特許異議申立
2017-700605
セメントおよびその製造方法
- 審判番号
- 2017-700605
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-275980
- 登録番号
- 特許第6045328号(P6045328)
- 請求日
- 2017年06月14日
- 審決日
- 2018年01月17日
- 公報発行日
- 2018年04月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】太平洋セメント株式会社
- 【権利者代理人】衡田 直行
- 【異議申立人】松永 健太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 賢一
- 審判官 瀧口 博史
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6045328号発明「セメントおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6045328号の明細書、及び、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、及び、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第6045328号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6045328号の請求項1~3に係る特許についての出願(特願2012-275980号)は、平成24年12月18日に出願したものであって、平成28年11月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人松永健太郎より請求項1~3に係る特許に対して異議の申立てがされたものである。
その後、平成29年8月17日付けで取消理由が通知され、平成29年10月20日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年11月27日付けで特許異議申立人松永健太郎から意見書が提出されたものである。
2 訂正の適否
(1) 訂正の内容
平成29年10月20日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、以下訂正事項1~27のとおりである。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「水硬率(H.M.)が2.10~2.30」とあるのを、「水硬率(H.M.)が2.15~2.30」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~3も同様に訂正する)。
訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「ケイ酸率(S.M.)が1.80~2.48」とあるのを、「ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~3も同様に訂正する)。
訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「ボーグ式による計算値で60.0~70.0質量%」とあるのを、「ボーグ式による計算値で66.1~70.0質量%」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~3も同様に訂正する)。
訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「SO3換算で1.2質量%以上であり」とあるのを、「SO3換算で1.2~4質量%であり」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~3も同様に訂正する)。
訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0005】に「水硬率(H.M.)が2.10~2.30」とあるのを、「水硬率(H.M.)が2.15~2.30」に訂正する。
訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0005】に「ケイ酸率(S.M.)が1.80~2.48」とあるのを、「ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48」に訂正する。
訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0005】に「ボーグ式による計算値で60.0~70.0質量%」とあるのを、「ボーグ式による計算値で66.1~70.0質量%」に訂正する。
訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0005】に「石膏の割合が、SO3換算で1.2質量%以上であり」とあるのを、「石膏の割合が、SO3換算で1.2~4質量%であり」に訂正する。
訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0007】に「水硬率(H.M.)が2.10~2.30」とあるのを、「水硬率(H.M.)が2.15~2.30」に訂正する。
訂正事項10
願書に添付した明細書の段落【0007】に「ケイ酸率(S.M.)が1.80~2.48」とあるのを、「ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48」に訂正する。
