特許異議申立
2017-700612
光学ガラス、プレス成形用ガラス素材、ならびに光学素子およびその製造方法
- 審判番号
- 2017-700612
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-542941外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年06月16日
- 審決日
- 2018年07月18日
- 公報発行日
- 2018年10月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】HOYA株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】宮園 祐爾
- 分類
- P1651.536-YAA(C03C) / P1651.537-YAA(C03C) / P1651.851-YAA(C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6069217号発明「光学ガラス、プレス成形用ガラス素材、ならびに光学素子およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6069217号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第6069217号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6069217号は、平成24年11月 1日(優先権主張 2011年11月 8日)を国際出願日とする特願2013-542941号について、平成29年 1月 6日に設定登録がされ、その後、その請求項1~10に係る特許に対し、平成29年 6月16日付けで特許異議申立人 宮園 祐爾により特許異議の申立てがなされ、平成29年10月19日付けで請求項1~10に係る特許に対する取消理由が通知され、平成29年12月22日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がなされ、平成30年 2月 6日付けで特許異議申立人より意見書の提出がなされ、平成30年 3月23日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成30年 5月25日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から平成30年 7月 3日付けで意見書の提出がなされたものである。
第2.訂正の請求
1.訂正の内容
平成30年 5月25日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1~5よりなる。
(平成29年12月22日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、みなし取下げとなった。)
(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1におけるSi4+及びB3+の合計含有量の上限を55%から「50%」に訂正する。
(イ)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1におけるLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量の上限を55%から「45%」に訂正する。
(ウ)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1におけるTi4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の上限を20%から「18%」に訂正する。
(エ)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1におけるカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の下限を0.3から「0.50」に訂正する。
(オ)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1におけるカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の上限を1から「0.99」に訂正する。
2.訂正の適否
(ア)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1におけるSi4+及びB3+の合計含有量の上限を55%から50%に引き下げることにより、請求項1に係る光学ガラスの発明におけるSi4+及びB3+の合計含有量を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0013】の「Si4+及びB3+の合計含有量は35~55%とする。上記観点から、Si4+及びB3+の合計含有量の好ましい上限は50%・・・である」との記載に基づくものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
(イ)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1におけるLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量の上限を55%から45%に引き下げることにより、請求項1に係る光学ガラスの発明におけるLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0017】の「La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量は30~55%の範囲とする。上記観点から、La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量の好ましい上限は55%、より好ましい上限は45%・・・である」との記載に基づくものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項1におけるTi4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の上限を20%から18%に引き下げることにより、請求項1に係る光学ガラスの発明におけるTi4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項3は、本件特許明細書の段落【0021】の「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量は7~20%の範囲とする。上記観点から、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の好ましい上限は18%・・・である」との記載に基づくものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
