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特許異議申立

2017-700649

空気入りタイヤ

審判番号
2017-700649
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2014-118931
登録番号
特許第6054910号(P6054910)
請求日
2017年06月26日
審決日
2018年12月17日
公報発行日
2019年03月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社ブリヂストン
  • 【権利者代理人】本多 一郎
  • 【異議申立人】小林 敏樹
審判長/審判官
  • 審判長 和田 雄二
  • 審判官 尾崎 和寛
  • 審判官 氏原 康宏
分類
P1651.121-YAA(B60C) / P1651.851-YAA(B60C) / P1651.852-YAA(B60C) / P1651.853-YAA(B60C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6054910号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6054910号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。 特許第6054910号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6054910号の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成24年6月29日に出願した特願2012-148041号の一部を平成26年6月9日に新たな特許出願としたものであって、平成28年12月9日にその特許権の設定登録がされ、平成28年12月27日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は次のとおりである。 平成29年6月26日   :特許異議申立人小林敏樹(以下、「異議申立 人」という。)による特許異議の申立て 平成29年9月21日付け :取消理由通知書 平成29年11月27日  :意見書、訂正請求書(特許権者) 平成29年12月14日付け:特許法第120条の5第5項の通知書 平成30年1月18日   :意見書(異議申立人) 平成30年3月29日付け :取消理由通知書(決定の予告) 平成30年6月1日    :意見書(特許権者) 平成30年8月2日    :上申書(特許権者) 平成30年8月30日付け :審尋(異議申立人) 平成30年10月9日   :回答書(異議申立人) 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成29年11月27日に提出された訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%。動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%であることを特徴とする空気入りタイヤ。」とあるのを、「トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%であり、 カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であることを特徴とする空気入りタイヤ。 」に訂正する。 (2)訂正事項2 願書に添付した明細書の段落【0008】の「すなわち、本発明の空気入りタイヤは、トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%。動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%であることを特徴とするものである。」との記載を、「すなわち、本発明の空気入りタイヤは、トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%であり、 カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であることを特徴とするものである。」に訂正する。 (3)訂正前の請求項1~3について、請求項2及び3は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にある。 したがって、本件訂正請求のうち、特許請求の範囲の訂正(訂正事項1)は、一群の請求項1~3についてされており、また、明細書の訂正(訂正事項2)は、一群の請求項の全てについて行うものである。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について ア.訂正の目的 訂正前の請求項1に係る発明では、空気入りタイヤのベルト層に関して何ら特定されていなかった。 これに対して、本件訂正後の請求項1に係る発明では、空気入りタイヤにおいて、カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であるという限定を付すものである。 また、訂正前の請求項1の「60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%。」という記載の「。」を「、」と訂正するものである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とするものであるといえる。 イ.新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1の、ベルト層の特定については、本件訂正前の明細書の段落【0025】及び【0027】の記載に基づくものであるといえるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 さらに、訂正事項1により、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア.訂正の目的 訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。 したがって、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。 イ.新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないといえる。 (3)小括 上記(1)及び(2)より、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1、2及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 上記「第2」のとおり、本件訂正請求は認められるので、本件訂正請求により訂正された請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%であり、 カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層であることを特徴とする空気入りタイヤ。 