訂正事項11
願書に添付した明細書の段落【0007】に「ボーグ式による計算値で70.0質量%以下である」とあるのを、「ボーグ式による計算値で66.1~70.0質量%である」に訂正する。
訂正事項12
願書に添付した明細書の段落【0007】に「石膏の割合が、SO3換算で1.2質量%以上であり」とあるのを、「石膏の割合が、SO3換算で1.2~4質量%であり」に訂正する。
訂正事項13
願書に添付した明細書の段落【0008】に「水硬率(H.M.)は、2.10~2.30」とあるのを、「水硬率(H.M.)は、2.15~2.30」に訂正する。
訂正事項14
願書に添付した明細書の段落【0008】に「ケイ酸率(S.M.)は、1.80~2.48、好ましくは2.00~2.47」とあるのを、「ケイ酸率(S.M.)は、2.20~2.48、好ましくは2.20~2.47」に訂正する。
訂正事項15
願書に添付した明細書の段落【0008】に「焼成物の鉄率(I.M.)は、1.3~2.6、好ましくは1.6~2.5、より好ましくは1.8~2.4である。」とあるのを、「焼成物の鉄率(I.M.)は、1.86~2.40である。」に訂正する。
訂正事項16
願書に添付した明細書の段落【0009】に「ボーグ式による計算値で70.0質量%以下、好ましくは50.0~70.0質量%、より好ましくは60.0~70.0質量%である。」とあるのを、「ボーグ式による計算値で66.1~70.0質量%である。」に訂正する。
訂正事項17
願書に添付した明細書の段落【0012】に「SO3換算で1.2質量%以上、好ましくは1.3~5質量%、より好ましくは1.4~4質量%である。」とあるのを、「SO3換算で1.2~4質量%、好ましくは1.3~4質量%、より好ましくは1.4~4質量%である。」に訂正する。
訂正事項18
願書に添付した明細書の段落【0019】に「[実施例1~7、比較例1~13]」とあるのを、「[実施例1~6、参考例1、比較例1~13]」に訂正する。
訂正事項19
願書に添付した明細書の段落【0022】の表3の「凝結時間」の欄に「凝結」とあるのを、「終結」に訂正する。
訂正事項20
願書に添付した明細書の段落【0022】の表3に「実施例7」とあるのを、「参考例1」に訂正する。
訂正事項21
願書に添付した明細書の段落【0023】の表4に「実施例7」とあるのを、「参考例1」に訂正する。
訂正事項22
願書に添付した明細書の段落【0024】に「[実施例8~13、比較例14~17]」とあるのを、「[実施例7~12、比較例14~17]」に訂正する。
訂正事項23
願書に添付した明細書の段落【0024】に「実施例8~13及び比較例14~17では」とあるのを、「実施例7~12及び比較例14~17では」に訂正する。
訂正事項24
願書に添付した明細書の段落【0024】に「ブレーン比表面積は実施例1~8及び比較例1~12よりもばらついているが」とあるのを、「ブレーン比表面積は実施例1~6、参考例1及び比較例1~13よりもばらついているが」に訂正する。
訂正事項25
願書に添付した明細書の段落【0024】に「実施例1~7及び比較例1~13と同様にして」とあるのを、「実施例1~6、参考例1及び比較例1~13と同様にして」に訂正する。
訂正事項26
願書に添付した明細書の段落【0025】の表5の「凝結時間」の欄に「凝結」とあるのを、「終結」に訂正する。
訂正事項27
願書に添付した明細書の段落【0025】の表5に「実施例8」、「実施例9」、「実施例10」、「実施例11」、「実施例12」、「実施例13」とあるのを、各々、「実施例7」、「実施例8」、「実施例9」、「実施例10」、「実施例11」、「実施例12」に訂正する。
(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項
ア 訂正の目的について
(ア) 訂正事項1~4
訂正事項1~4は、数値範囲の減縮であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(イ) 訂正事項5~14、16~18、20~23、25、27
訂正事項5~14、16~18、20~23、25、27は、訂正事項1~4を受けて、発明の詳細な説明の記載を請求項の記載と整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
(ウ) 訂正事項15
訂正事項15は、発明の詳細な説明の記載を請求項の記載と整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
(エ) 訂正事項19、26
本件特許明細書の【0020】の記載(ただし、「/」は、改行を表す。また、下線は、当審による強調。以下同じ。)「2)凝結性状の評価/各セメントの凝結時間について、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定を行った。結果を表3に示す。/凝結性状の評価は、比較例4のセメント(市販品と同等の焼成物11を使用)の凝結始発時間及び終結時間を基準とし、凝結始発時間が100分間以上であり、かつ、凝結終結時間が150分間以上であるものを「○」と評価した。結果を表4に示す。」、及び、【0024】の「5)凝結性状の評価/各セメントの凝結時間について、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定を行った。結果を表5に示す。/凝結性状の評価は、比較例4のセメント(市販品と同等の焼成物11を使用)の凝結始発時間及び終結時間を基準とし、凝結始発時間が100分間以上であり、かつ、凝結終結時間が150分以上であるものを「○」と評価した。結果を表5に示す。」との記載事項からみて、【表3】、【表5】の「凝結時間」の欄に「始発」の語と共に記載されている「凝結」は、「終結」の誤記であり、訂正事項19、26は、誤記の訂正を目的とするものである。
