特許異議申立
2017-700660
ポリアクリルアミド樹脂、製紙添加剤および紙
- 審判番号
- 2017-700660
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-564348外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年06月30日
- 審決日
- 2018年02月22日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ハリマ化成株式会社
- 【権利者代理人】岡本 寛之
- 【権利者代理人】宇田 新一
- 【異議申立人】星光PMC 株式会社
- 【異議申立人代理人】蔦 康宏
- 分類
- P1651.113-YAA(C08F) / P1651.121-YAA(C08F) / P1651.537-YAA(C08F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第2項、特許法第113条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6059853号発明「ポリアクリルアミド樹脂、製紙添加剤および紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6059853号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第6059853号の請求項1~4に係る発明についての特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6059853号(請求項の数4。以下,「本件特許」という。)は,平成28年10月14日(優先権主張:平成27年10月30日)を国際出願日とする特許出願(特願2016-564348号)に係るものであって,平成28年12月16日に設定登録されたものである。
その後,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許に対して,特許異議申立人(以下,「申立人」という。)である星光PMC株式会社により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。
平成29年 6月30日 特許異議申立書
9月28日 取消理由通知書
11月20日 意見書,訂正請求書
12月11日 通知書(訂正請求があった旨の通知)
平成30年 1月10日 意見書(申立人)
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成29年11月20日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種と,下記式(5)で示される第2ユニットとを有する」と記載されているのを,「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種と,下記式(5)で示される第2ユニットとを有するポリアクリルアミド樹脂であり,前記ポリアクリルアミド樹脂において,前記第1ユニットが,0.01~30モル%であり,前記第2ユニットが,0.1~30モル%であり,前記ポリアクリルアミド樹脂の重量平均分子量が,450万以上750万以下である」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0157】,【0166】,【0173】,【0181】及び【0182】において,「実施例1」,「実施例2」と記載されているのを,それぞれ,「参考例1」,「参考例2」に訂正する。また,【0185】の「各実施例」との記載を,「各実施例,各参考例」に訂正する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1に対して,「前記ポリアクリルアミド樹脂において,前記第1ユニットが,0.01~30モル%であり,前記第2ユニットが,0.1~30モル%であり,」との記載及び「前記ポリアクリルアミド樹脂の重量平均分子量が,450万以上750万以下である」との記載を追加するものである。
イ この訂正は,訂正前の請求項1における「第1ユニット」及び「第2ユニット」について,それらの存在割合を,それぞれ,「0.01~30モル%」及び「0.1~30モル%」に限定するとともに,同「ポリアクリルアミド樹脂」について,その「重量平均分子量」を「450万以上750万以下」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
ウ 本件特許の願書に添付した明細書には,以下の記載がある。
「このようなポリアクリルアミド樹脂は,例えば,第1ユニットを形成するための第1重合性化合物と,第2ユニットを形成するための第2重合性化合物と含む重合成分の重合体として得ることができる。」(【0035】)
「第1重合性化合物の含有割合は,重合成分の総モルに対して,例えば,0.01モル%以上,好ましくは,0.1モル%以上であり,例えば,30モル%以下,好ましくは,15モル%以下である。」(【0042】)
「第2重合性化合物の含有割合は,重合成分の総モルに対して,例えば,0モル%以上,好ましくは,0.1モル%以上であり,例えば,30モル%以下,好ましくは,15モル%以下である。」(【0048】)
以上の記載によれば,同明細書には,第1ユニットを形成するための第1重合性化合物の含有割合が「0.01~30モル%」であり,第2ユニットを形成するための第2重合性化合物の含有割合が「0.1~30モル%」であることが記載されているといえるが,これらの含有割合が,それぞれ,第1ユニットの存在割合及び第2ユニットの存在割合に相当するものであることは,明らかであるから,同明細書には,「前記第1ユニットが,0.01~30モル%」であり,「前記第2ユニットが,0.1~30モル%」であることが記載されているということができる。
