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特許異議申立

2017-700855

空気入りタイヤ

審判番号
2017-700855
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-215278
登録番号
特許第6092984号(P6092984)
請求日
2017年09月08日
審決日
2018年12月17日
公報発行日
2019年04月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社ブリヂストン
  • 【権利者代理人】本多 一郎
  • 【権利者代理人】杉本 由美子
  • 【権利者代理人】渡耒 巧
  • 【権利者代理人】大田黒 隆
  • 【異議申立人】小林 敏樹
審判長/審判官
  • 審判長 和田 雄二
  • 審判官 尾崎 和寛
  • 審判官 氏原 康宏
分類
P1651.121-YAA(B60C) / P1651.851-YAA(B60C) / P1651.853-YAA(B60C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6092984号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6092984号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 特許第6092984号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6092984号の請求項1~4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年6月29日に出願した特願2012-148041号の一部を平成26年11月7日に新たな特許出願した特願2014-227397号の一部をさらに平成27年10月30日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月17日にその特許権の設定登録がされ、平成29年3月8日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は次のとおりである。 平成29年9月8日    :特許異議申立人小林敏樹による特許異議の申 立て 平成29年12月19日付け:取消理由通知書 平成30年2月23日   :意見書、訂正請求書の提出 平成30年5月21日付け :訂正拒絶理由通知書 平成30年9月3日付け  :取消理由通知書(決定の予告) 平成30年11月6日   :意見書、訂正請求書の提出 本件特許に対する特許異議申立の手続について、本来であれば、特許権者による訂正請求があったときは、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えなければならないところ(特許法第120条の5第5項)、平成30年11月6日の訂正請求による訂正の内容が、関連事件(異議2017-700849号)の訂正の内容と実質的に同じであり、そして、当該関連事件の訂正請求について、本件特許の特許異議申立人と同じ申立人である小林敏樹に意見書を提出する機会を与え、これに対して特許異議申立人小林敏樹から意見書の提出がされている。 したがって、本件特許の平成30年11月6日の訂正請求については、実質的に特許異議申立人小林敏樹に対する意見聴取済みといえ、迅速かつ効率的な審理の観点から、特許異議申立人小林敏樹に意見書を提出する機会を与えなくても、特許異議申立の判断に影響を与えるものではなく、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情がある場合といえると判断した。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成30年11月6日に提出された訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 なお、平成30年2月23日に提出された訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.9以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%であり、 トレッド幅方向両外側の2列の陸部をショルダー陸部、該ショルダー陸部に挟まれた陸部をセンター陸部としたとき、該センター陸部に、両側部を結ぶ曲線状のサイプが設けられていることを特徴とする空気入りタイヤ。」を「トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.9以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%であり、 トレッド幅方向両外側の2列の陸部をショルダー陸部、該ショルダー陸部に挟まれた陸部をセンター陸部としたとき、該センター陸部に、両側部を結ぶ曲線状のサイプが設けられており、 前記ショルダー陸部にトレッド幅方向に延びる幅方向溝が設けられており、 カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に、2層のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ径方向外側に、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された有機繊維コードのゴム引き層よりなるベルト補強層を有し、前記ベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であることを特徴とする空気入りタイヤ。」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 願書に添付した明細書の段落【0008】に記載された「すなわち、本発明の空気入りタイヤは、トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.9以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%であり、 トレッド幅方向両外側の2列の陸部をショルダー陸部、該ショルダー陸部に挟まれた陸部をセンター陸部としたとき、該センター陸部に、両側部を結ぶ曲線状のサイプが設けられていることを特徴とするものである。」を、「すなわち、本発明の空気入りタイヤは、トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.9以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%であり、 トレッド幅方向両外側の2列の陸部をショルダー陸部、該ショルダー陸部に挟まれた陸部をセンター陸部としたとき、該センター陸部に、両側部を結ぶ曲線状のサイプが設けられており、 前記ショルダー陸部にトレッド幅方向に延びる幅方向溝が設けられており、 カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に、2層のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ径方向外側に、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された有機繊維コードのゴム引き層よりなるベルト補強層を有し、前記ベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であることを特徴とするものである。」