特許異議申立
2017-700289
液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
- 審判番号
- 2017-700289
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-010523
- 登録番号
- 特許第5994257号(P5994257)
- 請求日
- 2017年03月21日
- 審決日
- 2017年09月13日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JSR株式会社
- 【権利者代理人】天野 一規
- 【異議申立人】劉 華
- 審判長/審判官
- 審判長 森 竜介
- 審判官 星野 浩一
- 審判官 恩田 春香
- 分類
- P1651.113-YAA(G02F) / P1651.121-YAA(G02F) / P1651.161-YAA(G02F) / P1651.4 -YAA(G02F) / P1651.537-YAA(G02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第39条第1項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5994257号発明「液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5994257号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第5994257号の請求項1、3、5、6に係る特許を維持する。
特許第5994257号の請求項2、4に係る特許についての特許異議の申立を却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5994257号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成24年1月20日(優先権主張平成2011年3月17日)の出願であって、平成29年9月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1ないし6に係る特許について、特許異議申立人劉華により特許異議の申立てがされたものである。
以後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年5月16日:取消理由通知(5月24日発送)
同年7月24日:訂正請求書・意見書
同年7月27日:通知書(8月1日発送)
なお、特許異議申立人に、平成29年7月27日付けで通知書を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、何ら応答がなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
平成29年7月24日付けの訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。)は、特許第5994257号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について、訂正することを求めるものである。
2 訂正の内容
(1)訂正事項1(なお、下線は、当審で付した。)
特許請求の範囲の請求項1に「[A]ポリアミック酸、(メタ)アクリル重合体、ポリシロキサン及びポリアミック酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の重合体を含有し、かつ上記重合体が下記式(1)で表される基を有し、
上記R3が、下記式(2)で表される基である液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、
R1は、炭素数4~30のアルキレン基、又は-(Cb’H2b’O)c’-である。b’は、4~11の整数である。c’は、1~10の整数である。但し、これらの基の水素原子の一部又は全部は、置換されていてもよい。
R2は、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、エーテル結合、エステル結合又はアミド結合を含む連結基である。
R3は、少なくとも2個の単環構造を有する基である。
aは、0又は1の整数である。)
【化2】
(式(2)中、
R4及びR6は、それぞれ独立してフェニレン基、ビフェニレン基、ナフタレン基、シクロヘキシレン基、ビシクロヘキシレン基、シクロへキシレンフェニレン基又は複素環である。但し、これらの基の水素原子の一部又は全部は、置換されていてもよい。
R5は、メチレン基、炭素数2~10のアルキレン基、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、エーテル結合、エステル結合又は複素環を含む連結基である。但し、上記連結基の水素原子の一部又は全部は、置換されていてもよい。
R7は、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基、アルコキシカルボニル基、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメトキシ基又はアルキルカルボニルオキシ基である。
bは、0又は1である。cは、1~9の整数である。但し、R7が複数の場合、複数のR7は同一でも異なっていてもよい。)」と記載されているのを、
「[A]ポリアミック酸、(メタ)アクリル重合体及びポリアミック酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の重合体を含有し、かつ上記重合体が下記式(1)で表される基を有する液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、
R1は、炭素数4~30のアルキレン基、又は-(Cb’H2b’O)c’-である。b’は、4~11の整数である。c’は、1~10の整数である。但し、これらの基の水素原子の一部又は全部は、置換されていてもよい。
R2は、エステル基、エステル基又はアミド基である。
R3は、少なくとも2個の単環構造を有すると共に下記式(2)で表される基である。
aは、0又は1の整数である。)
【化2】
(式(2)中、
R4及びR6は、それぞれ独立してフェニレン基、ビフェニレン基、ナフタレン基、シクロヘキシレン基、ビシクロヘキシレン基、シクロへキシレンフェニレン基又は複素環である。但し、これらの基の水素原子の一部又は全部は、フッ素原子で置換されていてもよい。
R5は、メチレン基、炭素数2~10のアルキレン基、エテンジイル基、エチンジイル基、エーテル結合、エステル結合又はメタンジイルオキシ基である。但し、上記連結基の水素原子の一部又は全部は、フッ素原子で置換されていてもよい。
但し、R4~R6の少なくとも1つの基はフッ素原子を有している。