また,同明細書には,「また,ポリアクリルアミド樹脂の重量平均分子量は,・・・とりわけ好ましくは,450万以上であり,・・・さらに好ましくは,750万以下・・・である。」(【0134】)との記載がある。
以上によれば,上記訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は,上記の訂正事項1による訂正に合わせて,願書に添付した明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また,この訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について,請求項2~4は,請求項1を引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。
また,上記の訂正事項2に係る訂正は,願書に添付した明細書を訂正するものであるが,いずれも一群の請求項である訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4に関係する訂正である。そして,本件訂正は,明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われている。
3 まとめ
上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書き1号又は3号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条4項に適合するとともに,同条9項において準用する同法126条4項ないし6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。
第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1~4に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ項番に従い「本件発明1」等という。また,本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種と,
下記式(5)で示される第2ユニットとを有するポリアクリルアミド樹脂であり,
前記ポリアクリルアミド樹脂において,前記第1ユニットが,0.01~30モル%であり,前記第2ユニットが,0.1~30モル%であり,
前記ポリアクリルアミド樹脂の重量平均分子量が,450万以上750万以下である
ことを特徴とする,ポリアクリルアミド樹脂。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(上記式(1)~(4)中,R1は,水素原子,メチル基,エチル基またはベンジル基を示し,R2およびR3は,それぞれ独立して,水素原子,メチル基,エチル基またはベンジル基を示し,Xは,アニオンを示す。)
【化5】
(上記式(5)中,R4は,水素原子またはメチル基を示し,R5は,水素原子,アルカリ金属イオン,または,アンモニウムイオンを示す。)
【請求項2】
上記式(3)または上記式(4)で示され,かつ,XがCl-を示す第1ユニットを有する,請求項1に記載のポリアクリルアミド樹脂。
【請求項3】
請求項1に記載のポリアクリルアミド樹脂を含有することを特徴とする,製紙添加剤。
【請求項4】
請求項1に記載のポリアクリルアミド樹脂を含有することを特徴とする,紙。
第4 特許異議の申立ての概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件発明1~4は,下記(1)~(7)のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許は,特許法113条2号又は4号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記(8)の甲第1号証~甲第3号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出する。
(1)取消理由1-1(新規性)
本件発明1~4は,甲1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。
(2)取消理由1-2(新規性)
本件発明1~4は,甲2に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。
(3)取消理由2-1(進歩性)
本件発明1~4は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(4)取消理由2-2(進歩性)
本件発明1~4は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(5)取消理由2-3(進歩性)
本件発明1~4は,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(6)取消理由2-4(進歩性)
本件発明1~4は,甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(7)取消理由3(サポート要件)
本件発明1~4については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。
(8)証拠方法
・甲1 特開2002-317393号公報
・甲2 特開2000-8293号公報
・甲3 特開昭64-61596号公報
2 取消理由通知書に記載した取消理由
上記1の取消理由1-1(新規性),同取消理由2-1(進歩性),同取消理由3(サポート要件)(うち,各ユニットの存在割合に関するもの)と同旨。
第5 当審の判断
以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
