相当し、上記重合に用いられたスチレン、2-EHA、EA、MA、AA、IBMAの総量の「115部」は、本件発明1の「ポリマー粒子」の質量部に相当するから、上記重合に用いられたスチレン、2-EHA、EA、MA、AA、IBMAの総量を100質量部とすると、上記「Aerosol 501」の用いられた総量は、1.1質量部(=1.275×100÷115)となる。 そうすると、この1.1質量部は、本件発明1の「3.5質量部未満であ(F)」る範囲に含まれる。 また、引用発明の「乳化した粒子」は、本件発明1の「ポリマー粒子」に相当し、引用発明の「水性の、安定な、接着性を有する重合体ラテックス」において、「接着性を有する」構成は、本件発明1の「粘着剤」としての特性に相当するから、引用発明の該「重合体ラテックス」は、本件発明1の「水分散型粘着剤組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と引用発明とは、 「A 水性溶媒、乳化剤およびポリマー粒子を含む水分散型粘着剤組成物であって、 B 前記ポリマー粒子は前記水性溶媒に分散しており、 C 前記ポリマー粒子は、コアおよびシェルの少なくとも一方にアクリル系ポリマーを含有するコアシェル構造の粒子を含み、 D 前記コアシェル構造の粒子は、前記コアを構成するポリマーPcoreのガラス転移温度Tcoreが前記シェルを構成するポリマーPshellのガラス転移温度Tshellよりも150℃以上高く、 E 前記ガラス転移温度Tshellは、-75℃以上であって、かつ-55℃より低く、 F 前記粘着剤組成物の乳化剤含有量は前記ポリマー粒子100質量部に対して3.5質量部未満である、 水分散型粘着剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点)ポリマー粒子の粒径について、本件発明1では、「G 前記粘着剤組成物についてレーザ回折・散乱法により測定される平均粒子径が0.3μm未満」であるのに対し、引用発明の「乳化した粒子」の平均粒子径は不明な点。 ここで、相違点について検討する。 引用例1には、乳化重合方法(1a)の目的について、「良好な安定性、接着性およびモジユラス特性を有する生成物を与える、ラテツクス製造のための乳化重合方法を提供することにある。」(1d)と記載され、この記載から、当該乳化重合方法によって作られるラテツクス(1b)の一例である引用発明も、「良好な安定性、接着性およびモジュラス特性を有する」ラテックスを提供することを目的とするものであるといえる。 そして、引用例1には、「種々のラテツクスの粒子寸法(Dw)は本質的に等しく、3000~3500Åであることが分つた。」(1j)と記載されていることから、当業者には、引用発明の粒子寸法もその程度(3000~3500Å、すなわち、0.3~0.35μm)であると理解できる。 一方、本件発明の課題は、「耐衝撃性と耐反撥性とを高レベルで両立する粘着剤を形成し得る水分散型粘着剤組成物およびその製造方法を提供することであ」(本件明細書【0005】)り、本件明細書の【0059】に「ここに開示される水分散型粘着剤組成物は、該組成物について測定される平均粒子径が0.3μm未満である。水分散型粘着剤組成物の平均粒子径が小さくなると、該組成物から形成される粘着剤の表面平滑性が向上する傾向にある。表面平滑性の高い粘着剤は、概して被着体に対する密着性がよい。このことは耐反撥性その他の粘着特性の向上に有利に寄与し得る。」と記載されていることから、本件発明1では、ポリマー粒子について、「レーザ回折・散乱法により測定される平均粒子径」を「0.3μm未満」とすることで、粘着剤の表面平滑性を向上させ、被着体に対する密着性をよくすることで、耐反撥性その他の粘着特性の向上が図られたものと解される。 そうすると、水分散型粘着剤のアクリルエマルジョン粒子の平均粒子径が350nm、特に300nm、さらに0.15μmよりも小さいと密着性がよいことは、当業者によく知られていたことである(引用例3(3a、3c)、引用例4(4a、4c)、引用例5(5a))としても、異議申立人の示したいずれの証拠にも、水分散型粘着剤のアクリルエマルジョン粒子の平均粒子径を小さくすれば耐反撥性が向上することや、水分散型粘着剤の被着体に対する密着性をよくすれば、耐反撥性の向上が図れるという知見が、本件の出願日前に公知であることを示すものは認められない。 しかも、引用発明は、耐反撥性の向上を目的とするものではないことから、引用発明において、「乳化した粒子」について、「レーザ回折・散乱法により測定される平均粒子径」を「0.3μm未満」とすると、本件発明1のように、耐反撥性の向上が図られることは、本件の出願当時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著な作用効果というべきである。 したがって、本件発明1は、引用発明が有するものとは異質な効果を有し、これが本件の出願当時の技術水準から当業者が予測することができたものではないものであることから、本件発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 なお、申立人は、「粒子寸法範囲を、当業者の常法の平均粒子径測定法であるレーザ回折・散乱法(引用例3(3a)、引用例6(6a))により測定して算出する平均粒子径で『0.3μm未満』と設定したことにも何ら技術的意義は見いだせない。なお、『被着体に対する密着性がよい』(【0059】)ので接合を維持する性能(耐反撥性。【0004】)その他の粘着特性が向上することは、粒子の平均粒子径を小さくすると密着性がよくなることを知る当業者が予測し得る程度のことである。」(異議申立書の19頁11~14行)と主張している。 しかしながら、たとえば、粘性が低く接着力に劣る粘着剤、すなわち、被着体に対する密着性がよいのにもかかわらず、被着体から容易に剥離する粘着剤は容易に想定され得るものであり、被着体に対する密着性がよい粘着剤が、直ちに、耐反撥性が向上したものとはいえないことから、申立人の上記主張は採用することができない。 (2)本件発明2、3及び9 本件発明2、3及び9は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明2、3及び9は、本件発明1と同様に、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 6.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。 7.むすび したがって、請求項1~3及び9に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1~3及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-701011

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