R7は、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基、アルコキシカルボニル基、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメトキシ基又はアルキルカルボニルオキシ基である。
bは、0又は1である。cは、1~9の整数である。但し、R7が複数の場合、複数のR7は同一でも異なっていてもよい。)」に訂正する(本件訂正請求書第2ないし4頁)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する(本件訂正請求書第4頁)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「上記ポリアミック酸が、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応物である請求項1又は請求項2に記載の液晶配向剤。」とあるうち、請求項2を引用するものを削除し、「上記ポリアミック酸が、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応物である請求項1に記載の液晶配向剤。」に訂正する(本件訂正請求書第5頁)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する(本件訂正請求書第5頁)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の液晶配向剤から形成される液晶配向膜。」とあるうち、請求項2を引用するもの及び請求項4を引用するものを削除し、「請求項1又は請求項3に記載の液晶配向剤から形成される液晶配向膜。」に訂正する(本件訂正請求書第5頁)。
3 訂正の適否
訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1は、[A]重合体に関して、
(ア)訂正前の請求項1の「ポリアミック酸、(メタ)アクリル重合体、ポリシロキサン及びポリアミック酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の重合体」から、「ポリシロキサン」を削除することで、重合体を「ポリアミック酸、(メタ)アクリル重合体及びポリアミック酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の重合体」に限定し、
(イ)訂正前の請求項1の式(1)におけるR2の「炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、エーテル結合、エステル結合又はアミド結合を含む連結基」から、「炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合」及び「を含む連結基」を削除することで、R2を「エーテル基、エステル基又はアミド基」に限定し、
(ウ)訂正前の請求項1の式(2)におけるR5の「メチレン基、炭素数2~10のアルキレン基、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、エーテル結合、エステル結合又は複素環を含む連結基」から、「複素環」及び「を含む連結基」を削除し、
「炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合」を「エテンジイル基、エチンジイル基」に書き改め、「エーテル結合、エステル結合又は」を「エーテル基、エステル基又はメタンジイルオキシ基」に限定することで、R5を「メチレン基、炭素数2~10のアルキレン基、エテンジイル基、エチンジイル基、エーテル基、エステル基又はメタンジイルオキシ基」に限定し、
(エ)訂正前の請求項1の式(2)におけるR4~R6について「R4~R6の少なくとも1つの基はフッ素原子を有している」と限定することで、
全体として、訂正前の請求項1の[A]重合体の構造を限定しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 上記ア(ウ)の訂正に関連して、願書に添付した明細書の【0023】ないし【0030】に示された化学構造式のうち、式(2-8)及び式(2-20)が、R5を「メタンジイルオキシ基」とした化学構造式であること、
上記ア(エ)の訂正に関連して、願書に添付した明細書の【0022】には「当該液晶配向剤を用いた液晶表示素子の高速応答の観点から、上記R7としては、アルキル基が好ましく、炭素数1~20の直鎖状のアルキル基がより好ましい。また、上記R4~R6の少なくとも1つの基がフッ素原子を有していることが好ましい。」と記載されていることから、
上記訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項2の訂正により削除された請求項2を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とし、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、訂正事項2及び訂正事項4の訂正により削除された請求項2及び請求項4を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とし、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(6)また、訂正前の請求項1ないし6は、訂正前の請求項2ない6が、請求項1の記載を引用し、訂正事項1により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正前において「一群の請求項」に該当するものであるから、本件訂正は、一群の請求項ごとになされたものであって、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
(7)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する
4 訂正の適否のまとめ
本件訂正請求は適法であることから、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-6]について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1、3、5、6に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明3」、「本件発明5」及び「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3、5、6に記載された事項により特定されるとおりのものである。
第4 取消理由
当審において、訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