1 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1-1(新規性)
ア 甲1に記載された発明
甲1の記載(【0044】(合成例2)等)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「65%ジアリルジメチルアンモニウムクロライド23.2g(5.0モル%),50%アクリルアミド水溶液162.9g(61.3モル%),5%メタアリルスルホン酸ナトリウム2.4g(0.04モル%),0.5%トリアクリルホルマール5.6g(0.006モル%)を重合させて,ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドをモノマーユニットとして含有するカチオン性アクリルアミド系樹脂を形成し,更に,50%アクリルアミド水溶液81.5g(30.7モル%),イタコン酸7.3g(3モル%),5%メタアリルスルホン酸ナトリウム1.2g(0.02モル%),0.5%トリアクリルホルマール2.8g(0.003モル%),40%グリオキシル酸1.7g(0.5モル%)を反応させて得られた,アクリルアミド系樹脂。」(以下,「甲1発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明は,「ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドをモノマーユニットとして含有するカチオン性アクリルアミド系樹脂」である構造を有していることから,少なくとも,「ジアリルジメチルアンモニウムクロライド」から形成されるユニットと,「アクリルアミド」から形成されるユニットを有していることは,明らかである。
そして,甲1発明における「ジアリルジメチルアンモニウムクロライド」から形成されるユニットは,本件発明1における「下記式(3)~(4)で示される第1ユニット」(注:式は省略。以下同様。)において,「R2およびR3は,・・・メチル基,・・・を示し,Xはアニオンを示す。」場合に相当する。
また,甲1発明における「アクリルアミド系樹脂」は,本件発明1における「ポリアクリルアミド樹脂」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,少なくとも,
「下記式(3)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種を有する,ポリアクリルアミド樹脂。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,「下記式(5)で示される第2ユニット」を有するのに対して,甲1発明では,当該第2ユニットを有することは特定されていない点。
・相違点2
本件発明1では,ポリアクリルアミド樹脂の重量平均分子量が,「450万以上750万以下」であるのに対して,甲1発明では,重量平均分子量が特定されていない点。
(イ)相違点の検討
事案に鑑み,まず,相違点2について検討する。
甲1には,甲1発明に係るアクリルアミド系樹脂の重量平均分子量については,何ら記載されていない。また,甲1発明に係るアクリルアミド系樹脂であれば,必ず,重量平均分子量が「450万以上750万以下」となることが,技術常識であるともいえない。
以上によれば,相違点2は,実質的な相違点であるから,相違点1について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明と同一ではない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明とはいえない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人は,甲1発明は一般的な実施方法のひとつを示しており,実施例でも特別な合成方法を用いるものではなく,本件発明1において実施例などを参酌しても特別な合成方法を採用するものではないから,一般的な合成方法によって得られるものであり,本件発明1と甲1発明とは,同一の重量平均分子量を有している蓋然性が極めて高いといえるので,実質的に違いはないと主張する。
しかしながら,申立人が主張するように,本件発明1と甲1発明とが,いずれも,特別な合成方法を用いるものではなく,一般的な合成方法によって得られるものであるとしても,そうであるからといって,本件発明1と甲1発明とが,必ず,同一の重量平均分子量を有しているとはいえない。
よって,申立人の主張は理由がない。
b 申立人は,本件明細書に記載された比較例2,4及び6や,参考文献1(特許第5618213号公報)の実施例3~9や,特開2014-196588号公報の実施例7などを考慮すれば,製紙添加材として用いられるポリアクリルアミド樹脂の重量平均分子量が「450万以上750万以下」という限定は,ごくありふれた一般的な範囲にすぎないと主張する。
しかしながら,申立人が主張するように,製紙添加材として用いられるポリアクリルアミド樹脂の重量平均分子量として,「450万以上750万以下」がごくありふれた一般的なものであるとしても,そうであるからといって,甲1発明に係るアクリルアミド系樹脂の重量平均分子量が,必ず,「450万以上750万以下」であるとはいえない。
よって,申立人の主張は理由がない。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は,本件発明1を引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明2~4についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえない。
エ まとめ
以上のとおり,本件発明1~4は,いずれも,甲1に記載された発明であるとはいえない。
したがって,取消理由1-1によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