【請求項2】 トレッド幅方向両外側の2列の陸部をショルダー陸部、該ショルダー陸部に挟まれた2列の陸部をセンター陸部としたとき、全陸部に対する2列の前記ショルダー陸部の割合がそれぞれ20~35%であり、全陸部に対する2列の前記センター陸部の割合がそれぞれ15~30%である請求項1記載の空気入りタイヤ。 【請求項3】 前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が25~30%である請求項1または2記載の空気入りタイヤ。」 第4 取消理由の概要 訂正後の請求項1~3に係る特許に対して、当審が平成30年3月29日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。 [取消理由]本件特許の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1~6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 また、本件特許の請求項2及び3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1~7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 記 刊行物1:特開平7-81303号公報 刊行物2:特開平5-25327号公報 刊行物3:特開2005-8804号公報 刊行物4:特開平9-67469号公報 刊行物5:自動車用タイヤの基礎と実際 編著者:株式会社ブリヂストン 発行所:学校法人東京電機大学 東京電気大学出版局 2008年 4月10日 第1版1刷発行、 2012年12月10日 第1版4刷発行、 283頁-285頁 刊行物6:特開2002-29215号公報 刊行物7:特開2009-161112号公報 なお、刊行物1~7は、それぞれ、異議申立人による特許異議申立書での甲第1~7号証である。 第5 当審の判断 1.刊行物1の記載 刊行物1には、図面とともに次の記載がある(下線は当審で付した。)。 (i)「【請求項1】 トレッド面の接地形状を、接地幅中心を通るタイヤ周方向の接地長を最大とし、前記接地幅中心から左右両側に向かうほど徐々に短かくなる形状にした空気入りタイヤにおいて、 前記タイヤ周方向の最大接地長Mと前記接地幅中心から左右両側へそれぞれ接地最大半幅の90%の位置におけるタイヤ周方向の接地長mとの両接地長の比m/Mを0.65~0.80にすると共に、全接地領域の全接地部溝面積率を20~50%とし、かつ接地最大幅Wの40%の幅に相当する接地中央部領域の中央部溝面積率を前記全接地部溝面積率よりも小さくした空気入りタイヤ。」 (ii)「【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は転がり抵抗の悪化を抑制しながら、ウェット性能を向上するようにした空気入りタイヤを提供することにある。」 (iii)「【0006】 本発明において、タイヤの接地形状とはタイヤにJATMAに規定する設計常用荷重に対応する空気圧を充填し、設計常用荷重の85%の荷重を負荷したときに、トレッド面が平坦な路面に形成する形状のことをいう。以下、図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は本発明タイヤのトレッドパターンの一例を示し、タイヤ周方向に延びる3本の主溝1とこれら主溝1相互間及び主溝1と左右両側の接地端との間を繋ぐ副溝2が設けられ、これら主溝1と副溝2とで区分されたブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をなすブロックパターンを形成している。」 (iv)「【0008】・・・しかし、m/M=0.65~0.80にしただけでは、0.8~0.9の従来タイヤに比べてウェット性能の向上効果が十分ではないため、トレッド面の全接地部溝面積率を20~50%にすると共に、接地最大幅Wの40%に相当する中央部領域Eにおける中央部溝面積率を全接地部溝面積率よりも小さくすることにより一層の向上を可能にする。・・・」 (v)「【0009】・・・キャップトレッドゴムとして・・・ゴム組成物を使用することが望ましい。」 2.刊行物1に記載の発明 以上の記載事項、および図示内容からみて、本件発明1の記載ぶりに倣って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 〔引用発明〕 「トレッドパターン幅内に設けられた3本のタイヤ周方向に延びる主溝1と、該主溝1相互間及び主溝1と左右両側の接地端との間を繋ぐ副溝2が設けられ、これら主溝1と副溝2とで区分されたブロック3と、該ブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をなす、空気入りタイヤにおいて、 キャップトレッドゴムがゴム組成物であり、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、前記3本の主溝1と前記副溝2とで区分された前記ブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をなし、トレッド面の全接地部溝面積率が20~50%である空気入りタイヤ。」 3.対比・判断 (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と引用発明とを対比する。 (ア)後者の「空気入りタイヤ」は、前者の「空気入りタイヤ」に相当する。 (イ)後者の「トレッドパターン」は、トレッド面の接地形状のことであるから(摘記1.(i)、(iii))、前者の「トレッド接地面」に相当する。また、「タイヤ周方向に延びる主溝1」は、機能または構造からみて、前者の「周方向主溝」に相当する。そして、後者において、主溝1が3本であるということは、主溝1が複数本あるといえるから、後者の「3本のタイヤ周方向に延びる主溝1」ないし「3本の主溝」は、前者の「複数本の周方向主溝」に相当する。 (ウ)後者の「主溝1と副溝2とで区分されたブロック3」が「タイヤ周方向に4列のブロック列をなす」ことで、周方向によって区画された陸部を形成しているといえるから、後者の「ブロック列」は前者の「陸部」に相当し、したがって、後者の「該主溝1相互間及び主溝1と左右両側の接地端との間を繋ぐ副溝2が設けられ、これら主溝1と副溝2とで区分されたブロック3と、該ブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をなす」は、前者の「該周方向溝によって区画された陸部と、を有する」に相当する。 (エ)キャップトレッドゴムがタイヤのトレッドを構成するものであることは当業者には明らかであるから、後者の「キャップトレッドゴムがゴム組成物であり」と前者の「前記トレッドを構成するトレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であり」とは、「前記トレッドをトレッドゴムで構成し」の限りにおいて共通する。 (オ)上記(ウ)での説示を踏まえると、後者の「前記トレッドの接地幅内が、前記3本の主溝1と前記副溝2とで区分された前記ブロック3がタイヤ周方向に4列のブロック列をな」すことは、前者の「トレッド接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有」することに相当する。 (カ)前者の「ネガティブ率」は、「トレッドの接地面幅w内の全面積に対する全溝面積(図示例においては、周方向溝1、および幅方向溝3a、3bの面積の合計)の割合」(本件の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0016】)を意味するから、後者の「トレッド面の全接地部溝面積率」は前者の「トレッドの接地幅内におけるネガティブ率」に相当するところ、後者の「トレッド面の全接地部溝面積率を20~50%である」と前者の「トレッドの接地幅内におけるネガティブ率が20~40%である」とは、「トレッドの接地幅内におけるネガティブ率を定める」の限りにおいて共通する。 (キ)そうすると、両者の一致点および相違点は次のとおりといえる。 [一致点] 「トレッドの接地面幅内に設けられた複数本の周方向主溝と、該周方向溝によって区画された陸部と、を有する空気入りタイヤにおいて、 前記トレッドをトレッドゴムで構成し、かつ、 前記トレッドの接地幅内が、3本の周方向溝と、該3本の周方向溝によって区画された4列の陸部と、を有し、前記トレッドの接地幅内におけるネガティブ率を定める空気入りタイヤ。」 [相違点1] 「トレッドゴム」に関し、 本件発明1は、「0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが1.00以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であ」るのに対し、引用発明は、かかるtanδの値が特定されていない点。 [相違点2] 「ネガティブ率」に関し、 本件発明1は、「20~40%」であるのに対し、引用発明は、「20~50%」である点。 [相違点3] 本件発明1は、「カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層が、タイヤ周方向に対し、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層である」という構成を備えるものであるのに対し、引用発明はかかる構成について特定されていない点。 イ.判断 相違点1について検討する。 (ア)刊行物1の段落【0009】、刊行物2の段落【0002】、【0005】、および、刊行物5の記載内容からすれば、空気入りタイヤにおいて、転がり抵抗の低減のためには60℃でのtanδを小さく、ウェット(ブレーキ)性能向上のためには0℃でのtanδを大きくすれば良いということは、本件出願前、当業者には周知の技術事項であったといえる。 ここで、引用発明の技術的課題は、「転がり抵抗の悪化を抑制しながら、ウェット性能を向上するようにした空気入りタイヤを提供する」ことである(刊行物1の段落【0002】,【0003】、参照。)から、当業者は、上記周知の技術事項を引用発明に適用し、引用発明の課題を解決しようとする動機付けはあったといえる。 しかしながら、本件発明1は、「従来よりもウェットブレーキ性能を向上させ、かつ、転がり抵抗を低減させた空気入りタイヤを提供する」ために(本件明細書段落【0006】)、特定の測定条件下でのトレッドゴムのtanδの値を発明特定事項としている。すなわち、「トレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.90以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であ」るとしている。 これに対して、刊行物1の表2、および、刊行物2の【表2】には、60℃でのtanδが0.12に近似した値が示されており、刊行物3の【表1】、および、刊行物4の表I、表IIには、0℃でのtanδが1.00に近似した値が示されているものの、いずれも、0℃でのtanδが1.00以上であり、60℃でのtanδが0.12以下というものではないし、しかも、トレッドゴムの測定条件を周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件としたものではない。 したがって、引用発明に、刊行物1~5に記載の技術事項を適用しても相違点1に係る本件発明1の構成に達し得ない (イ)ここで、ゴムのtanδを測定する条件として、ゴムを使用するタイヤの実際の走行状態を見据えた条件を設定することが通常であり(特開2011-89788号公報の段落【0003】)、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%という測定条件が本件出願前当業者によって既に採用されていた測定条件であったとしても(特開2011-190329号公報の段落【0057】、特開2009-91410号公報の段落【0055】、特開2009-91409号公報の段落【0053】、特開2011-140258号公報の段落【0054】、特開2011-84222号公報の段落【0055】、特開2010-270175号公報の段落【0177】)、ゴムのtanδの値が測定条件(周波数、歪)によって大きく変わるものであるという当業者における技術的知見(「新版 ゴム技術の基礎」(社団法人日本ゴム協会編 平成11年4月30日発行)第77頁の式(4.64及び4.65)、第82頁の図4.14、第84頁の図4.16、特開2004-115751号公報の【図2】、【図4】、特開2007-130781号公報の【図2】)からすれば、刊行物1~4には、トレッドゴムの0℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.90以上であり、60℃、周波数52Hz、初期歪2.0%、動歪率1.0%の条件におけるtanδが0.12以下であるとするものが示唆されているともいえない。 したがって、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは、刊行物1~5に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるともいえない。 なお、刊行物6にも、相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。 (ウ)以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1に記載の発明および刊行物1~6に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み更に限定構成を付加するものものであるから、本件発明2及び3と引用発明1との間には、少なくとも、上記(1)ア.の相違点1~3が存在する。 そうすると、上記(1)イ.で述べたように、相違点1に係る本件発明1の構成が刊行物1に記載の発明及び刊行物1~6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないし、刊行物7にも相違点1に係る本件発明1の構成が記載も示唆もされていない以上、本件発明2及び3は、刊行物1に記載の発明及び刊行物1~7に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によっては、本件請求項1~3に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-700649

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