【理由1】(新規性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明6」という。という。)は、本件の優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物(甲第1号証ないし甲第7号証)に記載された発明であるから、本件発明1ないし本件発明6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
【理由2】(進歩性)
本件発明1ないし本件発明6は、本件の優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物(甲第1号証ないし甲第8号証)に記載された発明に基いて、本件の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし本件発明6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
【理由3】(拡大先願)
本件発明1、本件発明5及び本件発明6は、本件の優先日前の特許出願(甲第9号証及び甲第10号証を参照。)であって、本件の出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者が本件の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、本件の出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないことから、本件発明1、本件発明5及び本件発明6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
【理由4】(先願)
本件発明1、本件発明2、本件発明4ないし本件発明6は、本件の出願日前の特許出願である特願2010-191576号(甲第11号証)に係る発明と同一であるから、本件発明1、本件発明2、本件発明4ないし本件発明6に係る特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してなされたものである。
【理由5】(記載不備)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備があり、本件発明1ないし本件発明6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。
甲第1号証:特開平10-87859号公報
甲第2号証:特開2007-232934号公報
甲第3号証:Chem.Mater,.1999年4月17日発行,
Vol.11,No.5,p.1293-1301
甲第4号証:Macromolecules,2008年11月6日
発行,Vol.41,No.13,p.4642-4650
甲第5号証:特表平10-506420号公報
甲第6号証:特開平8-12759号公報
甲第7号証:特開2009-36966号公報
甲第8号証:特表2007-521361号公報
甲第9号証:特願2011-2543号
(特開2012-145660号公報を参照。)
甲第10号証:特願2010-167893号
(特開2012-27354号公報を参照。)
甲第11号証:特願2010-191576号
(特許第5776152号公報)
第5 当審の判断
1 甲第1号証ないし甲第11号証
甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明は、何れも「液晶配向剤」に関する発明であって、重合体に着目すると、以下のとおりである。
(1)(メタ)アクリル重合体を含有する液晶配向剤
甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明を、まとめて、以下「甲1発明」という。
甲第9号証及び第10号証に記載された発明を、まとめて、以下「拡大先願発明」という。
(2)ポリアミック酸を含有する液晶配向剤
甲第6号証に記載された発明を、以下「甲6発明」という。
(3)ポリシロキサンを含有する液晶配向剤
甲第7号証に記載された発明を、以下「甲7発明」という。
甲第11号証に記載された発明を、以下「先願発明」という。
(4)ポリビニルアセタールを含有する液晶配向剤
甲第8号証に記載された発明を、以下「甲8発明」という。
2 【理由1】(新規性)について検討する。
引用発明は、
甲第1号証ないし甲第5号証の「甲1発明」と、
甲第6号証の「甲6発明」と、
甲第7号証の「甲7発明」である。
(1)本件発明1と、甲1発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違する。
ア <相違点1>
本件発明1は、「R4~R6の少なくとも1つの基はフッ素原子を有している」のに対して、
甲1発明は、フッ素原子を有していない点。
イ そうすると、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(2)本件発明1と、甲6発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違する。
ア <相違点2>
本件発明1は、「R4~R6の少なくとも1つの基はフッ素原子を有している」のに対して、
甲6発明は、フッ素原子を有していない点。
イ そうすると、本件発明1は、甲6発明であるとはいえない。
(3)本件発明1と、甲7発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違する。
ア <相違点3>
本件発明1は、「ポリアミック酸、(メタ)アクリル重合体及びポリアミック酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の重合体」を含有するのに対して、
甲7発明は、そのようなものを含有しない点。
イ そうすると、本件発明1は、甲7発明であるとはいえない。
(4)また、本件発明3、本件発明5及び本件発明6は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、同様に、本件発明3、本件発明5及び本件発明6は、甲1発明又は甲6発明又は甲7発明であるとはいえない。
(5)よって、本件発明1、本件発明3、本件発明5及び本件発明6に係る特許を【理由1】(新規性)により取り消すことはできない。
3 【理由2】(進歩性)について検討する。
引用発明は、
甲第1号証ないし甲第5号証の「甲1発明」と、
甲第6号証の「甲6発明」と、
甲第7号証の「甲7発明」と、
甲第8号証の「甲8発明」である。
(1)本件発明1と、甲1発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違する。
ア <相違点4>
本件発明1は、「R4~R6の少なくとも1つの基はフッ素原子を有している」のに対して、
甲1発明は、フッ素原子を有していない点。
イ 上記<相違点4>について検討する。
