特許異議申立
2016-700562
重荷重用空気入りラジアルタイヤ
- 審判番号
- 2016-700562
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-234308
- 登録番号
- 特許第5836055号(P5836055)
- 請求日
- 2016年06月23日
- 審決日
- 2017年10月13日
- 公報発行日
- 2018年03月30日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社ブリヂストン
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】塚中 哲雄
- 【権利者代理人】山口 雄輔
- 【権利者代理人】冨田 和幸
- 【権利者代理人】大串 賢
- 【異議申立人】小林 敏樹
- 審判長/審判官
- 審判長 氏原 康宏
- 審判官 和田 雄二
- 審判官 一ノ瀬 覚
- 分類
- P1651.121-ZC (B60C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5836055号発明「重荷重用空気入りラジアルタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5836055号の請求項1に係る特許を取り消す。
同請求項2ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5836055号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成23年10月25日に特許出願され、平成27年11月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人小林敏樹(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年12月7日付けで取消理由が通知され、平成29年2月13日に意見書が提出され、同年5月23日付けで、請求項1に係る特許を取り消す、請求項2ないし5に係る特許を維持するとの取消理由を通知(決定の予告)し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。
第2 本件発明
特許第5836055号の請求項1ないし5の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1ないし5に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
トレッドゴムを、キャップゴムとベースゴムとの積層構造になるものとするとともに、トレッドゴムの半径方向内側に四層以上のベルト層を配設してなる重荷重用空気入りラジアルタイヤであって、
半径方向最外側のベルト層および、最広幅のベルト層の少なくとも一方の、幅方向側縁の半径方向外側を、トレッドゴムの半径方向内側で、タイヤ赤道面に達することなく終了する補強ゴム層で覆い、該補強ゴム層を形成する補強ゴムと、前記ベースゴムとの反発弾性率の相対関係を、
補強ゴム<ベースゴム
の条件を満たすものとしてなる重荷重用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
補強ゴム層の最大厚み部分を、半径方向最外側のベルト層および、最広幅のベルト層のいずれの幅方向側縁位置よりもトレッド幅方向の内側に位置させてなる請求項1に記載の重荷重用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
補強層ゴム層を形成する補強ゴムの反発弾性率を70%以下としてなる請求項1もしくは2に記載の重荷重用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
補強層ゴム層の幅(w)を、トレッド踏面幅(W)の15~25%範囲としてなる請求項1~3のいずれかに記載の重荷重用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
補強ゴム層の最大厚み(t)を、タイヤ赤道線から、トレッド踏面幅の1/4の位置に存在する幅方向溝の溝深さの7~15%の範囲としてなる請求項1~4のいずれかに記載の重荷重用空気入りラジアルタイヤ。」
第3 刊行物の記載
1 刊行物1
(1)刊行物1に記載された事項及び引用発明
ア 刊行物1に記載された事項
取消理由で通知した刊行物1(特開平9-300911号公報)には、「空気入りラジアルタイヤ」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。下線は当審で付与した。