(エ)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項1におけるカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の下限を0.3から0.50に引き上げることにより、請求項1に係る光学ガラスの発明におけるカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項4は、本件特許明細書の段落【0016】の「カチオン比(B3+/(Si4++B3+))は0.3~1とすることが好ましい。・・・カチオン比(B3+/(Si4++B3+))の好ましい下限は0.40、より好ましい下限は0.50・・・である」との記載に基づくものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
(オ)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項1におけるカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の上限を1から0.99に引き下げることにより、請求項1に係る光学ガラスの発明におけるカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項5は、本件特許明細書の段落【0016】の「カチオン比(B3+/(Si4++B3+))は0.3~1とすることが好ましい。ガラスの安定性を改善する上から、カチオン比(B3+/(Si4++B3+))の上限を0.99とすることがより好ましく」との記載に基づくものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
3.一群の請求項について
訂正事項1~5に係る訂正前の請求項1を、訂正前の請求項2~10は直接または間接的に引用しているものであって、請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項1~10について請求するものと認める。
4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第4項及び第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正を認める。
第3.本件発明
上記「第2.」のとおり、本件訂正請求による訂正が認められるから、本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、請求項の項番にしたがって、「訂正発明1」などといい、全体をまとめて「訂正発明」という。)は、平成30年 5月25日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、以下のものである。
「【請求項1】
カチオン%表示で、
Si4+およびB3+の合計含有量が35~50%、
La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量が30~45%(但し、La3+の含有量が15~30%、Gd3+の含有量が5~20%)、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量が7~18%(但し、Nb5+の含有量が0~10%)、
Zr4+の含有量が2~8%、
Zn2+の含有量が0~10%、
であり、
Si4+およびB3+の合計含有量に対するB3+の含有量のカチオン比(B3+/(Si4++B3+))は0.50~0.99の範囲であり、
Gd3+の含有量に対するZn2+の含有量のカチオン比(Zn2+/Gd3+)は0~0.80の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するGd3+の含有量のカチオン比(Gd3+/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+))は0.65~2.00の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTa5+の含有量のカチオン比(Ta5+/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+))は0~0.30の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTi4+の含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+))は0.30~0.90の範囲である酸化物ガラスであり、
部分分散比Pg,Fが0.575以上であり、
屈折率ndが1.890~1.950の範囲であり、
アッベ数νdが屈折率ndに対してνd≧(2.334-nd)/0.012の関係を満たし、かつ39.0以下である光学ガラス。
【請求項2】
Ta5+の含有量が0~4カチオン%である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
Si4+の含有量が6~15カチオン%であり、B3+の含有量が25~45カチオン%である請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
Ti4+の含有量が1~10カチオン%である請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
液相温度が1300℃以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
