特許異議申立
2017-700366
植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋
- 審判番号
- 2017-700366
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-143712
- 登録番号
- 特許第6011585号(P6011585)
- 請求日
- 2017年04月12日
- 審決日
- 2018年03月14日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】結田 純次
- 【権利者代理人】竹林 則幸
- 【異議申立人】土田 裕介
- 【異議申立人代理人】長谷川 芳樹
- 【異議申立人代理人】黒木 義樹
- 【異議申立人代理人】吉住 和之
- 【異議申立人】ブラスケム エス. エー
- 【異議申立人代理人】特許業務法人浅村特許事務所
- 【異議申立人】鈴木 清司
- 審判長/審判官
- 審判長 渡邊 豊英
- 審判官 井上 茂夫
- 審判官 小野田 達志
- 分類
- P1651.113-YAA(B65D) / P1651.121-YAA(B65D) / P1651.537-YAA(B65D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第36条、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6011585号発明「植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6011585号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第6011585号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6011585号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成23年2月14日に出願した特願2011-28784号の一部を平成26年7月11日に新たな特許出願としたものであって、平成28年9月30日にその特許権の設定登録がされたものであり、その特許について、平成29年4月12日に特許異議申立人土田裕介(以下「申立人1」という。)により、平成29年4月19日に特許異議申立人ブラスケム エス.エー(以下「申立人2」という。)により、平成29年4月19日に特許異議申立人鈴木清司(以下「申立人3」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされ、当審において平成29年7月19日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年9月15日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされた。
この本件訂正請求について、平成29年10月23日に申立人1より、平成29年11月15日に申立人2より、平成29年10月26日に申立人3より、それぞれ意見書が提出され、当審において平成29年12月11日付けで訂正拒絶理由を通知し、その指定期間内である平成30年1月10日に意見書が提出されたものである。
第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6011585号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「包装材用シーラントフィルムであって、該シーラントフィルムは、植物由来ポリエチレン系樹脂と石油由来ポリエチレン系樹脂とからなる樹脂組成物であり、該植物由来ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度80~100%を有する、低密度ポリエチレン系樹脂、または、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であり、該低密度ポリエチレン系樹脂は、バイオエタノールを加熱して触媒存在下で分子内脱水反応により得られたエチレンを、重合触媒により重合させた樹脂であり、該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、植物由来エチレンとα-オレフィンとを、メタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合させて得られた樹脂であり、前記シーラントフィルムは、上記樹脂組成物から形成された単層構成、または多層構成からなり、該多層構成は、中間層を前記樹脂組成物とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成であることを特徴とする包装材用シーラントフィルム。」を、
「包装材用シーラントフィルムであって、該シーラントフィルムは、植物由来ポリエチレン系樹脂と石油由来ポリエチレン系樹脂とからなる樹脂組成物から形成された単層構成、または、中間層を前記樹脂組成物とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成からなり、該植物由来ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度80~100%を有する、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であって、植物由来エチレンとα-オレフィンとを、メタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合させて得られた樹脂であることを特徴とする包装材用シーラントフィルム。」に訂正する。
(2)訂正事項2
本件特許明細書の【0029】の
「さらには、上記サトウキビ由来のポリエチレン系樹脂には、放射性炭素年代測定14Cによるバイオマス度が、80~100%を有する例えば、87%のバイオマス度を有する直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂や、95%のバイオマス度を有する低密度ポリエチレン系樹脂が用いられる。」を、
「さらには、上記サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂には、放射性炭素年代測定14Cによるバイオマス度が、80~100%を有するエチレン-α-オレフィン共重合体系樹脂が用いられる。」に訂正する。