(1a)「【請求項1】カーカス層とトレッド部との間にベルト層を備えたラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層の両端部に、当該両端部をタイヤ半径方向外側から覆う高減衰ゴムよりなるベルト上減衰層を配し、
前記ベルト上減衰層が、前記トレッド部を構成するトレッドゴムの一部として配されたことを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。」
(1b)「【0034】ベルト層5は、その端部がタイヤTのショルダー部6の近傍で終端している。このベルト層5は、カーカス層4の半径方向外側に隣接して配された第1ベルト51と、この第1ベルト51の半径方向外側に隣接して配された第2ベルト52との2枚のベルトにより構成されている。第1ベルト51は、第2ベルト52よりも幅方向寸法が長く形成されている。
【0035】トレッド部1は、ベルト層5に接してその半径方向外側に配されるトレッドベース層11と、その外側に配され、トレッド表面を形成するトレッドキャップ層12とよりなる。
【0036】7は、ベルト層5の両端部において、その両端部をタイヤ半径方向外側から覆うベルト上減衰層であり、高減衰ゴムにより形成されている。このベルト上減衰層7は、トレッド部1のトレッドベース層11を構成するベースゴムの一部として形成されており、図2に示すように、第1ベルト51と第2ベルト52の両者の端部を半径方向外側から覆っている。ベルト上減衰層7の幅方向外方端は、第1ベルト51の幅方向外方端51aの近傍に位置しており、詳細には、第1ベルト外方端51aから幅方向外方にややはみ出して配されている。」
(1c) 「【0047】各減衰層7,8,9を構成する高減衰ゴムとしては、損失係数tanδが、0.2以上であることが好ましく、より好ましくは0.25以上である。損失係数tanδは、粘弾性スペクトロメータ(岩本製作所製)を使用し、幅5mm、厚さ5mm、試料長20mmの短冊状試料について、初期歪み10%、振動数50Hz、動歪み2%、50℃での条件で測定した値である。なお、トレッドベース層11を形成するベースゴムは、通常、損失係数tanδが0.1程度である。」
(1d)「【0052】なお、以上の実施形態においては、ベルト層5が2枚のベルトよりなる場合について説明したが、本発明は、ベルト層5が2枚のベルトよりなるものに限定されることなく、1枚又は3枚以上よりなるものにも適用可能である。」
(1e)以下の図2が示されている
イ 引用発明
(1f)上記摘示(1b)及び(1e)より、トレッド部1は、トレッドキャップ層12とトレッドベース層11との積層構造からなることが明らかである。
(1g)上記摘示(1a)及び(1e)より、空気入りラジアルタイヤは、カーカス層4とトレッド部1との間にベルト層5を備えるものであることが明らかである。
(1h)上記摘示(1a)、(1b)及び(1e)より、ベルト上減衰層7は、トレッド部1のトレッドベース層11を構成するベースゴムの一部として形成されており、タイヤ半径方向最外側の第2ベルト52と最広幅の第1ベルト51の両端部をタイヤ半径方向外側から覆うものであり、幅方向内方端が赤道面に達することなく終了するものであることが明らかである。
(1i)上記摘示(1a)及び(1c)より、ベルト上減衰層7を形成する高減衰ゴムとトレッドベース層11を形成するベースゴムの、粘弾性スペクトロメータ(岩本製作所製)を使用し、幅5mm、厚さ5mm、試料長20mmの短冊状試料について、初期歪み10%、振動数50Hz、動歪み2%、50℃での条件で測定した損失係数tanδは、それぞれ0.2以上、0.1程度であると認められる。
以上を総合すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
<引用発明>
「トレッド部1は、トレッドキャップ層12とトレッドベース層11との積層構造からなり、カーカス層4とトレッド部1との間にベルト層5を備える空気入りラジアルタイヤであって、
ベルト上減衰層7は、トレッド部1のトレッドベース層11を構成するベースゴムの一部として形成されており、タイヤ半径方向最外側の第2ベルト52と最広幅の第1ベルト51の両端部をタイヤ半径方向外側から覆うものであり、幅方向内方端が赤道面に達することなく終了するものであり、
前記ベルト上減衰層7を形成する高減衰ゴムとトレッドベース層11を形成するベースゴムの、粘弾性スペクトロメータ(岩本製作所製)を使用し、幅5mm、厚さ5mm、試料長20mmの短冊状試料について、初期歪み10%、振動数50Hz、動歪み2%、50℃での条件で測定した損失係数tanδは、それぞれ0.2以上、0.1程度である
空気入りラジアルタイヤ。」
(2)刊行物2に記載された事項