ガラス転移温度Tgが650℃以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
比重が4.50~5.50の範囲である請求項1~6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の光学ガラスよりなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の光学ガラスよりなる光学素子。
【請求項10】
請求項8に記載のプレス成形用ガラス素材を加熱し、プレス成形型を用いてプレス成形してガラス成形体を作製する工程と、作製したガラス成形体を加工して光学素子を得る工程と、
を含む光学素子の製造方法。」
第4.取消理由についての当審の判断
1.通知した取消理由
(1)取消理由1)(以下、訂正前の請求項1~10に係る発明を「本件発明1~10」という。)
本件発明1は、本件特許明細書の段落【0005】に記載されているように、「Ta2O5の使用量を抑えつつ、優れた製造適性を有する高品質な高屈折率低分散ガラスを提供すること」を課題とするものであって、具体的には、請求項1において、「部分分散比Pg,Fが0.575以上であり、屈折率ndが1.890~1.950の範囲であり、アッベ数νdが屈折率ndに対してνd≧(2.334-nd)/0.012の関係を満たし、かつ39.0以下である」ことが物性要件として特定されている。
しかしながら、本件特許明細書において上記物性要件を満たすガラスとして、実施例に記載されたガラスは、「Si4+およびB3+の合計含有量が43~47%」、「La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量が36~39%」、「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量が9~12%」、「Si4+およびB3+の合計含有量に対するB3+の含有量のカチオン比B3+/(Si4++B3+)は0.76~0.78」で含むものだけであって、これらの成分に関する発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても、当業者が実施例に記載された限定的な組成範囲から、物性要件を満たす組成範囲を請求項1において特定するそれぞれの数値範囲にまで、拡張ないし一般化して認識することができない。
また、請求項1では、Si4+およびB3+の含有量について合計含有量で特定するとともに、「Si4+およびB3+の合計含有量に対するB3+の含有量のカチオン比B3+/(Si4++B3+)」で特定しているものの、本件特許明細書の段落【0013】~【0015】の記載によれば、両者はガラスの網目形成成分であることは共通しているものの、B3+は、屈折率を高める成分であるのに対し、Si4+は、屈折率の観点から含有量を設定することが記載されているだけであって、Si4+が屈折率にどのように影響を及ぼすのかが明らかでなく、屈折率に及ぼす影響が両者で異なることを考慮すると、両者の作用は等価とは言えないから、一方の含有量を他方の含有量で置換可能であるとは認められない。
よって、請求項1において特定するそれぞれの数値範囲にまで、物性要件を満たす組成範囲を拡張ないし一般化できるとはいえない。
また、請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2~10の記載についても同様である。
したがって、本件発明1~10は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであって、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2)
本件特許の発明の詳細な説明(実施例含む)の記載では、技術常識を考慮しても当業者が、請求項1に記載された上記合計含有量の上限値や下限値において、物性要件を満たす具体的な各成分の配合組成を決定することができないと認められる。
したがって、発明の詳細な説明が、本件発明1について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
本件発明2~10についても同様である。
2.取消理由1)、2)について
(1)Si4+およびB3+の合計含有量の下限値について
訂正発明1のSi4+およびB3+の合計含有量の下限は35%であり、特許権者の意見書において、サポート要件を満たす範囲は、ガラス物性に対する影響がまったく同じ成分同士を相互置換することだけに限定されるものではなく、また、本件特許明細書に記載された実施例No.30を基本として、Si4+およびB3+の合計含有量を減らし、その減量分を、本件特許明細書の段落【0017】~【0024】、【0026】、【0027】、【0029】、【0030】に各種ガラス物性に寄与することが記載されている他の成分に適宜置き換えることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、Si4+およびB3+の合計含有量を、訂正発明1で規定されている下限により近い値にまで減らす調整を行うことが可能である旨の主張がなされ、乙第2号証として、同主張のとおり、Si4+およびB3+の合計含有量を下限付近まで調整しても物性要件を満足する光学ガラスが得られることを確認した実験成績証明書が提出された。
そして、段落【0013】に記載されるように、Si4+およびB3+の成分はガラスの安定性を維持するための成分であるから、これらを減少させた場合には、安定性の悪化が懸念されるものであるところ、安定性の悪化の影響をガラスを製造する際の冷却条件等を制御することによって抑えることは、当業者にとって技術常識であるといえる。
してみれば、本件特許明細書に記載された実施例No.30を基本として、Si4+およびB3+の合計含有量を減らし、その減量分を、各種ガラス物性に寄与することが記載されている他の成分に適宜置き換えるとともに、安定性の悪化の影響を製造条件によって制御すれば、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、下限値付近の光学ガラスは得られるものと認められる。
したがって、訂正発明1のSi4+およびB3+の合計含有量の下限値は、発明の詳細な説明の記載によってサポートされているものであるし、上記合計含有量の下限値において、物性要件を満たす具体的な各成分の配合組成を決定することができるものである。