(オ) 訂正事項24
訂正事項24は、本件特許明細書の段落【0024】の記載「[実施例8~13、比較例14~17]/実施例8~13及び比較例14~17では、表2の焼成物6を焼成物(クリンカ)として使用した。」と整合しない誤記を正すものであり、また、訂正事項1~4を受けて、発明の詳細な説明の記載を請求項の記載と整合させるものであるから、誤記の訂正、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無について
(ア) 訂正事項1、5、9、13
本件特許明細書の【0008】に記載された「本発明のセメントに用いられる焼成物の水硬率(H.M.)は、2.10~2.30、好ましくは2.15~2.25、より好ましくは2.20~2.24である。」との事項からみて、訂正事項1、5、9、13は、新規事項の追加に該当しない。
(イ) 訂正事項2、6、10、14
本件特許明細書の【0008】に記載された「本発明のセメントに用いられる焼成物のケイ酸率(S.M.)は、1.80~2.48、好ましくは2.00~2.47、より好ましくは2.20~2.46、特に好ましくは2.30~2.45である。」との事項からみて、訂正事項2、6、10、14は、新規事項の追加に該当しない。
(ウ) 訂正事項3、7、11、16
本件特許明細書の【0022】の【表3】の実施例1~6に記載された、C3S(質量%)の値である66.1(実施例1、5)~69.9(実施例4)との事項からみて、訂正事項3、7、11、16は、新規事項の追加に該当しない。
(エ) 訂正事項4、8、12、17
本件特許明細書の【0012】に記載された「本発明のセメントは、上記焼成物の粉砕物と、石膏を含むものである。セメント100質量%中の石膏の割合は、セメントをモルタル又はコンクリート等として使用した場合の流動性及び強度発現性等の観点から、SO3換算で1.2質量%以上、好ましくは1.3~5質量%、より好ましくは1.4~4質量%である。」との事項からみて、訂正事項4、8、12、17は、新規事項の追加に該当しない。
(オ) 訂正事項15
本件特許明細書の【0023】の【表4】の実施例1~6に記載された、鉄率の値である1.86(実施例2、4~6)~2.40(実施例1、3)との事項からみて、訂正事項15は、新規事項の追加に該当しない。
(カ) 訂正事項18、20~23、25、27
訂正事項18、20~23、25、27は、実施例を参考例とする形式的な文言の変更、及び、実施例の番号の付替えであるから、新規事項の追加に該当しない。
(キ) 訂正事項19、26
上記ア(エ)の摘示個所の記載事項からみて、【表3】、【表5】の「凝結時間」の欄に「始発」の語と共に記載されている「凝結」は、「終結」の明らかな誤記であるから、訂正事項19、26は、新規事項の追加に該当しない。
(ク) 訂正事項24
訂正事項24は、上記ア(オ)の摘示個所の記載から明らかである誤記を正すものであり、また、上記(カ)と同様の実施例を参考例とする形式的な文言の変更、及び、実施例の番号の付替えであるから、新規事項の追加に該当しない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1~27は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 一群の請求項について
訂正前の請求項1を請求項2、3が直接又は間接的に引用するものであるから、特許請求の範囲に係る訂正事項1~4は一群の請求項〔1~3〕に対して請求されたものである。
また、明細書に係る訂正事項5~27は、この一群の請求項〔1~3〕の全てについて請求されたものである。
(3) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第2号、及び、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正を認める。
3 特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~3に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、平成29年10月20日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載される以下の事項により特定されるとおりのものであると認める。
【請求項1】
水硬率(H.M.)が2.15~2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48、鉄率(I.M.)が1.86~2.40であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で66.1~70.0質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO3換算で1.2~4質量%であり、かつ、該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO3換算で30質量%以上であることを特徴とするセメント。
【請求項2】