2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア.訂正事項1のうち、「該シーラントフィルムは、植物由来ポリエチレン系樹脂と石油由来ポリエチレン系樹脂とからなる樹脂組成物から形成された単層構成、または、中間層を前記樹脂組成物とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成からなり、」とする訂正は、訂正前の請求項1の「前記シーラントフィルムは、上記樹脂組成物から形成された単層構成、または多層構成からなり、該多層構成は、中間層を前記樹脂組成物とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成である」との記載が、同じく訂正前の請求項1の「シーラントフィルムは、植物由来ポリエチレン系樹脂と石油由来ポリエチレン系樹脂とからなる樹脂組成物であり」との記載と整合せず、明瞭でない記載となっていたものを、整合するように整理して記載したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、
訂正事項1のうち、「低密度ポリエチレン系樹脂」及び「該低密度ポリエチレン系樹脂は、バイオエタノールを加熱して触媒存在下で分子内脱水反応により得られたエチレンを、重合触媒により重合させた樹脂であり」との事項を削除する訂正は、植物由来ポリエチレン系樹脂に用いられる樹脂の選択肢を減らすものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ.訂正事項1は、植物由来ポリエチレン系樹脂と石油由来ポリエチレン系樹脂とからなる樹脂組成物から形成された単層構成については本件特許明細書の【0036】、中間層を前記樹脂組成物とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成については同じく【0038】に記載されており、また、「低密度ポリエチレン系樹脂、または、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」の選択肢から、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂のみに選択肢を減らす訂正であるから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア.訂正事項2は、訂正事項1により訂正前の請求項1から「低密度ポリエチレン系樹脂」との事項が削除され、請求項1で「植物由来ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度80~100%を有する、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であって、植物由来エチレンとα-オレフィンとを、メタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合させて得られた樹脂である」と記載されることと整合させるために、「直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」には、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度80~100%を有し、植物由来エチレンとα-オレフィンとを、メタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合させて得られた「エチレン-α-オレフィン共重合体系樹脂」が用いられるものと訂正するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ.訂正事項2のうち、「エチレン-α-オレフィン共重合体系樹脂」とする訂正、及び、その「エチレン-α-オレフィン共重合体系樹脂」のバイオマス度が「80~100%を有する」とする訂正について、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものではないとの訂正拒絶理由を通知したので、以下に検討する。
この「エチレン-α-オレフィン共重合体系樹脂」とする訂正については、本件特許明細書の【0027】に、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂として「エチレン-α-オレフィン共重合体が用いられる」旨記載されるのみで、他に「エチレン-α-オレフィン共重合体」に類する樹脂について記載されておらず、本件特許明細書全体からみて、特許権者が、平成30年1月10日の意見書において主張するように、「エチレン-α-オレフィン共重合体系樹脂」とは、エチレンとα-オレフィンとを共重合させたもの、すなわち「エチレン-α-オレフィン共重合体」を意味すると理解することが相当であり、「エチレン-α-オレフィン共重合体系樹脂」との事項が、本件特許明細書に記載されていなかったものとはいえない。
また、「エチレン-α-オレフィン共重合体系樹脂」のバイオマス度が「80~100%を有する」とする訂正についても、訂正前の請求項1に「バイオマス度80~100%を有する」「直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」と記載されていた上、本件特許明細書の【0024】には、石油由来のα-オレフィンを使用するとは記載されていないし、エチレンからα-オレフィンを製造する方法が広く知られた技術(乙5:山田侃他3名、「α-オレフィン製造触媒およびプロセズの開発と工業化」、石油学会誌、Vol.37、No.4、1994、337~346頁)であり、植物由来のエチレンからはα-オレフィンを製造できないとする理由もないから、「エチレン-α-オレフィン共重合体系樹脂」のバイオマス度が「80~100%を有する」との事項が、本件特許明細書に記載されていなかったものとはいえない。
よって、上記訂正拒絶理由には理由がなく、訂正事項2は、訂正事項1により訂正された請求項1の記載に整合させるものであるから、訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.そして、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項2、3は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。
また、訂正事項2による本件特許明細書の訂正に係る請求項は、請求項1、及びこの請求項1を直接又は間接に引用する請求項2、3であり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項に規定する、一群の請求項の全てについて行われたものである