(2)Si4+およびB3+の合計含有量の上限値について
訂正発明1のSi4+およびB3+の合計含有量の上限は50%であり、特許権者の意見書において、サポート要件を満たす範囲は、ガラス物性に対する影響がまったく同じ成分同士を相互置換することだけに限定されるものではなく、また、本件特許明細書に記載された実施例No.27を基本として、Si4+およびB3+の合計含有量を増やし、その増量分を、本件特許明細書の段落【0014】、【0017】~【0019】、【0021】~【0024】、【0026】、【0027】、【0029】、【0030】に各種ガラス物性に寄与することが記載されている他の成分に適宜置き換えることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、Si4+およびB3+の合計含有量を、訂正発明1で規定されている上限により近い値にまで増やす調整を行うことが可能である旨の主張がなされ、乙第3号証として、同主張のとおり、Si4+およびB3+の合計含有量の上限を超えるまで調整しても物性要件を満足する光学ガラスが得られることを確認した実験成績証明書が提出された。
してみれば、本件特許明細書に記載された実施例No.27を基本として、Si4+およびB3+の合計含有量を増やし、その増量分を、例えば、各種ガラス物性に寄与することが記載されている他の成分に適宜置き換えることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、上記成分の合計含有量の上限値の光学ガラスは得られるものと認められる。
したがって、訂正発明1のSi4+およびB3+の合計含有量の上限値は、発明の詳細な説明の記載によってサポートされているものであるし、上記合計含有量の上限値において、物性要件を満たす具体的な各成分の配合組成を決定することができるものである。
この点について、申立人は意見書において、乙第3号証として提出された実験成績証明書は、Si4+およびB3+の合計含有量増加に起因する屈折率の低下に対して補填する手段を何ら提示しておらず、理論的にも、訂正発明1で規定されている屈折率とアッベ数の関係式を満たすことを示すものではなく、むしろ屈折率を上げるLa3+成分を減少させる等、明細書の示唆に基づくと合理的でない成分調整をしているものであるから、明細書の示唆から見て不合理な実験例を後付けで提出したものである旨主張している。
しかしながら、実施例No.27において含まれている成分のうち、Si4+およびB3+以外の成分は、Zn2+を除くと、いずれの成分も本件特許明細書には、屈折率を上げる成分と記載されているのであるから、実施例No.27において、Si4+およびB3+の合計含有量を増加させる場合に、屈折率の低下に対して補填ができる成分はないといえる。
よって、実施例No.27を基本として、Si4+およびB3+の合計含有量をどの程度まで増やすことができるのかを当業者が検討する際に、例えば、Si4+およびB3+を増量することによって得られる安定性の向上と引き換えに、多量に含有されている安定性に寄与する成分であるLa3+を減量してみることや、10%を超えると高屈折率を実現することが困難であるとされるZn2+を減量してみることは、当業者が通常行う試行錯誤に過ぎず、合理的でない成分調整とはいえない。
したがって、上記申立人の主張は採用できない。
(3)La3+、Gd3+及びY3+の合計含有量の下限値及び上限値について
訂正発明1の、La3+、Gd3+及びY3+の合計含有量は30~45%であり、特許権者の意見書において、本件特許明細書に記載された実施例No.27を基本として、屈折率の向上やガラスの安定性向上に寄与する成分であるLa3+、Gd3+及びY3+の合計含有量を減らし、その減量分を、例えば、段落【0027】に記載された高屈折率を維持するために寄与する成分であるZn2+や、段落【0024】に記載されたガラス安定性に寄与する成分であるTa5+に適宜置き換えること、実施例No.30を基本として、屈折率の向上やガラスの安定性向上に寄与する成分であるLa3+、Gd3+及びY3+の合計含有量を増やし、その増量分を、本件特許明細書の段落【0017】~【0024】、【0026】、【0027】、【0029】、【0030】に各種ガラス物性に寄与することが記載されている他の成分に適宜置き換えることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、La3+、Gd3+及びY3+の合計含有量を、訂正発明1で規定されている下限及び上限により近い値に調整を行うことが可能である旨の主張がなされ、乙第4号証及び乙第5号証として、同主張のとおり、La3+、Gd3+及びY3+の合計含有量を下限及び上限付近まで調整しても物性要件を満足する光学ガラスが得られることを確認した実験成績証明書が提出された。
してみれば、本件特許明細書に記載された実施例No.27を基本として、La3+、Gd3+及びY3+の合計含有量を減らし、その減量分を、例えば、高屈折率を維持するために寄与する成分や、ガラス安定性に寄与する成分に適宜置き換えることや、実施例No.30を基本として、La3+、Gd3+及びY3+の合計含有量を増やし、その増量分を、各種ガラス物性に寄与することが記載されている他の成分に適宜置き換えることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、上記成分の合計含有量の下限値及び上限値付近の光学ガラスは得られるものと認められる。
したがって、訂正発明1のLa3+、Gd3+及びY3+の合計含有量の下限値及び上限値は、発明の詳細な説明の記載によってサポートされているものであるし、上記含有量の下限値及び上限値において、物性要件を満たす具体的な各成分の配合組成を決定することができるものである。
(4)Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の下限値について