取消理由通知において引用した刊行物2(特開平7-132707号公報)には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【0002】
【従来の技術】重荷重用空気入りラジアルタイヤは、一般にカーカス層とトレッド部との間に、少なくとも3層のスチールコードからなるベルト層を配置して、トレッド部の補強を行っている。・・・」
(2b)「【0009】アンダートレッドゴム層3とカーカス層4との間には、タイヤ幅方向の幅が互いに異なる4層のスチールコードからなるベルト層5a,5b,5c,5dが配置されている。カーカス層4から数えて第1番目のベルト層5aと第2番目のベルト層5bは、コードがタイヤ周方向に対して同一方向に傾斜し、他方、第3番目のベルト層5cと第4番目のベルト層5dは、コードがタイヤ周方向に対してベルト層5a,5bとは逆方向に傾斜している。即ち、第2番目のベルト層5bと第3番目のベルト層5cは、コードが層間で互いに交差するように隣接するクロスプライ構造になっている。」
(3)刊行物3に記載された事項
取消理由通知において引用した刊行物3(特開2007-196866号公報)には以下の事項が記載されている。
(3a)「【0002】
トラック・バス用等の重荷重用ラジアルタイヤでは、一般に、図5に示すように、カーカスの半径方向外側に配されるベルト層aを、スチールのベルトコードを用いた3~4枚のベルトプライbにより形成している。・・・」
(3b)「【0016】
次に前記ベルト層7は、半径方向内側から外側に順次重ね置きされるとともに、ベルトコードとしてスチールコードを用いた第1~第4のベルトプライ7A~7Dを少なくとも含んで構成される。」
(4)刊行物4に記載された事項
取消理由通知において引用した刊行物4(横浜ゴム株式会社著、「自動車用タイヤの研究」、第1刷、株式会社山海堂、平成7年4月15日発行、p.155)には以下の事項が記載されている。
第4 対比・判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「トレッド部1」は、ゴムで構成されていることは明らかであるから(摘示(1a)及び技術常識)、引用発明の「トレッドキャップ層12」及び「トレッドベース層11」は、それぞれ本件発明1の「キャップゴム」及び「ベースゴム」に相当するといえる。
そうすると、引用発明の「トレッド部1は、トレッドキャップ層12とトレッドベース層11との積層構造からなり」との事項は、本件発明1の「トレッドゴムを、キャップゴムとベースゴムとの積層構造になるものとするとともに」との事項に相当するといえる。
また、引用発明の「ベルト層5」は、「カーカス層4とトレッド部1との間に」あり、「第1ベルト51」及び「第2ベルト52」の二層からなり、トレッド部1の半径方向内側に配設してなることが明らかであるから、引用発明の「カーカス層4とトレッド部1との間にベルト層を備える」との事項と本件発明1の「トレッドゴムの半径方向内側に四層以上のベルト層を配設してなる」との事項とは、「トレッドゴムの半径方向内側に複数層のベルト層を配設してなる」との事項の限度で共通するといえる。
さらに、引用発明の「空気入りラジアルタイヤ」と本件発明1の「重荷重用空気入りラジアルタイヤ」とは「空気入りラジアルタイヤ」の限度で共通するといえる。
イ 引用発明の「ベルト上減衰層7」は、「トレッド部1のトレッドベース層11を構成するベースゴムの一部として形成されて」いるところ、刊行物1の図2(摘示(1e))によると、かかる「ベルト上減衰層7」は、タイヤ半径方向で見てトレッド部1(トレッドゴム)を構成するベースゴムとベルト層5との間に配置されており、他方、本件発明1の「補強ゴム層」は、「トレッドゴムの半径方向内側」に配置されているところ、本件特許に係る願書に添付された図面の図1によると、タイヤ半径方向で見てトレッドゴムを構成するベースゴム4とベルト層3との間に配置されているといえるから、引用発明の「ベルト上減衰層7」と本件発明1の「補強ゴム層」との配設態様は格別相違するものとはいえない。
そうすると、引用発明の「ベルト上減衰層7」についても、ベースゴムの半径方向内側に配設されているといえる。
また、引用発明の「タイヤ半径方向最外側の第2ベルト52」、「最広幅の第1ベルト51」及び「両端部」は、それぞれ本件発明1の「半径方向最外側のベルト層」、「最広幅のベルト層」及び「幅方向側縁」に相当するといえる。
さらに、引用発明の「ベルト上減衰層7」は「高減衰ゴム」で形成されているから、本件発明1の「補強ゴム層」とは「ゴム層」である限度で共通するといえる。