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.請求項1~3に係る発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1~3に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものであり、そのうち本件発明1は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
包装材用シーラントフィルムであって、該シーラントフィルムは、植物由来ポリエチレン系樹脂と石油由来ポリエチレン系樹脂とからなる樹脂組成物から形成された単層構成、または、中間層を前記樹脂組成物とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成からなり、該植物由来ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度80~100%を有する、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であって、植物由来エチレンとα-オレフィンとを、メタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合させて得られた樹脂であることを特徴とする包装材用シーラントフィルム。」
2.取消理由の概要
本件発明1~3に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
理由1)本件発明1~3は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2)本件発明1~3は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
[理由1、2]
甲1:特開2012-167172号公報
甲2:「低密度ポリエチレングリーン-ホモポリマー」の安全データシート、ブラスケム社、2013年2月22日、p.1~9
甲3:「ポリオレフィン等合成樹脂製食品容器包装等に関する自主基準A 確認証明書」、ポリオレフィン等衛生協議会、平成26年2月27日
甲5:特開平10-114037号公報
甲6:リニアポリエチレンカタログ「SUMIKATHENE-L○R スミカセン-L○R」、住友化学工業株式会社、1992年3月
甲7:高圧法ポリエチレンカタログ「SUMIKATHENE○R スミカセン○R」、住友化学工業株式会社、2001年3月
甲8:特開平6-32946号公報
甲9:杉山英路ら、「地球環境に優しい『サトウキビ由来のポリエチレン』」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2009年8月15日、第37巻、第8号、通巻437号、p.63~67
甲10:杉山英路、「新しいバイオマスプラスチックスの可能性~『サトウキビ由来ポリエチレン』の製品化から~」、Polyfile、株式会社大成社、2009年12月10日、Vol.46、No.550、p.28~30
甲11:特開2008-265115号公報
甲12:特開2009-149013号公報
甲13の1:国際公開第2009/070858号
甲13の2:特表2011-506628号公報
甲14:プラスチックフィルム・レジン材料総覧2008、株式会社加工技術研究会、2008年1月31日、目次-4~5、p.324~327、334、335、382~387
甲15:特開2007-137920号公報
(当審注:「○R」は、登録商標を示す「R」を○で囲んだものを代用表記したもの。)
(1)本件特許は、特願2011-28784号(以下「原出願」という。)の一部を平成26年7月11日に新たな特許出願(以下「分割出願」という。)とされたものになされたものであるが、本件特許の請求項1の、直鎖状に限定されない「低密度ポリエチレン系樹脂」との事項は、原出願の出願当初の明細書等に記載された範囲内であるとはいえず、分割出願の出願日は、分割出願の現実の出願日である平成26年7月11日である。
すると、本件発明1~3の植物由来ポリエチレン系樹脂が「低密度ポリエチレン系樹脂」である場合には、本件発明1と、原出願の公開公報である甲1に記載された発明とは、「該植物由来ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度80~100%を有する、低密度ポリエチレン系樹脂」であり、「該低密度ポリエチレン系樹脂は、バイオエタノールを加熱して触媒存在下で分子内脱水反応により得られたエチレンを、重合触媒により重合させた樹脂」であるか否かで相違するが、甲2、甲3に示すように、分割出願の出願日である平成26年7月11日以前に、「低密度ポリエチレン系樹脂(LDPE)」に分類される「SBC818」が、日本国内で食品包装用の材料として販売を開始されていたと認められ、石油代替のためバイオマス度の高い材料を用いようとする動機付けもあるから、本件発明1~3は、甲1に記載された発明において、食品包装用の材料として知られた「低密度ポリエチレン系樹脂(LDPE)」に分類される「SBC818」を採用することは、当業者が容易になし得たものである。
また、植物由来ポリエチレン系樹脂が「直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」である場合は、本件発明1~3と甲1に記載された発明との間に相違点はなく、本件発明1~3は、甲1に記載された発明である。
(2)仮に、分割出願の出願日が、原出願の出願日である平成23年2月14日であったとしても、本件発明1~3は、甲5に記載された発明及び甲6~15記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。
[理由3]
(1)本件発明1には、「植物由来ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度80~100%を有する、低密度ポリエチレン系樹脂、または、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」である旨特定されているが、本件特許明細書には、植物由来ポリエチレン系樹脂が「直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」である実施例等の記載はあるものの、「低密度ポリエチレン系樹脂」である実施例等については、何ら記載されていない。