訂正発明1のTi4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の下限は7%であり、特許権者の意見書において、本件特許明細書に記載された実施例No.24を基本として、屈折率向上に寄与するTi4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量を減らし、その減量分を、段落【0017】~【0020】に記載された屈折率向上に寄与する成分であるLa3+、Gd3+及びY3+に適宜置き換えたりすることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量を、訂正発明1で規定されている下限により近い値にまで減らす調整を行うことが可能である旨の主張がなされた。
してみれば、本件特許明細書に記載された実施例No.24を基本として、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量を減らし、その増量分を、屈折率向上に寄与する成分であるLa3+、Gd3+及びY3+に適宜置き換えたりすることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、下限値付近の光学ガラスは得られるものと認められる。
したがって、訂正発明1のTi4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の下限値は、発明の詳細な説明の記載によってサポートされているものであるし、上記合計含有量の下限値において、物性要件を満たす具体的な各成分の配合組成を決定することができるものである。
(5)Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の上限値について
訂正発明1のTi4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の上限は18%であり、特許権者の意見書において、本件特許明細書に記載された実施例No.30を基本として、段落【0021】に屈折率向上に寄与する成分として記載されているTi4+及び段落【0023】にガラスの安定性に寄与する成分として記載されているNb5+を増やすことによりTi4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量を増やし、その増量分を、段落【0017】、【0018】に屈折率向上やガラスの安定性向上に寄与すると記載されているLa3+やガラス安定性に寄与すると記載されているB3+を適宜減らすとともに、ガラス化を容易にするためにLa3+の一部をGd3+へ置換してカチオン比Gd3+/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)を0.65以上に維持することにより、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量を、訂正発明1で規定されている上限により近い値にまで増やす調整を行うことが可能である旨の主張がなされ、乙第9号証として、同主張のとおり、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の上限を超えるまで調整しても物性要件を満足する光学ガラスが得られることを確認した実験成績証明書が提出された。
してみれば、本件特許明細書に記載された実施例No.30を基本として、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量を増やし、その増量分を、例えば、各種ガラス物性に寄与することが記載されている他の成分に適宜置き換えることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、上記成分の合計含有量の上限値の光学ガラスは得られるものと認められる。
したがって、訂正発明1のTi4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量の上限値は、発明の詳細な説明の記載によってサポートされているものであるし、上記合計含有量の上限値において、物性要件を満たす具体的な各成分の配合組成を決定することができるものである。
この点について、申立人は意見書において、乙第9号証として提出された実験成績証明書は、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量増加に起因するアッベ数の減少に対して補填する手段を何ら提示しておらず、アッベ数とは無関係な屈折率向上や安定性向上に関する成分の出し入れをする等、明細書の示唆に基づくと合理的でない成分調整をしているものであるから、明細書の示唆から見て不合理な実験例を後付けで提出したものである旨主張している。
しかしながら、実施例No.30において含まれている成分のうち、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+以外の成分は、いずれの成分も本件特許明細書には、アッベ数についての記載がないか、増量することによってアッベ数が増加する成分と記載されているのであるから、実施例No.30において、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量を増加させる場合に、アッベ数の低下に対して補填する成分はないといえる。
よって、実施例No.30を基本として、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量をどの程度まで増やすことができるのかを当業者が検討する際に、例えば、Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+を増量することによって得られる屈折率の上昇と安定性の向上と引き換えに、屈折率を高める成分であるLa3+を減量してみることや、安定性に寄与するB3+を減量してみることや、ガラス化を容易にするために、Gd3+を増量してみることは、当業者が通常行う試行錯誤に過ぎず、合理的でない成分調整とはいえない。
したがって、上記申立人の主張は採用できない。
(6)カチオン比(B3+/(Si4++B3+))の下限値について