請求項1に記載のセメントを製造するための方法であって、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる一種以上を原料として使用して、上記焼成物を得る、セメントの製造方法。
【請求項3】
上記焼成物が、焼成物1ton当たり、183~300kgの産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる一種以上を原料として使用した焼成物である請求項2に記載のセメントの製造方法。
(2)証拠
特許異議申立人松永健太郎から提出された証拠は以下の甲第1号証~甲第13号証である。
なお、甲第10号証~甲第13号証は、平成29年11月27日付け意見書に添付されたものである。
甲第1号証
特開2012-229162号公報
甲第2号証
特開2011-225394号公報
甲第3号証
佐川孝広、「リートベルト法により定量したセメントクリンカーの鉱物組成とセメント品質との関係」、コンクリート工学年次論文集 第27巻 第1号(2005)、社団法人日本コンクリート工学協会、2005年6月25日発行、第43-48頁
甲第4号証
特開2012-201519号公報
甲第5号証
特開2011-132111号公報
甲第6号証
特開2012-246190号公報
甲第7号証
中西陽一郎、「高C3A型セメントの基礎的物性 ~実製造機による試製品を用いた評価~」、セメント・コンクリート論文集 Cement Science and Concrete Technology No.62/2008、社団法人セメント協会、2009年2月20日発行、第95-100頁
甲第8号証
セメントの常識、社団法人セメント協会、2009年12月発行、第13-14頁
甲第9号証
後藤貴弘、「高アルミネート型セメントを用いたコンクリートの物性」、セメント・コンクリート論文集 Cement Science and Concrete Technology No.64/2010、社団法人セメント協会、2011年2月25日発行、第219-224頁
甲第10号証
JIS R 5210 ポルトランドセメント、財団法人日本規格協会、平成21年11月20日発行、第1-5頁
甲第11号証
H.F.W. Taylor、「Cement chemistry 2nd edition」、英国、Thomas Telford、1997年、第84頁
甲第12号証
赤津健、「“固相”組成および“液相”組成がクリンカーの被粉砕性におよぼす影響」、昭和44年 セメント技術年報 XXIII、社団法人セメント協会、昭和45年1月25日発行、第156-159頁
甲第13号証
高畑節郎、「クリンカーの被粉砕性について」、セメント技術年報 35 昭和56年(1981)、社団法人セメント協会、昭和56年12月10日発行、第34-37頁
(3)取消理由の概要
訂正前の請求項1~3に係る特許に対して、平成29年8月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2~5号証に記載される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1、2に係る特許は取り消すべきものである。
イ 請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2~6号証に記載される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項3に係る特許は取り消すべきものである。
ウ 請求項1~3に係る発明は、石膏の割合の上限が特定されておらず、発明の詳細な説明の記載により課題を解決することを認識できる発明であるとはいえないから、請求項1~3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願にされたものであり、取り消すべきものである。
(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア)上記(3)ア、イについて
a 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証に、実施例1として、「化学組成が、TiO2:0.34質量%、CaO:66.36質量%、SiO2:21.64質量%、Al2O3:5.91質量%、Fe2O3:3.04質量%であり、鉱物組成が、水硬率HM:2.17、ケイ酸率SM:2.42、鉄率IM:1.94であるセメントクリンカに、SO3含有量2.0~2.1質量%となるように石膏を添加し、ブレーン比表面積3450~3550cm2/gとなるように粉砕したセメント」(以下、「甲1発明1」という。)が記載されている。
また、実施例2~4として、「化学組成が、TiO2:0.59質量%、CaO:66.07質量%、SiO2:21.64質量%、Al2O3:5.91質量%、Fe2O3:3.04質量%であり、鉱物組成が、水硬率HM:2.18、ケイ酸率SM:2.41、鉄率IM:1.94であるセメントクリンカに、SO3含有量2.0~2.1質量%となるように石膏を添加し、ブレーン比表面積3450~3550cm2/gとなるように粉砕したセメント」(以下、「甲1発明2」という。)、「化学組成が、TiO2:0.75質量%、CaO:66.03質量%、SiO2:21.52質量%、Al2O3:5.82質量%、Fe2O3:2.99質量%であり、鉱物組成が、水硬率HM:2.18、ケイ酸率SM:2.44、鉄率IM:1.95であるセメントクリンカに、SO3含有量2.0~2.1質量%となるように石膏を添加し、ブレーン比表面積3450~3550cm2/gとなるように粉砕したセメント」(以下、「甲1発明3」という。)、及び、「化学組成が、TiO2:0.97質量%、CaO:65.91質量%、SiO2:21.24質量%、Al2O3:5.87質量%、Fe2O3:3.01質量%であり、鉱物組成が、水硬率HM:2.19、ケイ酸率SM:2.39、鉄率IM:1.95であるセメントクリンカに、SO3含有量2.0~2.1質量%となるように石膏を添加し、ブレーン比表面積3450~3550cm2/gとなるように粉砕したセメント」(以下、「甲1発明4」という。)が記載されている。