原出願の出願日である平成23年2月14日の時点では、「低密度ポリエチレン系樹脂」をシーラントフィルムとして使用することが技術常識であったとはいえないから、植物由来ポリエチレン系樹脂が「低密度ポリエチレン系樹脂」であることを含み得る本件発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるといえる。
よって、本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(2)請求項1には「該シーラントフィルムは、植物由来ポリエチレン系樹脂と石油由来ポリエチレン系樹脂とからなる樹脂組成物であり」と記載され、同じく請求項1には、「前記シーラントフィルムは、上記樹脂組成物から形成された単層構成、または多層構成からなり、該多層構成は、中間層を前記樹脂組成物とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成であること」とも記載されており、「樹脂組成物」が「シーラントフィルム」全体を構成するものと解される一方、多層構成のうち中間層のみを構成するものとも解されることとなり、「樹脂組成物」が、何を構成するものであるのか、明確ではない。
3.当審の判断
(1)理由3(特許法第36条)に係る取消理由についての判断
事案に鑑み、まず理由3について検討する。
ア.上記[理由3]の「(1)」の取消理由は、本件訂正請求により、請求項1の記載から「低密度ポリエチレン系樹脂」に係る事項が削除されたため、理由がないものとなった。
なお、申立人2は、平成29年11月15日の意見書(11~13頁「B.訂正後の特許請求の範囲にかかるサポート要件違反について」)において、本件特許明細書の実施例中に記載された「ブラスケム社C4LL-LL118」は、メタロセン触媒により製造されるものではなく、本件特許明細書には、「メタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合させて得られた樹脂」を用いるとする本件発明1~3についての実施例が記載されておらず、「サポート要件違反にかかる取消理由(取消理由3)によっても本件特許は取り消されるべき」旨主張するが、「ブラスケム社C4LL-LL118」自体が「メタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合させて得られた樹脂」ではないことをもってする上記主張は、申立人2の特許異議申立書に記載していない新たな取消理由の主張であり、時機に遅れてするものであるため、判断しない。
イ.また、上記[理由3]の「(2)」の取消理由も、本件訂正請求により、「該シーラントフィルムは、植物由来ポリエチレン系樹脂と石油由来ポリエチレン系樹脂とからなる樹脂組成物から形成された単層構成、または、中間層を前記樹脂組成物とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂とした多層構成からなり、」と訂正され、「樹脂組成物」が、単層構成または多層構成のうち中間層のみを構成するものであることが明確になったため、理由がないものとなった。
ウ.よって、本件発明1~3は、特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定に違反するものではないから、本件発明1~3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当しない。
(2)理由1(特許法第29条第1項第3号)及び理由2(特許法第29条第2項)に係る取消理由についての判断
ア.甲1を主な引用例とする取消理由について
本件訂正請求により、請求項1の記載から「低密度ポリエチレン系樹脂」に係る事項が削除されたため、分割出願に係る本件特許の出願日は、原出願の出願日である平成23年2月14日に遡及する。
そうすると、甲1は、原出願の公開公報であり、本件特許の出願日の平成23年2月14日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物ではないから、その甲1を主な引用例とする、特許法第29条第1項第3号、あるいは、特許法第29条第2項に係る取消理由には、理由がない。
イ.甲5を主な引用例とする取消理由について
(ア)甲5(特に、【0001】、【0011】の実施例1の記載)には、
「シーラントフィルムの内外層として、引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産 (株)製1520F)のフィルム層、中間層として引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0:100重量部と住友化学工業(株)製F102-0:40重量部との混合物)からなる、包装袋用シーラントフィルム。」の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。
本件発明1と甲5発明を対比すると、シーラントフィルムの中間層について、本件発明1では「植物由来ポリエチレン系樹脂と石油由来ポリエチレン系樹脂とからなる樹脂組成物」から形成され、その「植物由来ポリエチレン系樹脂」は、「放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度80~100%を有する、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であって、植物由来エチレンとα-オレフィンとを、メタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合させて得られた樹脂」であるのに対し、甲5発明では「引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0:100重量部と住友化学工業(株)製F102-0:40重量部との混合物)」からなる点で、少なくとも相違する。
(イ)この相違点について検討する。
・甲6には、「住友化学工業(株)製FA101-0」がリニアポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂)に分類される製品であることが、
・甲7には、「住友化学工業(株)製F102-0」が高圧法ポリエチレンに分類され、主要用途が重包装であることが、
・甲8には、「住友化学工業(株)製F102-0」が低密度ポリエチレンであることが、