してみると、引用発明の「ベルト上減衰層7は、トレッド部1のトレッドベース層11を構成するベースゴムの一部として形成されており、タイヤ半径方向最外側の第2ベルト52と最広幅の第1ベルト51の両端部をタイヤ半径方向外側から覆うものであり、幅方向内方端が赤道面に達することなく終了するものであ」るとの事項と本件発明1の「半径方向最外側のベルト層および、最広幅のベルト層の少なくとも一方の、幅方向側縁の半径方向外側を、トレッドゴムの半径方向内側で、タイヤ赤道面に達することなく終了する補強ゴム層で覆」うとの事項とは、「半径方向最外側のベルト層および、最広幅のベルト層の少なくとも一方の、幅方向側縁の半径方向外側を、トレッドゴムの半径方向内側で、タイヤ赤道面に達することなく終了するゴム層で覆」うとの事項の限度で共通するといえる。
以上によれば、本件発明1と引用発明とは以下の点で一致及び相違するといえる。
<一致点>
トレッドゴムを、キャップゴムとベースゴムとの積層構造になるものとするとともに、トレッドゴムの半径方向内側に複数層のベルト層を配設してなる空気入りラジアルタイヤであって、
半径方向最外側のベルト層および、最広幅のベルト層の少なくとも一方の、幅方向側縁の半径方向外側を、トレッドゴムの半径方向内側で、タイヤ赤道面に達することなく終了するゴム層で覆う
空気入りラジアルタイヤ。
<相違点1>
本件発明1は、空気入りタイヤが「四層以上」のベルト層を配設してなる「重荷重用」空気入りラジアルタイヤであるのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1は、ゴム層が「補強ゴム層」であり、「該補強ゴム層を形成する補強ゴムと、前記ベースゴムとの反発弾性率の相対関係を、補強ゴム<ベースゴムの条件を満たすものとしてなる」のに対して、引用発明は、ゴム層が「ベルト上減衰層7」であり、「前記ベルト上減衰層7を形成する高減衰ゴムとトレッドベース層11を形成するベースゴムの、粘弾性スペクトロメータ(岩本製作所製)を使用し、幅5mm、厚さ5mm、試料長20mmの短冊状試料について、初期歪み10%、振動数50Hz、動歪み2%、50℃での条件で測定した損失係数tanδは、それぞれ0.2以上、0.1程度である」点。
(2)判断
ア 相違点1について
例えば、刊行物2及び3に記載されているように、重荷重用タイヤにおいて、三層(3枚)以上のベルト層を配設することは、周知技術ないし技術常識ともいうべき事項といえる。
そして、刊行物1には、「本発明は、ベルト層5が2枚のベルトよりなるものに限定されることなく、…3枚以上よりなるものにも適用可能である。」と記載されているから(上記摘示(1d)参照)、引用発明に上記周知技術ないし技術常識を適用する動機付けは十分あるといえる。
してみると、引用発明において、上記周知技術ないし技術常識に基づいて、四層以上のベルト層を配設してなる重荷重用空気入りラジアルタイヤとして構成することに格別な困難性は見出せない。
この点、特許権者は意見書において、「引用発明はロードノイズ低減を課題とする乗用車用タイヤの発明であり、タイヤの種類や課題の異なる重荷重用タイヤに適用する動機付けはない」旨の主張をしている(意見書4頁12行~5頁末行)ので以下検討する。
引用発明は、その認定のとおり、空気入りラジアルタイヤに関するものであるから、乗用車用に限定する理由はない。そのことは、刊行物1の発明の属する技術分野や発明が解決しようとする課題に関する部分の記載等(段落【0001】~【0007】等)から明らかである。
仮に、乗用車用であるとしても、ロードノイズ低減という課題は、乗用車用に限らず重荷重用を含む空気入りタイヤに共通する課題であることも明らかであるから、引用発明を重荷重用タイヤとして構成する動機付けは十分あるといえる。
また、重荷重用タイヤのベルト層の数が三層(3枚)以上とすることが周知技術ないし技術常識ともいうべき事項であることを考慮すると、刊行物1の摘示(1d)の「本発明は、ベルト層5が2枚のベルトよりなるものに限定されることなく、…3枚以上よりなるものにも適用可能である。」との記載事項は、引用発明に関し、重荷重用タイヤへの適用の示唆を与えるものといえ、引用発明に上記周知技術ないし技術常識を適用することの動機付けの根拠となり得る記載といえる。
よって、上記主張は採用できない。
イ 相違点2について
刊行物4に記載されているように、損失係数tanδと反発弾性率には、一方が大きくなると他方が小さくなるという関係があることは技術常識である。
ここで、引用発明の高減衰ゴムはtanδが0.2以上であり、ベースゴムはtanδが0.1程度であるから、その相対関係は「ベースゴム<高減衰ゴム」という条件を満たす関係になるところ、上記技術常識を参酌すれば、高減衰ゴムの反発弾性率とベースゴムの反発弾性率との相対関係は「高減衰ゴム<ベースゴム」という条件を満たす関係になることは明らかである。
そうすると、反発弾性率に関する、引用発明の「高減衰ゴム」と「ベースゴム」との関係と、本件発明1の「補強ゴム層」と「ベースゴム」との関係において、格別の相違は見出せない。
