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特許異議申立

2017-700070

シート状物およびその製造方法

審判番号
2017-700070
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2012-108287外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年01月27日
審決日
2017年09月26日
公報発行日
2017年12月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(D06M) / P1651.537-YAA(D06M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第1項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第4号、特許法第113条第4項、特許法第113条第2号、特許法第113条第1項第4号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5958060号発明「シート状物およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5958060号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3、4〕について訂正することを認める。 特許第5958060号の請求項1~4に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許5958060号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成24年5月10日を出願日とする出願であって、平成28年7月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人成田忍(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年3月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年5月15日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)に対して申立人から平成29年7月5日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正の内容は、以下の訂正事項からなるものである。それぞれの訂正事項を訂正箇所に下線を付して示す。 (1)訂正事項1 本件特許の請求項1に 「平均単繊維直径0.3~7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、・・・該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物。」とあるのを、 「平均単繊維直径0.3~7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、・・・該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物。」と訂正する。 (2)訂正事項2 本件特許明細書の段落【0011】に 「20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mm」とあるのを、 「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mm」と訂正する。 (3)訂正事項3 本件特許の請求項3に、 「次の1~4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法。 ・・・」とあるのを、 「次の1~4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法であって、平均単繊維直径0.3~7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物の製造方法。 ・・・」と訂正する。 (4)訂正事項4 本件特許明細書の段落【0013】に 「また、本発明のシート状物の製造方法は、次の1~4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法である。」とあるのを、 「また、本発明のシート状物の製造方法は、次の1~4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法であって、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物の製造方法である。」と訂正する。 (5)訂正事項5 本件特許明細書の段落【0087】に、 「(2)シート状物の剛軟度 JIS L1096-8.19.1(1999)記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し、シート状物の一方の面を上にした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求め、剛軟度xとした。同様にもう一方の面を上とした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求め、剛軟度yとした。xとyの差を次式|x-y|で算出した。」とあるのを、 「(2)シート状物の剛軟度 JIS L1096-8.19.1(1999)記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し、シート状物の一方の面を上にした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、10枚の平均値を求め、剛軟度xとした。同様にもう一方の面を上とした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、10枚の平均値を求め、剛軟度yとした。xとyの差を次式|x-y|で算出した。」と訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の【0011】に、 「剛軟度をyyとしたときに、」とあるのを、 「剛軟度をyとしたときに、」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項 (1)訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載されたシート状物が、「平均単繊維直径0.3~7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタン」を、含有するものであるのを、当該ポリウレタンを、「15質量%以上80質量%以下含有し」と訂正し(以下、「訂正事項1-1」という。)、同請求項1に記載された、剛軟度x及び剛軟度yについて、本件訂正前は「20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|≧5mm」であるのを、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」と訂正する(以下、「訂正事項1-2」という。)ものである。 ア.訂正事項1-1について 訂正事項1-1は、本件訂正前の請求項1に記載されたシート状物が含有するポリウレタンについて、その含有割合を数値限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 本件特許明細書の段落【0042】には、「本発明のシート状物に対するポリウレタンの配合比率としては、10~80質量%であることが好ましい。ポリウレタンの比率を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上とすることにより、シート強度を得るとともに繊維の脱落を防ぐことができる。また、ポリウレタンの配合比率を80質量%以下、より好ましくは70質量%以下とすることにより、風合いが硬くなることを防ぎ、良好な立毛品位を得ることができる。」との記載があるから、訂正事項1-1に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。 イ.訂正事項1-2について 訂正事項1-2は、本件訂正前の請求項1に記載された剛軟度x及び剛軟度yが、「20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mm」であったのを、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mm」とそれぞれを特定する数値範囲を狭める訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 本件特許明細書の段落【0134】の【表1】に示された実施例のうち、xおよびyの最低値を示す実施例9においては、xが26であって、yが21であり、最大値を示す実施例8においては、xが145、yが139であるから、訂正事項1-2に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。 (2)訂正事項2は、剛軟度x及び剛軟度yについての上記(1)イ.に示した訂正事項1-2に係る訂正と整合させるために、本件特許明細書の段落【0011】の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 上記(1)イ.に示したように、訂正事項1-2に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないから、訂正事項2に係る訂正も、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。 (3)訂正事項3は、本件訂正前の請求項3に係るシート状物の製造方法において、当該シート状物を、「平均単繊維直径0.3~7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 本件特許明細書の段落【0018】には、「本発明で用いられる繊維質基材を構成する繊維の平均単繊維直径は、0.3~7μmである。」との記載があり、段落【0042】には、上記(1)ア.に示したとおりの記載があり、段落【0043】には、「本発明のシート状物は、シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたとき、式20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmであることが重要である。」との記載があり、段落【0044】には、「また、本発明においては、剛軟度xとyは|x-y|≧5mmであることが重要である。」との記載がある。そして、段落【0134】の【表1】には、上記(1)イ.に示したとおりの記載がある。そうすると、上記訂正事項3に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。 (4)訂正事項4は、本件特許明細書の段落【0013】に記載されたシート状物の製造方法について、シート状物を、上記(3)に示した訂正事項3に係る請求項3についての訂正に整合させるために、剛軟度x及び剛軟度yを「該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」と訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。 上記(3)に示したように、訂正事項3に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないから、訂正事項4に係る訂正も、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。 (5)訂正事項5について。本件特許明細書には、剛軟度の測定方法について、「タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し、シート状物の一方の面を上にした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求め、剛軟度xとした」(段落【0087】)との記載がある。そして、試験片を、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ5枚作成したのであれば、試験片の枚数は10枚であり、平均値の算出にあたっては、10枚の平均値とすべきであることが明らかであるから、訂正事項5に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。 訂正事項5に係る訂正も、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。 (6)訂正事項6について。段落【0011】には、「・・・、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyyとしたときに、20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とする」との記載がある。当該記載から、「x」を「一方の面を上にしたときの剛軟度」とし、「yy」を「もう一方の面を上にしたときの剛軟度」としているにもかかわらず、その直後の記載において、「x」が、x自体の数値限定やyとの差の絶対値の範囲を記載するために用いられている一方、「yy」は、記載されておらず、「y」が、用いられている。さらに、本件特許明細書及び特許請求の範囲を見ると、「もう一方の面を上にしたときの剛軟度」について、訂正事項6に係る訂正箇所である本件特許明細書の段落【0011】のみが「yy」であり、他所においては、全ての箇所で「y」と記載されている。 したがって、上記本件特許明細書段落【0011】の「yy」との記載は、本来、「y」と記載すべきところを誤って「yy」と記載したことは明らかであるから、訂正事項6に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。また、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。 (7)一群の請求項 本件訂正前の請求項2は、請求項1を引用する請求項であり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。本件訂正前の請求項4は、請求項3を引用する請求項であり、訂正事項3によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。 よって、これらの訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3、4〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1~4に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 平均単繊維直径0.3~7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、少なくとも片方の表面に立毛を有するシート状物であり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物。 【請求項2】 シート状物が織編物を含むことを特徴とする請求項1記載のシート状物。 【請求項3】 次の1~4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法であって、平均単繊維直径0.3~7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物の製造方法。 1.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する前に、該繊維質基材にケン化度が98%未満のポリビニルアルコールは付与せず、ケン化度が98%以上でかつ重合度が800~3500であるポリビニルアルコールを繊維質基材に含まれる極細繊維質量に対し1~50質量%付与してから、該水分散型ポリウレタンを付与する工程。 2.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与した後に、ポリビニルアルコールを除去する工程。 3.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する前に、アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程。 4.上記の1~3の工程の後に得られたシートを厚さ方向に半裁し、半裁したシートの少なくとも片方の面を起毛処理する工程。 【請求項4】 水分散型ポリウレタンが強制乳化型ポリウレタンであることを特徴とする請求項3記載のシート状物の製造方法。」 2.取消理由の概要 本件発明1~4に対して、平成29年3月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。なお、特許異議申立書に記載された取消理由は全て通知された。 【理由1】 本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載した発明ではないから、特許法第36条第6項第1号に規定された要件に適合しない。よって、特許法第113条第4号の規定に該当する。 【理由2】 本件特許の特許請求の範囲の記載は、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定された要件に適合しない。よって、特許法第113条第4項の規定に該当する。 【理由3】 本件発明1~4は、下記の刊行物に記載された発明及び事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第113条第2号の規定に該当する。 記 < 刊 行 物 一 覧 > 1.特開2008-223162号公報(甲第1号証) 2.JIS L 1096:1999「一般織物試験方法」、財団法人 日本規格協会発行、平成11年6月30日第1刷発行、29ページ(甲第2号証) 3.特開2009-133052号公報(甲第3号証) 4.本件特許に係る出願(特願2012-108287号)についての平成28年4月8日付け(提出日)意見書(甲第4号証) 5.特開2002-249988号公報(甲第5号証) 6.特開2002-242083号公報(甲第6号証) 7.特開平6-280145号公報(甲第7号証) 8.特開2005-213303号公報(甲第8号証) 以下、本件特許異議申立書を、「申立書」という。そして、甲第1号証等を「甲1」等といい、甲1に記載された発明及び事項を、「甲1発明」及び「甲1事項」という。 [取消理由1] ・本件発明1~4 ・【理由1】 ・具体的な理由 本件発明1には、「該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|≧5mm」という発明特定事項を有するが、本件特許明細書には、「20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|<5mm」についての実験結果が示されていないから、なぜ前者の数値範囲であれば、後者の数値範囲で有る場合に比べて、課題が解決できるといえるのか、実験結果によって全く示されていない。 