b 対比
本件発明1と、甲1発明1~4とをそれぞれ対比すると、甲1発明1~4の「セメントクリンカ」は、1450℃で2時間焼成して得るものであるから、「焼成物」に相当する。
また、甲1発明1~4のセメントクリンカ(焼成物)中の3CaO・SiO2(C3S)の割合を本件特許明細書の【0009】に記載されたボーグ式で求めると、それぞれ、約61.6質量%、約60.4質量%、約61.8質量%、約63.1質量%であるから、本件特許発明1は、甲1発明1~4と、以下の一致点で一致し、以下の相違点1、2で相違する。
一致点:
水硬率(H.M.)が2.15~2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48、鉄率(I.M.)が1.86~2.40である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO3換算で1.2~4質量%であることを特徴とするセメント。
相違点1:
本件発明1は、「該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO3換算で30質量%以上である」のに対し、甲1発明1~4は、用いる石膏の種類と内訳が不明である点。
相違点2:
本件発明1は、「焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で66.1~70.0質量%である」のに対し、甲1発明1~4は、セメントクリンカ(焼成物)中の3CaO・SiO2(C3S)の割合が、それぞれ、約61.6質量%、約60.4質量%、約61.8質量%、約63.1質量%である点。
c 相違点の検討
相違点2について検討する。
甲第4号証の【0014】に「C3S量が、65質量%を超えると相対的にC3A量やC4AF量が少なくなるので、原料としての廃棄物等の使用量が少なくなり、廃棄物の有効利用および再資源化の観点から好ましくない」と記載されるように、C3S量を増やすと、廃棄物の使用量が少なくなることは、技術常識であると認められる。
してみると、甲1発明1~4は、甲第1号証の【0008】、【0009】に記載されるように、多量の廃棄物を原料とすることを解決しようとする課題とするものであるところ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合を高くすることには阻害要因があるといえるから、66.1~70.0質量%である焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、早強ポルトランドセメントとしてありふれたものであるとしても、甲1発明1~4において相違点2の解消は、当業者が容易になし得たものでない。
また、多量の廃棄物を原料とすることを犠牲にして、初期強度発現性をより高めるために焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合を高くすることを検討しても、次のとおり、甲1発明1~4において相違点2の解消は、当業者が容易になし得たものでない。
鉱物組成である3CaO・SiO2の割合は、化学組成である「CaO」、「SiO2」、「Al2O3」、及び、「Fe2O3」から、「C3S(%)=(4.07×CaO(%))-(7.60×SiO2(%))-(6.72×Al2O3(%))-(1.43×Fe2O3(%))」とのボーグ式(本件特許明細書の【0009】)に基づいて算出される。
してみると、甲1発明1~4における、3CaO・SiO2の割合の調整は、「CaO」、「SiO2」、「Al2O3」、及び、「Fe2O3」の何れか2つ以上(増量ないし減量を他の成分で補うため)の変更を伴うことになる。
ここで、水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、鉄率(I.M.)は、特許異議申立書の第25頁に記載されるように、化学組成である「CaO」、「SiO2」、「Al2O3」、及び、「Fe2O3」から、それぞれ、(CaO-(0.7×SO3))/(SiO2+Al2O3+Fe2O3)、SiO2/(Al2O3+Fe2O3)、Al2O3/Fe2O3との計算式に基づいて算出される。
すると、甲1発明1~4における、3CaO・SiO2の割合の調整は、水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、鉄率(I.M.)に影響することが明らかである。
してみると、当業者が相違点2の解消を容易になし得たというためには、「水硬率(H.M.)が2.15~2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48、鉄率(I.M.)が1.86~2.40」の範囲から外れることのないままに、「焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で66.1~70.0質量%」に調整する必要がある。