(2)取消理由2-1(進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明とは,少なくとも,上記(1)イ(ア)で認定したとおりの一致点で一致し,少なくとも,同相違点1及び2で相違する。
(イ)相違点1及び2の検討
本件発明1は,ポリアクリルアミド樹脂に関するものであるところ,本件明細書の記載(【0017】,【0035】,【0042】,【0048】,【0124】~【0126】,【0134】,【0135】,【0140】,参考例1,2,実施例3~11,比較例1~6)によれば,「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種と,下記式(5)で示される第2ユニットとを有する」とともに,第1ユニットの存在割合を「0.01~30モル%」とし,第2ユニットの存在割合を「0.1~30モル%」とし,重量平均分子量を「450万以上750万以下」とすることによって,紙の製造に用いた場合に,紙の内部結合強度の向上を図ることができ,かつ,濾水性の向上を図ることができるというものと解される。
一方,甲1には,このような事項については何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
そうすると,甲1発明において,アクリルアミド系樹脂につき,「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種」に加え,「下記式(5)で示される第2ユニット」をも有するものとした上で,それら第1ユニット及び第2ユニットの存在割合を,それぞれ,「0.01~30モル%」及び「0.1~30モル%」とし,重量平均分子量を「450万以上750万以下」とすることが,当業者が容易に想到することができたとはいえない。そして,本件発明1は,上記第1ユニット及び第2ユニットの両方を有することにより,いずれか一方を有さない場合と比べて,紙の製造に用いた場合に,より紙の内部結合強度の向上を図ることができ,かつ,より濾水性の向上を図ることができるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(表1~3,【0198】~【0203】)。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人は,本件発明1における重量平均分子量について,上限値である「750万以下」には,臨界的な数値限定の意義は認められないと主張するが,重量平均分子量の上限値についての臨界的な意義の有無にかかわらず,本件発明1が,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは,上記(イ)のとおりである。
よって,申立人の主張は理由がない。
b 申立人は,甲1発明において,ポリアクリルアミド樹脂の重量平均分子量を「450万以上750万以下」とすることは,新たに提出した参考資料1(特許第5618213号公報)に基づき,当業者が容易に想到することであると主張するが,上記(イ)のとおり,少なくとも,本件発明1は,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものであるから,本件発明1が,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって,申立人の主張は理由がない。
イ 本件発明2~4について
本件発明2~4は,本件発明1を引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2~4についても同様に,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ まとめ
以上のとおり,本件発明1~4は,いずれも,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由2-1によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
(3)取消理由3(サポート要件)(うち,各ユニットの存在割合に関するもの)
ア 本件明細書の記載(【0006】)によれば,本件発明1の課題は,紙の強度,とりわけ,内部結合強度の向上を図ることができ,かつ,濾水性の向上を図ることができるポリアクリルアミド樹脂を提供することであると認められる。
このような課題に対して,本件明細書には,以下の記載がある。
「そして,このようにして得られるポリアクリルアミド樹脂は,上記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種と,上記式(5)で示される第2ユニットとを有しているため,紙の製造に用いた場合に,紙の強度,とりわけ,紙の内部結合強度の向上を図ることができ,かつ,濾水性の向上を図ることができる。」(【0140】)
「すなわち,(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位は,上記した重合体において主要な構成単位であって,重合体中に均一に分布する。」(【0124】)
「そのため,上記の重合反応中または重合反応後に,重合成分である(メタ)アクリルアミド,または,その(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位に対してグリオキシル酸および/またはその塩を反応させることにより,グリオキシル酸に由来するヒドロキシカルボン酸基が,得られるポリアクリルアミド樹脂中に均一に分布する。」(【0125】)
「これによって,多くのヒドロキシカルボン酸基が効率的にパルプに作用でき,紙の内部結合強度や濾水性が向上すると考えられる。」(【0126】)