したがって、本件発明1とそれを引用する本件発明2、ならびにそれらの製造方法である本件発明3及び4は、発明の詳細な説明に記載した発明であるということはできない。 [取消理由2] ・本件発明1~4 ・【理由1】及び【理由2】 ・具体的な理由 <取消理由2-1> 本件発明1は、本件発明3の製造方法の構成要素である「水分散型ポリウレタンを付与する前に、アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程」に基づくシート状物の耐摩耗性を向上させるための構成を反映していない。したがって、本件発明3の構成を満たさないとして発明の範囲から除外された参考例1ないし10を文言上含むために、本件発明1は明確ではない。 <取消理由2-2> 本件特許明細書に残された実施例11及び12は、「xが91~93mm、yが78~79mm」程度であるにもかかわらず、本件発明1は、xおよびyについて、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」と広範に特定するものである。 したがって、本件特許の請求項1及び2の記載は、本件発明1とそれを引用する本件発明2が明確であるとはいえず、かつ、本件発明1及び2が、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであるともいえない。 <取消理由2-3> 本件発明3及び4に係る製造方法による実施例11及び12と、当該製造方法によらない参考例1ないし10とをみると、本件特許明細書には、本件発明3及び4によって、なんらかの課題が解決されたことが示されているとはいえない。本件発明3及び4は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。 [取消理由3] ・本件発明1及び2 ・【理由3】 ・具体的な理由 本件発明1及び2は、甲1発明及び従来周知の事項(甲2及び甲3に例示)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 [取消理由4] ・本件発明1ないし4 ・【理由3】 ・具体的な理由 本件発明3は、甲5発明、及び、甲6事項あるいは甲7事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明4は、甲5発明、甲6事項あるいは甲7事項、及び、甲8事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明1及び2のシート状物は、本件発明3及び4の製造方法により得られるものであるから、同様に、甲5発明、甲6事項あるいは甲7事項、及び、甲8事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 [取消理由5] ・本件発明1及び2 ・【理由1】 ・具体的な理由 本件訂正前の請求項1とそれを引用する請求項2には、「剛軟度」が記載されている。そして、この「剛軟度」の測定について、本件特許明細書の段落【0087】には、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し、スケールを読み、「5枚の平均値を求め」剛軟度xとしたと記載されているが、タテ方向とヨコ方向とをそれぞれ5枚作成したのであれば、「10枚の平均値」とすべきところであると解されるが、この点で、明細書に記載された剛軟度の測定方法が一義的に定まらない。 したがって、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は明確ではない。 3.判断 (1)[取消理由1]について ア.請求項1について 本件特許明細書には、以下の記載がある。 「【0001】 本発明は、シート状物、特に製造工程に有機溶剤を使用しない環境に配慮した柔軟で外観品位に優れた皮革様シート状物、およびその製造方法に関するものである。」 「【0003】 かかる皮革様シート状物を製造するにあたっては、繊維質基材にポリウレタンの有機溶剤溶液を含浸せしめた後、得られた繊維質基材をポリウレタンの非溶媒である水または有機溶剤水溶液中に浸漬してポリウレタンを湿式凝固せしめる工程の組み合わせが、一般的に採用されている。・・・しかしながら、一般的に有機溶剤は、人体や環境への有害性が高いことから、シート状物の製造に際しては有機溶剤を使用しない手法が強く求められている。 【0004】 その具体的な解決手段として、例えば、従来の有機溶剤タイプのポリウレタンに代えて、水中にポリウレタンを分散させた水分散型ポリウレタンを用いる方法が検討されている。しかしながら、繊維質基材に水分散型ポリウレタンを含浸し、付与したシート状物は、風合いが硬く、剛軟度が高くなりやすいという課題がある。その主な理由は、ポリウレタンが繊維質基材の繊維と強く接着するためであり、このような課題を解消するための検討がなされている。」 「【0009】 そこで本発明の目的は、立毛を有する優美な外観と柔軟な風合いを有するシート状物を提供することにある。 【0010】 本発明の他の目的は、製造工程に有機溶剤を使用しない環境に配慮した上記シート状物の製造方法を提供することにある。」 「【0042】 本発明のシート状物に対するポリウレタンの配合比率としては、10~80質量%であることが好ましい。ポリウレタンの比率を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上とすることにより、シート強度を得るとともに繊維の脱落を防ぐことができる。また、ポリウレタンの配合比率を80質量%以下、より好ましくは70質量%以下とすることにより、風合いが硬くなることを防ぎ、良好な立毛品位を得ることができる。」 「【0043】 本発明のシート状物は、シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたとき、式20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmであることが重要である。剛軟度xとyが20mmより小さいと、シート状物の強度が低く工程通過性が著しく低下するだけでなく、工程通過時のシート状物の寸法変化が大きくなり、良好な外観品位を有するシート状物が得られない。また、剛軟度xとyが150mmより大きいと、シートの剛性が高くなり、柔軟なシート状物が得られない。 【0044】 また、本発明においては、剛軟度xとyは|x-y|≧5mmであることが重要である。