しかしながら、甲第2~6、10~13号証のいずれにも、「水硬率(H.M.)が2.15~2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48、鉄率(I.M.)が1.86~2.40」を維持することについて、記載も示唆もない。
また、甲第1号証の【0031】に、早強ポルトランドセメントの製造が開示されるものの、その際の鉱物比率については、「水硬率(HM)やケイ酸率(SM)、鉄率(IM)等が所望の値になるように適宜設定すればよい」とされるものであるから、「水硬率(H.M.)が2.15~2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48、鉄率(I.M.)が1.86~2.40」を維持することについて、示唆されているといえない。
してみると、甲1発明1~4において、「水硬率(H.M.)が2.15~2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48、鉄率(I.M.)が1.86~2.40」の範囲から外れることのないままに、「焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で66.1~70.0質量%」に調整することについての動機付けがない。
また、本件訂正請求を受けて、平成29年11月27日付けで特許異議申立人松永健太郎から提出された意見書に記載された主張、及び、甲第10~13号証を検討しても、上記のとおりであるから、甲1発明1~4において相違点2の解消は、当業者が容易になし得たものといえない。
したがって、甲1発明1~4において相違点1の解消が、取消理由通知に記載したとおり、当業者が容易になし得たとしても、甲1発明1~4において相違点2の解消は、当業者が容易になし得たものでないから、本件発明1、及び、本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2~3は、甲第1号証に記載された発明と甲第2~6号証に記載される周知技術、また、甲第10~13号証に記載された技術的事項を合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(イ)上記(3)ウについて
本件訂正請求により、石膏の割合の上限が4質量%に特定された。そして、「該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO3換算で1.2~4質量%」であれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、および、技術常識から、当業者が、本件発明の課題を解決することを認識できないといえない。
してみると、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす。
イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア)甲第7号証を主引例とする進歩性欠如と甲第9号証を主引例とする進歩性欠如について
甲第7号証には、Table 1の、Cement Symbol 10.5-1.5として、
「水硬率(H.M.)が2.1、ケイ酸率(S.M.)が2.3、鉄率(I.M.)が1.9であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で55.4質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO3換算で1.54質量%であり、かつ、該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO3換算で83質量%であることを特徴とするセメント。」(以下、「甲7発明1」という。)が記載されていると認める。
また、甲第7号証には、Table 1の、Cement Symbol 11.0-1.5として、
「水硬率(H.M.)が2.1、ケイ酸率(S.M.)が2.1、鉄率(I.M.)が2.0であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で55.6質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO3換算で1.58質量%であり、かつ、該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO3換算で83質量%であることを特徴とするセメント。」(以下、「甲7発明2」という。)が記載されていると認める。
また、甲第9号証には、Table 1の、Symbol 12-1.3として、
「水硬率(H.M.)が2.1、ケイ酸率(S.M.)が2.0、鉄率(I.M.)が2.1であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で57.7質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO3換算で1.26質量%であることを特徴とするセメント。」(以下、「甲9発明1」という。)が記載されていると認める。
さらに、甲第9号証には、Table 1の、Symbol 12-1.6として、