甲第1号証ないし甲第8号証の記載を見ても、甲1発明のR4~R6の少なくとも1つの基において、水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換する動機付けがない。
してみると、本件発明1は、当業者が甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(2)本件発明1と、甲6発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違する。
ア <相違点5>
本件発明1は、「R4~R6の少なくとも1つの基はフッ素原子を有している」のに対して、
甲6発明は、フッ素原子を有していない点。
イ 上記<相違点5>について検討する
甲第1号証ないし甲第8号証の記載を見ても、甲6発明のR4~R6の少なくとも1つの基において、水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換する動機付けとなる記載がない。
してみると、本件発明1は、当業者が甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(3)本件発明1と、甲7発明とを対比する、少なくと、以下の点で相違する。
ア <相違点6>
本件発明1は、「ポリアミック酸、(メタ)アクリル重合体及びポリアミック酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の重合体を含有する」のに対して、
甲7発明は、そのようなものを含有しない点。
イ 上記<相違点6>について検討する。
甲第1号証ないし甲第8号証の記載を見ても、甲7発明の「ポリシロキサン」を、「ポリアミック酸、(メタ)アクリル重合体及びポリアミック酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の重合体」に変更する動機付けがない。
(4)本件発明1と、甲8発明とを対比すると、少なくと、以下の点で相違する。
ア <相違点7>
本件発明1は、「ポリアミック酸、(メタ)アクリル重合体及びポリアミック酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の重合体を含有する」のに対して、
甲8発明は、そのようなものを含有しない点。
イ 上記<相違点7>について検討する。
甲第1号証ないし甲第8号証の記載を見ても、甲8発明の「ポリビニルアセタール」を、「ポリアミック酸、(メタ)アクリル重合体及びポリアミック酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の重合体」に変更する動機付けがない。
(5)また、本件発明3、本件発明5及び本件発明6は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、同様の理由により、本件発明3、本件発明5及び本件発明6は、当業者が甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(6)よって、本件発明1、本件発明3、本件発明5及び本件発明6に係る特許を【理由2】(進歩性)により取り消すことはできない。
4 【理由3】(拡大先願)について検討する。
(1)本件発明1と、拡大先願発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点8>
本件発明1は、「R4~R6の少なくとも1つの基はフッ素原子を有している」のに対して、
拡大先願発明では、フッ素原子を有していない点。
そうすると、本件発明1は、拡大先願発明であるとはいえない。
(2)また、本件発明5及び本件発明6は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、同様の理由により、本件発明5及び本件発明6は、拡大先願発明であるとはいえない。
(3)よって、本件発明1、本件発明5及び本件発明6に係る特許を【理由3】(拡大先願)により取り消すことはできない。
5 【理由4】(先願)
(1)本件発明1と、先願発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点9>
本件発明1は、「R4~R6の少なくとも1つの基はフッ素原子を有している」のに対して、
先願発明では、フッ素原子を有していない点。
そうすると、本件発明1は、先願発明であるとはいえない。
(2)また、本件発明5及び本件発明6は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、同様の理由により、本件発明5及び本件発明6は、先願発明であるとはいえない。
(3)よって、本件発明1、本件発明5及び本件発明6に係る特許を【理由4】(先願)により取り消すことはできない。
6 【理由5】(記載不備)について検討する。
(1)訂正前の請求項1には、式(1)におけるR2について「R2は、炭素-炭素二重結合、…を含む連結基である。」と記載され、式(2)におけるR5について「R5は、メチレン基、……を含む連結基である。」と記載されていたため、「連結基」全体の構造が不明瞭であった。
しかし、訂正により、それぞれ、「R2は、エステル基、エステル基又はアミド基である。」及び「R5は、メチレン基、炭素数2~10のアルキレン基、エテンジイル基、エチンジイル基、エーテル結合、エステル結合又はメタンジイルオキシ基である。」に訂正されたことから、発明特定事項は明確になったものと認められる。
(2)また、訂正前の式(2)における「R4~R6」について「但し、これらの基の水素原子の一部又は全部は、置換されていてもよい。」と記載されていたため、どのような原子で置換するのか不明瞭であった。
しかし、訂正により、「但し、これらの基の水素原子の一部又は全部は、フッ素原子で置換されていてもよい。」に訂正されたことから、発明特定事項は明確になったものと認められる。
(3)よって、本件発明1、本件発明3、本件発明5及び本件発明6に係る特許を【理由5】(記載不備)により取り消すことはできない。
6 まとめ
本件発明1、本件発明3、本件発明5及び本件発明6に係る特許は、取消理由通知に記載した理由、つまり、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
第6 むすび
本件の請求項1、3、5、6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
他に本件の請求項1、3、5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項2、4に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件の請求項2、4に対して、特許異議申立人劉華がした特許異議の申し立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700289