・甲9には、ポリエチレン原料を従来の石油系原料から再生可能なサトウキビ(バイオマス系)に置き換えることにより、植物の生育時のCO2吸収と燃焼時の排出が同一(カーボンニュートラル)になり地球環境に優しいこと、Braskem社が製造するバイオマス系のLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂)について、石油系のLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂)と性能を比較したところ、樹脂特性(MFR、Density)、樹脂評価(成形性、品質、外観)の観点で、同等であることが確認されたこと、さらに、サトウキビ由来ポリエチレンのLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂)がインフレフィルム用であることが、
・甲10には、Braskem社が製造するバイオマス系のLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂)がインフレフィルム用であり、食品包装材が用途として想定されることが、
・甲11、甲12には、化石原料を使わずに植物由来原料を使用するために、ポリ乳酸樹脂を包装用シーラント材料に用いることが、
・甲13の1、甲13の2には、植物を原料として直鎖状低密度ポリエチレンをメタロセン触媒存在下で気相重合法により製造することが、
・甲14には、メタロセン触媒を利用した気相重合法により得られた石油由来の直鎖状低密度ポリエチレンは、チーグラー・ナッタ触媒を用いて製造したものと比較して、強度、透明性、シール性が優れ、包装用途を中心に広く使用されていることが、
・甲15には、メタロセン触媒より製造されたエチレンとα-オレフィンとの共重合体からなるポリエチレン系樹脂組成物を、シーラントフィルムに用いることが、それぞれ記載されているものの、
いずれにも、シーラントフィルムに「植物由来ポリエチレン系樹脂」を用い、その「植物由来ポリエチレン系樹脂」を「放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度80~100%を有する、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であって、植物由来エチレンとα-オレフィンとを、メタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合させて得られた樹脂」とすることについては、記載も示唆もされていない。
確かに、甲9には、Braskem社が製造するバイオマス系のLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂)が、石油系のLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂)と、樹脂特性(MFR、Density)、樹脂評価(成形性、品質、外観)の観点で、同等であることが確認された旨記載されているが、本件発明1のシーラントフィルムのように、樹脂の性能評価で、シール強度(本件特許明細書の【0052】)について評価されたものではなく、甲9の記載からは、甲9のBraskem社が製造するバイオマス系のLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂)をシーラントフィルムに用いた場合に、「ヒートシール強度などの加工特性」(本件特許明細書の【0004】)が求められる水準を満たすものとなるかについて予測できるものではない、すると、甲9にバイオマス系のLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂)をインフレフィルムとして使用できることが記載されているとしても、シーラントフィルムとして使用できることまでが記載されているとはいえない。
仮に、甲9に記載されるバイオマス系のLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂)を、甲5発明に適用するとしても、甲5発明には、中間層に直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の「住友化学工業(株)製FA101-0」が用いられるほか、シーラントフィルムの内外層として、「直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産 (株)製1520F)のフィルム層」が存在し、中間層の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂である「住友化学工業(株)製FA101-0」のみ、甲9のLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂)に換える動機付けがない。
よって、本件発明1は、甲5発明及び甲6~15記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ)なお、申立人3は、平成29年10月26日の意見書において、周知事項を示す参考資料1~3(参考資料:特開平10-119210号公報、参考資料2:特開平5-750号公報、参考資料3:特開2000-137010号公報)を新たに提出し、「参考資料1~3に記載されているように、本件原出願の出願時(平成23年2月14日)には、包装体の技術分野において、低温シール性や機械的強度を向上させるために、シーラントフィルムとしてメタロセン触媒によって重合された直鎖状低密度ポリエチレン(以下、メタロセンLLDPEという)からなる単層構成のフィルムを用いることは周知の事項にすぎない。・・・・そうすると、参考資料1~3に記載のシーラントフィルムのうち、たとえば、参考資料1記載のシーラントフィルムにおいて、コストの上昇を抑えつつCO2排出量を削減する目的で、従来から使用されている石油由来のメタロセンLLDPEであるLL-118に置き換えてみる、すなわち、植物由来メタロセンLLDPEと石油由来メタロセンLLDPEとからなる樹脂組成物を使用してみることは、当業者にとって容易に想到することができたものにすぎない。」(申立人3の平成29年10月26日の意見書の2頁7行~末行)旨主張するが、この新たに提出した刊行物に記載された発明を基にした新たな取消理由の主張は、時機に遅れてするものであり、判断しない。
(エ)本件発明2、3は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しており、上記のように、本件発明1は、甲5発明及び甲6~15記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものではないから、本件発明2、3についても、甲5発明及び甲6~15記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものではない。