に訂正する。 (3)訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にある。 したがって、本件訂正請求のうち、特許請求の範囲の訂正(訂正事項1)は、一群の請求項1~4についてされており、また、明細書の訂正(訂正事項2)は、一群の請求項の全てについて行うものである。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について ア.訂正の目的 訂正前の請求項1に係る発明では、空気入りタイヤのトレッドのショルダー陸部、ベルト層及びベルト補強層に関しては、何ら特定されていなかった。 訂正事項1は、これらショルダー陸部、ベルト層及びベルト補強層に関し、それぞれ、「前記ショルダー陸部にトレッド幅方向に延びる幅方向溝が設けられており」との限定、「カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に、2層のベルト層からなるベルトと、」「を有し、前記ベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層である」との限定、及び「該ベルトのタイヤ径方向外側に、タイヤ周方向に対し実質的平行に配列された有機繊維のコードのゴム引き層よりなるベルト補強層を有し」との限定を付加し特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ.新規事項の追加の有無及び実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0013】、【0025】、【0027】及び【0028】の記載に基づいているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 また、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。 したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正事項1に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載に齟齬が生じるのを、整合させるための訂正である。 よって、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項2が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しないことは、上記(1)より明らかである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 上記「第2」のとおり、本件訂正請求は認められるので、本件訂正請求により訂正された請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.9以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%であり、 トレッド幅方向両外側の2列の陸部をショルダー陸部、該ショルダー陸部に挟まれた陸部をセンター陸部としたとき、該センター陸部に、両側部を結ぶ曲線状のサイプが設けられており、 前記ショルダー陸部にトレッド幅方向に延びる幅方向溝が設けられており、 カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に、2層のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ径方向外側に、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された有機繊維コードのゴム引き層よりなるベルト補強層を有し、前記ベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であることを特徴とする空気入りタイヤ。 【請求項2】 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、全陸部に対する2列の前記ショルダー陸部の割合がそれぞれ20~35%であり、全陸部に対する2列の前記センター陸部の割合がそれぞれ15~30%である請求項1記載の空気入りタイヤ。 【請求項3】 前記センター陸部の少なくとも一方に、両側部を結ぶサイプであって、該サイプの両端部を結ぶ直線がトレッド幅方向に対して16~24°傾斜している請求項1または2記載の空気入りタイヤ。 【請求項4】 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上(ただし、1.00を除く)である請求項1~3のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。」 第4 取消理由の概要 訂正前の請求項1~4に係る発明の特許に対して、当審が平成30年9月3日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。 [取消理由]本件特許の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1~7、9に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 また、本件特許の請求項2~4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1~9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 記 引用文献1:特開平7-81303号公報 引用文献2:特開平5-25327号公報 引用文献3:特開2005-8804号公報 引用文献4:特開平9-67469号公報 引用文献5:自動車用タイヤの基礎と実際 編著者:株式会社ブリヂストン 発行所:学校法人東京電機大学 東京電気大学出版局 2008年 4月10日 第1版1刷発行、283頁 引用文献6:特開2002-29215号公報 引用文献7:特開2005-88670号公報 引用文献8:特開2009-161112号公報 引用文献9:特表2011-519994号公報 なお、引用文献1~8は、それぞれ、特許異議申立人小林敏樹による特許異議申立書での甲第1~8号証である。 第5 当審の判断 1.引用文献1に記載された事項および発明 (1)引用文献1の記載事項 引用文献1には、図面とともに次の記載がある(下線は当審で付した。)。 (1a)「【請求項1】 トレッド面の接地形状を、接地幅中心を通るタイヤ周方向の接地長を最大とし、前記接地幅中心から左右両側に向かうほど徐々に短かくなる形状にした空気入りタイヤにおいて、 前記タイヤ周方向の最大接地長Mと前記接地幅中心から左右両側へそれぞれ接地最大半幅の90%の位置におけるタイヤ周方向の接地長mとの両接地長の比m/Mを0.65~0.80にすると共に、全接地領域の全接地部溝面積率を20~50%とし、かつ接地最大幅Wの40%の幅に相当する接地中央部領域の中央部溝面積率を前記全接地部溝面積率よりも小さくした空気入りタイヤ。」 (1b)「【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は転がり抵抗の悪化を抑制しながら、ウェット性能を向上するようにした空気入りタイヤを提供することにある。」 (1c)「【0006】 本発明において、タイヤの接地形状とはタイヤにJATMAに規定する設計常用荷重に対応する空気圧を充填し、設計常用荷重の85%の荷重を負荷したときに、トレッド面が平坦な路面に形成する形状のことをいう。以下、図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は本発明タイヤのトレッドパターンの一例を示し、タイヤ周方向に延びる3本の主溝1とこれら主溝1相互間及び主溝1と左右両側の接地端との間を繋ぐ副溝2が設けられ、これら主溝1と副溝2とで区分されたブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をなすブロックパターンを形成している。」 (1d)「【0008】・・・しかし、m/M=0.65~0.80にしただけでは、0.8~0.9の従来タイヤに比べてウェット性能の向上効果が十分ではないため、トレッド面の全接地部溝面積率を20~50%にすると共に、接地最大幅Wの40%に相当する中央部領域Eにおける中央部溝面積率を全接地部溝面積率よりも小さくすることにより一層の向上を可能にする。・・・」 (1e)「【0009】・・・キャップトレッドゴムとして・・・ゴム組成物を使用することが望ましい。」 (2)引用文献1に記載の発明 以上の記載事項、および図示内容からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 〔引用発明〕 「トレッドパターン幅内に設けられた3本のタイヤ周方向に延びる主溝1と、該主溝1相互間及び主溝1と左右両側の接地端との間を繋ぐ副溝2が設けられ、これら主溝1と副溝2とで区分されたブロック3と、該ブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をなす、空気入りタイヤにおいて、 キャップトレッドゴムがゴム組成物であり、かつ、 トレッド面の全接地部溝面積率が20~50%である空気入りタイヤ。」 (3)対比・判断 ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と引用発明とを対比する。 a.後者の「空気入りタイヤ」は前者の「空気入りタイヤ」に相当する。 b.後者の「トレッドパターン」は、トレッド面の接地形状のことであるから(摘記(1a)、(1c))、前者の「トレッド接地面」に相当する。また、後者の「タイヤ周方向に延びる主溝1」は、機能または構造からみて、前者の「周方向主溝」に相当する。そして、後者において、主溝1が3本であるということは、主溝1が複数本あるといえるから、後者の「3本のタイヤ周方向に延びる主溝1」は、前者の「複数本の周方向主溝」に相当する。c.後者の「主溝1と副溝2とで区分されたブロック3」が「タイヤ周方向に4列のブロック列をなす」ことで、周方向によって区画された陸部を形成しているといえるから、後者の「ブロック列」は前者の「陸部」に相当し、したがって、後者の「該主溝1相互間及び主溝1と左右両側の接地端との間を繋ぐ副溝2が設けられ、これら主溝1と副溝2とで区分されたブロック3と、該ブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をなす」は、前者の「該周方向溝によって区画された陸部と、を有する」に相当する。 d.後者の「トレッド接地面内」には、「4列のブロック列」があるところ、その4列のブロック列のうちトレッド幅方向両外側の2列のブロック列は、上記c.を踏まえると、前者の「ショルダー陸部」に相当する。そして、後者は、「主溝1と左右両側の接地端との間を繋ぐ副溝2が設けられ」ているところ、当該「副溝2」はトレッド幅方向に延びるものであるといえる。したがって、後者の「主溝1と左右両側の接地端との間を繋ぐ副溝2が設けられ」ていることは、前者の「前記ショルダー陸部にトレッド幅方向に延びる幅方向溝が設けられ」ていることに相当する。 e.キャップトレッドゴムがタイヤのトレッドを構成するトレッドゴムであることは当業者には明らかであるから、後者の「キャップトレッドゴムがゴム組成物であり」と前者の「前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.9以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%。動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり」とは、「前記トレッドをトレッドゴムで構成し」の限りにおいて共通する。 f.前者の「ネガティブ率」は、「トレッドの接地面幅w内の全面積に対する全溝面積(図示例においては、周方向溝1、および幅方向溝3a、3bの面積の合計)の割合」(本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)段落【0016】を参照。)を意味するから、後者の「トレッド面の全接地部溝面積率」は前者の「トレッドの接地幅内におけるネガティブ率」に相当するところ、後者の「トレッド面の全接地部溝面積率を20~50%である」と前者の「トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%である」とは、「トレッドの接地幅内におけるネガティブ率を定める」の限りにおいて共通する。 g.そうすると、両者の一致点および相違点は次のとおりといえる。 [一致点] 「トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドをトレッドゴムで構成し、かつ、 前記ショルダー陸部にトレッド幅方向に延びる幅方向溝が設けられており、 前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率を定める空気入りタイヤ。」 [相違点1] 「トレッドゴム」に関し、 本件発明1は、「0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.9以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であ」るのに対し、引用発明は、かかるtanδの値が特定されていない点。[相違点2] 「ネガティブ率」に関し、 本件発明1は、「20~40%」であるのに対し、引用発明は、「20~50%」である点。 [相違点3] 本件発明1は、「トレッド幅方向両外側の2列の陸部をショルダー陸部、該ショルダー陸部に挟まれた陸部をセンター陸部としたとき、該センター陸部に、両側部を結ぶ曲線状のサイプが設けられている」ものであるのに対し、引用発明ではかかる特定がなされていない点。 [相違点4] 本件発明1は、「カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に、2層のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ径方向外側に、タイヤ周方向に対し実質的平行に配列された有機繊維のコードのゴム引き層よりなるベルト補強層を有し、前記ベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層である」というトレッド内部構造を特定しているのに対し、引用発明はトレッド内部構造について特定されていない点。 (イ)判断 相違点1について検討する。 a.空気入りタイヤを構成するトレッドゴムのtanδの値が転がり抵抗低減やウェット性の向上に寄与することは当業者には広く知られている事項といえるところ、引用文献1の段落【0009】、引用文献2の段落【0002】、【0005】、及び、引用文献5の283ページの記載内容からすれば、空気入りタイヤにおいて、転がり抵抗の低減のためには60℃でのtanδを小さく、ウェット(ブレーキ)性能向上のためには0℃でのtanδを大きくすれば良いということは、本件出願前、当業者には周知の技術事項であったといえる。 また、引用文献4の段落【0019】、引用文献9の段落【0087】、【0088】の記載内容からすれば、60℃でのtanδと0℃でのtanδの差を大きくすればするほど、すなわち、60℃でのtanδはできるだけ小さくし、0℃でのtanδをできるだけ大きくすることにより、転がり抵抗低減とウェット性能向上のバランスが良くできるということが当業者における技術常識であったといえる。 そして、引用文献1の表2、及び、引用文献2の【表2】には、60℃でのtanδを小さくし、0℃でのtanδを大きくしたトレッドゴムが記載されており、引用文献3の【表1】、及び、引用文献4の表I、表IIには、0℃でのtanδを大きくしたトレッドゴムが記載されている。 b.しかしながら、本件発明1は、「従来よりもウェットブレーキ性能を向上させ、かつ、転がり抵抗を低減させた空気入りタイヤを提供する」ために(本件明細書段落【0006】)、特定の測定条件下でのトレッドゴムのtanδの値を発明特定事項としている。すなわち、「トレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.9以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であ」るとしている。 これに対して、引用文献1~4のいずれにも、トレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.9以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であるとするという技術事項については記載されていない。 c.確かに、引用文献9には、ウェット性能と転がり抵抗をバランスさせたゴム配合物であって0℃でのtanδが0.9以上でありかつ60℃でのtanδが0.12以下という条件を充足するゴム配合物が記載されている(段落【0014】、【0128】の【表5】、【0137】の【表10】)。 しかし、引用文献9のゴム配合物の0℃および60℃でのtanδの値は、周波数2Hz、0.2%の動歪率という、本件発明1におけるトレッドゴムのtanδの測定条件とは大きく異なる条件下で測定されたものである(段落【0087】、【0088】)。 ここで、ゴムのtanδを測定する条件として、ゴムを使用するタイヤの実際の走行状態を見据えた条件を設定することが通常であり(特開2011-89788号公報の段落【0003】)、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%という測定条件が本件出願前当業者によって既に採用されていた測定条件であったとしても(特開2011-190329号公報の段落【0057】、特開2009-91410号公報の段落【0055】、特開2009-91409号公報の段落【0053】、特開2011-140258号公報の段落【0054】、特開2011-84222号公報の段落【0055】、特開2010-270175号公報の段落【0177】)、ゴムのtanδの値が測定条件(周波数、歪)によって大きく変わるものであるという当業者における技術的知見(「新版 ゴム技術の基礎」(社団法人日本ゴム協会編 平成11年4月30日発行)第77頁の式(4.64及び4.65)、第82頁の図4.14、第84頁の図4.16、特開2004-115751号公報の【図2】、【図4】、特開2007-130781号公報の【図2】)からすれば、引用文献9において、トレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.9以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であるとするものが示唆されているとはいえない。 なお、引用文献6、7にも、相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。 d.以上のとおりであるから、引用発明に、引用文献1~7、9に記載の技術事項を適用しても相違点1に係る本件発明1の構成に達し得ないし、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは、引用文献1~7、9に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1に記載の発明および引用文献1~7、9に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ.本件発明2~4について 本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み更に限定構成を付加するものであるから、本件発明2~4と引用発明との間には、少なくとも、上記ア.(ア)の相違点1~4が存在する。 そうすると、上記ア.(イ)で述べたように、相違点1に係る本件発明1の構成が引用文献1に記載の発明及び引用文献1~7、9に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないし、相違点1に係る本件発明1の構成が引用文献8にも記載も示唆もされていない以上、本件発明2~4は、引用文献1に記載の発明及び引用文献1~9に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由(決定の予告)によっては、本件請求項1~4に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-700855

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