訂正発明1のカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の下限は「0.50」であり、特許権者の意見書において、サポート要件を満たす範囲は、ガラス物性に対する影響がまったく同じ成分同士を相互置換することだけに限定されるものではなく、また、本件特許明細書に記載された実施例No.30を基本として、実施例No.30は、本件明細書に示されている実施例の中で屈折率が最も高い1.917であり、カチオン比(B3+/(Si4++B3+))の値が小さくなるような組成調整を行えば、実施例No.30から屈折率が多少低下するとしても訂正発明1で規定されている1.890~1.950の範囲内の屈折率を有し、かつ他の物性要件を満たしうるものであることを認識でき、例えば、B3+含有量をSi4+に置き換えることによりカチオン比(B3+/(Si4++B3+))を実施例No.30のカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の値より小さくしたうえで、高屈折率低分散という所望の物性に関してより一層の低分散性を得るべく、段落【0029】に高屈折率寄与成分として記載されているTi4+、Nb5+、Ta5+の中で、高分散性を示すと記載されているTi4+の一部を、これら成分の中で最も低分散性を示すと記載されているTa5+に置き換えることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たす光学ガラスを得ることが可能であることを、当業者が理解できる旨の主張がなされ、乙第7号証として、同主張のとおり、カチオン比(B3+/(Si4++B3+))を下限まで調整しても物性要件を満足する光学ガラスが得られることを確認した実験成績証明書が提出された。
ここで、段落【0015】には、「B3+は・・・屈折率を高めつつ」と記載されているもののLa系ガラスにおいてネットワークフォーマーであるB3+の相対量を増やすと屈折率が低下するのは技術常識であり、B3+含有量をSi4+に置き換えることによって、屈折率が大きく減少するものではないから、実施例No.30において、上記のように成分を置き換えて調整することも当業者が理解できるものである。
してみれば、本件特許明細書に記載された実施例No.30を基本として、カチオン比(B3+/(Si4++B3+))を小さくすることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、下限値付近の光学ガラスは得られるものと認められる。
したがって、訂正発明1のカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の下限値は、発明の詳細な説明の記載によってサポートされているものであるし、上記カチオン比の下限値において、物性要件を満たす具体的な各成分の配合組成を決定することができるものである。
(7)カチオン比(B3+/(Si4++B3+))の上限値について
訂正発明1のカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の上限は「0.99」であり、特許権者の意見書において、サポート要件を満たす範囲は、ガラス物性に対する影響がまったく同じ成分同士を相互置換することだけに限定されるものではなく、また、本件特許明細書に記載された実施例No.27を基本として、例えば、Si4+含有量をB3+に置き換えることによりカチオン比(B3+/(Si4++B3+))を実施例No.27のカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の値より大きくしたうえで、カチオン比(B3+/(Si4++B3+))が大きくなることにより予想されるガラス安定性の低下を抑えるために、他の成分の一部をガラス安定性の向上に寄与すると記載されているB3+に適宜置き換えることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たす光学ガラスを得ることが可能であることを、当業者が理解できる旨の主張がなされ、乙第8号証として、同主張のとおり、カチオン比(B3+/(Si4++B3+))を上限付近まで調整しても物性要件を満足する光学ガラスが得られることを確認した実験成績証明書が提出された。
してみれば、本件特許明細書に記載された実施例No.27を基本として、カチオン比(B3+/(Si4++B3+))を大きくすることによって、訂正発明1で規定されている物性要件を満たしつつ、上限値付近の光学ガラスは得られるものと認められる。
したがって、訂正発明1のカチオン比(B3+/(Si4++B3+))の上限値は、発明の詳細な説明の記載によってサポートされているものであるし、上記カチオン比の上限値において、物性要件を満たす具体的な各成分の配合組成を決定することができるものである。
(8)取消理由1)、2)についてのまとめ
上記(1)~(7)のとおりであるから、訂正発明1及びこれを引用する訂正発明2~10は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものとはいえず、本件特許の発明の詳細な説明は、訂正発明1~10について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであって、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものとはいえない。
第5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、「第4」で検討した取消理由1)、2)に加え、特許請求の範囲の記載が、請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていないことから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである旨主張している。
しかしながら、本件特許の特許請求の範囲は、当業者が容易に調整ないし測定可能なガラス組成と物性により記載されているから、明確であり、請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されているものである。
よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
第6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、訂正発明1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正発明1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700612