以上の記載によれば,本件発明1の課題は,「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種と,下記式(5)で示される第2ユニットとを有する」ことによって,解決されるとされていることが理解できる。また,本件明細書には,第1ユニットを形成するための第1重合性化合物及び第2ユニットを形成するための第2重合性化合物について,具体的に説明されている(【0035】~【0049】,【0107】~【0122】)。
そして,本件明細書には,本件発明1~4(すなわち,上記第1ユニット及び第2ユニットを有することを特定するとともに,それらの存在割合及び重量平均分子量を特定したもの)を具体的に実施した実施例,参考例及び比較例が記載されており,これらの実施例,参考例及び比較例によれば,実施例において,紙の製造に用いた場合に,紙の内部結合強度の向上を図ることができ,かつ,濾水性の向上を図ることができることが示されているといえる(表1~3,【0198】~【0203】)。
そうすると,当業者であれば,上記の実施例以外の場合であっても,本件発明1の構成によれば,同実施例と同様に,紙の製造に用いた場合に,紙の内部結合強度の向上を図ることができ,かつ,濾水性の向上を図ることができることが理解できるといえる。
以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。また,本件発明2~4についても同様である。
イ 申立人は,本件発明1が,ポリアクリルアミド樹脂の組成を,(メタ)アクリルアミド,第1ユニット,第2ユニットのみに限定するものではないところ,必須成分である(メタ)アクリルアミドの含有割合を規定していないから,例えば,第1ユニットを30モル%,第2ユニットを30モル%,任意成分の第3級アミノ系モノマーを30モル%含有するような((メタ)アクリルアミドを10モル%しか含まない)場合においても,実施例と同様に,内部結合強度及び濾水性が向上し,本件発明1の課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえないと主張する。また,本件発明2~4についても同様に主張する。
しかしながら,本件発明1は,「ポリアクリルアミド樹脂」に関するものである以上,主要な構成単位である(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位(本件明細書【0124】)について,その存在割合を明示的に特定していないとしても,当業者が「ポリアクリルアミド樹脂」であると認識できる程度の割合で存在していることは,明らかというべきである。そして,そのような本件発明1については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは,上記アのとおりである。また,本件発明2~4についても同様である。
よって,申立人の主張は,その前提において失当であり,理由がない。
ウ まとめ
以上のとおり,本件発明1~4は,いずれも,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
したがって,取消理由3(うち,各ユニットの存在割合に関するもの)によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由
(1)取消理由1-2(新規性)
ア 甲2に記載された発明
甲2の記載(請求項1,4)によれば,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。
「ポリマー分子内に下記の一般式(A)及び一般式(B)で示される繰返し単位を有する,製紙用添加剤に用いられるポリアクリルアミド系樹脂であって,
ポリアクリルアミド系樹脂が,少なくとも(1)2-アクリルアミドグリコリック酸類,(2)アクリルアミド類,および(3)カチオン性ビニルモノマーを反応させて得たものである,製紙用添加剤に用いられるポリアクリルアミド系樹脂。
【化1】
(ただし,R1,R3はそれぞれHまたはCH3を表わし,R2はH,Na,KまたはNH4を表わす。)」(以下,「甲2発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明に係るポリアクリルアミド系樹脂は,「少なくとも(1)2-アクリルアミドグリコリック酸類,(2)アクリルアミド類,および(3)カチオン性ビニルモノマーを反応させて得たもの」であることから,少なくとも,「(1)2-アクリルアミドグリコリック酸類」から形成されるユニット(一般式(A))と,「(2)アクリルアミド類」から形成されるユニット(一般式(B))と,「(3)カチオン性ビニルモノマー」から形成されるユニットを有していることは,明らかである。
そして,甲2発明における「(1)2-アクリルアミドグリコリック酸類」から形成されるユニット(一般式(A))は,本件発明1における「下記式(5)で示される第2ユニット」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲2発明とは,少なくとも,
「下記式(5)で示される第2ユニットを有する,ポリアクリルアミド樹脂。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点3
本件発明1では,「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種」を有するのに対して,甲2発明では,「(3)カチオン性ビニルモノマー」から形成されるユニットを有する点。
・相違点4
本件発明1では,ポリアクリルアミド樹脂の重量平均分子量が,「450万以上750万以下」であるのに対して,甲2発明では,重量平均分子量が特定されていない点。
(イ)相違点3の検討
甲2には,甲2発明で使用できるカチオン性ビニルモノマーとして,各種のものが記載されており(【0015】,【0016】),それらの中には,申立人が主張するように,確かに,本件発明1における「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種」に相当するものも含まれている。