以上によれば、引用発明の「前記ベルト上減衰層7を形成する高減衰ゴムとトレッドベース層11を形成するベースゴムの、粘弾性スペクトロメータ(岩本製作所製)を使用し、幅5mm、厚さ5mm、試料長20mmの短冊状試料について、初期歪み10%、振動数50Hz、動歪み2%、50℃での条件で測定した損失係数tanδはそれぞれ0.2以上、0.1程度である」ことと、本件発明1の「該補強ゴム層を形成する補強ゴムと、前記ベースゴムとの反発弾性率の相対関係を、補強ゴム<ベースゴムの条件を満たすものとしてなる」こととは実質的に相違しないということができる。
よって、上記相違点2は実質的な相違点ではないといえる。
この点、特許権者は、「刊行物4によって立証されているのは、あくまでも、『同一の測定条件の下では、損失正接tanδと反発弾性率には、一方が大きくなると他方が小さくなるという関係があることが技術常識である』ということに過ぎず、上記のように測定条件が互いに異なる場合にまで、引用発明の高減衰ゴム及びベースゴムの損失正接tanδがそれぞれ0.2以上、0.1程度であることが、反発弾性率について、『高減衰ゴム<ベースゴム』となることに等しいことの根拠になるとはいえません。よって、引用発明における高減衰ゴム及びベースゴムは、『JIS K 6255-1996に準拠して、リュプケ反発弾性率試験で測定した』反発弾性率の相対関係が、本件発明1で規定される、補強ゴム及びベースゴムの反発弾性率の相対関係と同一になることが明らかであるとはいえません。」と主張している(意見書7頁10~20行)ので以下検討する。
刊行物4は、タイヤメーカーである横浜ゴム株式会社を著作者とする「自動車用タイヤの研究」というタイヤに特化した書籍であるところ、その155頁には、図5-6とともに、以下の事項が記載されているのであって、特許権者がいう「損失正接tanδと反発弾性率には、一方が大きくなると他方が小さくなるという関係」が「同一の測定条件の下」で成り立つなどということは記載されていないし、かかる関係が成り立たないと解すべき特段の事情も見当たらない。
<図5-6の記載事項>
そして、反発弾性率と損失正接tanδとは、大小が逆の関係にあることは、REB(反発弾性率)=exp(-πtanδ)という技術常識ともいえる換算式で知られているとおりである。
よって、上記主張は採用できない。
(3)小括
以上より、本件発明1は、引用発明及び周知技術ないし技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件発明1の奏する効果は、引用発明及び周知技術ないし技術常識から予測しうるものであり、格別顕著であるとはいえない。
2 本件発明2について
(1)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
本件発明2は本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明2と引用発明とを対比すると、両者は上記「1(1)」で述べた一致点で一致し、相違点1及び2で相違し、さらに、以下の相違点3で相違するといえる。
<相違点3>
本件発明2は、「補強ゴム層の最大厚み部分を、半径方向最外側のベルト層および、最広幅のベルト層のいずれの幅方向側縁位置よりもトレッド幅方向の内側に位置させてなる」との事項を備えているのに対し、引用発明はそのような事項を備えているか不明な点。
異議申立人は、異議申立書において、上記相違点3に係る本件発明2の構成について、「甲第6号証(特開2007-196866号公報)には、『補強ゴム層の最大厚み部分は、最広幅のベルト層の幅方向側縁位置よりもトレッド幅方向の内側に位置させる』という点が記載されている。
甲第6号証記載事項を甲1発明に組み合わせることは容易想到である。」(異議申立書3頁の表の3列2行目の欄)と異議申立の理由を述べているので、これについて以下検討する。
刊行物3(甲第6号証)の段落【0024】には、「第2、第3のベルトプライ7B、7C間かつタイヤ軸方向外端部に補強ゴム層10を配している」と記載されており、図2から、補強ゴム層10の最大厚み部分は、本件発明2の「最広幅ベルト」にあたる第2のベルトプライ7Bの幅方向側縁位置よりもトレッド幅方向の内側に位置させていることが看て取れるが、刊行物3に記載の発明は、「ベルト層の拘束力を広範囲に亘ってバランス良く高めることができ、特に偏平率が50%以下の偏平重荷重用ラジアルタイヤにおいて、トレッド部の外径成長、とりわけトレッドショルダー域での外径成長を抑制し、偏摩耗、ベルト端剥離、及びトレッド溝底におけるクラック等の発生を防止しうる重荷重用ラジアルタイヤを提供すること」(段落【0005】)を目的とするものであり、引用発明は、「タイヤの他