剛軟度xがyより大きく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は緻密感のある良好な外観品位が得られ、下にした面は柔軟な風合いが得られることから、シート全体としては緻密感のある外観品位と柔軟な風合いが両立できる。逆に、剛軟度xがyより小さく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は柔軟な風合いや柔らかなタッチが得られ、下にした面は緻密感があり、シートの強力を担うことができることから、シート状物全体としてはシート強力と柔軟な風合いが両立できる。」 以上の摘記事項から、本件発明は、皮革様のシート状物製造するにあたり、環境に配慮して、有機溶剤を使用するのではなく、水分散型ポリウレタンを使用する製造方法を提供し、得られたシート状物が、立毛を有する優美な外観と柔軟な風合いを有するシート状物であることを、解決すべき課題とするものである。 そして、本件発明1は、「ポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有」するから、上記摘記【0042】より、本件発明1は、「良好な立毛品位を得ることができる」。また、本件発明1は、「剛軟度がxおよびyが、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」であるから、上記摘記段落【0043】及び【0044】より、優美な外観と柔軟な風合いを有するものである。さらに、段落【0134】の【表1】をみると、本件発明1に特定された、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」との数値範囲に含まれる実施例1~12については、本件特許明細書段落【0088】に記載の「外観品位」が「3級~5級」の良好であって、「片方の表面に立毛を有する」から、上記外観及び風合いについての課題を解決するものである。また、本件発明1は、「ポリウレタンは水分散型ポリウレタン」であるから、本件発明1は、有機溶剤を使用しないものである。 したがって、本件発明1は、本件発明の上記課題を解決するものであるといえるから、本件発明1が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない、とはいえない。 イ.請求項2について 本件特許の請求項2は、請求項1を引用するものであるから、上記ア.に示した請求項1の特定事項である「ポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有」、剛軟度x及びyを「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」及び「ポリウレタンは水分散型ポリウレタン」を、請求項2も包含する。 したがって、本件発明2も、上記本件発明が解決しようとする課題を解決するものであるといえるから、本件発明2が、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではない、とはいえない。 ウ.請求項3及び4について 本件訂正によって、請求項3の製造方法は、「繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散ポリウレタンであり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」シート状物を製造するための方法に、限定された。 そして、本件特許の請求項4は、請求項3を引用するものであって、請求項3に特定されるすべての事項を包含するものである。 したがって、本件発明3及び4も、上記本件発明が解決しようとする課題を解決するものであるといえるから、本件発明3及び4が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない、とはいえない。 エ.取消理由1についての小活 以上のとおりであるから、本件発明1~4は、いずれも本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、取消理由1によって、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであるとはいえない。 (2)[取消理由2]について 本件発明3の「水分散型ポリウレタンを付与する前に、アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程」に関して、本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0056】 繊維質基材の極細繊維を形成する手段は、極細繊維発現型繊維を用いることが好ましい。極細繊維発現型繊維を用いることにより、極細繊維束が絡合した形態を安定して得ることができる。 【0057】 極細繊維発現型繊維としては、・・・なかでも、海島型繊維は、海成分を除去することによって島成分間、すなわち極細繊維間に適度な空隙を付与することができるので、シート状物の柔軟性や風合いの観点からも好ましく用いられる。 【0058】 海島型繊維には、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海成分と島成分の2成分を混合して紡糸する混合紡糸繊維などがある。均一な繊度の極細繊維が得られる点、また十分な長さの極細繊維が得られシート状物の強度にも資する点からは、海島型複合繊維が好ましく用いられる。」 「【0060】 海島型繊維を用いた場合の脱海処理は、繊維質基材へのポリウレタンの付与前に行う。ポリウレタン付与後に脱海処理を行うと、ポリウレタンと極細繊維間に、脱海された海成分に起因する空隙が生成し、極細繊維を直接ポリウレタンが把持しない構造となることから、シート状物の風合いが柔軟となる。一方、ポリウレタン付与前に脱海処理を行うと、極細繊維に直接ポリウレタンが密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性が良好となる。」 そうすると、本件発明3の「アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程」として、上記摘記事項【0060】には「脱海処理」が記載され、それには、「水分散型ポリウレタンを付与」の前に行う場合と、後に行う場合があり、前者は、「極細繊維に直接ポリウレタンが密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性が良好となる。」