しかしながら,これらは,単なる例示として,多数のものが列挙されているにすぎない。甲2に上記のような記載があるからといって,甲2に,特定の組み合わせとして,「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種と,下記式(5)で示される第2ユニット」とを有するポリアクリルアミド系樹脂が記載されているということはできない。実際,甲2には,実施例として,このような特定の組み合わせのものは記載されていない。
以上によれば,相違点3は,実質的な相違点であるから,本件発明1は,甲2発明と同一ではない。
(ウ)相違点4の検討
甲2には,甲2発明に係るポリアクリルアミド系樹脂の重量平均分子量については,何ら記載されていない。また,甲2発明に係るポリアクリルアミド系樹脂であれば,必ず,重量平均分子量が「450万以上750万以下」となることが,技術常識であるともいえない。
以上によれば,相違点4は,実質的な相違点であるから,本件発明1は,甲2発明と同一ではない。
(エ)小括
以上のとおり,本件発明1は,甲2に記載された発明とはいえない。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は,本件発明1を引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲2に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明2~4についても同様に,甲2に記載された発明であるとはいえない。
エ まとめ
以上のとおり,本件発明1~4は,いずれも,甲2に記載された発明であるとはいえないから,申立人が主張する取消理由1-2は理由がない。
したがって,取消理由1-2によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
(2)取消理由2-2(進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明とは,少なくとも,上記(1)イ(ア)で認定したとおりの一致点で一致し,少なくとも,同相違点3及び4で相違する。
(イ)相違点3及び4の検討
本件発明1は,上記1(2)ア(イ)で述べたとおりのものであるところ,甲2には,そのような事項については何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
甲2には,上記(1)イ(イ)で述べたとおり,甲2発明で使用できるカチオン性ビニルモノマーとして,各種のものが記載されており,それらの中には,本件発明1における「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種」に相当するものも含まれているものの,このような単なる例示として多数列挙されているものの中から,あえて本件発明1における「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種」に相当するものを用いる動機付けがあるとはいえない。
そうすると,甲2発明において,ポリアクリルアミド系樹脂につき,「下記式(5)で示される第2ユニット」に加え,「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種」をも有するものとした上で,それら第1ユニット及び第2ユニットの存在割合を,それぞれ,「0.01~30モル%」及び「0.1~30モル%」とし,重量平均分子量を「450万以上750万以下」とすることが,当業者が容易に想到することができたとはいえない。そして,本件発明1は,上記第1ユニット及び第2ユニットの両方を有することにより,いずれか一方を有さない場合と比べて,紙の製造に用いた場合に,より紙の内部結合強度の向上を図ることができ,かつ,より濾水性の向上を図ることができるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(表1~3,【0198】~【0203】)。
したがって,本件発明1は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2~4について
本件発明2~4は,本件発明1を引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2~4についても同様に,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ まとめ
以上のとおり,本件発明1~4は,いずれも,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由2-2は理由がない。
したがって,取消理由2-2によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
(3)取消理由2-3(進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明とは,少なくとも,上記(1)イ(ア)で認定したとおりの一致点で一致し,少なくとも,同相違点3及び4で相違する。
(イ)相違点3及び4の検討
甲3には,紙力増強剤として,(a)(メタ)アクリルアミド,(b)α,β-不飽和モノカルボン酸,α,β-不飽和ジカルボン酸及びこれらの塩類からなる群から選ばれた1又は2以上の化合物,(c)一般式(1)で表されるジアリルアミン誘導体モノマーを共重合して得られる共重合体を有効成分とするものが記載されている(特許請求の範囲)。
(式中,R1,R2は水素又はメチル基を,R3,R4はそれぞれ単独に水素又は炭素数1~6のアルキル基を,X-は有機酸若しくは無機酸の陰イオンを表す。)
また,甲3には,(メタ)アクリルアミド系の両性共重合体において,ジアリルアミン誘導体モノマーを共重合体の必須成分としたものを用いることにより,より優れた紙力増強効果を発現することが記載されている(2頁右上欄4~8行)。