性能を損なうことなく、高周波ロードノイズを低減させること」(段落【0007】)を目的とするものであるから、目的において両者は異なること、また、刊行物3に記載されている「補強ゴム層10」(ゴム硬度65~75度、複素弾性率6~12MPa)は「ベースゴム部2Gb」(ゴム硬度64度、複素弾性率約5MPa)よりも硬質かつ高弾性に設定されているところ(段落【0024】【0026】)、反発弾性率の大小関係については不明であり、両者の物性が同一のものであるとは直ちに認められないことから、引用発明に刊行物3に記載の補強ゴム層10に係る技術を適用する動機付けは存在しないし、仮に適用できたとしても上記相違点3に係る本件発明2の構成が導き出せるということもできない。
また、他に上記相違点3に係る本件発明2の構成が記載ないし示唆される証拠も存在しない。
よって、上記主張は採用できず、本件発明2は、引用発明等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)小括
以上のとおりであるから、特許異議申立理由によって請求項2に係る特許を取り消すことはできない。
3 本件発明3について
(1)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
本件発明3は本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明3と引用発明とを対比すると、両者は上記「1(1)」で述べた一致点で一致し、相違点1及び2で相違し、さらに、少なくとも以下の相違点4で相違するといえる。
<相違点4>
本件発明3は、「補強層ゴム層を形成する補強ゴムの反発弾性率を70%以下としてなる」との事項を備えているのに対し、引用発明はそのような事項を備えているか不明な点。
異議申立人は、異議申立書において、上記相違点4に係る本件発明3の構成について、「甲第7号証(特開2009-052158号公報)には、『コーティングゴムの反発弾性率が70%以下』である点が記載されている。 ベルト層の端部を覆う補強ゴム層において、反発弾性率が70%以下である補強ゴムを使用することは通常に行われていることである。『70%以下』であることの臨界的意義が不明確であり設計的事項である。」(異議申立書3頁の表の3列3行目の欄)と異議申立の理由を述べているので、これについて以下検討する。
甲第7号証(特開2009-052158号公報)には、「コーティングゴムは、反発弾性率が60%以上であることが好ましい」(段落【0065】)との事項が記載されている。
しかしながら、かかるコーティングゴムは、有機繊維コードを被覆するものであり、有機繊維コードと一体の複合体として構成されるものであり(【請求項1】)、本件発明3の「補強層ゴム層」や引用発明の「ベルト上減衰層7」に直ちに相当するものとはいえないから、引用発明に甲第7号証に記載の上記事項を適用しても相違点4に係る本件発明3の構成には至らないというべきである。
また、「ベルト層の端部を覆う補強ゴム層において、反発弾性率が70%以下である補強ゴムを使用することは通常に行われている」ことを認めるに足りる証拠もなく、設計的事項であるとする根拠もない。
さらに、他に上記相違点4に係る本件発明3の構成が記載ないし示唆される証拠も存在しない。
よって、上記主張は採用できず、本件発明3は、引用発明等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)小括
以上のとおりであるから、特許異議申立理由によって請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
4 本件発明4について
(1)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
本件発明4は本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明4と引用発明とを対比すると、両者は上記「1(1)」で述べた一致点で一致し、相違点1及び2で相違し、さらに、少なくとも以下の相違点5で相違するといえる。
<相違点5>
本件発明4は、「補強層ゴム層の幅(W)を、トレッド踏面幅(W)の15~25%範囲としてなる」との事項を備えているのに対し、引用発明はそのような事項を備えているか不明な点。
異議申立人は、異議申立書において、上記相違点5に係る本件発明4の構成について、「甲第8号証(特開昭61-135803号公報)には、『ベースゴムがトレッド端からタイヤ内面に下した垂線をほぼ中心としてその両側にトレッド幅の15~50%の幅で両側に振り分けられる』という点が記載されている。
甲第1号証の図1又は甲第6号証の図1において『補強ゴム層の幅はトレッド踏面幅の15~25%範囲』である。