ウ.よって、本件発明1~3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもないから、本件発明1~3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア.申立人1は、その特許異議申立書(「4.(4-5)(ア)○8(当審注:「○8」は、8を○で囲んだもの。)」)において、本件発明1のシーラントフィルムが単層構成である場合については、甲15に記載の「メタロセン触媒により製造された(I)エチレンとα-オレフィンとの共重合体」に代えて甲9に記載された植物由来のポリエチレン系樹脂を採用することは容易であり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、同法第113条第2号の規定により、本件発明1~3に係る特許を取り消すべき旨主張する。
しかし、甲15に記載されたシーラントフィルムは、「(I)エチレンとα-オレフィンとの共重合体」と「(II)エチレン重合体またはエチレンとα-オレフィンとの共重合体」とをドライブレンドして成形したものであるが、このうち、「(I)エチレンとα-オレフィンとの共重合体」のみを、甲9に記載された植物由来のポリエチレン系樹脂に代えて、植物由来のものと石油由来のものを混合してシーラントフィルムとする動機付けがなく、甲15及び甲9の記載から、本件発明1~3が、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立人1の上記申立理由は、採用することができない。
イ.申立人2は、その特許異議申立書(「4(4)ハ 本件特許発明と証拠に記載された発明との対比(進歩性の欠如)」)において、本件発明1~3は、特開2010-162748号公報(申立人2が提出した甲第1号証)に記載された発明、又は、米国特許出願公開第2009/0192270号(同じく甲第2号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、同法第113条第2号の規定により、本件発明1~3に係る特許を取り消すべき旨主張する。
しかし、上記(2)イ.(イ)で述べたものと同様に、申立人2が提出した上記刊行物にも、シーラントフィルムに「植物由来ポリエチレン系樹脂」を用い、その「植物由来ポリエチレン系樹脂」を「放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度80~100%を有する、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であって、植物由来エチレンとα-オレフィンとを、メタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合させて得られた樹脂」とすることについて、記載も示唆もされておらず、これらの刊行物に記載された発明から、本件発明1~3は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立人2の進歩性に係る上記申立理由は、採用することができない。
ウ.また、申立人2は、その特許異議申立書(「4(4)ニ サポート要件不備について」)において、本件特許明細書には、「ブラスケム社C4LL-LL118」以外の「低密度ポリエチレン系樹脂、または、直鎖低密度ポリエチレン系樹脂」について、あるいは、単層構成の包装材用シーラントフィルムについて、具体的に物性が確認されておらず、それらを含む本件発明1~3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであって、同法第113条第4号の規定により、本件発明1~3に係る特許を取り消すべき旨主張する。
しかし、本件特許明細書の実施例1により、植物由来の直鎖低密度ポリエチレン系樹脂である「ブラスケム社C4LL-LL118」は、石油由来のものと比べて、「引張破断強度や引裂強さが強く、腰やシール強度は同等の強度を有し、弾性率が低く柔軟であること」(【0051】)が確認され、この「ブラスケム社C4LL-LL118」以外の植物由来の直鎖低密度ポリエチレン系樹脂であっても、同様の物性を有することが、通常、予測できるものである。また、本件特許明細書の【0047】には、「なお、本願発明の樹脂組成物1からなるフィルムF1~F4や、これらフィルムF1~F4を用いた積層フィルム3を使用して、上述したスタンディングパウチに例示される包装袋6以外にも、ポリエチレン系樹脂を用いた樹脂組成物1から構成される、例えば、飲食品・化粧品・薬品・雑貨品などの内容物を収容するラミネートチューブ、液体紙容器などを含む容器や、容器の蓋材、あるいは容器のラベルなどを構成することができ、いっそう石油由来の使用比率を低下させるとともに、二酸化炭素排出量を大きく抑制することができる。」と、単層構成であるフィルム「F2」について、スタンディングパウチに例示される包装袋の他、種々の容器に使用し得ることが記載されているから、この記載からすれば、単層構成のものも、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものである。
よって、申立人2のサポート要件に係る上記申立理由は、採用することができない。
エ.申立人3は、その特許異議申立書(「3(4)イ 記載不備の理由」)において、本件発明1の「植物由来ポリエチレン系樹脂と石油由来ポリエチレン系樹脂とからなる樹脂組成物」との記載のうち、「植物由来ポリエチレン系樹脂」と「石油由来ポリエチレン系樹脂」は、製造方法によって生産物を特定しようとする記載に該当するから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2、3は、明確性要件違反に該当する旨主張する。
しかし、本件発明1の「植物由来ポリエチレン系樹脂」及び「石油由来ポリエチレン系樹脂」との記載は、それらの出発原料が「植物」なのか「石油」なのかにより、「放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度」が変わり、それぞれの物として特徴が区別でき、理解できるから、「植物由来ポリエチレン系樹脂」あるいは「石油由来ポリエチレン系樹脂」と記載されていることをもって、本件発明1~3が「明確性要件違反に該当する」とはいえない。
よって、申立人3の上記申立理由は、採用することができない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700366