「水硬率(H.M.)が2.1、ケイ酸率(S.M.)が2.0、鉄率(I.M.)が2.1であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で57.3質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO3換算で1.59質量%であることを特徴とするセメント。」(以下、「甲9発明2」という。)が記載されていると認める。
ここで、焼成物組成において、「水硬率(H.M.)」、「ケイ酸率(S.M.)」、「鉄率(I.M.)」、「焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合」は、相互に関連するものであるから、本件発明1において、「水硬率(H.M.)が2.15~2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48、鉄率(I.M.)が1.86~2.40であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で66.1~70.0質量%である」は、焼成物の組成として一体的に把握されるものである。
すると、本件発明1と、甲7発明1、2、甲9発明1、及び、2とをそれぞれ対比すれば、本件発明1は、焼成物が、「水硬率(H.M.)が2.15~2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48、鉄率(I.M.)が1.86~2.40であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で66.1~70.0質量%である」のに対し、甲7発明1、2、甲9発明1、及び、2は、そのような焼成物の組成を有していない点が、少なくとも相違している。
そして該相違点について検討すれば、「水硬率(H.M.)が2.15~2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20~2.48、鉄率(I.M.)が1.86~2.40であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で66.1~70.0質量%である」焼成物とすることについては、甲第1~6、8号証のいずれにも、記載も示唆もない。
してみると、本件発明1、及び、本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2~3は、甲第7号証に記載された発明及び甲第1~6、8号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではないし、また、甲第9号証に記載された発明及び甲第1~6、8号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものでもない。
(イ)実施可能要件違反について
特許異議申立人松永健太郎は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、焼成物を得るために必要な工程が記載されていないし、実施例で使用した原料である「石炭灰」、「R鉄原料」の化学組成についても一切記載されていないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえないと主張する。
しかしながら、本件発明1は、物(セメント)の発明であり、その中に含まれる焼成物を得るための工程に特徴を有するものではないし、焼成物を得る工程は、記載を要しない技術常識であると認められる。
さらに、「石炭灰」、「R鉄原料」は、廃棄物であり、その化学組成が一定なものではないことからみて、実施例で使用した「石炭灰」、「R鉄原料」の化学組成の特定が必要であるといえない。
してみると、焼成物を得るために必要な工程、及び、「石炭灰」、「R鉄原料」の化学組成が記載されていなくても、当業者は過度の試行錯誤を要さず本件発明1を実施することができるといえるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(ウ)明確性要件違反について
特許異議申立人松永健太郎は、下限だけを示す数値範囲限定(「石膏」の割合、「半水石膏」の割合)があり、請求項1~3に係る発明は不明確であると主張する。
しかしながら、「石膏」の割合の上限は、本件訂正請求により、「4質量%」となった。
また、「半水石膏」の割合の上限は、理論的限界値である100質量%であることが明らかである。
したがって、本件発明1~3は明確である。
(エ)サポート要件違反について
特許異議申立人松永健太郎は、下限だけを示す数値範囲限定(「半水石膏」の割合)があり、これが、100%であるときに課題を解決できることは本件特許明細書においてサポートされていないと主張する。
ここで、本件発明1~3の解決課題は、「原料として用いられる廃棄物の使用量を増加させることができるとともに、早強ポルトランドセメントと同等の物理特性(具体的には、凝結、強度、及び流動性)を有するセメントを提供すること」(【0004】)であると認める。
そこで検討するに、甲第3号証に示された次の図(第47頁の図-9)からみて、「半水石膏」の割合は100%に至るまで、優れた流動性を発揮することが、技術常識であるといえる。
また、「半水石膏」の高い割合が、凝結特性や強度特性を悪化させる証拠は提示されておらず、そのような技術常識が存在するともいえない。さらに、「半水石膏」の高い割合が、廃棄物の使用量を減らすものでもない。
してみると、本件発明1~3は、当業者が本件特許に係る出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-700605