ここで,甲3における「(c)一般式(1)で表されるジアリルアミン誘導体モノマー」から形成されるユニットは,本件発明1における「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種」に相当するものであり,また,甲2発明における「カチオン性ビニルモノマー」から形成されるユニットに包含されるものである。
そうすると,甲2発明において,カチオン性ビニルモノマーとして,甲3に記載される(c)一般式(1)で表されるジアリルアミン誘導体モノマーを用いることが可能であることは,当業者が理解し得ることである。
しかしながら,本件発明1は,上記1(2)ア(イ)で述べたとおり,所定の第1ユニット及び第2ユニットの両方を有することにより,紙の製造に用いた場合に,紙の内部結合強度の向上を図ることができ,かつ,濾水性の向上を図ることができるという効果を奏するものであるところ,本件明細書に示される本件発明1の効果は,上記第1ユニットのみを有する場合の効果と上記第2ユニットのみを有する場合の効果から予測される効果(これら両方を有する場合の効果)を超えるものであり,当業者が予測することができない格別顕著なもの(相乗効果)といえる(表1~3,【0198】~【0203】)。
以上によれば,甲2発明において,ポリアクリルアミド系樹脂につき,「下記式(5)で示される第2ユニット」に加え,「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種」をも有するものとした上で,それら第1ユニット及び第2ユニットの存在割合を,それぞれ,「0.01~30モル%」及び「0.1~30モル%」とし,重量平均分子量を「450万以上750万以下」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2~4について
本件発明2~4は,本件発明1を引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2~4についても同様に,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ まとめ
以上のとおり,本件発明1~4は,いずれも,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由2-3は理由がない。
したがって,取消理由2-3によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
(4)取消理由2-4(進歩性)
ア 甲3に記載された発明
甲3の記載(特許請求の範囲)によれば,甲3には,以下の発明が記載されていると認められる。
「(a)(メタ)アクリルアミド 98~60%,(b)α,β-不飽和モノカルボン酸,α,β-不飽和ジカルボン酸及びこれらの塩類からなる群から選ばれた1又は2以上の化合物 1~20%,(c)一般式(1)で表されるジアリルアミン誘導体モノマー1~20%を共重合して得られる,紙力増強剤の有効成分として用いられる共重合体。
(式中,R1,R2は水素又はメチル基を,R3,R4はそれぞれ単独に水素又は炭素数1~6のアルキル基を,X-は有機酸若しくは無機酸の陰イオンを表す。)」(以下,甲3発明という。)
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「共重合体」は,「(a)(メタ)アクリルアミド 98~60%」を含むものを共重合して得られるものであるから,本件発明1における「ポリアクリルアミド樹脂」に相当する。
甲3発明に係る共重合体は,「(a)(メタ)アクリルアミド」,「(b)α,β-不飽和モノカルボン酸,α,β-不飽和ジカルボン酸及びこれらの塩類からなる群から選ばれた1又は2以上の化合物」,「(c)一般式(1)で表されるジアリルアミン誘導体モノマー」を共重合して得られるものであることから,少なくとも,「(a)(メタ)アクリルアミド」から形成されるユニットと,「(b)α,β-不飽和モノカルボン酸,α,β-不飽和ジカルボン酸及びこれらの塩類からなる群から選ばれた1又は2以上の化合物」から形成されるユニットと,「(c)一般式(1)で表されるジアリルアミン誘導体モノマー」から形成されるユニットを有していることは,明らかである。
そして,甲3発明における「(c)一般式(1)で表されるジアリルアミン誘導体モノマー」から形成されるユニットは,本件発明1における「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲3発明とは,少なくとも,
「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種を有する,ポリアクリルアミド樹脂。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点5
本件発明1では,「下記式(5)で示される第2ユニット」を有するのに対して,甲3発明では,「(b)α,β-不飽和モノカルボン酸,α,β-不飽和ジカルボン酸及びこれらの塩類からなる群から選ばれた1又は2以上の化合物」から形成されるユニットを有する点。
・相違点6
本件発明1では,ポリアクリルアミド樹脂の重量平均分子量が,「450万以上750万以下」であるのに対して,甲3発明では,重量平均分子量が特定されていない点。
(イ)相違点5及び6の検討
甲2には,製紙用添加剤として,ポリマー分子内に下記の一般式(A)及び一般式(B)で示される繰返し単位を有するポリアクリルアミド系樹脂を含有するものであって,そのポリアクリルアミド系樹脂が,少なくとも(1)2-アクリルアミドグリコリック酸類,(2)アクリルアミド類,および(3)カチオン性ビニルモノマーを反応させて得たものが記載されている(請求項1,4)。
【化1】
(ただし,R1,R3はそれぞれHまたはCH3を表わし,R2はH,Na,KまたはNH4を表わす。)