との作用効果を奏し、後者は、「ポリウレタンと極細繊維間に、脱海された海成分に起因する空隙が生成し、極細繊維を直接ポリウレタンが把持しない構造となることから、シート状物の風合いが柔軟となる。」との作用効果を奏することが、理解できる。 そして、本件特許明細書の段落【0134】の【表1】に記載された実施例のうち、実施例1~10は、脱海処理を水分散型ポリウレタンを付与する後に行うものであり、実施例11及び12は、脱海処理を水分散型ポリウレタンを付与する前に行うものであるところ、上記(1)に示したように、すべての実施例は、水分散型ポリウレタンを用いるものであって、概観品位が3~5級と「良好である」から本願発明の上記課題を解決するものである。 よって、脱海工程と水分散ポリウレタン付与の前後は、奏する作用効果が上記のとおり相違するとしても、得られるシート状物は、いずれの工程によるものでも本件発明の課題を解決するものである。 したがって、本件特許明細書の「次に、本発明のシート状物及びその製造方法を、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例1~実施例10は参考例である。」(段落【0084】)との記載は、本件発明3に係るシート状物の製造方法を、「3.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する前に、アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程」であると限定することに整合させるための記載であり、かつ、「アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程」と水分散ポリウレタン付与の前後について限定されていない本件発明1についての実施例は、実施例1~10を含む、実施例1~12であると理解できる。 <取消理由2-1> 以上に示したとおり、実施例1~10は、本件発明1の実施例1であるから、「本件発明1は、・・・本件発明3の構成を満たさないとして発明の範囲から除外された参考例1ないし10を文言上含むために、本件特許発明1は明確ではない」、との<取消理由2-1>によって、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。 <取消理由2-2> 以上に示したとおり、本件特許明細書に記載された本件発明1の実施例は、実施例1~12であり、これらの剛軟度xとyの値を見ると、xは、26~145、yは21~139の範囲のものである。そして上記(1)ア.に示したように、当該構成を包含する本件発明1は、本件発明の課題を解決するものである。 したがって、本件発明1の「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mm」の特定が広範であって、本件特許の請求項1の記載が明確でないとはいえず、かつ、本件発明1が、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。 <取消理由2-3> 本件発明3及び4は、「繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散ポリウレタンであり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」シート状物を製造するための方法である。そして、上記(1)ウ.に示したように、当該構成のよって、上記本件発明が解決しようとする課題を解決するものであるから、本件発明3及び4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではないということはできない。 (3)[取消理由3]について ア.甲1の記載 甲1には、段落【0042】、【0043】、【0082】、【0099】、【0105】~【0115】、及び、【0127】の記載があり、これらの記載から、以下の甲1発明が記載されていると認める。 「平均単繊維繊度0.046デシテックスの極細繊維を含む極細繊維ウェブと織物と0.33デシテックスの極細繊維を含む極細抄造ウェブとを積層してニードルパンチ処理等により一体化させてなる積層シートである繊維質基材の内部に、 ポリウレタンを含有し、前記ポリウレタンはエマルジョンポリウレタンを含む、 極細繊維ウェブ側の片方が表面に立毛を有する立毛調皮革様シートであり、 該立毛調皮革様シートの一方の面のタテ方向の剛軟度をXとし、ヨコ方向の剛軟度をYとしたときに、X37.8mmかつY=33.0mmかつ|X-Y|=4.8mmである、 立毛調皮革様シート。」 イ.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1の「シート状物」は、「一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」のに対し、甲1発明の「立毛調皮革様シートは、「一方の面のタテ方向の剛軟度をXとし、ヨコ方向の剛軟度をYとしたときに、X37.8mmかつY=33.0mmかつ|X-Y|=4.8mmである」点。 (イ)判断 甲1には、以下の点が記載されている。 「【0042】 本発明の皮革様シートの剛軟度は10~55mmである。20mm以上であることが好ましく、25mm以上であることがより好ましい。また50mm以下であることが好ましく、45mm以下であることがより好ましく、40mm以下であることがさらに好ましい。10mm未満であると、腰のない風合いとなり充実感が得られない。また、55mmを超えると、風合いが硬くなり本発明の所期の効果は得られない。 【0043】 なお、本発明でいう「剛軟度」とは、JIS L1096(1999)8.19.1A法(45°カンチレバー法)により、たて方向およびよこ方向の値を求め、その値を平均した値をいう。」 そうすると、甲1発明の「剛軟度」は、本件発明1の「剛軟度x」あるいは「剛軟度y」とは異なるものである。そして、甲1には、本件発明1のように、一方の面を上にしたときの剛軟度xと、もう一方の面を上にしたときの剛軟度yをそれぞれ測定すると、さらに、当該測定値が、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」であることの記載はないし、示唆する記載もない。そして、他の甲号証にも、この点についての記載はないし、示唆する記載もない。 