ベルト層の端部を覆う補強ゴム層において、補強ゴム層の幅をトレッド踏面幅の15~25%範囲にすることは通常に行われていることである。『15~25%範囲』であることの臨界的意義が記載されてなく設計的事項である。」(異議申立書3頁の表の3列4行目の欄)と異議申立の理由を述べているので、これについて以下検討する。
甲第8号証には、上記の点が記載されているが、この記載におけるベースゴムはそもそも本件発明4の「補強層ゴム層」や引用発明の「ベルト上減衰層7」に相当するものといえず、むしろトレッドゴムを構成する「ベースゴム」に対応するものというべきであるから、かかる記載に基づき、相違点5に係る本件発明4の構成が容易に想到しうるということはできない。
また、甲第1号証の図1及び甲第6号証の図1から、異議申立人が主張するような具体的な寸法を読み取ることはできない。
さらに、「ベルト層の端部を覆う補強ゴム層において、補強ゴム層の幅をトレッド踏面幅の15~25%範囲にすることは通常に行われていることである」ことを認めるに足りる証拠もなく、設計的事項であるとする根拠もない。
そして、他に上記相違点5に係る本件発明4の構成が記載ないし示唆される証拠も存在しない。
よって、上記主張は採用できず、本件発明4は、引用発明等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)小括
以上のとおりであるから、特許異議申立理由によって請求項4に係る特許を取り消すことはできない。
5 本件発明5について
(1)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
本件発明5は本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明5と引用発明とを対比すると、両者は上記「1(1)」で述べた一致点で一致し、相違点1及び2で相違し、さらに、少なくとも以下の相違点6で相違するといえる。
<相違点6>
本件発明5は、「補強ゴム層の最大厚み(t)を、タイヤ赤道線から、トレッド踏面幅の1/4の位置に存在する幅方向溝の溝深さの7~15%の範囲としてなる」との事項を備えているのに対し、引用発明はそのような事項を備えているか不明な点。
異議申立人は、異議申立書において、上記相違点6に係る本件発明5の構成について、「甲第8号証には、『補強ゴム層の最大厚みが幅方向溝の溝深さよりも浅い』という点が記載されている。
補強ゴム層において、幅方向溝の溝深さの7~15%の範囲である補強ゴム層を使用することは通常に行われていることである。『7~15%の範囲』について臨界的意義が不明確であり設計的事項である。」(異議申立書3頁の表の3列5行目の欄)と異議申立の理由を述べているので、これについて以下検討する。
上記「4(1)」で述べたように、甲第8号証の「ベースゴム」は、そもそも本件発明5の「補強ゴム層」や引用発明の「ベルト上減衰層7」に相当するものとはいえず、むしろトレッドゴムを構成する「ベースゴム」に対応するものというべきである。また、甲第8号証には、「このベースゴム5bは、第1図のa-a断面つまり、トレンッド端からタイヤの内面に下した垂線を母線として仮想される円錐面c内にあらわれるラグの直下の平均厚みhAが、ラグ溝の直下の平均厚みhBよりも大きく、hA/hB比で好ましくは1.1~3.0、さらに好ましくは1.5~2.5となるものとする。」(3頁左上欄9~15行)と記載されているが、ラグ溝の溝深さとベースゴム5bの最大厚みの大小関係について直接記載されておらず、仮に第1図から、その大小関係が看取できたとしても、上記相違点6に係る本件発明5の構成が記載されているとは認め難い。
以上より、甲第8号証の記載に基づき、相違点6に係る本件発明5の構成が容易に想到しうるということはできない。
また、「補強ゴム層において、幅方向溝の溝深さの7~15%の範囲である補強ゴム層を使用することは通常に行われていることである」ことを認めるに足りる証拠もなく、設計的事項であるとする根拠もない。
さらに、他に上記相違点6に係る本件発明5の構成が記載ないし示唆される証拠も存在しない。
よって、本件発明5は、引用発明等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)小括
以上のとおりであるから、特許異議申立理由によって請求項5に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1に係る発明は、引用発明及び周知技術ないし技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件請求項2ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-700562