また,甲2には,ポリマー分子内に一般式(A)及び一般式(B)で示される繰返し単位を有するポリアクリルアミド系樹脂を含有した製紙用添加剤を用いることにより,紙力向上効果に優れる製紙用添加剤が得られることが記載されている(【0007】)。
ここで,甲2における「(1)2-アクリルアミドグリコリック酸類」から形成されるユニット(一般式(A))は,本件発明1における「下記式(5)で示される第2ユニット」に相当するものであり,また,甲3発明における「(b)α,β-不飽和モノカルボン酸,α,β-不飽和ジカルボン酸及びこれらの塩類からなる群から選ばれた1又は2以上の化合物」から形成されるユニットに包含されるものである。
そうすると,甲3発明において,(b)α,β-不飽和モノカルボン酸,α,β-不飽和ジカルボン酸及びこれらの塩類からなる群から選ばれた1又は2以上の化合物として,甲2に記載される(1)2-アクリルアミドグリコリック酸類を用いることが可能であることは,当業者が理解し得ることである。
しかしながら,上記(3)ア(イ)で述べたとおり,本件発明1の効果は,当業者が予測することができない格別顕著なもの(相乗効果)といえるから,甲3発明において,共重合体につき,「下記式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種」に加え,「下記式(5)で示される第2ユニット」をも有するものとした上で,それら第1ユニット及び第2ユニットの存在割合を,それぞれ,「0.01~30モル%」及び「0.1~30モル%」とし,重量平均分子量を「450万以上750万以下」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は,本件発明1を引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2~4についても同様に,甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ まとめ
以上のとおり,本件発明1~4は,いずれも,甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由2-4は理由がない。
したがって,取消理由2-4によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
(5)取消理由3(サポート要件)(うち,第1ユニットの種類に関するもの)
申立人は,本件明細書において,第1ユニットを形成するための第1重合性化合物として例示されたジアリルアミン誘導体を,共重合成分として公知の重合方法により重合した場合,式(1),(2)(4級アンモニウム塩モノマーであれば,式(3),(4))両方の構造を有するポリマーが得られることは,当業者において通常知られているところ,本件発明1は,「式(1)~(4)で示される第1ユニットの少なくとも1種」としており,例えば,「第1ユニットとして式(1)のみを有するポリアクリルアミド樹脂」も,本件発明1の範囲に含まれることになるが,本件明細書においては,実施例に記載されているポリアクリルアミド樹脂が,式(1)~(4)で示される第1ユニットのうち,どの構造を有しているのかを解析あるいは特定した記載はなく,「第1ユニットとして式(1)~(4)で示された構造のうち一つのみを有するポリアクリルアミド樹脂」においても,本件発明1の効果が得られるものであることを示す記載はないから,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている事項は,ジアリルアミン誘導体を共重合成分として用いたポリアクリルアミド樹脂について,本件発明1の効果を有することを示しているにすぎず,本件発明1の範囲まで,本件明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。また,本件発明2~4についても同様に主張する。
しかしながら,本件発明1における式(1)で示される第1ユニットと,同式(2)で示される第1ユニットとは,その化学構造が同様のものであるから,その性質や作用も同様のものと解される。そうすると,申立人が主張するように,ジアリルアミン誘導体を共重合成分として用いたポリアクリルアミド樹脂が,式(1)で示される第1ユニットと式(2)で示される第1ユニットの両方の構造を有するものであったとしても,そのようなポリアクリルアミド樹脂について,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明1の効果が得られることが示されているのであれば,上記第1ユニットのいずれか一方のみの構造を有するポリアクリルアミド樹脂であっても,同様に,本件発明1の効果が得られることは,当業者が理解できるといえる。このようなことは,式(3)で示される第1ユニットと式(4)で示される第1ユニットについても,同様である。また,本件発明2~4についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。
したがって,取消理由3(うち,第1ユニットの種類に関するもの)によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
(6)申立人の主張について
申立人は,新たに提出した参考資料1(特許第5618213号公報)に基づく新規性欠如及び進歩性欠如の取消理由を主張する(平成30年1月10日付けの意見書5~6頁)とともに,本件発明1~4において,連鎖移動剤は必須成分であり,その含有割合について特定がないことを指摘して,サポート要件違反の取消理由を主張する(同意見書8頁)。
しかしながら,これらの主張は,新たな取消理由を主張するものであり,実質的に特許異議申立書の要旨を変更するものといえるから,採用しない。
第6 むすび
以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700660