本件発明1は、シート状物の両面の剛軟度x、yについて、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mm」とそれぞれの剛軟度の数値範囲を特定することに加えて、「|x-y|≧5mm」と、シート状物の両面それぞれの剛軟度との間の関係についての特定するものである。そして、前者の特定によって、「剛軟度xとyが20mmより小さいと、シート状物の強度が低く工程通過性が著しく低下するだけでなく、工程通過時のシート状物の寸法変化が大きくなり、良好な外観品位を有するシート状物が得られない。また、剛軟度xとyが150mmより大きいと、シートの剛性が高くなり、柔軟なシート状物が得られない。」(本件特許明細書段落【0043】)との不都合がない、との格別な作用効果を奏することに加え、後者の特定によって、「剛軟度xがyより大きく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は緻密感のある良好な外観品位が得られ、下にした面は柔軟な風合いが得られることから、シート全体としては緻密感のある外観品位と柔軟な風合いが両立できる。逆に、剛軟度xがyより小さく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は柔軟な風合いや柔らかなタッチが得られ、下にした面は緻密感があり、シートの強力を担うことができることから、シート状物全体としてはシート強力と柔軟な風合いが両立できる。」(段落【0044】)との格別な作用効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、甲1発明、並びに、甲2~8に記載された事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の構成をすべて包含し、さらに技術的に限定するものである。 上記イ.に示したように、本件発明1は、甲1発明、甲2~8に記載された事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の構成のすべてを包含し、さらに技術的に限定された本件発明2も、甲1発明、並びに、甲2~8に記載された事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.本件発明3及び4について なお、以下に、本件発明3及び4についても検討する。 本件発明3のシート状物を製造するための方法の、シート状物は、「該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」である。そして、上記イ.に示したように、当該構成を備えたシート状物について、甲2~8には記載されていないし、示唆する記載もない。そして、シート状物を上記構成を備えたことで、上記イ.に示したような格別な作用効果を奏するから、本件発明3は、甲1発明、並びに、甲2~8に記載された事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。そして、本件発明4は、本件発明3を引用するもので、本件発明3のすべての構成を包含するものであるから、本件発明4も、甲1発明、並びに、甲2~8事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ.小活 以上のとおりであるから、本件発明1~4の各々は、甲1発明、甲2~8事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 したがって、本件発明1~4に係る特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消すことはできない。 (4)[取消理由4]について ア.甲5の記載 甲5には、段落【0006】、【0008】、及び、【0023】~【0027】の記載があり、これらの記載から、以下の甲5発明が記載されていると認める。 「次の1~4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法。 1.不織布に水に分散したポリカーボネート系ポリウレタンを付与する前に、該不織布にケン化度が98%未満のポリビニルアルコールは付与せず、ケン化度が98%であるポリビニルアルコールを不織布に含まれる島繊維質量に対し30部付与してから、該水に分散したポリカーボネート系ポリウレタンを付与する工程。 2.不織布に水に分散したポリカーボネート系ポリウレタンを付与した後に、ポリビニルアルコールを除去する工程。 3.不織布に水に分散したポリカーボネート系ポリウレタンを付与する前に、水酸化ナトリウム水溶液で処理して海成分を除去して島繊維を発現する工程。 4.上記の1~3の工程の後に得られたシートをスライス、バフィングして起毛処理する工程。」 イ.本件発明3について (ア)対比 本件発明3と甲5発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点2> 本件発明3の「シート状物の製造方法」は、当該「シート状物」が、「一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」のものであるのに対し、甲5発明の「シート状物の製造方法」の「シート状物」の剛軟度が不明である点。 (イ)判断 上記(3)イ.(イ)に示したように、甲5には、「シート状物」について、一方の面を上にしたときの剛軟度xと、もう一方の面を上にしたときの剛軟度yをそれぞれ測定すると、さらに、当該測定値が、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」であることの記載はないし、示唆する記載もない。そして、甲1~4、甲6~8にも、この点についての記載はないし、示唆する記載もない。 本件発明3は、上記構成によって、上記(3)イ.(イ)に示した、「剛軟度xとyが20mmより小さいと、シート状物の強度が低く工程通過性が著しく低下するだけでなく、工程通過時のシート状物の寸法変化が大きくなり、良好な外観品位を有するシート状物が得られない。また、剛軟度xとyが150mmより大きいと、シートの剛性が高くなり、柔軟なシート状物が得られない。」(本件特許明細書段落【0043】)との不具合がなく、「剛軟度xがyより大きく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は緻密感のある良好な外観品位が得られ、下にした面は柔軟な風合いが得られることから、シート全体としては緻密感のある外観品位と柔軟な風合いが両立できる。逆に、剛軟度xがyより小さく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は柔軟な風合いや柔らかなタッチが得られ、下にした面は緻密感があり、シートの強力を担うことができることから、シート状物全体としてはシート強力と柔軟な風合いが両立できる。」(段落【0044】)シート状物を製造できるとの格別な作用効果を奏する。 したがって、本件発明3は、甲5発明、甲1~4事項、甲6~8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 ウ.本件発明4について 本件発明4は、本件発明3を引用するものであって、本件発明3の構成を全て包含し、さらに技術的に限定するものである。 上記イ.に示したように、本件発明3は、甲5発明、甲1~4事項、甲6~8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3の構成の全てを包含し、さらに技術的に限定された本件発明4も、甲5発明、甲1~4事項、甲6~8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.本件発明1及び2について 甲5には、上記ア.に示した「シート状物の製造方法」が甲5発明として記載されているから、甲5には、当該製造方法により製造された「シート状物」が記載されていると認められる。そして、本件発明1及び2の「シート状物」と上記甲5記載の「シート状物」とを対比すると、本件発明1及び2の「シート状物」は、「一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」のに対し、甲5記載の「シート状物」の剛軟度が明らかではない点で相違する。 そして、当該相違点については、上記(3)イ.(イ)に示したように、甲1~4、甲6~8にもこの点の記載はないし、示唆する記載もない。 本件発明1及び2は、当該構成を備えることで、上記(3)イ.(イ)に示す格別な作用効果を奏する。 したがって、本件発明1及び2は、甲5発明、甲1~4事項、甲6~8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 オ.小括 以上のとおりであるから、本件発明1~4の各々は、甲5発明、甲1~4事項、甲6~8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 したがって、本件発明1~4に係る特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消すことはできない。 (5)[取消理由5]について 本件訂正の訂正事項5に係る訂正によって、訂正前の「5枚の平均値を求め」(2箇所)は、「10枚の平均値を求め」と訂正されたから、本件特許の請求項1とそれを引用する請求項2の記載は明確ではないとはいえない。 よって、本件特許の請求項1とそれを引用する請求項2記載は、取消理由5により、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないとはいえない。 したがって、本件発明1及び2係る特許は、特許法第113条第1項第4号の規定により取り消すことはできない。 (6)平成29年7月5日付け申立人意見書について 申立人は平成29年7月5日付け意見書において、以下の点で、平成29年3月13日付け取消理由通知に係る取消理由は解消していないと主張しているから、以下、検討する。 ア.申立人は、取消理由1について、本件特許明細書には、「20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|<5mm」についての実験結果が示されていないから、なぜ前者の数値範囲であれば、後者の数値範囲で有る場合に比べて、課題が解決できるといえるのか、実験結果によって全く示されていないと、主張している(2ページ9行~3ページ13行)。しかし、上記3.(1)に示したように、本件発明1~4は本件発明の解決しようとする課題を解決するものであるから、本件発明1~4は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明である。したがって、取消理由1によって、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。 イ.申立人は、本件発明1の「シート状物に対するポリウレタンが15質量%以上80質量%以下」程度の範囲は周知であり、ポリウレタンの比率が高すぎれば風合いが硬くなるという技術的意義も周知であり、本件発明1及び2も、甲1発明、甲3あるいは5に記載されたような従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるに過ぎない、と主張している(3ページ14行~6ページ20行)。しかし、仮に当該事項が周知であっても、上記3.(3)に示したように、甲1、甲3及び甲5には、上記<相違点1>に係る構成が記載されておらず、本件発明1及び2は、当該構成を備えることで、上記格別な作用効果を奏するものであるから、本件発明1及び2が、甲1発明、甲3あるいは5に記載されたような従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ.申立人は、本件特許は、審査経過において、「ポリウレタン付与前に脱海処理を行うと、極細繊維に直接ポリウレタンが密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性が良好」になると、特許権者は主張し、実施例1~実施例10を本願発明から除外して特許を受けたことは明らかである(6ページ21行~10ページ2行)、と主張している。しかし、上記3.(2)に示したとおり、本件特許明細書の記載から、実施例1~10は、本件発明1の実施例であると理解できる。 エ.よって、上記意見書における申立人の主張は、いずれも当を得たものではなく、これを採用することはできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1~4に係る特許については、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由を全て含む取消理由通知の取消理由によっては取り消すことはできない。 さらに、他に本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-700070

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